月夜の晩に
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月11日〜09月16日
リプレイ公開日:2004年09月21日
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●オープニング
とある場所に、お爺さんとお婆さんが住んでいた。
二人の住む家の裏にはちいさな山があった。そこには兎が住んでいた。
兎といっても、ただの兎ではない。二本足で歩けば化けもする。月夜の晩には仲間で踊ったり、餅をついていたりする。
化け兎と呼ばれる種族である。
化け兎は特に悪さもせず、お爺さんともお婆さんとも仲良く暮らしていた。が、そんなある日、狸が現われるようになった。
この狸も普通の狸ではなく、化け狸であった。性根がよろしくないらしく、畑は荒らすし、家には勝手に上がりこむ。日に日に暴行は増して、ついにはお爺さんやお婆さんに危害を加えるようになった。
これに腹を立てた化け兎は化け狸を懲らしめた。
それで化け狸は退散し、また前の穏やかな暮らしに戻ったのだが。
「お庭、とられたーーっっ」
お爺さんとお婆さんの家で、子供がばたばたと暴れていた。
二人のどちらとも似ていない子供。実は化け兎が化けた姿である。
「たぬき、いっぱい来たー。うさ、いっぱいがんばったー。でも、ぼこぼこにされたー」
子供の髪やら着物やらは泥だらけのぼさぼさで、どう見ても格闘した後である。それもこの悔しがりよう。負けたのは聞かずとも分かる。
「たぬきずるいー。うさ、悪タレたぬきに火つけてお舟に乗せて川に流しただけー。舟沈んで、たぬき、水にぶくぶくしてサヨナラしたー。なのに、帰ってきたー。同じのいっぱい連れて、うさをぼこぼこ殴るー。お庭とるー」
ひっくり返ってわめいていた化け兎だが、やがて何かを決心したように顔を引き締めて立ち上がる。
「今度、お月見するー。お友達いっぱい呼ぶー。お庭、必要ー。たぬき、じゃまー。うさ、がんばるー」
言って、家の納屋をごそごそ漁りだすと、仕舞ってあった杵を取り出す。
杵の大きさは明らかに化け兎用。体格に見合ったそれをぶんぶんと振り回すと、ひょいと肩にかつぎ、化け兎は奮起して外へと走り出してしまった。
二人が止める間もあらばこそ。あっという間に化け兎の姿は見えなくなる。
化け兎が去った家で、お爺さんとお婆さんは顔を見合わせた。
化け狸が戻ってきていたのは知っていた。前と違い悪さはしてこなかったが、内心どうしたものかと悩んでいた所。どうやら化け狸の関心は二人ではなく、化け兎の方に向いたらしい。
‥‥まぁ、された事を思えば当然かもしれないが。
とにかく化け狸は化け兎を追い出し、化け兎が庭と称する裏山を乗っ取ってしまった。
化け兎は満月の日に群れて、祭りをする。
今月は特に月が美しいとされており、化け兎は前々からこの日を楽しみにしていた。
出来れば、化け兎の願いをかなえてあげたい。だが、一匹の化け狸相手でもどうにも出来なかった二人にはどうしようもならない事だった。
「という訳で、依頼だよー」
老人達に頼まれて、ギルドに飛び込んできたシフール郵便が内容を話し出す。
「依頼内容は、化け兎たちが十五夜のお祭を開けるように、裏山に巣食った化け狸たちをどうにかして欲しいんだってさ。
狸の居場所だけど、兎を追い出して調子付いたのか、毎夜お山の天辺でどんちゃん騒ぎしてるからすぐ分かるってさ。昼はよく分からないけどそう遠くにはいかないだろうね、って事。
狸は退治してもいいし、追い払うだけでもいいよ。でも、適当に追い払っただけじゃ戻ってくるだろうね。向こうはとにかく化け兎の邪魔がしたいようだし。
それと、祭り当夜は他の化け兎たちも集まるらしいけど。騒がしくしたりすると警戒して寄って来なくなるかも。それも注意ね。
じゃ、後、がんばって〜」
依頼を書いた木簡をギルドの者に渡すと、冒険者に向けてシフールは軽く言い放った。
●リプレイ本文
祭りを開きたい化け兎の為に裏山に巣食った化け狸をどうにかして欲しい。その希望に応えて、冒険者たちは依頼を受けたものの‥‥。
「この依頼。結局はどっちもどっちだと思うんだけどね」
困ったように頭を掻いた神楽命(ea0501)に、冒険者、内心で頷く。
「まぁ、そう言わんと。あの化け兎はわしらの為に化け狸を懲らしめてくれたんだしなぁ」
依頼人であるお爺さんの隣、お婆さんも頷いている。
「確かに。話を聞いた時はちょっとやり過ぎだなと思いましたけどね」
ふと目を伏せるお婆さんに、お爺さんも目を逸らす。‥‥思う事はやはり同じである。
「何にせよ。ちと悪さが過ぎる狸だわな。爺さん、婆さん、任せときな。兎はおたくらの子供みたいなもんだろ? だったら、きっちり月見の宴会を開かせて、狸には十分懲らしめてやるからな!」
化け狸を懲らしめるのは坊主の役目、と剛毅に笑う嵐山虎彦(ea3269)に、爺婆二人揃って安心して胸を撫で下ろす。
「子供というか、よい友人と言いますかな。この年になると友人も少のうなって寂しい限り。数少ない友人の楽しみぐらい、叶えてやりたいという我侭な願いじゃけどよろしくお願いします」
「これも仕事の内です。気になさらずに」
頭を下げる二人に、秋月雨雀(ea2517)は苦笑する。
「その化け兎になんだけど。私たちは味方だから襲わないように、って伝えて‥‥」
「イタアァァアーっ!!」
命がお願いしている最中、三笠明信(ea1628)の悲鳴が響くや、飛び跳ねている姿が目に入る。その足にはしっかりと白い兎が噛み付いていた。見た目は普通の兎とさほど変わらぬが、子供用の着物を着込んでるあたりが何やら普通では無い。
唖然としている冒険者の目の前、白兎は人の姿に変身すると怒った口調で冒険者たちをびっしと指差す。
「ここ、うさのお庭。大きいの邪魔ーっ!!」
「わわ、何するんですか」
「お庭でこそこそは怪しい狸っ!」
「わたくしは狸じゃありませんって!」
たどたどしいジャパン語と対照的に、化け兎は力強く杵を振り回して明信を追いかける。
化け兎を威圧せぬよう控えめにしていた明信なのだが、それがどうも怪しげに映った模様。というか、不貞腐れた兎から八つ当たりされている印象も拭えないか。
「あー、うさや。その人は狸じゃなくて、狸を追い払う為に来てくれた人たちだよ」
「狸、違うかー?」
「違いますっ」
抗議する明信に化け兎は首を傾げる。納得したのか興味を失ったか、土間に上がりこんで置いてあった御飯に手を付け出していた。ただ、機嫌はすこぶる悪い模様。
いつの間にやら人化けから兎の姿に戻ったものの、白い体毛は泥で茶色く見える。毛羽立っているし、所々には剥げた跡がある。どうやら、一戦交えて負けた後のようだ。
「大丈夫ですかな?」
部屋で転げまわっている化け兎に代わり、爺婆が申し訳なさそうにしている。
「ええ、かすり傷ですし‥‥」
「本当に申し訳ない。今は狸に山を取られて機嫌が悪くて。前はいい子だったのに‥‥」
お婆さんはそう言ったが、本当にそうだろうかと少々疑ってみたく。
「しかし。どうしてもというなら同行も止む無し、と考えてたが、本当に連れていっても良いものか」
不安に陥る本所銕三郎(ea0567)。因縁あるならば決着付けさせてやりたいとも思う。が、何しでかすか分かったもんじゃない。
「皆様のお邪魔もなりませんし、私どもがうさを引き止めておきますよ。その代わり狸らの方はよろしくお願いします」
「分かりました。で、もう一つお願いですけど、荷物預かってもらえないですか。もう重くって重くって」
「構いませんよ。あばら家ですが、皆様が泊まれるぐらいの広さはありますよって」
よかったー、と息をついてリュカ・リィズ(ea0957)がへたり込む。体力の無いシフールでは、荷を纏めるのも一苦労。結局、荷物を持ちながらではとても飛べたものではなく、道中は他の者に肩代わりしてもらっていた。
「では、さっそく偵察に行ってきまーす」
身軽になり空を飛びかけたリュカに雨雀が待ったをかける。
「夜に宴会をされているのですよね? だったら酔い潰れたぐらいを見計らって一気に奇襲をした方が。今はまだ陽も高いですしどうやらあの化け兎と一戦やった後のよう。向こうも警戒してるかもしれませんから、時間を置いた方がいいでしょう」
「でも、祭りの日までに何とかしないとね。前日までに片が付けられればいいんだけどさ」
言って御藤美衣(ea1151)が東の空を見上げた。
十五夜の日。あの空から果たして兎は満月を眺められるのだろうか。
夜となり、わずかに欠けた月が天空に昇る。その月を眺め、庭を盗られた悔しさで身を捩って泣く化け兎を依頼人に任せて、冒険者たちは裏山へと急いだ。
月光は明るく周囲を照らす。とはいえ、出張った小枝や木陰に隠れた蔓に足を取られたりと、緊張しっぱなしの道中だった。
幸い、山は化け兎が庭と呼称するのも頷けるほど小さく、目的の場所にはすぐに辿り着いた。賑やかな笛や太鼓が流れ、近付くほどに赤々と燃える炎が見えてくれば、道を間違う心配も無い。
「化け狸たちはあそこの四匹で全部ですね。浮かれて踊ってこっちには全然気付かないようですよ」
先に偵察に出ていたリュカがひらりと舞い降りると、小声で仲間たちに伝える。彼女の案内の元でさらに冒険者たちが近付く。
山頂はちょっとした草原となっていた。開けた視界。空を遮る高い木は無く、なるほど、これなら月も良く見えよう。
その草原というか、広間の中央では高々と木を積み上げて炎を燃やしている。その周囲をぐるぐると回る狸たち。後ろ足で立ち上がり、各々手にした笛や太鼓を鳴らして踊る様はやはり普通では無い。どんちゃん騒ぎに夢中でこちらに気付く気配も無し。
「化け狸かどうか見極める手間が省けたな」
「そうだね。それにしても‥‥下手だよねぇ」
苦笑する明信に対照的に、跳夏岳(ea3829)はうんざりと化け狸の踊りを見る。それは踊りというよりは適当に手足を動かしているだけというか。踊りに心得のある夏岳でなくとも、滑稽さに呆れるやら笑えるやら。
それでも化け狸たちは楽しいらしく、上機嫌ではしゃいでいた。周囲にどこから持ってきたのやら酒瓶も転がっており、ただひたすら陽気である。
「あの調子じゃ夜通し遊びそうだな」
雨雀が呆れる。寝込むのを待っているとこっちが貫徹しそうである。
「寝るまで待つ必要も無いでしょう。浮かれている今でも隙だらけですし」
明信の言葉に頷くと、冒険者たちは各々有利な配置へと動く。
「さて、それでは行くか!」
一斉に冒険者たちは化け狸へと襲い掛かる。突然の乱入。化け狸たちはうろたえた。
先頭を切ったのは銕三郎と夏岳だった。身の丈4倍ほどの銕三郎に化け狸らは目を回す。
驚いて逃げ出そうと走り出した一匹を銕三郎が追い回し、それに夏岳が追いつくとその身をむんずと掴んで投げ飛ばした。何とか化け狸は転倒こそ免れたが、続けて夏岳が組み付き締め上げると、さすがに抜け出せずにぎゃあと悲鳴を上げる。
「こら待て、人間! 何の恨みで善良なわしらに‥‥」
目を白黒させながらも、化け狸が人に化けた。小さな狸でいるよりは人化した方が夏岳としても組み付きやすいし、どうやら会話も可能となったりでいい事はあったのだが。
「きゃあぁぁあーっ!!!」
途端に夏岳が悲鳴を上げている。
というのも化け狸、服までは化けられないらしく素っ裸。ついでに雄だったりなんかして。
思わず手を離した彼女を誰も責められまい。解放された事をこれ幸いと化け狸は素っ裸のまま逃げ出す。
「逃がすかいっ」
拳を突きだす銕三郎。気絶させようとしたのだが、化け狸は攻撃に耐えると冒険者たちから距離を置き、ふん、と胸を張る。
「理由は分からんがやるならやるぞ! いくぞ、仲間たち!!」
おー、と拳を突き出す化け狸に、やはり追い回され方々に逃げ回っていた化け狸も気を取り直して拳を高々と上げる。
「その前に服着て下さいよ〜」
「まだそこまでの力は無いっ!」
虎彦の後ろに隠れてリュカが叫ぶ。顔が赤いのは怒りか羞恥か両方か。
リュカの訴えに化け狸は胸を張って答える。前を隠す素振りも無いのは‥‥やはりケダモノだからか?
「あなたたちねぇ。もう少し恥じらいというものをお勉強しなさい」
息荒く攻めてきた化け狸を明信はダブルブロックで悠々と防ぐ。
ムキになった化け狸が牙を剥く。その歯を受けながら、命は隠し持っていた刀を引き抜き素早く切りつけた。
ぎゃっと悲鳴を上げて狸が転がった所を命は慌てて縄で縛り上げる。
「はん! そっちがやる気ならこっちも十分に暴れさせてもらおうか。言っとくがその程度の攻撃ぐらい何とも無いからな。くらえぃ、虎震戟!!」
にやりと笑いながら虎彦が六角棒を振り回すと、周囲の草や土がえぐれて舞い上がる。その様を見た化け狸たちは先の気合がもうどこに行ったか、顔を見合わせるとやはり残る手は一つと慌ただしく逃げ出す。
「あー、逃がしちゃダメですよ!」
「分かっている! 待たんかい!!」
リュカが言い出すまでも無く、虎彦は追うものの化け狸たちの方が脚が速い。見る間にその距離は離されていき、
「ぎゃあ!!」
そして、化け狸が悲鳴を上げた。
そこには何も無い。なのに、先頭を走っていた一匹が突然血にまみれた。
雨雀の施したバキュームフィールドに踏み込んだのだ。倒れた化け狸に虎彦が容赦なく六角棒を振り下ろすと、きゅうと白目を向いてまた一匹が倒れる。
どうやら見えない何かがあるらしい。そう悟ってもそれがどこにあるかは分からない。どう動いていいか分からず右往左往しだした化け狸たち。
「ほら、よそみしていると危ないよ」
その足元を美衣は素早く刀で払う。美衣の動きに化け狸、足を取られて転倒。がすぐに起き上がると、追撃する美衣から逃げようととりあえず走る化け狸。
「はい、捕まえた」
美衣が追い立てた化け狸を、雨雀が待ち構えて捕まえる。素早さを考慮してライトニングアーマーを使用していた為に、伝わる電気で化け狸は全身の毛を逆立たせる。
「こっちは仕事だ。悪く思わないでくれよ」
言う割に悪びれた様子も無く、雨雀は捕まえた化け狸をがんがん刀で殴りつける。適度に加減はしていたものの、見ていた美衣の方が慌てて止めた。
「さて、残り一匹だな」
銕三郎は告げると、残った化け狸を睨みつける。
「卑怯だぞ! 数を頼みによってたかって‥‥」
「お前らがそれを言うな!!」
銕三郎にびびりながらも抗議する化け狸を、夏岳が先の怒りを交えて投げ飛ばしたのは‥‥やはり誰も責めはすまい。
転がる化け狸たちを投網で絡めて綱で縛り、夜が明けるのを待ってから冒険者たちは無事に山を降りる。捕まった化け狸らを見て、依頼人たちより化け兎の方が飛び跳ねて大喜びしていた。
「馬鹿たぬき、ぐるぐる巻き。罰当たるー」
「なんじゃと。この媚び売り上手の悪辣うさぎがっ」
「やめましょうね、双方共に」
縛られながらも口うるさい化け狸と、杵持って殴りかかりそうになっている化け兎の間に明信が割ってはいる。
ちなみに人化け中の化け狸はお爺さんの古着着用中。ついでに言えば、化け兎も服までは変身できない為、お婆さんが縫ってくれたものを人間の前では着ているのだとか。
「狸さん。うさぎさんに対するお怒りはもっともですが、全ては自分がした事が原因。意味もなく他人を傷つけると自分の身に返ってきます。お爺さんやお婆さんが嫌がる事をしないと誓うなら、その縄を解いてもらえますよ。でも、嫌というなら私の周りにいる人たちがまたあなた達を懲らしめに来ますよ。‥‥何回でもね」
「はん。ちょっと台所の物やらを失敬したぐらいで、火かけ水攻め。挙句に馬鹿うさぎの身の程知らずな敷地取りに抗議したら、人間が攻めてきおるし。ああいう月見にいい場所はわしらのもんじゃい」
リュカが説得するも、化け狸は鼻で笑いぶちぶちと文句を垂れる。
「あー、それがそっちの言い分ね。全く、何考えてるんだか。‥‥やっぱり退治やむなしにした方がいいんじゃないの?」
夏岳が軽く頭を振ると、同意を求めるように他の冒険者を見遣る。
「そうだな。化け狸鍋というのもいいだろう。どんな味がするのか楽しみだ」
言って笑う銕三郎に、化け狸たちが震え上がる。それを十分見た後で、銕三郎は依頼人たちに向き合った。
「とまぁ、こいつらも十分反省したろうし、許してやってはくれないだろうか」
「そりゃまぁ。私らは悪さもしないならそれでええんじゃけど‥‥」
ちらりと向くのは化け兎の方。その視線の意味を知り、すねたような表情をした化け兎だが、やがて仕方ないなぁと言いたげにそっぽを向いた。
「どうやらいいようだな。‥‥依頼人が言うなら仕方ないな」
「だが、これに懲りたら悪さはするんじゃねえぞ。次こそは狸鍋だからな!!」
銕三郎に続いて、虎彦も化け狸たちに重々言い含める。本人自覚するように僧兵が言うには不適当な無いようだったが、震え上がる化け狸たちからは何の突っ込みも無かった。
化け狸たちは近くの山寺に預けられる事になった。そこでみっちり修行して更正して欲しいという冒険者たちの願いである。
夏岳はりっぱな茶釜になる事も望んだが、ま、それは本狸らのがんばり次第かもしれない。
そして、十五夜当日。
「何だ、来てたんだ」
どぶろく片手に山寺に来た美衣だが、そこに明信と雨雀の顔を見つけて肩を竦める。
「気になる事は同じという事ですね」
「やれやれ、静かに月見が出来ると思ったのだが」
苦笑する明信に、ため息をつく雨雀。化け兎の祭りに参加した冒険者もいるが、やはり狸が気になって山寺に来た者もいる。
その狸らはといえば、月夜のどんちゃん騒ぎを境内でくりだしている。今日ばかりは和尚も大目にみたらしいが、おかげで山寺は静かとは縁遠く。
化け狸たちの宴を横に冒険者たちが各々で月見をしていると、やがて参道に人影が。
「化け兎の護衛にね。向こうは人足りてそうだし、こっちにもお礼がしたいっていうから」
現われたのは命。その後ろからひょこりと化け兎が顔を出す。
「団子とお餅、うさたちがついた。あったかい内に召し上がれー。月見酒もどーぞ」
お庭ありがとうと、満面の笑顔で差し出された風呂敷を美衣が受け取ると、化け兎は早々に山寺を後にする。慌てて後を追った命を見送ってから、雨雀はそっと空を見上げる。
「綺麗な月だな」
感慨深げな雨雀につられ、他の者も天を見上げる。その日の満月はとりわけ美しい気がした。