書を捨てよ、海へ出よう【掃討編】
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■ショートシナリオ
担当:勝元
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月16日〜12月21日
リプレイ公開日:2004年12月24日
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●オープニング
ドレスタットの冒険者ギルドにその男が現れたのは、もう日も暮れ、酒場に荒くれどもが賑わう時間になってからだった。
「はぁぁぁぁ‥‥」
男は受付に座るなり、聞いた者が意気消沈したくなるような深い深ぁい溜息を一つ、そのまま押し黙った。あまりの辛気臭さに、受付の男が妙な汗を浮かべて訪ねる。
「ご用件は?」
「‥‥どうして私の人生、こうも上手く行かないんでしょう‥‥」
「人生相談なら三軒隣に占い師がいますよ」
男の言葉に素っ気無く答え、次の方どうぞと言おうとする受付だ。
「はぁ、凶兆しか見えないとか言われました‥‥」
申し訳なさそうに答える男。すでに訪問済みだったらしい。はふぅ、と吐いた溜息がまたこれ以上なく辛気臭い。
「あぁ、手遅れでしたか。なに、来世では一つくらい良い事ありますよ。はい、次のか――」
「こ、此処であなた方に見捨てられたら私はどうしたらいいのですか!」
薄情この上ない受付に、必死に取りすがる男である。偶々相手をした受付がこれなのだから、不運もここに極まれリ、だ。
「‥‥でしたら、事情をお話なさい。貴方もそのつもりで来たのでしょう?」
ニヤリと唇を吊り上げ、答える受付に男はゆっくりと事情を説明しだした。
男によれば、こういう事らしい。
駆け出しの商人(とは言え男はもう四十代目前だったが)である男が、とあるツテから船を入手したのが先日の事。
小さめだが見てくれは上々、なのに値段は船にしては格安とあって、彼はよく調べもせず二つ返事で買ってしまったらしい。
そして今日。いざ、船の中に入ってみると、彼を出迎えたのは巨大なネズミの群だったのだ。
どうやら、手の付けようがなくなった船を買わされてしまったようだ。命からがら逃げ延びた後、騙された事に気付いたのだという。
「私の人生、最初で最後の大博打だったんですが‥‥」
「見事に大失敗でしたねぇ」
肩を落とす男に、相変わらず受付の言葉は素っ気無い。
「そこで、こちらにお願いに上がったのですよ! 冒険者の方々なら、あのネズミどもを何とかしてくれるだろうと!」
どうやら全財産をつぎ込み、更に借金までして購入代金を作ったらしい男は、もう後がないと必死だ。
「‥‥なるほど。船の構造はお判りに?」
「それなら、船の見取り図が」
そう言って、男は懐から数枚の羊皮紙を取り出す。デッキの前部と後部から下に降りる階段、下りたら通路を挟むように船室が四つ。更にその下へ降りれば船倉。小さい船だけあって、構造も単純なようだ。
「‥‥詐欺師の図面が当てになればいいんですがねぇ。ともあれ、告知は出しましょう。朗報を御待ち下さい」
「お、お願いします。もう私、後がないんですっ」
それは見れば判ります、とは思ったものの口には出さず、受付は別の言葉を返した。
「時に、貴方を騙した犯人はいったい?」
「さぁ、何処にいるのやら‥‥酒場で知り合った男を信用したのがいけなかったのでしょうか‥‥」
無用心無警戒にも程がある。心の底から呆れる受付であった。
●リプレイ本文
雲間から時折太陽が覗く。お世辞にも、快晴とは言いがたい天気だった。
十二月も半ばの港に、潮風が吹きつける。冬も本番を迎え、厳しさを増す寒さに耐えかねたのか、空を舞う海鳥の姿も疎らに見える。武道着の下、鍛錬に引き締まった肉体がぶる、と震えた。戦いに臨む者の武者震いではない。純粋に寒いのだ。そういえば、一部の地域では既に雪も降ったと聞く。
「さ、さすがに‥‥冷えますね‥‥」
壬鞳維(ea9098)は堪らずマントの前を合わせたが、凍て付く刃のような風に対して気休めになったかどうか。
「ちょ、ちょっと甘く見てたかしら‥‥」
その横ではエルトウィン・クリストフ(ea9085)も同じようにマントの前を両手で塞いで、苦笑いを一つ。こんな状態で、戦闘のような集中力が求められる事をこなせるのだろうか? だが、実を言えばこの二人はまだマシな方なのだ。
「‥‥参ったな」
震える男女を見て、ぼそりと言った大男がリオリート・オルロフ(ea9517)。男の困惑は無理もない。船内に巣食うジャイアントラットを殲滅するのが今回の依頼。狭い船内での戦闘は極力避けようと、船内の鼠を甲板に誘き出して叩く予定だったのだ。ところが、冬の最中に潮風の吹く屋外で行動しようというのに、それらしい格好をしてきたのは彼を含めて二人しかいなかったのである。
「自分は予定通りでもいいが――」
「――この有様じゃかえって危険かもね」
同じように一同を見やり、神木秋緒(ea9150)はクールに呟く。依頼人の話を聞いて、迂闊な人もいたものだ、と呆れていた彼女だったが、どうやら此方も似たようなものらしい‥‥このままでは予定通りの行動は無理だろう。
「吹きっさらしよりは船内の方がマシじゃないかしら?」
計画を変更して、直接船内に突入するしかなさそうである。今はまだいいが、時間が経つにつれ、冷えは身体を蝕んでいく。戦っているうちに、都合よく体が温まるとは限らないのだ。
「さ、賛成、です‥‥」
この男には珍しく、と言うべきか。積極的な意思表示を見せることの少ない鞳維が、予定変更に同意を示した。それくらい先行きが見えているのだろう。全く、日中に市内で行動というのは不幸中の幸いだった。これが夜間に郊外だったら目も当てられない。
「善は急げね‥‥そうと決まったら、行きましょ?」
エルトウィンも同意し、皆を促す。
こうして一同は、デッキに上がると船の前後から侵入を開始したのだった。
●殲滅、群れ成す闇――通路前部
潮騒が薄暗い階段に響いている。足元が時折揺らぐのは、接岸しているとは言え、ここが船の中だからだ。ぎし、と軋む音。冬のか細い光を背に、四名の冒険者達は階段を降りる。
「中はだいぶ違いますね‥‥」
安堵したように、道季留(ea9538)が言った。風の有無で、体感温度はだいぶ違う。階段の先は扉で仕切られているので、入ってきた所以外は遮蔽されているも同然。自然と、空気の動きは少なくなる。デッキの上と比べたら格段の差があった。
「とは言え、冷え冷えとしてるのは変わりないね」
と、呟いたのはフィラ・ボロゴース(ea9535)。大型のハンマー両手の女戦士は、おどけるように言葉を続ける。
「とっとと鼠どもを追い出そうよ。そうすればさ‥‥」
「戦いで身体も温まるってものね」
コツコツと壁を叩いていた李美鳳(ea8935)が振り向いて、くす、と笑った。壁を叩いていたのは、船がどの程度の衝撃に耐えられるかを自分なりに確かめていたようだ。
(「それなりには耐えられそうね‥‥」)
壁から返ってくる音を確かめ、彼女は一人頷く。曲りなりにも船だけに、耐久性の高い造りをしているのは間違いない。とは言え、壊れる時には壊れるものなのだが。
「準備はいい? それじゃ、いっくよぉ」
エルトウィンが扉を開けると、美鳳を先頭に一同は飛び込んでいった。
「暗い‥‥」
呟きは誰の声か。
飛び込んだ先、通路内に明かりはなかった。唯一の光源は、元来た階段側の扉から射し込む光。いや、もう一つ。通路を塞ぐ暗がりの向こうに、ほの暗い明かりが。後部から侵入した面子の明かりだろうか。しかし、それらも気休め程度に過ぎない。依頼人は小さい船、と称していたが、それでも通路はそれなりの距離があるのだ。
「誰か、明かり持ってない?」
訪ねる快活な声は、エルトウィンだろう。そして答えは――
『‥‥‥‥』
――無かった。
そう、前部の冒険者達は、誰一人として明かりになる物を持ち合わせていなかったのだ。
「‥‥どうしましょうか?」
確かに、このままでも戦えない事は無い。美鳳を筆頭に、全員がそれなりに夜目が利くのだから。しかし‥‥ハンデを負う事も明白である。人の目は、充分な光量があって初めてその機能を十全に発揮するのだ。
「一旦戻る? 後部の人達に、明かりを借りればいいんじゃないかしら」
と、美鳳が提案したその時。女の足元を何かが通り抜けた。同時に、エルトウィンには聞こえた。己の前後から、獣の息遣いが。
「あ‥‥」
時、既に遅し。暗がりに慣れた一同の目に映るその姿は、巨大な鼠。
囲まれてしまったのだ。狩るべき、獲物に。
●殲滅、群れ成す闇――通路後部
一方。
デッキ後部から侵入した伊勢八郎貞義(ea9459)達も、ジャイアントラットの集団と遭遇していた。此方は明かりにも事欠かず、数で勝る鼠の群れを一方的に押している。
「ふむ。船を買ったら鼠の巣‥‥」
松明を右手、ランタンを左手に、明かり役を務めている男は、妙な台詞を一つ。
「これがネズミ講と言う奴でありますな。いやはや、実に興味深い」
表情を見ても、ふざけているのか真面目なのかさっぱり判らない。彼にとっては、何事も大仰な暇潰しでしかないのだ。
「面白くもなんともないわね」
その横、女は冷たい反応。男の韜晦は、秋緒の好みではなかったらしい。
と、隊列の隙を縫って、傷付いた鼠の一匹が八郎に飛びかかろうとする。男が慌てて松明を突きつけると、炎を恐れる本能ゆえか、鼠が動きを一瞬止めた。
「そんな事よりも――」
――ズシュッ!
その隙を秋緒は見逃さず、斜め下に貫くように諸手突きを繰り出した。刀は狙い過たず、鼠の胴を貫く。
「――怪我しないように気を付けなさい?」
冷たさの影に、仲間への気遣いが見え隠れする。
「‥‥」
振り向いたリオリートが、無言で長剣を振り下ろす。男の一閃で鼠は胴を断たれ、動かなくなった。
無言だったのは八郎の言葉に呆れていた訳ではない。時折考え込むような表情からして、どうやら八郎の捻った冗句が理解できなかったようだ。何かと単純な思考が好みのリオリートである。
「ね、鼠は噛まれると痛いですし‥‥め、目が恐いですよね」
鞳維は最前衛に立ち、鼠を迎え撃っていた。
軽いフットワークから、掬い上げるように蹴りを放つ。鋭い軌跡は鼠を捕らえ、ぎぃ、と悲鳴を上げさせた。船に傷を付けないように細心の注意を払っていても、その攻撃は滅多に外れないだろう。青年の戦闘技術は、鼠の反応を完全に上回っているのだ。
仲間の死角を補うように連携を取り、一度に相手する数を減らしながら拳と蹴りの連撃を見舞う。ハーフエルフである青年の一撃は重く、無手の不利を補って余りあった。
打撃の蓄積に弱った鼠の姿を見るや、鞳維の足が煙るように消えた。十二形意拳は酉の奥義、鳥爪撃である。常人なら目にも留まらぬ蹴り。鼠の頭が砕ける音が聞こえた。
「自分は‥‥せ、殺生は余りしたくないんですけど‥‥ごっごめんなさい‥‥」
鼠と言えど、命である事には変わりない。優しい性根の青年である。
ある程度数が減ってしまえば、後は早い。優勢が加速度的に増していくのだから。労せず鼠の一群を片付けた彼らは、通路を奥へと進んでいく。こうすれば、前部から侵入した面子と通路の鼠を挟撃も出来る。だが、そこで見たものは――
●合流
どのくらい時間が経っただろう。
通路前部にて、冒険者達は苦戦を強いられていた。真っ当な明かりさえあれば、苦戦するなど埒外の相手なのに‥‥。美鳳は焦りを抑え、飛び掛ってきた鼠に拳を振るうが、運悪くその一撃は当たらなかった。
幸いにもこの状況で、大きな怪我を負った者はいない。鼠の一撃は軽く、美鳳とフィラからすれば何度喰らっても掠り傷程度で済む。体力の低めなエルトウィンや季留にとってその牙は馬鹿にならないが、季留はフィラと身体を寄せ合う事で攻撃される機会を減らしていたし、エルトウィンに至っては暗がりをものともせず鼠の攻撃を避け続けていた。
とにかく、鼠の数を減らせない。このままでは疲労や怪我の蓄積が、そう遠くない将来に破滅を呼び込むだろう。逃げるにしても囲まれている以上、綺麗に包囲を抜ける機会が掴めないでいた。
と。
「――どうなされましたっ」
男の声、足音、そして――明かり! 後部の面子が、此方側まで到達したのだ。苦戦に焦慮していたフィラの顔色が、ぱあっと明るくなる。そう、形勢逆転だ。
「どうですか、集団に襲われる気分は‥‥失礼、言葉を理解出来ませんよね?」
包囲という重圧から開放された季留が、ニヒルな言葉と共に鋭く蹴りを繰り出す。息もつかせぬ四連打で、一気に鼠の動きが鈍る。
「海の果てまで‥‥」
季留の後に次いで、フィラがハンマーを振りかぶる。このまま振り下ろしたら床にひびが入ってしまうかもしれないが、流石にそんな事はしない。
「‥‥飛んでいけー!」
通常、正面から叩き落す所を己の後方を通し、一回転させるようにコンパクトなアッパースイングで振り上げる。ぐしゃり、と嫌な音がして、鼠が天井に叩き付けられた。
ぐったりと転がる鼠に季留が止めとばかりに抜き手を打ち込む。十二形意拳は子の流を極めた者に伝授される奥義、鼠撃拳である。尤も、この技は強敵に対してこそ真価を見せ、雑魚相手には然程の威力を持たなかったりするが。ともあれ、その一撃は止めとなった。
飛び掛ってくる鼠を、スッと美鳳が避ける。小さくサイドステップを踏み、必要最小限の動きで回避したのだ。着地した鼠の隙を突いて、そのまま畳み掛ける。無駄のない動きで踏みつけるように蹴り、着実に動きを鈍らせる。打撃の蓄積は、じきに鼠の命を奪う筈だ。
その他方、女の死角から一匹の鼠が飛びかかろうとしていた。と、その刹那、鼠に一本のダーツが突き刺さる。
――エルトウィンだ。向かってくる鼠の攻撃をひょいひょいと避けていた彼女だったが、美鳳の死角に回りこんだ鼠を目敏く見つけ、手に持っていたダーツを投擲したのである。非力な少女ではあるが、それでも機先を制し、注意を惹き付ける事は出来た。何匹来ようと鼠程度、避けるのは容易い事なのだ。
そうこうしている内に、鼠の数が減っていく。通路の殲滅までは、もうすぐだ。
●船倉、帰趨動かず
船室にはそれほど鼠はいなかった。どうやら、通路での戦闘に一部が誘引されていたようだ。その分通路の戦いで苦労したともいえるが、お陰で船室内の殲滅は楽だった。後は、いま冒険者達が佇む船倉を残すのみだ。
「‥‥やっぱり、結構な数よね」
手持ちの保存食を群れに投げつけて注意を逸らすと、秋緒は左手のランタンを壁にかけ、力ある言葉を紡ぐ。火の精霊魔法、バーニングソードである。ややあって、右手の剣が魔力の炎に包まれた。
同様に八郎も保存食を投げつける。飢えた鼠は、我先にと争って餌の奪い合いを始めていた。ついでとばかりに油壺も投げつけたが、
「いけませんよ? 依頼人の後は全く無いのですから‥‥別に罰金を貴方が払うなら構いませんが」
「これ以上被害出したらあのおっさんが哀れ過ぎるだろうが!!」
と叱責されてたりもする。万が一にも松明の炎が油に引火したら、最悪依頼人の船全焼などという事態も有り得るのだから、これは仕方ない。
「申し訳ない‥‥」
しゅん、と小さくなる八郎である。
――斬!
注意が分散した鼠の群れに向かって、リオリートが突撃して長剣を振るう。縦横無尽に走る剣閃に、ぎぃっ、と鼠の悲鳴が響き渡った。
「自分に出来る事をしっかりやるだけだ‥‥」
男は呟き、更に剣を振るう。彼の体力であれば、鼠程度に何度噛まれようと蚊ほどでもない。油断さえしなければ、少々の数がきても動じる事などないだろう。
その横で、弱った鼠に燃え盛る刃が叩き付けられる。リオリートの横で鼠を阻むように行動していた、秋緒の一撃である。刃金で切り裂かれ、その傷を魔力の炎で焼かれ悶える鼠に、女は追撃の一閃を見舞う。
統制を乱され、やがて数でも劣った鼠相手に冒険者達の優勢は揺るぎようも無く、程なくして船内の鼠は殲滅されたのであった。
●港にて
「‥‥な、何とお礼を申し上げてよいのやら‥‥」
冒険者達から依頼達成の報を受け、更には美鳳、鞳維、八郎、季留の四人が、ボランティアで掃除を行ったと聞き、ついには感極まって感涙に咽ぶ男である。
「酒場に赴いて、詐欺師の話も広めておきました。犯人も仕事がし難くなるでしょう」
八郎のアフターケアに、依頼人の涙が止まらない。
と。
「Erfolg(成功)かな?」
それまで、黙って首を捻っていたフィラが声を上げた。
「‥‥それは、何です?」
「いやぁ、あたいなりに船の名前を考えてみたんだ。安直だが、仕事成功してもらいたいしな」
照れくさそうに応じる女を見て、それなら、と美鳳。
「『ブローディア』はどう?」
それは、守護の花言葉を持つ名前。航海の無事を祈って、と女はいう。
「『黎明』と言うのはどうでしょう」
するともう一人、季留も後に続く。
「故郷の言葉で、始まりと言う意味です」
「何とありがたい事でしょう‥‥」
至れり尽くせりの展開に、だが男は沈痛な表情。あらゆる意味でバラバラな名前が三つ。どれか一つを選ぶのは難しい。
「ううむ、それでは、それでは‥‥」
悩みぬいた末、男は決断を下した。
「この船は今から、黎明・Erfolg・ブローディア号です!」
こうして、男の人生を賭けた船は、新たな名前を得て出航の準備を終えたのである。
●エピローグ
「ここから、オジサンの人生は一発大逆転のラッキー人生間違いなし!」
帰り際、エルトウィンが依頼人に声援を送る。
「そうですね。頑張りますよ、私はっ」
「要は気持ちの持ちようなんだから。明るい明日はあっちよーーーー!!!」
少女が溌剌と指差した先は、今にも沈もうとしている夕日と反対方向。
「‥‥ふ、普通、逆なのでは?」
鞳維がおずおずと突っ込んでみれば。
「いいのっ。朝日が昇るのはあっちなんだからっ」
半ばむくれ気味に答える少女に一同は、はじけるように笑った。