【聖夜祭】かもん、いべんたー!

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜12月27日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

「未曾有の危機が訪れました」
 ドレスタット冒険者ギルドを訪れたその男は、受付に来ると開口一番、そう言った。
 初老の品の良さそうなクレリックが、のっけからこれである。受付嬢は飛び上がらんばかりに驚いた。
「な、なんですって‥‥っ!」
 興奮のあまり顔を紅くして、羊皮紙になにやら書きなぐる受付嬢。
「ドラゴン騒ぎの次ですから‥‥こ、こんどはデビルの大群とか‥‥!?」
 あ、今度は恐ろしさのあまり青ざめた。どうでもいいが紅くなったり青くなったり目まぐるしい事この上ない。
「こ、こうしてはいられません、すぐに冒険者の手配をっ!」
 ――スパァン!
「はうっ」
「慌てるな、バカ」
 手に持った羊皮紙の束で慌て者の受付嬢に突っ込んだのは、二人のやり取りを傍で見ていたギルド員の青年だ。
「お前が依頼内容を決めてどーする。よく話は聞けって」
 突っ込まれた受付嬢、打ち所が悪かったのか目を回して気絶中。どうやら現在進行形で聞いていないっぽい。
「‥‥えー彼女は調子が悪いようですので、代わって承ります。本日ご来訪のご用件は?」
 のびた受付嬢をサクッとその辺に転がし、営業スマイル全開の青年である。
「おぉ」
 一部始終を眺めていた依頼人が、思い出したように手をポムりと打つ。
「お二人があまりにも面白かったもので、すっかり忘れてました。そうです、未曾有の危機なのですよ」
「‥‥ハァ」
 コロッと忘れる程度の未曾有の危機ってのはなんだ、と突っ込みたいのを必死に抑える青年だ。
「聖夜祭が近付いてきています。そこで、私の教会でバザーを行う運びになりました。身の回りのいらないものを持ち寄って売り捌き、売り上げを恵まれない人達に寄付しようという訳です」
「なるほど」
「ところが、あぁところが! 困った事に、わが教会には決定的に不足しているものがあるのです。そう、それは人手とお金です! バザーを提案してはみたものの、風邪だのなんだのでバタバタと倒れ、人手は私一人に‥‥これでは満足に活動する事すらままなりません。数少ない信者さんの相手もせねばなりませんし、かと言って人を雇うお金はなし。進退極まった所に、天啓が舞い降りたのです。先日、町を綺麗にした上に寄進まで行ってくれた、冒険者の皆さんのお力を借りようと! これで全て解決、信者も倍増。もしかしたらバザーの商品を持ち寄ってくれた上に寄進までしてくれるかもしれません。嗚呼、大いなる父よ。この幸運に感謝します。そして素晴らしい冒険者達に幸あらん事を。アーメン」
 一気に言い切り、勝手に神に感謝までする依頼人。と言うかこの人いつもこうなのだろうか。信者が少ないのも判るような気がしないでもない青年だ。
「えーっと‥‥つまり、聖夜祭で行うバザーの為の人手が欲しい、と」
 受付の青年、みもふたもなく要約。
「そういうことですね。では、宜しくお願いしますよ」
 男はにこりと微笑むと、丁寧に頭を下げギルドを後にした。

「‥‥お祭りの最中に、こんな奇特な依頼を受ける物好きがいるかねぇ‥‥」
 男の後姿を見送った青年は呆れと好奇心が1:1の割合で呟き、掲示板に羊皮紙を貼り付けた。
『聖夜祭、ボランティアスタッフ募集』

●今回の参加者

 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea7906 ボルト・レイヴン(54歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea7927 ライエル・サブナック(27歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8167 多嘉村 華宵(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8791 カヤ・ベルンシュタイン(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9459 伊勢 八郎貞義(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9537 ヴェルブリーズ・クロシェット(36歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●宣伝か、喧伝か
 風変わりな一団が楽器をかき鳴らしつつ、商店街の大通りを練り歩いていた。
 適当な板切れに『バザー開催!』と書いた看板を首からぶら下げ、歩いているのはヴェルブリーズ・クロシェット(ea9537)。人波を分けるように‥‥寧ろあっちから勝手に割れていくその様は、まるで聖書の一節を戯画化したかのよう。尤も、向こうが感動的な光景なのに比べて、此方の場合はある種異様な風景である。
 と、ざわめきを掻き消すように、一団の先頭を歩く顔面白塗りの女が声を上げた。
「今年も聖誕祭が近づいて参りました! 教会に行って主に感謝を捧げるときです!!」
 白塗り女の正体、それはリセット・マーベリック(ea7400)である。近所の粉屋に行って、慈善なんですから少しくらい協力してくださいっとかなんとか上手い事言いくるめて得た小麦粉を顔に塗りたくってきたのだ。
「でもみなさん、少しだけ、ほんの少しだーけ、慈善をしてみようとは思いませんか? 不要品を我が教会に渡すだけで、それが売れ、浄財になり、助けを必要とする人達に施されるのです」
 ざわめきは一転、どよめきに変わった。観衆が口々に呟く。
「なんだ?」 
「新手の勧誘か?」
「ままー、あれなにー?」
「見ちゃいけませんっ」
 どうやら新興宗教の勧誘か何かとカンチガイしてるっぽい。
「どうですそこのお兄さん? 彼女にいい顔できますよー?」
 その辺のどよめきには気付かず、手近な男を捕まえて女がずいっと迫る。
「あ、いえ、結構で‥‥」
「そんな遠慮せずに」
「あ、いや‥‥」
「さぁ!」
「あわわ」
「さぁさぁさぁさぁさぁ!」
「だ、誰かー」
 迫る白塗り女のプレッシャーに耐えかね、半泣きでお兄さんが助けを求めた。無理もない。例え素顔が美人でも、今の彼女は得体の知れない白塗り。それが有無を言わせず迫ってくるのだから、ちょっとしたホラーである。
 と、その時。

 ――スッパァァァァン!

「いいかげんにしなさぁい!」
 迫る女の後頭部にカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)が振りぬいたハリセンが景気良くヒット!
 その衝撃に、汗で仮面状に固まっていた小麦粉がボロっと剥がれた。
「か、顔が剥がれ‥‥っ!」
 一部始終を遠巻きに見ていた観衆もこれには大ショック。
「‥‥ぶくぶく」
 あ、間近で見ていたお兄さん気絶。どうやらショックが強すぎたらしい。そりゃそうだ。
 と、ツッコミの感触にうっとりとしていたカヤが我に返り、慌ててフォローを始めた。
「と、いうわけでですね‥‥黒の教会におきまして、聖夜祭当日にバザーが開かれます。皆様お誘い併せの上おいで下さいませ。おほほほ‥‥」
 ほらほら、音楽、音楽っと手振りでカヤが指示。リセットの口上の為に一旦演奏を停止していたのだが、良くも悪くも観衆の耳目を集める事には成功したのだから、早いとこ再開して宣伝効果をあげ(ごまかさ)なければならないのだ。
 よしきた、とばかりにヴェルブリーズとエヴァリィ・スゥ(ea8851)が演奏を再開する。

 ジャジャジャラン‥‥パポポー♪

 エヴァリィがリュートばりにかき鳴らす竪琴から紡がれる荘厳な音色に合わせ、ヴェルブリーズが身体を揺らし、郷愁溢れるオカリナの旋律を響かせた。
 二人とも名手という程上手くはないのだが、何とか様になる程度の腕は持ち合わせている。特にエヴァリィは誰もが聞き惚れるほどの歌い手なだけに、その場の雰囲気がガラッと変わった。難を言えば景気のいい曲にハープとオカリナの組み合わせはミスマッチなのだが、これはもう仕方ない。ありもので何とかするのも冒険者の手腕なのだから。
 雰囲気が変わったところで、カヤが演奏に乗ってダンスを披露。彼女のスタイルは主に舞踏会向けの貴族的なものだが、そんな事は気にしない。結果、主に男性層の印象度を向上するのに大いに役立った。逆に(特に一部の)女性層からは不評だったが、これはやむなし。
(「ここで正体がばれたら台無しですからね‥‥」)
 己の正体を隠すべく、カヤの準備は抜かりない。耳さえ見られなければいいいのだ。帽子と髪で、その辺はガードしてある。そう、まじまじと見比べられなければ、ハーフエルフだという事は気付かれ難い。
 だが、この場に限ってそれは杞憂だったかもしれない。女を見つめる視線は、主に胸へと集中していたからだ。今日の為に用意したドレスも、胸を強調したデザインだ。自然、観衆の視線は揺れる胸へと集まる事になる。それは欲望、感嘆、嫉妬、羨望など複数の感情がない交ぜになっていたが、彼女は敢えて気にしないように努めていた。
 と、頃合を見計らって、ヴェルブリーズが片手のダガーを抜き放つ。垂れ幕がパラりとめくれ、現れるは『黒の教会にてバザー開催!』の文字。外れた時の事を考えると、流石に投擲などという無謀な真似は出来なかったが、アピールにはなったようだった。

 紆余曲折あったが、大通りを練り歩いての宣伝はこの調子で続けられたと言う。
 後日、この謎の一団は『ジャラポー屋』(何ソレ)と呼ばれる伝説となり、あまりの売り上げの悪さに捨て鉢になった商人が宣伝依頼をしようとドレスタット中を探したとか探さなかったとか。


●縁の下は辛いヨ
 その頃。
(「さて、どうしたものですかなぁ」)
 伊勢八郎貞義(ea9459)はバザー会場を作るべく、教会の敷地の片隅で腕組みをして頭を捻っていた。
 日の目を見ることの少ない裏方作業は望む所。華やかな宣伝も、賑やかな客寄せも、全ては屋台骨がしっかりしてこそ。会場が無ければ、何の意味も持たないのである。
 だが‥‥具体的ビジョンを持たずに臨んだのは少し甘かったか。行き当たりばったりでは効果的な設営は難しい。客の流れ、効率的な商品陳列などは具体的な方策が必要となるのだ。
「とりあえず、通りからの見栄えを考えて配置してみましょうか?」
 教会から借り出してきた小さめのテーブルを抱えながら、そう提案したのは多嘉村華宵(ea8167)。
 女性的な外見を持つ青年の提案に、なるほど、と八朗は手を打って答えた。ただ漠然と設置するより、その方が効果的なのは間違いない。もう少し皆の知恵が欲しかった所だが、出なかったものは仕方ない。人は華やかな位置を好むものなのだ。
 ともあれ、形だけでも何とかしてしまわなければ。八朗と華宵は、残る二人に指示を出しつつ、日が暮れるまで会場設営に努めた。その甲斐あってか、とりあえずの体裁を整えるのには成功したようだ。

 酒場で酔客相手に可憐な少女を演じ、まんまと所持品をせしめた華宵は、余勢を駆って商店街の広場まで来ていた。
「わ、私は‥‥誰のお役にも立てないんでしょうね‥‥」
 買い物帰りの奥様方を相手に、今度は憂いを秘めた青年を演じてもうひと稼ぎ、という訳だ。夜になり、流石に冷え込んできていて震えが止まらないが、薄幸の美青年の設定ならそれも悪くない。
 その場に居合わせた女性達が口々に同情の言葉を寄せる。ちょろいものだ。青年は心の中で人の好いご婦人方に舌を出すと、それを億尾にも出さずに話を続けようとした。
「‥‥おや、キミは先日の少女じゃないか?」
 と、そこに突然かけられた声。振り向いてみれば、先日の依頼で手玉に取った男が立っていた。あの時は可憐な少女を演じてまんまと大通りの掃除をさせるのに成功したが、まさか再会するとは。同じ街、似たような場所なのだから、良く考えれば当然の話ではあるのだが。
「今日は男みたいな格好をしているが、また何かあったのかい?」
 男は華宵の風体に目を止めると、爽やかに話しかける。それを聞いたご婦人方は訝しげな顔だ。拙い、怪しまれてきている。青年は咄嗟に答えた。
「ええっと、それは妹ではないでしょうか?」
 少々迂闊だったか。何しろ、全く別人に化けられる訳ではないのだから。忍術には外見はおろか性別まで変えてしまう術が有ったりするが、残念ながら華宵はその術を修めていない。声色と身振りだけでは限界があるのだ。
「‥‥妹さん?」
「いやぁ。双子の妹でして、良く間違われるんです。華子って言うんですけどね‥‥あははははは、ではそういう事でっ」
 完全に素に戻り、自分でも苦しいと思う嘘で誤魔化すと、そそくさとその場を後にする青年であった。

 一方、八朗が訪れたのは、何と冒険者ギルド。日中の間、エヴァリィやヴェルブリーズが方々の店に出品募集の張り紙をしていたのだが、その店々を回って最後に訪れたのが此処だった。
「古着でも何でも、例えば置き場に困ってる物などでも。皆様の優しさで困っている方々が助かるなら、そのお手伝いなどお安い‥‥」
「へぇ‥‥ご苦労様ですねぇ」
 熱弁を振るう男の言葉を遮り、受付嬢は微笑を浮かべた。
「それなら当然、日頃の激務に加えて祝い事の時は必ずここに座らされ、あまつさえ彼との甘い一時も過ごせずにっていうかその彼すら作れず目出度く聖夜祭を迎えようと言う私も困っているんだけど何かしてくれるのよね?」
 顔は笑っていても目が笑ってない。良く判らないが逆鱗に触れてしまったようだ。
「あいや、我輩急用が待っておりますのでこれにて」
「ちょっと待ちなさいよーっ!」
 慌てて逃げ出す男に受付嬢が罵声を叩き付けたが振り返りもせず、建物を出てはふっと一息。
「‥‥信仰だけで飯は食えない、ですなぁ」
 しみじみと聞いた事もない教訓を呟く八朗だったとか。


●そんなこんなでバザー当日
 そうして迎えた聖夜祭。あつらえた会場に皆で集めた商品を設置し、戦闘準備は完了済み。何か意図を持って陳列した訳ではないので雑然としているが、一応の形は整った。ともあれ後は客入りを待つのみである。
 ややあって。
「あっ、きたきた! きましたよ!」
 ヴェルブリーズが指差した先には、数人の人影。いよいよ本番である。

「やや、これは珍しい。まさかここで拝見出来るとは!!」
 入客が増えた頃合を見計らって、八朗が大げさに驚いてみせた。どうやらサクラを務めるつもりのようだ。なんだなんだ、と周囲の客の視線が男に集まる。
「この日本刀と言うのは美術品としても重用されておるのですよ。ほらこの鍔、ここにも彫刻が施されていて実に美しい。これで20Gは安いですなぁ」
 日本刀は月道を経由して輸入される物なので、パリのエチゴヤでは40Gとジャパンの倍額である。これ一本が売れてしまえばバザーとしては充分すぎるほどの売り上げだろう。
 因みに、これを提供したのは何を隠そう八朗本人である。侍の魂とも言われる逸品を惜し気もなく提供するのだから、太っ腹な男である。
 更に、傍にあった手裏剣(提供者:多嘉村華宵)を取り出し、八朗の口上は続く。
「それにこの手裏剣。携帯武器として優れていて、真ん中の輪に紐を通せば束で持ち歩けますし、刃の付いてる箇所が多いですから標的に当たり易くなってるんですなぁ」
「へー」
「なるほどぉ」
 男の周囲に集まる人々からは口々に感嘆の声が上がる。これに気を良くしたか、男は会場の片隅で売り子をしていた華宵を呼び寄せた。
「あぁ、手裏剣ですか。この国ではあまり見ない代物ですよね」
 勿論、これは前もって打ち合わせ済みである。手裏剣は珍しく、用途も判り辛いだろうという事で実演販売をする腹なのだ。
 手裏剣の穴に指を通して弄ぶように回転させ、青年は説明を始める。
「手裏剣はお手軽な携帯護衛武器。こうして手に握りこめば一端の刃物ですし、勿論本来の用途は」
 その刹那、ギラリと青年の目が光り、振りかぶった手から手裏剣が放たれた。目標、暖炉兼照明代わりの松明。命中箇所、八朗のコメカミ横3センチ。あれ?
「こんな感じです。美しい御婦人方をお守りするにピッタリかと」
 涼しい顔で青年は微笑を浮かべた。色々な意味で狙ったのか外れたのかは不明だ。
「わー、すごいですね!」
 ヴェルブリーズもそれに合わせ、サクラになってお手伝い。
「い、いかがですかな、旦那方は護衛に。奥様方も浮気性な旦那の脅迫に」
 顔面の至近距離に命中した手裏剣を引っこ抜くと、男は冷や汗を一つ、取り繕うように冗句を交えて宣伝する。果たして、周囲の人々からは笑い声が漏れていた。

 そうして時は経ち、バザーも終わりの時が近付いていた。
 最後の餞に、とエヴァリィは竪琴を奏でる手を止め、会場にたむろす客に向かって一礼、賛美歌の独唱を始めた。
 小柄な身体を一杯に使って紡がれるア・カペラに、雑談を始めていた客たちが水を打った様に静まり返る。
 少女と思えぬ圧倒的な技巧。神への感謝を表すチャント。
 やがて、観衆のそこここから歌声が漏れ始め‥‥
 その場にいた者全てが参加した合唱に包まれ、バザーはその幕を閉じたのであった。

●エピローグ
 閉場後、ささやかなお礼です、と依頼人が打ち上げを行ってくれた。勿論、バザーの売り上げとは関係なく彼自身のポケットマネーである。実際ささやかではあったが、用意された酒や料理に一同は心の底から楽しみ、聖夜祭の夜を過ごしていた。
「ツッコミって気持ちよかったですわ‥‥癖になりそうです」
「‥‥小麦粉の化粧は衝撃に弱いのですね。一つ勉強になりましたっ」
 カヤとリセットは宣伝活動の話に花を咲かせているようだ。
「あの手裏剣、松明を狙っておったのですな? 我輩を狙ったわけではないですな?」
「いやだなぁ、何を言うんですか‥‥ふふっ」
 男二人は昼間の事件を思い返している。っていうか絶対確信犯だろう貴様。
「あまりの忙しさに目が回るかと思いましたけど、こういうのも楽しいですね」
 ヴェルブリーズの感想は、一同共通の思いだったに違いない。


 めいめいに楽しむ一同から離れて、エヴァリィは一人、教会の外で夜空を眺めていた。
「‥‥25日。私の‥‥誕生日」
 記憶を無くした少女の持つ、唯一つの記憶。それが、誕生日。
「‥‥でも、誰も知らない」
「そんな事はありませんよ」
 かけられた声に驚き、振り向けば。そこに立つは依頼人である黒の神父。
「‥‥嘘。私、誰にも言ってないから‥‥」
「確かに、私は知りませんでした。ですが、父は全てご存知ですよ」
 男は少女に向け柔和な笑みを浮かべると、天を仰ぎ見る。
「その証拠に‥‥御覧なさい、ほら」
 その言葉に、少女はつられて顔を上げた。
 ふわり。
「あ‥‥」
 天から一片、舞い降りる粉雪。それはまるで、少女を祝福する天からの贈り物のよう。
「それだけじゃありませんよ‥‥後ろを御覧なさい」
「‥‥みんな‥‥」
 見やれば、仲間たちが少女を待っていた。そう、少女は決して一人ではないのだ。
 その夜が少女の、少なくとも今までの記憶の中で最高の誕生日になった事は言うまでもないだろう。