はたらくぼうけんしゃ

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜01月28日

リプレイ公開日:2005年02月02日

●オープニング

 その子供たちが冒険者ギルドを訪れたのは、冬の陽射しがやんわりと降り注ぐ、晴れた日の事だった。
「ぼうけんしゃの人たちを、けんがくさせてくださーい」
 受付で元気にお願いする少年少女を相手に、受付嬢は苦笑いを一つ。
「あのね、冒険ってとっっっても危ないの。見学なんて、とんでもないのよ?」
 噛んで含めるように言い聞かせると、
「もっと大きくなって、二枚目になってお金持ちになってから来ようねー」
 とかよく判らない事を言って追い返そうとする受付嬢だ。
「ちがうのちがうの、そうじゃないのー」
「へ?」
 子供たちの必死の訴えに、受付嬢は目を丸くした。
「あのね、ぼくたち、ぼうけんしゃになりたいんだ」
「きんじょのお姉ちゃんに『ほうこくしょ』をよんでもらってるの!」
「かっこいいよねー」
『ねー』
 と口々に頷く少年少女に、受付嬢はもう一度言った。
「だからね、報告書に書いてあるような事は危ないから、連れて行けないの。わかる?」
「そしたらね、おとうさんがこれ見せて、けんがくしてこい、だってー」
「‥‥お父さんが?」
 少年から受け取った羊皮紙には、こう書いてあった。

『子供達に冒険者の日常生活を見せてやって欲しい。働いている姿でも飲んだくれている姿でも何でもいいが、子供達が幻滅して冒険者を目指さなくなるようなものがベストだ。宜しく頼む』

 ‥‥余程この父親は冒険者が嫌いなのだろうか。確かに冒険者はヤクザな家業ではあるが‥‥思わず頭を抱える受付嬢だ。
「ねーねー、いいでしょー?」
『おねがいしまーす』
 嗚呼、子供たちの期待のまなざしが痛い。
「‥‥舐めてんのかっ!」
 と叫びたくなるのを抑えて、代わりにあははーと乾いた笑いをする受付嬢。
「じゃあ、とりあえずお願いしてみるけど‥‥」
 あまり期待しないでね、と聞こえないように呟いて、彼女は掲示板に依頼書を貼り付けた。

●今回の参加者

 ea0351 夜 黒妖(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1685 皇 荊姫(17歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb0631 ヘルガ・アデナウアー(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●少年少女と引率の先生
 乾いた冬の青空の下、子供たちの元気な声が聞こえる。
「みなさーん、準備はできましたかー?」
 ぱん、と手を叩いて、シュヴァーン・ツァーン(ea5506)は子供たちを集める。
 女は吟遊楽師だ。とはいえ、唄の引き出しが多いわけでもなく‥‥ならば、と子供たちの案内役を買って出たのである。唄に出来る物語は、何処に転がっているか判らない。子供たちの小さな体験を歌にしてみるのも一興だろう。
『はーい』
 口々に子供達が返事をし、シュヴァーンの下へと集まってきた。
「わーい」
「たのしみー」
「どきどきするー」
「それでは、行きましょうね」
 にこりと微笑み、引率者よろしくシュヴァーンが歩き出すと、子供たちはゾロゾロと後を付いていった。

●黒妖とニルナの鍛錬
 さて一行は、町の片隅にある小さな公園に来ていた。此処で鍛錬をしている二人を見に来たのである。
「覇ッ!」
 裂帛の気合と共に、木剣を大降りに一閃したのはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)だ。
 ――ヒュン!
 その軌跡は、正面に立つ女の肩口を左から襲う。
 だが、夜黒妖(ea0351)は冷静に剣閃を見切ると、一歩引き、最小限の動きで避けてみせた。
 空を薙いだ一撃。ニルナは右に振りぬいた剣を、今度は袈裟懸けに斬り下ろす。
「征ィィッ!!」
 ――ブンッ!
 この一撃を見て、黒妖は一歩踏み込むと上体を折りたたみ、背中の上で剣閃をやりすごした。
「くっ」
 拙い。一呼吸で懐に潜られた。女は焦慮を強引にねじ伏せると、距離を取ろうと試みる。
 ――シュッ。
 遅いっ。黒妖はニヤ、と口の端を歪めると更に一歩踏み込み、上体を起こす要領でニルナの腹に左拳を打ち込む。
 ごつ、と鈍い音が響いた。間一髪、ニルナが木剣の腹で拳を防いだのである。
「あぁぁぁ!!」
 次の瞬間、雄叫びと共に黒妖の連打が迫る!
 左からの短剣は得物で何とか弾く。だが、次の瞬間、右から飛んできたハイキックが側頭部へ。間に合わないッ。女は歯を食いしばり、衝撃に備えた。
 しかし‥‥衝撃はいつまでもやってこなかった。
 その蹴りは、ニルナの頭まであとわずか、と言う所でピタリと止まっていたのである。
『すごーい!!』
 一部始終を見守っていた子供たちから、歓声が上がった。
「へへ‥‥まず一本先取、だね」
 短い攻防に、だが額の汗を拭い黒妖は満足げに一言。
「ふぅ‥‥次は私の番ですよ」
 ニルナはワインを一口、息を吐くと次の一合へと気合を入れなおした。

●アルフレッドの受難
 一行を出迎えた少年は、自室で何から書き物の最中だったようだ。
「ねえねえ、なに書いてるの?」
 そのシフールの少年――アルフレッド・アーツ(ea2100)が家主と知るや、子供たちは一気に部屋に雪崩れ込んだ。早くも友達認定されたらしい。
「こらこら、だめですよー」
 制止しようと試みるが、時既に遅し。仕方ない、と切り替えて、少年の受難を心に深く書きとめておく事にするシュヴァーンだ。
「あー、お絵かき? わたしもかくー♪」
「わ、ちょ、ちょっとまって‥‥今、説明しますから‥‥」
 慌てふためいてパタパタと羽根を震わせ、アルフレッドは机の上に広げた羊皮紙をみせる。
「僕、将来は大陸の地図を書きたいんです‥‥今日は、その練習に近所の地図を書いてみようと思って」
「ほえ〜」
 残念ながら、子供たちは地図の概念がピンと来なかったようだ。それもその筈、地図は一般に流通しておらず、気軽に入手できるような代物ではないのである。
「まいにちお絵かきしてるの?」
「普段は、これで‥‥猟とかしてるんですけど‥‥」
 子供たちに自前のナイフを見せたが‥‥
「狩りに成功したためしがなくって‥‥」
 ‥‥そのまま、ガクリと両手をつくアルフレッドだ。
 と。
「できた〜♪」
 少女の声に振り向けば。
 自作の地図(最高傑作:本人談)が数枚、一人の少女の手によって得体の知れない前衛芸術と化していた。
(「い、一生懸命書いたのに‥‥」)
 ふと見回してみれば、子供たちに襲来された部屋はしっちゃかめっちゃか。呆然と、何処か遠くを見つめるアルフレッドであった。

●アルスの日常
 そうこうしている内に、何時の間にか昼を迎えていたようだ。一行は休憩がてら、軽食でも取ろうかと足取りを進めていた。
 と、一行の前に、串焼きを咥えてフラフラと歩く、一人の男。
「ふわぁ‥‥‥‥かったりぃ‥‥」
 彼らの前に現れたのはアルス・マグナ(ea1736)である。どうやら寝起きのようだ。
「んん〜‥‥?」
 男は子供たちに目を止めると、
「あ〜、そういやぁそんな依頼受けたっけな‥‥」
 まるで他人事のようにゆるく呟く。
 そんなアルスの裾をくいっと引いて、一人の少女が尋ねた。
「ねぇねぇ、おじさん冒険者?」
 ストレートな子供ビジョン炸裂である。全国のよいこのみんな、言葉はナイフだから気をつけましょうね。
「‥‥おじさんじゃないぞ、おにいさんだぞ〜」
「おじさんになれるなら、ぼくも冒険者になれる?」
 がきんちょ、さくっと無視である。
「あらあら‥‥」
 シュヴァーンも苦笑を一つ、男を気遣う。こっそりと心のネタ帳に今のやり取りを書き込んだのは秘密だ。
「まぁ、子供の言うことですから‥‥ね?」
「まあな〜」
 別段気にした素振も見せず、男は相変わらずのゆるい調子で答える。事実、まだ若いんだから気にする必要もない。
「かっこ良いから程度の気持で冒険者目指すなら止めとけ〜、その辺のごろつきになるような冒険者は案外多いものなんだぞ〜」
「ごろつきって、おにいさんみたいなひと?」
「ん〜、まあそんなとこだな〜」
 面倒になったのか、適当に返すアルスである。
「さて、お兄さんがご馳走してやるぞ〜」
「わーい!」
 子供たちを引き連れ、男は露店に向かう。意外と懐かれているようだ。
 その姿を、シュヴァーンは微笑ましげに見守っていた。

●荊姫の教室
 しん、と静まり返った室内。
 元気が本分の子供たちも、流石に息を呑んで見守っている。
「‥‥ですから、作法とはまず心構えが大事になるのです」
 ただ一人、玲瓏と響く声は、皇荊姫(ea1685)である。
 気品溢れる、凛とした立ち居振る舞い。そこらの貴族は及びもつかない。事実、乞われて指南に赴くこともあるようだ。
「すいません、お待たせしてしまって」
 と、荊姫が一行の傍にやってくる。どうやら、本日の講習は終了らしい。
「おねえちゃん、せんせいだったんだー」
「そうですよ。月に二回、作法教室を開いております」
「どんなことするんですか?」
「挨拶や礼儀作法、立ち居振舞いに華道‥‥作法と名がつくものは一通り、です」
「ほかのひはー?」
「貴方たちにも判る様なお話をしたり、奉仕活動をしておりますね」
「ぼくたちにもできる?」
「勿論」
 少女は目を細め、優しく言葉を紡いだ。
「今から作法を学べば、立派な人になれますよ」
「じゃあ、ぼくたちもさほうやるー」
「ええ、何時でもおいでなさいね」
 言って、朗らかな笑みを浮かべる荊姫だ。
 こうしてこの日から、荊姫の教室には小さな生徒が増える事になったのである。

●詩人と楽師の事情
 一行は最終目的地に到着した。そう、酒場である。但し、陽はまだ沈みきっておらず、夜ともなればごった返すホールも人影がまばらである。
「いらっしゃいです。ゆっくりしていくですよ♪」
 リュートを片手、ラテリカ・ラートベル(ea1641)が子供たちに声をかけた。因みにこのリュート、酒場の主人から一時的に借り受けた物だったりするが内緒である。
『はーい!』
 此処に至っても、子供たちは元気一杯だ。一日中付き合わされたシュヴァーンなどは、そろそろぐったりしていたりするが。
「はわー、元気ですねぇ‥‥」
 感心したように呟くラテリカだ。
「その分なら冒険者になるのは難しくないかもですけど、みなさんは、どんな冒険者になりたいって思うですか?」
「ぼくねえ、悪いやつをいっぱいやっつけるんだ」
「たからものをみつけて、おかねもちになるの!」
「せかいじゅうをたびするんだー」
 口々に語る子供たちを見て、少女はニコニコと笑みを絶やさない。子供には子供なりに、もっともな理由があるものなのだ。
 と、
「おねえちゃんは、なんで冒険者になったんですか?」
 一人の少年がラテリカに尋ねた。
「ラテリカのお師匠様が言ってたです。自分だけの歌が、この世界のどこかで待ってるって。だからラテリカ、そのお歌に逢うために、冒険者になったですよ」
 ポロン‥‥
 リュートを軽くかき鳴らし、少女は言葉を続ける。
「ですけど、今は、一緒に冒険する皆さんや、依頼主さんの笑顔が見たくて、頑張ってる感じでしょか。
 ‥‥まだまだ未熟ですので、もっともっと頑張らなきゃですね」
 真剣に話に聞き入る子供たちを見て、はにかみながら答えるラテリカである。

「いろいろ見てきたんでしょ? どうだった?」
 集まってきた子供たちに、ヘルガ・アデナウアー(eb0631)が尋ねる。
「練習とか、かっこよかったよー」
「おえかきしてきたの!」
「ごちそうしてもらいましたー」
「こんどから、さほうをならえるんだよ!」
 子供たちも、それなりに楽しんできたようだ。ヘルガは微笑を浮かべながら、語りだす。
「覚えておいて‥‥冒険者と一般人の違いは生活そのものより、思考・思想の問題ね。冒険者はハーフエルフに優しい人が多いし、場合によってはオーガの命だって救おうとするわ。同性愛、異種族恋愛だってタブー視していない。ある意味、欲望の赴くままってのは考え物だけどね。
 その意味でも冒険者の冒険者たる所以は、剣でも魔法でもなくて‥‥考え方だと思う」
「‥‥?」
 ぽかん、としている子供たち。頭の上には大量のクエスチョンマークが見えるかのようだ。
「‥‥少し、難しかったかしら?」
 確かにそうかもしれない。主義主張、思想の分野までは子供たちはついて来れないだろう。思わず苦笑するヘルガであった。

 陽も落ち、酒場の客もだいぶ増えてきた。そろそろ、子供たちを家に帰さなければならない時間である。
「さて。楽師と詩人が三人もいるんです。折角ですから、子供たちに一曲披露しませんか?」
 ハープ片手に、シュヴァーンはラテリカとヘルガを捉まえ、提案した。自分たちの普段の姿といったら、これが一番なのだ。
「はむー、それはいいですねえ。ラテリカ頑張るですよっ」
「名案ね‥‥乗ったわ」
 当然、二人に否やはない。
「さ、みんなー。聴いて下さいね」
 女の合図で、酒場に陽気な旋律が流れ出した。
 シュヴァーンとラテリカの即興演奏。別段、打ち合わせなくても判る。楽師の才が二人の息を自然に合わせ、かき鳴らされる弦が子供たちへの餞となる。
「Ah〜♪」
 負けじと、ヘルガもアドリブでコーラスを入れた。陽気で華麗、複雑にして玄妙な、三人のセッションである。
 そして‥‥
『すごーい!!』
 旋律が収まった時、子供たちは大喜びで拍手したのだった。

●そして、夜
 子供たちはごきげんで家路についたようだ。依頼人の趣旨にそえたかは定かではないが‥‥まぁ、結局は彼らの人生である。わざわざ嘘の姿を見せる必要もないのだ。
「さぁ、喰うぞー飲むぞー騒ぐぞーー!!」
「黒妖は元気ですねぇ、夜もそうなんでしょうか?」
「ふふ、確かめてみる?」
「何事も過ぎては身体の毒ですよ?」
 女二人は肩を組み、酒場を出て行く。何処に向かうかは‥‥誰にも、判らない。

「酒場にいると思ってたんですが‥‥」
 荊姫はふらりと、酒場で人探し。どうやらお供が迷子になっているようだ。
「‥‥良く考えてみれば、あの子は騒がしい所は苦手でしたっけ」
 ひとしきり探して、ようやっと肝心な事に気付く少女。マイペースも考え物、である。

「ふ〜、ちっと呑み過ぎたかな〜」
 酒場を出て一人、アルスは呟いた。酔い覚ましがてら、少し遠回りをして帰った方がいいだろう。酒臭い息で帰宅しては、百年の恋も一瞬で冷めるというものだ。
「‥‥ん〜、今日も月は綺麗だな〜‥‥」
 男は我知らず、感嘆の声を上げた。
 見上げれば、中天に冴え冴えと光る月。夜空には降るほどの星々。
 月光は柔らかく、優しく夜の町並みを照らしていた。


●おまけ
「‥‥お、終わらない、終わらないですよぉ‥‥」
 もう夜だというのに、アルフレッドの作業は終わっていないようだ。
「‥‥に、二度と、人間の子供は部屋に入れません‥‥っ」
 決意も固く、涙混じりに片づけを続けるアルフレッド。
 すっかり部屋の中が元通りになったのは深夜だったそうだ。
 但し、芸術品に華麗なる転身を遂げた、彼の最高傑作だけは元に戻らなかったようである。