書を捨てよ、海へ出よう【退魔編】

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月12日〜02月19日

リプレイ公開日:2005年02月20日

●オープニング

 よい商人は物品を売って金銭を得るだけでなく、誠意を売って信頼を得るものである――流浪の思想家 カッツ・モウト


「はぁぁぁ‥‥」
 お昼過ぎの冒険者ギルド。
 気だるい雰囲気が漂うホールに、辛気臭い呼吸音が響く。
 その音源は俯き加減に、だが迷うことなく受付まで歩を進めると、こう言った。
「‥‥明るい明日はどっちでしょうか?」
 追い詰められてノイローゼ気味なのだろうか。なにやら目が虚ろである。
 受付に座る青年は、眼前に座り込む辛気臭さの権化を眺めて、
「そんな事、知るわけないでしょう」
 と思ったものの口には出さず、華麗な営業スマイルを浮かべた。
「冒険者ギルドにお任せください。ご用件は?」

 依頼人の語った事情は、こうだ。
 この男、小さいながらも商船(黎明・Erfolg・ブローディア号という長ったらしい名前だ)を一隻持つ、若くはないが駆け出しの商人だ。
 そんな男が初の大口取引にこぎつけたのが、つい先日の事。とある領主から、武具一式を多量に調達してこいと頼まれたのである。
 難点は納品までの期日に間が無かった事だが、彼は一も二もなく受けた。領主などという上得意先に食い込む、これは滅多にないチャンスなのだ。
 必死に駆けずり回った男は、納期目前にして武具入手の目処を付けたのだが‥‥

「目処が付いたならいいじゃないですか」
 受付の青年が拍子抜けしたように言った。
「それがアイツら、どうしても脱がないんですよぉ‥‥」
「‥‥脱がない?」
 男の妙な台詞に、青年は目を丸くする。武具の調達に着るも脱ぐもない。商売敵の嫌がらせだろうか?
「いまいち意味が判りませんが‥‥説得はなされたので?」
「何を言ってもカタカタ‥‥としか返してこないんです。しかも乱暴極まりなくって、危うく死に掛けましたよ‥‥」
「‥‥カタカタ?」
 だんだん雲行きが怪しくなってきた。
「まぁ、骸骨だから喋れないのも当然ですよね、あははは‥‥」
 男の乾いた笑い声がホールに響く。どうやら完全武装のスカルウォーリアーが相手らしい。
「‥‥成る程、そういう事ですか」
「ア、アイツらさえ大人しくなれば、倉庫内の武具一式を全部持ち出せるんです。よろしくお願いしますっ」
 合点のいった青年に、切羽詰って必死に懇願する依頼人であった。

●今回の参加者

 ea7978 劉 麗成(24歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8537 ナラン・チャロ(24歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9459 伊勢 八郎貞義(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9728 ジュネイ・ラングフォルド(24歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0666 ビズ・ドノフ(44歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0877 木野 芒(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0931 リュイック・ラーセス(42歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

スニア・ロランド(ea5929)/ リセット・マーベリック(ea7400)/ アル・アジット(ea8750

●リプレイ本文

●交渉するは我にあり
「ロープを用意して欲しいんだけど‥‥ダメ?」
「ええ、お安い御用ですとも」
 エルトウィン・クリストフ(ea9085)の要請を、依頼人の商人は断らなかった。何しろ、この依頼が失敗したら男に後は無い。商人として最も重要な商品である、『信用』を失ってしまうかもしれないのだ。
「早速調達してきましょう。他にありますか?」
「では我輩は箒を一つ、お願いしますかな」
 それは渡りに船、とばかりに頼んだのは伊勢八郎貞義(ea9459)である。目的地の倉庫前を掃除しておき、鎧の傷を少しでも少なく‥‥という目論見のようだ。
「ついでに、倉庫周辺の人払いをお願い出来ませんかな。万が一、巻き込まれて怪我をする人が出ないとも限りませんからなぁ」
「周辺に民家は無いんで、心配いらないと思いますが‥‥」
 男の要請に、依頼人は思案するものの。
「まあ、近辺に人を近づけぬよう、倉庫主に話を通しておきますよ」
 話をするだけなら只、という事だろう。これも男は断らなかった。
「あたし、防寒着が欲しいんだけど‥‥」
 と、寒そうに身を竦めたのは劉麗成(ea7978)。今回の冒険は片道で最低二日かかる。軽装のままでは、戦う前に寒さにやられてしまうだろう。
「うーん。物が物だけに、お譲りは出来ませんが‥‥ちゃんと返して頂けるのでしたら、お貸しいたしますよ」
 流石にこれは貸与になった。防寒着は若干だが値が張るからだろう。貸した物が戦闘で傷付いた場合は、貸与専門にするつもりのようだ。
「あ、だったら俺も‥‥」
 同様に防寒着を持っていなかった、ジュネイ・ラングフォルド(ea9728)が手を上げた。
「はいはい、一着追加っと」
 羊皮紙に何事かサラサラと書き込みながら、依頼人が尋ねる。
「他にもいらっしゃいますか?」
 すると‥‥リュイック・ラーセス(eb0931)、木野芒(eb0877)が更に手を上げ、全部で四着の防寒着が貸し出される事になったのであった。
(「お互い向いてませんねえ、この商売‥‥」)
 そんな一同を見やって、ビズ・ドノフ(eb0666)が小さく溜息を吐いた。実はこの男、今は冒険者に身をやつしているものの商人志望だったりする。もっとも、ペンと台帳よりも剣と盾が似合うと言われる事の方が多いし、自分でもそう思うのだが‥‥。
 まったく、夢と現実はどうしてこうも食い違うものなのだろうか。遠い目でどこかを見つめるビズである。
「よし、っと」
 手に持ったロープので輪の形を作った少女が、ブンブンとそれを振り回す。
「ちょっと練習しておこうかな‥‥えい☆」

 ――ひゅん!

「ちょ、ちょっと待っぐぇ〜」
 エルトウィンの投げ縄、おじさんの首に見事命中。
「アレ? ビズさんを狙ったのになぁ‥‥」
 どうやら誤爆らしい。
「な、なんで私なんですか」
「‥‥ゴメンネ☆」
「誠意が感じられませんっ」
「さて、座興はその程度にして、そろそろ出立致しましょうか」
 二人のやり取りを遮るように、芒がパン、と手を叩く。そう、本番はこれからなのである。
「確かに、時間は無駄に出来ませんなぁ」
 八郎の言葉に一同はそれぞれ頷くと、仲間たちに見送られて街を出たのであった。

●排除せよ、骸なる剣士
 冒険者たちか佇む倉庫の前に、人影は一切無かった。
「奴ら‥‥今夜は挽肉パーティかナ‥‥」
 倉庫を見つめ、ジュネイが呟く。具材は自分達の想定だろうか。
「と言うか、物食えるのか?」
「流石に無理ではないでしょうか?」
 小首を傾げ、芒が答える。
「そか、骨だけに屍ぇナ」
「みんな、準備はいい?」
 中へと通じる扉を前にして、麗成が確認をとる。勿論、コテコテの駄洒落はサクッと無視である。
「えへへ、こっちはOKだよぉ」
 返事は入口の脇から聞こえた。ナラン・チャロ(ea8537)である。入口にロープトラップを仕掛けていたようだ。
「我輩の分も出来ましたかな?」
「バッチリ♪」
 八郎の言葉に少女は明るく答えると、軽くロープを引っ張って手応えを試す。大丈夫、完璧とは行かないが使用には充分耐えれるだろう。
「さて、この程度ですな」
 周辺の砂利を箒で除去していた八郎も作業を止め、入口の脇にやって来た。彼らはここで手製の罠を操作する予定なのだ。
「それでは‥‥参りましょう」
 力ある言葉を紡いだ芒はその身に紫電を纏うと、ゆっくりと扉を押し開ける。
「さてと、いよいよ骨クン退治だねぇ」
 少女の呟きとともに入口から射し込んだ光が、倉庫内の闇を徐々に切り裂いていった。


「だれかおるか、御返事なされよ」
 薄暗がりの中、芒が呼びかける。返事はない‥‥いや、あった。倉庫の片隅からそれは聞こえてきた。但し、人の言葉ではなかったが。

 ――かしゃり。

 骨が擦れ合い、ぶつかり合って生まれる音。生身の人間には決して出せない異音‥‥そう、スカルウォリアーが反応したのだ。
「来ましたかっ」
 緊張にやや身体を堅くし、ビズが盾を構える。
 倉庫内に侵入した仲間は彼を含めて三人。少数で中に入り、誘き出してから殲滅――これが冒険者たちのプランであった。であるならば、無事に外へ出れなければ始まらない。うかうかしていては乱戦になってしまい、全ての計画が台無しになってしまうだろう。
 この異音に逸早く反応したのはエルトウィンだった。少女は縄を構えると、ちら、と周囲を見て取る。倉庫内に敵は四体。とりあえずはそれだけのようだ。

 ――ヒュン。

 少女の手から放たれた縄は、やや歪な放物線を描いて骸骨の首に引っかかった。練習では犠牲者が出てしまったが、今回は上手く行ったようだ。
「今よ!」
 ハーフエルフの少女は叫び、縄のもう一方を扉の向こうへ投擲する。ロープはまるで空中を泳ぐ蛇のようにうねりながら飛び‥‥突如、ぴん、と張り詰めた。外部で仲間が受け取り、引っ張っているのだ。強引に釣り出し、各個撃破するのが目的であった。
 その一方で、ビズは残りのスカルウォーリアーを相手取っていた。仲間が外に出るまでの時間を稼がねば。腕の立つスカルウォリアーを三体相手は少々荷が重いが、防御に専念さえすれば彼の実力なら何とかならないでもなかった。男は盾を自在に操り、文字通り壁となって敵の斬撃を防ぎ続ける。
(「華々しく戦うのは柄じゃないですからねぇ‥‥」)
 男が、堅き盾と呼ばれるようになったのはこの時からだ。もっとも、本人にとっては不本意もいいところであるが。堅い商人だったら本望なのだが、そう呼ばれるのは相当先だろう。そんな事だけは易々と予想できる自分が少し悲しいビズである。

 リュイックと麗成の二人はロープを全力で引き続けていた。
 スカルウォーリアーがその張力に耐え切れず、引きずられるように入口に姿を現す。ロープを切ればいいのだろうが、それには気付いて‥‥
『うわっ!』
 突如、ロープを引いていた二人が後ろにつんのめる。遅まきながら縄の切断に気付いたのだろう。体勢を崩した二人を見たのか、そのまま襲い掛かろうと剣を振り上げ、迫る。
「――きたっ!」
 と、そこで入口脇にしゃがみこんでいたナランは弾けるように叫び、間髪いれず手に持ったロープを引いた。

 ――ぐわっしゃーん。

 足を引っ掛けられ、ド派手な音を立てながらスカルウォーリアーがすっ転ぶ。
「閉めますぞ!」
 敵を分断すべく、八郎が内部に声をかけた。取っ手にロープを括りつけ、引けば閉まるようにしてあるのだ。
 すぐさまエルトウィンが、続いて芒が倉庫から飛び出す。一番最後にビズが出ると、その後を追ってスカルウォーリアーが一体――流石に仲間だけ出して綺麗に閉めるのは無理だった。
 代わりにナランがタイミングよくロープで転ばせ、その隙を突いて八郎は扉を閉める。何とか分断成功である。男はそのまま、オーラを練り始めた。
 素早く体勢を立て直したリュイックが、倒れた一体にマントを被せると、ジュネイがずい、と前に出て言い放つ。
「一つ言っておくことがある‥‥。お前たちは不健康だ!」
 もがくスカルウォーリアーを見下ろし、いかにも偉そうだがまるっきり意味不明だ。と言うか早く攻撃しようよ。折角のチャンスなんだから。
「つーことで、こっちが挽肉になる前にスープのダシにしてやるゼ! オラオラオラァ!」
 ジュネイ、倒れたスカルウォーリアーにヤ●ザキック連発。聖職者のくせして柄の悪い事この上ない。
「はーい、下がってぇ」
 被せられたマントを引き裂き、何とか起き上がろうとする相手にナランが接近、的確に鎧の隙間を縫ってショートソードを振るう。
 ジュネイを下がらせたのは、そのままでは彼の身が危険だからだ。腕に覚えの無い者が相手取れるほど、スカルウォーリアーは弱くない。駆け出しの冒険者には危険な相手なのだ。下がったジュネイは、聖なる母に浄化の祈りを捧げ始めた。
「俺のマント‥‥」
 リュイックは名残惜しそうに呟くと、起き上がったスカルウォーリアーの攻撃をなんとか弾く。弱らせてしまえば強敵との実力差も埋まるというものだ。
 更にナランが追撃。八郎のオーラが少女の剣に宿り、一閃する度に不浄の者の動きを加速度的に鈍らせていく。
 こうなってしまえば後は早い。麗成の足払いも易々と決まり、更なる追撃を容易にした。
 そして‥‥淡い輝きがスカルウォーリアーを包む。浄化の祈りが天に通じたのである。
「昇天(と)べオラァ!」
 為す術もなくスカルウォーリアーは消滅した。

 他方、もう一体のスカルウォーリアーの攻撃はビズが完全シャットアウトしていた。一体なら、油断さえしなければどうという事もない。斬撃を盾で受け止めると、己の巨体を利して押し倒してしまえばいい。
「‥‥見事な御手並です」
 芒は感心したように呟くと防御をビズに任せ、起き上がろうとする敵にタイミングを見計らって飛びついた。

 ――バチッ!

 瞬間、スカルウォーリアーの身体がスパーク、薄く煙を上げる。女の身に纏わりついた電撃がダメージを与えたのだ。
 間髪入れず左手で鎧の首元を掴むと、腰をぶつける様に軸にして相手を半回転、大地へ叩き付ける。

 ――ゴシャァ!

 これは流石に効いたようだ。スカルウォーリアーはよろめくように起き上がったが、明らかに動きを鈍らせていた。重武装が己に痛打を与える結果になったのだろう。
 更に盾で押し倒され、続け様に紫電に焼かれ、投げ飛ばされ‥‥
「トドメだゼ‥‥逝けオラァ!」
 青年が捧げた尊大な祈りに、不浄の骸は跡形も無く消えたのであった。


「じゃ、次行きましょ☆」
 仮初めの主を失って転がる武具を片付けながら、エルトウィンは快活に言った。
 ロープは自前の物がもう一本ある。これが切れてしまっても、自分が囮そのものになって誘き出せばいい。少女は相手に髪の毛一本切らせず、影一つ踏ませず逃げ切れる自信があった。
「今度はあたしも行くよぉ」
 エルトウィンに続き、ナランも進入の体勢を整える。
 まだ残りは二体いるが、油断さえしなければこれまでと同様の手法でカタは付きそうに冒険者たちには思えた。
 そして‥‥その予測は正しく報われたのであった。

●旨い話には裏がある
 こうして冒険者達は、一人の怪我人も出さず倉庫内のスカルウォーリアーの殲滅に成功した。
 剣技に秀でる敵を相手に、数を頼みに猪突していたらこう上手くは行かなかっただろう。作戦勝ち、と言ってもいい。但し、敵の武具を無傷で‥‥とはいかなかったのだが。
「一応気はつけてたんだけど‥‥多少は仕方ないわよね?」
 弁解するように麗成は頭をかく。ある程度の傷は不可抗力と言うものだろう。完全に無傷でと言うなら、何らかの手段で相手の動きを完全に止めてしまうのが最善だが、冒険者達の選択はそうではなかったのだ。
「まぁ、あれくらいなら予想してましたから」
 商品を運び出す人足に指示する手を止め、依頼人は答える。
「それよりも、無事に発送できそうでなによりです‥‥助かりましたよ」
「我輩も、ご商売の成功を願っておりますぞ‥‥出来れば、我輩達の世話に成らないのが最善ですが」
「そうそう。いざとなったらギルドに泣きつけばいいやーなんて思ってなあい?」
「実は、商人には『立ってるものは猫でも使え』と言う格言があるのですよ」
「‥‥マジか?」
「というわけで、今後とも宜しくお願いしますね」
 どうやら男の商売が安定するまで、冒険者達は仕事の種に困らなさそうであった。

「あ、そうそう。忘れる前に‥‥」
 依頼人はビズに近寄ると、一枚の羊皮紙と麻袋を渡した。
「確かに渡しましたよ。それでは、またのご利用お待ちしております」
 男は妙な挨拶をすると、慌しく荷馬車に乗り、その場を後にした。
「その袋は何でしょう?」
 麻袋に芒が目を止め、尋ねる。
「んー、開けてみよっかぁ」
 ナランがごそごそと袋の口を縛っていた皮ひもを解いた。
 覗きこんだその眼に映った物は‥‥
「‥‥保存食?」
 そう、保存食が16個。同封されていた羊皮紙には一言、
『セールス期間につき無料サービス致します』
 と書いてあった。
「‥‥意味が判りませんなぁ」
 まぁ得したのだろうが、何のことやら掴みかねる八郎だ。
「じゃあ、その羊皮紙には何て?」
 麗成が首を傾げる。
「待ってくださいね。ええっと‥‥『めい‥さ‥いしょ』?」
「あーもう、じれってぇなァ」
 読み書きに不慣れなビズの手から、ジュネイは引っ手繰るように羊皮紙を奪うと、その内容を読み上げた。

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       明細書
 ロープ×1――2c
 箒×1――2c
 防寒着×4――40c

 以上、代金として請求いたします。
 尚、今回の依頼料から減額の形で
 徴収致しますので支払いは不要です。
 毎度有り難う御座いました。
 ――――――――――――――――

「ナンジャコリャー!」
 くしゃくしゃーと羊皮紙を丸めて投げ、青年は逆ギレ。どうやら只じゃなかったらしい。
『‥‥‥‥』
 これには一同も唖然。
「‥‥まぁ、金額は良心的ですね」
 苦笑いを一つ、ビズが呟く。まったく、彼は彼でしっかりした商売根性を持ち合わせていたわけだ。勿論、商売人たるものこうでなくてはやっていけないだろう。その辺はよく判るだけに、責める気にもなれないビズである。
「旨い話には裏がある、ですなぁ」
 八郎がもっともらしく本日の教訓を述べると、一同は顔を見合わせ、それぞれのやり方で小さく笑ったのだった。