【減刑嘆願】だからこそ私は君を救いたい

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月14日〜05月17日

リプレイ公開日:2005年05月22日

●オープニング

 やあ。
 冒険者ギルドは此処でいいのかな?
 ああ、私はマイエルリンクと言うしがない貴族さ。
 一つ、宜しく頼むよ。
 今日はね、君たちに頼みたい事があって出向いたんだよ。所謂一つの依頼って奴だね。
 とは言え、ゴブリンを追い払えとかいう安っぽい話じゃないし、かと言って悪魔を退治しろなんて大それた話じゃない。
 我こそはと言う冒険者を数人集めて、私の邸宅で話をしてくれればいいんだ。簡単だろう?
 当然だけど食事は出させて貰うし、内容によっては報酬も出そうじゃないか。
 こんないい話はどこを捜しても無いと思うけどね。

 え? 何を話せばいいんだって?
 ほら、いま巷で話題になってるだろう。
 そうそう。
 年端も行かぬ少女がシスターを二人殺害して、刑に処されるのを待ってるってやつさ。
 なんでも減刑の話が出ているそうじゃないか。それも、冒険者が中心になって署名と賠償金を集めてるんだって?
 500の署名と金貨800枚。
 大変な事だよね。
 正直、冒険者諸君の熱意には頭が下がるよ。

 でも。
 よく考えてみたまえ。年端も行かぬ少女とは言え、彼女は犯罪者なんだよ?
 何の罪も無い聖職者を二人も惨殺、それも聖なる母の社たる教会の中での大胆な犯行。
 弁解の余地があるとも思えない重罪じゃないか。裁判でもはっきりと死刑を宣告されている。
 それを、減刑だなんて‥‥。
 まぁ、大聖堂の責任者からの提案でもあるから、表立って異議を唱える者は殆どいないけどね。
 だけど敬虔な信者なら殆どが思ってるはずさ。
 慈悲をかけるにしても、聖職者を手に掛けた者に対して手緩過ぎやしないか、とね。
 私も同感だよ。
 汚らわしいオーガの類と仲良くするよりも背徳的な行為じゃないか、これは。

 おっと、失礼。口が過ぎたみたいだね。
 冒険者諸君を非難するつもりはないんだ。
 只の一般論とでも思ってくれたまえ。

 ともあれ。
 私は考えたのさ。
 普通は救済の手を差し伸べられる筈もない少女に、何故冒険者達はそこまで肩入れするのか? とね。
 結論は、こうだ。

 直接聞くのが手っ取り早い。

 ‥‥あぁ、そんな眼で見ないでくれたまえ。
 君のような美人が眉を顰める様も悪くないけれど、ね。

 これは決して悪い話じゃない筈だよ。
 依頼という形になれば、報告書を通じて多くの冒険者達に減刑嘆願のアピールが出来るだろう。
 熱意だけはあるが金がないと言う者には、内容次第で私が寄付金の肩代わりをしてやってもいい。
 そして私はいい暇潰いや失礼、有意義な思索の時間を得ることが出来る。
 正に一挙両得って訳さ。
 勿論、減刑なんてとんでもないと言う主張があったっていい。
 私の眼前で熱い議論を展開してくれれば、それだけ面白おっとっと良い結論を導き出せるというものさ。
 だけど、ギルドの会議室で議論して結果を持ち込むなんてのは勘弁してくれたまえよ。
 やるなら私の前で、それが条件だ。

 それでは、そういう事で宜しく頼むよ。
 当日は素晴らしい話が聞けると期待しているからね。

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1558 ノリア・カサンドラ(34歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2256 カイエン・カステポー(37歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2448 相馬 ちとせ(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8286 ビアンカ・ゴドー(33歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

ティエ・セルナシオ(ea1591)/ デュノン・ヴォルフガリオ(ea5352

●リプレイ本文

「俺の理由は、その美少女を救いたいと思ったからだ。ああ、そう。美少女だからだ」
 集った10人の冒険者の口火を切ったのは不意討ちに近い、こんな台詞だった。
 一見、ふざけているのかと疑いたくなる所だが、エイジ・シドリ(eb1875)の表情は真剣そのもの。
「ほう」
 意外な方向から論を展開し、自分のペースに持ち込むのは話術のテクニックだ。マイエルリンク男爵――今回の依頼人だ――は興味深そうに、青年の青い瞳を見つめた。
 だが。
「俺にとって、他の理由は必要無い。そして、どうして救いたいと思ったかと言う理由も必要無い」
 本来、此処から巧妙に話題を誘導して構築される筈の論陣はその片鱗も見せず、エイジはお役目終了とばかりに口を閉じた。

「わたしは以前、狂化し多くの人を殺害したハーフエルフの少女を斬ったことがあります」
 本多風露(ea8650)の動機は、過去に遭遇した悲劇に端を発しているようだ。
「そのことについては全く後悔しておりません。彼女がハーフエルフであることを別にしても、彼女が罪を償うには捕まった後の拷問や晒し者にされることを考えれば、その場での死しか無いのですから」
「まったくだねぇ」
 男爵は大いに頷いた。
「無辜の民を殺戮したハーフエルフなど、生かしておく道理がない」
「‥‥さて」
 咳払いを一つ、女は言葉を続ける。
「シルバーホークという組織はご存知でしょうか?」
「噂程度ならね」
 ――シルバーホーク。暗殺者の養成機関。悪魔の隣人。パリ、いやノルマンの闇に蠢く非合法組織。
「エムロードさんもその組織に身を置き、そのことが今回の事件で大きな影を落としております。
 そのような組織があるのを知りながら教会や貴族たちは今の今まで放置していたのでしょうか?
 貴族が関わっていたという事実もあるそうです。
 そろそろその悪の組織を叩き潰すことを考えなければ民の心は教会や貴族から離れていくと思いますよ。
 その組織を潰す為には今はエムロードさんの存在は必要だと思います」
「――でしたら『情報提供するまで死刑執行を延長する』でも良いわけですよね」
 異を唱えるかのように、一人の女が一歩進み出る。
「初めまして、マイエルリンク卿。セーラ神の御許にお仕えしておりますクリミナ・ロッソ(ea1999)と申します。どうぞ宜しく」
 過不足のない礼儀作法。男爵は鷹揚に手を上げて応じる。
「さて‥‥卿もなかなかお人が悪いのですね。「人殺シ」のお話をお聞きになってどうするというのですか?」
「伊達と酔狂って奴さ」
 苦笑いを一つ、男爵は答えた。
「神聖なる教会の中で、我らが同朋を二人も殺されては‥‥嘆願書を集めている皆様には申し訳ございませんが、私としては許す事が出来ません。大司教様も何か考えをお持ちなのでしょうが‥‥」
 苦々しげに女が呟く。まったく、今回の事態は異例中の異例とも言えるのだ。
「死刑が終身労働になる程度でも減刑は減刑です。それでも皆様は‥‥生きながら永遠に労働を課せられ、二度と皆様に会えることの出来ぬ形でも『彼女を助けた』と言う事が出来るのでしょうか」
「本来なら死でしょうね」
 呟いたのはセシリア・カータ(ea1643)だ。
「しかし彼女は歳の小さい子供。生きて自分のしたことを理解できるようになって、罪の重さをしって、今後の人生全てをかけてセーラ神の償いをさせたほうがいいと私は思います」
 その言葉の意味する事は、ある意味で最も重い罰である。罪の名の下に命を絶たれれば、苦しみは一瞬で済む。慈悲の名の下に死ぬまで償い続けるのなら、責め苦は永劫に続くとも言える。
 ――見方を一つ変えるだけで、意味するところは大きく変わるものなのだ。
 セシリアの言葉にクリミナは一息吐いて、話を再開した。
「‥‥あの話に対し私が一つ認められる事があるとしたら」
 ――それは『一生かけても払い切る事の出来ないであろう』遺族への賠償金の寄付。
「あの事件はいわば我々冒険者が引き起こした悲劇も同然。それなら彼女一人に負わせてしまうのは、咎人とはいえ哀れです」
 冒険者の何気ない一言が暴走の引金になった。ならば、冒険者としてその責の一端は担わねばならないだろう。
「‥‥肩代わり、とはいいません。せめて哀れな二人のご遺族へ、一握りのコインを」
 男爵の目を真っ直ぐ見据えて、クリミナはゆっくりと一礼し、席に着いた。
 
「確かにエムロード嬢は教会に於いて聖職者を二人も殺した大罪人である」
 次いで主張を始めたのはエルリック・キスリング(ea2037)だ。
「しかし、マイエルリンク卿に問いたい。貴卿は領内で生じた犯罪を裁き、罪人に罰を与えるだろう。その時、犯罪に使った凶器まで裁くのか、と」
「‥‥少女は殺人犯ではなく、殺害に使われた凶器だった、ってことかい?」
 ともすれば詭弁に取られかねない発言だが、男爵はそこには触れなかった。
「かのエムロード嬢は犯罪組織シルバーホークによって育てられ、普通の人が持つ倫理観も社会的正義も教えられず、ただ組織の指示に従う事のみを教えられたと聞く。此度の犯罪に於いて真なる犯人はシルバーホークであり、エムロード嬢は道具として使われたに過ぎない。今のエムロード嬢を裁いても一罰百戒とはなり得ないと申し上げる」
「まぁ、確かに刑本来の趣旨である『戒め』からは少し外れるかもね」
 本来、罰には少なからず抑止という目的が含まれているものだ。少女が道具でしかないとの説を採用するならば、そう仕向けた組織は何の痛みも感じないのだから今回に限ってその意味は薄れるだろう。飽くまでも、仮定の話ではあるが‥‥。
「私はまず、エムロード嬢を道具から人間に戻す事を求めたい。それが、慈愛の教えを説く白の道に適う事だと確信している。真実を知らせるのは、エムロード嬢にとって残酷かも知れない。しかし、道具のまま刑に処すのは、失われた二人の聖職者も望まない筈。白の教えに従う者として、マイエルリンク卿に一掬の慈悲を賜りたく存じ、お願い申し上げる」
「考えておくよ、キスリング卿」
 男爵は鷹揚に頷いた。彼の慈悲は大した効力を持ち合わせていないのだから考えるも何もない。いい加減極まりない男であった。

「私の名前はニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)と言います。宜しくお願いします、マイエルリンク様」
 丁寧な自己紹介。作法が追いつかない分、ニルナはより神経を配る事でカバーしている。大概の場合、努力する姿勢が見えれば好意を持って受け入れられるものだが、今回もそれは正しく報われていた。
「私はシスターを2人殺害したという話は噂程度でしか聞いた事はありませんが、人を殺めたということは許されない事だと思います。しかしです‥‥」
 ニルナはふっと視線を落とし、一旦話を切った。
「彼女は少女ではありませんか、普通ならば女の子同士で遊んだり恋をして手紙を書いたりするような歳です。彼女がシスターを殺さなければならなかった理由がなんであれ、それではあまりにも惨い。私自身、女性ですから彼女には生きて欲しいと思います」
 彼女の言葉は、主に感情から生み出されたものだろう。年頃の妹を持つニルナは、エムロードを重ねているのかもしれなかった。
「つまり、死刑なんて可哀想だって事だね」
 男爵の目が興味深そうに光った。
「では未来を奪われたシスターは? エムロードに大切なお友達を殺された娘は可哀想じゃないとでも?」
 意地悪な質問だ。どちらに非があるのかは判りきっている事なのだから‥‥。
「可哀想さ。当たり前だろう」
 意外な事に回答したのはニルナではなく、先刻から沈黙を貫いていたエイジだった。それが美少女ならもっと可哀想だ、と付け足したのには流石の男爵も苦笑いだったが。
「エムロードを処刑したら、遺族や関係者が幸福になるか? 答えはノンだ」
「少しは気が晴れるかもしれないじゃないか」
「それはな。だが、俺に言わせれば幸福ってのは『心から笑える事』だ。美少女の処刑で幸福になるなんて不健全な世の中、俺は真っ平ごめんだね」
「ほぅ‥‥」
 男爵の目が感心するかのように細くなった。
 妙な説得力があるのは、エイジの基準が極端に明確だからだろう。もっとも、遺族の感情はそんな簡単に割り切れるものでは無い。関わった冒険者たちの大半が感情論を封殺する傾向にあるのもこの点にある。簡単に言うと、感情論では勝ち目がないのだ。

「まず、エムロード本人の意思が見えないのが気になります」
 休憩の為に振舞われた紅茶を飲み干すと、ビアンカ・ゴドー(ea8286)が口を開いた。
「罪を知り贖罪を求めるなら減刑嘆願も意味が出ます。ですが、エムロードが壊れた殺人人形のままなら意味がありません」
 罪を知らずに処刑するのは物を壊すのと一緒で意味が無い、ビアンカはそう主張した。
「贖罪の意思があるなら意味も出るのですが‥‥面会はできないのですか? 殺人と言う罪の深さを知っているのか、確認したいのですが」
「申し訳ないけど、私は部外者だからどうしようもないね」
「それでは、エムロードに人の心を取り戻させると言う依頼を出していただくわけには‥‥?」
「筋違いだ。それこそ私の領分じゃない。どうしてもと言うなら酒場で募った方が早いだろうさ」
 マイエルリンクはにべもなく断った。報酬は寄付しておいてとも言われたが、話の内容に惹かれなかったのか態度が気に喰わなかったのか、報酬を出す事はなかった。

「私は刑罰が執行されない事に反対だ」
 カイエン・カステポー(ea2256)は処刑肯定派だった。しかし、その主張は神聖騎士だと言うのに教義の面からではなく、署名の正当性に関するものだ。処刑を肯定するなら教義に乗っ取るのが一番早く、判りやすいのだから異色とも言える。
「署名に必要な人数は冒険者に限定されている上、パリの人口から見たら僅かな数だ。もしこの署名に正当性を持たせるならば、教会の関係者、さらに市民による署名がもっと必要になるだろう」
「冒険者の署名だけじゃ偏りがあるって言いたい訳だね」
 シスター殺害による教会の判決で死刑となった以上、それを覆すには現在の署名は正当性が薄い。そうカイエンは訴える。
「次に、如何なる宗派であろうと世俗に置ける問題に干渉するは厳禁。腐敗への第一歩は干渉による政治力だ。誰もが聖人に成れぬ以上、これは絶対に避けるべし」
「‥‥それはちょっと、変じゃないかな」
 と、ここでノリア・カサンドラ(ea1558)が異を唱えた。
「教会が教会の判決に条件を付けたんだから、世俗への干渉にはならないと思うけど」
 実際の所、政治を語る上で教会の意向を無視することは難しいのが現実だ。だが、今回に限ってはノリアの言うとおりだろう。
「だが、今後この様な事件があるたびに、署名と見舞金さえあれば、刑罰を軽くすることが出来るという悪例が残るではないか。法とは万人に等しくあり、情による特例は、避けるべきものである。例えそれが美しく慈悲ある行いでも、我は父たるタロンの教えに従い、正しき裁きが下されることを望む」
「悪例‥‥ですか」
 これを受けて発言したのが相馬ちとせ(ea2448)だった。
「甘んじて受けましょう。その通りなのですから。しかし、その刑を減ずる事によって巨悪を潰せるならば、この様な悲劇も無くなりましょう」
「必要悪ってことかい?」
「ええ。嘆願をするのは断じて、かの少女に対する同情などではありません」
 ちとせは志士だ。志士とは民びとに害なす悪を滅し、この世を平らかにする事が務め。腰の刀も、神皇様より賜りし力も、全てその為のもの――そう語る少女の眼に、迷いは無い。
「昨今このノルマン王国の影で暗躍する秘密結社‥‥幼い少女を暗殺者に仕立て上げ、あまつさえ悪魔とさえも通じていると聞き及んでいます。これは紛れも無い悪、誅伐するべき輩どもです」
 義憤。一言で言うならこれに尽きるだろう。
「然るに、この少女からは、彼らにとって少なからぬ打撃を与え得る情報を得られるやもしれぬとの事。彼女を処断する事はこの国に取っての損失には成っても、決して利益には成り得ないのです」
 悔しいが、修行中のちとせに刀で巨悪を滅する力はなかった。だが、これなら戦える。無辜の民を守る為の方便、それが彼女にとっての減刑嘆願なのだ。

「それでは、最後にあたしからお話させていただきます」
 ノリアは今回集まった冒険者の内、唯一の当事者である。教会から減刑嘆願に関わる重要な仕事を与えられた、責任者の一人だ。
「真打ち登場だね。待ってたよ、殴りクレリックさん」
 風聞は耳にしていたのだろう、好意と好奇心が半々と言った表情のマイエルリンク男爵。本人が変わり者のせいか、どうやら風変わりな人間が好みのようだ。
「さて‥‥シルバーホークに関しては皆さんに語っていただきましたから、あたしはタロン派としてお話しますね」
 豊満な肢体を新品の修道服で固め、戦闘準備は完了。後は、拳の代わりに言葉で語るだけである。ノリアは礼を失せぬよう、丁寧に言葉を選んだ。
「まず、死という選択肢は罰たりえないのではないでしょうか。生きて謝罪し続ける事、それこそが何よりの罰であり、彼女の試練として相応しいと考えます」
「セシリアも言っていたね。一生かけて償うべきだ、と」
 そう、死ねばそこで終わりだ。それはただの罰であって、罰以上の何者にもなり得ないだろう。
「ええ。でも、あたしにとって一番大きいのは‥‥彼女が生きようと助けを求めている事です。試練を越える者への助力は父の教えですから。そして‥そして何より‥‥」
 ふと、ノリアの言葉が途切れた。
「何より?」
 促される。
「‥‥あたしは」
 言葉が上手く纏まらない。
 無秩序に溢れそうになる感情をなんとか制御して、ノリアは言の葉を紡いだ。
「あたしは、あの娘を、助けてあげたいんです。どうしても、どうしても‥‥」
「‥‥結局はそこに落ち着くんだ」
 マイエルリンクは一瞬、瞳を意地悪な色に染めて。
「今日はどうも有り難う。面白かったよ、とてもね」
 微笑を浮かべると、散会を告げたのだった。


 この後、冒険者の一部は寄付金を握り締めて酒場に赴き、それぞれの目的を達したようだ。
 エイジなどは荷物を持ち込み、足りない分を売り捌いて足しにしてくれと受付係のシスターに頼んで嫌な顔をされたらしい。
 ノリアはこの後、遺族の家に赴いて謝罪や状況説明を行うとの事だ。
 そして、彼女たちの努力がどう結実するか‥‥それはまだ、誰にも判らない。