れっつごー、ぴくにっく!

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月08日〜06月11日

リプレイ公開日:2005年06月16日

●オープニング

 海戦祭も終わり、喧騒を極めたドレスタットも祭りの後の寂寥感が僅かに漂っている。
 そんな街の片隅にある黒の教会。
 此方は訪れる人も少なく常に寂しい事この上ないが、そんな中にあっても子供たちは元気一杯だった。
「ねぇねぇ、またエイリークさまごっこやろう?」
『わーい!』
 中庭に集まった子供たちはおおはしゃぎ。赤毛の領主が最近のブームらしい。流石は希代の英雄、人々の憧れの的である。
「あなた、またうわきしたのですねっ!」
「あーいや、コレはしごとの付き合いでだなぁ」
「ふふっ、こむすめよりもシ・ゴ・トよね☆」
「お、おいシールケルたすけてくれっ」
「いやだね、オマエにかかわるとロクなことがないっ」
 ‥‥なにやら微笑ましいが、かなり間違ったブームのようである。ある意味で間違ってないのかもしれないが(以下自主規制)。
「ふぅ‥‥」
 日課の傍ら、そんな子供たちを眺め、アリアは小さく溜息を付いた。
「表情が冴えませんね、アリア?」
「あ‥‥」
 後ろからかけられた声に少女が振り向くと、そこには馴染みの笑顔――この教会を預かる初老のクレリック、マリユスだ。
「‥‥ううん、何でもないの‥‥」
 少女は視線を切り、子供たちに戻す。
「ふむ」
 顎に手をやり僅かに思案すると、マリユスは少女に一つの提案をした。
「そう言えば、ここ暫く皆でお出かけしてませんでしたねぇ‥‥」
「‥‥お出かけ?」
「ええ」
 もう一度振り向き小首を傾げる少女に、男はもっともらしく頷いた。
「知っての通り、あの子達は身寄りのない子供。常に世話出来ればいいのですが、悲しいかな我が教会は金も人も不足気味。というわけで偶に皆で遠出して、楽しい一日を過ごすことにしていたのですよ。ここ暫く何かと忙しくて棚上げになっていたのですが‥‥」
 いい機会ですから再開しましょう、と男は語った。どこか見晴らしのいいところまで出向いて、皆で楽しくピクニックでも。
「‥‥はい」
 少女は小さく頷いた。青空の下で楽しく過ごせば、気分も晴れるというものだ。
「そうだ、ついでに冒険者の皆さんもお誘いしましょうか」
 名案を思いついた、とでも言うように男が手をポムリと打った。
「彼らも偶にはゆっくり羽を伸ばしたいでしょうし、気が向いたら子供たちの面倒を見てくれるかもしれません。ひょっとしたら寄進をたんまり、いやいやそれどころか寄進の上に入信してウチの信者を倍増させて‥‥おお、何と言うめぐり合わせでしょうか。大いなる父よ、感謝します」
 あっけに取られる少女を置き去りにしてマリユスは一人勝手な事を決め付け、善は急げとばかりに冒険者ギルドへと向かったのであった。

●今回の参加者

 ea5947 ニュイ・ブランシュ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7976 ピリル・メリクール(27歳・♀・バード・人間・フランク王国)
 ea8167 多嘉村 華宵(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9459 伊勢 八郎貞義(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0159 チェリー・インスパイア(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2365 ロトス・ジェフティメス(29歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●サポート参加者

ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)/ 龍宮殿 真那(ea8106)/ シアン・ブランシュ(ea8388

●リプレイ本文

●じゅんびOK?
 いつもは寂れた教会が、珍しく賑やかである。
「欲しい物はコレに書いてあるから。よろしゅう頼むで〜」
「任せて」
 買出し組の神木秋緒(ea9150)に羊皮紙のメモ書きと金貨を渡し、クレー・ブラト(ea6282)が手を振った。
「行こう、マルコ号っ」
 愛馬を軽く撫で、ピリル・メリクール(ea7976)は号令を一つ、仲間と商店街へ繰り出した。
「姉ちゃん、買出し行くんなら俺のおやつもヨロシク」
 見た目に反して食い気丸出しのニュイ・ブランシュ(ea5947)が姉のシアンに声をかけた。
 買出し予算は伊勢八郎貞義(ea9459)の提供した分も含めて8Gもある。これだけあれば、大概の物は揃うだろう。食事の予定はバーベキューだから相応の大きさの鉄板が必要だったりもするが、余裕で用意できそうである。

 その一方、教会の厨房では。
「う〜ん‥‥むずかしいです〜」
 ロトス・ジェフティメス(eb2365)が一人、途方にくれていた。お弁当を作ろうと思っていたのだが、慣れない作業のせいか難航しているらしい。
「どないしたん?」
「‥‥私、手伝うね」
 と、そこに通りがかったのは酒場帰りのクレーと教会の少女、アリアだ。クレーは空き時間を使って寄付をしてきたらしい。
「た‥たすかるですよ♪」
 クレーとアリアの二人も料理自慢という訳では無いが、三人寄ればなんとやら。心強い(?)味方を得たロトスであった。

●れっつごー、ぴくにっく!
 お弁当や市場で買い込んだ食材や道具などを各自の愛馬に積み込んで、出発した黒の教会御一行。見上げれば何処までも広がる青い空。好天に恵まれ、幸先いいスタートである。
「はーい、皆さん此方ですよ〜♪」
 陽光に映える青も鮮やかな魚の旗をパタパタ、一行の先頭を歩くは多嘉村華宵(ea8167)だ。
(「思わぬところで役立ちましたね‥‥」)
 この旗、実は先日行われた海戦祭での活躍の証である。とは言え飾る以外に使い道もなく、邪魔だから捨てようか等と思っていたら、今回の出番と相成ったらしい。
「そうだ、いい物あるですよ‥‥じゃっじゃーん!」
 歩きながら荷物をがさごそ、ロトスが取り出したものは‥‥ひと房の赤髪とヘアバンド。子供たちの玩具にと用意してきたようだ。
「あ、そう言えば俺も持ってたなぁ‥‥やるよ、どうせ俺にはいらんもんだし」
 それを見たニュイが赤髪と七色のリボンを取り出し、ロトスと二人で子供たちに手渡すと、受け取った少年が一言。
「あ、これ『ふくぶくろ』のハズレでしょ?」
「それは言わぬが華、ですなぁ」
「‥‥何処からそんな噂聞いてくるのかしら?」
 これには貞義と秋緒も苦笑い。実際の所ハズレかどうか定かでは無いが、そういう言葉が出てくるとは思わなかったらしい。
 と。
 ――にゃあ。
 何処からか聞こえる、仔猫の鳴き声。見やれば、チェリー・インスパイア(eb0159)の荷物から、ちょこんと顔を出す仔猫が一匹。どうやら少女がペットを連れてきたらしい。
『わぁ、かわいい!』
 それを見た子供たちが一気に群がる。
「セレッソちゃんというですよ☆」
 やや誇らしげに胸を張ると、少女は仔猫を紹介した。
「今日はみんなで一緒に楽しく遊ぶですよ〜☆」
『わぁい!』
 仔猫を前に、子供たちはおおはしゃぎ。妙にすれてる所もあるが、この辺は全く子供らしいところである。
「ほらほら、子猫と遊ぶのは海についてからにしなさい?」
 引率者よろしく、秋緒が子供たちを嗜める。先程から子供達がはぐれないように目を配り、アリアの耳は見えていないかと髪飾りに気を配り、で甲斐甲斐しい事この上ない。もっとも、子供達がはぐれなかったのはニュイが『自分勝手に動いたらファイヤーボムだぞ』と淡々と告げたのも効いているのかもしれない。
 そのニュイはと言えば、道端の雑草を適当に齧ったりして文字通りの『道草』真っ最中。
「これ、食べれるですか?」
「‥‥それはダメ。腹壊すぞ」
 真似をして雑草を引っこ抜いてきたチェリーに少年が答える。適当に選んでいるようでいて、その実ちゃんと食べられる物を選んでいるらしい。
「ほえ〜、お勉強になるですね☆」
 とは言うものの、ドレもコレも同じような草に見えるチェリーだったりする。雑草も奥が深い。

●すなはまにて
 楽しくやっている内に、一行は何時の間にか海岸に到着。楽しい時間は速く過ぎるものだと言ったのはどこの誰だったか。
「わぁ〜、すごいです☆」
 チェリーが駆け出し、感嘆の声を上げた。
 耳を打つ潮騒、澄み渡る空。砂浜の黄色、波打ち際の白。そして、水平線まで広がる海の蒼‥‥。机上の勉強だけでは掴めないものが、此処にはあるのだ。
「さて。これから自分らは食事の準備やね」
 荷物を降ろし、自前のエプロンを身に付けたのはクレーだ。
 青年はニュイと共に適当な石を組み上げて鉄板を乗せ、即席の調理場をこしらえる。手際こそいいとは言えないが、この分なら程なくして出来上がるだろう。後は火をくべて食材を焼くだけである。
「用心に越した事はありませんからな」
 その一方で、貞義は砂浜の掃除に余念がない。怪我をしがたい場所とは言え、割れた貝殻などはやはり怪我の元になる。目立つ物を取り除きつつ、ついでとばかりに男はあちこちにゲームの仕込みをしていった。

「塩辛くて大きくてザブザブですー」
 波打ち際、海の中に網を投げ込んだロトスが子供たちと一緒にはしゃいでいる。彼女曰く、漁師ごっこだそうだ。
「生き物がこんな水の中にいるなんてきっきょーなのです」
 海にあまり馴染みがないのだろうか。投げ網に引っかかった小魚を見て、ひとしきり驚くロトスである。
「お姉ちゃん、みてー」
 子供たちが持ってきた貝を見て、少女は更に喜んだ。
「わお、おかずが増えたですね♪」
 自力ゲットのご飯は美味しいです。そう言って笑むロトスであった。

「みぎ、みぎだよ!」
「あ、そこ!」
『ナニモノダーーッ!』
 謎の掛け声と共に杖が振り下ろされ、ばふっと砂が飛び散った。
「うーん、惜しかったわね」
 秋緒は子供の目隠しを取ってやり、頭を撫でる。
 これは支度が出来るまでの間の余興にと彼女が考案した(?)遊戯、その名も『誰何割り』である(何ソレ)。目隠しをしてその場でグルグル回り、カブを割れれば成功、というルールらしい。勿論、割れたカブは洗って食材の仲間入りである。
「いけーっ!」
 ――ぱかーん。
『やったぁ!』
 子供たちの歓声がこだまする。目を細めて成功者の少年を褒めると、ご褒美をあげる秋緒であった。

「こういう景色を眺めていると、少しだけ故郷を思い出します‥‥」
 ふと、何処か遠い目で華宵が呟いた。この男にしては珍しい表情だが、懐古に浸るとはもっと珍しい。
「故郷、ですか‥‥」
 何か思うところがあったのか、隣に座った黒の司祭が言葉を合わせる。
「‥‥厄介払い同然で異国に出されてますけど。私、ジャパン人ぽくない外見ですし父に似てませんから」
「判りますねぇ。往々にして人と違うという事は、それだけで疎んじられるものです」
 視線を景色に向けたまま、司祭は頷いた。
「‥‥ま、そういう事です」
 今度の微笑は何時もどおりに決まった。少なくとも青年はそう思ったし、司祭も深く突っ込んでは来なかった。
「そうだアリアさん、コレ差し上げます」
 想念を振り払うように話題を切り替えると、青年は懐から指輪を取り出して少女の手に握らせた。
「‥‥指輪?」
 少女が小首を傾げる。食事の支度をさり気なく辞退して隣で子供たちを監視していた秋緒が、僅かに訝しげな視線を向けた。
「私は指輪に馴染みないですし、貴女の人生の航海が無事であるよう‥‥気休め程度にはなるでしょ」
「あぁ、そういう事」
 ポンと手を打って秋緒は一人納得。指輪を意味深に捉えていたらしい。
「色々有ると思う。でも、これだけは忘れないでね。貴方は一人では無いって事を」
「ありがとう‥‥」
 少女は淡く笑んだ。

 ややあって。
「万年欠食児童に食べつくされないうちに、皆食べなさい! 食事もバトルです!」
 鉄板から食欲をそそる音と香りがたなびく。加えて青年の煽りが拍車をかけた。
 その万年欠食児童といえば‥‥。
「‥‥‥‥」
 火力の調整と食事に忙殺されててんてこ舞いだったり。ある程度経ったら呪文のかけなおしになるから、精神的にも肉体的にもクタクタである。それでも手が止まらないのは流石15歳、育ち盛りと言ったところか。見た目はそうでもないのだが。
「慌てんでも、まだまだ一杯あるからな〜」
 次から次へと姿を消していく食材を追加する手も忙しく、クレーが皆に声をかける。
「あ、これ美味しいです〜☆」
 鉄板の上で温め直したロトスたち三人の競作を口に運び、チェリーは御機嫌である。
「良かったです♪」
 ほっと胸をなでおろす少女。早朝の努力は正しく報われたといっていいだろう。もっとも、味の半分以上は雰囲気による所も大きい。大勢で食べる食事は、それだけで美味しいものだ。
「野菜もちゃんと食べんとあかんで?」
 クレーが手早く野菜を刻む。サラダを作るつもりのようだ。
「これは具沢山で結構ですなぁ」
 舌鼓を打つ貞義も上機嫌であった。

●みんなであそぼう
「さて、お子達。ちと良いですかな?」
 クレーの淹れたお茶を飲んで一息吐くと、貞義が大仰な身振りで説明を始めた。
「実は先程、この砂浜の方々にこのような旗を隠しておきました。これを探し出し、我輩の元に持ってきたら問題を出します。見事答えられたらご褒美を進呈しますぞ!」
 数字が書かれた羊皮紙と木の棒で出来た小さな旗を男が見せると、子供たちは大いに興味をそそられたのか、元気に返事をして駆け出した。持ってきた旗の文字や絵が判ればご褒美進呈という寸法だ。楽しみながら学習できる、如何にも貞義らしい試みといえた。

「占いはどうですかー?」
 タロットカード片手、ロトスが少女に声をかけた。
「‥‥占い?」
 興味深げに赤毛の少女が近寄る。
「では、早速いくですよ♪」
 不慣れな手つきでカードをシャッフルすると、数枚を砂の上に伏せ、その中から一枚を選び出して表に返す。
「‥‥運命の輪、ですね」
「?」
「なにが起こるかわからない、って事だと思うです」
 タロット。一説によれば、それは車輪を意味するという。流転する表裏一体の輪、それは運命そのものであると言えなくもない。
「結局の所、リングを廻すのは本人次第だと思うです」
「‥‥つまり、頑張れってこと?」
「そうなるですね‥‥余計なことだったらゴメンナサイです」
 判らない事の方が多いと頭を下げるロトスに少女は、
「ううん‥‥ありがとうね」
 と微笑んで礼を述べたのだった。

「このはたは‥‥うみ!」
「正解ですぞ!」
 旗の文字を読み上げた子供の頭を撫でてやると、貞義はご褒美にお菓子を一枚、子供に渡してやった。これはクレーが食事終了後に焼いたものだ。調理器具はありあわせだったが、なかなかどうして上手く行ったらしい。
「これは‥‥タコさん?」
「お見事ぉ!」
 貞義の反応もだんだん大仰になってきた。元々、何かと芝居がかかった台詞を好む節があるとは言え、相当ノって来たようだ。
「7ですよ〜☆」
 あ、チェリーも参加してる。何気に違和感がないのは何故だ。
「ほぅ、7番ですな‥‥では問題。高度に極めたオーラリカバーはどんな傷でも再生できるでしょうか?」
「‥‥にゃー!!」
 突然の質問にチェリー、パニック。不意討ちもいいところである。
「‥‥時間切れですな。答えはノン、実は失われた身体は戻らないのですなぁ」
「な、なんで私の時だけそんな難しいですかー!!」
 ぷんぷん怒るチェリー。まぁ仕方ない。冒険者に幼児向け問題はねぇ。
「騎士、でいいか?」
 面倒だと言いつつ参加していたニュイも到着。
「ハイ、正解ー! ご褒美差し上げますぞ!」
「‥‥俺は子供と同レベルか!?」
 コッチもコッチで不満げだったり。そりゃそうだ。
「いやぁ、はっはっは」
 悪戯っぽく笑う貞義につられて、一同から笑いが巻き起こった。

●ちかいのぎしき
 ミニ海戦祭で賑わう一同から少し離れて。
「あのね‥‥紹介したい人がいるの」
 赤毛の少女とその保護者を呼び出したピリルは、やや緊張した面持ちで傍らの青年に寄り添った。
「クレーさんって言ってね。彼氏さんなんだ♪」
「あ、どうも‥‥なんや、照れるナぐっ」
(「もう少しシャキッとっ」)
 友人のコーディネートもぎこちなく身を堅くする青年に、さり気なくピリルの肘が刺さった。
 ‥‥早くも尻に敷かれてるような気がしなくもないがその辺は本人の名誉の為にツッコミません、ええ。
「最初にアリアちゃんと逢った時ね。その後やっぱり私もちょっと不安定になっちゃって」
 懐かしむように少女が語る。
「‥‥でもその時クレーはちゃんと私を見てくれた。手を離さずにいてくれた。私のことを全部解った上で、一緒にいたいって言ってくれたの‥‥」
「‥‥そうなんだ‥‥よかったね、おめでとう」
「アリアちゃんと出会えなければこんな形にはなれかったと思う。だからね、ありがとう‥‥」
 うっすらと涙ぐんだピリルが赤毛の少女を抱き寄せた。
「本当にありがとうね♪」
「‥‥うん」
 少女は頷くと、穏やかに微笑んだ。

 夕日が世界を黄昏色に染める中、恋人たちが指輪を交換する。
 恋人の片割れは白の神聖騎士、立会人は黒の司祭とハーフエルフの少女。ある意味で奇妙な組み合わせと言えなくもなかったが、この場でそれを気にするものは一人もいなかった。様々な理由から、二人が本番に立ち会えない可能性は高いのだ。
「‥‥おめでとう、二人とも‥‥」
「末永くお幸せになさい」
 男女の祝福の声がかけられる中、恋人たちは口づけを交し合い‥‥。
 練習という名目のささやかな式は終わりを告げたのだった。


 この後、秋緒の勧めでアリアが華宵から貰った指輪を海に投げ込んだり、のんびり釣りを楽しんでいた貞義が指輪を釣り上げてもう一度海に投げ込んだり、ロトスがチェリーの仔猫を占ったら恋人が出て驚いたり、実は一部始終を一同に見られていたピリルとクレーが道中冷やかされまくったり等と色々あったようだが、黒の教会御一行は終始賑やかなまま帰途に着いたようだ。
 よほど疲れたのだろう、教会につくなり一同が揃ってバタバタ眠ったのもいい思い出である。
 そんな中、マリユス司祭だけは贈呈された魚の旗を中庭に飾り付けてご満悦だったとか。余った予算が貞義の提案で教会に寄付されたのも上機嫌の一因だろう。
 こうしてピクニックはつつがなく幕を閉じたのであった。