Night of Robbery
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■ショートシナリオ
担当:勝元
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月11日〜10月16日
リプレイ公開日:2004年10月18日
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●オープニング
街の灯は消え、月の明かりだけが路地を照らしている。再び満ちるべく容を取り戻しつつあるとは言え、その光はか細く、心許ない。日中は買い物客で賑わう商店街が静まり返っている様は、首都のただなかではあっても自然と恐怖心が湧き上がる。
すっかり遅くなってしまった。収穫祭の出し物の打ち合わせのつもりが、四方山話で盛り上がり、こんな時間だ。泊まっていかないかとも言われたが、新婚家庭に一晩お邪魔するのは肩身が狭い。明日の棚卸があるから、と丁重に断り、帰宅することにした。
「‥‥待ちな、オッサン」
静寂を破り裂いたのは、男の声。振り返って見れば、黒い覆面で顔を隠し、同じく黒いマントに身を包んだ青年が、少し離れた物陰に立っていた。覆面の隙間から覗く、軽薄な色を浮かべた瞳。この時間にこの風体、真っ当な用件ではないに決まっている。男は警戒しつつ、いつでも逃げ出せるように身構え言葉を返した。
「‥‥私に、何か?」
と。
青年のマントの裾から何かが見えた。か細い月明かりに鈍く光るそれは、剣。一般にノーマルソードと言われるものだろう。
「‥‥あぁ、コレか?」
青年は瞳に意地の悪い色を浮かべ、マントの内に隠していた剣をチラリと見せる。
「まぁ、俺としては無理に使いたかねぇんだがな‥‥事と次第によっちゃ、コイツを使った後で用件を済ませても構わねぇ。金か、命か‥‥選びな、五つ数えるまで待ってやる」
冗談じゃない。男は一目散に逃げ出そうと踵を返し‥‥もはや手遅れである事を悟った。黒づくめに気を取られていた一瞬の内に、退路を立たれていたのだ。真後ろは両手にダガーを持った少年と、二本の矢をショートボウを構えた少年。更に左右の路地に1人づつ、この二人はショートソードをその手に携えている。
「‥‥時間だ、決まったか?」
黒づくめの青年が、ゆっくりと近付いてきた。マントの中から、カチャリ、という音が聞こえる。男の選択肢はもう、一つしか残っていなかった。
雑多な顔ぶれで賑わう、冒険者ギルド。カウンターにいる受付の青年が、貴方に話しかける。
「やあ、こんにちは。依頼を探してるのかい? そうだね‥‥ああ、これなんかどうかな。少し難しいかもしれないけれど」
手元の登録用紙をめくりながら話す青年。
「パリの南部に大きな商店街がある知ってるよね? そこで最近、5人組の強盗が出没してるらしいんだ。主に、人通りの少ない夜中を狙って現れるみたいだね。今の所、被害者に死人はいないみたいだけど‥‥このままでは、時間の問題だろうね。そこで、これ以上の被害が出る前になんとかして欲しい‥‥というのが内容。もちろん街の警邏にも話はいってるだろうけど、依頼主は商人ギルドだから、報酬は多めだよ」
貴方はうなずき、そして軽く首をかしげた。強盗ごときが相手なら、それほど難しいとは思えないが‥‥
「あぁ、言い忘れてた。今回の依頼はね、いくつか条件があるんだよ。まず大前提として、派手な大立ち回りは控えて欲しいんだ。これが無人の荒野なら、どんなに暴れても文句は言わないんだけどね」
成る程。確かに、強盗の被害を無くす為に自分が商店街に被害を与えては本末転倒だ。慎重に事を運ぶ必要があるな‥‥と思考を廻らせた矢先、青年が、まだあるんだと苦笑を浮かべる。
「――極力、殺さないで捕らえてほしいんだって。秋になって、そろそろ収穫祭を控えてるだろう? 祭りの前に、出来るだけ人死には出したくないんだそうだよ。勿論、貴方たちだって命がけで戦うんだから、絶対とは言わないそうだけど‥‥商人ギルドとしても、出来るだけ被害額は取り返したいと思ってるんだろうね。奴らを改心させてくれるのが最上だってさ」
強盗を改心とは、また面倒な‥‥
「まあ、こっちは無理にとは言わないそうだから。改心した所で、強制労働くらいの罰は受けてもらう必要があるし‥‥ともあれ、お仲間と相談してみたらどうだい? 時間は有限だし、妙案が浮かぶ可能性もゼロとは言えないしね」
そう言うと、青年は片目を瞑って微笑を浮かべた。
●リプレイ本文
人通りの絶えた、深夜の町並み。日中は賑やかなパリの商店街も、月が中天で輝き、酒場も看板とあれば人の気配は消える。夜は眠りの時間、明日への活力を蓄える安息の時なのだ。
そんな商店街の路地を、1人の女が歩いている。大柄で健康的な肢体をサイズの合わない法衣に包み、はちきれそうな――実際に法衣もはちきれそうだが――色香を振りまいているその様は、月明かりによって怪しい魅力に転化している。育ちの良さそうな整った顔立ちも、今は扇情的なスパイスだ。
「もう‥‥せ、先輩方ったら『ジャイアントだから一樽くらい持ってこれるでしょ』とか厳しいんだから‥‥」
愚痴をこぼしてアイリス・ビントゥ(ea7378)は、あくび交じりの溜息を一つ。手に持った財布から小銭の音を鳴らして少し歩くと、女は地面に指でGの字を描き嘆きだした。
「ジャイアント差別ですわ‥‥」
ややあって。
「姉ちゃん、どうしたんだい‥‥?」
顔を上げると、何時の間にか背後に黒い覆面の男が立っていた。気配を殺して忍び歩きで来たのだろう、アイリスは全く気付かなかった。男は馴れ馴れしく女の肩を抱くと、耳元で囁く。
「寂しいなら、慰めてやるぜ。一晩中‥‥な」
「な、な‥‥っ!」
驚きのあまり、口から心臓が飛び出そうになる。肩の手を慌てて振り払おうとするが、逆に手首を男に掴まれ、後ろ手に極められ自由を奪われた。
「そんな格好で、違うとは言わせねえぜ。誘ってたんだろう?」
「ち、違い‥ますわ! わ、私は‥‥」
「へ‥‥どうだか。まあいいさ、これから俺たちがゆっくり確認してやるぜ」
気付いた時には、更に4人の少年達が女を取り囲んでいた。急いで合図を送らなければ。だが、焦りの上にあまり言葉が上手くないのも手伝い、咄嗟に言葉が出てこない。無理もない。人見知りする上に冒険者としては経験も浅いのだから。酸欠の鮒のように口を開閉する女を見て、男達は下卑た笑みを浮かべた。
少し離れた物陰に身を隠して、総髪の男が様子を伺っている。ジャパンから来た浪人、月村匠(ea6960)である。
「最近のガキは物騒なもんだ‥‥いっその事、始末するのも世の為人の為だが」
あまり悠長なことも言っていられない。既に女は少年達に取り囲まれている。囮に向けられる殺気を感じ取ろうと思っていたが、対峙していない相手の気を取る事は出来なかった。
1人で飛び出しては、かえって状況の悪化を招きかねない。足並みを揃えて一気に叩かねば。焦れる気持ちを押さえつけ、男はいつでも飛び出せるように体勢を整えた。
「お、お‥‥」
女が精一杯の気力を振り絞って、合図を出そうとする。
「おっと、声を出されても面倒だ‥‥テメエら、この姉ちゃん連れてきな」
覆面の男は女を突き飛ばすと、少年達に指示を出した。
ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)がその路地に辿り着いた時、既に女は取り囲まれていた。残念ながら、彼は忍び歩きが不得手。気付かれずに賊を包囲するには、裏路地を大回りする他なかったのだ。靴底に獣皮を張ろうと言う提案もあったが、実用的な工作を出来る者が誰もいなかった。
「アイリスさん、大丈夫かな‥‥」
戦いの緊迫感は望む所。だが今回は、囮が包囲されている状況だ。下手な行動は命取りになりかねない。匠と同様、ジェンナーロも合図を待つしかなかった。
アイリスが突き飛ばされたのは、その時だ。
「お、お金も命も差し上げませんわ! も、もちろん操もですわ!!」
突き飛ばされたのを契機に、女が声の限りに叫んだ。
「チッ‥‥とっとと行くぞ、テメエら!」
舌打ちして、覆面の男が指示を出す。煩い女は黙らせて、後でタップリ可愛がってやればいい‥‥そう思ったのも束の間。複数の足音を聞きとがめ、男は振り返る。
「そこまでだ!」
潜伏していた物陰から飛び出し、駆けつけたエグゼ・クエーサー(ea7191)が男に向けて剣をぴたりと突き出し、声も高らかに言い放つ。
「この、不詳の双腕料理人ことエグゼ・クエーサー。街の食卓と全国の弟妹の為、今! 見参!!」
なにやら間違った方向に進んでいるような気がしないでもないが、やる気十分のエグゼである。
「おいおい、気合入ってるねえ」
同時に現れ、軽く苦笑いしたのはフォン・クレイドル(ea0504)。右拳のナックルを胸の前で構え、こちらも臨戦態勢だ。
「あっちの兄さんも気合入ってるが、あたいも負けてないぜ。覚悟しろよ‥‥?」
「おお、ついに俺を兄と呼んでくれたか!」
「その兄さんじゃないっ」
念願かなって感激するエグゼに、心の底から突っ込むフォンだ。
「へっ、テメエら如き物の数じゃ‥‥」
「それは如何かな」
「人のものを奪おうって奴らだ、根性叩きなおしてやる」
僅かに間をおいて駆けつけた匠が、腰を落として刀に手をやり抜刀の構え。更に別の路地から姿を現したジェンナーロが、男達の退路を塞ぐように動く。
「残念じゃったな。御用じゃ」
老魔術師の持つランタンの光が、淡く男達を照らす。碧眼を手元の炎でオレンジに染め、放つ言葉は氷の刃。エグゼの後ろから現れたその男は、セイリオス・アイスバーグ(ea5776)だ。
「強盗などと馬鹿な真似を‥‥おぬしらの性根、儂が叩き直してくれるわい」
「ちっ、パリの冒険者どもかっ‥‥テメエら、その女逃がすんじゃねえぞ。大事な人質だからなぁ」
「へいっ」
アイリスの背後から、少年の1人が首筋にダガーを当てる。
「おっと、下手な真似すんじゃねえぞ? この姉ちゃんの運命はオメエら次第だ。3つ数えてやる、道を空けな」
覆面の男はほくそえむと、ゆっくりと数を数えだした。
「3‥」
ギリッ。エグゼが臍を噛む。セイリオスは動かず、何かブツブツと呟いている。
「2‥」
匠が無念そうに数歩下がった。
「1‥」
覆面の男が先頭に立ち、歩き出した。少年達が女を立たせ、強引に連れて行こうとする。
「0‥‥!!」
その瞬間、電光が空を切り裂いて大地へ突き刺さった! 巻き込まれた少年の1人が、苦悶の声を上げる。突然の奇襲にうろたえた隙を突いて、アイリスは背後に肘打ちを見舞うと、少年達を振り払って仲間たちの下へ駆け出した。
「冷たい棺で大人しく眠れ」
やや遅れて、女の後を追おうとした少年が氷の棺に閉じ込められた。セイリオスのアイスコフィンである。逆転の機会を伺って、呪文を詠唱していたのだ。
電光を放ったのはリサー・ムードルイ(ea3381)。呪文を有効に使う為、宿屋の2階を押さえようと思っていたのだが、宿屋から魔法を使うのはいかにも拙い。賊が反撃の為に宿屋に乱入する事もあり得るからだ。そこで仲間の手を借り、適当な大きさの木に登ったのだ。視界は狭まるが、一連のやり取りが確認できたのは僥倖だった。尤も、呪文を唱えるのも一苦労で、動く事も儘ならないが。
「こ、恐くなんかないのじゃ!」
下見ちゃダメだよ、お嬢さん。
「今度はおいら達の番だぜっ」
一転して浮き足立った賊に、冒険者達が攻勢をかける。賊は最初から数的不利であり、人質を失った上に包囲され奇襲をかけられては如何にもならない。まずジェンナーロのスタンアタックで1人が沈んだ。次にフォンに捕まった少年がホールドで気持ち良さそうにギブアップ。アイリスが対した少年も、手数で押された上に時折入る稲妻に退路を立たれ、逃げる事すら出来ない。
「戦いとは始まった時には既に決しておるものじゃ」
稲妻で的確に援護しつつ、リサーは余裕の笑みである。
覆面の男には匠とエグゼが対峙していた。匠と男はほぼ同程度の腕。だが、そこにエグゼが加わっては分が悪い。浅く打ち込んでくるエグゼの剣は何とか捌くも、匠のブラインドアタックまでは対応できず、たちまち手傷を負う。
「お前には俺の技を見切ることは出来ねえよ」
「ちぃっ!」
それでも男は何とか体勢を整えると、マントの影から剣を繰り出し、踵を返して逃走しようとした。
だが。
その行く手を遮るように、銀髪の騎士が現れる。レオニール・グリューネバーグ(ea7211)だ。リーダーの逃走を阻止すべく、1人離れた場所に潜伏。そして今、退路を完璧に断ったのだ。手に持つ毛布を捨てると、そこから現れたのは、剣。潜伏を完璧にすべく、極限まで気を配った結果である。
「どけっ!!」
必死の形相で剣を振り上げ、男が迫る。レオニールもまた、剣を構え――
――ギィン!
次の瞬間、男の剣が弾かれ、宙を舞った。
そのままピタリと首筋に剣を突きつけるレオニール。月光に碧眼が冷たく光る。
「‥‥残念だが、自分はこれ以上手加減できない。それでも、やるか?」
直後に匠とエグゼが追いつき、完全包囲。男に為す術はなかった。
「さて。キミ達を警邏に突き出す前に、聞いておきたい。どうしてこんな馬鹿な真似を始めたんだ?」
捕縛され、縛り上げられた賊にエグゼが尋ねる。
「テメエらと一緒だ」
「一緒‥‥?」
男の答えに、怪訝な顔のエグゼ。
「面白れえからに決まってんだろ。獲物を狩る時の快感は堪らねえ。テメエが俺たちを狩った時、同じ顔してたぜ?」
「なっ‥‥俺たちは違う!」
「へっ、どうだか」
「エグゼさん、代わるよ」
ふてぶてしい男の答えに激昂しかけたエグゼに代わり、ジェンナーロが拙い言葉ながらも、その分気持ちを込めて説得を始める。
「おいら‥ローマに両親、置いてきた。でも、忘れた事ない。親不孝は最大の罪だから。君たちにもいるだろ? 親って、いつでも子供を心配してる」
「はっ。俺たちは生まれた時から天涯孤独だ。親の顔なんか見た事もねえ奴ばかりよ。大方、俺たちを口減らしに捨てたんだろうぜ。くだらねえ」
「一つだけ言わせて貰えばの」
セイリオスが語りかける。
「強盗なんぞ弱虫のやる事じゃ。自分より弱い相手を狙っとるだけじゃろう? 腕っ節に多少なりとも自信があるなら、冒険者をやってみい。ま、その根性、おぬしらにはなかろうがの」
「なにぃ‥‥」
「悪ガキども、次はねえぞ」
匠が睨みを利かせる。
「死にたければ、またやれ。次はその首、叩き落す」
「‥‥‥‥」
匠の不慣れなゲルマン語が、逆に少年達を震えさせた。
結局、少年達をはっきりと改心させることは出来なかった。それには言葉も、手段も足りていなかった。もう少し別の手があったかもしれないが‥‥最早どうにもならない事だ。
賊を警邏に引き渡し、冒険者たちの任務は終わった。
●帰り道にて
「さ、戻って軽く食事でもしよう。兄の暖かい手料理はどうだ?」
「兄かどうかはさておいて、飯は悪くねえな」
「ご、ごめんなさい! 法衣破っちゃいました‥‥」
「‥‥まあ、サイズが合わないのは承知じゃったし」
「だ、だって、胸とかお尻とかきついんですもの」
ぴき。
「‥‥あ、あのその、ウェストだってきつかったですよ」
ぴきぴき。
「ほほぅ‥‥では、儂がおぬしのダイエットに協力してやろう」
「け、けっこうですぅ〜」
キレたリサーが詠唱開始。アイリス、ダッシュで逃走。
「遠慮するな‥‥喰らえっ」
この後、稲妻ダイエットの効果があったかどうかは、本人に聞いてみて欲しい。