【しろのさそい】禿の軍団

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月10日〜12月15日

リプレイ公開日:2005年12月18日

●オープニング

 冬を迎えたミッデルビュルフに、一陣の風が吹きすさぶ。
 陽の射す日中はともあれ、夜ともなればその冷気はまるで刃のように、往来するものを容赦なく切り苛んでいく。
「うー、さぶ‥‥」
 フランク・スナイデル(24)は防寒着の襟元をぐっと引き締め、凍えて震える身体に喝を入れつつ、夜道を急いでいた。
 酒場でちょっと盛り上がっただけのつもりが、予想外に遅くなってしまった。まあいい、明日は休むと親方に連絡を入れて‥‥。
「――ふはーっはっはっは!」
 突如、背後から響く、野太い声の怪しい高笑い。
 まだ酔いが残っているせいか、何の気なしに振り向いてしまったのがいけなかった。目もくれずに全開で逃走を決め込んでいれば運命は彼に微笑んでいたかもしれない。
「‥‥なっ!?」
 振り向いたフランクの背後に立ち尽くしていたのは‥‥仁王立ちの男達。
 いや、それだけならまだいいが、揃いも揃って頭部は見事なまでのスキンヘッド。しかも、このクソ寒いというのに下半身フンドーシ一丁という全裸同然のいでたちで、頭同様に月光をてかてかと照り返すそのマッシブボディはこれでもかというくらい盛り上がってる。盛り上がりまくってる。色々と。
「ウゥゥゥゥエルカムゥ・マァァァイッ・ワールドォッ!!」
 先頭で腕組みををしているカイゼル髭の男が雄叫び一発、嫌ぁになるくらい白い歯を見せて笑った。
「‥‥は、はは‥‥」
 フランクは引きつった笑いを浮かべると、じり、と後ずさり。ようこそとか言われても願い下げだ。何故かは判らないけれども力いっぱい願い下げだ。
「‥‥じゃ、そゆことで!」
 なにがそゆことなのかは知らないが、ちゃっと手を上げてフランクは転進、わき目も振らずに逃走開始。嫌な予感がフル回転で警報を発している。捕まったらぜぇったいに明日を笑顔で迎えられなくなる気がする。どうしてそうなるのかは予想できないが、とにかくそんな気がしまくりである。
「フフン、照れなくてもいいのだよ、ボォォォォーーーーッイ!」
 叫ぶや否や、カイゼル髭の男は巨体に見合わぬ速度で飛びかかり、フランクの足をむんずと掴んでぽぉいと後ろに投擲。
「わぁぁぁぁーーーーー‥‥っ」
 フランク、夜空を華麗に空中遊泳。いや、本人は飛びたくなんぞなかったろうが。
『ウエルカァァァム!』
 その身体は群れなして待ち構える男達に目掛けて飛んでいき‥‥そして、肉の壁の中に消えて行った。

「‥‥」
 冒険者ギルドを訪れたその司祭は、困り果てた表情で深ぁい溜息を一つ。
「先日、早朝のことです。路地の片隅に倒れる、一人の青年が発見されました」
「なるほど」
「見つかったとき、彼はすっぽんぽんにひん剥かれて、髪をキレイサッパリ剃られていたそうです。酷い風邪――だと思うのですが――も患っていまして、『禿の軍団が‥‥禿の軍団が‥‥』と意味不明のうわ言をあげています」
「いったい彼に何が‥‥?」
「判りません。というか、判りたくありません」
 首を傾げる受付嬢に、司祭はいやいやと頭を振った。
「‥‥ですがそれ以来、夜な夜な謎の軍団が現れるようになったのは確かです。衛兵も軒並みやられて、同様の症状に陥りまして‥‥」
 司祭は手を組み、懇願した。
「もはや、これは貴方がたの領分です。ミッデルビュルフの夜に、どうか安らぎを」
 それだけ言うと、司祭はもう一度、深ぁい溜息をついた。

 ミッデルビュルフ、街のどこか。
「団長、例の軍団ですが‥‥」
 包帯まみれの男の報告に、団長と呼ばれた騎士は頭を抱えた。
「‥‥志は同じだと思っていたが‥‥手段が違いすぎるな、彼奴らは」
「始末しておきますか?」
「‥‥加入したばかりでろくに内情も知らんからな」
 男は苦渋に満ちた表情で呟いた。
「まあいい。放置が最上だ」
 投げやりに言うと、遠くを見つめる男であった。

●今回の参加者

 ea1384 月 紅蘭(20歳・♀・ファイター・エルフ・華仙教大国)
 eb0413 ササラ・カトラス(22歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 eb1317 ロゼリオン・フロレアル(23歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1896 五行 相克(41歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2330 ゲオルグ・マジマ(39歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3317 リュック・デュナン(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3860 ナサニエル・エヴァンス(37歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ユパウル・ランスロット(ea1389)/ シルバー・ストーム(ea3651)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ アルバート・オズボーン(eb2284

●リプレイ本文

 木枯らしピープー吹き付けるドレスタットの夜空に、なにやら意味不明の歌声が流れている。
「オマエノトウチャンハァゲ。オマエノアタマモハァゲ。カァゾクミィンナハァゲ」
 何処となく怪しい発音で子供の悪口のような歌を口ずさみ、夜の街を闊歩する男、一人。ナサニエル・エヴァンス(eb3860)――冒険者である。
 怪しい発音も何も、彼はこれ以外のゲルマン語が喋れなかったりするのだが‥‥。仲間に何とか通訳してもらい、特訓した甲斐もあって何とか丸暗記の形で歌えるようになったらしい。
 ――そちら、どうですかー。標的を見つけたら、すぐに教えてくださいねー。
 物陰に潜み、ロゼリオン・フロレアル(eb1317)がテレパシーを飛ばす。囮との貴重な連絡手段だが、返ってきた言葉は‥‥。
 ――オマエノトウチャンハァゲ♪
「随分ノっていらっしゃいますわね‥‥」
 見ようによっては楽しそうにも見えないこともない。これから恐ろしい目にあうかもしれないのに、悠長なことだ。
「‥‥いや、あれ狂化してるんじゃないか?」
 すぐ隣、大柄な体で窮屈そうにしゃがみこんだネフィリム・フィルス(eb3503)が呟いた。
「オマエノアタマモハァゲ♪」
 よくよく見れば、確かに赤い目を爛々と、髪逆立って上機嫌だ。間違いなく狂化している。
「‥‥あら、私てっきりテレパシーが伝わってないものだとばかり」
 小首を傾げるロゼリオン。昼間、被害者の見舞いに行ったときもテレパシーを飛ばしたのだが‥‥。
 ――やめろ、来るな、来るなー!
 ――違う俺は、俺はソッチに興味は!
 ――うおおおおー、癖になるー!
 ‥‥とまあ少し、いやかなり異様な反応で終わったのだ。これでは話が伝わってないと思っても仕方なかろう。というか、何を聞いたんだねロゼリオン嬢。鬼だろアンタ。
「考えてみれば、面白‥‥じゃない、おかしい連中!」
 黒装束に身を固め、月紅蘭(ea1384)はさも興味深そうである。
「いったい彼らに何をされおっとっと、彼らは何が狙いなのかしら‥‥」
 無邪気な瞳はそのままに、内心ではまさに興味津々。態度に出す気は毛頭ないのだが、ついつい言葉に出てしまうのはお約束もとい不可抗力であろう。
「んー‥‥アレじゃない?」
 松明を両手、ネフィリムの肩にちょこんと乗っかっていたササラ・カトラス(eb0413)が何か閃いたようだ。
「寒さに負けない身体を作ってあげようっていう慈善団体とか! ほら、乾布摩擦とか冷水行とかあるでしょ? 違うかなー?」
「いやどう考えても違うだろ。つか暑いから降りな」
 ツッコミついでにポイとササラを放り投げるネフィリムである。
「あ! そしたら、衛兵さん達も乾布摩擦で元気になるかも?」
 なりません。つか頼むから追い討ちをかけるような提案をしないで頂きたい。
「禿の軍団‥‥ですか。何の目的があって男性ばかりを襲うのでしょう? 裏には何か恐ろしい陰謀があるのでは‥‥」
 リュック・デュナン(eb3317)が乾布摩擦から強引に話題を切り替えるべく話を元に戻す。
「ふっ‥‥例え目的がどうであれ、変態など私の術でたちどころに倒してみせよう」
 品のある面持ちで五行相克(eb1896)は呟いた。
「我がサンレーザーの威力、思い知らせて――」
 今まさに大見得を切ろうとしたその時、とんとん、と肩を叩く者がいる。リュックだ。
「ええっと、言いづらいですけど‥‥今、夜ですよ?」
「‥‥しまったぁ!」
 相克、一生の不覚である。いやマジで、お婿に行けなくなっちゃうかも。
「あーその、すまないが急用を思い出し‥‥?」
「もう遅いって」
 そそくさと逃げ出そうとした相克だが、ネフィリムに肩を掴まれて逃走失敗。
「‥‥奴さん、現れやがった」
 女の表情がやや真剣身を帯びた。やや、なのは八割程度面白そうにしているからだ。

 異変は、歌声から始まった。
「オマエノトウチャンハァゲ♪」
 歌声は止むことを知らず、延々と流れ続けていた。一応、三十分交代という事にはなっていたのだが‥‥交代するつもりがないのか狂化のせいで交代したくても出来ないのか、結果として囮はずーっとナサニエルのままである。
 ともあれ、流れ続ける歌に返答するように、異変は巻き起こった。
 ――おいらの父ちゃんハァゲ♪
 ‥‥月光を背に、現れたのはフンドーシ一丁のむくつけき男達。そう、禿の軍団一行様である。
「オマエノアタマモハァゲ♪」
 ――ついでにお前もハァゲ♪
「カァゾクミィンナハァァゲ♪」
 ――男はみぃんなハァァゲ♪
「わ、ワケが判らない‥‥」
 謎の歌の応酬に、ついつい頭を抱える香蘭だ。
「あー、やっぱ風邪とは縁のない人達みたいねぇ」
「まー何とかは風邪引かないって言うからな」
「あ、襲われた」
「まー風邪引かないように祈るしかないわな」
 ホバリングしながら、ササラが人事のように呟くと、やはり人事っぽくネフィリムが返す。
「大変ですね、この街も‥‥色々な意味で」
 香蘭の用意したお茶をすすりながら、遠い目で呟くロゼリオンである。
「オマエノトウチャンハァゲ!」
 必死に逃走しようとして、歌い続けるナサニエル。狂化中だから大混乱である。つか歌うことしか出来ないようですがその辺どうなんだ。こうなる前に誰か教えてやれよとか思わなくもなかったりするが。
「‥‥お茶が美味しいですね」
「スープもあるけど、どう?」
「お、嬉しいねぇ」
「わぁ、ひん剥かれてる。囮頑張れー☆」
 ‥‥教えるどころか助ける気もなさそうな気配である。
「あ、あの、味方は何処にいるんでしょうか‥‥?」
「少なくとも、私だけは味方だリュック殿。‥‥何の役にも立てないが」
 隅っこの方で抱き合いながら震えて出番を待つリュックと相克であった。
 ともあれ。
「ファイヤートラップハァァァァゲェェェ‥‥!」
 ナサニエル・エヴァンス(32歳ハーフエルフ男性 職業ウィザード)――ミッデルビュルフの夜に、散る。
 最後まで怯まず、歌い続けたその勇姿。僕たちは忘れ(られ)ない。
「つ、次は私たち‥‥か」
 ごくりと唾を飲み、相克は呟いた。
「‥‥‥‥」
 ああ、女性陣の視線が痛い。とっとと突撃しろと言っているかのようだ。お茶請けが足りないと告げているかのようだ。
「わかりました。未熟な僕が役に立つのなら喜んで囮を引き受けます!」
 無言の圧力に耐えかねたか、少年はすっくと立ち上がり、次の囮(生贄)を買って出た。
「リュ、リュック、早まるな!」
「いいんです相克さん。僕が犠牲になることで、少しでも相克さんの順番が遅くなるなら、僕は、僕は‥‥っ!」
 震える膝を勇気で押さえ込み、少年はまっすぐ前を見た。
「リュック‥‥男になったな‥‥」
 囮同士に芽生えた熱い友情の瞬間であった。

「わっしょい! わっしょい!」
 禿の軍団の熱い吐息が路上を白く染める。全くもって暑苦しいんだか寒いんだか判らないが、すっぽんぽんのナサニエルを配下が胴上げしている辺りまるっきり意味不明に暑苦しいのは確かである。因みに髪は既に行方不明だ。
「ま、待ってください! 何の目的があってそんな格好をしているんですか!?」
 勇気出してリュックは物陰から一歩踏み出すと、禿の軍団に語りかけた。
「‥‥ほぅ、なかなかにプリチーなボォイではないか!」
 ずい、とカイゼル髭の男が一歩踏み出すと、ずい、とリュックは後ずさり。
「悪い事を企んでいるのなら、今からでも遅くないです。止めてください! 田舎の御両親は泣いていますよ!!」
「良かろう! 我輩が特別にスペシャルな個人教授をレッスンしてくれよう!」
「僕には心配してくれる両親はもういないんですから‥‥ってわああ、色々と二重ですしご遠慮しますぅ!」
 まったく会話になっていないのはご愛嬌。言葉が通じる状況じゃないのは色々と盛り上がっている所を見れば明白だろう。
 ‥‥というわけでリュック、全力で逃走開始。
「頑張れー☆」
「お代わり勝手に貰うよ?」
「夜目が利くって得よねー」
「あ、捕まりそう‥‥」
 この人達は相変わらずだが気にせず行こう。うん。
「せ、狭いところを通れば、あるいは‥‥」
 必死に逃げ回るリュック。とにかく捕まったら最後だ。理由は判らないし判りたくもないが嫌ぁな悪寒が全開で警報発令中である。
「そ、そうだ、裏路地‥‥ってええええ!」
 相手はむくつけき大男。言い換えればマッソーメン。ならば、狭い裏路地に逃げ込めば。そう考えたリュックだが、そうそう都合よく逃げられる筈がない。ちらと見やった裏路地には、マッシブボディがこれでもかと言わんばかりに挟まっていたのである。つうか無理しすぎ。
(「あの状況で捕まったら、もっと酷いことに‥‥っ!」)
 不自然すぎるがそれにも気づかず、半泣きで逃げ回るリュック君だ。
「ウゥゥゥエルカムゥ・マァァァイッ‥‥」
 巨体に見合わぬスピードで男が追いすがる。もうだめだ。もう逃げ切れない。捕まってしまう。捕まって、漢への階段を一歩昇ってしまう。
「‥‥ワァァァルドォッ!!」
 ――ガバッ!
 男は逃げ回る標的に飛びつくと、瞬間的に頬擦りを数回して後方に投げ飛ばした。
「わぁぁぁ‥‥! って、あれ?」
 飛びつかれた気配はしたものの、何事も起きていない。それもその筈、少年を庇うように相克が飛び込み、身代わりになったのだ。
(これで借りは返したぞ)
(そんな、相克さんどうして!)
(私の分まで強く生きるんだ、リュック‥‥!)
 華麗に空中遊泳する数瞬‥‥少年と男は魂の会話を交わしたという。
 ――五行相克(31歳人間男性 職業陰陽師)。ミッデルビュルフの空に、果てる。
「うぎゃー!」
 後方で相克がなにやら色々と剥かれたり剃られたりしている最中。
「ふはーっはっはっは! もはや我輩を遮るものはなし!」
「あ、あああ‥‥」
 禿の軍団長(仮名)は怯える子羊を目の前にして、起立直立大興奮だ。
「あいや、待ちなさい!」
 後方、月を背負うように立ちはだかる男が現れたのは、その時だ。

「フンドーシ等という流行物に手を出し、あまつさえそれを他人に暴力で広めようとすることは何事ですか!」
 そこには腰に手を当て、仁王立ちする男が一人。ゲオルグ・マジマ(eb2330)――冒険者であった。
「私が貴様らに、魂の教育を施しましょう‥‥」
「な、なにっ!? まさか、貴殿こそ‥‥」
「‥‥そう、ノーパンこそ欧州スタンダードなのですよ!」
 ノーパンとは意味不明な言葉だが、一気に展開が怪しくなってきた。因みに下着様の衣服なら、普通の人は誰だって付けているから誤解なきよう。
 バサッとマントを翻せば、下半身だけすっぽんぽん。いわゆる丸出し状態である。突き出た腹もそのままに、ぶらぶらぶよぶよと色んな所が揺れているが、これ以上の描写は様々な都合上割愛させて頂こう。余談であるが、ごく一部の地域にひっそりと伝えられるNO−PAN主義なるものの起源はここにあるらしい(ぇー)。
「貴様等程度に武器は不要! フランク男の根性を見せてあげましょうっ!」
 叫ぶとゲオルグ、軍団長目掛けて猛烈チャージ。つうか走らないで下さい。色々と見えるし揺れますから。
「や、やる‥‥っ!」
 思い切り振りかぶった一撃に、ばしんぺちりびたんびたんと色々な擬音が混ざる。
「確かにフランクですね。‥‥色々と」
「‥‥折角のお茶が拙くなったわね‥‥」
「うえ、あたしもういいや腹いっぱい」
「団長さん、頑張れー☆」
 ‥‥おおむね女性陣からは不評のようである。そりゃそうだ。
「貴様のフンドーシへの思いはその程度ですか!」
 調子が狂ったのかなんなのか、気付けばゲオルグ優勢である。どうにもやりづらいらしい。
「ぬうう‥‥貴殿と我輩は水と油! カモン、集まれ忠実なる下僕よ!」
 焦りも隠さず、相克と戯れる手下どもを呼び戻す軍団長だ。
「さぁっ、どんどんきやがれ! フンドーシの一枚や二枚、ノーパンの敵ではありません!」
 対するゲオルグは絶好調である。相変わらず言っている事は意味不明だが。
「さ、三枚や四枚‥‥」
 あ、あっという間に取り囲まれた。
「五枚六枚七枚‥‥って多すぎませんかっ!?」
 ――ゲオルグ・マジマ(29歳男性 職業伝道師)。ミッデルビュルフの地に、沈む。
 毒牙にかけられる以前に、そのままタコ殴りされたのは仕方ないと思うのですが、皆さんどーでしょうか。

「手ごわい相手であった‥‥」
 袋叩きにされるゲオルグを眺め、男は感慨深げに呟いた。
 と。
 ――バサッ!
 投げ網が空中で蜘蛛の巣のように広がると、手下たちを包み込んだ。
「宴もたけなわって事で、雑魚どもは一網打尽さね」
 楽しげにネフィリムは嘯いた。あっけに取られる男を尻目、もがく手下どもに駆け寄ると網ごとロープでぐるぐる巻きである。
「松明アターック!」
 ふらふらと空中をホバリングしていたササラが、上空から松明を投下した。
 ――ボッ!
 網に絡め取られ、ロープに巻かれてもがく男達が燃え上がった。網やフンドーシに引火したのだろう。
「うぎゃー!」
 ‥‥ごく一部で巻き添えを食ったゲオルグさん(29歳男性以下略)がいますが、まあ気にしない方向で。
「なんか狙い甲斐がないわねー」
 炎に焼かれて転がりまわる男たちは、香蘭が丁寧に狙撃していく。
「な、何という事を!!」
 女たちに手も足も出ない手下を眺め、愕然と呟く軍団長(仮名)。
「ま、あんたたちの悪行もこれまでだって事さね」
 ネフィリムは剣を担ぐように構えると、問答無用で一閃。
 男は慌てながらも、何とかブリッジで回避。はらり、と髭の右側が宙に舞う。
「わ、我輩のシンボルが!」
 男の体から半ば力が抜ける。やっぱりここが弱点らしい(ぇー)。
「一番素敵な方をムーンアローで狙いたいと思っていたのですが‥‥」
 困ったようにロゼリオンは呟いた。
「じゃ、左側な」
「はいっ♪」
 ネフィリムがウィンクして囁くと、ロゼリオンは月の精霊に世界一しょーもない目標を告げた。

●戦い終わって夜が明けて
 こうして、なんだかワケの判らない内に、ミッデルビュルフを震撼させた禿の軍団は壊滅した。
「さすがに眠いね‥‥」
「帰って一眠りしようよ」
 眠たげに目を擦るササラを肩に乗せ、香蘭は欠伸を一つ、宿へ歩き出す。
「しかし、どうして弱点があそこだと‥‥?」
「身内に似たようなのがいてね‥‥」
 小首を傾げるロゼリオンに、ネフィリムは苦笑を一つ。同キャラ対決が見てみたかった気もするが、それは言わないお約束である。
 ともあれ、ミッデルビュルフに明るい朝日が射したのは、それはそれで喜ばしいことなのであった。

「ええっと‥‥」
 取り残されて、リュックは一人途方に暮れていた。
「ぼ、僕だけじゃ運びきれませんよー!」
 あえなく散った三人を、泣きながら宿まで搬送する少年であった。

――犠牲者リスト
ナサニエル・エヴァンス(歌いながら禿)
五行相克(友情の果てに禿)
ゲオルグ・マジマ(燃やされて禿)