ココウノカミ

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月12日〜03月19日

リプレイ公開日:2006年03月20日

●オープニング

 気配を殺す。
 しなやかな身体を闇夜に紛らわせ、ゆっくりと近づく。感じる息遣い。相手はまだ気づいていない。
 あと三歩。いつでも飛びかかれるように姿勢を低くする。
 あと二歩。引き締まった、けれども柔らかな肢体は、もうすぐそこだ。
 あと一歩。間近に迫る獣の気配に、彼女の目が開いた。
 だがもう遅い。虚空に弧を描き、一瞬のうちに飛び掛る。悲鳴すら上げられぬ早業だ。家中の誰も気づきはせぬ。
 そして、柔肉を貪る音が、暫く続いた。

「なんという事だ‥‥」
 夜明け前。一夜の宿を借りた山小屋を出る段になって、その侍は己の不覚を悔いる羽目になった。
 苦労の末手に入れた駿馬が、表で繋がれたまま無惨な屍を晒していたからだ。
 下手人は直に判った。躯の傍ら、毛並みを血に染めた狼が満足げな顔をしているとなれば、間違いようのある筈もない。
「‥‥おのれ!」
 男は抜刀すると、不貞の輩目掛け斬りかかった。が、狼は事も無げに飛び退り、そのまま山中へと姿を消した。
「あれは、ひょっとして‥‥ふぶき?」
 小屋の主の呟きに男が何事か問うと、青年は言い難そうに、この山は以前狼の群れがいたこと、その群れは訳あって狩り出され全滅したこと、そしてあの狼は自分が密かに育てた最後の生き残りであろうことを告げた。まだ幼い山の神を見殺しにするには忍びなかった、とも。
「ふぶきは人なんか襲わない。もともと山ノ神は人なんか襲ったりしないんだ。狩り出されたのだって何かの間違いに決まってる」
 力なく呟く青年に、男は何も言わなかった。
 ――小屋の主を責める事は出来ぬ。すぐ傍にいながら、気づけなんだ己こそ不明。
 男は臍を噛むと、愛馬の仇を討ち、恥を雪ぐべく狼の後を追った。


 南大和は大上ヶ岳の山中に人喰い狼が出たという。愛馬を奪われ、汚名返上と単身討伐に向かった勇敢な侍が、あわれその牙にかかっている。
 冒険者の諸君。凶暴な狼を退治せよ。彼の獣は群れをなさず、孤独な山の主として君臨しているようだ。
 たとえ一匹とて侮るべからず。相手は我々が知るそれよりも大きく、素早い。加えて山中は彼奴の領域。喉笛を食い破られてから後悔しても遅かろう。
 敵は人に仇為す狼、ゆめゆめ油断なさらぬよう。


 ――るおぉぉぉぉ‥‥ん。
 頂の上、満月に向け。
 友もなく、家族もなく。
 たった一人の遠吠えが、夜空に吸い込まれていった。

●今回の参加者

 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea8763 リズ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9929 ヒューイ・グランツ(28歳・♀・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb0218 花井戸 彩香(33歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1878 ベルティアナ・シェフィールド(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2688 阿須賀 十郎左衛門暁光(62歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2998 シェラザード・ギリアス(35歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb4668 レオーネ・オレアリス(40歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●サポート参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ 壬生 天矢(ea0841)/ 氷川 玲(ea2988)/ アデリーナ・ホワイト(ea5635)/ イシュメイル・レクベル(eb0990)/ ミュウ・クィール(eb3050

●リプレイ本文

●大上ヶ岳
 早春の息吹漂う山中。吹き抜ける微風はわだかまる冬の微粒子を追いやり、色を増していく木々の緑は、生命の喜びを謳歌しているかのよう。夕べの冷え込みが嘘のようだ――シェラザード・ギリアス(eb2998)は、ふとそんな事を思う。窓から射し込む、晴れやかな陽射しが眩しい。今日は過ごしやすくなりそうだ。
 南大和、大上ヶ岳の中腹に位置する山小屋をシェラザードは訪ねていた。小屋の主から、必要な情報を聞き出す為だ。
「ふぶきは‥‥僕が育てたんだ。寒い季節だった。雨の中、一人でふるえてた。山狩りがあった、次の日のことだった」
 男に問われ、青年はポツリ、ポツリと語った。
「利口な子だったよ。仲良くなるには時間が掛かったけど‥‥。いなくなる前の日、兎を獲ってきてくれたんだ。あれは嬉しかったなぁ‥‥」
「‥‥山狩りは、何故?」
「良くは知らない。ふもとの人間とは付き合いもあまりないから‥‥何か、間違いがあったとしか思えないよ」
 そもそも狼は人を襲ったりしないんだ。だから、間違いに決まってる。青年は、重ねてそう主張した。
「ふむ」
 男は顎に手を当てた。恐らくは、山狩りで滅んだ一族の恨みを晴らすための反抗ではないかと予想していたのだが‥‥。どうやら、青年からその辺りの事情は掴めそうもなかった。
 そもそも。人間相手でも身に付けた言葉が違えば真意を掴みかねるというのに(事実、青年から話を聞きだすのはかなり難航した)、相手は野生の動物なのだ。仮に恨みがあったとて、それが判ろう筈もない。ましてや、説得など‥‥。
『‥‥期待できそうもない、か』
 異国の言葉に首を傾げる青年を横目、呟いてみるシェラザードである。

 山小屋の脇。
 掘り出した駿馬の死骸を検分する、三人の冒険者がいた。花井戸彩香(eb0218)とリズ・アンキセス(ea8763)、そしてレオーネ・オレアリス(eb4668)だ。
「どうですか?」
 表情を曇らせ、綾香が尋ねた。馬とはいえ、墓を暴いて躯を晒すのは少々気が引けたが‥‥事実を明らかにする為には仕方がないことだ。
「え、えっと‥‥そ、そうですね‥‥」
 しゃがみこみ、言葉を詰まらせながらも、リズが答える。死骸の状態は酷い。死んでから時間が経っているのもあるが、何より食欲の対象になったのだから。ただ、一つだけ確実に判った事があった。
「や、矢傷や刀傷は‥‥あ、ありません‥‥‥‥た、食べたものが‥‥こ、こ、殺したと見ました‥‥」
「やはり、そうですか」
 女の柔らかな表情がもう一段曇った。間違いなく犯人は狼だろう。となれば、山小屋の青年を説得しておいたほうがいいだろう。きっと彼は、今から自分たちが行うことに対して嫌悪感を持つであろうから。
「お、お話‥‥しないと、いけません、ね‥‥」
 その表情から察したのだろう。綾香を見上げるようにして、リズは呟いた。
「そうですね。でも、その前に‥‥」
 彩香はレオーネを見つめた。
「もう一度、埋葬しなくてはいけませんね」
「了解」
 苦笑を一つ、言葉少なに男は答えた。実際に墓を暴いたのは自分なのだから、戻してやるのも道理だろう。弔いは、傍らの仲間たちに任せればいい。

 遅れていた仲間たちが合流したのは、その日の夕暮れだった。
「ギルドでは、たいした事は判らなかったな」
 ヒューイ・グランツ(ea9929)は冒険者ギルドで情報収集を試みたが、結果を得られなかったようだ。
「山狩りは冒険者に依頼されなかった。そういうことらしい」
 そもそも、冒険者ギルドで閲覧できる情報は高が知れている。過去の報告書、そしてそれに付随する資料が精々だ。情報屋ではないのだから、この辺は致し方ない。
「あ、それなら僕、麓の村で聞いてきたよ」
 受けてルディ・ヴォーロ(ea4885)が茶色の瞳を輝かせた。
「ええっと‥‥エライ人の馬や牛に手を出したから、だっけ?」
「うむ。商売用に飼育していた牛馬を襲ったらしい。これは村人の予測だが‥‥その年は山に餌が不足していたようだ」
 ルディに同行していた阿須賀十郎左衛門暁光(eb2688)が補足した。さほどジャパン語が得意ではないルディに同行したのは正解だったろう。でなければ、細かい経緯は掴めなかった可能性が高い。
「不幸な出会いだったわけですわね‥‥」
 白い肌をまるごとおーがに包んだベルティアナ・シェフィールド(eb1878)が呟いた。
「どうする? やりようによっては、他の手を考えたくも思うが」
 ヒューイが一同に方向性を再確認する。
「退治するだけが、解決方法ではあるまい‥‥」
 できれば、殺したくない。だが、その手段は? 仮に捕らえたとしても、その後の対処は? 心情に手段が伴わない。見れば、皆それぞれに似たような表情であった。
「‥‥痺れ薬とかゲットできてたら良かったんだけどね」
 そうしたら、捕らえてから他の手を考えられたのに。残念そうに、ルディが言う。知識がないではない。使えそうな毒草を見つけもした。だが‥‥生け捕り用として、実際に有効利用できるかといえば、話は別だった。後先を考えるのであれば、毒を扱うのは相当の難事なのだ。
「狼には善も悪もない、生きる為に殺し、生きる為に喰らう」
 レオーネが呟いた。
「だが、俺たちの領域に踏み込んできたのなら放ってはおけない、ただそれだけだ」
 それが、全てだったのかもしれない。
 ――結局、討ち取るより他に無し。それが、冒険者達の出した結論だった。
「貴方の取った勇敢な行動を私は称えます。後は私達に任せて下さいますか?」
 ベルティアナの問いかけは、儚くも散った侍に対して発せられた。狼を大神と書き、転じて山の神とする。なるほど、確かにジャパン語は興味深いが、欧州での狼は害獣以外の何者でもない。狩猟の女神は、きっと自分たちに力を貸してくれる筈だ。

 その日、夕暮れから夜半にかけて、冒険者たちは青年を説得した。
「そんな‥‥」
 絶句。大方の予想通り、青年は狼退治に対して難色を示した。
「その心情、幾許かお察しする。ではあるが、退治せずにはこの一軒、解決はすまい」
 十郎は二色の瞳を重たげに光らせ、青年を説き伏せようとした。まったく、殺生なしで穏やかに済むのが一番なのだ。だが実際は、こうしてささやかな悲劇を孕まずにはおれない。それが男の瞳をますます重くさせた。
「そ、その‥‥す、既に‥‥ひ、一人の侍が、牙にかかっています」
 リズは更に気が重かった。只でさえ他人との対話が苦手だというのに、こうして説得しなければならないのだから。
「こ、こ、こ‥‥このまま、放置、すれば‥‥麓の里に、ひ、ひひ被害が‥‥」
 懸命に言葉を紡ぐ。だが、努力すればするほど、少女は言葉を繰れなくなっていった。
「ふぶきは人なんか‥‥‥‥」
 涙交じりに自分へ語りかける少女を見て、青年は黙り込んだ。そもそも、冒険者たちがそこまでして青年を説得する必要性は薄い。もしあるとしたら、それは‥‥。
「山ノ神ふぶきを、私たちは殺める事になるでしょう」
 膝を詰め、彩香はそっと語りかけた。
「殺めるからこそ、せめてきちんとした供養はさせて頂きたいと思います。それが私たちに出来る、精一杯の‥‥」
 そう、冒険者たちは、筋を通しているのだ。そして、それが判らぬ青年でもない。
「‥‥小屋は、好きに使って下さい」
 答えは、搾り出すように、発せられた。

「この辺でいい?」
 ランタンの明かりを頼り、小屋からそう遠くない木の幹に、ルディは麓で購入してきた鶏を繋いだ。
 いわゆる、生餌である。広大な山中に潜む一匹の狼を探し出す労苦は、想像するに難くない。それならば、先方からおいで願おう――それは、多分に、無難な結論だったろう。
「さて‥‥これで彼が出てくるか、ともかく待つとしようか」
 ヒューイが碧眼を細めた。気がかりは小屋の脇に繋いだ二頭の馬――レオーネと、シェラザードのものだ――だったが、そちらは十郎とレオーネが交替で番をする事になっていた。二人は火を絶やさない事にしていたから、そうそう狼が近づく事もないだろう。尤も、お陰で鶏のほうに喰い付くとも言い難い状況ではあったが。馬を放置してそちらに喰い付かれては目も当てられないから、こればかりは仕方ない。
 小屋を拠点にしたのはシェラザードの案だ。別の場所で罠を張る手もあったが、適当な場所を探すのがまず一苦労だ。その上、危険度だけは倍増し、効果が上がるとは限らないなど考えると、都合のいい場所はここしかないようにも思われたのだ。馬も管理しなければいけない。当然、一同に否やはなかった。

 腹が減っていなかったのか。警戒していたのか。それとも他の理由か。
 ――その晩、ふぶきは姿を現さなかった。

●ワカレノヨル
 ――く・く・く‥‥
 二の腕にとまった鷹が、喉で鳴いた。
「なかなか、見つかりませんわね‥‥」
 茂みに潜み、ベルティアナは呟いた。ストラの様子を見ても、何か発見したと言うこともなさそうだった。
 仰ぎ見れば、二羽の鷹が大振りな枝に止まり、鋭い視線を飛ばしていた。ファーンと梅だろう。断言は出来ないが、ふぶきは狩場を変えてしまったか日中は寝ているかのどちらかが濃厚だ。
「‥‥は、反応‥‥ありません」
 周囲の呼吸を探知していたリズだが、やはり感知は出来ていない。
「‥‥寝ているのであれば、いいのですけれどね」
 茂みの中で、呟く。同様に潜んでいる筈のルディは姿が見えなかった。恐らく、マントの力を使って姿を消しているに違いない。
 気づけば、日が暮れようとしていた。ふぶきは、まだ姿を現さない。

 事態が進展したのは、すっかり日も落ち、夜の帳が辺りを覆ってからだった。
「困ったな‥‥」
 ファーンを山小屋の中に入れ少年が呟けば、同様に鷹を預けにきた彩香とベルティアナに出くわす。夜に鷹の目は役立たないのだ。
「このままでは、不安ですね‥‥」
「‥‥他の手を考えた方がいいのでしょうか?」
 手を拱いていては、時間切れになってしまうかもしれない。無制限にふぶきを待てるほど、ギルドの契約は余裕がないのだから。
 と。
 何も言わず、小屋の隅に蹲っていた青年が立ち上がった。
「‥‥どうした?」
 窓から様子を伺っていたヒューイが問いかける。
「‥‥何も、言わないで下さい‥‥」
 決意と絶望に瞳を染め、青年は小さく呟いた。彼らの誠意に答えるには、もうこれしかないのだ。
 外に出て、樹に繋がれた鶏の傍に寄る。いずれお上に悪狼として狩り出され、供養もされぬくらいなら、せめて――
 ――ピィッ!
 甲高い音が夜闇を切り裂いた。ついで、名前が木霊する。ふぶき、と。
 ややあって。
 ――ガサッ、ガサガサガサッ!
 茂みを潜り、ふぶきが、その姿を現した。

「‥‥よもや?」
 十郎が怪訝な視線を向けた。侍に狼を嗾けたのが青年ではないかと疑ったのだろう。
「久しぶりだね、ふぶき‥‥さ、お食べ」
 青年が懐かしそうに声をかけると、ふぶきは鶏を前足で押さえつけ、喉笛を食い破った。
「いや、違うな。恐らく、違う」
 無言で、ゆっくりと離れ、小屋へ姿を消す青年を見て、レオーネは断じた。もしもそうであるならば、わざわざ呼び出す意味がない。疑われるだけだろう。
 ――トン。
 小さな音を立て、戸口が閉じられた。それが、青年の意思である事は、もう疑いない。
 ――ピィィィッ!
 もう一度、夜闇を切り裂く鋭い音。だがこれはルディの号令だ。討つならば、今しかない。冒険者たちは、はじかれたように飛び出し、包囲の輪を狭めた。

 ふぶきが異変に気づく。咄嗟に獲物を捨て、風下へ。
 ――シャッ!
 直後、見えない何かが、ふぶきの身体を浅く切り裂いた。ウィンドスラッシュ――リズが放った風の力だ。
 ギャンッ!
『戦乙女よ、我等に加護を!』
 悲鳴を打ち消すように祈りの声を上げ、ベルティアナが飛び出した。
 同時、十郎も抜刀。霞刀を片手に進路を塞ぐと、ふぶきは瞬時に転進、逆方向に退路を求める。だがそこに待ち受けるはレオーネ。一瞬、狼は逡巡するように動きを止めた。
 ――ふひゅん!
 間髪いれず、ふぶきの身体に矢が突き刺さる。潜伏していたルディの放ったものだ。
 もう一度苦鳴をあげ、駆け出す。一対一なら侍すら屠る狼とあれど、包囲され、退路を切られ、魔法と飛び道具で攻撃されては為す術などあろう筈もない。
「そこだ!」
 叫びと共に、突き刺さる矢がもう一本増えた。ふぶきはうなり声を上げると、今度は転進しようとせず、矢を放ったヒューイの元へと突進した。
「‥‥くっ!」
 拙い。動作が遅れた。咄嗟に矢を引き抜き様に射ようとしたはいいが、弓の重さが災いしたのだ。死に体を晒し臍を噛むヒューイに、吹雪が踊りかかる‥‥。
 ――ガンッ!
「‥‥騎士の誇りに賭けて女性は守らないと、な」
 間一髪でヒューイを守ったシェラザードが剣を振るうと、また一滴、大地が血潮を吸い込んだ。
 包囲の輪が迫る。最早、逃げ場は何処にも、なかった。


「仕方ないよね‥‥助けられたら、よかったけど‥‥」
 力尽き倒れた山ノ神の姿に、ルディは思わず涙した。
「‥‥亡骸を弔ってやろう」
 綾香の法力が手傷を癒す中、レオーネが告げる。
「彼もまた、立派な戦士だったのだから」
「人間の都合で全てを失って、生きる為に命を奪い、そして命を失ってしまった狼‥‥本当に非があるのは、どちらなのでしょうか」
 ふと、ベルティアナが漏らした問い。
「‥‥正解なんて、無いのだろう。因果の糸は常に縺れ、絡み合っているのだから」
「埋めて‥‥あげましょう?」
 リズが皆を促した。不思議と、言葉は滑らかだった。

 ――次に生まれて来る時には、どうか寂しい思いをしませんように。
 十郎とシェラザードが丁重に狼と鶏を葬ると、綾香は瞑目し、御仏に祈りを捧げた。
 たった一人、最期を遂げた山ノ神は成仏できたのか。これで良かったのか‥‥それは誰にも、判らない。
 いつしか、夜は明けていた。