Eat it!

■ショートシナリオ


担当:勝元

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2004年10月26日

●オープニング

 冒険者には様々な人物がいる。
 辛い過去を背負う者、好奇心から足を踏み入れた者、野望に燃える者‥‥正に十人十色である。
 中には、変人の部類に入る者も少なからずいる訳で‥‥人の自由と言ってしまえばそれまでなのだが、それが周囲を不快にさせる事がないわけでもない。自由の定義は誰が決められるものでもなく、難しいところだが。

●某月某日 某森林
「――シィッ!」
 裂帛の気合と共に、剣閃が空を裂く。その一撃で、ジャイアントラット――狩場に巣くう、最後の一匹だ――は動かなくなった。残心し、刀を一振り、腰の鞘に収めると、その戦士は鼠の屍骸を蹴飛ばし、言った。
「やれやれ、これで終わりだな‥‥ん?」
 一息ついてあたりを見回したのは、一緒に戦っていた相棒の姿が見えなかったからだ。鼠相手に不覚を取ったとは思い難いが、かといって安心してもいられない。奴が消えた大方の予想はつくが、探さねばならないだろう。仕方なしに相棒を探そうと、一歩踏み出した時だった。
「おーい、お待たせ☆」
 赤い髪をなびかせ、小走りで男の相棒が戻ってきた。どういう訳か、その手に枯れ木や小枝などをいっぱい抱えて。
 ‥‥また始まった。男は溜息を一つ、相棒に言う。
「‥‥いや、探そうとは思っていたが‥‥それよりも、何をしていた?」
「モ・チ・ロ・ン☆ ご飯の支度に決まってるジャン♪」
 青年の爽やかな笑顔が嫌に眩しい。
「‥‥ひょっとして、またか‥‥」
「これから火を熾すから、待っててね。‥‥あ、生肉のが好きだったっけ?」
「‥‥ええい、我が弟ながら、もう我慢ならん! 帰るぞ、来い!」
「わぁぁ、せっかくの食材がぁぁぁぁ‥‥」
 青年を引きずるようにして、二人の姿が木立の奥に消える。散乱した鼠の屍骸と薪を後に残して、悲鳴が切なく森林にこだましていた。


●数日後 パリ冒険者ギルド
「――弟さんの性格矯正、ですか?」
「そうだ。恥ずかしながら、私の手には余ってな‥‥」
「なるほど。具体的には、どのように?」
 カウンターの向こう、ギルド員の少女が尋ねる。
「‥‥ゲテモノ食いを、治してほしいのだ」
「ゲテモノ食い、ですか!?」
 目を丸くして聞き返す少女。ギルドに入って間もないのもあるが、流石にこのような依頼は初めてなのだろう。
「ああ‥‥兎に角、何でも食べたがるのだ。鼠退治をすれば焼肉、カエル退治をすれば刺身、ラージビーは燻製に、ゴブリンは鍋にしようと言い出し、挙句の果てにはズゥンビ退治の依頼を受けてズゥンビを食べる方法を徹夜で考える始末‥‥冒険者になって以来、弟とずっとやってきたが、その度に私がフォローするハメになるのだ」
 遠い目でどこかを見つめる依頼人。
「はぁ‥‥お気持ち、いくばくかお察しします」
「そうか、判ってくれるか、そうか、うぅぅ‥‥」
 男がうっすらと涙ぐむ。よほど辛かったのだろう。
「‥‥今まで散々止めろと言って来たが、弟は聞く耳を持たん。悪い事はしてないじゃないか、の一点張りでな」
 確かに、健康的にはどうあれ、悪食は悪だとする法はない。どちらかと言えばマナーや常識の範疇に入る問題だが、物事の感じかたは人それぞれ。だからと言って、他人が眉をひそめるような嗜好はどうか。微妙な問題である。
「わかりました、それでは告知を出しますね。朗報をお待ち下さい」
「もはや、私には万策尽きた。頼みの綱はギルドのみだ。この際、手段は問わん‥‥よろしく頼む」
 頭を下げて、席を立つ依頼人。
「しかし‥‥よもや依頼する側に回るとはな。人生玉虫色だ‥‥」
 そして、どこか遠くを見つめて小声で呟き、ギルドを後にするのだった。

●今回の参加者

 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2226 ララァ・レ(19歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2815 ネフェリム・ヒム(42歳・♂・クレリック・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea4324 ドロテー・ペロー(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4747 スティル・カーン(27歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea6349 フィー・シー・エス(35歳・♂・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●帰還、昏き地底より
 街の片隅にある排水溝から、三人の冒険者が姿を現した。辟易した表情なのは、彼らが今までいた空間があまりにも臭く、汚かったからだ。
 あまり知られていないことだが、実はパリ市街、一部の地下には下水道が流れている。古代ローマの頃に作られて廃れたものが、最近になって新設されたのだ。
「やぁっっっと出れたぁ‥‥」
 ドロテー・ペロー(ea4324)は新鮮な空気を求めて深呼吸。全く、最初は悪臭のあまり窒息死するかと思ったものだ。
「ああ、もう、全身気持ち悪いっ。今日着た服は全部焼却処分よっ」
「‥‥最悪な場所でしたね。もう二度と入りたくありません‥‥」
 げっそりした顔で、ぼやいたのはネフェリム・ヒム(ea2815)。心底うんざりといった表情で、自分が今までいた場所をちらりと見る。
「‥‥あのギルド員に、心の底からお礼申し上げたい気分ですよ」
 ぐったりとフィー・シー・エス(ea6349)が呟く。適当なモンスターを調達するのに良い場所はないかと聞いて、悩みあぐねたギルド員から紹介されたのがここだった。
 そもそも、簡単にモンスター狩りができるような場所が都合よくある筈もなく、あった所で討伐依頼が出ているのがオチだ。依頼人の冒険に同伴しようという話もあったが、当然ながら依頼した本人が他の依頼を受けている筈もない。全く、下水道で目的を達成できたのは幸運だった。尤も、潜った当人達は幸運どころか最悪の体験をしてきた訳だが。
「食への興味は悪い事ではないですが‥‥コレを食べたいと思う気持ちは理解できそうにありませんねぇ」
 狩ってきたジャイアントラットの尻尾を指で摘み、ネフェリムが気持ち悪そうに眺めている。
「まあ‥‥実際どんな物を食ってるのか見てみないと分からないですからね。どの道材料は必要だった訳ですし」
 フィーの紅い右目までが微妙に黒ずんで見えるが、下水に染まったのでない事を祈るばかりである。
「もー駄目っ! 私、着替えて身体綺麗にしてロングソード拭いてお茶飲んでくるから、あとよろしくねっ」
 とうとうドロテーが限界に到達したらい。女性は何かと大変だ。
「な、なんですか、最後のはっ」
「それは名案ですね。では、私も」
 ついでとばかりにフィーまでも持っていた屍骸をネフェリムに預け(押し付け)、逃亡開始である。
 ぽいっと鼠の屍骸を渡され、受け取ってしまったのが運の尽き。男は途方にくれて、夜までご一緒することになった鼠を見つめる。面倒見のいい性分は、何かと損するものである。全国のいい人演じてるアナタ、お気をつけあれ。
「はぁ。捨てたい過去がまた一つ増えそうです‥‥」
 その日パリの街中では、薄汚れた男が鼠の屍骸を抱え、途方に暮れている姿が見られたとかなんとか。


●突撃、お宅の食卓!
「自分たちはキミの兄にゲテモノ好きを直してほしいと依頼された者だ」
 冒険者街の一角にある依頼人宅。フォン・クレイドル(ea0504)が、己の正体を明かす。
「兄貴‥‥前から言ってるけど、ゲテモノじゃないってばさ」
 自分を矯正しようと集まった冒険者たちを前に、青年は不満しきりである。
「うるさい、今日という今日は覚悟しておけっ」
「まあまあ。頭ごなしに押さえつけるだけでは、弟さんも納得いかないだろう」
 苦笑を一つ、依頼人を宥めたのはスティル・カーン(ea4747)。まずは冷静に、異食に走った理由を探ろうと尋ねる。
「弟さん、何故そこまでゲテ‥‥おっとっと、そっち系の食べ物に拘っているのか教えて貰えないか?」
「きっと、モンスター食べたくなるほどビンボーしてる兄弟なんじゃないかなぁ?」
 答えたのはシフールの少女、ララァ・レ(ea2226)。バックパック代わりの褌を背負ってパタパタと飛行中である。
「幼い頃にご両親が死んじゃって、引き取られた先は奴隷同然にコキ使われて身もカラダもボロボロになっちゃって売り飛ばされる前夜に逃げ出して二人で生き延びるために泥水をすすって‥‥」
 とまあ、早くも妄想大爆発の少女だ。
「ううっ‥‥タイヘンだったね‥‥今夜はお姉さんの胸で泣いていいよっ」
 ついには感極まって両手を広げる有様。タイヘンなのはお前の頭じゃ、とツッコミたいのは抑えよう。キリがないから。
「コッチの理由で命を奪った以上、せめて美味しく食べてあげるのが人情ってヤツじゃないか?」
 少女のことはさらっと流して青年が答える。
「うーん」
 青年の答を聞いて、少年は慎重に言葉を選んだ。神経を使うのもなにかと大変である。その横ではララァが違ったの? と目を丸くしていた。これで軌道修正されればいいが、あらぬ方向を見てブツブツやりだした所を見ると望みは薄そうだ。
「俺はゲテ‥‥そ、そういう食べ物に興味あるのにはとやかく言わないし、むしろ何でも食べるのは良い事だとは思うが‥‥」
「だろ?」
「だがな、周りからそれを咎められてるんなら、せめて少しだけでも我慢したらどうだ?」
「うーん、それは判るんだけどさ‥‥でも、勿体無いじゃん?」
 今の所、暖簾に腕押しである。家族ですら難儀するのだ。他人の考えを変えるのは、想像以上に難しい。
 次に口を開いたのは、今まで経緯を見守っていたフォン。
「あたいはあまりおしゃべりが得意な方じゃないし、正直お前たち兄弟がどうなろうと関係ない。どうでもいいと思ってる。依頼じゃなきゃ、クビだって突っ込みたくない。だが、少しは兄の心も酌んでやれ」
「‥‥じゃあ、アンタはなにしに来たのさ。ワケわかんないよっ」
 流石に青年も、フォンのこの言葉には臍を曲げた。まあ、これは無理もない‥‥だろう。
「なんだよ、なんなんだよ、よってたかってサァ!」
 と駄々っ子さながらの青年である。参ったな‥‥とスティルが頭を抱えた。
「どうです。ここは一つ、弟さんの料理を我々も頂いてみるのは」
 ここで気まずくなった空気を払拭しようと、フィーが提案した。
「偶然にも、ジャイアントラットの屍骸があるんですよ。良かったら、これを調理してみませんか?」
「へぇ、いいねえ!」
 青年の瞳がキラリと輝く。建前はどうあれ、好きなのは隠しようがない。
「ご苦労様。あれから、ずっと持ってたんですか?」
「聞かないで下さい‥‥」
 ネフィリムの言葉に、思わず遠い目のフィーである。
「じゃ、チョット待っててね☆」
 喜び勇んで、青年は家の奥へと消えていった。

 青年が消えたところで、今までブツブツやっていたララァの目がギラリと光った。
「お兄さん‥‥アンタ、最後に弟さんに食事やったのは何時だい?」
「いや、食事は殆ど弟が‥‥」
「トボけんじゃないよ! 弟さんの異常なまでの食材への固執が動かぬ証拠‥‥」
「おーい、誰かー」
 思わず助けを求める男だが‥‥あ、全員目を逸らした。薄情なっ。
「口で言っても分かんねぇなら、体で分からせてやるまでだッ!」
 業を煮やしたララァの鉄拳が唸る! 
「‥‥? 今、何かしたか?」
 首を傾げる男。『蚊ほどでもない』という格言が見事に実演された一瞬であった。
「ち‥‥チキショウ、覚エテロ〜!」
 捨て台詞一発、天井の隅まで飛んでいって恨めしげに睨むララァだったとか。

 ややあって。
 弟が料理した鼠が一同の前に出された。皮を剥いだ上で肉の部分だけをそぎ落とし、焼いてきたようだ。
「さ、召し上がれっ☆」
「では、遠慮なく‥‥」
 先陣を切ってフィーが肉をつまむ。というか、手を出したのはフィーだけである。スティルに至っては見えない振りまでして断固拒否の構えだ。採って来た場所を考えれば、当然かもしれないが。
「ちゃんと食べれるのに‥‥」
 せっかく作ったのに一人しか手を付けないとあって、青年も不満そうな顔である。
「ララァだってゴブリン食べようとしたし、弟くんの気持ちも分かるんだよねぇ‥‥もしかしたらホントに食べたら美味しいモンスターって居るかもだよ?」
 青年に共感したのか、少女が傍まで飛んできていた。
「そうだよ、世の中やってみなきゃ判らない事で一杯なんだからさっ」
 我が意を得たりと嬉しそうな青年。少女に向けて満面の笑みである。
「あ、ちなみにララァは食べても美味しくないからね! 赤シフールは辛いんだぞぉ〜!」
 いやいや、いくらなんでもそれはないだろう。そう思った一同だったが。

 ――ぱく。

「あじゃぱ〜!」
『喰った!!』
「止さんかっ」
 泡を食った依頼人が青年の後頭部にスマッシュ! 衝撃で少女がぷっと吐き出される。
「じょ、冗談じゃんかぁ」
『冗談に見えないっ!』
 一同総ツッコミである。
「赤シフールって旨いかと思ったのに‥‥」
 ヤバイ、半分本気だ。
 余談であるが、この一件以来ララァは『赤シフール』と呼ばれるようになったそうな(マテ)。

 と。
「うぅっ‥‥腹がぁ‥‥ド、ドクター‥‥」
 突然フィーが、腹を押さえ苦しそうな表情で蹲った。ネフェリムに向けて、手をフラフラと差し出す。
「むむっ、これはいけませんね‥‥先程の肉にあたったのではないでしょうか」
 ネフィリムは駆け寄ると、フィーを床に寝かせ、青年に告げる。
「やはり、モンスターを食べるのは無謀なんですよ‥‥」
「そんな、俺は全然平気なのにっ」
「これは私の魔法では手が出ません。申し訳ないですが、薬草を買ってきて貰えますか?」
「‥‥わ、わかったよっ」
 流石に責任を感じたのだろう。青年は家を飛び出した。

 青年が家を飛び出してすぐ。建物の影から、何者かが飛び出して青年に向けて矢を放った。完全に不意を突かれて棒立ちの青年の眼前を、鏃が通り過ぎる。
「ああ〜ら、ジャイアントラットじゃなかったのね? ごめんなさ〜い。その匂い、すっかりカンチガイしちゃったわ」
 と、悪びれずに言い放ったのはドロテーである。
「なっ‥‥」
「そんな異臭をぷんぷん放ちながら歩いてると、他の冒険者にも襲われちゃうわよ〜? 日も傾いて姿もよく見えなくなってきたことだし、気・を・つ・け・て・ね!」
 涼しい顔で女が言う。そこまで聞いた青年は首を傾げて、おかしいという表情をした。
「‥‥チョット待てよ。今まで何度も冒険を繰り返してきたけど、他の奴に襲われた事なんか一度もなかったぞ?」
「え‥‥」
「異臭ったって‥‥そこまで酷ければ、兄貴が黙ってる筈がないよっ」
 流石にこれは無理がありすぎたか。確かに青年は、これまでにも何度も冒険を繰り返してきた、いっぱしの冒険者なのである。女の言う事が正しければ、同様の事件が今までに起こっていなければおかしい。
「ひょっとして‥‥」
 疑念が頂点に達した青年が、踵を返して家のドアを開けると、ついさっきまで苦しんでいた筈の男が驚いた顔で青年を見つめていた。
「‥‥仮病かよッ!!」
 一同が青年の家を追い出されたのは、それからすぐの事だった。


●華国より愛を込めて
 野菜屑と鶏がらを抱えた操 群雷(ea7553)が兄弟の家を訪れたのは、翌日の夜。
「なんだよ、また兄貴の差し金だろ? 俺は用はないよっ」
「イヤイヤイヤ。ワタシ用あルのアナタ違うネ」
 すっかり臍を曲げた青年に、群雷は涼しい顔。兄を捕まえると、持参した食材を手渡した。
「今夜ノ当番、お兄さンネ。ワタシお兄さンの横で指導するアル」
「いや、料理は得意では‥‥」
「お兄さン、弟さン治しタイなら家族のアナタ作るの一番ヨ」
 ドワーフの料理人に機先を制され、ペースを握られた男は、言われるがまま厨房に立つ。
「剣の代わリに包丁持ッテ。手つき覚束なくテも構わんアル」
 隣で指導をしながら、男は愛嬌たっぷりに微笑んだ。

 ややあって。
「お待タせアル。『華国風フォン・ド・ボライユ』アルヨ〜」
 食卓で憮然としていた青年の前に流れてきたのは、食欲をそそる香り。見れば、食卓には温かなスープが出されていた。
「‥‥すげえ。これ、兄貴が?」
「いや、なかなか難しかった」
 思わず感嘆する青年に、照れくさそうに応じる兄である。
「ドゾドゾ、冷めル前に頂くアルヨ」
 男に進められるままに、スプーンで一口。思わず青年の口から出た言葉は。
「‥‥旨い‥‥」
「コレ、お兄さン日頃自分の背中護テくれル弟さンに感謝ノ気持チ込めテ作タネ。ソ、愛情コソ料理を美味しくスル至高の調味料アル」
「ありがとう、兄貴‥‥」
「いやぁ」
 思わずくすぐったそうに照れ笑いの兄だ。
「トコロで弟さン。アナタの料理でお兄サン笑顔になタ事アルか?」
「え‥‥?」
 男に尋ねられて、青年は言葉に詰まった。言われて見れば、兄の笑顔を見たのは、いつの事だっただろう。
「このスープ基本はゴミね。究極の味求めル。ソレ勿論ありアル。ただ自分満足させるニハ、まず相手満足させネバならないアル」
「‥‥」
「アナタの料理は単ニ刺激的な味覚への偏愛アル。三千年の歴史誇ル華仙教厨士としテ耐え難いアルよ」
 確かに、青年は自分の都合しか考えてはいなかった。昨日来た少年も言っていたような気がする。少しでも我慢したらどうだ、と。あの時は、色々とあってその事に関してはあまり考えられなかったが‥‥
「兄貴、ゴメン。俺、間違ってたね‥‥」
 黙りこんだ青年を見て、男は言葉を続けた。
「『華国人は四つ足は机以外全部食べる。二本足で食べないのは両親だけ』コレ華国人の食の貪欲サ表した言葉アル。故に蛇オッケー。猿オッケー。究極は秘密アルガ」
 男はそう言ってほくそ笑む。
「どシテモこの国の料理ダメなら華国いらしゃいアル。誰もアナタ変に思わないアルネ〜」
 群雷の言葉に、青年は嬉しそうに笑った。


 その後。
 青年が人前でモンスターを食べたりしなくなった、と言ってギルドへ丁重な礼状が渡された。ただ、旅費を貯めると言ってお金に細かくなり、またもや兄の頭を悩ませているとか。
 礼状の最後に『酷くなったらまた宜しく』と書き添えられていたらしいが、それはまた別の話。