蒼いうさぎ

■ショートシナリオ


担当:蜆縮涼鼓丸

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月16日〜11月21日

リプレイ公開日:2004年11月25日

●オープニング

 江戸より東に離れた、小さな山。近くの村ではよくうさぎを取りにいくところから「うさぎ山」と呼ばれていた。深い山ではない。子供たちも良く遊びに行ってはどんぐりを拾い、山ぶどうやアケビをかじり、川でキラキラする石を拾ったり、小魚やザリガニを捕まえたり‥‥。今の季節なら「さるなし」が子供たちのお気に入りだ。指でつまむほどの大きさで、つるりとした緑色の皮の下に柔らかな汁気のある果肉があり、かじると爽やかな酸味とちいさな種のしゃりしゃりした食感が味わえる。
 その日もガキ大将の茂助を初めとして子供たち5人ほどが山に入り、山遊びをしていた。
「あっ、うさぎ」
 一番年下のユリが指差した先に、白いうさぎがちょこんと両足をそろえてこちらを見ていた。良く晴れた日にぷかぷか流れていく雲よりも、もっと寒くなると空からずんずん降ってくる雪よりも、もっともっと真っ白だった。白うさぎは鼻を二、三回ひくひくとふくらませて耳を立て、考える風にちょっと首をかしげると、あっという間に回れ右して逃げてしまった。
「追いかけろ!」
 子供たちはうさぎの後をどんどん追いかけていく。大きな切り株のところで急にうさぎが見えなくなって、子供たちがそこにたどり着いてみると、子供がすっぽり入れるくらいの大きな穴があった。中は真っ暗だ。子供たちは顔を見合わせる。
「オレが行く」
 茂助がそうっと穴の中に身体を滑り込ませる。
 中は真っ暗だったけども、どうにか手探りで、腹ばいになって進む。
 外から他の子が声を掛けてみた。
「おおい。茂助ぇ。大丈夫かぁ?」
 茂助の声がした。
「大丈夫だぁ。うさぎはいないみたいだけど‥‥あっ」
 息を呑んだような声に、思わず外の子等が何事かと穴に近づいた。
「‥‥きれいだぁ。うさぎが光ってる。青くて、きれいだぁ‥‥うわあああああ!」
「も、茂助?茂助、おおい茂助ぇぇぇ!!」
 その後はいくら呼んでも茂助の返事は帰ってこなかった。残された子供たちは半泣きになって村に帰り、大人たちに顛末を伝えた。
 しばらくして、子供たちのいなくなった場に
「出してくれよぉ! 誰か!」
 と叫ぶ茂助の声がかすかに聞こえたが、動物達が耳をそばだてたほかは、聞く者はいなかった。

「だからあれほど子供だけで入っちゃいかんと言うたが!」
「いまさら言っても始まらねえ。したっけが、子供が入れるような大きな穴、本当にうさぎの穴だべか?」
「うさぎで無がったら蛇(くちなわ)か?」
「それもそったら大きな穴こさえる蛇は大蛇だんべよ」
「えらい事になってしもうた、どげんしたら良かっぺ?」
 額を寄せ合ってああでもないこうでもないと相談する大人たち。はたと一人が手を打った。
「山向こうの村で、火の玉の化け物を冒険者がやっつけたって話だ。きっと冒険者だったら大きい蛇なんぞ造作もなかんべよ」
「けんども、『ぎるど』ちゅうのは江戸にあるんじゃろう?誰が江戸まで行くんじゃ?」
「おれが行く」
 大人たちが一斉にまた表情を暗くした時、一人の子供が進み出た。まだ十にもならないような、色の浅黒い、ぼさぼさ頭の子供だった。いつの間にか村に住み着いた浮浪児で、名を九郎という。
「九郎がか?お前のような小童が、何するって?」
「馬を貸してくれ。おれ、江戸へ行ってくるから」
「たわけたことを抜かすでねえ。お前のような小僧っ子に大事な馬など貸せねえ」
「馬と茂助と、どっちが大事なんだよ! いい、もう頼まん!」
 走り出した九郎の足は速く、あっという間に見えなくなってしまった。

 江戸へ向かい常歩(なみあし)で馬を進めていた女武芸者が、道端に所在なげに突っ立っている子供を認めたのはそれから程なくしてのこと。
「坊主、こんなところで何をしておる?」
 女武芸者が声を掛けると、その子供、九郎は目をごしごしこすりながら鼻をすすった。
「急いで江戸に行かなきゃいけねえんだ。‥‥だけど、おれ、道が分からん」
 とうつむいて答えると、彼女は少し思案した後、
「江戸か。江戸ならばこちらだが、だいぶ遠いぞ? 急ぐなら、載せてやろうか?」
 と答えた。
「本当か?! ありがてえ、頼むよ、のせてってくれ!」
 子供の目がぱっと輝く。泣いたからすの変わりっぷりに女武芸者は苦笑したが、九郎の手を取り、ひょいと馬上に引き上げてやった。見た目よりも存外に軽いのが印象的だった。自分の背につかまるように言いつけ、一気に馬の速度を駈歩(かけあし)に上げた。

「てぇなわけで、こちらの方が今回の依頼人‥‥」
「いや、私ではなくこの子だ」
 ギルドの係員の説明をさえぎって、女武芸者は自分の背中に隠れている子をぐいと前に突き出した。
「これ、もじもじしておらずに名前くらいは自分で言わぬか」
「だってこんなに人間がたくさんいるなんて思わなかったんだよ! ‥‥あ、おれ、九郎。その、えーと、と、友達を助けに来て欲しいんだ‥‥お、おねがいしますっ!」
 九郎はぺこりと頭を下げる。
「私もここまで付き合うつもりは無かったのだがな。こやつ、威勢だけは良いが中身は子供だ。依頼の報酬がどんぐりでは、冒険者は集まるまい? ここは、少ないが私が出しておくゆえ、後ほど村の大人から返してもらうぞ」
「なんだよ、それ」
 頬を膨らませる九郎を尻目に、女武芸者は
「明日の朝、私はこの子を連れて出立する。どうぞお助けくだされ、よろしく頼む‥‥こら、お前も頭を下げんか」
 と九郎の頭をぐいと押し下げた。

●今回の参加者

 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1959 朋月 雪兎(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 二頭の馬が疾走する。蹄が地を叩き、土ぼこりが立つ。先を行く馬は女武芸者が手綱を握り、後ろから風月明日菜(ea8212)の馬が追う。風月の駆る馬上には、パラの朋月雪兎(ea1959)と、シフールのケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)が同乗しており、また先行の馬には女武芸者の他、依頼人の九郎と、ベェリー・ルルー(ea3610)、アルマ・カサンドラ(ea4762)の二人のシフールが乗っていた。アルマにはペットのロバがいたが、馬の速度にはついてゆけないため、依頼の間ギルドで預かることとなった。ひどい方向音痴のアルマにとっては、むしろ馬に同乗する方がよかったのだろう。ちなみに朋月もまた、とんでもない方向音痴であり、万が一この二人が馬の手綱を持っていたとしたら、目的地に着くのは三ヶ月も後のことになったかもしれない。
 馬は速いが、それなりに休ませなければならず、普段より重い荷重を背に載せているために思ったよりも速度は出なかった。が、それでもしかし、人の足よりははるかに早い。

「あの山の向こうの村におかよちゃんがいるですよね〜元気してるのかな〜☆」
 村に到着し、山の入口で馬から下りる直前、ベェリーが山を見ながらふと言った台詞に、女武芸者は首をかしげた。
「この辺りに来たことがあるのか?小さい詩人殿は」
「僕はベェリーですよ〜☆ 前にあっちの方に行ったです☆」
「ベェリー、か。私は鉄飛鳥(くろがねあすか)と言う。短い間だがよろしく頼む」
「俺はケヴァリムだよ〜ん☆ ガルゥおに〜さんって呼んでね♪」
 さらに横合いからにょっきり飛び出し、ウィンク付きで飛鳥に自己紹介するケヴァリム。
「これ、和んでおる暇は無いぞ、穴に案内してもらって早いところ子供を助けねばの。うさぎかうなぎか知らんが、まったく厄介じゃのう」
 年長のアルマは釘を刺したが、
「早く行きたい所だけど、準備はちゃんとしないとねー♪」
 風月の天真爛漫な笑顔にとりなされ。
 その場に馬を繋ぎ、一行は山へ‥‥茂助の落ちた穴へと向かった。

 九郎の案内した道は子供の使う道で、大人の飛鳥などは顔の前にはびこる小枝を避けたり払ったり苦労をしたが、集まった冒険者達はみな九郎と似たり寄ったりの背丈であったから苦労はなかった。たまに遅れてくる飛鳥を待ちながら進み、やっと開けた場所に出た。
「ここだよ」
 九郎が指差す。
 冒険者全員が腰掛けることが出来るほどの大きな切り株の根元に、ぽっかりと黒い穴が口を開けていた。
「兎穴なら他にも出入り口があるはずです、ちょっと周りを見てくるです〜☆」
 ふよふよとベェリーは荷物を全て置いてその場を離れ、別の穴を探した。
「あたしは‥‥みんなが帰ってくるまで、ここで待ってる。ちょっとは痩せたつもりなんだけど、やっぱりぎりぎりだし‥‥つっかえたら恥ずかしいしね。外で火を焚いて、何かあったかいものでも用意してるね」
「雪兎ちゃんの分まで俺、がんばっちゃうよ〜☆」
 ガッツポーズをとるケヴァリム。
 風月はそんなやり取りの横で小太刀にオーラパワーを使おうとしていたが、5、6分しか使えないものを今使う必要はないだろうと飛鳥に止められた。
「そっかー、そうだねー♪ 穴にはいってすぐ蛇が出るわけじゃないよねー♪」
 ベェリーは少し離れた場所で色付き始めた木々を見ながら飛んでいた。つるにぶら下がった紫のアケビの実が目に止まる。皮が割れ、割れた口からぷちぷちとした半透明の果実が見えている。思わず秋の誘惑に手を伸ばそうとしたが、思いとどまってぶんぶん首を振った。
「先に茂助くんです。楽しみとお風呂は後にとっておくです☆」
 アケビの根元を何気なく見下ろした時、そこに兎穴を見つけた。それが兎穴だと容易に知れるのは、ちょうど普通のウサギが出入りできる大きさなのと、入口に白い毛がついているから。ただ、それと一緒に、ベェリーの背丈の倍はありそうな長さの、蛇の抜け殻も落ちていた。
 あわててベェリーが仲間のところにその抜け殻を持って帰ると、アルマが一目で
「マムシじゃな」
 と見抜いた。
「藪の中に足を突っ込んで噛まれたりはするが、穴の中なら大丈夫じゃろう。丸呑みにされる心配もなかろうし、足音を聞けば普通は蛇の方から逃げてゆくものじゃから‥‥と、歩けるほど穴の中は広くないか。これは困ったのう、誰も解毒剤は持っておらぬし、ワシも解毒の魔法は使えぬし」
 それほど困ったようでもなくさらりと言うので、かえって他の冒険者が微妙に固まる。
 ふと、風月が辺りを見回して言った。
「‥‥あれー? ねえ、九郎君はー?」
「ホントだ、どこ行っちゃったんだろ? ウサギちゃんの話、もっと詳しく聞きたかったのにな〜。蒼く光るウサギちゃんだなんて、ちょっと普通のアニマルじゃない気がするんだな☆ 多分サンダービーストじゃないかなって思うんだけど♪」
「さんだーびーすと?」
 風月がきょとんと首をかしげる。
「体中に雷がビリビリしてる動物。でもジャパンにいたかなあ‥‥?まあ、もしそうだったとしても、むやみに脅かしたりしなければ大丈夫だと思うよん♪」
「そっか‥‥九郎君は多分その辺にいると思うから、あたしが探しておくね。みんな、気をつけてね?」
 朋月が言うと、他の冒険者達は頷いた。
「それじゃ〜皆さん行ってくるです〜!!」
 ベェリーが元気良く手を振る。ライトの魔法を使えるケヴァリムがまず穴に入り、続いて3人の冒険者が穴の中へと姿を消した。

 穴の中は真っ暗だった。シフールたちが飛ぶ空間の余裕はあったが、ケヴァリムのライトは6分しか続かない。灯りが消えるたびに玉突き事故が起こりそうなので、シフールたちもトンネルに小さな足跡を残しながら歩くことにした。もっともベェリーは持ち込んだ荷物が重かったので歩くよりほか無かった。これでは魔法も使えない。
 出発して程なく、足元に別の穴が開いているのを見つけた。どうも茂助は床を踏み抜いて滑り落ちたらしかった。光の届く範囲には茂助の姿は見えない。穴の底までは2m以上あるようだ。
「‥‥どーしよー」
 人間の風月はシフールの様に飛ぶ訳には行かない。かといってロープなしで降りるには穴は深い。顔を見合わせていると、
「こっちだよ」
 と、声がした。いつの間にか九郎が穴の向こうから手招きしていた。
「穴をぐるっと回って、こっちに来てくんない? ちっちゃい人は先に降りて待っててよ。別の道使ってそっちいくからさ」
「これ、おぬし、何故ここにいる? 子供の来る場所ではない、とっとと帰るのじゃ」
 アルマが強い口調で叱責するが、九郎は平然と答えた。
「だって、ここ、本当はおれの家なんだもん」
「「「「 え゛〜〜〜〜〜!! 」」」」
 トンネル内に驚愕の声がこだまする。

「だからさ、おれの家だって知られたら、みんな入ってこようとするだろ? だから蛇がいるって話の方が都合が良いんだ。中の案内はするから、早いとこ茂助を外に出してやっておくれよ」
 茂助が滑り落ちた先の穴で合流すると九郎はそんな話をした。こちらの穴は上の穴と違い、子供が歩ける大きさだった。
「でも、ホントに蛇がいるみたいですよ? 僕、ここの穴の別の入口で、白い毛と一緒に蛇の抜け殻を拾ったです」
「‥‥え? まさか、そんな」
 ベェリーに聞かされた事実に九郎は狼狽し、絶句する。
「あ、あのさ、その時白いウサギ見なかったか?」
「僕が見たのは、毛だけですよ〜☆」
「そっか‥‥。茂助たちが見たウサギ、あれ、おれの兄弟みたいなヤツなんだ。な、蛇見つけたら、やっつけてくれねえか? もしあいつが食われでもしたら、おれ、生きていけねえよ」
 少し泣きそうな表情の九郎の肩にアルマがぽん、と小さな手を乗せ、
「案ずるでない。もとよりそのつもりじゃ、危険じゃからのう。老い先短い老人よりも子供を先には逝かせんさ」
 年長者の貫禄でにやりと笑って見せると、やっと九郎も元の元気を取り戻した。

 九郎も一緒に、一行は再び茂助を探し始めた。足跡を追うのは一行の中に狩人がいるわけでもなく、得意な者がいるわけではなかったが、幸い、穴の土はそれなりに柔らかく、茂助の足跡を追うのは難しくなかった。割合に夜目の効く風月がオーラエリベイションで集中し、彼女を筆頭に大きくは無い草履の足跡を辿っていくうちに、はっとベェリーが仲間たちの足を止めた。
「しーっ‥‥何か聞こえるですよ?」
 言われて耳を澄ませば、確かに何か聞こえる。途切れ途切れに聞こえてくるそれが何かは分からなかったが、吟遊詩人の耳を持つベェリーだけはそれを「歌」だと認識した。こんなところで歌っているなら、歌っているのは確実に茂助だ。
「もう、案内はいらねえよな。おれ、先に外で待ってる。帰る道は分かるだろ?」
「ね〜ね〜、俺、一緒に行くよ☆ 帰り道でヘビちゃんが出るかもわかんないでしょ♪」
 ケヴァリムに言われて、九郎はう〜んと少し考えてから、
「じゃあ、蛇が出たら絶対やっつけてくれよ? おれ、蛇は怖いから」
 最後の方は小さな声で上目遣いに言う九郎に、うんうんうんと頷いて、ケヴァリムは九郎と共に出口に向かった。
 残された3人は歌の聞こえる方へ足跡を辿り進んだが、今度は風月が
「あれー?」
 と声を上げる。
「何じゃ、どうした?」
「ケヴァリムさんがいなかったら、明かり、誰も持ってないよねー?」
「‥‥‥‥あ」
「でも、なんか明るいよねー♪」
 足跡を追うのに下ばかり見ていて気付かなかったが、確かに辺りは明るかった。無論、ケヴァリムのかけたライトの魔法の効果時間はとうに切れている。全員が光がくると思われる天井部分を見上げると、そこは青白く斑に光っていた。足跡を追うのに十分なほど明るい。風月は目を細め、光っているものをじっと見つめる。
「きのこ、かなー? 珍しいよねー♪ あの辺なんか、子リスちゃんみたいだよねー♪」
「あ、もしかして茂助くん、これが蒼いウサギに見えたのかもですね☆」
「いずれにせよ、助かったのう。先を急ごうかの、もうすぐ近くにいるようじゃから」

 先に出口に向かったケヴァリムと九郎は、向こうに出口の光が見えてきたところで足を止めた。というよりも前を歩いていたケヴァリムが九郎の足を止めた。直感的に感じた違和感が命を救う事は稀ではない。ケヴァリムのライトの光が静かに照らす先で、床の模様が、細長い形でにょろにょろとずれていった。
「九郎くんは動いちゃったらダメだからねっ、俺と良い子のお約束☆ 俺はヘビちゃんを連れて外に出るから、あとから‥‥ってぇぇぇぇぇぇぇ??」
 ケヴァリムが素っ頓狂な声を上げたのは、九郎がいたはずの空間に九郎が居らず、代わりに黒いうさぎがへにゃりと伸びていたため。
 ‥‥ふわふわ。
 ‥‥モコモコ。
 目の前の危機さえなかったら、すぐにでも飛びついてなでまくり、ふわモコを堪能していたところだが、流石にそういうわけにも行かない。目の前にいるふわふわでもモコモコでもない長細いモノをどうにかしないと、後ろにあるふわモコは抱き抱きもなでなでも出来ない。ならば、やるべき事は一つ。
 ケヴァリムの体を一瞬金色の光が包み、スネークチャームの魔法が発動した。

「ただいまですー♪」
「あれ、ガルゥおにー、どうしたですか?」
 茂助を連れて風月やベェリーが穴から出てくると、ケヴァリムは火の側でのの字を書いていた。
「わあ、なんだかいい匂いー♪ 何かなー?」
 風月が火を覗き込み、覗き込んだ笑顔のままあとずさる。火の中に何か長いものが香ばしく焼けていた。
「穴の外に出たら誰もいなくって、とりあえずそのままヘビちゃんを火の中に飛び込ませてみたんだケド‥‥それよりも、あーっ、俺のふわモコちゃん、どこに行っちゃったのさー‥‥」
 涙目でひざを抱えたケヴァリムの側には一掴みのどんぐりが置き去りにされていた。

 うっかり焚き火を離れてそのまま迷子になっていた朋月を飛鳥が回収して戻ってきたのはそれから一時間ばかりあとのこと。茂助を村まで送り、飛鳥は立て替えていた金を茂助の家族から支払ってもらったが、ギルドへ依頼を出した肝心の九郎の姿は村のどこにも見当たらなかった。
 その後、行きよりもゆっくりと村を離れてゆく二頭の馬影を、山の何処かから黒と白の二羽のうさぎが見送っていた事を、冒険者達は知らない。