気分はセントウ!

■ショートシナリオ


担当:蜆縮涼鼓丸

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月27日〜10月04日

リプレイ公開日:2004年09月30日

●オープニング

 天高く馬肥ゆる秋と言うとおり、今日もお江戸は日本晴れ。空気の綺麗な朝は屋根に上れば遠く富士の山陰も見えるほど。しかしあの御山もひとたび怒れば灰や小石が降り注ぐ。
「その石を集めてほしいんでさあ」
ギルドの係員が冒険者に伝える。
「昔むかし富士の御山がどかんといった時に降らせた石、まあ軽石なんでやんすが、これが上物として良く売れる。流石に江戸に降ってきたのは灰ばかりでやんすが、もう少し富士に近いほうにいくと大きい石も落ちてきたそうですな。こちらのお客様は湯屋を営んでおられまして、体を洗うぬか袋と一緒に軽石も売ってる。てぇなわけで、ちぃと仕入れをお願いしたいと。なじみの村に話はついてて、物はそろってるってな話で。ただまあ、辺鄙なところにある村なんで行きかえりにたまに山犬やら小鬼やらが出るってぇことで、それでこちらに来られたってなわけでやんす。」
 小柄な湯屋のあるじが頭を下げた。
「冒険者の皆々様には造作もないことでございましょうが、どうぞお頼み申します。無論旅の汗はうちの湯でさっぱり洗い流していただいて、ついでに寿司と酒でもご馳走しますよ」

●今回の参加者

 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1959 朋月 雪兎(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea4458 七杜 風雅(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7122 神咲 空也(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「色々と注意をすべき事項がありそうだな‥‥」
 あごをさすりながら山下剣清(ea6764)がつぶやくと、他の冒険者達も頷く。
「例えば、どんな?」
 空の荷車の上からベェリー・ルルー(ea3610)が尋ねると、山下は真面目な顔で
「わからん」
と一言答えた。思わずこける面々。
「真面目な顔してるから何か考えがあるのかと思ったよ‥‥なんか真面目になって損した感じ」
 むっとしてみせる朋月雪兎(ea1959)は、荷車から警戒を続けていた。江戸から村までは荷を心配する必要はないが、小鬼や山犬がいつ来るかは分からない。旅人の糧食を狙って姿を見せることもある。用心に越したことはない。同じ理由で七杜風雅(ea4458)もまた少し離れて、こちらは後方から警戒していた。山下と、神咲空也(ea7122)は交代で馬に荷車を引かせ、歩いていた。神咲はぶつぶつと独り言を呟く。
「まったく、田舎から立派な侍になるべく江戸に出てきて、初めての依頼で頑張ろうと気合を入れていたのに、のっけからこれでは‥‥はぁ。そもそもなっしてわざわざまた田舎さ戻らねばなんねだべか‥‥切ねえなぁ、って、いやいや仕事仕事!」
 ぶんぶんと頭を振り、また前を見る。横は見ない。横を見ると山下の目に「ナンパ」の三文字が燦然と輝いているのが嫌でも見えてしまう。神咲は荷車の方を振り返り、荷車台にちんまりと座りつつ談笑しているシフールたちを眺めやる。
「なあ。ケヴァリムやベェリーはなんで飛ばないんだ?雨が降ってるわけでもないのに」
「だってー、(通訳中)」
『荷物が重いからね〜☆あ、俺のコトはガルゥおに〜さん、って呼んでね〜♪』
 ちなみにジャパン語が一切使えないケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)はシフール語での返答である。この依頼の間は、同じシフールのベェリーに通訳を頼んだ。そのベェリーにしても実はこの前までジャパン語のジャの字も判らず、イラスト付き単語帳を愛用していたのは内緒だったりそうでもなかったり(どっちだ)。
 ついでにいえば荷物が重すぎて身動きが取れないのは朋月も同じである。主な原因は小型の大仏。重量はシフール約30人分。ご利益もその分あればいいが。
「(通訳中)‥‥だ、そーです☆ あ、僕のライトシールド、空也さんと剣清さんにお渡しするです〜」
「へっ?貰ってもいいだか?」(思わず地が出る神咲)
「僕じゃ使えないですし〜」
「じゃあ何で持ってんだ?」(思わず突っ込む山下)
「‥‥乙女の秘密ですぅ☆」
 ケヴェリムはベェリーに通訳してもらわなければやりとりが理解できず、ただニコニコしていた。

 さて、予想外のことというのは起こるもので、朋月が道横の茂みに気配を感じ、龍叱爪を付けた右手で皆に注意を促すと、茂みから現れたのは山犬でも小鬼でもなく、妙齢の美女だった。黒髪はほつれ、汗で額にへばりついている。旅姿の美女は疲弊した様子で
「助けてください‥‥犬に追われて」
 と懇願した。
 その言葉の通り、美女の後を追って数匹の犬が現れ、牙をむいた。美女を庇うように朋月、神咲、山下が前に出る。馬がおびえないよう、荷車からは距離をとった。
 真先に刀を振り下ろしたのは神咲だった。
「まだ腕は未熟なれど‥‥てやああぁ!」
 遠距離からのソニックブーム。基本に忠実な、癖のない太刀筋から放たれた威力はきっちりと犬の鼻面へ命中し、まずは一匹がキャンキャン鳴きながら退散した。続いて荷車から降りた朋月も、飛び掛ってきた犬に応戦するが、威力の弱い龍叱爪と、比較的打撃に強い犬相手でこちらはやや苦戦気味となった。助けに入ったのは七杜。手裏剣を投げ、犬が威嚇に怯んだ隙に朋月と入れ替わるように移動する。刀を使う術に長けているわけではないが、冒険者として培ってきた経験がそれを補う。三度目に七杜の忍者刀が与えた傷で、犬は戦意を喪失し、逃げた。
 山下は美女を守るべく(決してナンパの為ではない)彼女の近くで目を配っていた(決して品定めをしていたわけではない)。それでいて犬相手に隙を作ることはなかったのはさすがと言うべきか。一瞬で鞘から刀を抜きざま斬り付け、致命傷には至らぬまでも犬を撃退するには十分な傷を与えた。
 こうして三頭の犬が傷を負って逃げ、残りも一緒に逃げていった。
「ありがとうございます、本当に助かりました。できましたら、この先もしばらくご一緒してよろしいでしょうか?女の一人旅で何かと難儀をしております、ご一緒していただけると本当に助かるのですが」
 美女の申し出を、嫌だ、というものはなかった。

 疲れているらしい美女を山下は馬に乗せ、支えるように自分も同乗し、世間話などをのんびりと始めた。
「おこん、か。良い名だ。目的地が同じというのもまた奇遇だな。それにしても若い女一人で旅をするとは、無茶をするものだ」
「連れがいたのですが、どこでどうしたものやら、はぐれてしまいました。道にも迷うし、本当に散々です。‥‥でも、おかげで山下様のような素敵な方とめぐり合うことが出来ました‥‥」
 おこんが山下を見る目は、なにやらぽーっと春の色。うっとりと身体を山下に預け、山下もこれはまんざらでもない。
「ねえ、ちょっと。おかしいんじゃない?」
こっそりと朋月が七杜に近づき、耳打ちした。
「いや、山下の旦那がブ男とは言わないけど、さっき会ったばっかりでアレは幾らなんでもおかしいよね?」
「確かに。だが、依頼に邪魔にならないのなら良いのではないか?」
「蓼食う虫も好き好きという言葉もあるし、弱いものを守るのは武士の務め、男の務めだからな‥‥」
 いつのまにか会話に加わった神咲は、そう言いつつも何故か遠い目になっていた。
 冒険者達(一部除く)が警戒を解くことはなかったが、そこから村までは何事もなく無事に進むことができ、一行は日暮れより早く村に到着した。

 村に入って最初の家を、おこんは「ここです」と指差した。
「お名残惜しゅうございます。皆様には本当に良くして頂いて‥‥お礼も何も出来ませんが」
「そんなことは気にしちゃダメなのです〜☆」
 ひらひら手を振りながらベェリーが笑った。
「俺に会いたかったら、江戸の冒険者ギルドを訪ねると良いだろう。おこんが会いたいと言うなら、俺は例えどんな遠くからでも駆けつけるからな」
「山下様‥‥」
「おこん、また会おう」
「山下様!」
「おこん‥‥!」
 ひし、と抱き合うその様は、まるで今生の別れのような騒ぎである。
『あー、同じ村にいるんだからそんなに盛り上がんなくても〜』
「ガルゥおにー、ほっといた方がいいよ〜☆」

 村の中ほどまで進み、目的の村長の家に着いてすぐ、納屋から荷車へと軽石を積みこむ。大人の頭ほどの大きさの石でも、見た目よりはずっと軽く、村長の話ではこのくらいの大きさなら水にも浮くらしい。
 一晩は村長の家に泊めてもらい、翌日出発することにして、その晩は心尽くしのキノコ料理やとれたての川魚をご馳走になった。川魚を取るのにはケヴァリムも釣竿を持って同行したが、逆に魚に引き込まれそうになるのを助けてもらったり、あまり良いところは見せられなかったようだ。それでも何とか釣り上げたオイカワは、香ばしい塩焼きに化けた。
 翌朝。麦味噌の少し辛めの味噌汁はウワバミソウの葉を具とし、そのむかごは湯がいて塩昆布と和えて玄米飯に添えてあった。また、地鶏の朝産みの赤卵を飯に溶いてかけ、一つまみ塩を載せて食べるのも、江戸の白米の飯とは違う野趣あふれる味がした。
 出発間際にケヴァリムはベェリーの通訳で、この辺りに毒蛇がいるか村長に尋ねてみた。スネークチャームで捕まえ、いざとなったら敵にけしかける心積もりだったが、
「のんびり魔法なんか唱えてる間に、お前さんのようなちっこいのはひと呑みだ」
 と笑われた。それにもし抵抗された場合、噛まれれば毒消しを持参しているわけでもなく、体の小さいシフールはたちまち毒が回ってしまうだろう。そもそも良く考えてみればケヴァリムは動物について詳しいわけではなく、毒蛇の見分けもつかない。ここはすぱーんとあきらめて、行きと同じく、コントロールウェザーでの雨除けに専念することにした。
 山下は村長におこんへの言付けを頼もうとしたが、村長はおこんの事を知らなかったばかりか、そんな場所に家などないと言った。事実、村から出るときに一行がおこんと別れた場所へ差し掛かってもそこに家はなかった。見間違えたのか、あるいは化かされでもしたか。首をひねりながらも一行は帰途に着いた。

 村から江戸への道は、行きより荷物が多い分足取りは遅くはなったが、ケヴァリムの魔法のおかげもあって天候にも恵まれ、また小鬼や山犬が出ることもなく順調に帰り着くことが出来た。
 依頼主の湯屋の裏手に荷車を止め、積荷を下ろす。秋口に差し掛かったとはいえ、昼の陽は仕事をするには暑く、全ての軽石を荷車から運び入れた頃には皆汗をかいていた。
「皆様、湯屋の一番風呂でございますよ」
 湯屋の主人の声に、6名は笑顔で湯屋の暖簾を潜る。右は女湯、左は男湯。男湯側の脱衣場で着物を脱いでいた山下の懐から、ぽろりと財布が落ちた。妙に寂しい音に不安を覚え、中を改めてみると、ただでさえ寂しい中身がいつの間にかさらに減っていた。
「なんじゃこりゃあ!おこんめぇぇぇ!」
 ひざをつき、天を仰ぐ山下。そんな山下を置いて男性陣はとっとと湯船に入った。厳密に言うと七杜だけはとっくに一番風呂で寛いでいた。実は楽しみにしていたらしい。
「ふぅ〜気持ちいいっぺよ」
 広い風呂からざぶりと湯がこぼれると、ついお国訛りが神咲の口から出る。隣の女風呂でも朋月とベェリーが女同士の話に花を咲かせていた。
 毒食らわば皿までの心境か、心の痛手から立ち直った山下はほかの男性陣に止められつつも間仕切りによじ登って女湯覗きを敢行したが、直後、何か恐ろしいものを見たらしく、湯船に落下したまましばらく動かなかった。
「乙女の柔肌はそう簡単には見せないです☆」
 とはファンタズムの使い手であるベェリーの言。この際胸の大きさは関係ない。そういうことにしておこう。

 さっぱりしたあとは湯屋に隣接した主人の家に案内され、お待ちかねの寿司は江戸前の、漬けまぐろ、あじ、あなごなど。柔らかな煮だこは味が染みており、いかのげそも炭で焙って香ばしく仕立ててあった。朋月が気に入った玉子焼きはほっこりと甘みがあり、ほろほろと口の中でほどけていくような歯ごたえは、芝えびのすり身を種に加え、手間ひまかけて作るからこそ。寿司飯も新米の時期であり、艶があって旨い。ベェリーが提案した温泉卵も、こくのある黄身の味と出汁醤油が絡み合い、良い具合になっていた。
 酒を飲むものあり、笛や歌を興じるものあり。
 秋の夜は賑やかに更けていった。