【桜花絢爛】 京都の夢は夜開く

■ショートシナリオ


担当:蜆縮涼鼓丸

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:15人

サポート参加人数:11人

冒険期間:04月16日〜04月19日

リプレイ公開日:2006年04月24日

●オープニング

 八坂神社の奥のほうに、大きな枝垂桜の木がある。
 桜の咲く時期には廻りに篝火を焚き、いくつもの縁台を並べて人々が集い、花見を楽しむ。
 春の闇の中、はぜる炎の朱に照らされた花は、昼のやわらかな陽光の下での清楚なたたずまいとはがらりと趣を変え、くちびるに紅を差した大人のおんなのような艶やかな装いで、見る者の魂に囁きかけ、魅了するのだ。

 楽しみましょうよ。
 この春を。この夜を。
 同じ時など、二度と巡ってはきませんよ。

「冒険者の方を、募りたいのです。このごろは柄の悪い者が折角の花見に迷惑をかけることが多いので、沢山の冒険者が花見に参加することで、そういった連中の抑止力になっていただければと」
 依頼人の若い男は語る。
 そして、参加する冒険者のためにと、花見のしおりなる紙を置いて行った。

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<お花見のしおり>

ご挨拶

 桜花爛漫の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。春の陽気に誘われて桜の花も美しく咲き誇り、今年も花見会を行うこととなりました。各種露店も出る予定ですので、ご家族、ご友人お誘い合わせの上でぜひお越し下さい。


 日程:神聖暦1001年4月吉日
 会場:八坂神社奥、枝垂れ桜周辺
 入場:無料

 ご注意
 ・飲食物の持ち込みはできますが、ご利用の際のゴミは持ち帰るようお願い致します。
 ・会場内への危険物の持ち込みはご遠慮下さい。
 ・ペットの連れ込みはできますが、種類によっては係員の判断で入場をお断りすることがあります。
 ・会場内での飲酒の際は、他のお客様のご迷惑にならないようお願い致します。
 ・桜の樹は大変繊細な生き物です。樹や花にはお手をふれぬようお願いします。
 ・桜の精が現れましても、騒がずにご対処ください。
 ・その他、危険行為や迷惑行為はおやめください。

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●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2313 天道 椋(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3983 花東沖 総樹(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

フェネック・ローキドール(ea1605)/ イチイ・カーライル(ea3377)/ ドナトゥース・フォーリア(ea3853)/ アデリーナ・ホワイト(ea5635)/ 柳 花蓮(eb0084)/ 藤袴 橋姫(eb0202)/ 風雲寺 雷音丸(eb0921)/ 空流馬 ひのき(eb0981)/ フィーナ・グリーン(eb2535)/ 榊原 康貴(eb3917)/ ヨシフ・イゴーリ(eb4636

●リプレイ本文

●ラウンド1 おにぎり
 宵の口にして既に、大きな桜の樹の周囲には、あちらもこちらも花見の宴席が花を咲かせていた。昼間は多かった親子連れも日が傾くに連れて姿を消し、
 その中に冒険者の一団も混じっていた。
 冒険者達は一つの重箱を取り囲んでいる。重箱にはおにぎりがぎっしりと並べられていた。
「一番ーッ!」
 気合を入れてぐわしと握り飯を鷲掴みにしたのは白河千里(ea0012)。そんな白河に頭痛を覚えたような顔でため息を一つついて、天螺月律吏(ea0085)もすぐ隣のおにぎりを一つ手に取った。
 続いてひらひらと蝶の羽を羽ばたかせながらケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)が慎重におにぎりの品定めを始め、
「これだっ!」
 と満面の笑みで自分の頭よりずっと大きなそれを引き抜いた。
 鷲尾天斗(ea2445)がおにぎりの詰まった重箱に身をかがめると、身に着けた豪華なマントの装飾が篝火の炎にいや映える。鷲尾が選んだのは少し形が崩れたもの。早速一口かじり、大樹の梢を見上げると、もぐもぐと口を動かしながら目を細めた。
「いやはや…さすがは古都の中でも名高い一重白彼岸枝垂れ桜。眼福眼福」
 八幡伊佐治(ea2614)、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)は無造作にそれぞれ一つを選び、『フトシたん』こと太丹(eb0334)は残りのおにぎりを穴が開くほど睨みつけると、その大海の如き胃袋が彼に何かを囁いたのか、深く一回頷いてから、厚みのある掌におにぎりの一つを載せた。
 デュランダル・アウローラ(ea8820)は無言をしばらく続けてから桜の枝を眺め、そのままおにぎりを見ないようにして一つを摘んだ。
 所所楽銀杏(eb2963)はためらいながらおにぎりを選んでいる。ちらり、と見やる先には彼女の荷物を引き受けた天道椋(eb2313)の姿があり、目が合うと、天道はにこりと所所楽に微笑を向けた。所所楽も嬉しそうな笑顔を返すと、今度はためらうことなくひょいとおにぎりに手を伸ばした。
「みんな、取ったかしら? じゃあ、中のおみくじを出してみて」
 花東沖総樹(eb3983)の音頭取りで、一斉におにぎりが割られ、中から小さく堅く筒状に丸められた紙が取り出された。
 ぱらりと白河が開いた紙を天螺月が覗き込む。
「林檎のお菓子の吉有り、なあ」
「そう言う律吏はどうなのだ?」
「私か? ‥‥蜆汁時々眠気に注意、だそうだ。なにやら印もついているが」
「印は、当たりってこと。特別に私が一芸を披露してあげるわ」
「ほう、それは楽しみだな」
 花東沖の注釈に天螺月が頷くと、花東沖はなぜか、悪戯っぽい微笑を浮かべた。
 太が八幡にオヤビン、と呼びかけた。
「自分はペットたちに愛される吉っす! オヤビンはどうだったっすか?」
 しばらく手元のおみくじを見つめ黙りこくっていた八幡は、不意にくっくっくと笑い声を漏らした。
「‥‥勝負運はその手に有り! というわけで悪いが今日の勝負は貰ったぞ、ちーたん!」
「ふっ、勝負は蓋を開けて閉めるまでは判らぬものよ!」
 白河と八幡の間に火花が散る。
 フィーナもそっと小さな巻紙を広げて文面に目を落とした。今日の彼女は和装である。花東沖に着付けてもらった桜色の着物に、枝垂桜が白く染め抜かれた黒地の帯。銀に輝く髪を結い上げ、かんざしで纏めているその姿は、二つ名の「枝垂れ桜の君」に相応しかった。
「桜の花舞い散る吉」
 読み上げて、ふふ、と笑めば、猫のコロチンがにゃあんと鳴いて、フィーナの膝にじゃれ付く。
「俺俺〜、え〜〜〜っとねえ‥‥ナンパは桜色身につけると吉っ!! ‥‥って、えぇ?」
 ケヴァリムはぽりぽり頭をかいた。
 鷲尾のおみくじはこうだった。
「勝負運は蜆汁の中に有り」
 ‥‥ぽむ、と鷲尾は手を叩き、ケヴァリムに言う。
「交換するか?」
 真顔である。
「え〜? でもおみくじって交換したら意味が無いんじゃないかなあ?」
 渋るケヴァリムに、鷲尾はまあまあとか何とか言いながら半ば強引に自分のおみくじと交換させてしまう。
 やや呆然としながら、ケヴァリムは交換したおみくじをしばらく眺めながら考えていた。が、そのうち、
「ま、いっかぁ☆」
 ‥‥納得したようだった。
 所所楽はおみくじを読み、自分の連れてきた仔狼とかわるがわる見比べる。おみくじの内容は、
「ふわふわもこもこ大吉」
 わずかに首をかしげると、所所楽は既に遊び疲れて眠たげな仔狼の梁太をそっと抱き上げ、とてとてとケヴァリムの方へ向かう。ケヴァリムもまた仔狼を連れてきていた。
「梁太、ほら‥‥がおくん♪は、仲間の狼さん‥‥仲良くする、ですよ?」
 梁太とよく似た仔狼は、ケヴァリムの同行者のフェネック・ローキドールにテレパシーで説教されている最中だった。梁太は尻尾を振ってケヴァリムの仔狼の臭いをふんふんと嗅ぎ、がおくん♪もまた同じように尻尾を振って応えた。
「ふわふわもこもこ、ですっ‥‥」
「うん、ふわもこだね〜♪」
 二人の飼い主は幸せそうな顔になった。
 ウィルマ・ハートマン(ea8545)も自分の犬を連れてきてはいたが、やはり狼とは少々相性難らしく、ともに遊ぼうとはしなかった。
「そういえばこいつの名前を決めてなかったな」
 何気なく呟いた。
 もぐもぐと、割った後のおにぎりをかみ締めながらデュランダルの開いたくじには
「春毛寄り:謎」
 の文字と、何かの印が。
 口の中の米粒を一つ残らず飲み下してから、デュランダルはこれはどういう意味か、と花東沖に尋ねた。
「それはね、こういうこと」
 デュランダルを座らせると花東沖はすかさず理美容用品を一式取りだし、デュランダルは訳のわかっていないままに化粧を施されてしまった。透けるような白い肌に、赤い口紅が良く映えた。
「ああ、なるほど。では私もだな」
 同じく当たりくじを引いた天螺月は不敵な笑みを浮かべた。こちらはどこか楽しそうな風情で花東沖に化粧をされて、眉毛をきりりと引き、目鼻立ちのくっきりとした男前の顔が出来上がる。しかも用意周到なことに、天螺月はイチイ・カーライルに用意させた男物の洋装を持ち、人気の無い場所で白河に見張らせつつ着替えを完了する。美しい赤のマントを羽織れば、美しき異国の王子のようだ。
「あのな、新婚の夫に自分の着替えを見晴らせてどうする‥‥しかし、化けたな。当たりを引かなくて良かった」
「引くまでも無く、普段から十分女顔だしな」
「‥‥堪忍しとくれやす〜!」
 しれっと言い放つ新妻に、涙する夫。夫婦の安泰は約束されたようなものである。

●ラウンド2 呑み比べ
 宴には料理がつき物であるが、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は和洋の菓子、井伊貴政(ea8384)はばら寿司や刺身、酢の物、煮物に蓬団子と、榊原康貴の手を借りて一通りを作った上に、持ち込んだ七輪で味噌汁まで作っていた。
「お酒も入ると思うのでー、二日酔いなどに効くとゆー『蜆』と、臓腑に優しいとゆー『味噌』で汁を作ります〜。これで深酒も大丈夫ー」
 ばら寿司も季節の野菜をふんだんに取り入れ、桜の花の塩漬けを飾りに使って、色鮮やかな、見るからに花見の弁当らしいものに仕上がった。
 今回参加した女性陣はなぜか料理が不得手な者が多く、姉に止められていますから、とか、西洋菓子以外は得意ではないので食べる側に、やらで。唯一所所楽だけが、どん、と料理を用意した。‥‥多分料理だろう。妙に形が大振りでいびつな、おにぎりに近い、何か。
「すごいたくさん作ったねえ、がんばったねえ銀杏ちゃん」
 笑顔の天道に、うん、と頷く所所楽。天道は何を気にする風でもなく、その一つにぱくりとかぶりついた。
 天道の顔ほどもあるそのおにぎりの中には、丸められた一本の沢庵が突っ込まれていた。切ってません。天道は笑顔のまま、ぽりぽりと食べ続ける。
「椋さん、美味しい、ですか‥‥?」
 じっと見上げる所所楽の頭にぽふんと手を載せ、
「すっごく、おいしいよ」
 天道は笑った。そのまま所所楽の頭をくしゃっと撫でて、さらに何回も撫で続ける。少々酔っているらしい。そんな天道の顔を所所楽もまた飽きることなく見つめていた。

 その向こうでは白河と八幡の声かけで呑み比べが始まっている。
 めいめいが酒の入った酒器で桜の花びらを捉え、捉えた者は誰かを指名し、指名された者は自分の酒器に入っている酒を飲み干す、というルール。参加者は白河と八幡の他、ケヴァリムと花東沖。思い思いの器を手に、せーの、で散る花びらに手を伸ばす。唯一ケヴァリムはシフールの飛べるという特性を生かして空中戦を試みた。竹の一節を割った、薄い皿状の器の酒をこぼさないように飛ぶのは、これはこれで難しい。だが最初に花びらを酒に浮かべたのはケヴァリムだった。
「んふふふ、指名いっきまーす☆ 白河くん、どうぞー♪」
 むう、と呻いて白河は自分の大振りの汁粉椀の酒を飲み干す。
「大丈夫、ほんのり昨夜の汁粉の風味が残ってる」
 言い張るが、多分気のせいだ。
 その次に喜びの声を上げたのは花東沖。彼女の器は『さくら酒器』と銘打たれた、これで呑めば桜の味がするという逸話のある漆塗りの杯だった。指名は八幡。
 八幡の器は──重箱だった。
 ちなみに八幡は酒嫌いである。酒嫌いが酒飲み大会を主催することを、一般的に酔狂と呼ぶ。
 これで少々酩酊度が増した八幡だったが、更なる悲劇が襲い掛かる。
 一陣の風が吹いて、花びらを散らした。ここぞとばかりに手を伸ばしたケヴァリムをさらに風が吹き飛ばそうとする。桜にぶつかりそうになり、あわてて方向転換したケヴァリムが、あれ? と思ってふと見ると、八幡が頑張って涼風扇で仰いでいた。ケヴァリムがあっちへ行けばあっちを、こっちに向かえばこっちを仰ぐ。試しにケヴァリムがまっすぐ八幡に向かって飛んでみたところ。
 ぽて。
 こけた。
 今回のルール、実はもう一つあった。酒をこぼしたものはその場で3杯、一気飲み、というものである(一応お約束として、良い大人は一気飲みなどしてはいけない、良い子はそもそも酒を飲んではいけない。と付記しておく)。
 一杯目、ほんのりと赤かった顔が真っ赤になり、
 二杯目、目の焦点が定まらなくなり、
 三杯目、倒れた。
 そんなわけで負けた八幡は罰としてその膨大な酒代を支払う羽目になりましたとさ、どっとはらい。

●ラウンド3 桜の精
 しゃらん、と鈴の音が響いた。
 見れば、桜色の白拍子装束に身を包んだ一団がこちらへ来る。薄く透けた紗を被っているので顔は良く見えないが、数人のその中ほどに、子供の背丈のものが一人混じっていた。
 その一団が進むにつれ、その神秘的な雰囲気のせいだろうか、人ごみは不思議にさあっと左右に分かれて道を譲った。やがて立ち止まった一団の周囲は広場のように開けて、人々が遠巻きに輪を作る。
 一人の白拍子が舞い始めた。蝙蝠扇を広げ、緩やかに、風のように。桃色の薄絹が、動く度に柔らかにたなびくさまは、枝垂れ桜の花枝が風に踊るのにも似ていた。
 しかし、そのとき酔漢が一人乱入してきた。酔漢は風流とは縁の遠い人間らしく、いきなり白拍子の手をつかみ踊りを止めさせ、そのまま白拍子に抱きつこうとする。白拍子が取り落とした蝙蝠扇を男は踏みつけ、白拍子は短く悲鳴を上げた。
 がちん、と男の手首が煙管で打ち据えられ、その痛みに思わず男はつかんでいた白拍子の手首を離し、うずくまった。急に手を離されてバランスを崩し、倒れる白拍子の細い体を誰かが受け止めた。
「桜花の如き美しいお嬢さん‥‥お怪我はありませんか?」
 赤い髪と万華鏡のような不思議な右目の持ち主に、白拍子は少し頬に赤みを注しながら頷いて見せた。
「風流が判らないってのは悲しいねえ。怪我しないうちにとっとと消えな」
 傾奇者のなりをしていてもその実鷲尾は新撰組隊士である、腕は確かだ。だが酔漢はそれすらも理解できないほどに酩酊していたらしい。
「なんだっとおぉこのや、ろおぅ」
 千鳥足ながら鷲尾に掴みかかってくる。
「いい加減になさいませ」
 じゅっと言う音とともに悪臭が漂った。男はひいっと叫ぶ。結った髷が燃え落ちた。
 赤く輝く右手を掲げ、アクテが素敵な笑顔で言った。
「でないと、お顔の形が変わることになりますわよ?」
 たちまち男は恐怖して逃げ去った。
「仲間が危ない所を‥‥お礼申し上げます」
 見守っていた白拍子の、最も格上らしい一人が冒険者に向かい頭を下げた。
 冒険者達に勧められ、桜色の白拍子たちは宴の席に加わり、冒険者達の一芸などを楽しんでいたのだが、いつの間にか忽然と姿を消してしまっていたのは不思議なことだった。ただ、先ほど酔漢に踏み壊された蝙蝠扇だけが、いつまでも残っていた。

●えぴろーぐ
「枝垂桜を見ると一年前、律吏の屋敷で共に見た枝垂桜を思い出す‥‥高所が苦手な私を引きずって屋根に登り、桜は上から見るとまた格別だと言ったな?」
「ん? そういう事もあったな」
 夫婦水入らずの夜明け前の時間を、お互いの身体の温もりを感じながら過ごす白川達。天螺月が呟く。
「江戸の屋敷の桜も今頃見頃だろうか?」
「きっとそうだな。‥‥来年はどこで一緒に桜を見ているのであろうな‥‥」
「来年?」
 問い返して天螺月はそっと良人に唇を寄せ、囁いた。
「そうだな、また来年も。その次の年も、一緒に‥‥な?」
 白河は目を閉じた天螺月の頬を軽く掌で包み、互いに唇を封じることで約束にした。

 酔いつぶれた後、一度蜆汁を口にしたもののそのままいびきをかいて眠ってしまった八幡が
「蜆最高〜」
 などと寝言を言っているのを横目で見ながら、未だ化粧のままのデュランダルは風雲寺雷音丸と共にせっせとごみを拾い集めていた。
 太は所所楽の不思議おにぎりを完食した後、ふらっと立ち上がってそのまま戻ってこなかった。翌日、井戸が一つ枯れているのが発見されたが、関係あるかどうかはわからない。
 所所楽は天道に、秋に紅葉狩りに一緒に行くことを指きりしてもらった。
 ウィルマは傍らの犬に告げる。
「ふむ・・・。犬、お前の名前を思いついたぞ。今日からお前は『桜』だ」
 山本佳澄(eb1528)は名残惜しげに、ああ楽しかった、と呟いた。

 桜の花は後は散るばかりだけれど。
 変わるものも変わらぬものも世にはある。
 桜の木はまた来年も、楽しみましょうよ、と笑まうのだろう。