ツヅリカタ × にゅーいやーどりーむず

■ショートシナリオ


担当:蜆縮涼鼓丸

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2007年01月11日

●オープニング

 なまめかしい笑みを形の良い口の端に浮かべ、女はギルドの係員に顔を寄せた。
「そんな訳だからよろしく頼むさね」
 言い置くときびすを返し、長い黒髪をふわりと揺らし、颯爽と立ち去る。
「‥‥ああ、今のですかい?」
 ギルド係員の小男が、別に暑くもないのに滲んだ汗を拭きながら振り返る。
「ものかきのセンセ、ってヤツでさあ。最近腕が鈍っているようだから、ひとつ腕磨きに初夢の話を聞かせてくれ、読み物に仕立ててやるから、なんて事で。懇意にしている風呂屋の二階を借りたんで、初湯のついでにちょいと一杯いきながらどうだ、って話で、まあ年明け早々から血生臭い仕事はしたくねえって方にゃおあつらえ向きの仕事かも知れやせんがね」
 先ほどから側でくっくっと笑いを堪えきれない、青い目の侍が同行するという。

 夢などというものは形も無く、目が覚めれば忘却の彼方に日々置き去りにされると相場が決まっている。
 夢など見ない、という御仁であれば、こんな夢を見たいという話でもしたらよかろう。
 新しい年の夢語り、綴ってはみないか。

●今回の参加者

 ea0109 湯田 鎖雷(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5601 城戸 烽火(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9249 マハ・セプト(57歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 eb3891 ヴァルトルート・ドール(25歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4629 速水 紅燕(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

暮空 銅鑼衛門(ea1467)/ グラス・ライン(ea2480)/ ネフェリム・ヒム(ea2815)/ ヨーコ・バン(ea7705)/ 若宮 天鐘(eb2156

●リプレイ本文

●けふのゆめおほさかのゆめ
 しゃっきりと新年らしい正装を着こなした湯田鎖雷(ea0109)は、目の前に山積みにされた黄金色に目を細め、笑いが止まらない。黄金色と言ってもお代官様に桔梗屋が渡す重くて硬い黄金色ではなく、ふんわりと甘い黄金色のかすていらだ。
「実を言えば年始にと貰ったものの、量が多かったのでな。まったく、うちは人が多くないのだから程ほどの量で良いと、幾ら言っても聞かぬのだ」
 苦笑しながらアーヴィング・ホークアイ(ez0035)が湯田の杯に幾杯目かの酒を注ぐ。
「ししし師匠っ、酌は拙者が仕るゆえどうぞ徳利をお置き下されっ!」
「ノープローブレーム、アーンド、今度はミーのターンねー!」
「騒がしい二人組だな‥‥」
 側で喚かれたカイ・ローン(ea3054)は思わず耳を押さえ、湯田も苦笑する。
 騒ぎの主は、かすていら職人の依頼で遭遇率が高い、ジョージという侍モドキに光(みつ)と名乗る吟遊詩人風味。
 なんでコイツらがここに居るのかと言えば、侍志願のジョージにとって、同じようにジャパン人でない身ながら、実際に武士に転職を遂げたアーヴィングは『師匠』と呼ぶべき存在なのだとかで、先ほどのかすていらを持って来たのもジョージらしい。
 そんな騒がしさを一向に気にしない者も一人。ヴァルトルート・ドール(eb3891)は一心不乱におせちを食べ続けている。一見妙齢の女性であるが、食べ続けている様はあたかも彼女のペット、スモールヒドラのグリューンがえさを丸呑みする姿にも似て、万一恋仲の相手に見られでもしたら、百年どころか一万年の恋も一瞬に冷めるのではないかという素晴らしい食べっぷり。
 なおかつジャパンの正月料理がよほど珍しいのか、ヴァルトルートは口にものをほおばりながらも、一々料理の名を尋ねたりなどしている。冒険者達を招いた、ものかきの姐さんも面白そうにそれに付きあってやる。
「もごもご? (これは?)」
「黒豆。まめに暮らせるように、って願掛けだね」
「もふー? (これは?)」
「海老さね、見りゃあ解るだろうに。腰が曲がるまで丈夫で居られるように、ってのと、赤は魔よけの色だからって話もあったかねえ」
「もごうご? (こっちは?)」
「ああ、そっちは御節じゃあない、餅だよ」
「ごふうっ!?」
「‥‥ん?」
 言葉の意味を掴みかねた姐さんの目の前で、ぱったり倒れるヴァルトルート。どうやら餅を喉に詰まらせた模様。新年早々、ドジッ子ぶりをアピールしたのでありました。
「まあ、お題は貰ってあるし、後で読みゃあいいね。先に他のを読もうか」
 姐さん、湯屋の奉公人に介抱されているヴァルトルートを横目で眺めつつ、書いた夢物語を広げてさっさと読み始め‥‥。

●けんかをやめて
 城戸烽火(ea5601)は誰も居ない古城の天守閣で、愛しい人を待っていた。薄闇はしんとして、空気は冷え切って寒い。しかし、遠くに離れ離れになっていたあの人との、久々の逢瀬への期待は、城戸の胸の中で熱く燃えて、その熱があれば氷の中ですら耐えられそうに思うのだった。
 はっと人の気配に振り返ると、城戸のすぐ後ろに立っている人影。人影は城戸に襲い掛かる。忍びとしての技術はまだ未熟な城戸、不意を衝かれてなすすべもなく組み敷かれる。だが、城戸は抗おうとしない‥‥その人影に、見覚えが‥‥例え忘れたくとも忘れられるはずもない、あの人の面影。どんなに暗くても、わかる。
 笑みを薄く浮かべ、愛しい人はゆっくり顔を近づけてくる。唇が今にも触れようと言う瞬間、城戸は目を閉じた。
 だが、甘い口付けの代わりに悲鳴が響き、城戸の身体の上から暖かな重みが消える。
 目を開け、咄嗟に身構える城戸の前に、一頭の白馬が立っていた。
「‥‥旋風?」
 愛馬の名を呼ぶが、その馬の額には尖った角が一本、生えている。乙女にのみ懐くと言う伝説の生物、一角馬だ。西洋ではユニコーンと言う名の方が通りが良い。
 一角馬は城戸を守るように立ちはだかり、角を『敵』に向けた。
『私の乙女に手を出すでない‥‥』
 その言葉に挑発されたか、相手もゆらりと立ち上がり、刀を抜いた。刀からは妖しい気が吹き出る。ぶん、と一振りすると、生まれた風は刃となって一角馬を切り裂いた。
 しかし一角馬の方もほぼ同時に凄まじいスピードで突撃を果たしていた。傷つけられた白銀色の身体から鮮血を迸らせつつも、その鋭い角の一撃が恋人のわき腹を深く抉っていた。ぽたり、ぽたり。音を立てて赤い雫がたちまち海になる。
「いけない、こんな‥‥駄目ですっ!」
 戦いを止めさせなくては。
 城戸は素早く印を結び、微塵隠れの術を発動させた。想いの深さが奇跡を呼んだか、城戸を中心に光の渦が周囲をゆっくりと飲み込んでゆき‥‥気が付けば辺りには城戸達の他、何もない。やがて朝日が顔を出し、三つの影法師が長く伸びた。
 城戸の手をそっと愛しい人の掌が包む。
 反対側の手には、旋風が柔らかな鼻先をこすりつけた。
 寄り添う三つの影は輝く朝日を浴びて一つになり、城戸は幸福感にうっとりと目を閉じた。

●紅い燕
 赤い鳥が飛ぶ。炎を纏って、風よりも早く、雲よりも高く飛ぶ。
 それは鳥ではなく、速水紅燕(eb4629)の姿だ。
「ああ、うち、飛んでるんやわ」
 無心に飛びながら、頭のどこかで考えている。まるで別の自分がいるようだ。
 どんな強い風にも消えることの無い炎は、むしろ風を受けてますます燃え盛る。
「どこまでいくんやろ、うち」
 ぼうっと考えながらも、飛ぶのをやめない。眼下には幾つもの町や村が飛び去り、畑があり、森があり、山が現れては後ろに流れて消え去った。川の流れは光を反射してキラキラと美しく輝く。河原に胡麻粒のようなものがるかと思って良く見てみれば、それは遊んでいる子供で、そういえばここにもかしこにも人間の姿を見かけることが出来た。街道に胡麻粒がぞろりと連なっているのはお殿様の道中か。
 横手に海を眺めながら飛び続けると、前に雪を被った高い山が聳え立つ。
 富士山だ。
 霊峰の名に相応しい荘厳な姿の山を、速水はさらに飛び越えて、さらに空高くへ、頭を向ける。
 雲を抜けると、夜が広がっていた。瞬く一千もの星に、呑み込まれそうな錯覚を覚える。
 だが、まだ止まらない。
 飛び続ける内に星はぐるりと螺旋を描いて速水を囲み、気が付けば速水はいつのまにか、今度は地面に向かって飛んでいるのに気付き、ぎりぎりのところで激突をまぬがれて水平飛行に戻る。
 おかしなことに、空は虹色に輝いていた。飛び続ける内にやがて明るさを増し、見慣れた青空に変わったが、もうしばらく飛び続ける内に夕焼けの赤に変わり、最後には夜空に淡く輝く月と星に成り代わった。
 眼下には見覚えの無い異国の町が広がっている。
 赤い屋根の建物を眺めながら、速水は、いつかこの場所を自分が訪れるかもしれない、という予感を覚えていた。

●腹を割って話しましょう
 籠一杯のそれを、ヴァルトルートは宝物のように眺め、ほうっとため息をついた。
 赤みを帯びた、まあるい卵形の物体。というか、卵。
 ヴァルトルートの前には卵を譲ってくださったおトリ様がどっかりと座って、彼女と景気良く酒を酌み交わしたりなんぞしている。
 ちなみに、おトリ様は全員、何故かこんがりと焼きあがった丸焼きの姿になっている。何故か。
 しかしヴァルトルートはそんな些細な事は意にも介さず、こんがり焼きあがったおトリ様たちと酒盛りを続けているのだった。
「まあまあまあ、もう一杯」
 とくとくとく、とヴァルトルートの杯に酒を注ぐ、こんがりなおトリ様。
「いやいやこれはどうも」
 くいっと飲み干し、
「ささ、おトリ様もどうぞ一献」
手酌で注いでおトリ様に返杯を渡すと、おトリ様もまんざらでもない風情で──とはいえ、こんがり焼けてしまっているのだが──これまた素晴らしい呑みっぷりを見せつける。
 ちなみに、丸焼きがどうやって酒を飲むのかは聞いてはいけない。
「ぷはーっ」
 おトリ様は無い首から酒臭い息を吐いた。ちなみに、丸焼きがどうやって息を吐くのかは(以下略)。
「こうやって腹を割って話すのも良いものですね、ささもう一杯」
「あ、どうもどうも。しかし腹を割って話すのはやはり痛いものですな、酒を飲んでも腹から零れてしまいますからなあ」
「風通しはよくなりますよ、酒ですから腹も壊さないでしょう」
「いやいや、流石はヴァルトルートさん。いやあすごい、えらいっ」
 ‥‥そんなやり取りを、仲間達が生暖かい目で遠巻きにして見守っていた。

●考古学者と助手
 大体において老練な考古学者にはそそっかしい助手が付き物で、好奇心に駆られて手近な石像を動かしてみたら罠だったり、何気なく寄りかかった壁がスイッチで大きな岩が坂道を転がってきたり、はぐれて単独行動していると現地の住人に捕まって食べられそうになったりするものだ。
 そして今まさに、マハ・セプト(ea9249)とその助手グラス・ラインとは、はぐれていた。
「なあに、心配することも無いじゃろう。各務よ各務よ各務さん、グラスの居場所はどこかいのう?」
 蝶のような羽を持つ小さな地の精霊は、なにやら魔法を使った後に、ある方向を指差した。
 指された先には、雪だるまが鎮座している。
「まさか‥‥」
 マハは慌てて雪だるまを削り始める。妙にべたつく雪だるまの中からは、ホクホク顔のグラスが出てきた。
「あ、マハ老師」
「なにをのんびりしておるのじゃ。しかしまあ、無事でよかった‥‥と、これは?」
 雪だるまの周りにある謎の図形。だが考古学者のマハにはそれが一目で古代文字だと言うことがわかった。すぐ夢中で解読を試みる。
「こん‥‥やの‥‥ず、はこ‥‥ぶ‥‥?」
その意味はやがて明らかになる、かもしれない。

●いちふじ
 ごうごうと強風吹き荒れる嵐の夜。
 ここは那須の八溝山‥‥のはずなのだが、なにやら様子がおかしい。木一本、草一本も生えていない禿山なのだ。開拓の為に来たはずのカイは、途方に暮れながらも、取り敢えず持っていたクワでその辺を耕し始める。
 幾度目かの振り上げたクワが打ち下ろされた時、彼方からきりきりと切り裂くような叫び声が響いた。不審に思ったカイが見渡すと、月を背に化け物が飛んでくるのが見えた。鷹の翼と半身を持ち、下半身は獅子の強靭な肉体を持つグリフォンだ。本来この国には居ない筈のものが何故こんな所に、と疑念に思う間もなく、カイはひっきりなしに襲い掛かってくる爪から必死に逃れなければならなかった。
 武器と言えば手にした一本のクワのみ。隠れる場所も無い。
 さあ、どうする? (制限時間50秒)

1 クワ一本で立ち向かう
2 とりあえずその場から逃げる
3 ただただ布団を被って泣きじゃくる

「よし、俺は‥‥」
 カイが決心したその時、足元の土がごぼごぼと動き、黒い手が何本も出てきた。
 あっけに取られるカイの目の前で、黒い手から胴体と頭が生え、足が見えて、現れたのは死人憑き。100体ほど。
 それだけならばまだいいが、怪骨と死食鬼もやって来た。それぞれ120体ほど。
 それだけならばまだいいが、死霊30体追加でーす。喜んでー! と居酒屋の店員が叫んでいるような錯覚すら覚える恐怖。
 そ・れ・だ・け・な・ら・ば・ま・だ・い・い・が、その上にカイの目の前に更なる敵が現れた。
 黒いぼろぼろのローブに身を包んだ骸骨。手には杖を握り締め、窪んだ眼窩から言い知れぬ冷たいまなざしをじっと此方に投げかける。骸と成り果てた身体からは、目に見えるほどの瘴気が立ち上っていた。見るからにヤバそう。
「何なんだこのアンデッドの展示即売会(冬)は!」
 手にはクワ一本。でも多分勝てる、何故なら俺ってヒーローだから! あくまでも多分!!
 というわけでカイは勇ましくクワを振り上げた。
 しかし敵もさるものである。カイが戦闘体制に入ったのを見て、大ボスっぽい骸骨がさっと杖を振り上げると、アンデッドたちは一糸乱れぬ連携でカイを幾重にも取り囲み──フォークダンスを踊り始めた。
 色んな意味でカイがピンチに陥ったそのとき、夜が明け、太陽が顔を覗かせた。
 朝の清清しい光を浴びたアンデッドたちは、踊りながらさらさらと消滅していく。
 呆然とそれを見送ったカイの頭脳に、雷が走った。
「そうか、つまりこれは、ジャパンで初夢の縁起物とされる、一不死、二(分の一)鷹、三那須び! 今年も良い年になりそうだ!」
 お後がよろしいようで。

●亜麻色の長い乙女
 ふわり、春風になびく髪。今日は私の結婚式。ちょっぴりおめかしして、お花畑で待ち合わせ。だって女の子なんだもん。
 私の王子様は笑顔が素敵で、走るのがとても速いの。パパの都合で離れ離れになったりもしたけど、遠距離恋愛、実らせちゃった♪ うふっ。
 ほら、王子様が駆けてくるわ。
「めひひひひ〜ん!」
 私の名前を大声で呼ぶ彼、口元から覗く歯が白く輝くの、ステキ!
 彼のパパはネフェリム神父さん、ほら、
「汝と汝はいま何時、湯田の後頭部は救えない〜」
 私たちのことを祝福してくれるのね。私、超幸せ!
 かすていらシャワーが降り注ぐ中、私のおじいちゃまは、首を三つ生やして腰みのをつけて、叫びながら踊ってる。きっとおじいちゃまも幸せなのね♪
「鎖雷の春は今年も縁遠く後頭部は微妙だが、かすていらは食べられそう。末吉ですぞ〜!」
 やだわパパ、どうしてそんな顔してるの?
 ねえ、パパったら‥‥!

●余談
「ほら、先に見せて貰った火の鳥の魔法が、話を膨らませるのに役に立ったさね、有難うさん。それと一角馬の姉さん、あたしが湯場に入ってくるなり、記憶を失うか命の火を消すかって偉い剣幕でさ、アレは驚いたよ。正月位、気を緩めてもいいんじゃないかい、さっき教わった『かすていら茶』でも飲んでさ。古代文字はさ、きっと『今夜のおかずは昆布巻き』とかだよ。正夢じゃないか、ねえ? 『こぶは喜ぶ』、お互いにせいぜい長生きするさ。‥‥ああ、那須に居た半鷹の獣がどうなったかって?」
 ものかきは一瞬目を伏せ、低い声で
「‥‥いま、あんたの後ろに」
 なぁんてね、と、舌を出した。