あさごはんマーチ
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■ショートシナリオ
担当:蜆縮涼鼓丸
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月08日〜10月15日
リプレイ公開日:2004年10月18日
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●オープニング
誰がつけたか三軒長屋の、その名も通称『やもめ長屋』。
大工の六さんの家には14歳の長男をかしらに8歳と3歳の妹と弟。
傘張り浪人の木下平ノ助の家には息子が一人。
錠前直しの梅吉の家には女ばかりかしまし3人娘。
それぞれやもめとなった事情も時期も違うけれども、子供たちはみなまっすぐに育っている。同じような境遇からか、子供たちも大人たちもひとつの家族のように分け隔てなく付き合い、暮らしている。もちろんここの長屋に限ったことではなくて、長屋というものは大抵そんなものだけれど。
毎日の暮らしは賑やかで楽しい。けれども。
みんなでおままごとをしてる時なんかに、
「‥‥おっかあにあいたいな」
ぽそり、と一人が口に出してしまうと、子供たちの胸の中にいろんな思いが湧いてくる。
年の大きい子は小さい子が泣き出したりしないように、うまく他の話題を持ってきたりするけど、本当は。
(「本当は、俺だって‥‥」)
(「ははうえがいてくれたらいいのに」)
そんなことを思っている、口には出さないけど。
ある晩。
「おいおい、飯、食わねえのか?」
「父ちゃん。おれは母ちゃんの飯を食いたいんだ」
「母ちゃんのったっておめぇ、母ちゃんは‥‥」
「そうだよ、ゲンちゃん。そんなことを言うもんじゃないよ。父ちゃんだって困ってるじゃないか」
「だってぇ‥‥かぁちゃーん‥‥」
めそめそと泣き出す子供。
隣。
「今日はな、秋刀魚の旨いのが入ったと、魚屋が申したのでな。‥‥どうした、春之助。喰わぬのか?」
「父上。世間では男子厨房に入らずと申します。なにゆえ父上は平気で料理をされるのですか?」
「世間はどうあれ、自分で作らねば仕方あるまい?ひとりでに飯が炊けるわけではない」
「そんなことをしているから、仕官の道が遅れるのではないですか?」
「春之助!前にも言ったが、私は飯を作らせるためにお前の母を娶ったのではない。このひとと共に生きようと思ったからこそ一緒になったのだ。仕官の為、飯を作らせるために祝言を挙げるというのでは、後添えになった人が哀れではないか」
「しかし、父上‥‥」
唇を噛む子供。
そのまた隣。
「メバルの煮付け、旨いねぇ。いつもあんがとよ、お花」
一番小さな妹がちまちまと父親の袖を引く。
「ねぇねぇおっとさん。あのねー、ちぃねー、ほしいの」
「ん、何が欲しいンだ?ちぃ坊」
「んとねー、おっかさん!」
思わず飲みかけの茶を吹く父親。
「ななななな、何でまたいきなり?」
「おっとさん、私もおっかさんがいた方がいいと思うの‥‥あ、別に料理が嫌で言ってるんじゃないのよ?でも、誰かに作ってもらいたい時ってあるでしょ?だから、今すぐとは言わないけど、考えて欲しいの。お願いします、おっとさん」
「おねがいーましゅー」
「弱ったなあ‥‥」
真剣なまなざしの子供たち。
「ほう、そんな事があったのかい」
お茶をゆっくりと啜りつつ、3人のやもめたちの話を聞いた長屋の大家は少し考えて、
「そういう時はアレだね、ほら、何て言ったかね‥‥ああそうそう、冒険者ギルドか。どうもこの年になると物忘れが多くていけないねぇ。あそこに頼んじゃどうかね。いや何も嫁探しをせえというんじゃないよ。子供らは要するにちょっと飽きが来てるんだよ、毎日に。そりゃあおっかさん恋しさもあるだろうがね。だから、七日ばかり人に朝飯を作ってもらって、有難みが判りゃ、親に嫁とりを勧めるなんてことも、無くなるんじゃないかねえ?」
「‥‥てぇなワケでして」
ギルドの係員は大家の老人に向かって愛想笑いを浮かべながら、冒険者達を眺め回した。
「今回の依頼は戦いに慣れてる方よりも、家事だの料理だのが得意な方向けですな。ああ、早起きが苦手な方はやめておいた方が無難かもしれやせんねえ。台所は3軒のどこを使っても良いそうで。それと、長屋の皆さんが何を食べたいか聞いてみたところが‥‥。
「そういや最後の日はチビ助の生まれた日だから、ちぃと豪勢に頼まぁ」
「皆が腹いっぱい食べられるように」
「お豆腐が好き」
「まギろー!(謎」
「折角だから普段食べていないものが良かろう。見聞を広めるもまた学問の上達の早道ですな」
「私は柴漬けがあればほかのものはいりません」
「ピリッとしたモンがいいなァ、目が覚めるし」
「おっかあの煮物、すごくおいしかったの」
「お味噌汁は実が一杯あるのがいいな」
「あまいのがすきー。うめぼしはきらいー」
「まああたしも年なんで、あんまり歯ごたえのあるものはねぇ」
‥‥だ、そうで。七日間うまい朝飯を子供らに食わせてやって、幸せな顔にしてやってくんなせえ」
●リプレイ本文
とざいとうざい。
古今東西、口にす物は数あれど、一日の基となるはあさごはん。
火はおそろしの江戸の町、三食煮炊きは難しく、熱い味噌汁炊き立てごはん、
口に出来るは朝のうち。
これに御座るは七人の、七日七色の物語。
口には旨く目に美しく、身体に優しく心温かい、
あさごはんマーチの、はじまり、はじまり。
一日目 天気 晴れ
献立
・根菜と魚の紅白雑炊
・鰤のわさび醤油漬け
・玄米茶
・ちぎり沢庵
「やはり片親では子供は寂しいものですよね」
ため息混じりに呟く松浦誉(ea5908)を見て、大工の六五郎‥‥六さんは箸を置く。
「どうしなすったよ松の旦那。あんたの料理、こりゃあいけるよ?しみったれた顔して喰ってもせっかくの飯がまずくなるってもんさあ」
「すみません。ただ、私も故郷に、妻に任せて子供たちを残してきて‥‥身につまされる思いです」
子供らは無心に。
「赤いのおかわり!」
「あたしも!おいもいっぱい入れて!」
「‥‥はい、順番ですよ?」
小都葵(ea7055)は子供たちを宥め、順番に雑炊をよそってやる。
「‥‥熱いですから‥‥気をつけてくだ」
「あっちぃっ!!」
小都が言い終わるよりも早く口を押さえる長男、喜助。
「ああもう、おめえは全くそそっかしいんだから、ちっとは人の話を聞け!」
「父ちゃんに言われたかねえ」
「なんだとこの!」
まあまあまあ、と仲裁し、小都は喜助の雑炊をふうふう冷ましてやる。喜助は小都から雑炊の椀を受け取ると、妙に赤い顔で「ありがとう」と言った。
「沢山ありますから、お腹いっぱい召し上がってくださいね」
と口元をほころばせる松浦。雑炊に入れた鰯は手ずから釣り上げたもの。七日目はこの家の末っ子が誕生日だというので、尾頭付きの鯛を提供しようと今から算段している。
「ところで松の旦那、この魚は何ですかい?」
白い、塩仕立ての雑炊に添えた薄切りの刺身を箸でつまみ上げながら問う六さんに、
「イナダです。鰤の小さいものです。鰤は出世魚で、ワカシ、イナダ、ワラサと名前を変えて鰤になるのです」
と、ひとくさり。
「なるほど。わさびの風味も、いいねえ」
わさびは源平の台頭する前から食されており、古くは山しょうがとも呼ばれ古来から薬効のある物として使われてきた。現在では刺身の添え物やそばの薬味にもなっている。
「そうだ、喜助様もご一緒に釣りへ参りましょう。己の手で釣った魚が食卓に上がるのも、また感慨深いものかと」
松浦に様付けで呼ばれて目を白黒させていた喜助も、父親に許しをもらうと、喜び勇んでいそいそと支度を始めた。
二日目 曇りのち台風
献立
・金胡麻とじゃこの混ぜごはんのおむすび
・わかめとお豆腐のお味噌汁
・出し巻き卵
・やわらかきんぴらごぼう
「この分じゃあ荒れるねえ。巽の風だ。野分だね。まあ今日は大人しくして、明日晴れたら栗でも銀杏でも拾って来たらいい。アレは旨いよ‥‥ああ、もちろんあんたの作ってくれたきんぴらもね。あたし位の年になるとね、しゃきしゃきっとしたもんが食べたいなんて思ったって、こう歯ががたがたじゃあそうもいかない。」
「ありがとうございます。誰かの為にご飯を作るのは久しぶりですので、頑張りました」
ひたすらしゃべり続ける大家のご隠居と、にこにことお相伴している高遠弓弦(ea0822)。
「出し巻き卵の焼き加減もいいねえ。こうこんがりと狐色ってのはなかなか出来るもんじゃないよ。きちんと外身は焼けているのに中身はふんわり柔らかい。あんた、きっといい嫁さんになるよ。あたしがもう少し若かったらぜひ貰いたいところなんだがねえ」
ちなみに大家さんの出し巻き卵は本職の料理人である冴刃歌響(ea6872)が作ったものであり、高遠の作った、こんがりというよりは「ごんがり」くらいの焼き加減の出し巻き卵は今頃冒険者の誰かが食べているはずだ。
そういった事は言わぬが花と、片付けを始めた高遠のところへ、大工の娘がやってきた。
「すみません、あんまり美味しくてうっかりお昼の分まで食べちゃって‥‥お弁当の分、もう一回作ってもらえないですか?」
作り手冥利に尽きる言葉である。
「じゃあ、一緒にお手伝い、お願いしますね」
家事仕事は好きだから、てきぱきとたすきを掛けて。赤い髪紐で束ねた銀髪が、笑顔と共にはらりと揺れた。
三日目 雨
献立
・ローマ風海鮮ミルクリゾット
・カポナータ(野菜の炒め煮)
・野菜と豆腐の温サラダ
・若鶏の胡椒付けこんがり焼き
・檸檬水
「こりゃあまた、一風変わった‥‥」
『ボクが子供の頃にママが作ってくれたローマ料理なんだよっ♪ さあ!食べてみてよ!』
目をキラキラさせながらアゲハ・キサラギ(ea1011)が言った‥‥のをティーレリア・ユビキダス(ea0213)が翻訳する。
しばらく初見の料理とにらめっこしていた子供たちが、決心したかのように目をつぶり、ぱく、と口に運ぶ。わくわくしながら見つめるアゲハ。ほんの少しの間訪れる静寂。そして。
「うまぁーーーーーい!!」
口から後光が飛び出してきそうな勢いで一斉に叫んだ。
「ごはん、ちょっとおかゆみたいでなんだかあまぁい!」
「おなすときゅうりがあったかくっておいしい!」
「胡麻と山椒で胡椒焼きとは恐れ入ったね!」
「お水がすっぱいのにさっぱりー!」
「うーまーいーぞーーー!!」
テンションの高い会話を通訳し終えたティーレリアはややぐったりとしつつも、好反応に、よかったね、とアゲハに語りかけた。
『うん。大枚はたいた甲斐があったよ』
「大枚?」
『‥‥5Gも使っちゃったー』
アゲハの目から滂沱の涙。
『オリーブオイルが一番高かったなあ‥‥月道って恐ろしいね。こっちで売ってるふんどしだって月道越えたら何Gもするって言うし』
「お姉ちゃん、どうして泣いてるの?」
訝しげに見つめる子にティーレリアが説明すると、一家の主の錠前屋は考え込んだ。
「そいつはいけねえよ。気持ちは有難てぇんだが、そいつはいけねえ。ちっと他の連中と相談してきまさぁ」
結局、依頼主たちが余分に銭を出し、足りない分はアゲハが連日界隈をぐるりと生業の神楽舞で門付けして回って、なんとかかんとか足を出さずには済んだ。その代わりにアゲハの足は棒になったが。
四日目 雨
献立
・ご飯
・お味噌汁
・根菜の煮物
・はまぐりの貝焼き
・香の物
配膳をするティーレリアの指は包帯でぐるぐる巻きになっていた。もともと特に料理が上手なわけでもないが、同じく料理の出来ない松浦のように手伝いに徹するのではなく、毎夜冴刃に特訓を受け、自ら包丁を振るおうとするその意気やよし。
しかしながら心がいかに急いても腕は急には身につかぬもの。小都と共に仲良く市に買い出しに行き、狙い通りにいいものを安く仕入れたまでは良かったが。
煮物の為に大根、人参、蓮根、牛蒡を切るが、上手く大きさが揃わない。貝を焼けば火傷をする。悲鳴を上げるたびにベェリー・ルルー(ea3610)がぱたぱたと、文字通り「飛んで」きて、せっせと応急手当を施した。だがしかし。
かまどの前で飯炊き釜がぶつぶつと白い泡を吹き始めた頃、すうっと意識が遠くなった。朝は料理の支度を手伝い、昼は子供たちと遊んだり、材料の都合に出かけたり。夜は夜で料理の特訓。その疲れが出たらしい。
小さな手に揺り起こされ、はっと気がつくと、朝食の支度はすべて整っていた。座ったまま眠っていた肩に、古い女物の羽織がかけられている。
「‥‥ごめんなさいっ」
冷や汗をかき小さくなるティーレリアの手を錠前屋の末娘が撫で、
「いたいのいたいの、とんでけー!」
と、ふうふう吹いた。
「ちぃ坊もお手伝いしたんだよね?」
すぐ上の姉のおふみに言われ、ちぃ坊は得意気に頷いた。
見た目こそ不恰好だが、一つ一つ煮干の内臓を手でちぎり取った繊細さや、大根の葉や皮、だしをとった後の昆布などを刻んで香の物とする知恵は、紛れも無く心のこもった家庭の味だった。
「いただきまーす!」
子供たちの合唱と、ごちそうさまの後に残った、綺麗に平らげたあとの器を見て、ティーレリアは胸をなでおろしたのだった。
五日目 晴れ
献立
・山菜御飯
・胡麻豆腐
・半熟卵
・焼き魚
・果物
三日三晩の雨も止み、日本晴れの名に相応しい上天気となった。
「山には秋の味覚が一杯ですよ〜☆ きのこ、木の実‥‥あぁ〜、よだれがとまらないです〜☆(じゅるり)」
と、仲間や子供たちと一緒に山へ行き、山菜やきのこ、アケビなどを採ってくるつもりでいたベェリーだったが、あいにくとこの日までには叶わなかった。その代わり、ギルドに報酬のことで顔を出した時に予想外のみやげ物があった。
「はぁ?なんだってぇ?報酬はいらねえって?」
普段は冒険者に対し慇懃な物言いの係員が一瞬地を出した。が、ふっとまた元に戻り、ベェリーに理由を問いただす。その理由が「あまりお金があると重くて飛べなくなるから」だと知ると、今度は猛烈に笑い始めた。
「そりゃあアンタなら金貨の100枚、200枚もあれば動けなくなるだろうけどな。そんなに金持ちそうには見えねえし。山ほど仕事して、早く金が重くて飛べねえなんて言えるようになんなよ」
未だ笑いを堪え切れない係員にいささかむっとしながらベェリーが帰ろうとすると、引きとめられた。
「前に依頼で縁のあった寺からギルド宛に栗と柿が届いてな。ちょうどいいから少し持っていきな‥‥って無理か。じゃあ取っとくから後で誰か寄越しな、持たせてやっから」
その栗と柿は朝食のデザートに。金色の柿はつやつやと、磨き上げた陶器のように表面を光らせて、この暑い夏に溜め込んだ太陽の光を甘みに変えて皿の上に鎮座した。
朝食が終わると、ベェリー達は子供たちを引き連れて近場の山に向かい、山の幸を堪能した。
六日目 晴れ
献立
・むかごご飯
・湯葉と四種の具の御御御付
・山伏茸とひじきの白酢和え
・春菊と黄菊の水晶巻
・新栗塩焼
・お漬物
「‥‥春之助さんのお父様、真摯で素敵な方ですね‥‥」
朝食後、春之助に向かって小都はふわりと微笑んだ。
「ありがとうございます。この焼き栗、おいしいので道場の稽古に持っていきます。道場のみんなにも自慢します!」
会釈して小走りに駆けてゆく春之助。もしかすると、道場で誰かに何か言われたことがあったのかもしれない。そんな事を考えながら片付けを始める小都に、ぽつり、父親が言葉を漏らす。
「褒められる人間ではないのです。私は‥‥あれの母親を死なせました」
言われた言葉が咄嗟に飲み込めず、小都は片付けの手を止めて、木下平ノ助の顔をまじまじと見た。
「病で死んだと、表向きはそういうことにしてあります。あれにもそう言ってあります‥‥だが、本当はそうではないのです。今は言えない‥‥いつになったら言えるのか、私にも見当がつかない。あれに言うことが不安なのではなく、私自身が事実に向き合うのが怖いのです」
不安。小都にも少なからずその感情に心当たりがある。小都には過去の記憶が無い。父の顔、母の顔を思い出すことも出来ない。踏みしめる地面を失って宙ぶらりんになったような、そんな気持ち。それでも今は、父と母はきっと何処かに居てくれる、そう思える。励ましたい、と思ったけれど、言葉にはならなかった。
「すみません、愚痴をお聞かせしてしまって‥‥私も栗を頂きます。春之助ではないが、これは本当に美味しい」
「‥‥お粗末さまです」
ぺこり、と頭を下げる小都。
美味しいものを食べることで人が幸せな顔になるのは、心の扉が少し緩むからかもしれない。春之助が道場から帰ってきたとき、父親と一緒に食べられるように、小都はもう少し栗を焼いておくことにした。
七日目 晴れ 強風
献立
・鉄火丼
・山菜の散らし寿司
・揚げ出し豆腐
・卵と青菜の白和え
・あさりのすまし汁
・他
「まギろー!!」
鉄火丼を見るなり吼える、六五郎の次男、ゲン。そのまま食卓の周りをぴょんぴょん飛び回る。それはさながら獲物を見つけた喜びの表現のようでもあった。
「ゲンちゃんゲンちゃん、こっちだよ〜」
ベェリーや姉に促されてゲンが上座に座ると、冒険者達が手に手に皿を持ってきた。まずは松浦が鯛を。ちょうどゲンの顔より少し大きいほどの小鯛である。祝い事に相応しく尾頭付きを無事用意することが出来た松浦の顔は晴れ晴れとしている。
高遠はなしをすり下ろして寒天で固めたものを食後の甘味に。
アゲハは若鶏をまるまる一匹使った『ディアボラ(悪魔風一羽焼き)』をどんと披露した。
ティーレリアは特に用意は無かったが、鉄火丼のご飯はティーレリアが(今度は眠らずに)炊いたものだし、酢をかけまわして丁寧に混ぜたのも彼女だった。もっとも、その寿司酢は冴刃が調味したものだったけれど。
ベェリーは評判の良かった金色の柿を。
小都は紅葉に切った人参の入った汁と水晶巻と、どちらにしようか散々迷った末に、水晶巻のほうを一品提供した。昨日は水晶巻の春菊の苦味を嫌って残されたので、今度は一度胡麻よごしにしてから巻いてみた。
「ゲンちゃんたらまるで若さまみたい」
はやし立てられながらも、賑やかな祝いの膳に興奮を隠しきれない様子で、落ち着き無く立ったり座ったり。手を合わせて大きな声で
「いただきます」
と、七日目の朝食が始まった。
あれだけあった料理の山も、食べ始めればむしろ足りなく感じられるほどで、気がつけばおひつに米粒一つ残っていなかったのにはみな驚かされた。遺憾なく健啖家ぶりを発揮していたのは冒険者の方も同じではあったけれども。
去り際、冴刃から子供たちにべっこう飴が手渡された。子供たちのそれぞれ好きな動物を象ったもので、最初はゲンの誕生日祝いだけのつもりが、他の子供にもいつのまにやら作るはめになってしまった。
冒険者達の中で一番精力的に子供たちに構っていたのは冴刃である。料理を本業としていて、他の冒険者たちほど料理に対して労力を裂かずに済んだためもあるが、もともとの子供好きの面と、その他にも子供を慈しむ理由があったようだ。鏡のように、偽らず飾らず子供と接するので子供の方も良く懐いて、ゲンなどは別れ際に駄々をこねて泣きじゃくった。
冒険者達を見送ったあと、ふいとお花が口にした。
「今度は、あたし達であんなご馳走作ろうね」
止まぬ雨なし、明けぬ夜もなし。雨降って地固まると言うとおり、やもめ長屋の親子たちには、またつつましくも平穏な毎日の営みが始まります。
これにて、あさごはんマーチ、お開きとさせていただきまする。