春秋姉妹。真壁剣術道場門下生募集
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:9人
サポート参加人数:5人
冒険期間:08月29日〜09月03日
リプレイ公開日:2006年09月02日
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●オープニング
商家が並ぶ江戸の一角。
その外れにある真壁屋は、刀の鍔・切羽から刀袋や下げ緒・柄糸などの刀備品・装飾具専門店である。
真壁屋には近所ではちょっと有名な姉妹がいる。姉が春花で妹が秋良というところから『春秋姉妹』と呼ばれていた。
二卵性双生児のため容姿はさほど似ていないが、二人ともなかなかの美人。姉妹の差をつけず平等に育てられたボケツッコミ姉妹でもある。
さて、その春秋姉妹の秋良。彼女は剣術道場の師範代をしているのだが、それがまた真壁家の敷地内にあるのだった。
真壁剣術道場‥‥真壁屋の弟、つまり春秋姉妹の叔父が開いている道場である。
今日も竹刀の音と威勢の良い掛け声が響いていた。
響いてはいるのだが‥‥その音を発している人数は極めて少数。
一人は、十六歳の少女でありながら師範代である真壁秋良。いつもの小袖に袴姿で門下生である子供達に稽古をつけている。
それを壁際から見守るのは師範の真壁竹良。
彼の視線の先にいる肝心の門下生は、たったの三人。つまり道場は、たったの五人で成り立っているのである。
「このままではいかん」
その日の夕刻。門下生達が帰った道場で、竹良が秋良に言った。
「せっかく我が道場で剣術を学ぼうと来てくれているのに、これでは他道場との練習仕合もできん」
「それはそうですが‥‥先月も生徒募集のための施策が失敗したばかりじゃないですか」
「う、む‥‥」
竹良は言葉に詰まった。
先月行なった施策というのはこうである。
秋良の姉である春花が、その人あたりの良さを生かして子供たちを道場に連れて来る。そこで稽古の様子を見せて剣術の素晴らしさを知ってもらう。そして入門してもらうという手筈だったのだが‥‥。
「結局、師範もあたしもどっちかったら口下手だし。天然春花は主旨を理解してなくて、子供にお菓子をやって返しちまうし。もう一度やっても、うまくいくかどうか‥‥」
そう言う秋良も、生徒たちに仲間を増やしてやりたい気持ちはある。だが、自らにそういった行動が向いていないのも分かっていた。
それ以前にも何度か募集のために策を講じてきたが、ことごとく失敗に終わっていた。どうも叔父・竹良の行動は空回りする傾向にあるらしいのだ。
春花といい、竹良といい。真壁家にはそういう人間が、二人に一人は生まれて来てしまうらしい。
「じゃあ、冒険者さん達にお願いするのは?」
道場入口からの声に、秋良と竹良が振り向いた。そこには小菊の着物姿で春花が佇んでいた。
以前この春花が、妹である秋良の盆栽を壊してしまった件でギルドのお世話になったことがあったのだ。
春花の言葉に、竹良は手を打った。
「なるほど、その手があったか!」
「そんな、叔父様! 道場のことは、我々で‥‥他の者の力を借りるなど」
「しかし秋良よ。我々ではうまくいかないのも事実。子供達のためだと思って。な?」
自らの力不足を認めるのは悔しいが、『子供達のため』という言葉に秋良は頷いた。
その様子に、春花は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、私が冒険者ギルドまで行ってくるね〜」
「って、ちょっと待て」
秋良は踵を返した春花の首根っこを捕まえた。
「お前が行って妙な説明をされても困る」
「え〜。大丈夫だよ」
「いいから大人しく留守番してろって」
揉み合う二人の横を、竹良が笑いながら通り過ぎる。
「お前たちはいくつになっても変わらんな。道場の代表として、私が依頼をして来るぞ」
道場を出、屋敷の裏口から通りへと消える竹良の後姿を、秋良は不安げに見送った。
「やっぱり、あたしが行った方がいいのかな」
「秋良ちゃん、離してよ〜」
●リプレイ本文
●真壁剣術道場
道場では三人の子供たちに、竹良と秋良が稽古をつけているところだった。竹刀を振るう二人の太刀筋から、並ならぬ腕前であることが覗える。
「叔父さん、秋良ちゃん、冒険者さん達が来てくれたよ」
春花の呼びかけに、二人の手が止まる。子供たちを休憩させ、こちらへ進み出た。
お互いに自己紹介を済ませると、改めて竹良が頭を下げた。
「ご足労かたじけない。恥ずかしい話だが、我々ではどうにも‥‥ぜひお力添えをお願いしたい」
「見たところ、かなりの腕をお持ちのようだ。この道場が無名のままと言うのは、もったいなさ過ぎる」
水上流水(eb5521)が微笑む横で、ゴールド・ストーム(ea3785)が面倒な事は早く片付けたいとばかりに言う。
「要は認知度を上げればいいんだろ? ビラでも作ってばら撒いたらどうだ?」
「なら、商人ギルドで貼り紙をさせてもらえる店がないか当たってみよう」
そう申し出たのは故買屋を生業としている鹿角椛(ea6333)。氷雨絃也(ea4481)も賛同の意を表した。
「告知をするのであれば、道場を開放し演武祭を催してはどうだろうか。その旨も記しておけば、見学だけでも訪れる者もあるのではないか?」
『祭』という言葉に眼を輝かせている春花を不安に思いながら、秋良が頷いた。
「気付いたことや手伝いが必要なことは、遠慮なく言って欲しい。自分の道場の事だ、あんたたちにばかりやらせるわけにも行かないからな」
●さあ、準備を始めよう
「ふむ、少しは練習してみるかね〜」
真壁家の庭でトマス・ウェスト(ea8714)がシルバーナイフを手にし、垣根に貼り付けた的に向かって素早く投げた。
が、手が前に出たときには既にナイフは無い。
「てめぇ、危ねぇだろ!」
後ろを振り向くと、縁側の障子を開け放った室内にいたゴールドだ。彼の奥の壁にナイフが刺さっている。
「けひゃひゃひゃ、演武祭にて我輩の投擲術を披露‥‥」
「するな!」
訪れた入門希望者にナイフを突き立てられてはたまらない。
そこに秋良と山下剣清(ea6764)、桐沢相馬(ea5171)が話しながら道場の方から現れた。
「門下生たちと同じ年頃の子は欲しいな」
「そうだな。今いる子達も張り合いが出て学びやすいだろう。女性も案外狙い目だと思うぞ。師範代が女性だしな。剣術よりも護身術を中心に教えては?」
比較的人見知りな秋良だが、剣清とは以前に面識があるため早く打ち解けたようだ。相馬も剣術をたしなむ者の視点から言う。
「入門のお試し期間を設けるのも良いかもな。道場の流儀が肌に合わない事があるかもしれない」
丁度縁側の辺りに三人が来たところで、ゴールドがビラの原案を秋良に差し出した。
「これでどうだ?」
「へぇ、意外とマメなんだな」
歯に衣着せぬ秋良は率直に口にした。だらしなさそうな外見から想像も付かないほど、しっかり要点を抑えた内容になっている。
「お菓子買ってきたよ〜」
裏口から聞こえた春花の声。演武祭当日に子供たちに配るお菓子を、アルル・ベルティーノ(ea4470)、超美人(ea2831)と共に買いに行っていたのだ。
秋良が持っている紙を覗き込み、春花が言う。
「へぇ、これ道場の子が書いたの?」
「俺だ!」
「そうなの? だって字が汚‥‥」
アルルが横から口を塞いだが、春花が言うのも無理は無い。ゴールドはジャパン語の書き取りは最低限できる程度のレベルでしかない。
すかさずアルルがフォローを入れる。
「私達他国の者よりも、ジャパンの方が書かれるのが一番ですよ」
「なら私が書こう」
申し出た美人は、書道の腕前はどこに出しても恥ずかしくない程の実力なのだ。
「あれ? 叔父さんは?」
春花に尋ねられ、秋良は道場を指した。
「椛さんに道場経営の指南を受けてるよ」
月謝の適正金額から、採算を出すために必要な門下生の人数など、竹良も真剣に椛の話を聞いていた。
他にも必要な準備はたくさんある。
体験入門を希望する者の道着や手拭いの準備。
ゴールドの原案に皆の案をまとめて完成したビラは様々な店先に貼られた。椛が自腹で謝礼金を出してまで交渉した賜物なのだが、彼女はそんなことはおくびにも出さないのである。
二人組みの若者がビラを眺めていると、もう一人男が現れて言った。
「この道場だが、師範と師範代はすごく腕が立つらしい。しかも師範代は真壁屋の美人姉妹の妹だそうだ」
その言葉に、若者達は興味を持ったようだ。演武祭に行ってみるか、などと去っていくのを見送るその男は流水である。こうして方々に道場の噂を流して歩いているのだ。
演武祭の準備をしつつ、手が空いたものは町でビラを配り、後は当日を残すのみとなった。
●演武祭
「今日のお勉強はここまで。剣術道場で楽しい催し物があるそうなので見学に行きますよ」
アルルは教師を務める寺子屋の授業を切り上げ、子供達と共に真壁屋へ向かった。
近くまで来ると、大勢の人で賑わう声が聞こえてくる。
真壁屋の前で待ち合わせをし、春花と二人で子供達をみる約束をしてあった。店先には春花とトマスの姿がある。
「道場に入門すれば、こんな娘が手取り足取り教えてくれるぞ〜」
言いながらトマスは春花の着物の胸元をはだけさせたりしている。にもかかわらず春花は笑顔のまま微動だにしない。
「トマスさん、まさか春花さんにコアギュレイトを!?」
「アルル君、我輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜。さ、入門するならこちらだね〜。けひゃひゃひゃ」
驢馬に固まったままの春花を積み、集まった若者を引き連れて道場へと向かうトマス。アルルは呆然とそれを見送った。
道場の入口では入門を希望する子供以外の者に、弦也が注意を促している。
「心身ともに鍛える事により自らと向き合い、清廉なる人間となることを目指すのがここの方針だ。浮ついた気持ちでいる者は破門もあり得る。心して望め」
彼の言と弦也の頑強な体躯に気圧され、姉妹目当てで入門しようとしていた下心ある若者たちはすごすごと帰っていく。
見学する若者達に、椛が剣術の心得を説いている姿もある。
「力のみを追い求めることは武道の本質ではない。弱者を思いやる心を忘れてしまうと、武術はただ人を傷つけるための手段になってしまう」
その横を抜け、アルルは子供達を奥へ誘導する。道場の壁際に立つ見学者達の一角に場所を見つけて子供達を座らせた。
今は丁度竹良と秋良が演武披露を終え、体験入門に移る所だ。希望する者たちに、春花と流水が道着を渡して、数人いる女性には美人が真壁家の一室で着替えるよう案内している。
「ほら、あなた達と同い年くらいの子達も習っているわ」
アルルが三人の門下生を指して言うと、数人の子供たちが立ち上がる。
「先生、やってみたい!」
「僕も!」
「私もー!」
体験門下生は順番に、竹良と秋良が手分けして稽古をつけている。一定時間の素振りを終え、休んでいる者たちには、春花が手拭いと水を渡して歩く。
持つものは落とし、割れ物は壊す春花が無難にこなしているのを、秋良は幻でも見るような眼で見つめていた。
実は、春花が妙な行動に出ないよう美人が的確に指示を出し、流水が春花のやらかしそうな失敗の芽を片っ端から摘むというコンビネーションがその成功を生んでいるのだ。
時間はあっという間に過ぎ、演武祭も他流試合を残すのみとなった。
「はじめ!」
門下生の声と共に、秋良と相馬の試合が始まった。
間髪入れずに秋良が踏み込む。下段から斬り上げた木刀を、相馬は正面から受け止める。秋良は手首を返しつつ相馬の横をすり抜け、返す刀を横に薙ぎつけた。身を捩じってかわし、相馬は上段から鋭く振り下ろす。
息をつかせぬ攻防に、道場内はしんと静まり返っている。
同じ頃、道場の裏手では、ガラの悪い男二人が弦也によってのされていた。
「他流の妨害とは、剣士にあるまじきやり方だな」
二人を見下ろす弦也の後ろから流水がぽつりと呟く。
「悪いね。事前にこの近辺の道場とその門下生はあらかた調べてあったんだよ」
「怪我人は我輩に任せたまえ〜。先日配合した新薬を試させてもらおうか〜」
トマスに捕まった男二人の悲鳴は、道場内から響く拍手によってかき消される。
秋良が僅かな隙をぬって懐に入り込み、相馬の喉元に剣尖を突きつける形で勝負がついたのだ。
「お見事」
「そちらこそ」
受けた賛辞を秋良はそのまま相馬に返す。本気を出して収めた勝利だった。
他流試合の間も、椛は一心に若者たちに語っている。
「私も昔は良く兄貴達に混じって稽古させられたもんだ。まったくあの親父が手心って物を知らなくて‥‥」
「あの‥‥もう終わるみたいですけど、演武祭」
●門下生大増員
真壁家の客室で、ささやかではあるが打ち上げが行なわれていた。春花は秋良の後ろでお菓子を食べている。どうやらトマスから隠れているようだ。
「どうでした? 今回の手ごたえは」
余ったお菓子を幸せそうに頬張るアルルが問いかけると、竹良はすっかり上機嫌で答えた。
「これほど人が集まってくれるとは‥‥皆さんのおかげですわい! 教える人手が足りなくなったら、剣清殿に臨時師範代をお願いしようかな」
「え。いや、参ったな」
返答に困る剣清に秋良が助け舟を出す。
「叔父さん、調子に乗りすぎだよ」
竹良が浮かれるのも無理はない。竹良と剣清の試合も喝采を受け、大盛況の後に演武祭は終了した。
訪れていた子供たちにはお菓子を渡して帰したが、親子連れの子供のうち五名が入門を希望した。アルルの生徒達も、帰ってから両親に許可を貰うと張り切っていたくらいだ。
ゴールドの案により、入門希望者は道着と木刀を割引価格で購入できるように真壁屋に交渉してあったのも功を奏していた。
その後、お試し期間のみで辞めた者もいたが、子供七名、女性が二名、男性が五名。総勢十四名が真壁剣術道場の新しい門下生として迎えられることとなった。