駆け出し冒険者の動物救護隊
|
■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:09月05日〜09月10日
リプレイ公開日:2006年09月13日
|
●オープニング
数多くの人が行き交う大通りで、商人風の男二人が立ち話をしている。
「いやぁ、この間の大雨はすごかったねぇ」
「ええ、本当に。山間の方では方々で川の氾濫や土砂崩れが起こったそうですよ」
「そうなのかい?」
「おや、ご存じない? 復旧作業も遅れているらしく、土砂の中から負傷した動物たちも見つかっているとか‥‥」
突然、そう言った男の袖が何者かに引かれた。
振り向いて、視線を下げる。そこには長い黒髪の小柄な少女がいた。
少女はコロポックルの伝統衣装を身につけており、首から緑色の石が付いた首飾りを提げている。子供のように見えるが、パラは元来小柄な種族。実際の年齢は十代半ばだろう。
「すみません、今のお話は何処の山のことですか?」
髪と同色の瞳に真摯な光を湛え、少女は尋ねた。男はやや気圧されながらも答える。
「ここから西に一日程歩いた山らしいが‥‥」
「ありがとうございますっ!」
勢い良く頭を下げ、少女はたちまち走り去った。
数分後、その少女は冒険者ギルドの中に駆け込んでいた。
その姿を見て、受付係の少女は笑顔で呼びかける。
「こんにちは、カントレラさん。息を切らせてどうしました?」
「あのっ、わた‥‥西の山、に」
「あらあら、深呼吸しましょう? はい、吸って〜吐いて〜」
「す〜は〜‥‥」
呼吸を整えたカントレラは、改めて受付係に一礼した。
「ご挨拶が遅れまして。こんにちは、受付係さん」
「これはご丁寧に。今日はどうされたんですか?」
「はい。何でも大雨の被害で、西の山に負傷した動物たちが多くいるとか。ぜひとも彼らを助けに行きたいのです!」
「なるほど〜」
受付係の少女は、うんうんと頷く。カントレラの母は巫女として傷ついた命を癒す仕事をしていたと、以前聞いたことがある。カントレラも、母のような巫女を目指して冒険者になったのだ。
「でも‥‥私はまだまだ冒険者としては駆け出しです。山にはまだ除けきれていない土砂もある山道もあるとか。その中で負傷した動物を探して歩くのは、とても一人では‥‥」
「わかりました! 一緒に行ってくれる冒険者さんを募集したいんですね?」
「そう、そうなんです! 少しですが、ためたお金で報酬も払います。ですから、お願いします」
深々と頭を下げるカントレラに、受付係は元気良く答えた。
「かしこまりです〜! 早速募集をかけますから、待っていてくださいね〜」
●リプレイ本文
●西の山へ
カントレラは、待ち合わせ場所にした京都の西端で冒険者達を待っていた。
「お久しぶりです、カントレラさん」
駆け寄ってくるセイノ(eb5452)を、カントレラは笑顔で迎える。セイノには母の形見を取り戻す手助けをしてもらったことがあるのだ。
「セイノさん! またお会いできて嬉しいです」
「傷ついた動物たちの救助、私もお手伝いしますね」
「ありがとうございます。頑張りましょう!」
強い意志を込めた瞳で頷くカントレラに、続いて現れた守崎堅護(eb3043)が声をかけた。
「どうやら吹っ切れた様にござるな、良い目をするようになった」
「あっ、も、守崎さん! そそその節はお世話になりまして、ありがとうございました」
カントレラは顔を真っ赤にして姿勢を正し深々と頭を下げた。冒険者を辞めようかと悩んでいるときに、励ましてくれたのが彼だったのだ。堅護はカントレラの頭を上げさせて微笑む。
「改めて冒険者仲間として歓迎するでござるよ」
「はいっ!」
そうしているうちに、依頼へと向かう全員が集まった。皆が自己紹介をしあう中、白翼寺涼哉(ea9502)は見送りに来た家族と別れを惜しんでいる。
「花綾、あまり狛を困らせるんじゃないぞ。狛、ガキどもを頼む」
涼哉は生まれたばかりの娘を抱いた妻の首に、揃いのペンダントを掛け別れを告げると、仲間達と共に西の山へ向けて出発した。
今回共に行動するのは、数々の依頼をこなして来た冒険者達。カントレラより遥か先を歩む者ばかりだ。
「皆さんの足を引っ張らないようにしなくては‥‥」
歩きながらのカントレラの呟きを耳にしたパラーリア・ゲラー(eb2257)が、彼女の背中を大きく叩く。
「大丈夫! カントレラちゃんがいい子だから、皆お手伝いしたくて集まったんだから。力を合わせてがんばろ〜♪」
手を取ってぶんぶんと振るパラーリア。ゼルス・ウィンディ(ea1661)も頷いてみせる。
「私もあなたの清い心に感じて依頼を受けたのです。依頼をこなしていけば、自ずと力は付いて来るもの。焦ることはありません」
「経験を積んだ冒険者でも得手不得手はある。だからこそ自分が得意とする分野でチームに貢献することが大事なんだ」
風月皇鬼(ea0023)を見上げるカントレラは真剣な表情で彼の言葉を繰り返していたが、ふと尋ねる。
「私、少しの魔法と簡単な医療の心得しかありませんが、大丈夫でしょうか?」
「私は人並みより体力はありますが、それでも冒険者としては非力な部類に入ります」
その問いに、風月陽炎(ea6717)が答える。
「ですが、腕力が無くても、技術を突き詰めれば、結果として大きな力を生み出します。これは、どんな分野に言える事です」
「そして、それを生かせば、誰かのお役に立つことができるのですね?」
納得した彼女に、ライル・フォレスト(ea9027)が後押しする。
「そうそう。俺たちもサポートするし、カントレラも自分で考えて色々やってみればいいんじゃねぇの? 自分の憧れを形にするためにさ」
憧れを形にするため。その言葉が、カントレラの心に強く響いた。
●大雨の災禍
崩れた土砂と大小の岩。押し流され、またはなぎ倒された木々。それらが山道もろとも山肌を埋め尽くしている。
土砂の上では復旧作業を続ける土方達が方々に散って作業している。その足元にあるものを見て、カントレラは思わず駆け寄った。
泥にまみれて横たわる一頭の狐。既に息は無い。白い装束が汚れるのを厭わず膝を付くカントレラの肩に、レテ・ルーヴェンス(ea5838)がそっと手を添えた。
「災害で命が失われるのも自然の流れでしかないのよ。でも貴女が命を癒すことを願うならば、私は全力を尽くすわ」
それだけ告げて、レテはその場を離れていく。依頼には己に出来得る限りを。そうして、命も惜しくないと思えるほどの『何か』を見つけるのが彼女の目的なのだ。
山道の復旧が済み、地盤の安定している場所に各々が持参したテントを貼った。ここが怪我をした動物達の治療所となる。
中では涼哉が治療のための準備を始めている。
「私もお手伝いしますっ」
気合の入ったカントレラの様子に笑みをこぼしながら、涼哉が言う。
「じゃあ、動物達が保護された時のために、餌になるような物を探してきてくれ。ああ、誰かに一緒に来てもらえよ」
「じゃあ、私が参ります。薬草探しもしたいですし」
申し出たのはセイノだ。セイノもまだ駆け出しの域を出ない。テントを出て行く二人を心配して追った涼哉だったが、すぐに作業に戻る。距離を置いて二人を追う後姿が眼に入ったからだ。
「出来得る限りは見守りますかね、っと」
マナウス・ドラッケン(ea0021)はコロポックル二人から付かず離れず、負傷した動物を探し始めた。
ライルが自ら作成した周辺地図を広げ、復旧作業をしている区域を線で囲む。
「この奥の見えない部分はどうなってるんだろうな?」
「はいはいっ! あたしが見てくるねっ」
元気に手を上げたパラーリアが、大凧を広げて空へと舞い上がっていく。
「ならば俺は、要所に足場を確保しに行くとしよう」
ロープを手に立ち上がった皇鬼に、ライルは口端を上げて言う。
「奇遇じゃん。俺もそうしようと思ってた所」
●動物救護
山に到着してから二日目。体力自慢の皇鬼をはじめ、陽炎、堅護らが土方の作業を手伝い、巨大な岩は技を駆使して粉砕するなどして、土砂は確実に撤去されつつあった。
今作業をしている部分の奥に、もう一つ大きな土砂崩れが起きているのをパラーリアが上空から確認している。
そこで先日張ったロープを伝い、ライルとパラーリア、陽炎が動物を救助すべく奥の土砂に向かった。
パラーリアが手持ちのスクロールの中からブレスセンサーを使用し、息のある動物を探索する。そこをライルと陽炎で掘り進め、動物がいると思しき深度に近づいたところで、再びパラーリアのスクロールが活躍する。ウォールホールで土砂に穴を開けてしまうのだ。
「良い案ですね。作業がはかどります」
感心する陽炎の表情が変わる。穴から救い出した兎は今にも息絶えようとしていた。
「そういう時はこれ!」
パラーリアはアイスコフィンで兎を氷の中に閉じ込めた。こうすれば兎の容態は悪化することが無い。
「じゃ、俺がテントまで届けて来るぜ」
ライルは氷の塊を受け取ると、リスを入れた手製の折りたたみ式小型檻も持ち、土砂崩れの上を物ともせぬ軽い足取りで越えていく。
手前の土砂でも、やはりゼルスのブレスセンサーが埋まった動物の探索に大いに役立っていた。それだけでなく自らもサイコキネキスを使用して邪魔な岩を除去していく。手負いで暴れる動物はチャームで大人しくさせている。
ゼルスに加えて堅護が連れて来た犬の長朗も、嗅覚を生かして動物を探し当てる。
動物が埋まっていると判明した箇所を、セイノがテレスコープで内部の様子を探り、状況を掘り手に伝えながら効率良く掘り出していた。
「自然という物は、時として恐ろしい牙を向けるものにござる」
眼前の惨状に堅護が溜息を洩らす。
掘り出された動物達は既に事切れている者も多い。重症の者は涼哉が治療を行なっているテントに運ばれ、怪我の軽い者はその場でセイノととカントレラが手当てをしていく。
その様子をつい眼で追ってしまう堅護。自分もベテランの域にはまだ遠いが、やはり駆け出しであるカントレラが無事に作業しているか気にかかる。
そこへ獣道の方を探索していたはずのレテが姿を見せた。
「カントレラ、白翼寺が呼んでるわ。手伝いが必要みたい」
「今行きます!」
カントレラは今助けた狸を両手に抱えると、テントへ向けて駆け出した。
テントの中では、涼哉が孤軍奮闘を続けている。
重傷を負っている動物の治療を最優先とし、リカバーやクローンニングをかけていく。既にソルフの実も二つ程消費していた。
テントに入ってきたカントレラを見ずに、涼哉は手を動かしながら言う。
「マナウスと一緒に怪我の軽い動物達の処置を頼む」
見れば先に呼ばれたマナウスは動物達の泥を拭い、布を裂いて黙々と手当てを続けている。
自分が手当てできる範囲で傷の重いものから治療をしていく。レテとセイノが用意した薬草が有難い。
ロープで繋いだ鹿を連れて来たレテが、誰にとも無く言った。
「ライルも言っていたけど、雲行きが怪しいわ。雨が降るかも」
●雨。そして‥‥。
二人の風読みは的中していた。小粒ながらも雨脚は強くなり、土方達も冒険者達も作業を中断せざるを得なかった。雨の中作業をして土砂崩れが再発しては被害が拡大するばかりだ。
幸い半日程で雨は上がったが、作業はその分遅れを取ってしまった。その後土砂の中から掘り出された動物達の中には、もしかしたら助かった者たちもあったかもしれない。
「私が、ウェザーコントロールを使えていたら‥‥」
落ち込むカントレラをゼルスが励ます。
「私も冒険者になってしばらく経ちますが、力の及ばぬことはあります。大事なのは、目指すものに向けて歩むこと‥‥このことを糧に、お互い頑張りましょう」
「そう、ですね。皆さんのおかげで救えた命もたくさんあるんですもの」
カントレラの瞳から哀しみは消えなかったが、その眼差しは目指すべき未来の自分の姿を真っすぐに見据えていた。
傷の癒えた動物達は安全な場所で放し、救うことのできなかった動物達を埋葬するために皆で穴を掘る。
マナウスは穴の一つ一つに、カントレラが餌として集めた木の実を入れていく。
「死したものは次代の樹の糧となり、生命の輪を紡ぐってな」
彼の故郷ではこうして死者を弔い、その死は新たな命となるのだ。
カントレラが奏でる笛に合わせ、セイノが伝統舞踊を踊る。動物達を悼み、死者の国ポクナモシリ・ポクナシリへと送るために。
その悲しくも澄んだ音色は山中に、そして冒険者達の心にも深く響き渡った。