春秋姉妹。きのこ狩りに行こう!
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月13日〜10月18日
リプレイ公開日:2006年10月19日
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●オープニング
●きのこ狩り
今日も冒険者ギルドは依頼人や冒険者で賑わっている。
繁盛、と言えば聞こえがいいが、それだけ問題が起こっているわけだ。
その中を縫う様に、二人の少女が奥へと進む。
一人はまとめ上げた髪に小花のかんざしを挿し、菊柄浅葱色の小紋とほんわかとした空気をまとっている。もう一人は、結って流した髪に白絣の小袖と黒袴、剣士風の凛々しい少女。
この二人、刀の鍔・切羽から刀袋や下げ緒・柄糸などの刀備品・装飾具専門店である真壁屋自慢の双子の娘だ。
おっとりした方が姉の春花(はるか)。剣士風の方が妹の秋良(あきら)。
二卵性双生児のため容姿はさほど似ていないが、二人ともなかなかの美人だ。姉妹の差をつけず平等に育てられたのに性格は正反対。ボケツッコミ姉妹として真壁屋の近所ではちょっと有名で、二人の名前から『春秋姉妹(しゅんじゅうしまい)』なんて呼ばれている。
さて、その春秋姉妹。今日は二人そろってのお出ましだが‥‥。
「きのこ狩りなんですよ」
そう言って、にっこりと微笑む春花。
黒髪碧眼、和服の似合う受付係は困惑の入り混じった笑みを返した。
何の前置きも無く第一声がそれだったのだ。対応にも困るというものである。
隣にいた秋良が咳払いをし、春花を小突く。
「痛いよ、秋良ちゃん」
「いいから、春花は黙ってろ」
秋良は講義する春花を後ろに押しのけて、受付係に話し始めた。
「実は、母方の実家の裏山で茸が異常繁殖してしまったらしく、刈り取りを手伝って欲しいと言われたんだが‥‥」
「おじいちゃんもおばあちゃんも、風邪で寝込んじゃってて、人手がいるんだって」
「だから、黙ってろって! ‥‥という訳で、一緒に行ってくれる人を募集したい」
二人の話を依頼書に書き付けていた受付係は、ふと手を止めた。
「そういえば、真壁屋さんでは剣術道場もやっていらっしゃるんですよね。差し出がましいようですが、お弟子さんを連れて行かれては?」
その問いに、すかさず春花が答える。
「そうそう。普通のきのこだったら、皆連れて行けば遠足になったのにねぇ?」
「『普通の茸だったら』?」
いぶかしむ受付係に、秋良が言いにくそうに説明する。
「その、異常繁殖した茸っていうのが、大紅天狗茸なんだ」
「ああ、なるほど」
確かに、それは一般人が遠足として行く『茸狩り』にはならないだろう。だが、行くのが冒険者なら‥‥。
「大紅天狗茸は見た目を我慢すれば味はそれなりらしいですから、冒険者達も遠足気分で参加できそうですねぇ」
暢気に微笑む受付係に、春花も微笑んで言った。
「ですよねぇ! 終わったら皆できのこ鍋をしようと思ってるんですよ」
春花を黙らせることを諦めた秋良は、改めて頭を提げる。
「本当に数が多いらしいので、狩り切るまでに数日かかると思うが、よろしく頼む」
●リプレイ本文
●真壁家で待ち合わせ
真壁屋の店内では、一人の異国の女性が刀の鍔・切羽から刀袋や下げ緒・柄糸など陳列された商品を見て歩いている。
その時、店先に真壁屋の娘・春花が姿を見せた。異国のエルフの女性であっても物怖じせずに話しかける。
「ごめんなさい。店番を頼まれてたけど少し外してて‥‥お客さんですか?」
春花の愚問に対し、問われた女性はにこやかに微笑み返した。
「素敵なお店ですね。日本刀自体の美しさもさることながら、このような装飾品がそれをさらに引き立ててくれるのですね」
「お父さんが聞いたら、喜びます。何か気に入った物はありましたか?」
「はい‥‥ああ、いえ。あなたが春花さんですか?」
「そうです。あ、もしかして」
「申し遅れました。私、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)と申します。お店は茸狩りから帰ったら、ゆっくり拝見させていただきますね」
真壁屋の裏手にあたる敷地の奥には真壁流剣術道場が併設されている。春花がアクテを連れて道場へ向かうと、母屋の庭先で盆栽の手入れをしている秋良に出会った。
「秋良ちゃん、ここにいたの。アクテさん、妹の秋良ちゃんです」
春花に紹介されお互いに挨拶を交わしていると、通りから威勢の良い声が上がる。
「よーっす、二人とも久し振りだな」
見ると、垣根の向こうに鹿角椛(ea6333)の姿があった。アルル・ベルティーノ(ea4470)、山下剣清(ea6764)も一緒だ。この三人は以前、道場の門下生を増やすために助力してくれたのだ。
秋良が三人を裏口から招き入れると、アルルが丁寧にお辞儀をする。
「寺子屋の生徒たちがお世話になっています」
「いや、こちらこそ。飲み込みの早い子ばかりで助かる」
そう答える秋良の背中を椛が叩く。
「色々と話は聞いてるぞ。盛況なようで何よりだ」
そうこうしているうちに全員が真壁家に集まり、祖父母の待つ山へと向けて出発したのだった。
春秋姉妹の祖父母が待つ家は、山の麓にある。
夜遅い時間に着いたこともあり、挨拶もそこそこにその日は休むこととなった。
老夫婦二人で住むにはやや広すぎる家が幸いし、冒険者達は男部屋と女部屋に分かれて間借りできた。
「よっこいしょ」
男部屋に着くなり、陰守清十郎(eb7708)は背負い袋を下ろした。重量を感じさせる振動が畳に響く。道理で遅れがちだったわけだ。剣清は驚き訪ねる。
「何を持ってきたんだ?」
「スコップ、ロープに縄はしご。鍬や鋤でしょ? 釣り道具一式とか‥‥供えあれば憂いなしです」
その様子を横目に、星崎研(eb4640)は以前依頼で同行したことのある今川直仁(eb7197)に話しかけた。
「今川さんは優しいですね。風邪の老夫婦のために、毛布を差し上げるなんて」
「当たり前だ。老人は労らなくてはいかん」
「てっきり、春秋姉妹目当てかと思いましたよ」
この二人、女と見紛う悪党が温泉を占拠した依頼を共にしたことがある。その時直仁がその悪党を口説いていた事が強く印象に残っているのだ。
しかし直仁は真面目な表情で言った。
「今回は老夫婦のために訪れたのだ。そっちは休業だ」
男性陣が早めに就寝した一方、女性部屋の方からは賑やかな声がかすかに響いていた。
●茸狩りのために
翌日。早朝から天津風美沙樹(eb5363)を先頭に、冒険者達は近くの竹林を訪れていた。
男手が鉈で取った竹を、女性達が加工をしている。
「ここをこう切って‥‥こうやって組み合わせて」
美沙樹が見本を見せながら作っているのは、茸を取るための道具なのだという。それを二種類と、竹製の梯子。三組に分かれて行動することになっているため、それを一つの班に一揃えずつ作成する。
「あ、竹はそれで充分ですから、梯子作りをお願いしますわ」
追加の竹を持ってきた男たちに美沙樹が告げる。剣術教師をしているだけあっててきぱきとしている。
「あ、いたよ!」
声に皆が振り向くと、春花と秋良が姿を現した。
祖父母の看病がてら、大紅天狗茸や山道についての情報を聞いてから合流することになっていたのだ。
「おにぎり作ってきたから、お昼に皆で食べようね!」
そう言う春花はいつもの着物姿ではなく、祖母のもんぺを着用している。
「椛さんは、何を作ってるんだ?」
秋良が訪ねる。越後屋手拭いを裂いていた椛は手を休めて笑って見せた。
「これか? 丸めて耳栓にするんだよ。耳栓の用意がない奴の分もあるぞ」
そこへ、自分の作成分を終えたアルルが立ち上がった。
「皆さん、手を動かしながら聞いてください。大紅天狗茸について私が知っている限りの事をお話しさせていただきますね」
そう言うのは謙遜で、アルルの豊富なモンスター知識による丁寧な説明は、寺子屋で授業をしているだけあって、秋良の提供する老夫婦からの情報を交えて分かりやすく皆に伝えていく。
「何か質問があれば手を上げてください?」
「はいっ!」
「はい、春花さん」
「おにぎりの具は、何が好きですか?」
アルルの反応より早く、秋良が春花を小突いていた。
●茸を狩れ!
準備を終え、裏山の中腹へ向けて登山を始めた。
登山と言っても、さほど辛い山道ではない。登るほどに木々の葉は赤や黄に色づき、時折木々の合間からのぞく遠くの尾根を染める秋色と良く晴れた空の青が眼を奪う。
景色を楽しみながらの山歩きも終わり、大紅天狗茸の繁殖地域に踏み込んだ一行は、三班に分かれて方々に散っていった。
木の間を紅い蝶の羽根が舞う。
「アリスなら菌糸を踏まないから、頑張って茸を探すんだよ」
「さがす〜♪」
アルルと火のエレメンタラーフェアリーに研と直仁が続く。
「できれば姉妹と同行したかったですが‥‥」
「欠員が出たのだ、仕方あるまい。茸狩りは今日だけではないからな」
彼女たちと反対側に向かったのは美沙樹、椛、清十郎だ。
「ここの自然は優しいですわ。色も風も」
「ああ。私も宝石商見習いの頃は、山を歩き回って‥‥どうした?」
振り向いた清十郎は手に持っていた物を見せた。
「ほら、こんなに大きなナナフシです」
「ぎゃあぁぁ〜!!」
聞こえた叫びを振り返り、春花が暢気に笑う。
「もう茸を採り始めたんだね」
「そういえば、以前師範が言っていた臨時師範代の件なのだが‥‥」
剣清が秋良に向かって、やや照れた様子で口を開く。
「師範が本気なら、ぜひやらせてもらいたい」
「本当か? 叔父が度々あんたの事を言ってたんだ。あたしから伝えておくよ」
「あ、皆さん止まってください」
アクテは、春秋姉妹と剣清に数メートル先にある大紅天狗茸を差して言う。
「茸はあのように腐った切り株の根元や腐葉土に生えます。そのような場所を歩くときは、茸が無いか気をつけて‥‥」
「え?」
「キイィィァァア!!」
振り向いた春花の後ろから、物凄い音量の悲鳴がとどろき渡った。
大紅天狗茸は半径3mの地面に菌糸を張り巡らせ、そこに踏み入るとこのように悲鳴を上げる。
半径100mに轟く悲鳴は、つけている耳栓すらもつんざくほどだ。
「馬鹿か、お前は! さっきアルルさんに聞いたばかりだろ」
秋良が春花を引っ張るとぴたりと悲鳴が止んだ。が‥‥。
「あ、わわっ」
春花は体勢を崩して秋良の袖を掴んだ。
「ちょっ、うわぁ!」
二人はもんどりうつように斜面に転がり込んだ。
「これは便利ですね」
研が美沙樹の考案した茸釣り具を木の上から下げながら言う。竹製の長柄の先にある縄の輪を茸の傘にくぐらせて引くと、輪が締まって茸を吊り上げられるのだ。
「悲鳴さえ上げさせなければ、只のでかい茸だ」
直仁が持っている茸鋏は、鉤型に曲げた竹を組み合わせ、片方を引くと鉤の先で挟み込める。
アルルは、アリスがが見つけた大紅天狗茸にウィンドスラッシュを当てる。二・三本まとめて切断された茸を拾い上げた。
「きゃぁああ!」
「あら、茸の悲鳴にしては、人っぽい‥‥きゃっ!?」
背中に衝撃を受け、アルルは地面に倒れこんだ。そのまま上から転がってきた春秋姉妹に巻き込まれて転がっていく。
三人の転がり行く先々で、茸の悲鳴が連鎖的に起こった事は言うまでも無い。
●茸鍋
「いやぁ、本当に大漁だったなぁ」
椛は愛馬の猛に背負わせた籠を下ろして言った。それに加えて、全員が大きな籠一杯に茸を背負っている。
連日に渡る茸狩りはようやく終了した。余った茸は皆や近くの里に分られるそうだ。後は待ちに待った茸鍋である。
「じゃあ、あたしが茸鍋を作るから、皆はゆっくりしててくれ」
厨房に向かう秋良が手にした茸の籠を、直仁が持った。
「料理はできないが、できることを手伝おう」
「あ‥‥すまない」
「じゃあ、皆で協力してやりましょう。春花さんは、私と一緒にね」
アルルはすかさず失敗の芽である春花を捕まえた。
囲炉裏に吊るされた大きな鍋から、美味しそうな香りが漂う。直仁の提案で、薄めに味付けた老夫婦用の物も用意された。
大分回復した祖父母も同席し、ささやかながら宴会が開かれた。
「すまなんだなぁ。わしらが風邪を引いたばっかりに」
老夫婦の隣に春花と秋良が座り、二人に鍋をよそう。
「皆がいるから、すぐに終わるよ」
「このシソ茶、アルルさんが作ってくれたんだ」
「本当かい? 今朝いただいた卵酒も、椛さんのお酒で作ったんですってねぇ。おかげで体調も良くなったよ」
祖母はそう言って柔和な笑みを見せた。
皆でいただく茸鍋は、苦労しただけあって格別だった。
「おいしーい! 耳を痛めた甲斐がありましたね♪」
アルルは幸せそうに茸を頬張っている。一緒に採った山菜の出汁がさらに味を引き立てている。
「アクテさんが採ってきてくれた山葡萄も美味しかったのう。一度に孫が沢山できたみたいじゃ」
嬉しそうな祖父の顔は、春秋姉妹だけでなく皆の心を暖かくした。
椛と研が提供したどぶろくの肴に、茸鍋と焼き茸に舌鼓を打ち、茸狩りの最中に起きた騒ぎなどを老夫婦に話して聞かせた。
そうして秋の夜はゆっくりと更けていくのだった。