季節はずれの肝試し!? 龍昇寺でお留守番
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:6〜10lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月21日〜11月26日
リプレイ公開日:2006年11月30日
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●オープニング
●龍昇寺でお留守番
山間にある由緒ある古寺、龍昇寺。
このお寺は、一人の和尚様と四人の小坊主たちで切り盛りしている。
「えぇっ、見たの!?」
「本当に?」
驚く二人は小坊主の悠念と詠流。
もう一人、息を切らせて頷くのは同じく小坊主の連観。
「嘘なんかじゃないよ、見に行ってみろよ!」
「嫌だよ、憑り殺されたりしたらどうするんだよ〜」
「坊主になろうっていうのに、何言ってるのさ」
「じゃあ、お前が行って来いよ」
宵の口、三人が渡り廊下で言い合いをしていると、そこに少し年上の先輩小坊主が通りかかった。
「お前達、何をもめてるんだ?」
「あ、孝寿さん」
「連観が墓地で幽霊を見たって」
「幽霊!?」
そうして孝寿を先頭に、寄り固まって墓地へ向かってみると‥‥。
「ひっ、人魂!?」
「あわわ‥‥」
悠念と詠流は驚きのあまり腰を抜かしてしまった。
雑木林の向こうに見える墓地には、墓の上で浮遊する青白い炎がいくつか見える。
「困ったな、和尚様のいないときに」
孝寿が言うとおり、鉄斎和尚は急な用事で寺を留守にしていた。今寺にいるのは四人の小坊主たちだけなのだ。
「どうしよう、孝寿さん」
心細そうな三人の様子に、孝寿は自らの気を引き締めた。一番年長である自分が、しっかりしなくては。
孝寿は三人に向かって言った。
「和尚様が寺の留守を頼んだ冒険者の人達が、明日明後日にも到着するはずだ。それまで、墓地には立ち入らないようにしよう」
和尚は出かけがてら江戸に立ち寄り、子供だけを残して行くのは心配だからと『留守番要員として冒険者を』とギルドに依頼して行ったのだ。
「でも、墓地のお掃除とかは‥‥」
「さぼったら和尚様に怒られちゃうよ」
連観と詠流は未だに、いろんな意味で不安を隠しきれずにいる。
確かに、留守を預かることもできないとなれば、面目が立たない。しかし、不用意に立ち入って大事に至ってからでは遅いのだ。
「大丈夫だって! 冒険者さん達が何とかしてくれるさ」
孝寿は三人に言い聞かせて墓地を後にするのだった。
その数日後。龍昇寺の留守番要員として寺を訪れた冒険者達は、人魂退治もすることになってしまったのである。
●リプレイ本文
●龍昇寺
冒険者達を、小坊主達は門前まで駆け出して出迎えた。
「待ってたよ、冒険者さん!」
「大変なんだ!」
「お化けが!」
「裏の墓地が!」
いっぺんに騒ぎ出すものだから、何を言っているのか解らない。
「落ち着いて。誰かが代表して話したらどうです?」
北天満(eb2004)が表情も変えずに言うと、満と変わらない背丈の小坊主達は顔を見合わせた。
最年長である孝寿が事情を説明する。
「‥‥というわけで、墓地の掃除ができなくて困ってるんだ」
「なるほどのう。ならば、わしらが助けてやるかのう」
マハ・セプト(ea9249)がふわりと飛び上がり笑って見せると、小坊主達は安心したように微笑んだ。
「山道を歩いてきて疲れたでしょう? お茶を入れますから一息ついてください」
詠流の申し出をありがたく受けることにし、元気に駆け戻る小坊主達の後を追って歩き出した。
「紅葉見物のつもりでお気楽に参加したのになんだい、人魂退治もしろって言うのかい‥‥参ったね」
音無鬼灯(eb3757)が呟くと、旧知の仲である満も同意する。
「最近は危険な事が多くて、少し徳を積んでおこうかと思っていたのですが。只の留守番とは行きませんでしたね」
腕組をしたマハが二人の間に飛来した。
「人魂と言うておるが、さしずめレイスあたりじゃろう‥‥ジャパンでは怨霊と言うのじゃったかな?」
僧侶であるマハはそのあたりの妖怪に関して心得がある。
「それなら、僕は大丈夫だね」
そう言ったのは佐伯七海(eb2168)だ。僕、と言っているが紛れもなく女性である。
「まだ未熟だけど、五神剣派の破邪神剣派の技は怨霊をもうち砕いて成仏させるんだ」
「ホッホッ、頼もしいのう。とりあえず夜になるまでは、小坊主達を手伝うとするかのう」
広い境内を抜けて寺へたどり着くと、渡り廊下から詠流と連観が手招きしている。
「早くおいでよ!」
「少しだけど、お茶菓子もあるよ」
それを聞いて、普段感情の表れない満の頬にほのかな赤味が差す。
「お茶菓子‥‥ぜひご馳走になりましょう」
満は無類の甘党なのであった。
●小坊主達と冒険者達
「さて、留守番をしている感心な小坊主さん達を手伝うとするかの」
お茶をご馳走になった後、マハが悠念、連観の二人と共に掃除をするために本堂の方へ向かっていく。
ご老体にばかり手伝いをさせるわけには行かない、とクゥエヘリ・ライ(ea9507)もそれに続く。
茶室に残った詠流と孝寿が皆に告げた。
「僕達、今日の夕食当番なんだ」
「茸でも採ってこようかと思ってるんだけど、手伝ってくれるかな?」
その言葉に、鬼灯が立ち上がった。満は二人の小坊主に言う。
「犬は大丈夫ですか? でしたら、滞在している間あなた達で七星と十字星をかまってあげてもらえませんか?」
「犬がいるの?」
嬉しそうに訪ねる詠流に、満は表情を変えずに頷く。
「賢い子達ですから、茸採りの手伝いをしてくれますよ。今紹介しますね」
満に預けられた犬二匹を連れ、夕食当番組は龍昇寺の裏山を訪れた。
犬好きの詠流は七星と十字星に囲まれてはしゃいでいる。先刻斜面に足を滑らせた時に、二匹に助けてもらったこともあり、詠流はすっかり気に入ったようだ。
孝寿が詠流に向けて声を掛ける。
「あんまり遠くに行くなよ!」
「満の連れが一緒なら大丈夫だ」
そう言ったのは鬼灯だ。ジャイアントである鬼灯は、孝寿からすると見上げる高さである。体格もあいまって男のような印象を与えるが、男性用の着衣の胸元はサラシでも抑えきれておらず、女性であることを物語っている。
鬼灯はその身をかがめて正面から孝寿を見た。
「孝寿。人魂を退治している間は、墓には近づくんじゃないよ」
「えっ、でも‥‥」
「お前が一番年長なんだろ? 弟分が真似しないように考えるんだよ」
鬼灯に言われ、孝寿は頷いた。
「‥‥わかったよ。あいつらを危険な目にはあわせられないもんな」
そう言った孝寿の頭を、鬼灯は大きな手でわしわしと撫でた。
「人魂は僕達が退治するから、安心して待ってるんだ」
「うん!」
鬼灯の笑顔に、孝寿も笑顔を返すのだった。
本堂の掃除をマハとクゥエヘリに任せ境内の掃除をしに来た悠念と連観は、境内に七海の姿を見つけた。彼女は膝までの高さ程に切り出した木に鑿を当て、一心に槌を振るっている。
「えっと、七海さん‥‥だったよね?」
「なにしてるの?」
七海は手を止めて箒を手にした小坊主達を振り向いた。
「僕は仏像を彫ることを生業としているんだよ。どんな悪人や怨霊でさえも穏やかな心を取戻す程の慈愛に満ちた仏様を彫る。それが僕の夢なんだ」
「へぇ〜!」
「すごいね、本堂の仏様みたいなのができるの?」
「はは、あんなに大きいのは無理かな。でも完成したら見せてあげるよ」
「やった!」
「楽しみだなぁ」
鐘撞堂の方へと駆けて行き落ち葉を集め始める二人を遠目に、七海は再び槌の音を響かせ始めた。
●怨霊退治
防風林の中を横切る、寺と墓地を繋ぐ道を鬼灯が戻ってきた。
辺りはすっかり陽が暮れ、周囲は暗闇に包まれている。夜目に優れた鬼灯には月が出ていない今日のような夜の闇も、身軽に陽の下を行くがごとくである。
道の途中で待っていた仲間に、視察の状況を告げる。
「敵の数は三体。周囲は暗いが、相手が光っているからな。見失うことは無いだろう」
「それでは、作戦通りに」
クゥエヘリの言葉に、皆目線を合わせて頷き合った。
墓地の一角、墓の上を彷徨う青白い炎がある。
この世に未練を残し成仏することのできない魂。既に現世の意識も失われ、ただ自らの苦しみを逃れようとするためだけに暴れ狂い、生ある者を襲うのだ。
三体のうち一体が、炎のような身体を震わせた。ふわりゆらりと揺れていた二体もぴたりと止まる。
刹那、三つの青白い炎はその勢いを増し、ある一方へ飛翔する。
弓弦の音と共に鋭く空を裂く一条の光。
「グォオ!」
怨霊の一体が恐ろしい悲鳴を上げて速度を緩めた。淡い光を放つ矢が突き立っている。光を失った矢は、魔力を失い怨霊の身体をすり抜けるように落ちた。
クゥエヘリの武器、短弓『早矢』は射た矢に魔力を与えることができるのだ。
次の矢を番えながら、紅蓮の左眼で怨霊を見据える。
「マハ老の元へ近づかせはしない」
その隣でもう一体が、炎の一部を切り裂かれる。真空の刃を飛ばした満が、スクロールを手に立ち塞がる。
「どうですか? 風斬り符の威力は?」
怨霊は一瞬の身じろぎの後、怒りの声を上げて満に襲い掛かる。一歩も動かない満に、怨霊は身体ごとぶつかり生気を吸い取る‥‥はずだった。
「グギャッ!?」
空気が弾ける音と共に青白い火花が散る。満の身体は青白い光、電気により護られているのだ。
残る一体が詠唱を続けるマハの元へと迫る。
その行く手を塞ぐ長身の影。
「ここから先は行かせないよ!」
鬼灯の桃の木刀が、袈裟懸けに振り下ろされる。それをかわした怨霊に、横合いからの一撃が加えられた。
「僕達が相手だ」
七海は打ち下ろした桃の木刀を、左手の美しい装飾の施された銀の儀礼用短剣と共に構えて立ちはだかる。
鬼灯と七海が一体を挟撃し、クゥエヘリと満が援護射撃により他二体を近づかせないようにする。
怨霊は素早く飛び回り、なかなか手ごたえのある打撃を与えることができない。それに攻撃の際に触れてしまっただけで、こちらは痛手を受けるのだ。
「くっ」
細かな負傷を受け続けた鬼灯が僅かに膝を落とす。
「音無殿、こちらじゃ!」
マハの声がする方へ鬼灯が走りこむ。後を追った怨霊は、眼に見えぬ壁に遮られた。ホーリーフィールドによる結界が張られているのだ。
「神よ、この者に癒しを」
片手で印を結び、もう一方の手が鬼灯に触れる。鬼灯の身体を暖かな光が包みこむ。傷の癒えた鬼灯は再び戦いに赴く。
戦いは長く続いた。マハが効果が切れるたびに結界を張りなおし、傷ついた者を癒す。クゥエヘリと満の援護の中、鬼灯と七海が回復を受けながらも果敢に怨霊へと立ち向かう。
やがて魔力も底を突こうとしていた頃。
とどめを刺された最後の怨霊は、上り始めた朝陽に溶けるように消えていった。
「今ここに眠りにつく魂に安らぎのあらんことを‥‥」
マハは静かに眼を閉じ、祈りを捧げた。
●龍昇寺の秋
「お帰りなさい、和尚様!」
用事を済ませて戻った鉄斎和尚を、小坊主たちが嬉しそうに迎えている。
「この度はこの子達の面倒を見てくださって、ありがとうございました」
自己紹介をする冒険者達に、和尚は深々と頭を下げた。
「いいや、僕達も楽しませてもらってるよ」
言って鬼灯は孝寿に目配せをした。怨霊の件は和尚には内緒にすると約束をしたのだ。
「それは良かった。土産に芋をいただいて来ましたのじゃ。皆で焼き芋でもしませんかな?」
「やったー!」
和尚の声に、小坊主たちが一斉に歓声を上げる。
集めた落ち葉の焚き火でできた焼芋を、縁側に腰掛け皆でいただく。
「美味しい‥‥」
満は幸せそうに焼芋を頬張る。
七海が布をかぶせた物を和尚の前に差し出した。
「和尚様、これを‥‥」
取り払った布の下から、気高くも優しい笑みを浮かべた菩薩が姿を現した。小坊主たちもすっかり見入ってしまっている。和尚も感嘆の息をついた。
「これは素晴らしい」
「このお寺にお納めいただけますか?」
「ではありがたく」
縁側には見事な紅葉の木が、鮮やかに色付いている。
それを見上げながら、クゥエヘリがマハに微笑んだ。
「知り合ってから何度目の秋かしら? うちがマハ老とお会いしたのもこの様な寺やったな」
「お姉さん、お寺にいたの?」
連観に訪ねられ、クゥエヘリは眼を細めた。
「実はマハ老に知り合ったんも、うちの知り合いの僧侶がいたからなんよ。あんたらを見てると懐かしいわ」
その晩は鉄斎和尚による絶品精進料理をご馳走になり、秋の夜長を楽しく過ごしたのであった。