冒険者対抗・市中一周障害(物)競走!
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月30日〜12月05日
リプレイ公開日:2006年12月08日
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●オープニング
●障害(物)競争!
魚を入れた天秤を担ぎ道を駆けていた永治は、通り過ぎかけた辻で足を止めた。
急に方向転換し角を曲がると、さらに辻を一つ越えた先で再び立ち止まる。
天秤を担ぎなおし空いている手で襟を正すと、永治は深呼吸の後に口を開いた。
「お夕さん、こんなところで奇遇ですねぇ!」
永治の呼びかけに振り向いたのは、未亡人のお夕だ。
「あら、永治さん」
「妙ちゃんは一緒じゃねぇんですかい?」
「ええ、これから姉の元に迎えに行くところなんですけど‥‥」
困り果てた様子のお夕が見つめる先、道は人だかりで埋め尽くされていた。
「うおっ!」
永治はようやく人だかりに気付いて驚きの声を上げた。それまではお夕の姿しか眼に入っていなかったのだ。
「お夕さんの行く手を塞ぐたぁ‥‥一体何が原因なんでぇ! 待っててくだせぇ、お夕さん。この永治がつきとめて来まさぁ!」
「あ、ちょっと永治さん?」
お夕が声を掛けた時には、永治の姿は天秤も置き去りに人混みの中に消えていった。
揉みに揉まれた永治がたどり着いた人ごみの中心にあったのは、何と一つの立て札だった。永治は立て札を睨みつけ、お夕に見合う男になるためにと最近習い始めた読み書きの知識を総動員した。
「冒険者ギルド主催・市中一周障害(物)競争‥‥??」
『冒険者ギルド主催・市中一周障害(物)競争』
冒険者が自らの知恵と力を競いながら、市中に設けられた障害を乗り越えゴールを目指します。
冒険者の方々はぜひとも参加を! 一般人の方々はぜひ沿道で観戦を!
競争経路:
武闘会場 出発点
↓
小船渡り(浅瀬に停泊している小船から小船へ跳び移る)
↓
港・停車場経由
↓
越後屋さん外周経由(ここで障害物競走の札の付いた越後屋扇子をひとつ取る)
↓
橋の欄干渡り(川に落ちないよう注意)
↓
江戸城外周にて柵越え(ここでは等間隔に用意された柵を飛び越えながら走る)
↓
寺 終点
参加資格:Lv1〜5の冒険者であること
賞金:1位 3G 2位 2G 3位 1G
参加者全員に参加賞金。また、参加賞として越後屋扇子。
参加希望の冒険者はギルドまでお申し込みください。
●リプレイ本文
●とにかく障害(物)競争
競技当日。
出発地点となる武道会場には多くの見物人が集まっていた。
『お集まりの皆さん、お待たせいたしました! 第一回・冒険者対抗・市中一周障害(物)競走を開催いたしま〜す!』
革を膠で固めた拡声器を片手に、左眼に眼帯をした少年が宣言する。彼はギルドの相談係であり、この大会の企画者その人である。お祭好きの見物人たちが歓声をあげた。
『それでは、競技参加者を紹介いたします』
相談係は片手の調書に眼を走らせた。そこにはギルド諜報部が調べた準備中の参加者の様子が記されている。
『まずはこちら! 競争経路の下調べを入念に行なう慎重さ。石橋を叩いて渡る男、三笠流(eb5698)! はい、一言』
「いつの間に観察されてたんだ‥‥無事完走を目標に『まいぺーす』で走ろうと思う」
『次はこの人。敏捷力を体力で補う肉体派、御簾丸月桂(eb3383)!』
「こーいうお祭り的なのは、楽しんでナンボだからな♪ おじさんも若いモンにゃ負けないぞー」
『えっと次。知る人ぞ知る真壁屋名物、春秋姉妹・妹。真壁流剣術道場師範代、真壁秋良!』
「名物って何だよ!」
すかさず突っ込んだ秋良に、子供たちの声が飛ぶ。
「せんせい、がんばってー!」
「‥‥道場の名に恥じぬ戦いぶりをしよう」
『はい次! 意中の人に男気を見せる為、愛に走る男、漁火永治!』
「ば、馬鹿野郎! 何言いやがる!!」
永治は真っ赤な顔で、その意中の人が聞いてやいないかと周囲を見回す。
「この競技は、冒険者対抗ではなかったのか?」
流がふと訪ねると、月桂も秋良と永治を見て言った。
「そういや、そうだよな。しかも若い娘さんが、大丈夫なのか?」
その言葉にむっとする秋良をなだめるように、和服の似合う黒髪碧眼の受付係が割って入る。
「実は参加希望者のうち二名が棄権いたしまして。急遽一般参加者を募ったというわけなのです。能力差を考慮し障害を減らすなどしてありますから、安心して競争してください」
相談係は彼の弟なのだが、それ故に弟の思いつきから始まった企画に無理矢理つき合わされているのだ。
『はいはい、皆さんお待ちかねなんだから、始めるぜ。選手は位置について!』
見物人、というよりも待ちきれなくなったのは当人なのだが、相談係のその声に四人が地面に引かれた線の上に並ぶ。
『冒険者は少し間を置いて、二回目の合図で出発だ。まず、一般参加の二人から。それでは、よ〜い‥‥始め!!』
掛け声と同時に秋良と永治が駆け出す。やや間を取ってから流と月桂が出発した。
冒険者対抗ではなくなったが、とにかく障害(物)競争は開始された。
●小船渡り
武道会場から海へ向かい、砂浜沿いに走ると河口がある。そこを経由し港までの浅瀬に係留された小船を飛び渡るのが最初の障害だ。
「よっ、とと‥‥」
危なっかしい足取りで小船を渡る永治。秋良は身軽に障害を越え、既に港付近まで渡り終えている。
簡単だと思っていたが、実際やってみると小さな船ゆえに波に揺られ、不安定な足場に思うように均衡を取れないのだ。
そんな永治を、忍ならではの身軽さで追い越していくのは流である。流が飛んだ反動で揺れる船に、永治は慌ててしがみつく。その間に月桂も永治に追いついた。
と、数艘先で流が立ち止まった。眼の良い月桂が呟く。
「おいおい、船のもやいを解いてるよ」
「何だって?」
驚く永治の肩を、月桂が叩いて先へ進んだ。
「早く渡らないと、船が流れちまうぞ」
言っている側から、放たれた船は少しずつ沖側へ移動している。
流はそこから先、全ての船の縄を解きながら進んで行く。
永治を追い越して危なげながらも船を渡って行く月桂。永治も慌てて追いかけるが、体格の良い月桂に踏み台にされた小船は大きく揺れ、船同士の間隔も広がってしまっている。
「ていっ、とうっ、何のっ!」
跳び幅ぎりぎりで船を渡る永治に、浜から歓声が上がる。その見物人の中にお夕の姿が無いかと思わず眼を向けた瞬間。
永治の身体は飛沫をあげて波の間に突っ伏していた。
●港・停車場〜越後屋
流が港に着いてから、さほど間を置かずに月桂も港に上陸した。流が縄を解いている間に距離を詰めることができたのだ。
「よーし、こっちも仕掛けるか」
月桂は、流が角を曲がるのを見届けてから術を発動した。
流は次の中継地である越後屋へ向けて進路を駆けている。
「船の持ち主には申し訳ない事をしたかな。後で船の回収を手伝おう」
一人呟いたその時、流の忍の勘が危険を告げた。
「殺気!」
道の脇に飛び退り、身をかがめて周囲を探る。しかし、辺りには何も無く、誰の姿も見当たらない。
「気のせいか‥‥?」
そんな流の姿を背に、その場を静かに走り去るのは月桂だ。
インビジブルで姿を消した状態で、流の転倒を狙って足を引っ掛けようとしたのだ。避けられはしたものの、足止めには成功したようだ。
平地での徒競走になれば、月桂の得意分野だ。専門級まで達している長距離走力を発揮し、先行して走っていた秋良の背中を捉えた。
「先に行かせてもらうぜ♪」
「え?」
秋良は辺りを見回すが、透明化している月桂が通り過ぎているのを見つけることができない。
そのまま越後屋を外回りに迂回し、秋良は越後屋の脇に用意されている台の上に並んでいる越後屋扇子を手にする。
しばらく走ってから、ふと視界に入った手元の扇子に、秋良は立ち止まる。以前購入した福袋に入っていた越後屋扇子とは微妙に形状が異なるような‥‥。
「なっ‥‥!」
扇子を開くなり、秋良は急いで取って返す。扇子は越後屋扇子ではなく、日の丸に天晴れの文字が躍る天晴れ扇子だったのだ。実は月桂が扇子を取る時に自分の天晴れ扇子を混入させていたのだ。
姿を消した月桂が先行している事も知られず、故に扇子が四つある事も自然と思われる。大会名の入った札が付いていない事に気付かず、まんまと月桂の策にはまってしまった秋良は流にも追い越されてしまったのであった。
●欄干渡り
『江戸城の足元で繰り広げられるは、堀を渡す橋の欄干渡りだ!』
近道を通り先回りして来た相談係が、見物人を煽って盛り上げている。その隣で呆れ半分の笑みを浮かべた受付係が呟く。
「本当にお前はお祭騒ぎが好きだねぇ」
それは沿道から起こった歓声に打ち消された。
『おっと、最初の走者が現れたな。最初に欄干渡りに挑戦するのは‥‥御簾丸月桂だ!』
インビジブルの効果が解けた月桂は、沿道の歓声に手を上げて答えながら欄干に飛び乗った。
「おっとっと」
両手を広げて均衡を取りながら、ふらふらとした足取りを進める。身体が大きく振れる度に、沿道から声が上がる。
立ち止まった月桂は懐から取り出した小瓶の中味を、自分の後ろの欄干にぶちまけた。
月桂が渡り終えた直後、流が欄干の出発地点に到着した。彼は欄干に乗る前にも、入念に欄干を見つめている。
『三笠選手が慎重な確認をしている間に、追いついた春秋姉妹・妹! 欄干に飛び乗った!』
「待て、そこは‥‥!」
「わっ!」
思わず流が口走った時には、秋良は月桂が撒いた油に足を滑らせ堀に水音を響かせていた。
「遅かったか‥‥俺は先に行かせてもらうぞ」
流は欄干に乗ると、地面を行くのと変わらぬ速度で走り抜け、油は身軽に飛び越して欄干を越えて行った。
『落ちたら、下ろしてある縄で上がってきてください』
水面から顔を出した秋良が振り返ると、欄干渡りの開始地点の脇に縄が下がっている。
「まさか‥‥」
『落ちたら最初からやり直し!』
うなだれる秋良の後ろで、永治が高い水飛沫を上げていた。
●柵越え。そして決着は‥‥?
『続いては立ち並ぶ柵を越えながら走る、異国ではハードルと呼ばれる障害競走だ! 先頭を走る御簾丸選手だが、いつまで先頭を走れるか!?』
相談係の言葉に受付係も頷く。
「このような競技は、身軽な三笠選手の方が圧倒的に有利。しかし、これを越えた後寺までの徒競走となると御簾丸選手が有利だろう。どちらが勝つか‥‥」
『じゃ、俺等は先に寺に行って待ちますか!』
馬に乗り終点へ向かう二人。
終点となる寺の境内は、大勢の見物人でごった返していた。
寺へと向かう坂道を登り来る人影に、すかさず相談係が拡声器を当てて叫ぶ。
『来ました、先頭は三笠選手です! おっと、後ろから御簾丸選手も迫っている! 終点まであとわずか、一位を取るのはどっちだー!?』
寺の門を抜けて駆けて来る流を、月桂が追う。係員が持つ終点の白布を、二人はほぼ同時に駆け抜けた。見物人から歓声の声が上がる。
『肉眼では同着のように見えましたが‥‥今ギルド員の優良視力持ち二名による判定が行なわれています。結果は‥‥』
それまで賑わっていた境内がしんと静まり返る。判定の結果が相談係に耳打ちされた。
『一着・御簾丸月桂! 二着・三笠流! 二人の健闘に盛大な拍手を!』
数々の障害を乗り越え完走した二人に惜しみない拍手が贈られる。それに両手をあげて答えていた月桂だったが、突然流を振り向いた。
「完走した奴は胴上げでお祝いだ!」
その声に見物人も応じ、半ば強引に流を胴上げする。
続いて到着した秋良、永治も無理矢理胴上げされ、最後に見物人によって月桂が胴上げされた。
その後、秋良の姉であるはるかにより皆に暖かい甘酒が振舞われた。
「競技の疲れも取れるようだな」
美味そうに甘酒をいただく流の隣で、お夕に醜態を晒すはめになり身も心もぼろぼろの永治を月桂が捕まえている。
「風邪でも引いたら大変だ。皆で風呂にでも入って、その後ぱあっとやろうや!」
甘酒を月桂と永治に手渡していたはるかが元気に手を上げる。
「私も行きたい!」
「お前は走ってないだろ!」
はるかを小突いた秋良も堀に落ちてびしょぬれで、それには賛成だった。
その夜は参加者全員とおまけ一人で慰労会をして賑やかに更けていった。