駆け出し冒険者とはぐれペット
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月02日〜12月07日
リプレイ公開日:2006年12月12日
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●オープニング
●こんなところに‥‥?
山の中を一人行く老人がいる。
近くの里から木の実を採りにやってきたのだ。
毎年秋になると、この森にはアケビやムベ、山葡萄などが実をつける。それを長年に渡って採り続けてきたこの与平、老いたりとはいえ山道を行く足取りは里の若い者にも劣らない。
「む!?」
風にそよぐ枝音に紛れるその音を、与平は聞き逃さなかった。
獣が草を分け進む微かな気配。次第に近づいてくるその音に動じることも無い。山に出没する獣くらいはあしらう自信がある。‥‥はずだった。
「ぅあ、あ‥‥あ」
腰から力の抜けた与平はその場に尻餅をついた。
緑色をした爬虫類の表皮。蜥蜴、のようではあるが、その大きさが尋常ではない。前足は無く、長い尾の先は針のように尖り、鉤爪の付いた強靭な後肢が巨体を支えている。
『それ』は与平の前で身体を持ち上げ、大きな翼を広げて見せた。
「ひえぇぇっ! ば、化け物!」
「ち、違うんです! この子は‥‥」
転がるように山道を駆け戻る与平に、『それ』を追って現れたコロポックルの少女の声は届いていなかった。
「‥‥というわけでして。近くの里ではすっかり騒ぎになってしまい、あの子を、その、処分してしまおうという動きがあるようなのです」
ギルドの受付で、コロポックルの伝統衣装を身につけた黒髪の少女が話をしている。
子供のように見えるが、パラは元来小柄な種族。実際の年齢は十六歳の立派な乙女だ。
すっかり馴染みとなった受付係の少女は、動かしていた筆を止めて言った。
「カントレラさんが見たというその子は、おそらく風精龍でしょう」
「風精龍??」
カントレラと呼ばれたコロポックルの少女は、受付係が筆で描いた絵を見て微笑んだ。
「そうですそうです。そんな姿です! 受付係さん、絵がお上手ですねぇ」
「恐れ入ります」
受付係も微笑み返す。が、すぐに神妙な表情に戻った。
「カントレラさんに懐いたということは‥‥誰かのペットであった可能性が高いですね」
「ぺっと、ですか?」
「はい。卵から孵化した蜥蜴が、風精龍になったという事例が報告されてます。飼い主の方とはぐれてしまったのか。もしくは、飼えなくなったので捨ててしまった。あるいは‥‥」
そこまで言って受付係は言葉を呑んだ。もう一つの可能性は、飼い主が旅の途中で力尽きてしまったという場合である。
カントレラは受付係の絵を、憂いを含んだ瞳で見つめた。
「人に害を及ぼす事は無いと里の皆さんに説明したのですが解ってもらえず‥‥」
「京都まで連れてきてはどうでしょう? ギルドで保護して、引き取り先を見つける事もできますよ」
「それも考えたのですが、どうもあの山を離れたくないようなのです」
カントレラと受付係は二人同時に溜息をついてしまった。
ややあって、カントレラが身を乗り出して言った。
「でも、なんとかしてあの子を助けてあげたいんです! 方法は、まだ思いつきませんけど‥‥」
「かしこまりです〜。一緒に考えて何とかしてくれる人を探しに来たというわけなのですね?」
「そうなんです! 毎度の事で申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします」
カントレラは深々と頭を下げた。
●リプレイ本文
●出会いと再会
カントレラは今回の仲間の中に見知った顔を見つけて笑顔で駆け寄る。
「文乃さん、お久しぶりです!」
「久しぶりね、元気してた?」
「はい! おかげさまで瑠架ちゃんのひれも元通りになりました」
頴娃文乃(eb6553)とは、共にイルカを救った仲なのだ。
カントレラはもう一人、パラの青年に頭を下げた。
「守崎さんもお力を貸してくださるんですね。いつも心強いです」
「風精龍とはまた珍しい物に好かれたでござるな」
守崎堅護(eb3043)は危なっかしいカントレラを気にかけてくれており、カントレラにとっては頼れる先輩冒険者だ。
「僕、風精龍を山海経で調べてみたんだけど詳しい事までわからなかったんだよね」
街道を山へ向かいながら、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が言う。背が高く見えるのは、空飛ぶ箒に跨っているためだ。
それを聞いた拍手阿義流(eb1795)が眼を輝かせる。
「精霊博士の称号にかけて説明させていただきましょう」
風精龍は緑色の外皮を持つ翼の生えた翼長8mにもなる蜥蜴だ。前肢は無く、鉤爪のついた後肢と毒針の付いた長い尾を持ち、風の精霊だけに風魔法に長けている。
「‥‥というのが特徴です。これだけ精霊について学んだのに、亀も輝きも精霊に成り損ねたんですけどね」
阿義流は自宅のペットを想い嘆く。今日はのお供は闘鶏を目指している鶏だ。
「風精龍が動かない理由を見つけ、龍も村人も納得済みで山を離れられればいいんじゃが」
枡楓(ea0696)は街道の向こうにかすんで見える山に視線を向けた。
●村人蜂起?
山の麓にある里では、里の猟師と近隣の里から招いた猟師を中心とした討伐隊が今にも山へ向かわんとしていた。
「その討伐、ちょっと待ってください!」
声と共に、袈裟を纏った少女が走ってくる。その後ろにも数人が続く。
「なんじゃ、あんたら?」
最年長猟師である与平が声をかけると、茉莉花緋雨(eb3226)が一礼して告げた。
「これから龍の討伐へ向かわれる物とお見受けしました。それを思いとどまっていただきたいのです」
「あんな危険なもん放っとけるか!」
怒鳴る与平を、最初に呼び止めた少女、奉丈陽(ea6334)が押し留める。
「私はあのような生物を研究している学者なんです。相手は空も飛び体も大きいです。無理をせず私達に任せてください」
それを後押しするように、長寿院文淳(eb0711)が静かに話す。
「現時点で、里に害は出ていません‥‥あの龍が山から離れようとしない理由を、我々が探ります。せめて一週間だけでも、山狩りを思いとどまっていただければ‥‥」
文淳の熟練した僧侶の説得力に、里の男達は納得したようだった。しかし、与平をはじめとする猟師たちは得心いかず、戦意を失った者達に激を飛ばしている。
「これはどうした騒ぎだ?」
そこへ現れたのは一人の志士。
「俺は志士の天城烈閃(ea0629)。この付近で凶悪な魔物が現れたと聞き、京より参上した次第」
すると与平は、ここぞとばかりに風精龍を目撃し討伐隊を結成したいきさつをまくし立てた。
「なるほど‥‥退治には我等だけで出向こう。山の麓に志士隊を待機させてある。尊い民の命を危険に晒すような真似は出来ないからな。皆はどうか村で待っていて欲しい」
「ありがたいお言葉、どうか里を救ってくだせぇ」
平伏する里の者達に烈閃は頷いた。
「志士の誇りと名誉にかけて必ずや討ち取ろう」
猟師達の説得に成功した烈閃は、仲間に目配せをして里を後にした。
それを見送る里の者に、陽が微笑みかけた。
「せっかくなんで、あの山の事とか聞きたいんですけど‥‥あの山に入った旅人はいませんでした?」
「それに、山に史跡や伝承のようなものがあれば、教えていただきたい‥‥」
文淳等の申し出に、討伐が中止になってしまった彼らは快く応じてくれた。
●森の探索
一方、山の方へと向かった冒険者達は、カントレラの案内で風精龍と出会った付近を訪れていた。
「この丘の先にある森の中です」
と、開けた丘と森の境目に、白い翼を持つ馬と金髪の女性が佇んでいる。アレーナ・オレアリス(eb3532)は、風精龍の飼い主を探すべくペガサスのプロムナードと共に先に山を訪れていたのだ。
「途中で風精龍と出会って、プロムナードが怪我を‥‥」
会うなり襲い掛かってきた風精龍の飛行速度は天馬の倍を行く。受けた傷は魔法で治療したものの、森の中に入れずにいたのだ。
その話にカントレラは衝撃を受けていた。
「そんな‥‥じゃあ、このまま入ったら皆さんも?」
神楽聖歌(ea5062)も困ったように首を傾げた。
「出来れば、殺さないで済ませたいですね‥‥」
「そそそんなぁ!?」
半泣きになるカントレラをジェシュファがなだめる。
「大丈夫だよ、傷つかないよう何とかするから」
全員で森に入ってから一刻程、阿義流がはっと顔を上げた。バイブレーションセンサーで振動を感知したのだ。
「あちらの方角に風精龍が‥‥こちらに向かっています!」
緊迫する一行。
「振動が、消えた?」
直後、上空から枝を薙ぎ落としながら風精龍が現れた。翼を一つはばたかせ森の中に舞い降りると、長い尾を器用に木々の間を縫わせてこちらに向けて振るう。
「気をつけて! 尾の先には毒針が‥‥」
「極北の封印を!」
ジェシュファがかざした手から迸る冷気。
風精龍はその場に静止した。全身を氷の棺で封じられたのだ。
「ね、大丈夫でしょ〜?」
笑顔で振り向いた先にカントレラはいなかった。
「あ、あの‥‥こちらです」
そう言うカントレラは、咄嗟に風精龍をなだめるべく飛び出していたのだ。アイスコフィンの巻き添えを食って半身を氷付けにされていた。
●風精龍
数時間後。
徐々に融けてきた氷から顔を出した風精龍に、カントレラが事情を説明する。
「私達はあなたを助けたいの」
風精龍はその場にいる全員を一人ひとりじっと見つめる。すると、風精龍は大人しくなった。
封印の氷が融けるまでの間、文乃は風精龍の診察を試みる。普通の動物とは勝手が違うが、艶のある鱗といい先程の機敏な動きといい、健康に支障は無さそうだ。
「私たちの事わかってくれたみたいで良かったわ。お腹空いてない?」
文乃は診ている間も安心させるために終始風精龍に話しかけていた。差し出された保存食を、風精龍は少し匂いをかいだ後にぱくりと飲み込んだ。
「どうやら、風精龍を使いにやっている間に飼い主が遭難したようですね」
阿義流はリシーブメモリーの巻物を閉じて言う。見えたのは、風精龍が谷底で横たわる飼い主の下に舞い降りる光景だった。
『我は、主を守らねばならぬ』
「えっ?」
カントレラは突然聞こえた声に辺りを見回す。
『主は傷付き休んでいる。誰も近づけさせぬ』
「あなたが話してるの?」
カントレラが風精龍を見上げると阿義流が頷いた。
「精霊はテレパシーによって意思疎通が出来る。カントレラさんに警戒を解いてくれたということでしょう」
その後、人は精霊と違って食事をとらなくては生きていけない事、主が危険な状態である事を風精龍に告げた。しかし風精龍は頑として譲らず、居場所を教えようとはしない。
鳳爛火(eb9201)がカントレラと風精龍を見て、皆を離れた場所へと連れ出した。
「カントレラ君なら風精龍も主の下へ連れて行ってくれるかもしれません。でも今は一刻を争う状態。皆さんは先に飼い主の捜索を。氷が融けたらボクもカントレラ君達と一緒に合流します」
「森林探索なら、うちにおまかせじゃ!」
楓は素早く森の奥へと分け入って行く。アレーナはぽつりと呟く。
「でも、上空から見た感じでは谷のような物など見あたらなかったような‥‥」
「現場百回、手掛かりは意外なところにあったりする物でござるよ‥‥っと」
堅護は取り出した大凧に乗り、空へと舞い上がって行った。
●飼い主は‥‥?
里に緋雨を残した説得組も合流して飼い主がいると思われる谷を探す。村人から飼い主が向かったであろう方向は聞き出すことが出来たのだ。
烈閃が風精龍が通ったであろう痕跡から行動範囲を割り出し、楓とアレーナで人の通った痕跡をたどる。
全員の連携でそれらしい谷を見つけ、谷底へと降る道を探してようやく飼い主の姿を発見したその時。
空から風精龍が舞い降り冒険者達の前に立ちはだかった。その背には眼を回したカントレラがしがみついている。
大きく翼を広げ、主人を守ろうとするその姿を聖歌が悲しげに見つめる。
風精龍が護るべき主は、既に事切れていたのだ。
文乃と文淳が風精龍に人の死を説き、風精龍はようやく主の置かれた状態を理解した。
うなだれる風精龍の横で、ジェシュファとカントレラは涙をこらえている。その隣で、爛火が二人を優しく元気付けていた。
風精龍とカントレラは、遺体を載せて一足先に京都へ戻った。
皆は里へ戻り、なだめ役として残っていた緋雨と合流した。全てを説明し協力に感謝する緋雨に、滞在中親交を深めた里の者は別れを惜しむのだった。
京へ戻る街道の途中で、カントレラと風精龍が皆を待っていた。
「風精龍、カントレラちゃんが飼ってみない?」
アレーナの言葉に、ジェシュファと爛火も同意する。
「その子には新しい飼い主が必要だよ」
「悲しみを癒す為には幸福になるのが一番です」
「一体月いくら掛かるんでしょう?」
聖歌が呟くが答えは無料。精霊は食事を必要としない。
烈閃は反対の意を示す。
「俺は自然に帰してやる方が良いと思う」
「私もそう思います。故郷の蝦夷に連れて行ってあげようかと‥‥」
風精龍を見上げるカントレラに、堅護が尋ねる。
「また京に戻って来るでござるな?」
以前カントレラが冒険者を辞めて蝦夷へ帰ろうとした事があったのだ。しかしカントレラはその杞憂を吹き飛ばすような明るい笑顔を見せた。
「はい、必ず戻ってきます。その時は皆さん、またよろしくお願いしますね!」