駆け出し冒険者、地中に囚われる!?
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:10人
サポート参加人数:6人
冒険期間:01月12日〜01月17日
リプレイ公開日:2007年01月20日
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●オープニング
今日も冒険者ギルドは依頼人や冒険者で賑わっている。
繁盛、と言えば聞こえがいいが、それだけ問題が起こっているわけだ。
今受け付けた依頼書を書き終えた受付係の少女は、入口からギルド内に走り込むで来る人物に眼を丸くした。
その小柄な人物は、何と全身に土塊をまとわり付かせた見るもみすぼらしい姿をしていたのだ。あまりの姿に受付係のみならず、ギルド内にいた全員が静まり返りその人を注視していた。
土を落としながらギルドの奥まで走り込むと、驚いたまま応対も忘れている受付係に話しかけた。
「あ、あのう‥‥」
「えっ、カントレラさん!?」
聞き覚えのある声に、受付係はもう一度よく土の人を観察した。
長い黒髪には雑草の生えた土や乾いた泥に固められ、コロポックルの伝統紋様が織り込まれた衣服も水田の中に飛び込んで乾かしたようになってしまっていた。
彼女、カントレラは息を切らせて受付係に話す。
「あのっ、わた‥‥北の、か‥‥かいっ‥‥」
「あらあら、深呼吸しましょう? はい、吸って〜吐いて〜」
「す〜は〜‥‥」
それを何度か繰り返し、ようやく呼吸の落ち着いたカントレラは、改めて一礼した。
「すみません、慌ててしまって‥‥こんにちは、受付係さん」
「こんにちは、カントレラさん。今日は一体どうしたんですか? その格好‥‥」
「そう、大変なんですよ! 赤ちゃんが北の街道に捨てられていたんです」
「まあ!」
「捨てられていた赤ちゃんは、可哀想に火がついたように泣いていました。私はお母さんを探してあげようとその赤ちゃんを連れて行こうと抱き上げました」
「さすがカントレラさん。‥‥して、その赤ちゃんは?」
見たところカントレラが連れている様子も無い。カントレラは表情を曇らせた。まさか赤ちゃんか母親に何かあったのだろうか。
「私が抱き上げた瞬間、その赤ちゃんは天使のように微笑みました」
「へぇ、よかった」
「良くないんですよ! 私にしっかりしがみついたと思ったら、いきなり地面の中に『どぷん!』って!!」
「『どぷん!』?」
「はい。地面なのに水みたいに『どぷん!』です」
「ははぁ‥‥それはそれは」
どうやら話が見えてきた受付係。
カントレラは一生懸命に身振り手振りを交えながら話を続ける。
「気付いたら私は土の中‥‥咄嗟にダズリングアーマーを放って相手が怯んだ隙に何とか脱出して、ここまで走ってきたというわけです。受付係さん、あの赤ちゃんは‥‥」
「ええ、間違いなく妖怪ですね。『泣き赤子』というんですよ。抱き上げた人を地中に引き込んで殺して食べてしまうとか‥‥」
「そうですか‥‥あんなに可愛い姿で人を騙すなんて卑劣な! 今こうしている間にも、心優しい方が被害にあっているかもしれません」
カントレラは両の拳を握りしめ、毅然と受付係を見つめた。
「受付係さん、あの泣き赤子の被害が広がる前に退治しましょう!」
「かしこまりです! じゃあ、依頼書を書いて協力者を募っておきますね」
さすがカントレラが皆まで言わずとも、受付係は息のあった受付を見せる。
「ところでカントレラさん、いつもつけているタマサイ(首飾り)は?」
「えっ!」
カントレラは全身をくまなく叩いてみたがどこにも見当たらない。おそらく土の中に落としてきてしまったのだろう。
「大丈夫ですよ、泣き赤子退治と一緒にタマサイ探しも依頼に加えておきますから!」
泥だらけのまま泣き出すカントレラを一生懸命慰める受付係だった。
●リプレイ本文
●集った冒険者達
その時。またもやギルド内に駆け込む者があった。
文字通り戸を蹴破って飛び込んできたのは守崎堅護(eb3043)だ。眼を丸くして固まっている受付係とカントレラを見、堅護は安堵の息と共に大きく脱力した。
「カントレラ殿、無事でござったか。地中に埋葬されたと聞いて‥‥」
受付係から事情を聞き、堅護は未だ涙の止まらぬカントレラの泥だらけの顔を拭ってやる。
「折角の綺麗な顔が台無しにござる。拙者が泣き赤子を退治し、タマサイもきっと見つけて見せるでござるよ」
優しく微笑む堅護に、カントレラは必死で涙をこらえて、こくこくと頷いて見せた。
数日後。依頼を受けた冒険者達が一堂に会した。
「元気だったか?」
「はい、またお会いできて嬉しいです」
ぺこりと頭を下げるカントレラに榊原康貴(eb3917)は苦笑する。
「しかし、タマサイを再び取り戻す事になるとはな。確か大事なものではなかったのか?」
「うっ」
カントレラは何も言うことができない。そもそも彼と初めて出会ったのも白猿に奪われたタマサイを取り戻すための依頼だったのだから。
「冗談だ。知らぬ仲でもない、例え依頼でなくとも力は貸すぞ?」
破願して優しく頭を叩く康貴に、カントレラは瞳を潤ませながら礼を言う。
そこに飛火野裕馬(eb4891)が話しかけた。
「俺は初めましてやな。これは挨拶代わりに取っといてや」
差し出すのは可愛らしいかんざし。カントレラは躊躇いながらも受け取った。
「本当にいただいていいんですか?」
「もちろん。タマサイ、頑張って見つけよな〜。別嬪さんの依頼やから頑張るで〜」
軽口を叩いてはいるが、祐馬も母の形見を持つ身。カントレラの心情は理解した上で元気付けるべく振舞っているのだ。
一通り自己紹介を済ませたところで、所所楽柚(eb2886)が切り出す。
「早速ですがカントレラさん、泣き赤子はどのような姿だったのですか?」
「それはもう、可愛らしくて。とても妖怪には見えないくらい」
「人の優しさに付け込み人を喰らう、狡猾な妖怪‥‥捕える依頼を受けた事が有りますが、中々に厄介な相手です」
そう言う神木祥風(eb1630)以外にも、泣き赤子捕獲の依頼を受けた者が数人いる。拍手阿義流(eb1795)もその一人だ。
「年末に退治しに行ったあの泣き赤子とは別物のようですが‥‥」
そうかと思い確認を取ったが、件の泣き赤子はしっかり石による封印がなされていた。
「じゃあ、今回退治するべき泣き赤子が一体とは限らないわけですね」
六条素華(eb4756)が言うとおり泣き赤子に仲間がいた場合は苦戦は必定。それでも、退く訳には行かない。
「同郷の者の依頼を受けたのもカムイの導きだろう。久々に、チュプオンカミクルの為に戦うカムイラメトクとなるか」
シグマリル(eb5073)は遠い故郷を想う。カムイメラトクは部族の巫女であるチュプオンカミクルを護るのが本分なのだ。
「よろしくお願いします」
カントレラも故郷に想いを馳せながら、シグマリルに微笑んだ。
●泣き赤子街道
カントレラが泣き赤子に遭遇したと言う岩場までは、北の街道を一日往かなくてはならない。
歩きながら、カントレラは言った。
「風精龍を蝦夷に送って、帰る途中だったんですよ。泣き赤子に捕まったのは」
前の依頼で、カントレラは飼い主からはぐれた風精龍を保護し、自然に帰すため蝦夷に連れて行ったのだ。
「風精龍ですか。阿義流さん、精霊を欲しがってましたよね」
柚に話を振られ、阿義流は微妙な笑みを見せた。精霊博士なのに精霊を一体も持っていないのだ。笑顔の柚にもちろん悪気は無い。
和やかに会話する二人を取り巻く空気にカントレラは首を傾げ、やがて結論に至った。
「もしかしてお二人は、その、ここ、恋っ‥‥」
「ええ、彼女は俺の大事な人ですよ」
さらりと言った亜義流に当の柚とカントレラは頬を赤らめた。
「そ、そうですか‥‥恋って、どんな感じですか?」
「えっ」
カントレラの問いに柚が困り果てる。
一方彼女等の数歩先では、素華が誰にとも無く呟く。
「やれやれですね。妖による被害は止まる事なしですか」
「親切心につけ込む嫌な妖怪なのです。そんな奴退治ですよ。退治!」
怒りを露に力説する斑淵花子(eb5228)。一方同じ黄桜喜八(eb5347)はあくまでもマイペース。
「カントレラ‥‥そういや前に会ったっけか」
などと一人呟いている。そんな彼は空飛ぶ絨毯に戸板を数枚乗せ、その上に座って移動している。
半日と少し歩いた時点で小休止を取る。
柚はふぅ、と小さく息をついた。サンワードを使用し、太陽から泣き赤子の情報を聞き出していたのだ。集まる皆の視線に、柚は申し訳無さそうにうつむいた。
「居場所は特定できませんでした。ごめんなさい」
「いいんですよ、きっと土の中か岩陰にいるんでしょう」
阿義流が自然にフォローする。
「ここからはお互いの無事を確認しあうようにしましょう。何時の間にか地中に埋まっていた、ということになっては大変ですからね」
素華は皆と視線を合わせながら言った。
智将の二つ名を持つ彼女らしく冷静かつ的確な判断に、皆も慎重な面持ちで頷く。カントレラが被害に遭った岩場までそれほど遠くない位置まで近づいていた。
●泣き赤子を釣り上げろ
おぎゃあぁ、ほぎゃあ‥‥
大きな岩が至る所に点在する中を、一本の街道が走っている。
そのどこからか、赤子の泣く声が響き渡っていた。
声の元はすぐにわかった。街道のすぐ脇にそびえる大きな岩。その元に人間の赤子が裸のまま打ち捨てられているのだ。
「まぁ、可哀想に」
言って駆け寄ったのは河童の花子。同じく喜八も後ろから覗き込む。
二人を見た瞬間、赤子は「くぅ」と小さな声を上げて泣き止んだ。訝しく思いながらも、花子は赤子に手を伸ばした。
ふい。
花子が伸ばした水掻きの手は、赤子が寝返りをうったため空振りをした。もう一度逆側から手を伸ばす。
ふい。
「オラ達が河童だからって、好き嫌いしてやがんのか‥‥」
避け続ける赤子を、喜八が無理矢理押さえつけ捕まえた。
「ぎゃあああぁぁ!」
火がついたように泣き叫びながらもがく子供に、花子が本物の赤子ではないかと不安を覚えて喜八の腕に手を掛けたその時。
喜八の体が地面に吸い込まれるように消えた。
同時に、岩陰に隠れたシグマリルが握るロープに急激な加重がかかる。ロープの先には喜八の胴体が結ばれているのだ。
「くっ‥‥重いがこの手、離す訳にはいくかっ! 仲間の命を手放すような冒険者はおらん」
しかしロープを保つのが精一杯で引き上げることが出来ない。その時、視界の端に映る影。ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に乗った裕馬だ。
喜八が沈んだ上空まで行き、さらに上昇を続ける。手に握られているのは喜八を結ぶもう一本のロープ。ぴんと張った二本のロープが地中から喜八を引き上げた。
「釣れたで〜!!」
裕馬が叫ぶが、負傷した喜八の腕に泣き赤子の姿はない。喜八が沈められていた周囲を榊原、守崎、シグマリルの前衛が囲み、それを遠巻きに術者たちが取り囲む。全員が緊張の糸を張り巡らせる。
「そこです、榊原さんの足元!」
バイブレーションセンサーで察知した亜義流が叫ぶが早いか、地中から跳びだした赤子が康貴に飛びついた。
「だぁ?」
赤子は不思議そうに首を傾げた。地中に沈むはずの康貴の身体は微動だにしない。それもそのはず、喜八が地中で泣き赤子ともみ合っている間に、周囲に戸板を運び足場にしているのだ。
「たとえ赤子でも容赦はせん!」
逃げる泣き赤子への、至近距離からのオーラショット。怯む赤子に柚のアイスコフィンがかけられる。
「ふぎゃ!」
「抵抗された!?」
「もっと弱らせるんです!」
声と共に投げた素華の縄ひょうをかわし、赤子は再び地中へ潜る。しかしその動きは亜義流には手に取るようにわかる。
「浮上してきます。神木さんの十歩手前!」
「マキリよ、悪しきカムイを奉ずる赤子を切り裂け」
姿を現したと同時に素早く放たれたシグマリルの小刀が赤子の背に突き立つ。
突如かぶせられたマントに動揺した隙に、その身体は鎖分銅に巻き取られた。
捕えた赤子を、堅護は力いっぱい上空に放り投げる。
「カントレラ殿を‥‥泣かせたでござるなぁ!」
マントに包まれたまま落下してくる赤子めがけて渾身のダブルアタック。
「ぎゃあぁ!」
悶える赤子に、すぐ近くにいた祥風がストーンを使用する。
「石となり己の業を身をもって知ることです」
マントの中で赤子は次第に動かなくなり、やがてその泣き声も途絶えた。
●タマサイ探し
夜も更け、喜八の燐光・アオイと阿義流の精霊になり損ねた怪しい輝き・コウギョクの光を頼りに穴掘り大会が始まった。
「それは?」
素華の視線の先にあるのは直角に曲げられた二本の太い針金。それを両手に持つのは裕馬だ。
「これか? 地面に何か埋まってると反応が‥‥来たっ!」
そこを掘ると、出てきたのは何と人骨だった。
驚く裕馬に反し、素華は落ち着いたものだ。
「出てくるだろうとは思っていました。そのまま掘り出してください。神木さん、供養を」
てきぱきと指示を飛ばす辺りはさすがである。
当時動揺していたカントレラの記憶は曖昧で、喜八のトシオ、柚のさくら。二匹の犬達がカントレラの匂いを頼りにおおよその位置を割り出した。柚はウォールホールを活用し、喜八は大ガマの術で呼び出したガマの助を手伝わせる。
「都合良くは行かないですね」
花子は、赤子がタマサイを持っていることを期待していたのだ。
掘れども掘れどもタマサイは出ず。ちょっと休憩を挟んでいる時に、離れた場所でさくらが吼え始めた。
柚が向かってみると、そこに落ちていたものは‥‥。
「カントレラさん、ありましたよ! お手柄ですね、さくら」
「ああっ! よかった‥‥」
安堵のあまり涙ぐみながら、カントレラはタマサイをつける。
「何故このようなところに?」
神木の問いに、花子が答えた。
「きっと慌てて逃げる時に落としたですよ」
「あ、あはは‥‥そうかも知れない、です。本当にお手数お掛けしました!」
皆の視線が集まり、カントレラは体がぺったり二つに折れるくらい深々と頭を下げた。
ともあれ無事に依頼をこなし、江戸へと戻った冒険者達。ギルドから受け取った報酬は、堅護の分からしっかり戸の修理代が差し引かれていたそうな。