春秋姉妹・道場存続の危機?秋良のお見合い
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■ショートシナリオ
担当:きっこ
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月01日〜02月06日
リプレイ公開日:2007年02月08日
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●オープニング
●変身!?
ギルドの戸をくぐって入ってきたのは一人の少女だった。
紗綾の地紋に白牡丹をあしらった紺の着物、少女らしく清楚に結い上げた髪には着物に合わせた牡丹のかんざしがあしらわれている。凛とした顔立ちに濃色の着物が良く似合う。
どこの良家のお嬢さんかという周囲の視線を受け、居辛そうにしながらもゆっくりと受付係の前まで進み出た。
受付係として番台にいたのは、和服の似合う黒髪碧眼の青年だ。彼の前で、その少女の後ろからぴょこりと、少女がもう一人現れた。
「こんにちは、受付係さん」
笑顔全開のこの少女は真壁春花(はるか)。対照的に明るい色の着物を着た彼女は、しばしばギルドを利用し常連となりつつある。受付係とも顔なじみだ。
「こんにちは、春花さん。こちらの方は‥‥」
訪ねると、春花は『やっぱり』という表情で連れの少女を見た。とたん、少女は機嫌を損ねたようにそっぽを向く。
いぶかしむ受付係に、はるかが告げた。
「秋良(あきら)ちゃんですよ。可愛いでしょう?」
「‥‥!」
受付係は思わず牡丹の少女を見た。
二人は近所では春秋姉妹と呼ばれる名物姉妹だ。双子だが二卵性のためさほど似ておらず、しかし双方とも個性の違う美人である。
春花の妹である秋良は剣術道場の師範をしており、袴に小袖姿以外は見かけた事がない。女は化けると言うが、これは見事なものである。
「好きでこんな格好してるわけじゃない」
不機嫌極まりない秋良に代り、春花が説明を始めた。
●道場の危機
商家が並ぶ江戸の一角。
その外れにある真壁屋は、刀の鍔・切羽から刀袋や下げ緒・柄糸などの刀備品・装飾具専門店である。主の弟が剣術家で、敷地内離れには剣術道場がある。今日も竹刀の音と威勢の良い掛け声が響いていた。
それに素っ頓狂な声が入り混じる。
「はぁ!? お見合いぃ?」
声の主は道場の師範代である秋良だ。真壁屋の主である父・秋松(あきまつ)に呼ばれて庭に来てみたら‥‥。
「うむ。先方もお前のことを大変気に入っておられる」
「会った事も無いのに、何でわかるんだよ」
「だからお見合いをするんじゃないか」
言っている事がめちゃくちゃだ。秋良は興味が無いと全身で語り、道場へ歩き始めた。
「待て秋良! お前は剣術と盆栽にばかり興じてないで、少しは女らしくしたらどうだ。恋の一つもすれば自然とそうなるだろうに」
「何度も言ってるだろ、そんな気はない」
「それなら、私にも考えがある。お前が女らしくしてお見合いを受けなければ、道場の活動を許さん!」
「そんな理不尽な!」
とは言え、道場は言わば真壁屋に間借りしている立場にある。秋良が自分を通せば、師範である叔父の竹良(たけよし)や門下生達にも迷惑がかかる。
実際、他に移る予算も無く竹良にも頭を提げられ、やむなく父の要求を呑む事になってしまった。
「‥‥というわけで、ギルドにお願いしに来たんです」
と、春花が締めくくったが、肝心の依頼内容がわからない。溜息一つ、秋良が補足する。
「見合いの相手は、父の一番の取引先の紹介なんだ。へたに断って、商いに支障が出ても困る。かと言ってこのままでは道場に戻れないし、最悪の場合そのまま‥‥」
秋良は頭を振ってその想像を追い出した。
「見合い当日、縁談がまとまらないように妨害工作をして欲しい。先方が断りを入れる形で」
「お父さんが秋良ちゃんの剣術を認めてくれるようにしてくれたら、もう女の子らしくしなくてもいいんじゃない?」
春花が思いつくままに口にする。受付係は事の次第を書き取りながら、確認した。
「それでは、秘密裏に縁談を破談に追い込む事と、秋良さんがおしとやかにしなくてもいいようにお父様の考えを改めさせればいいわけですね」
「よろしく頼む」
「おねがいしまーす」
●リプレイ本文
●お見合い断らせ隊
真壁屋の番台に、着物姿の秋良がいる。着物姿で。道場に入ることを禁じられ、店番をさせられているのだ。
そこへお客が一人現れた。
「いらっしゃい」
「秋良殿、おめでとうでござる!」
突然現れた小柄な少女は、驚く秋良に一気にまくし立てる。
「良縁に恵まれていいでござるな。いやいや、正義の道に恋は不要でござる!‥‥でも胸は欲しいでござるな」
「ちょっと待て」
縁談から彼女の鉄板胸に逸れてきた話を、秋良が止める。依頼を受けた冒険者である事を確認し事情を説明すると、風魔隠(eb4673)はようやく勘違いに気付く。
「なるほど、ならば相手の弱みを探って来るでござる」
隠は相手の住まいを聞き出すと、忍ならではの身のこなしで颯爽と路地へ消える。
あっけに取られる秋良に、奥から春花が声をかける。
「秋良ちゃん、お父さんがお店番もういいって。冒険者さん達が道場の方に来てくれてるよ」
小声で告げられた後半に、秋良は父が来るのも待たずに道場へ向かった。
道場に入ったとたん、秋良は子供達に囲まれた。
「師範代、お見合いするの?」
「お嫁さんになるんだ?」
「相手はどんな人?」
「な、どうしてその事を‥‥」
原因はすぐわかった。冒険者達に混ざって気まずそうにしている臨時師範代・山下剣清(ea6764)が話してしまったのだろう。
「いや、すまない。皆知っているものだとばかり思っていたのでな」
謝る剣清を責めても仕方が無い。それよりもどのようにして相手に断らせるかが問題なのだ。稽古を終えた子供達が帰った後に、作戦会議が始まった。
「依頼を受けてくれた事に感謝する。今はまだ剣術に打ち込みたいんだ。よろしく頼む」
秋良は集まった皆に頭を下げた。
「無理やり結婚なんて許せないわ。恋は自由でないと。秋良さんはまだ16歳だっていうのに、もう」
十六夜りく(eb9708)は、まるで自分の事の様に憤慨している。
「皆で手を尽くしてみるつもりではいるが、少し聞いておきたい事があるのだ‥‥」
そう言うのは大蔵南洋(ec0244)だ。
「相手の方が秋良さんの生き方に理解があり、人間的にも尊敬出来る方であった場合、許婚とは別の形でのお付き合いは可能なのであろうか」
南洋の問いに、その場にいる全員の視線が秋良に集まる。
「そっそれは‥‥まぁ」
「秋良ちゃん、顔真っ赤だよ」
「うるさい!」
秋良が春花を小突いたところに、二人の男が現れた。志士風の男は人の良さそうな笑顔を見せた。
「こんにちわ〜、剣と言います」
「俺は狛犬銀之介(eb8539)と言う。よろしく頼む」
もう一人はその名に相応しい銀髪を冠した浪人である。先に名乗った剣真(eb7311)は、銀之助を見て言った。
「すっかり道に迷ってしまって。彼がいなかったらたどり着けないところでしたよ」
ともあれ、これで冒険者全員が揃ったのであった。
●お見合い相手
翌日、南洋は江戸の一角を訪ねていた。
「ご免、こちらに生き物の専門家の方がおられると聞き伺ったのだがご在宅であろうか?」
戸が開き、優しそうな青年が姿を見せた。
「一応生物について勉強をしておりますが、どうかしましたか?」
「妙な鳥を飼い始めたのだが、病気ではないかと思ってな。一度診てくださらんか」
「そうですか。狭いところですが、どうぞ」
広くは無い家に本が至る所に積み上げられているが、きちんと整理された印象を受ける。
南洋が連れてきた雛を見せると、彼はじっくりとそれを眺めた。
「異国にしかいない鳥の雛ですね。確か詳しく載った書物が‥‥」
青年は取り出した書物と照らし合わせながら、一心に雛鳥を観察し南洋に告げる。
「病気とかではないようですね。毛艶もいいし、健康そのものです」
「そうか‥‥できれば飼い方をご指導いただけるとありがたい」
青年は南洋に懇切丁寧に鳥の特徴や習性などを説明する。南洋が見定めた限り、信頼の置ける人物のようだった。
「名前、広瀬翠明(すいめい)。年齢21歳。職業、生物学者。専門ではないが獣医の知識もあり。人当たりは良く近所の評判もすこぶる良いでござる」
隠は覚書を見ながら報告する。
「うーん、非の打ち所がない方のようですね」
真の言葉に、隠は大きく頷く。
「そーでござろう!?」
そして秋良がいないことを確認し、
「実はここだけの話、学者と女剣士の組み合わせはお似合いだと思うでござる」
隠の言葉に春花は満面の笑みを浮かべる。
「そうだよねぇ、無理に断らなくてもいいのに」
「よし、では二人をくっつける相談を‥‥」
「せんでいい!」
何時の間にか戻ってきていた秋良の手刀が二人の頭に立て続けに命中した。
「秋良ちゃん、お店番終わったんだ」
涙目で春花が言う。戻ってきた秋良の前に銀之助が進み出た。
「手の空いている時で構わないのだが、稽古をつけて貰えないでしょうか」
「でも父に見つかったら‥‥」
躊躇う秋良に剣清が後押しする。
「父上が近づいたら俺が知らせよう。少しの間ならいいだろう」
「では‥‥」
秋良は着物姿のまま竹刀を握り銀之助と向き合う。
着物のため動きが制限されるにも関わらず、秋良は銀之助の打ち込みを最小限の動きで抑える。また秋良は、銀之助がぎりぎり受けられる線を読み刀を繰り出す。
竹刀を振るう秋良は生き生きとした輝きに満ちていた。それを目の当たりにし、銀之助は決意を新たに秋良に告げる。
「やはり秋良さんは剣を握っているのが一番似合っている。何としてもお見合いをぶち壊さないとな‥‥っと!」
銀之助の竹刀は高く宙を舞う。竹刀の先を彼の首元に突きつけ、秋良が言った。
「ぶち壊されては困る。穏便に頼む」
●お見合い当日
その高級料亭は、先方が見合いの席にと指定した場所である。個室に秋松と秋良が通されると、真壁屋のお得意先・長谷部と翠明が待ち受けていた。
しばらく社交辞令やお互いの紹介が続き、やがて長谷部がお決まりの台詞を切り出した。
「では、後は若い者同士で‥‥」
「そうですな。‥‥秋良、粗相の無い様にな」
秋松の去り際の耳打ちも聞こえないほど、秋良は緊張しているようだった。翠明が話しかけても、「はい」とか「いいえ」とか答えるだけで全く話が弾まない。自分の言動が引き金になって相手に断られる事を怖れるあまり、何も言えなくなっているのだ。
ややして、翠明が厠へ立った。
部屋へ戻ろうとした翠明を、りくが春花と共に待ち受けていた。
「はじめまして〜。秋良ちゃんの姉の春花です」
「秋良さんが気分を変えたいと、別の部屋に移ったので知らせに来たの」
二人の案内で通された部屋に秋良はいない。
「あなたは‥‥」
翠明は南洋の姿に驚く。南洋は素直に頭を下げた。
「騙すような真似をしてすまない。色々と事情があるのだ」
「実はですね‥‥」
真が説明する事の次第を、翠明は黙して聞いていた。難しいその表情のまま、翠明は立ち上がった。
「とりあえず、秋良さんの所へ戻らせてください」
「あなたが本当に秋良さんに一目惚れしたというのなら、分かって」
彼の前に立ちはだかり、りくは必死に訴えかけた。
●お見合い後のひと騒動
秋良の前に戻った翠明は、席に着くとこう告げた。
「申し訳ありません。長谷川殿から『他の方に秋良さんを取られないうちに』と持ちかけられ、すっかり気が急いてしまっていたようです」
「‥‥」
「貴女の気持ちも考えず、失礼な事をしたと思っております。どうか、今回の縁談は無かった事にしていただけないでしょうか?」
「ただ、私は貴女の事をもっと知りたい。後日道場の方を訪ねてもよろしいでしょうか」
「はい、ぜひ」
秋良は先程とは違って落ち着きを取り戻していた。この翠明は隠が人遁の術で化けたもの。本人は皆が別室で足止めしてくれているのだ。
「そのお返事が聞けただけで、今日お会いできた甲斐があったというものです。では後日改めてうかがわせていただきます」
縁談の結果を秋松、長谷川の両者にも告げ、その日はお開きとなった。
「せっかくお前も女らしく落ち着くかと思ったのだがなぁ」
秋松の溜息に、秋良はかぶせる様に言う。
「広瀬さんが道場を見たいって言ってくれたんだ。師範代に戻ってもいいだろう?」
「駄目だ駄目だ! お前の剣術が見たいと言った訳ではなかろう」
「そんな子供じみた理屈‥‥」
秋良の言葉は若い娘の悲鳴に遮られた。
細路地から飛び出してきた娘が秋良に取りすがる。
「助けてください、変な人達に追われてるんです!」
そう言って顔を上げたのは町娘風に変装したりくだ。
後を追って現れた数人の覆面をした男たちが三人の周囲を取り囲む。こちらも覆面の中味は南洋、銀之助、真、剣清である。
「娘をこちらに渡してもらおうか」
「何事かね一体‥‥」
動揺する秋松に、覆面の一人が抜刀し襲い掛かる。
「ひっ」
腰を抜かした秋松に、刀は降って来なかった。秋良が足を掛け転ばせながら刀を奪ったのだ。
秋良は刀を逆刃にし、正眼に構える。勝負はあっという間だった。秋良は体格も勝る男達をたちまち地面にはいつくばらせていた。
りくは秋良に対し何度も頭を下げた。
「ありがとうございます! 貴女は命の恩人です‥‥貴女の様に強い女性がいてくだされば、私達も心強いです」
逃げて行く覆面達を、秋松は考え深げに見つめていた。
●めでたしめでたし
冒険者達の裏工作の甲斐あって、秋良は無事に道場へ戻ることができた。
その日も竹良、剣清と共に秋良は道場で剣術指南に精を出していた。
「それにしても、人遁の術というのはずいぶんうまく化けれるものなんだな」
休憩中の秋良の一言に、皆がしんと静まり返る。隠が愛想笑いを浮かべて言った。
「実はあれは拙者では無かったでござるよ」
「えっ!」
驚く秋良。真が補足する。
「秋良さんの剣術の件も含め全て説明したところ、ご自分からお断りすると言ってくださいまして」
「じゃ、じゃあ、あれは広瀬さん本人が?」
「うむ、彼が嫌いなのは理不尽な暴力であって、剣術そのものを否定するつもりは無いと言っていた」
南洋が言っている間にも、秋良は冷や汗をかきはじめる。
ということは、道場に来ると言っていたのも‥‥。
「すみません、広瀬と言う者ですが秋良さんはいらっしゃいますか?」
噂をすれば影、現れた翠明の元に秋良は皆に強引に押し出された。
「秋良ちゃんのお嫁さん姿を見れる日も近いかもねぇ」
「道場は竹良殿と俺で切り盛りするから、いつでも大丈夫だぞ」
いつもであれば怒るような春花と剣清の言葉も聞こえない程一杯一杯になっている秋良を、呆れ半分ながらも暖かく見守る冒険者達であった。