駆け出し冒険者。カントレラ蝦夷に帰る

■ショートシナリオ


担当:きっこ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月22日〜03月01日

リプレイ公開日:2007年03月03日

●オープニング

●カントレラ、最後の冒険
 今日も冒険者ギルドは依頼人や冒険者で賑わっている。
 繁盛、と言えば聞こえがいいが、それだけ問題が起こっているわけだ。
 本日何枚目になるだろうか、依頼書を書き終えて顔を上げた受付係の少女は、見知った顔を見つけて営業用ではなく微笑んだ。
「あら、カントレラさん。こんにちは」
「こんにちは、受付係さん」
 受付係の前に現れた長い黒髪の少女は、コロポックルの伝統衣装と緑色の石が付いた首飾りを身につけている。
 大体ここへ来る時には何がしか依頼を抱えて、どたばたと慌しく現れることが多いのだが‥‥今日はずいぶんと神妙な様子である。
 受付係はまじまじとカントレラを見つめ、思わずこう尋ねた。
「どうしました? 何か変なものでも食べたんですか?」
 もちろん本人に悪気は無い。カントレラは首を横に振ると、おもむろに口を開いた。
「実は、突然なのですが、蝦夷へ帰ろうと思ったんです」
「えーっ!? ‥‥って、どうして過去形なんです?」
「あの、三日ほど前、私のチュプオンカミクルとしてのお師匠様が病に倒れたと知らせがありまして」
「まぁ‥‥」
「取るものもとりあえず、私は蝦夷に向かいました」
「??」
 蝦夷に向かったはずの彼女は何故眼の前にいるのだろう。その答えはすぐに明らかになった。
「すると道中、あの子に出会ってしまったのです」
 カントレラが振り向いた出入り口付近には、真っ白な毛を持つ狼が静かに座っている。
「カントレラさんは、よくよく動物に好かれる方なんですねぇ」
 笑顔の受付係に反し、カントレラの表情は曇ったままだ。彼女は懐から一通の手紙を取り出し、受付係に差し出した。
「あの子がこれを持っていたんです」

『調査のため雪山を訪れた我々は、雪崩により下山できなくなってしまった。他の五名は何とか山小屋に避難することができたが、限られた食料しかなく燃料もいずれ尽きるだろう。
 この手紙を受け取ったら、冒険者ギルドに救助の依頼を代行して欲しい。
 もし無事にこれが届いていたとしても、その時既に私の命は無いだろう。どうか最後の願いを聞き届けて欲しい』

 その続きには山の場所など依頼の詳細について記されている。
「お師匠様の事は心配ですけど、こんな手紙を受け取って放っておくこともできません。すぐに救助に向かわないと‥‥きっと、お師匠様もわかってくださります。いいえ、捨て置いて蝦夷に帰ったら、むしろ叱られてしまいます!」
 カントレラの瞳は命を救う巫女であった母を目指す熱意に燃えていた。
「この依頼が終わったら、蝦夷に発とうと思います。最後の依頼になってしまいますが、よろしくお願いします」
「カントレラさん‥‥」
 受付係は深々と頭を下げたカントレラの両手を取った。
「かしこまりです! 私も誠心誠意依頼書を書かせていただきます。最後の依頼、成功するといいですね」
「はい、頑張ります!」
 カントレラは受付係の手を握り返し、力強く微笑んで見せた。

●今回の参加者

 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb3043 守崎 堅護(34歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4909 草薙 鰹雄(30歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ケント・ローレル(eb3501)/ 白翼寺 花綾(eb4021

●リプレイ本文

●雪狼と
「皆さん、集まってくださってありがとうございます」
「志士の東雲八雲(eb8467)だ。よろしく頼む」
 深々と頭を下げるカントレラに、八雲は礼儀正しく挨拶をする。
「久しぶりやな。暫く見ん内に、たくましゅうなったようやな」
 そう言う草薙鰹雄(eb4909)は、カントレラの最初の冒険に同行した縁がある。
「カントレラ殿は蝦夷に帰ってしまうのか。残念だな」
「最後の依頼になっちゃうけどお互い頑張ろう?」
 榊原康貴(eb3917)と頴娃文乃(eb6553)の声掛けに、カントレラは潤んだ瞳で頷いた。
「では、少しでも早く生存者の救出に当たらねばな。カントレラ殿が安心して蝦夷に帰る為にも」
 カントレラの依頼には常に同行していた守崎堅護(eb3043)が張り切って拳を打ち鳴らす。
 と、白翼寺涼哉(ea9502)が連れてきた娘の花綾を紹介した。
「俺の、長女だ。コレの生みの親と師匠が亡くなったので、俺が引き取ったんだが」
「お山やご主人様の事等、狼さんに聞いてみるですぅ」
 主人と最後に別れた場所、調査隊や主人の目印になるような場所などを花綾のテレパシーを通じて狼に訪ねる。
 それに加え、涼哉の部下であるケントが調達して来た雪山の地図や近くの村から得た情報から調査隊が登ったであろう道筋を割り出し、馬を使って登れるルートを探し出す。
 文乃により異常無しと診断された雪狼を案内役とし、ケントと花綾に見送られ京都を後にする一行だった。

●雪山登山
 カントレラが太陽に舞いを捧げると、降っていた雪は小降りになる。
「これだけ視界が利けば、上空からでも様子がわかるでござろう」
 幸い風もさほど強くは無い。堅護は広げた大凧に乗って空へ。これから登る道と雪崩の様子を確認するためだ。
 待つ者達は、途中の村で雀尾嵐淡(ec0843)が調達してきたかんじきを履く。
「まさか馬の分まで貸してもらえるとはな」
 代金も用意していたのだが、返してくれるならと無料で貸し出してくれたのだ。
「これが無ければ馬は登る事ができなかっただろう」
 雀尾煉淡(ec0844)がかんじきで雪を踏みつつ言う。体重の軽い動物ならともかく、荷を積んだ馬は置いていかざるを得ない所だった。
 カントレラの隣にじっと座っている雪狼に、西天聖(eb3402)が語りかける。
「道案内をお願いできるじゃろうか。主人の元に駆けつけたいじゃろうがの。生きている者をまず助けたいのじゃ。勿論その後になって悪いが君の主人も連れて帰るのでの、助けて欲しいの」
 狼はじっと聖を見つめ返していた。
 戻って来た堅護が見た状況を、幾通りか決めてきた道筋に加味し、最も早く七合目に到達できると思われる物を選んでの登山が始まった。
 雪山の知識と活動経験のある長寿院文淳(eb0711)と康貴が皆を誘導しつつ進む。
 岩場を登らなくてはならない箇所は、クライミングに長けた鰹雄が先行し、ロープで皆の歩みを助けた。
 雪崩により塞がれている道も一度は嵐淡が獣道を見つけ回避できたが、避けられぬものは雪を掘り道を拓くしかない。
 零度を下回る気温の中での作業は長くは続かない。テントを張り、凍えた身体を温めるため休憩を取りながらの行軍となる。
 凍える動物達は文乃が藁束や毛布で温めてやり、体力が回復したら再び登り始める。
 それを幾度と無く繰り返し、登山二日目に差し掛かる昼過ぎ。ようやく山の七合目付近まで到達した。

●山小屋
 突然雪狼が先頭に立ち歩き始め、やがて大きな一本杉にたどり着いた。杉の木の半分は雪の下である。
「花綾さんが聞き出してくれた場所が、きっとここなんですね」
 カントレラの言う通り、テレパシーで聞きだした光景に酷似している。雪の傾斜から所々除いている岩肌が、断崖の一部なのだろう。この断崖のいずこかに山小屋が埋もれているはずだ。
「では、ここを中心に生存者を探してみよう」
 数珠を片手に念じる煉淡の身体が仄黒く光る。デティクトライフフォースを発動したのだ。歩きながら一定距離ごとに何度目かの術を使用したその時。
「いたぞ! ここから斜め下方十メートル程に五名。少し下ったところから真横に掘り進めよう」
 煉淡の言葉に沿って雪を掘る作業が始まった。
 ここでも雪に慣れた文淳と康貴が効率良く掘り進めるべく指示を出す。聖もその体力を生かしてどんどん雪を掻き出している。
 その雪を後方に退かす比較的軽度な作業に率先して入っている文乃がぽつりと呟く。
「カントレラちゃんとはお別れなのねェ。アタシも同じ駆け出しとして親しみを感じてたし、結構寂しいのよね」
 文淳は手を止め文乃を振り向いた。
「寂しくなった時は空を見上げて御覧なさい‥‥この空の下にお互いが居ると思えば‥‥その距離を近く感じる事が出来ますよ‥‥」
「文淳兄‥‥そうよね、もう会えなくなるわけじゃないもの」
 文乃は微笑み、一心に作業をするカントレラの背中を見つめた。
 強くは無いが降り続く雪を見上げ、カントレラが誰にとも無く言う。
「ウェザーコントロールを使いましょうか?」
「やめとき」
 止めたのは鰹雄だ。
「晴れたら雪崩が置き易くなるさかい、このくらいが丁度ええ」
 それを聞いていた八雲が溜息をつく。
「グラビティキャノンで雪を吹き飛ばせたら楽なんだがな‥‥地道に掘るか」
 やがて小屋の一部に到達し、涼哉が錫杖を鳴らし声を掛ける。
「生きているか? 返事してくれ!」
 中から辛うじて聞こえる声に、康貴が言う。
「すぐ中へ向かう。もう少しの辛抱だ!」

●遭難者救助
 暖を取るための手段も尽きていたのか、たどり着いた山小屋の中はすっかり冷え切っている。
 涼哉はざっと調査隊員を見、衰弱している者に駆け寄る。
「順番に診て行くからな。他の者は待っていてくれ」
 文乃はそんな涼哉の手伝いに入りながら、皆を力づけるよう言葉を掛ける。
 八雲は囲炉裏で火を起こし、山を登りながら集めてきた枝をくべて、皆が提供した保存食を温める。
「雪を溶かして、白湯を作りましょうか?」
 八雲が涼哉に問う。
「そうだな。俺の甘酒も温めてくれるか。まだ元気の残ってる奴には酒の方が効くだろう」
「‥‥なら、私の日本酒も使ってください‥‥」
 文淳が持参したどぶろくを差し出す。
 それらが温まるまでの間診察は続き、凍傷を負っているものは鰹雄がリカバーによる治療を施してやる。
「なぁ、こないな雪山に何の調査に来とるんや?」
「済まないが、明かす事はできないのだ」
 極秘の調査という事らしく、それ以上聞き出すことはできなかった。
「これでも飲んで落ち着いて欲しい」
 八雲と文淳が調査隊員に白湯や酒、保存食を配る。凍えていた身体も温まり、何より助けが来た事に彼らは安堵したようだった。
「無事に戻れたら、風呂入りに行くか?」
 温泉好きの涼哉は、褌を渡しながら皆を誘った。
 人心地つけた所で、隊長らしき年長の人物が皆に礼を言う。
「良くここが解ったな。我等の仲間が知らせてくれたのだろうか」
 その言葉に、カントレラが手紙を見せる。逃げ遅れた仲間の事を思い涙する彼らに、煉淡はこう告げた。
「できればこの手紙を託した人物も救いたいところですが‥‥」
「アタシも、この子をもう一度御主人に会わせてあげたい」
 雪狼を撫でてやりながら言う文乃に、カントレラも頷く。
「探しましょう。このまま雪の中では可哀想です」
 調査隊の希望もあり、翌日、雪狼が主と最後に別れた杉の木の辺りを捜索する。数時間の捜索の後、雪の下から男の遺体が発見された。
 簡単にではあるが鰹雄と煉淡が山小屋で弔いをし、涼哉の馬の背に乗せて下山する。特に衰弱の激しい二人も八雲と聖の馬に乗せた。
 京都に戻った一行は衰弱した者を寺院に預け、無事に依頼を果たしたのである。


●しばしの別れ
 北へ向かう街道へと開かれた京都の門に、カントレラは立っていた。
 意を決し、後ろを‥‥見送ってくれる最後の冒険の仲間達を振り返る。
「皆さん、本当にありがとうございました」
「コレで土産話が出来たな。後悔せずに生きろ」
 涼哉の言葉に、カントレラは頷いて見せた。
 別れに際し元気の無い彼女を励ますように、八雲は笑顔で告げる。
「むこうでも元気でな」
「蝦夷に帰っても、初心忘れたらあかんで! また、会える日を楽しみにしとるさかいな」
 鰹雄も明るく声を掛ける。
「はい、ありがとうございます。榊原さん、お世話になりました」
 康貴はカントレラをじっと見つめる。
 何度か依頼を共にし、色々あったが今となっては楽しい思い出である。思えばいつしか、妹のような娘のような存在として見ていた自分に気がつく。
 様々な想いを、一つの言葉に乗せて伝える。
「また会おう」
「はいっ‥‥」
 涙を堪えるカントレラの様子に、感極まった文乃は彼女を抱きしめた。
「元気でね」
 なかなか離そうとしない文乃を、文淳がそっと引き離す。
「縁と言うものは、そう簡単に切れてしまうものではありません‥‥何れまた必ず会うことが出来ますよ‥‥」
「その通りじゃ」
 聖が文乃の肩を叩く。
「お互い冒険者同士、違う土地で会う事もあるじゃろう」
 そしてついてきた雪狼にしゃがんで話しかける。
「もし行く所がなければカントレラさんを護ってくれぬかの。北は雪が多いらしい。君なら適役だと思うのじゃ」
 すると雪狼はカントレラの脚に擦り寄るようにして座った。
「ありがとう」
 カントレラは小さく呟いた。泣かないと決めていたのに、既に黒い瞳からは涙がこぼれ落ちていた。
 しかしその表情は、彼女の名『空を渡る風』に相応しい晴れやかな笑顔に満ちている。
「守崎さん。守崎さんがいなかったら、今の私はいなかった‥‥もし良かったら、これをお守りにしてください」
 彼女が差し出した小さな珠は、彼女が首から下げているタマサイの一部だ。
 堅護はそれをしっかりと握りしめ、カントレラについて行きたい気持ちを抑える。
「さよならは言わないでござるよ。たとえ故郷に帰ろうともカントレラ殿は冒険者にござる、いずれまた会う時を楽しみにしているでござるよ」
「ええ。きっと、必ず帰ってきます。それまで、皆さんもお元気で!」
 駆け出しだった彼女をここまでに育て上げたのは苦楽を共にした仲間達だ。彼らとの思い出を胸に、カントレラは雪狼と北へ旅立っていった。