見習い陰陽師、最後の依頼。なぞなぞ送別会

■ショートシナリオ


担当:きっこ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月09日〜03月14日

リプレイ公開日:2007年03月17日

●オープニング

●京都を発つ前に
 今日も冒険者ギルドは依頼人や冒険者で賑わっている。
 繁盛、と言えば聞こえがいいが、それだけ問題が起こっているわけだ。
 依頼書を書き終えた受付係の少女の前に、次なる依頼人が現れた。
 と、少女は柔らかい笑みを浮かべた。現れたのは恩師とその弟子だったのだ。
「いらっしゃい、成佐様、常盤丸くん。二人一緒にギルドにいらっしゃるなんて、珍しいですね」
 恩師の名は八宮司成佐(はちぐうじ・なりすけ)。かつて陰陽寮で上位の官僚として仕えていた男だ。今は学者として野に下っているが、その実有力者から妖怪がらみの依頼を受けている。
 隣にいるのは式部常盤丸(しきべ・ときわまる)。陰陽師となるべく成佐に師事し、修行の一環としてギルドにおいて冒険者と共に妖怪退治の依頼に従事している少年である。
 白く長い髪を高い位置で結わえ、未だ声変わりを迎えていない幼い声といい、どこからどう見ても女の子だが、その毒舌と天邪鬼ぶりはやんちゃ盛りの男の子である。しかし‥‥。
「常盤丸くん、今日はずいぶんと大人しいですねぇ?」
 受付係が首を傾げると、困った笑みを浮かべた成佐が答えた。
「私の仕事が忙しくなるので常盤丸にも手伝ってもらおうと思っているのですよ。こちらで何度か依頼を受けさせていただいて、彼もずいぶん成長しましたから」
「それはそれは‥‥良かったじゃないですか?」
 そもそも常盤丸は、命を助けてもらった成佐の手伝いをしたくて陰陽師を目指していたのだ。念願が叶ったはずなのに、常盤丸はうつむいたままだ。
「まぁ、そんな訳で、京都を離れなくてはいけなくなりましてね。こちらにももう顔が出せなくなってしまうのが寂しいのでしょう」
「そうですか‥‥って、えぇっ!?」
 受付係は驚いて二人を見た。常盤丸は成佐の後ろでぽそりと呟く。
「別に寂しくなんか‥‥ひだだだ!?」
「全く、素直じゃないですねぇ」
 成佐は笑顔のまま、常盤丸の両頬をつねり上げている。たまらず常盤丸は言う。
「ほめんひゃひゃい、さびひいでれす!」
 無理矢理言わされた感が無いでもないが、実際常盤丸の様子を見ると嘘ではないのだろう。
 ギルドの依頼を通して親しくなった冒険者達とも別れなくてはならないのだ。念願が叶うのは嬉しくも、心中は複雑なはずだ。
 受付係にしても、「綾音、綾音」とかまってくる常盤丸の事を弟のように思っていただけに寂しいものがある。
 ふと視線を落とした先に、先程書いたばかりの依頼書がある。
「そうだ、常盤丸くん。せっかくだから最後にこの依頼を受けてくれませんか?」
「え‥‥?」
 驚く常盤丸に、成佐も相槌を打つ。
「それはいい。京都を発つのはそれまで待ってあげますから」

●なぞなぞ狐
「で、こいつらの面倒を見るのが依頼なのか?」
 不服そうな常盤丸の周りでは三人の子供がはしゃいでいる。
「なぞなぞー!」
「なぞなぞして遊ぼう?」
「いいでしょ?」
 この子供達は狐が化けた姿。先の依頼で出会ったなぞなぞ好きの子狐達だ。
 昨日からなぞなぞの相手をさせられ手を焼いていた綾音は、一枚の小さな手紙を見せた。
「前回の依頼に参加された方が、ギルドに遊びに来いという手紙を‥‥」
「それで早速遊びに来たってか。はぁ‥‥」
 溜息をつく常盤丸に、子供達は相変わらずまとわりついている。
「まぁそう言わずに‥‥ね?」
「いいけど‥‥こんな依頼、受ける奴いるのかよ」
「大丈夫ですよ、きっと」
 綾音は常盤丸に微笑んでみせる。
(「この依頼はなぞなぞ狐の世話だけじゃなくて、常盤丸くんの送別会も含まれているんだから」)

●今回の参加者

 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb8467 東雲 八雲(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●子狐達
「常盤丸くん、皆さんがいらしてますよ」
 受付係の綾音がギルドの奥に呼びかける。
 姿を見せた常盤丸が仏頂面なのは、終始三人の子狐にまとわりつかれているせいだろう。
「おす、久しぶりだな」
 片手を上げた挨拶も弱々しい。しかし子供の姿をした子狐達はまだまだ元気だ。
「この人達がなぞなぞ答えてくれるの?」
「あ、なぞなぞ名人だ!」
「お姉ちゃんも、前に会ったことあるよね?」
 なぞなぞ名人こと宿奈芳純(eb5475)と瓜生ひむか(eb1872)は前の依頼で子狐達とは面識がある。
 ひむかが子供達に笑いかけた。
「覚えていてくれて嬉しいです。こちらは私の姉ですよ」
「瓜生勇(eb0406)です。可愛いですねぇ」
 勇はしゃがみこみ、女の子を抱きしめた。
 解放されて一息つく常盤丸の頭を、東雲八雲(eb8467)はわしわしと撫でる。
「かまいたちの一件以来会ってはいないが‥‥背、伸びたか?」
「いきなり何するんだよ、もー!」
 常盤丸は八雲の腹に拳を衝く。八雲は笑いながら、膝をついて子供達と目線を合わせた。
「俺の名前は東雲八雲、宜しくな。名前は何ていうんだ?」
「えっとね、『うみ』」
「僕が『そら』」
「私が『りく』だよね?」
 三人が答えると、常盤丸はばつが悪そうに言う。
「親がいなくて名前も無いって言うから、俺がつけたんだよ」
「良い名じゃ」
 西天聖(eb3402)の言葉に常盤丸は安心したようだった。
「ね、なぞなぞ」
「早く早く!」
「三つ出したの、答えわかった?」
 はしゃぐ子供達を綾音がなだめに入る。
「なぞなぞの答えは四日後にね」
「えーっ」
「皆に考える時間をあげる約束だったでしょう?」
 しょんぼりする子供達に、八雲が笑いかける。
「それじゃあ、俺がなぞなぞを出すから考えてくれ。常盤丸も」
「俺も!?」
 子供達のなぞなぞから解放されたばかりだというのに。
「それなら、ギルドの奥の部屋を使ってください」
 同情の視線をつつ、綾音が彼らを奥の部屋へ促した。戸を閉めて残った三人を振り向く。
「常盤丸くんの送別会、よろしくお願いしますね」


●送別会へ向けて
 ギルドの奥。八雲の出す問題に子供達は次々と答えてしまう。
「それじゃ、次。空と雲の間には何がある?」
 常盤丸は難しい顔で答える。
「空と雲‥‥? 山、とか」
 子供達はくすくす笑う。
「違うよー」
「『空』と『雲』の間だよ?」
「答えはね〜『と』!」
「正解! すごいな、皆」
 八雲は立ち上がって言った。
「正解の褒美にご飯でも食べに行くか?」
 面白く無さそうにしていた常盤丸も、眼を輝かせて立ち上がる。
「八雲のおごりか!?」
「そうだ。さ、行こう」
 八雲と共に酒場を訪れ、八雲はうどんを、子供達には五目おいなりさんを頼む。常盤丸は五目おいなりさんにみたらし団子まであっという間に平らげていた。
 店を出たところで、常盤丸は突然何者かに抱きつかれる。
「常盤丸〜♪」
「なっ、ひむか!?」
「探しましたよ! 皆で京都を散策しません? 京を離れる前に、想い出作りしましょう」
 ひむかのいつもと変わらぬはずの笑顔に、常盤丸は違和感を覚えた。
 理由はわからず戸惑っていると八雲が後押しする。
「いいじゃないか、この子達に京都見物をさせてやってくれ」
 そしてひむかにだけ聞こえるように、
「俺は送別会の準備に行くから、後は頼むぞ」
 と告げて去っていく。
 ひむかは常盤丸の袖を引きながら、子供達に笑顔を向けた。
「さ、行きましょう!」
「引っ張るなって!」
「わーい!」
「おさんぽ〜」
「どこに行くの?」
 賑やかな子供達の集団は、道行く人達の視線を集めながら辻の向こうへと消えていった。
 その頃、芳純と聖は冒険者達が利用している酒場の一つを訪れていた。
 店主に面会を求め、事情を説明する。
「どうかの? 一角を貸してもらえないじゃろうか」
 言って聖は店主にウインクして見せた。いつもより肌の露出を割増した衣服で豊満な肉体を惜しげもなく晒している。店主を誘惑して交渉を有利に進めようという魂胆である。
 作戦が功を成したか否か店主は快く応じてくれた。
 一方勇は、常盤丸の師匠である八宮司成佐の元を訪れていた。
「成佐様は今回も依頼には参加されないのでしょうか?」
 勇の問いに、成佐は頷く。
「私がいては、常盤丸が落ち着かないでしょう」
「でも、常盤丸さんのお友達を成佐様にも見ていただきたいのです」
「では、その送別会が終わる頃、常盤丸を迎えに行きますよ」
 成佐は穏やかな笑みを浮かべた。
「私は、彼が京都に残りたいなら、それも良いと思っているんですよ」
「え‥‥」
「私に師事する事を望む故に、側に置いてきた。私の元を離れる事を選んでも止めはしません。彼の進む道は、常盤丸自身が決めるものですから」
 それを聞き、勇はそれ以上何も言えずに成佐の元を去った。


●なぞなぞ送別会
 依頼最終日。
 ギルドの一室で寝泊りしている常盤丸と子供達を、芳純が迎えに来た。
「なぁ、どこに行くんだよ」
 常盤丸が訪ねるが、芳純は微笑むばかり。
「行けばわかりますよ」
 そう言って、りくを抱き上げ肩に乗せる。
「わぁ! たかーい!」
 はしゃぐりくを見て、そらとうみも芳純にまとわりつく。
「いいなぁ!」
「ぼくも〜!」
「順番にやってあげますから」
 芳純は三人を交代で肩車してやり、最後に常盤丸を抱き上げた。
「俺はいいって!」
 言葉とは裏腹に、道中うらやましそうにしていたのを芳純は見逃さなかった。
「私が肩車をしたいのです。『私が強く誘ったので貴方は仕方なく応じた』という事にしておいてくれませんか?」
 心療助言者ならではの気遣いに、常盤丸も「しょうがねぇなぁ」などと言いながらも楽しんでいるようだ。
 たどり着いた場所は、とある酒場の奥座敷。促されるまま常盤丸が襖を開ける。
 そこには依頼を受けた皆の姿が揃っていた。室内は綺麗に飾られ、掲げられた白い布には勇の達筆な文字で『常盤丸送別会』と記されている。
「ほら、ぼーっと立ってないでこっちに座って」
 驚き呆然とする常盤丸の手をひむかが引く。子供達も常盤丸の隣に座り、和やかな宴が始まった。
「なぞなぞの答えはちゃんと考えてきましたよ」
 芳純が言うと、うみが張り切って言う。
「じゃあ最初のなぞなぞ! 持ってはいけないもの、なーんだ!」
「桶、ですね。置け(おけ)ですから」 
 その答えに、感心した様子の八雲。
「なるほどな、このなぞなぞだけ解らなかったんだよなぁ」
「つぎのなぞなぞ〜」
 そらが立ち上がる。
「滝はどこにある?」
「タキ(滝)はキタ(北)の反対なので、南です」
 今度は勇の膝に座ったりくが問いかける。
「みっつめ。転んで立ち上がると、おしりにあるものがくっついてました。『あるもの』ってなあに?」
「もち、ですね。転ぶことを『しりもちをつく』ともいいますから」
 全てのなぞなぞを答えた芳純に、尊敬の眼差しが注がれる。
「すごーい!」
「やっぱりなぞなぞ名人だ」
 喜ぶ子供達の様子に眼を細めながら、聖が言う。
「一問は解けるようになりたいの。今度は挑戦しに行くのじゃ。皆の様になぞなぞも考えても、良いじゃろうかの」
「きてくれるの?」
「待ってるよ〜」
 卓に用意された料理は、聖や勇が調達してきた食材を調理したものだ。子狐達が気に入った五目おいなりさんも用意してある。勇が成佐に常盤丸の好物を聞いてきた甲斐あってか、常盤丸は食べる事に専念していた。
「もう、常盤丸ったら食べてばっかり!」
 ひむかは頬を膨らませる。せっかく聖に頼んで化粧もしてもらったというのに、全く気がついていないのだ。
「これうまいぞ、ひむかにも分けてやるよ」
「ぷっ‥‥常盤丸、口の周りご飯だらけですよ」
 思わず吹き出すひむかの様子を勇はじっと見つめていた。姉だからこそ、笑顔の裏の本心に気がついたのだ。


●また会う日まで
 楽しい時はあっという間に過ぎていく。別れの時はすぐそこまで近づき、ひむかは一人酒場の外に佇んでいた。
 常盤丸に京都に残って欲しい。それか、自分が成佐と常盤丸について行くことができたら‥‥。自分の我侭でしかないと解っているから、言葉にする事などできない。
 溜息をつくひむかの前に、一人の男が現れた。
「成佐様!?」
「おや、貴女がひむかさんですか?」
「え?」
「いえ、常盤丸の話に良く出てくる女性に似ていたものですから」
「はい。私、です(常盤丸が‥‥)」
 丁度その時、酒場から出てきた常盤丸がひむかと成佐を見つける。
「ひむか、こんなところに‥‥わ、成佐様!?」
「送別会を開いてもらったそうじゃないですか、皆にお礼は言いましたか?」
 成佐に言われ、常盤丸は後についてきた皆を振り向く。
「えっと‥‥その」
「きちんとお別れも言うんですよ」
 常盤丸は恥ずかしそうに地面を蹴りながら、一生懸命に言葉を考える。
「俺、頭悪いしうまく言えないけど‥‥皆と会えて良かった、と思う。元気でな」
 八雲はうつむく常盤丸の頭を撫でてやる。
「お前も元気で修行しろよ?」
 芳純はしゃがんで常盤丸と目線をあわせた。
「餞別にひとつなぞなぞを。幸福とは、なんだと思いますか?」
「え??」
「毎日の成長を実感できる日々を過ごす事。貴方が歩いている人生です。貴方が私たちと過ごした日々を思い出す時、そう感じられたら幸いです」
「常盤丸!」
 意を決し、ひむかが常盤丸の袖を掴む。常盤丸の眼を見つめるひむかの瞳は涙を一杯に浮かべていた。
「大好きです‥‥成佐様の手助け、頑張ってね」
「ああ。俺、凄い陰陽師になって帰ってくるからな」
 ひむかは無言で頷き、そっと手を離す。
 成佐が皆に頭を下げる。
「常盤丸が大変お世話になりました。皆さんのご活躍をお祈りいたします」
 常盤丸は名残惜しそうにしながらも、精一杯の笑顔を見せた。
「じゃあな、皆。今日はありがとう!」
 成佐と並んで歩きながら、常盤丸は何度も振り返り手を振り続ける。
 その姿が見えなくなると、ひむかは勇にしがみつき声を出さずに泣いた。勇は妹をそっと抱きしめてやる。
「常盤丸さんはひむかの事をきっと忘れないですよ」
 その後すぐ。二人は京を離れ街道を南へ行く。
 数段大人の顔になった常盤丸の横顔を見つめ、成佐は呟いた。
「良い友達ができて、ずいぶん成長しましたね」
「成佐様。これからの修行、よろしくお願いします」
 常盤丸は手の中にある匂い袋を握りしめた。ひむかが袖を掴んだ時に手渡したものだ。
 ひむかと街を散策した時に立ち寄った香道の店で、常盤丸が好きだと言った香りがする。
 最後にもう一度だけ京都を振り向く。
(「俺、きっとひむかの事好きなんだ‥‥」)
 でも、今は言えない。一人前の陰陽師になって戻ってきたら、その時はきっと‥‥。
 想いを振りきり、常盤丸は距離の開いた成佐の後を追って走り出した。