春秋姉妹。ノルマンにお引越!

■ショートシナリオ


担当:きっこ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月15日〜03月20日

リプレイ公開日:2007年03月20日

●オープニング

●真壁屋、ノルマン進出
 今日も冒険者ギルドは依頼人や冒険者で賑わっている。
 繁盛、と言えば聞こえがいいが、それだけ問題が起こっているわけだ。
 その中を縫う様に、二人の少女が奥へと進む。
 一人はまとめ上げた髪に小花のかんざしを挿し、菊柄浅葱色の小紋とほんわかとした空気をまとっている。もう一人は、結って流した髪に白絣の小袖と黒袴、剣士風の凛々しい少女。
 この二人、刀の鍔・切羽から刀袋や下げ緒・柄糸などの刀備品・装飾具専門店である真壁屋自慢の双子の娘だ。
 おっとりした方が姉の春花(はるか)。剣士風の方が妹の秋良(あきら)。
 二卵性双生児のため容姿はさほど似ていないが、二人ともなかなかの美人だ。姉妹の差をつけず平等に育てられたのに性格は正反対。ボケツッコミ姉妹として真壁屋の近所ではちょっと有名で、二人の名前から『春秋姉妹(しゅんじゅうしまい)』なんて呼ばれている。
 何度か依頼を持ち込み、ギルドと冒険者にはお世話になっているのだが‥‥。
「これ、ギルドの皆さんでどうぞ」
 春花は、ほんわりとした笑顔で菓子折りを差し出した。
 黒髪碧眼、和服の似合う受付係の青年も笑顔でそれを受け取る。
「これはどうも、ご丁寧に。でも、突然どうしたんです?」
 首を傾げる受付係に、秋良が答えた。
「ここにもずいぶん世話になったからな。挨拶も兼ねて最後の依頼に来たんだ」
「最後の‥‥?」
 疑問の取れない受付係。春花は嬉しそうに両手を合わせた。
「私達、ノルマンにお引越するんです〜」
「実は、父の店の得意先にノルマンの貴族がいるんだが‥‥うちの商品をいたく気に入っていて、ノルマンで店を出してみないかと話を持ちかけてきたんだ」
「それでそれで、私と秋良ちゃんも一緒にノルマンに行く事になったんですよ」
「それはまた‥‥道場の方はどうされるんです?」
 真壁屋の一角には、秋良の叔父が開いている『真壁流剣術道場』がある。秋良はその師範代を務めているのだ。
「あたしがいなくても、師範一人で問題ないだろう。臨時師範代も来てくれているし‥‥。それに、ノルマンで剣術を教えて欲しいという話もあるようでな‥‥」
 秋良は困惑を隠しきれない様子だが、何にせよめでたい話である。
 受付係はもらった菓子折りを傍らに置き、居住まいを正した。
「おめでとうございます。して、最後の依頼というのは‥‥?」
「引越の準備を手伝ってもらいたい」
 そう言って秋良が差し出した紙には、父・秋松に書き出してもらった手伝って欲しい事が記されている。

・商品の梱包‥‥輸送により傷まない様にする
・箱詰め‥‥梱包した商品を木箱に詰める
・木箱の積み込み‥‥木箱を荷車に載せ、落下しないよう縄で固定する

「これ以外にも思いつく事があれば手伝ってくれてかまわない」
 受け取った紙を見て、受付係はあることに気がつく。
「引っ越す日が、来月の十五日になってますね」
 それだけ時間があれば、依頼を出さずとも準備は可能なはずだ。
「それは‥‥」
「実はですね」
 言いかけた秋良の言葉をはるかが遮る。
「今までお世話になったので、冒険者さん達にお礼がしたいのですよ」
「‥‥そういう事だ。手伝ってもらっている間は、うちに寝泊りしてもらって、食事も春花が用意する。最終日には、ささやかだが感謝の意を込めて宴会も開かせてもらおうと思っている」
「今まで依頼に参加してくれた人も、そうでない人も歓迎なので、よろしくお願いします」
 何から何まで対照的な二人だが、こう息の合ったところを見せるのはさすが双子である。
 受付係は妙なところに感心しながら、依頼書を書くべく筆を取った。
「それでは、早速依頼として張り出させていただきます。ジャパンでの良い想い出になる事を祈っていますよ」

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4673 風魔 隠(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●真壁屋に集合
 真壁屋の離れにある真壁流剣術道場からは、いつものように子供達の稽古に励む声が聞こえて来る。
「それにしても、ノルマンに引越とはな‥‥」
 稽古の手を休めて、山下剣清(ea6764)が呟く。道場の臨時師範代として道場を訪れ、師範であり秋良の叔父である竹良(たけよし)から出店の話を聞かされていたのだが‥‥。
「あまりに唐突な話だな」
「まぁ、兄は昔からそういう所があるからなぁ」
 竹良はすっかり慣れた様子だ。
 終わりの挨拶をし、子供達を帰した秋良が二人の元へやってくる。剣清は木刀を手に立ち上がった。
「どれほど腕を上げたか、手合わせしてみよう」
「剣清さんと!?」
 驚く秋良に、竹良も頷く。
「ノルマンに行く前に、少しでも多くの事を学んでおくといい」
「‥‥よろしくお願いします」
 秋良は道場の中央で木刀を構えた。
 二人が打ち合いを始めて少しした頃、道場の入口に西中島導仁(ea2741)が姿を見せた。
「引越の手伝いに来たつもりが、思わぬところで鍛練ができそうだな。俺も一つ手合わせ願おうか」
 その頃、真壁屋で店番をしている春花の元を風魔隠(eb4673)が訪れていた。周囲を窺いつつ、忍の身のこなしで素早く番台にたどり着く。
「隠さん、こそこそとどうしたんです?」
 春花が笑顔で訪ねると、隠は小声で告げた。
「それはもう、夜逃げはこそこそするものと決まっているでござろう!」
「夜逃げ!?」
「しーっ、声が大きいでござる! ノルマンに高飛びすると聞いて、手伝いに来たでござるよ。もちろん夜逃げの理由は詮索しないでござる」
 背後に気配を感じ、はっと入口を振り返る隠。そこには剣真(eb7311)が佇んでいた。
「引越って、夜逃げだったんですか?」


●引越の準備をしよう
 隠お得意の勘違いで春花まで夜逃げと思い込むひと騒動があったものの、挨拶を兼ねて昼食を取り午後から作業をする事となる。
 蔵に集まった皆に秋良が説明する。
「やるべき作業はギルドで聞いているとは思うが‥‥」
「商品の梱包、箱詰め。木箱の積み込み、ですね?」
 真の言葉に秋良が頷く。
「この蔵にあるのは、刀袋、柄糸、提げ緒などの布製品と、刃のない装飾用の刀剣類だ。それらを梱包用の資材で梱包し、そこの木箱に詰める」
 真壁屋の家紋が入った空の木箱は、秋良が指した蔵の隅に積み上げられている。
「既に空になった蔵にある荷車をこちらに運び、荷を積んだ荷車を別の蔵に運ぶという段取りになる」
「ここには高級な物は無いので、安心してくださいね〜」
 春花がにっこりと微笑むと、隠は安堵の息をつく。
「そうでござるか、ちょっとくらい落としても大丈夫でござるな!」
「待て待て、値段はどうあれ壊す訳にはいかんだろう」
 ボケ二人にすかさず突っ込みを入れた導仁に、いつもより突っ込みの回数が少なく済みそうな予感を覚える秋良だった。
 真がきゅっとたすきを締め、皆に言う。
「まず、種類ごとに分けて箱詰めしましょう」
「月道に荷物を放り込むのなら、厳重に梱包しておかないと衝撃に耐えられんだろう。箱の中に隙間も作らないようにな」
 導仁と真の言うとおり、まず商品を分けしっかりと梱包し、隙間なく木箱へと詰めていく。一斉にその作業に取り掛かりながら、真が言う。
「ある程度荷作りができたら、荷を運び出す方と箱詰めの方に手分けして行なうのが良いでしょう」
「なら女性は箱詰め、荷運びは男だな」
 剣清の言葉に、真は申し訳無さそうに手を挙げる。
「あの、自分も箱詰めで良いでしょうか? 蔵を出て、他の蔵にたどり着く自信もこの蔵に帰ってくる自信もないんです」
 何しろ以前真壁屋に来た時も、一人で厠に行って帰ってくることもできなかったほどの方向音痴なのだ。
 と言うわけで、女性三人と真で荷詰め。男三人で積み込み。剣清と導仁で運び出しという役割分担で作業が開始された。その日は夕刻まで続けられ、後は翌日に持ち越される事となった。


●恋の話咲く‥‥
 二日三日と作業をするうちに、次第に手際も良くなってくる。
 手が空く者がないよう真が順次指示を出し、導仁が先導し剣清と二人で次々と荷を運び出す。
「真さんと導仁さん、専門の引越屋さんみたい」
 感心する春花と一緒に刀袋を箱詰めしていた隠が小声で話しかける。
「ところで秋良殿と広瀬殿はどうなったでござる?」
「翠竜さん? えへへ、知りたい?」
「もったいぶらないで教えるでござる!」
 広瀬翠竜(ひろせ・すいりゅう)というのは秋良とお見合いをした生物学者の青年である。お見合いを破談にする依頼があったのだが‥‥破談もうまくいったものの、二人の仲もうまくまとまってしまったのだ。
「うちに来た時に引越の事を言ったらね、『なら、私もご一緒します』って」
「そんなあっさりと!?」
「うん。勉強にもなるし、って。何より秋良ちゃんと一緒がいいんじゃないかなぁ?」
「くぅ〜!『私もご一緒します』でござるか!」
 隠は人遁の術で翠竜(但し髭付き)に化けて台詞を真似る。と、頭頂部に激しい衝撃が走る。
「遊んでる暇があったら手を動かせ!」
「秋良殿、不意打ちは卑怯でござる」
「道場終わったの?」
 頭を抑え涙目で訪ねる春花。話に夢中になっていて秋良がこちらに合流する時間であることを失念していた。と、はるかは秋良の後ろに視線を送る。
「あ、翠竜さん」
「そうやって人をからかおうとして‥‥」
「皆さん、お疲れ様です」
 振り向くと、蔵の入口に黒髪の好青年が佇んでいた。
「あ、わ広瀬さん!?」
 秋良は思わず二人を叩いた木刀を背後に隠す。翠竜は風呂敷を掲げて微笑む。
「差し入れに甘い物をお持ちしました。一息入れられてはどうですか?」
 導仁が荷車に箱を積む手を休めた。
「休憩を挟んだ方が効率良く作業できる。ありがたくいただこう」
「よし、ではこの荷を積んでしまって‥‥」
 隠は詰め終えた箱を二つ重ねて持ち上げた。剣清が慌てて呼び止める。
「おい、無茶はするなよ」
「中味は軽いから平気‥‥わゎっ!?」
「危ない、隠さん!」
 助けに入ったのが春花だったのがまずかった。直前で躓いた春花の体当たりが隠に命中し、倒れ込んだ二人の上に木箱の中身が全て降り注いだ。


●お疲れ様会
 真壁家に寝泊りしての引越作業はまるで合宿のようで、皆楽しい日々を過ごしていた。
 最終日には研究がひと段落した翠竜も手伝いに訪れ、夕刻までには全ての蔵の荷造りを終えることができたのだった。
「皆さん、お疲れ様ー!」
 途中で作業から抜けていた春花と秋良が、作業を終えた皆のところへ戻って来る。
「父の予定では、明日店の者で作業をして準備を終えるつもりだったらしい。早く終わって喜んでるよ」
「お鍋の準備ができたから、たくさん食べてくださいね!」
 春花が言うと、皆歓声を挙げる。
 通された部屋には鍋をはじめ、刺身や一品料理などが大きな卓に並べられている。もちろん酒も用意されていた。
 皆を真壁屋の主、真壁秋松が出迎える。
「皆さんのおかげで大助かりですよ! これまでにも何度か娘達がお世話になった方達もいらっしゃるとか。今日は大いにくつろいでください」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
 隠は真っ先に鍋の前に陣取った。全員が席に着き杯を手にしたところで秋松が言う。
「皆さんのますますのご活躍を祈って‥‥」
「真壁屋の発展を祝って」
 言って導仁が杯を挙げる。
「「かんぱーい!」」
 宴が始まったと同時に、隠は物凄い勢いで料理を食べ始める。
「毎日粗食で、ご馳走は嬉しいでござる〜! うぐっ」
「そんなに慌てなくても、料理はたくさん用意してありますよ」
 喉を詰まらせた隠に水を飲ませながら春花が笑う。
 竹良と剣清は秋良が抜けた後の道場の事について話し合っている。真は持ち込んだ発泡酒を皆におすそ分けし、ノルマンに行った経験のある導仁に、秋松は向こうの様子を尋ねたりしている。
「ノルマンには江戸村があったから、引越側を用意しておいたら喜ばれるだろう」
「そうですか、いや西中島殿からお話が聞けて良かった」
 秋良と翠竜が和やかに話しているのを見、隠が春花に擦り寄る。
「春花殿には思い人はいないでござるか?」
「私はまだ‥‥隠さんは?」
「拙者もいい歳でござるけど‥‥いやいや、拙者は正義の道に生きるでござる!」
 隠は突然立ち上がる。
「サイゾウさんとコタロウさんがいつか忍馬になったその時! 正義の人が白馬で海辺を駆って拙者を迎えに来るでござる!!」
 かなりいい感じに酒が回ってしまっている隠。白馬で海辺を駆るのはどこかの暴れ者の将軍様である。


●また会おうね
 そんな調子で楽しい時は過ぎ、皆が真壁家を後にする時がやってきた。
「皆には本当に世話になった。改めて礼を言う」
「ありがとうございました」
 皆の見送りに立ち、深々とお辞儀をする春秋姉妹。
 剣清が二人の肩を叩き顔を上げさせる。
「俺も臨時師範代として頑張るので、二人も向こうで気をつけてな」
 隠が肘で秋良をつつく。
「広瀬殿とうまくやるでござるよ」
 見る間に頬を染める秋良の隣で、春花が隠の手を取る。
「秋良ちゃんの結婚式には、ぜひ来てくださいね」
「またお前等は‥‥!」
 腕を振り上げた秋良を真がなだめる。
「まぁまぁ、二人とも秋良さんの事を思って言ってるんですから」
「わかってるよ!」
 真っ赤な顔のままそっぽを向く秋良に、真は包みを差し出した。
「これは春花さんと秋良さんに餞別です」
 開かれた包みには、かんざしが数本入っていた。
「春花さんにはこれを‥‥」
 紅白の梅が咲く枝を模った『早春の梅枝』を春花に手渡す。秋良には椿の愛らしいかんざしを渡す。
「この『乱れ椿』は暗器でもあるんです。武芸をたしなむ秋良さんにはぴったりでしょう?」
「わぁ、ありがとう!」
「すまないな、気を遣ってもらって」
「いえ。向こうでもお元気で」
 なんとなく名残惜しい雰囲気だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。導仁が促すように告げた。
「‥‥それじゃあ、向こうでも頑張ってくれよな。俺もノルマンに行く事があったら、顔を出しに行かせてもらうよ」
「あ、自分も時間ができたら立ち寄っても良いでしょうか?」
 導仁と真に、春花は嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、ぜひ遊びに来てください!」
「その時はまた剣の手合わせを頼む」
 秋良も滅多に見せない年相応の笑顔で皆を見送った。
 翌月十五日。真壁屋はノルマンに引越し仮出店。半年後には正式にノルマン支店を出店するに至ったという。
 春秋姉妹も店が一段落ついて、江戸に帰ってくるとか来ないとか。そのお話はいずれまた‥‥。