女体の園!? 年寄りの悲願

■ショートシナリオ&プロモート


担当:きっこ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月26日〜06月30日

リプレイ公開日:2006年07月01日

●オープニング

 今日もお江戸は日本晴れ。
 からりと晴れたこんな日でも、冒険者ギルドに舞い込む依頼は後を絶たない。
 そら、今も爺さんが一人、冒険者ギルドに入って行きなすった。


 その依頼は、義三という名の老人から持ち込まれたものだ。
 ギルド受付係の、いつもの丸眼鏡の兄さんが話を聞こうとするが、一行にらちが開かない。
 と言うのは、義三が「ここではちょっと」と依頼内容を話そうとしないのである。
 そんなわけで。
 依頼内容を聞かずとも参加を表明した腕に憶えのある冒険者たちと相談係が、待ち合わせ場所である町外れに集まっていた。
 ちょうど約束の刻、手ぬぐいをかぶった怪しげな男が辺りをうかがいながら現れた。依頼人の義三だ。
「おうおう、よくぞ来てくださった。さっそくで悪いが、ちょっとついて来て下され」
 待ち合わせてすぐに場所を移るとは。訝しく思いながらも、冒険者たちは後に続く。
 町外れの林を通りながらぐるりと回りこんだその先、さらに茂みの奥へと分け入っていく義三。ある位置でぴたりと動きを止め、振り返って囁いた。
「あれじゃ」
 皆は義三にならって、潜むように茂みの奥をのぞき込んだ。
 少し開けた土地の先に、人の背丈よりも高く建てられた板塀が続く。その向こうに立ち昇る湯気と女性たちの歓声。時折湯の流れる音に混ざって桶のぶつかる音が小気味良く響く。
 ということは、つまり‥‥。
「露天風呂?」
「いかにも」
 相談係の声に、義三はおもむろにうなずいた。
 それはそうと、義三はいったいどのような依頼をするつもりなのか。戸惑う皆に、義三が言う。
「これまで、わしは幾度にも渡って挑戦を続けてきた。にもかかわらず一度も成功することなく、すでに齢八十。頼む! わしに見せてくれ。あの壁の向こうの、夢にまで見た光景をっ!!」
「‥‥それって」
 世間一般では、それを『のぞき』と言う。
 呆れたりちょっと期待したり、それぞれな反応を返す冒険者たちに、義三はたたみかけた。
「特に最近は変質者も多いらしく、あの女子どもが常時警備を行なっているのじゃ」
 確かに板塀の手前には女性が数人立っている。白い着物に紺袴、腰には木刀を提げ額の白鉢巻も勇ましい。
 その『変質者』の中に、義三は含まれてはいないのか?
「じゃあ、警戒が解けるまで待てばいいじゃないですか」
 提案する相談係の声は投げやり気味だ。義三の身を包む妙な気迫についていけないのだ。
 しかし義三は頑なに首を横に振った。
「それでは遅いのじゃ! この年寄りの命、いつ尽きてもおかしくない」
 言って義三はこれ見よがしに咳き込んでみたりしている。
 しかし相談係の反応は冷たかった。
「ギルドとしては、そのような依頼をお受けすることはできません。残念ですが諦めてください」
 踵を返した相談員に続いて、冒険者たちもぞろぞろと帰って行く。
 義三は絶望に打ちひしがれ、その場に崩れ落ちた。
「あの板の向こうに広がる女体の園を見ずには死んでも死に切れん。この年寄りの最期の願い、聞き届けてくだされぃ!!」
 全身全霊を込めた土下座!
 しばしの沈黙の後、面を上げた義三の前には数人の冒険者たちが残っていた。
「おお‥‥ありがたや。この義三にとって、まさしくおぬしらは神の使いじゃ!」
 ‥‥それほどまでに女湯がのぞきたいのか、義三よ。

 さてはて、老人の持ち込んだ依頼がこのような内容とは。
 義三の懇願に感じるところがあったか、はたまた哀れに思ったか。依頼を受けてしまった強者どもは、如何様にして老いらくの夢を叶えるものやら。
 

●今回の参加者

 ea1224 東儀 綺羅(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9249 マハ・セプト(57歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 eb0272 ヨシュア・ウリュウ(35歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb0371 ラーフ・レムレス(63歳・♂・レンジャー・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb0559 早河 恩(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5071 コンル(24歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5480 ブロード・イオノ(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●義三と冒険者達
「あたしは東儀綺羅(ea1224)、よしなに‥‥」
 礼儀正しく頭を下げた綺羅の豊満な胸の谷間に、義三の視線は釘付けになっている。
「困った爺殿じゃな。しかし爺三人の他は全て若い女性とは」
 自分にだけ聞こえるほどの声で呟くのはシフールの老僧侶マハ・セプト(ea9249)だ。
 六人の女性の中に、マハの見知った顔が二人ほど。マハはちょっとした悪戯を思いつく。
「イオノ殿、今日はよろしく頼みますのじゃ!」
 言うなり金髪碧眼のエルフ、ブロード・イオノ(eb5480)の張りのある胸に飛びついた。マハの目論見どおり、義三はうらやましさに歯噛みしている。ならば、もう一押し。
「ヨシュア殿‥‥」
 マハは振り向いた瞬間に作戦の中止を決断した。ヨシュア・ウリュウ(eb0272)の全身は怒りを含んだ気迫に包まれている。 
(「この依頼人、此処で槍の錆にしておいたほうが世の為人の為‥‥」)
 ヨシュアは魔槍レッドブランチの柄に手をかけたが、それをぐっとこらえ義三に向き直った。
「依頼人様、お願いがありますわ。今回限りに覗きをしないと約束してくださいまし。冒険者に依頼するのも最後にお願いいたしますね」
 丁寧な口調。だが、義三の名すら口にしないヨシュアのその微笑は引きつり、怒りが闘気として立ち昇るようだ。
 義三が一も二もなく頷くと、ヨシュアは早々に離れていく。怯える義三の肩を叩いたのは、ラーフ・レムレス(eb0371)だった。
「わしは義三さんの気持ちがわかるでの。覗きは男の一生をかけた夢じゃの」
「おおっわかってくださるか!」
「同志の気持ちは良くわかるじゃよ。わしも協力しよう」
 二人はすっかり意気投合し、友情の握手を交わした。

●露天風呂
 作戦準備のため、女性陣は露天風呂の中にいた。
 まずは一般客として、潜入調査である。
「あたしが背中流してあげるね」
 早河恩(eb0559)が掲げたのは、やぎ手拭い。同族のコンル(eb5071)と並んだその姿はまるで姉妹のようだ。
「女の人の裸が見たいって依頼、あんまり気が乗らないけど‥‥」
 コンルの呟きに恩も苦笑交じりに頷く。
「そうだね。でも、一応依頼は依頼だし、満足して貰える様に頑張らないとね〜」
 そうしながらも、恩は忍の眼で露天の構造をしっかりと探っている。
 日中から賑わっている露天風呂は、思っていたよりも広々としていた。岩風呂が大小一つずつ。屋根付きの檜風呂が一つ。大きな岩風呂に仲間の姿があった。
「男の子ですね、義三君は」
 ブロードは義三の子供じみた言動を思い、上品に微笑む。
 彼女が岩風呂に浸かろうとしたその時、湯の中から呼びかけたのは御陰桜(eb4757)だ。
「ブロードちゃん、湯船にタオルは入れちゃいけないのよ」
 桜の指摘にブロードは素直に従う。
「そうなのですか、失礼しました」
「他の国じゃあ、大衆浴場ってないんでしょう? 作戦のためにも、ブロードちゃんには露天風呂を楽しんで、知ってもらわないとね」

●助平爺は女の敵
 その頃、ひと足先に湯から上がった綺羅とヨシュアは、温泉の女将の間を訪れていた。
 着物の似合う恰幅のいい女将に、ヨシュアはこう切り出す。
「あたしはヨシュア・瓜生。ナイトですわ。今回お願いがございまして‥‥一刻、いえ半刻ほど露天風呂に客を入れて欲しくないのです」
 突然の申し入れに戸惑う女将に、綺羅も説明する。
「実は、何度もここの露天を覗こうとしている方がいるのだが」
「もしかして、義三さんのことかい?」
 即答する女将。さすが、義三自ら『幾度にも渡って挑戦を続けてきた』と豪語するだけのことはある。綺羅は作戦の概要を女将に話して聞かせた。
「一般のお客様にはご迷惑をお掛けしたくない。しかし依頼人は老い先短いご老人。最後の願いだ。叶えて貰えないだろうか?」
「そう言ってもねぇ」
 迷う女将にヨシュアがたたみかける。
「此方に迷惑をかけている依頼人に達成感を味あわせ、今後同じ事をさせないように策を施しますので、お願いしますわ」
 熱心に頭を下げるヨシュアの横で綺羅も同様に頼み込む。二人の礼儀正しい佇まいと、何よりヨシュアの義三に対する憤慨からなる熱意に信用を置いた女将は立ち上がった。
「わかった。あの爺さんが覗きに来なくなるんだったら、協力するよ」
 綺羅とヨシュアは笑顔を見合わせた。たしなんでいる礼儀作法と話術が、こんなところで役立つとは、綺羅本人も予想していなかった。が、そこがまた人生の楽しいところだ、と一人納得するのだった。

●いざ、露天を覗かん!
 二日後。女将と示し合わせた温泉側の準備も整い、再び温泉の外にて義三と待ち合わせた。
「我々女性陣は直接手を貸すのは躊躇われますので、妨害阻止やその他の根回しをしてまいりますね」
 そう告げるヨシュアの声は今日もとげとげしい。
「おぬしは行かんのか?」
 女性陣を見送る義三が、一人残っているコンルに問う。
「あたしはおじいさんより先に覗く係なの。任せて、おじいさん。あたしがちゃーんと様子を教えてあげるからさ♪」
 そう言って笑うコンルの上にマハがふわりと現れ、義三に尋ねる。
「中はどのような風景じゃと思う? 乙女達が騒いでる姿かの? 酒を飲んでる姿? 湯煙に紛れた女性のうなじなども良いの」
 義三はマハの言葉に妄想を膨らませる。
 先刻、桜から「おじいちゃんの為に絶好の機会を作っておくから、楽しみに待っていてね」と、早まって覗かないよう釘を刺されていた義三だったが‥‥。
「うおおぉぉ!」
 突然雄たけびを上げ、義三は地面を転がり始めた。
「あの豊満な乳を見せつけて覗くなと! わしゃこぼれんばかりの乳が見たいんじゃ〜」
 建物の裏手に近い方から現れたラーフもその光景に面食らったが、自分が来た方向を指して言った。
「護衛のいない時間を調査で見つけておいたのじゃ。さ、こっちじゃ」
「おおっ、そうか!」
 老齢とは思えぬ勢いでラーフの後に続く義三を、マハとコンルは呆れ顔で追いかけた。

●いざ、露天を楽しまん!
 女将の協力により露天のみ一刻貸切となった。外の護衛もこの時間のみ退けてもらっている。今頃ラーフたちが、あたかも護衛をかいくぐるかのように義三を誘導しているだろう。
「依頼中に露天風呂を満喫できるなんて、最高ね」
 実は露天風呂を楽しむことを目的に依頼を受けた桜。その目的もしっかり果たせたというわけである。
 その時、小岩風呂に浸かっていたブロードの様子が変わった。
 外のマハが、スクロールを利用した『テレパシー』を送って来たのだ。
(「義三殿は、こぼれんばかりの乳が見たいそうじゃ。イオノ殿。今から詠唱開始じゃ!」)
 ブロードは詠唱しながら、先日入浴した際の光景を元に架空の豊満な女性たちの入浴姿を思い浮かべる。その碧眼は板塀に用意された穴の奥を見据える。
 そう、むざむざ裸体をさらすこともない。義三には幻を見てもらうのだ。詠唱中はコンルが中を覗く。術が発動するその瞬間‥‥。
「う‥‥おおおっ! これじゃ! まさしく夢にまで見た女体の園じゃあっ!!」
 見計らってコンルと義三が入れ替わり、義三が『イリュージョン』を受けたという顛末である。ブロードは義三の声にくすくすと笑う。
「困難を越えて覗いた瞬間に幻。疑いようが無いですね」
 ヨシュアはまた不愉快になったが、気分を害していては自分が損である。
「事も済みましたし、今は温泉を楽しみましょう」
「それにしても、皆胸が大きいんだね〜」
 すっかり感心した様子で見回す恩。
「ん〜‥‥眼福眼福♪ どれ、お姉さんが一つ背中でも流してやろうか」
 ブロードを捕まえて立ち上がった綺羅もかなりのものを持っている。
 恩の胸も決して小さくはないが、並ぶと少し見劣りしてしまう。
「桜さん、ちょっと触ってもいいかな?」
「ふふ‥‥どうぞ」
「わぁ〜、すごーい。こんなに指が埋まるんだ」
 自分にはない感触に、恩はつい夢中になる。
「あっ、ちょっとやりすぎよ。お返し!」
「ひゃっ」
 とっさにかわした恩。桜の両手は恩の背後にいたヨシュアの豊かな両胸をがっしりと掴む。
「きゃあっ! な、何をするんですか。女同士で破廉恥な!」
 真っ赤な顔で自らの胸をかばうヨシュアの背後から、格闘術では同列の腕前を持つ綺羅が羽交い絞めをかけた。
「まぁ、そう堅いこと言わずに」
「えっ、ちょっと‥‥!」
「それでは、わたくしも」
 ブロードまでがヨシュアの前に待機している。
「ヨシュアさん、ごめんね〜」
 難を逃れた恩は、体力負けしそうになった綺羅に加勢しヨシュアの動きを封じた。
 義三の覗きを回避したはずなのに、よもや同性に襲われるとは!
 血の気が引くヨシュアの前で、桜が組み合わせた両手の指を鳴らし口の端を上げる。
「さぁ、行くわよ♪」
 それはこれから始まる触り合いという名の戦いの序幕に過ぎなかった。

●念願達成
 ここはとある酒場。目的達成祝いにとラーフが呑みに誘ったのだ。マハとコンルも同席している。
「すばらしかったのぉ〜、女体の園。綺羅ちゃんに桜ちゃん‥‥いや皆甲乙付けがたい。しかと眼に焼き付けたわい」
 酒も入りすっかり上機嫌な義三が笑う。そう、『イリュージョン』の効果は6分まで。効果が切れる前に義三を穴から引き剥がすことを、皆失念していたのである。ちょうど入り乱れて乳の揉み合いになっている所を目撃されてしまったというわけだ。
「わしも恩恵にあやかれて何よりじゃ」
 しかもラーフまでちゃっかり覗いていたりする。
「じゃが、約束どおり覗きはこれきりじゃ。女騎士に殺されてしまうでの」
 義三はヨシュアの殺気を思い出して身震いした。
「裸を見られたこと、特にヨシュアさんには内緒にしておいた方が良さそうだね」
「もう覗きをさせないというヨシュア殿の思惑は、叶ったということで良いのかの?」
 コンルとマハはひそひそと話しながらも、あつあつのモツ煮込みをいただくのであった。