橋を架ける為に出来る事

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 64 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月08日〜03月15日

リプレイ公開日:2007年03月16日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 藩主・平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は、虎長の妹・お市の方と、虎長の息子・信忠を擁する虎長の弟・信行とに真っ二つに分かれ、尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座を巡って対立姿勢を強めていた。

 ――那古野城。お市の方こと平織市(ez0210)の本拠地だ。
 虎長亡き後、那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲り、本人は那古野城の城下町の一角に建造中の、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。

 午前中、日課にしている武術の鍛錬を終えたお市の方は、家臣の森蘭丸より午後の予定を聞き、特に急ぎの用がなければ那古野城下へ巡視に繰り出す。
 那古野は元々は虎長の、ひいては濃姫の持ち城だ。城主になったとはいえ、義妹として譲渡してもらったに過ぎない。
 那古野の民の良き城主になろうと、出来る限り巡視をして、多くの民より陳情を聞くようにしていた。

「橋が落とされてしまった?」
「はい、元々、古い橋だった事もありますが、先日、オーガに落とされてしまったのです」
 お市の方は那古野城下の外れで、女性に呼び止められた。山菜採りを生業としている女性は、川を渡れずに困っているという。
「新しい橋を架ければ良いじゃない」
「それが末森城の近くでして、信行様が陳情を聞いて下さらないのです」
「信行兄様が? ‥‥信行兄様にも困ったものね」
 お市の方のもっともな意見に、残念そうに頭を振る女性。
 とはいえ、信行の考えもあながち間違ってはいない。橋は交通の要だ。渡すのは容易ではないが、かといって橋がなければ対岸へ連絡が取れない。今回のように生業に支障が出てくる場合もあるし、そして戦になれば、橋一本が勝敗を左右する程の重要な戦略拠点となる。つまり、橋を架ければ、それだけ攻められた際に容易く侵入される危険性があった。
 お市の方は深々と溜息を付いた。
 聞けば信行は、尾張各地の虎長の弟達を次々と抱き込み、着実に尾張藩藩主の座を手中に掴もうと動いているという。お市の方の味方は、那古野の東に位置する守山城城主、伯父の平織虎光くらいだろう。
「困っている民を見捨てて領地を守ろうなどと馬鹿げた事を‥‥しかし、橋を架けてあげたいのは山々し、オーガを退治するのはいいけど、信行兄様がちょっかいを出してくる可能性もあるのよね」
「では、橋を架ける一件は、尾張ジーザス会預かりとするのはどうじゃ?」
「!?」
 女性の目撃談では、橋を落としたというオーガはおそらく人喰鬼だ。
 人喰鬼退治や橋を架けるのはお市の方も賛成だが、それを大義名分に信行が攻めてこないとも限らない。政治的に辛いところだ。
 そこへ凛とした声が突然掛けられる。
 いつの間にかお市の方の横に、法衣を纏った漆黒の長髪を湛えた女性の姿があった。先程までまったく気配を感じなかっただけに、お市の方は思わず身構える。
「はっはっは、驚かしてしまった事は詫びよう。しかし、カテドラルはすぐそこ故、儂がこの場にいても不思議ではないだろう?」
 宣教師ソフィア・クライムは、蒼いルージュに彩られた唇を楽しそうに歪める。
 そう、目と鼻の先には、ジャパン家屋が建ち並ぶ街並みの中に一際異彩を放つ、尾張ジーザス会が建設するカテドラル(大聖堂)の姿があった。宣教師ソフィア・クライムはこのカテドラルを預かるジーザス会から派遣された宣教師だ。
 もちろん、お市の方も先日、京都の民へ復興資金として送った義援金を集めたチャリティーバザーで、宣教師ソフィア・クライムと会い、面識はある。だが、どうも苦手なようだ。
「尾張ジーザス会預かりというのは?」
「尾張ジーザス会からの依頼とすれば、余計な波風は立たせずに済むだろう?」
 尾張ジーザス会のスポンサーは濃姫だ。虎長が暗殺された後、ジーザス教へ帰依した彼女は傾倒するかの如く、虎長が残した遺産を湯水のようにカテドラルと尾張ジーザス会へ注ぎ込んでいた。
 ジーザス会は聖人ジーザスの教えを世界中に広める為に活動している。だが、尾張ジーザス会はカテドラルの建造以外、特に布教活動は行っていない。尾張に住む者の中にはジーザス教徒もおり、カテドラルの噂を聞き付けて礼拝に訪れると快く貸してくれる。その程度しか活動を行っていなかった。
 確かにお市の方からの依頼ではなく、尾張ジーザス会の依頼とすれば信行も警戒する事はないだろう。
 先日のチャリティーバザーもそうだが、尾張ジーザス会は慈善事業に積極的に首を突っ込んでいるようだ。
「では、お願いするわ」
「うむ、よろしく頼む。それに、橋を落として獲物を足止めし、食らおうとする狡賢いオーグラを、一目見てみたいしのぉ」
 お市の方の代理として、尾張ジーザス会の名の下に依頼が出される事になったが、どうやら宣教師ソフィア・クライムが人喰鬼退治に同行する。

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea5067 リウ・ガイア(24歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3501 ケント・ローレル(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5228 斑淵 花子(24歳・♀・ファイター・河童・ジャパン)

●リプレイ本文


●為政者達の姿勢
「‥‥これがカテドラル‥‥ですか‥‥」
 エルフのクレリック、アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)は、ジャパン家屋が建ち並ぶ那古野城下の一角に、場違いよろしく聳え建つ荘厳な石造りの大聖堂を見た瞬間、身体が、心が、自然と聖なる母へ祈りを捧げていた。
「アンジェリーヌの奴、カテドラルの中に入ってもねぇのに、何で祈ってんだ?」
「ジーザス教徒にしか分からないかも知れないけど‥‥確かに祈りたくなるわよね」
 ハーフエルフのレンジャー、クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)は突然の事に、理解できないといった様子で肩を竦めている。微かな威圧感を発しているのは感じるが。
 シフールのウィザード、エリーヌ・フレイア(ea7950)も、アンジェリーヌ程ではないが一応ジーザス教徒だ。彼女も自慢の青い髪を梳くのを忘れて、カテドラルに魅入っている。
「今でも十分大きいのに、これが完成したらどのくらい大きくなるのでしょうねぃ?」
 石を割る音や工人達の掛け声が、離れていても聞こえてくる。河童のファイター、斑淵花子(eb5228)はそちらの方が気になるようだ。
 カテドラルは建造中だが、完成すれば京都一円で最大規模の大聖堂になるといわれている。その大きさは那古野城と同等か、或いはそれを越えるかも知れない。
「ふむ、ケント殿は祈らないのか?」
「俺様か? 俺様ァ愛に生きる、美女とタンゴの騎士だぜ!? 俺様にとって美女を愛でる事が聖なる母への祈りなんだよ!」
「なるほど‥‥」
 シフールのウィザード、リウ・ガイア(ea5067)は、神聖騎士ケント・ローレル(eb3501)が祈りを捧げず、自分達を見て頬を緩めるている姿から、質問する。彼も聖なる母の信者だが、美女を守る事を信仰としており、アンジェリーヌ達と交互に見て、様々な信仰の形があると納得した。
「あ、ソフィアおねぇーさんなんだよ! ソフィアおねぇーさん、やっほー!」
「やゆよが請けてくれたのか、頼もしいな」
 カテドラルから法衣に身を包んだ女性と、武者鎧「白絹包」を纏った女性が出てくるのを認めた陰陽師の慧神やゆよ(eb2295)は、その一人が宣教師ソフィア・クライムだと分かると、嬉しそうに両手を振って自分達の居場所を知らせる。もう一人はお市の方こと平織市(ez0210)だ。
 やゆよと宣教師ソフィア・クライムは顔見知りという事もあり、彼女は微笑で応えた。
「美女! 美女!! 美女!!! 尾張は美女ばかりじゃねェか!」
 宣教師ソフィア・クライムは、言うなれば氷の刃のように鋭く冷たくも美しいクールビューティー。対するお市の方は健康美と聡明さを兼ね備えた麗しさ。更に花子を始め、自分以外は全員美女・美少女ばかりなのだから、ケントが吼えるのも無理はない。お市の方も満更でもない様子だ。
「宣教師ソフィア・クライムだ、よろしく頼む」
「花子ですよ。宜しくお願いしますです♪ みんなの為の鬼退治ですので、ヤル気十分なのでぃすよ」
 花子がぺこりと挨拶をする。彼女にそのつもりはないが、この依頼、政治的な問題で上が動かない為に尾張ジーザス会預かりとなったという経緯がある。
「困ってる領民を放っておくなんて困った領主よね。政(まつりごと)って厄介だわ」
「政には疎いですが、民あっての国だと私は思いますわ」
「為政者の駆け引きは、時に人の道をも遮るか。侭ならぬものだな‥‥」
「ごめんなさい。あなた達に私達尾張平織家の問題の尻拭いを手伝ってもらう事に‥‥」
「‥‥まぁ、そういう時の為の我ら冒険者、なのだからな」
「そうそう、オーグラも厄介ね。領民の為に頑張るわ。オーグラを倒したら橋を架ける手配は出来るのよね? 流石に私達だけではそこまで手が回らないわ」
「ええ、工人は既に手配してあるわ」
 エリーヌとアンジェリーヌ、リウの口を衝いて出た言葉は、この依頼の問題を端的に顕している。お市の方からすれば、敵対しているとはいえ身内の不祥事なのだが、三人もそれは分かっている。
 エリーヌが橋を架ける手配について確認すると、既に手配済みとの事。お市の方も自分に出来る事は最大限やっているようだ。
「困っている人がいれば、手を差し伸べるのがわたくし達の使命。尻拭いといったお話は無しにしましょう」
「まぁ、信行だか知らねぇが、下を省みねぇ奴の底は知れてるさ。お市の方がそれを肝に銘じとけば、同じ事はしねぇだろ?」
「勢力争いしか考えてない信行さんと違って、お市っちゃんは領民が困っているのを真摯に受け止めてくれるから、きっといい人なんだよっ! 僕的いい人ランキングにランクインだね」
「カテドラルでは向うのお菓子も売ってるって聞いたわ。こっちでは中々食べられないから楽しみね」
「ふふふ、お市の方、菓子で手を打つそうじゃ」
「みんな‥‥ありがとう。でもやゆよ、お市っちゃんって呼び方は止めてよね」
 アンジェリーヌの聖女のような微笑みを浮かべ、クリスティーナが親指を立てて、やゆよはウインクし、エリーヌの言葉に悪戯っぽく笑う宣教師ソフィア・クライム。お市の方は嬉しそうに頭を下げた。やゆよの呼ぶ愛称に釘を刺すのも忘れない。
「そなたも遠慮せず、中で祈りを捧げるよい。我がカテドラルはジーザス教徒だけではなく、何人にも等しく門戸を開けておる」
「時間が許すなら、カテドラルの中を拝見しておきたいですわ」
 待ち合わせという事もあって、アンジェリーヌが外で祈りを捧げていたのを見ていたのだろう。宣教師ソフィア・クライムは彼女にそう告げた。


●道と橋
「‥‥とまぁ、オーグラとオーガ戦士の習性はこんなところだぜ」
 道中、クリスティーナより人喰鬼(オーグラ)と山鬼戦士(オーガ戦士)の強さや習性、棲家にしそうな場所といった知識がエリーヌ達へ話された。
「オーグラとオーガ戦士は腕っ節が強ェのか! 美女は俺様が守んねェとな!」
「とはいえ、私達はこの辺りの土地勘が無い。宣教師ソフィア殿もないのだろう? ならば地理の利はオーグラ達にあるといえよう」
「敵が有利な時は、居場所を掴んで奇襲、先手必勝なのでぃす」
 俄然、やる気になるケント。その横でリウが冷静に現状把握すると、花子が策を提案した。

 エリーヌ達はお市の方に陳情を寄せた村人が住まう村へ立ち寄ると、手分けして落とされた橋の位置やそこへ至る道、橋の周辺の地理、人喰鬼の話を聞き込んだ。
「近くに1本しかない橋を落として、来た人を襲って食べる‥‥橋は交通の要所だから、そこを押さえていればいくらでも人は来るでしょうし、オーガにしては頭が切れるようね‥‥敵に感心している場合ではないけど」
「背水は功を奏した試しがありませんから、あなたの魔法のトラップを仕掛け、誘き寄せる戦法が最適のようですわ」
 小さな農村だが、冬は田畑が耕せないので山へ分け入る事が多いという。その為の橋を落とされてしまったので、村人達は一様にほとほと困っており、アンジェリーヌ達の聞き込みはすこぶる順調だった。

「しかし、那古野を出てから気になりましたが、道が狭くなりましたでぃす」
「しかも草ボーボーじゃん! どーやって通れってンだ?」
 落とされた橋は、那古野城から南東の末森城へ続く街道の途中にある。那古野城を発ってしばらくは広い街道が続いたが、花子とケントが言うように末森城の領内へ近付くにつれて道幅は狭まり、道自体は踏み固められているのでそうでもないが両脇は雑草が伸びるに任せている。
 地理の把握と偵察に来たのはいいが、これでは人喰鬼達に奇襲してくれと言っているようなものだ。
「橋もそうだが、道も整備すれば攻められた際に拠点まで侵入されやすくなる。その危険性から、自分の領内の街道の整備をしておらん領主など、ジャパンに五万とおる」
「那古野城周辺の街道を整備して、みんなが移動しやすくしているお市っちゃんは、僕的いい人ランキングのランクを上げないとね!」
 宣教師ソフィア・クライムの言葉から、やゆよは「為政者の駆け引きは、時に人の道をも遮る」というリウの言葉を思い出した。
 今のジャパンの情勢から鑑みて、橋や道を整備する事が正しい為政者の姿勢であるかというと、一概にそうとはいえない。とはいえ、混迷を深める尾張平織家の中にあって、お市の方は民の事を第一に考えている事には間違いないだろう。

 街道はそのような有様だったが、橋が架かっていた場所近くまで来ると、エリーヌはブレスセンサーを使って人喰鬼と山鬼戦士の位置を探る。その数は四匹、川縁にいて虎視眈々と獲物が来るのを待っているようだ。
 続けてリウと二人で上空から周辺の地理と人喰鬼達の姿を把握する。
 これらの結果をクリスティーナ達に報せると、エリーヌとケントはライトニングトラップを仕掛けに行き、その間、花子達は戦いの準備を整えた。花子が追儺豆をたわわな双房の谷間に詰める姿は、ケントにはとても見せられないだろう。
「うーん‥‥みんな、人喰鬼と山鬼戦士の攻撃はハンパじゃないから、連携と回避重視で行こうね!」
「私のような者が囮になるのが効果が高いのでしょうけど‥‥前に出る勇気は‥‥でも、必要とあれば頑張りますわっ」
 宣教師ソフィア・クライムから支給されたリカバーポーションを配りながらやゆよが発破を掛ける。
 先程、『人喰鬼』と『山鬼戦士』をキーワードにフォーノリッヂを使ったところ、満身創痍で戦うケントと花子、クリスティーナの姿が見えた。花子は回避に長けているが、彼女に人喰鬼が攻撃を当てている事を暗に示したようだ。
 ケントと花子、クリスティーナが誘き寄せる囮となるが、囮という意味ではアンジェリーヌの方が適任かも知れない。
 エリーヌがライトニングトラップを仕掛ける場所を、彼女の護衛を兼ねたケントが目印にらるよう草を刈り、用意を終えて戻ってきた。
「ウェイン、お願いね」
 エリーヌがユニコーンのウェインの頭を優しく撫でると、ケントの刀と花子の太刀「天国」、クリスティーナの射る矢四本にオーラパワーが付与された。


●人喰鬼と山鬼戦士
「ふふ、上手く隠れたつもりでも、私の目と魔法から逃れるコトは出来ないわよ」
 エリーヌはほくそ笑むと、人喰鬼へ上空からライトニングサンダーボルトを見舞う。何の前触れもない攻撃に、人喰鬼は辺りを忙しく見回し、山鬼戦士達に辺りを見てくるよう命令する。
「おーい、間抜けヅラ! 俺様達が相手になるぜぃ!」
 そこへケントと花子が挑発するように姿を現すと、人喰鬼は山鬼戦士達に迎撃するよう告げる。
「ほぉ、意外と冷静さは残っているようだな」
「リウさん、感心してる場合じゃないよ! メランコリーな気分も吹き飛ばすマジカルレーザーだよ!」
 人喰鬼が一斉に攻めてこず、戦力を分けた辺りに感心するリウ。やゆよは遂に先日、14歳になってしまい、「魔法少女を名乗れるのも今年いっぱいかなぁ」(説明しよう! 魔法少女の枝は14歳以下の女性が使わないと効果がないのだ!)と一人メランコリーな気分になっており、それを吹き飛ばすサンレーザーを長射程を活かして放つ。
 ここに来て人喰鬼はアンジェリーヌ達後衛の姿を捉え、残った山鬼戦士を引き連れて距離を詰める。
「ピンチかも知れないですねぇ」
 花子とケントはそれぞれ山鬼戦士に足止めされ、人喰鬼の迎撃に廻る事が出来ない。特にケントはカウンター主体の戦闘スタイルという事もあって、山鬼戦士の槍の矛先を軍配で反らしてかわしているが、二撃目はどうしても避けられず傷を増やしている。
 クリスティーナが中弓で足止めするものの、人喰鬼はひょいひょいとかわす。
「でも、『ファイターに必要なモノは自分より強い敵の前に立てる勇気』だとウチのじぃちゃんは言っていましたです」
「その通りだ‥‥そう急くな‥‥」
 花子の意気込みに呼応するように、リウのアグラベイションが先ず人喰鬼に掛かる。そこへ再びライトニングサンダーボルトとサンレーザーが迸る。
 魔法を次々と食らい、しかも、自分は手出しが出来ないので流石にいきり立つ人喰鬼。
「掛かったな!」
 クリスティーナが愉しそうに声を上げる。彼女が射掛けた矢をわざと外して誘導した甲斐もあり、人喰鬼と山鬼戦士の一匹はまんまとライトニングトラップを踏み、電撃に囚われた。
「光の楔に身を焦がし、慈悲無き足枷に逃れる術なし
 不浄なるかの者に裁きの審判が下る!」
 合わせてアンジェリーヌがコアギュレイトを唱え、山鬼戦士の一匹を呪縛した。
「てッめェ‥‥美女に手ェ出したら俺様が許さねェ!」
「節分は終わりましたけど、鬼は外! でぃす」
 動きが束縛されているとはいえ、そこはタフな人喰鬼。未だに棍棒を振るう勢いは衰えておらず、アンジェリーヌのコアギュレイトに抵抗すると、彼女へ襲い掛かる。そこへ山鬼戦士を仕留めたケントと花子が割って入り、ケントは身を挺して金棒を受け止め、花子は胸元から追儺豆を取り出して人喰鬼へ蒔く。
 リウもグラビティーキャノンへ切り替えて、ライトニングサンダーボルトとサンレーザーの三条の魔法の光が人喰鬼の身を焦がし、クリスティーナの矢が胸に深々と突き刺さり、花子の太刀が袈裟懸けに斬り割き、そしてケントの太刀筋が致命傷を与えた。
「へへっ、もう動けねェや。後は任せたぜぃ」
「ケントさん!」
(「美女に看護されンのもイイモンだな‥‥」)
 膝を付くケントをアンジェリーヌが横から支える。彼はアンジェリーヌのリカバーで傷を有る程度癒した後、リカバーポーションを服用した。
 動けない山鬼戦士を仕留めるのは、花子達だけで十分だった。

 負傷したのは前衛のケントと花子だけだったが、攻撃魔法や補助魔法を使い続けたエリーヌやリウ、やゆよは魔力を使い果たし、最後の山鬼戦士を仕留め終わると精神的な疲労から一斉に座り込んでしまった。
「オーグラにしては悪知恵が付いていたが、お主らの策と連携が悪知恵を上回ったようじゃな。疲れている時には甘い物がいいというし、どれ、儂が1つ馳走するとしよう」
 戦いが終わってから、追儺豆を蒔いた為、隠し持っていた着物の胸元がはだけているのに気が付いた花子がのんびり直しているところへ、軍監を務めた宣教師ソフィア・クライムが姿を現した。
 ひと心地付いた後、先程の村へ人喰鬼達を退治した事を報告しに戻ると、お市の方が手配した工人達が到着しており、橋の修復作業に入った。橋は落とされたが、橋桁は残っているので、今月中には復旧出来る見通しだという。

 使用しなかったリカバーポーションは宣教師ソフィア・クライムへ返し、彼女よりカテドラルでビスケットとハーブティーの持てなしを受け、代わりにお土産としてかすていら風味の保存食をもらった。
 また、アンジェリーヌとエリーヌは、静謐な空気が漂うカテドラル内の人気のない礼拝堂で、聖なる母へ祈りを捧げたのだった。