白梅の香りを届けに

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月17日〜03月24日

リプレイ公開日:2007年03月26日

●オープニング

 人の営みとは関係なく、自然は四季を移ろいゆく。
 頬を撫でる風は凍て付く北風から心地よい南風へ変わり、ふと喧噪が途切れると鶯(うぐいす)の囀りが聞こえる。
 そう、季節は冬から春へ変わろうとしている。

 去年の十一月、五条の宮を擁した長州藩による【神都騒乱】が起こり、その主戦場となった京の街にもようやく復興の兆しが見え始めている。
 否、復興の兆しは【神都騒乱】の直後からもあったが、それは安祥神皇を始めとする公家(貴族)といった位の高い者達に限っての事。
 戦火に追われた多くの庶民は、家や財を失ったまま、路頭に迷っている。
 そこへ、尾張にある『ジーザス会』がチャリティーバザーを催し、売上金1400Gを義援金として配るなど、心ある者達が庶民に手を差し伸べ始め、京の街も次第に以前の活気を取り戻しつつあった。
 ちなみに、ジーザス会は聖人ジーザスの教えを世界中に広める為に活動している。だが、尾張ジーザス会は京都一円で最大規模になるであろうカテドラル(大聖堂)の建造以外、特に布教活動は行っていない。尾張に住む者の中にはジーザス教徒もおり、カテドラルの噂を聞き付けて礼拝に訪れると快く貸してくれる。その程度しか活動していなかった。

「この梅の木を故郷に届けて欲しいんです」
 京都の冒険者ギルドの扉を叩いた少年の名は、ひょう吉。京都にある竹細工職人の元で下働きをしながら、その技術を身に付けている出稼ぎの少年だ。
 ひょう吉の手には梅の木が握られている。小振りながら大輪の白い花を綻ばせ、ほのかに白梅の香りが辺りに漂う。
「いい香りですよね。これ、御所近くの公家様のお屋敷の白梅の木なんです。師匠のお得意様の公家様なんですけど、昨日、師匠と一緒に竹細工を届けた時に、公家様の庭先に咲いていた白梅の木に見取れていたら、『この梅の木を気に入るとは、お前は見所がありそうだ』って俺に一差しくれたんです」
 嬉しそうにその時の事を語るひょう吉。心に染み渡る、清々しい白梅の香りを嫌がる者はそうそういないだろう。
「俺が今まで嗅いだ中で、一番良い香りがする白梅なんです。だから妹にも嗅がせてやりたいって思って‥‥俺の故郷は山奥の田舎ですけど、桜の木はあっても梅の木って少ないんですよ。まして、白梅なんてほとんど見た事無かったし。だから妹にもこの綺麗な白梅を見せて、香りを楽しませてやりたいんです」
 ひょう吉の実家は、京都から歩いて3日程の山奥にある小さな村だ。そこに両親と身体が弱く病気がちな妹、楓が住んでおり、彼は月に一度、出稼ぎで稼いだお金で楓の為に薬を買い、シフール便で手紙と一緒に送っている。
 薬より兄からの手紙を楽しみに、そして励みにしている寂しがり屋の楓。まだ字が読めないが、毎日のようにひょう吉からの手紙を母親に読んでとせがんでいるそうだ。
 だが、竹細工職人の仕事が忙しければ送れない月もある。今月も節句がある為、竹細工職人は忙しいようだ。しかも、布包みの薬と違い、木の枝をシフール便で送るのは難しいだろう。
 ただ、ひょう吉の故郷の村はかなりの山奥で、手付かずの自然に溢れ、自然の恵みが多い分、脅威も多い。春先になると巨大な蜘蛛や蟻が活動を開始するという。
 報酬は期待できないが、白梅の木を散らさずに届ける事が出来るのも冒険者だけだ。彼の願いを叶えてはくれないだろうか?

●今回の参加者

 ea0927 梅林寺 愛(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6333 鹿角 椛(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1824 一条 小雪(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3386 ミア・シールリッヒ(29歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文


●言伝
 身体を洗って小綺麗にし、普段はポニーテールにしている髪を真珠のかんざしを挿してアップに纏めた忍者の梅林寺愛(ea0927)が京都の冒険者ギルドの門をくぐる。
 既に依頼人である竹細工職人見習いの青年、ひょう吉が、白梅の枝を持って待っていた。
「お待たせしたのですよー」
「いえ、待ち合わせ時間までまだ半刻以上ありますし、早く来てしまうのは見習いの癖ですので」
 ギルド員にひょう吉を紹介された愛がぺこりと頭を下げると、彼は微苦笑しながら髪を掻いた。
「私も宝石商の見習いだったから分かるが、見習いの時は下準備から仕込まれるものだからな」
「それに若いうちは、苦労は買ってでもしておけと言いますし、その下積みは決して無駄にはなりませんよ。ひょう吉君の経験という名の血肉となり、いずれ自立する時に活かされる事でしょう」
 志士の鹿角椛(ea6333)が宝石商見習いだった頃の事を思い出し、ひょう吉の頭をわしゃわしゃと撫でた。彼女は労うつもりでひょう吉の頭を撫でたが、陰陽師の一条小雪(eb1824)を始め、冒険者ギルドの建物の中なので人目もあり、彼は恥ずかしそうに首を軽く縮こませた。
 見習いの時は品物に触れる事はほとんど無く、使い走りや雑役など仕事は多岐に渡る。ひょう吉が早く来ていたのも、普段から師匠である職人の仕事の下準備をしている習慣からだ。
 椛は既に故買屋として独立しているが、彼女の歳で自分の店を持てるのはかなり優秀だろう。
「それが妹さんへ渡す?」
「あ、はい、これが楓へ届けてもらいたい白梅の花です」
 愛が助け船よろしくひょう吉に聞くと、椛は手を退け、彼は手に大事そうにしっかりと握っていた白梅の枝を愛へ手渡した。
 ふわっ‥‥と、白梅の清々しい香りが愛の周囲に広がる。
「確かに、この白梅の香りを嗅がないのは勿体ないのですよー」
「病弱な妹の為に白梅の花を届けたい、か。健気じゃないかね。どれ、及ばずながら手伝いさせてもらうよ」
 愛は最近、血の繋がりはないが姉と呼べる存在と、帰る場所――家――が出来た。普通の人からすれば至極当たり前の事だが、彼女にとってそれは長年渇望していたものだった。だからこそ、ひょう吉が妹の楓に白梅の枝を届けたい気持ちは十二分に理解できるし、愛本人も表情にこそ出さないが必ず届ける決意を固めている。
 椛は情に絆された感があるが、ひょう吉を見習い時代の自分と重ね合わせているのかも知れない。
「白梅の花は当然届けるとして、妹さんやご家族へ言伝があれば承ります。いきなりですから、思い付かなければ最近の出来事や仕事の様子でも構いません。そういったひょう吉君の普段の生活も、離れて暮らすご家族からすれば聞きたいものですし」
 小雪が聞くと、ひょう吉は今年に入ってから原材料の竹を割る事を許され、既に何百本もの竹を割って身体で仕事を覚えている最中だと告げた。竹細工職人になるには十年以上掛かるといわれ、その一歩を踏み出したばかりだが、毎日がとても充実しているという。
「へぇ、病弱な少女は多分漏れず儚げで可愛いのね、ふふふっ♪」
 ひょう吉が京都へ出稼ぎに出る際、お守り代わりに渡された楓の姿を彫った木札を見ながら応えると、ハーフエルフのジプシー、ミア・シールリッヒ(eb3386)が後ろから覗き込み、妖艶に笑う。
「兄の俺が言うのも何ですけど、楓は将来、村一番の美人になるって評判なんです」
「5年後が楽しみな娘ね。見に行くついでに枝も届けて上げましょう。ふふふっ♪」
 楓は美少女という程ではないが、線が細く優しそうな女の子だった。
「しかし、楓‥‥楓‥‥何故か懐かしい響きね〜。会った事ないはずなのに」
 ミアとひょう吉は初対面だし、楓とも面識はないはず。頻りに小首を傾げるミアのデジャブだろうか?
「‥‥ミアさんの猫、大きいですね。肉球をぷにぷに出来るでしょうか?」
「ふふふっ♪ 私の僕たるイルイはいい子だから、もちろん、肉球ぷにぷにもお手の物よ」
 小雪はミアが連れてきたイルイの大きさに驚くと共に、先程から肉球をぷにぷにしたくてうずうずしている。ミアが指示すると、小雪は念願の肉球ぷにぷにをしたのだが‥‥イルイは知る人ぞ知るチーターである。ジャパンに普通、チーターはいないし、ネコ科なので確かに大きな猫に見えなくはないが‥‥。
「ひょう吉の村までの道筋と、出没するという巨大な蜘蛛や蟻について、あなたの分かる範囲で構わないので教えて欲しいのですよー」
 その間、愛がひょう吉の村までの道筋と、途中に出現するという大蟻(ラージアント)や土蜘蛛(グランドスパイダ)の話を聞き、椛がメモしてゆく。
「‥‥って虫出るのか!? や、やっぱり私は‥‥」
「確かに大蟻も土蜘蛛もインセクトですが、その大きさは虫というより立派なモンスターです」
「‥‥大きかろうが小さかろうが、虫は虫だろ!? ‥‥分かったよ、やってやろうじゃないか。昔よりはマシになってるはずなんだ、きっと‥‥」
 メモしている最中、椛が素っ頓狂な声を上げる。大蟻や土蜘蛛はインセクトに分類されるが、虫ではなく立派なモンスターだと小雪が説得すると、彼女も腹を括る。
「竹細工の師匠の話なんかも、私からすれば興味深いし。ひょう吉に道中色々と聞かせてもらえれば、少しは気が紛れたかも知れないがな」
「すみません‥‥そうだ! これを持っていって下さい。俺が初めて割った竹で師匠が作った扇子なんです」
 節句に向けて竹細工職人も忙しい日々が続いており、ひょう吉も竹割りの今日のノルマが残っているので、この後工房へ戻らなければならない。彼は自分が用意した原材料が初めて使われた天晴れ扇子を椛に渡した。同行できない彼なりの気遣いだ。
「この白梅の花、必ず無事届けてみせるのですよ」
 愛がそう締め括ると、ひょう吉に見送られて冒険者ギルドを出発した。


●復興の兆しとジーザス会
「さっき、ひょう吉が言っていたけど」
 冒険者ギルドを出てしばらく歩いてから、ふとミアが切り出す。
「尾張にあるジーザス会がチャリティーバザーを催して、その売上金1400Gを義援金で京都の庶民に配るなんて、よくやるわ。これで義援金を受け取った京都の庶民からすれば、神皇よりジーザス会の方が好印象に残る事でしょうね、ふふふっ」
 冒険者の活動の主な拠点となっている冒険者ギルドや寺田屋、冒険者街はそうでもないが、京の街を一歩奥へ入ると、まだまだ【神都騒乱】の戦火の傷跡を色濃く残している。かつて自分の家があった場所にテントを張り、炊き出しをしている庶民の姿も見受けられる。その炊き出しが尾張ジーザス会からの義援金によるものだ。もちろん、この義援金で救えるのは約1400人と、限られているが。
「聞いた話だと、尾張ジーザス会は那古野の城下街の外れに大聖堂を建てているだけで、特にジーザス教は普及していないそうだが?」
「あら? 尾張での布教活動って、その程度で済んでいるのね〜。カテドラルという一目置かれた象徴たる建物があるから、それなりに信者もいると思ったけど?」
「カテドラル(大聖堂)に自分から礼拝に行く人くらいなのですよー」
 椛は商人仲間から聞いた尾張ジーザス会の噂を話すと、実際に義援金集めのチャリティーバザーに参加していた愛がその時の様子をミア達に聞かせる。尾張には貿易が盛んな津島町という河港町がある。商業目的で外国人が多く移り住んではいるが、ジャパン人の比ではなく、ジーザス教徒は多いとはいえない。
「それとも他に何かあるのかしらね?」
「何か、とは何ですか?」
 ミアの言葉に小雪は訝る。
「うーん‥‥布教はしていないのに、カテドラルを建てているし、義援金を集めて配っている‥‥これって慈善過ぎると思わない?」
「私の知るジーザス教の教えは、弱者に手を差し伸べるものではないでしょうか。それに力ある者が弱者に手を差し伸べる事は、当然だと思います」
「でも、その力のある神皇や貴族は自分達の事で一杯で、京都の民に手を差し伸べてる余裕はなかったのでしょ? 弱い者にとって、実際に手を差し伸べてもらえていると実感できているもの程、信じられる物はないんじゃないかしら〜?」
「つまり、義援金による支援は、尾張ジーザス会のジーザス教の布教の一環、と捉えられるという事ですか?」
「さぁ? 言っておくけど、私は慈善って信用できないの。だから、そういう様にも見えたし、もしかしたら別の意図があるのかもしれないって思っただけ‥‥尾張ジーザス会か、これからが楽しみね♪」
 小雪の質問はミアにはぐらかされてしまう。ハーフエルフらしい捉え方だが、ミア自身、明確な結論を出せていないのかもしれない。


●大蟻ですよ
 京都を発って二日間は街道を通り、比較的安全な旅が続いた。
 季節は冬から春へ移ろう最中。梅の木は一足早く花を咲かせ、冬の間は葉を落としていた木々も春に向けて芽吹き始めている。日差しも柔らかく暖かくなり、目だけではなく、肌でも春の訪れを感じさせた。

 三日目は街道を逸れ、山へ踏み込む。ひょう吉の実家のある山村は、山を二つ越えなければならない。
「頑張るのですよ‥‥皆、のんびりと来るのですよ〜」
「山歩きは私に任せておけ。見習いだった頃に随分仕込まれたからな」
『まかせておけー』
 愛が道中、両手でしっかりと持っていた白梅の枝をミアに渡すと、彼女を安心させるように山岳の土地勘を持つ椛が胸を叩く。風のエレメンタラーフェアリーの凛も真似をして胸を叩くと、愛はくすりと笑みをこぼし、一人、疾走の術を唱えて先行した。
 小雪から聞いた大蟻と土蜘蛛の生態を思い出すと、可能な限り気配を殺し、時には木に登り、大蟻達と遭遇しない順路を見つけ出していた。順路には木々や岩等に目印を残す。
「貴方達とは争いたくないのですよ‥‥此処に集ってると良いのですよ」
 大蟻の巣穴らしき洞穴を見付けると、愛は甘い味の保存食を擂り潰して水で練り、囮の餌を作って順路と離れた場所に撒き散らしていった。
 一方、小雪達は椛を先頭に、愛の残した目印を辿りながら歩きやすい道順で進んでいた。
「首尾は上々なのですよー」
「大蟻は囮の餌でやり過ごせるとして、問題は土蜘蛛ですね」
 愛が合流すると、小雪が労いつつ、ひょう吉からもらった長い竹の棒で地面を突っついている。不自然な地面や最近土を掘り返したような跡がある場所は、土蜘蛛の巣かも知れないからだ。
「大蟻か‥‥蟻ならまだ見慣れているけど‥‥蜘蛛はなぁ。特にあのわきわきと動く足が‥‥嗚呼、思い出すだけでも寒気がする」
『さむけがするー』
「あら? 蜘蛛って結構美味しいのに」
「く、蜘蛛を食べるのか!?」
『たべるのかー』
「ええ。私の僕はそれはもう美味しそうに食べるわよ、ふふふっ♪」
 虫が苦手な椛は、ミアの道中の退屈しのぎの格好の獲物にされていた。
 そのミアとイルイの歩みが止まると、彼女は小雪達に止まるよう無言で手で制した。
「‥‥あなたには気の毒だけど」
「‥‥ええ」
 ミアの言葉に、棒で突っついていた小雪の動きも止まる。ミアから渡された白梅の枝を手にした愛が、花を散らさないよう身を盾にして後方へ下がる。
「行け!」
「一番近い土蜘蛛へ!」
 ミアが指を差して狩る対象を示すと、手を振り下ろす! イルイが駆けていき、小雪はムーンアローを唱える。
 イルイとムーンアローは穴から出てきた土蜘蛛に襲い掛かった。
 土蜘蛛は全部で四体。一体はイルイが受け持ち、残る三体を椛と小雪、ミアで受け持つ。
「こ、こっちに来るな!」
「このメンバーじゃあ仕方ないから、私と僕が囮になって上げるけど、早くしなさいよね、全く」
 喚きつつ、ライトニングアーマーを発動させる椛を、鞭を振るって牽制するミアがせっつく。
「土蜘蛛の麻痺毒は厄介だけど、当たらなければどうという事はない!」
 椛はコルダンのナイフを振るう。麻痺毒を有した土蜘蛛の牙を意識して大きく回避している所為か、なかなか当たらないが、ライトニングアーマーと小雪のムーンアローの援護射撃もあって、一匹、また一匹と確実に仕留めてゆく。
 小雪も最初はメロディーで家に帰りたくなるような歌を唄おうと思っていたが、メロディーは範囲内にいる者全てに等しく影響を及ぼしてしまう。万一、椛やミアが抵抗に失敗して家に帰りたくなってしまったら元も子もない。
 巣穴にいた土蜘蛛を粗方片付け、他にいない事を確認した後、ミアは口笛を吹いて、イルイに戻って来いの合図をしたのだった。


●ペットの使い方
 ひょう吉の家族が住む山村は、山間の楓林に埋もれた小さな集落だった。
 志士の椛が入り口近くにいた村人に、ひょう吉の使いの者だと告げて家を聞くと、家の前まで案内してくれた。
 応対に出たのはひょう吉の母で、小雪達が全員女性という事もあって、お茶を淹れてもてなしてくれた。
「これ‥‥貴方の兄上からなのですよ」
「ありがとう‥‥わぁ、良い香り〜」
 愛は一服する前に楓の部屋を訪れ、寝たきりの彼女に白梅の枝を渡した。身体を起こし、早速、香りを楽しむ楓。流石に花びらが自然に散ってしまうのは仕方ないとして、ほぼひょう吉から渡されたままの姿で楓へ白梅の枝を届ける事が出来た。
「ひょう吉は修行の方、頑張っているよ」
 その間、椛はひょう吉からもらった扇子を見せながら、小雪と共に彼の修行や生活といった近状を話した。

 夕食後、愛達は楓の部屋へ集まった。
「楓、温か〜い♪」
「ミアさんも温かいですよ。それに、その、胸も‥‥大きいですし」
「ありがとう。楓も5年もすれば大きくなるわよ、きっと、ふふふっ♪」
 楓を後ろから抱き締めて、抱き心地を堪能するミア。
「京の都では、大きな猫や人の言葉を話す妖精を飼うのが流行しているのですよ」
「人の言葉を話す妖精?」
「エレメンタラーフェアリーって言うんだ、名前は凛」
『りんだよー』
「わぁ、本当だ! ちっちゃいのに着物を着て空を飛んで喋ってるー」
「私の僕はイルイよ」
「うわうわうわ!? 大きな猫さんだー!」
 小雪が楓が笑いそうな、嘘みたいな京都の本当の話を選んで聞かせると、実際にエレメンタラーフェアリーやチーターを飼っている椛とミアが、それぞれ凛とイルイを紹介した。
 初めて見るエレメンタラーフェアリーとチーターに、目を丸くする楓。凛と恐る恐る握手してみたり、イルイの背中を撫でたりと、楓はすぐに慣れた。
「わたしも京の都へ行ってみたいな‥‥」
「‥‥病気を治して元気になれば、すぐにでも行けるのですよー」
 ぽつりと呟く楓に、愛は笑顔で応えた。『病は気から』というが、楓に「京都へ行きたい」という目的でいいから病気を治す意欲が湧けば、もしかしたら病気は快復へ向かうかも知れない。

 翌日、家族からひょう吉への言伝を預かり、小雪達は京都への帰路に付いたのだった。