筍は刺身で食べられる!?

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 97 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月22日〜05月29日

リプレイ公開日:2007年06月03日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 藩主・平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)と、虎長の息子・平織信忠を擁する虎長の弟・平織信行とに真っ二つに分かれ、尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座を巡って対立姿勢を強めていた。

 ――津島町。京都一円にある津島神社の総本社の津島神社の門前町であり、木曽三川(木曽川・揖斐川・長良川)を使った貿易と漁業が盛んな河港町だ。
 大坂の堺との独自の航路を持っており、その所為か貿易に訪れた外国人が多く移り住む、異国情緒溢れる町でもある。
 最近では、那古野城下の街外れに尾張ジーザス会のカテドラル(=大聖堂)が建造中という事もあって、ジーザス教を信仰している者は那古野へ礼拝に赴く事も多くなり、那古野との繋がりも深まっていた。
 
「これは?」
「蕗(ふき)だね。下茹でして、酒と醤(ひしお)と煮た伽羅蕗(きゃらぶき)は美味しいよ」
「これは?」
「こごみさ。灰汁がないから、おひたしにもってこいだよ」
「じゃぁ、これは?」
「わらびだよ。こごみと違って灰汁が強いから、灰を使って灰汁抜きが必要だね。でも味は格別で、おひたしや味噌汁に入れるといいよ」
「これはアブラナだな」
「へぇ、ジャパン以外でも菜の花はあるのかい? 菜の花も茹でておひたしにすると美味しいね」
 地元で採れた野菜や山菜を扱った露天では、先程からエルフの女性が頻りに店主に山菜の事を聞いていた。昼過ぎで客足が途切れた事もあり、店主は逐一応えながら美味しい食べ方を教えてゆく。
 『実りの秋』という言葉が表す通り、食べ物の多くは秋に収穫される。だが、山菜は春に採れるものも多く、特に新芽は新緑が眩しい今の時期でないと食べられない。
 津島町では、人間とジャイアント以外の種族を見掛ける事も珍しくはない。しかし、店主が気前よく応えるのは、このエルフの女性が美しい事も手伝っていた。
 エルフの女性は、同性から見ても溜息が出るくらい煌びやかなブロンドヘアを湛え、胸元やへそを大胆に露出したパフスリーブの上着を着、丈の短いスカートを穿いている。気の強そうな顔立ちから“男装の麗人”といった容貌だ。
 彼女の名はフリーデ、火のウィザードにして薬の材料を求めて各地を流浪している漂泊者の薬師(くすし)だ。
 この露天には地元の人向けというより、津島神社の参拝者を対象に山菜を売っている。たまたまそれを見掛けたフリーデが立ち寄ったのだ。
 外国にも『ハーブ』という概念がある。ハーブというと薬用や香り付けといった一面が強いが、その中に食用や薬味も含まれる。ジャパンにおける山菜はハーブのそれに近く、フリーデは多種多様な山菜に子供のように瞳を輝かせながら見入っていた。
「ジャパンのハーブも奥が深いな」
「筍(たけのこ)なんかは、煮付けや炊き込みご飯も美味しいけど、地面から顔を出さない、本当に小さいうちなら刺身でも食べられるんだよ」
「タケノコを刺身で、だと!? それは是非食べてみたいものだ」
「見付けるのも大変だけどね。ただ、最近、竹の子が生えてる林に大きな雀蜂が現れてねぇ。あたしもそうだけど、なかなか採りに行けないんだよ。筍は成長がとても早くてね、筍として美味しく食べられる時期は極端に短いから尚更だよ」
「大きなスズメバチ‥‥ラージビーか。毒を持っているから、刺されたら危ないな。ラージビーを退治すれば、山菜採りは再開できるのだな?」
「あ、ああ、もちろんだよ。退治してくれれば、この辺りの露天の奴らはみーんな喜ぶよ」

 斯くして京都の冒険者ギルドに、筍の刺身と春の山菜料理尽くしの依頼が張り出された。
 大蜂を退治する必要があるが、筍や春の山菜は今が旬だ。腕に自信があるなら受けてみてはどうだろうか?

●今回の参加者

 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

シーン・オーサカ(ea3777)/ 雷瀬 龍(eb5858

●リプレイ本文


●ようやくそれらしい季節になりました
 筍の刺身と春の山菜料理尽くしの六泊七日の旅を企画したエルフの薬師(くすし)フリーデ・ヴェスタは、待ち合わせ場所に京都の冒険者ギルド前を指定した。
「フリーデさん、お久し振り。その服装も初夏なら丁度よさそうよね」
「たらの芽は天ぷらが美味しい! って聞きましたし、食材は一通り調理出来ちゃうので、天ぷらでも刺身でも任せて下さい!」
 シフールのウィザード、エリーヌ・フレイア(ea7950)は、先の『伊勢湾の伊勢海老と蟹食い放題六泊七日の旅』に参加した事もあり、フリーデと面識があった。ギルドの壁に背を預けてキセルを吹かす彼女の姿を見付けると、微笑みながら飛んでくる。
 その後からやってきたレンジャーのカラット・カーバンクル(eb2390)は、片腕でガッツポーズを取り、その二の腕を叩いて「任せて下さい」と微笑む。
「それは頼もしいわね。フリーデさんの錬金術の実験のような調理でも美味しく戴けるけど、テンプラはやっぱりちゃんとした調理で食べたいものね」
「悪かったな、錬金術の実験のような調理で」
「錬金術の実験のような調理か‥‥食べてみたいかも」
 アクアマリンを溶かしたような自慢の髪を手で梳きながらエリーヌが悪戯っぽく笑うと、フリーデは肩を竦める。
 思い出話を聞いた見習い魔法少女(陰陽師)の慧神やゆよ(eb2295)は、ゴクリと喉を鳴らす。やゆよはまだ魔法少女の見習いなので、薬草やハーブ関連の知識は疎い。
 それだけではなく、やゆよは先程エリーヌが指摘したフリーデの服装も気になっていた。
 フリーデの本業は薬師(くすし)、各地を回り、薬草や毒草、医術の研究をしている。その為、『動きやすい格好の方が薬の原材料の採集の時に楽』という理由で、胸元やへそを大胆に露出したパフスリーブの上着と丈の短いスカートといった服装を纏っていた。エルフは全体的に身体の線が細いが、彼女はエルフの中ではスタイルが良いので、露出した胸元や腰の括れに思わず目が行ってしまう。
 冬に見れば寒く感じるが、初夏に差し掛かった今は丁度良い服装だろう。
(「これがオトナの女の人の服装かぁ。僕もオトナの階段をステップアップしたら、いつかこういう服装が似合うようになるかな?」)
「私は、大人の女性はもう少し慎み深い服装の方がいいと思うけどねぇ」
 十四歳は少女から大人へ変わる多感なお年頃。背伸びしたいやゆよは、フリーデの服装を羨望の眼差しで見つめていた。
 志士の紫電光(eb2690)が彼女の気持ちを察してか、さり気なく釘を刺した。光は西洋人とのハーフだが、やはりジャパン人。また、月道の発見によって国際化が進んだとはいえ、服装に関しては、今着ている志士の出で立ちのように露出の少ない、ジャパン人の女性ならではの慎み深い服装の方がまだまだ主流だ。
「筍ぉ〜♪ 山菜〜♪ 刺身で食べるなら醤(ひしお)も用意した方がいいかなぁ♪ 筍ご飯も食べたいかもぉ〜♪」
「竹の子、たけのこ、筍のおさしみ、ってどんなんだろうねぇ。う〜ん、想像つかないね」
「むぅ、筍の刺身でござるか、是非味わってみたいでござる」
「ジャパンは美味しい山菜が多いわよね。筍が生で食べられるのは初耳だけど、魚も生で食べられるんだし、同じものでしょう。美味しいのかも?」
 光が話題を変えると、やゆよとハーフエルフの神聖騎士テラー・アスモレス(eb3668)が乗ってくる。テラーは“義侠塾”の塾生でジャパンでの生活は長いが、筍の刺身は食べた事がないようだ。エリーヌも職業柄、薬草といったハーブの知識は豊富だが、筍の刺身は食べた事が無く、楽しみにしている。
 フリーデは雑嚢(バックパック)を指差した。醤(ひしお)を始め、味噌や塩といった最低限の調味料が用意してある。ただ、天麩羅は貴重な油をふんだんに使う料理なので、食べたい場合、各自で用意しなければならない。その点はカラットやエリーヌが抜かりなく用意していた。
「問題はラージビーですねぇ」
「せやな。素速い上にごっつデカい針で刺されれば痛いじゃ済まんし、ラージビーが針に持つ毒は一撃で重傷になるから要注意や」
「万一に備えて、動物の毒を消せる解毒剤は用意しておくべきね」
 カラットとウィザードのシーン・オーサカ、エリーヌはお互いの持つモンスター知識を付き合わせて、大蜂(ラージビー)の注意点を洗い出し、テラー達に説明する。光達は全員、解毒剤や解毒剤[動物]を用意してきたので、刺されたとしても大事には至らないだろう。もちろん、刺されない方が良いのだが。
「暁、初陣から大変でござるが拙者も斬鉄も共に付いておる、一緒に頑張ろうでござるよ」
 テラー達が外へ出ると、彼はギルドの馬小屋に繋いであったグリフォンの暁(あかつき)の頭を撫でた。暁は今回が初陣だという。彼の言葉に応えるように暁が嘶き、忍犬の斬鉄が元気良く吠える。
 河童の忍者、雷瀬龍が今まで暁と斬鉄の世話をしていた。筍が刺身として食べられる期間は非常に短く、素人ではまず探せない。そこで鼻の利く忍犬の出番という訳だ。龍はそういった事や山歩きの注意を、斬鉄に改めて躾けていた。
「頑張ってくるのだぞ」
 彼は斬鉄の手綱をテラーに渡すと、バシーン!と思いっきり背中を叩いた。
「女性ばかりなのだ。女性を護るのは男性の務め。気合いを入れて護ってやれよ」
「頑張りやー」
 龍とシーンに見送られ、テラー達は京の都を後にした。


●蜂の巣は美味しいらしいです
「カラットさんとエリーヌさんのお陰で大蜂のおおよその強さは分かったけど、大蜂がどの辺りに巣を作っているか地元の人に聞いた方が良いと思うんだ」
「そうですね、ラージビーをきっちり退治するなら、地元の人から地理とかも聞いておきたいですし」
「そうそう、ジャパンの人は蜂の巣とか蜂の子とか食べるって聞いたんだけど。私は地元の人に食べられるのか、可能ならその食べ方を聞いておきたいわ」
「え゛!? ラージビーの巣やラージビーの子は食べられるでござるか!?」
「蜂蜜は蜂の巣から採るでしょ? 雀蜂の子も煎ったりすると美味しいんだよ」
 光とカラットの提案で、ラージビーの巣の場所を確認しに、津島町へ立ち寄る事になった。
 その際、エリーヌがジャパン人は蜂の巣や蜂の子を食べるという話を聞いており、フリーデに大蜂退治を依頼した露天商の女性にその事を聞いた。祖国では貴族のテラーは軽いカルチャーショックを受けたようだが、ジャパンでは雀蜂や蝗(いなご)といった昆虫を食べる習慣がある事を、やゆよは当たり前のように話した。
 尾張でも雀蜂を食べる習慣はあるようで、大蜂の巣のある正確な場所の他、蜂の巣や雀蜂の子の食べ方も丁寧に教えてくれた。

 大蜂が巣を作っている竹林は、津島町から歩いて数時間のところにあった。
「地元の人に教えてもらった通り、ラージビーの巣があったわ」
「少し広場になっている所はどうだったかな? 竹薮の中で戦うと、武器を振り回すには邪魔だし、魔法を使うにしても僕達の方が不利だよ」
 シフールの身体を活かして大蜂の巣のある辺り一帯を偵察してきたエリーヌは、やゆよに微笑んで応えつつ、棒切れで地面に大まかに地図を書いた。大蜂を誘い出すのに都合の良い開けた場所は、カラットのリクエスト通り、足場や木の生え具合を鑑みて戦いやすい場所を選んだし、既にライトニングトラップを幾つか仕掛けてきた程の用意周到ぶりだ。
「ラージビーはどうか知らないでござるが、確か、蜂は黒い物を狙って攻撃してくる習性があるとか‥‥この黒いサーコートを着て囮役をこなしたいと思うでござる」
「ジャパン人が蜂に狙われやすいのは、その習性の所為、という説もありますしね。あたしとテラー様でラージビーを広場まで誘き寄せますので」
「後は私のソードボンバーで一網打尽だよ。フリーデさんは万一に備えて、後方で解毒剤を持って待機していて欲しいんだ」
「俺にはそのくらいしかできないからな」
 漆黒のサーコートに身を包んだテラーが暁に騎乗すると、カラットはスクロールを開いて自らにフレイムエリベイションとリヴィールエネミーを付与する。
 ライトニングソードを唱えて、自身の名字の如き雷剣を携えた光がフリーデに全員から預かった解毒剤を渡すと、彼女はそれを受け取って後方へ下がる。
「問題は、どうやってラージビーを誘き寄せるかですが‥‥怒らせるか、好きな匂いで気を引くとか?」
「蜂を誘き寄せると言ったら、昔からこうするんだよ!」
 カラットがどうやって大蜂を誘き寄せるか考えていると、後方のやゆよがサンレーザーを巣に向かって放った。その射程は300m、後方に下がっていても巣までは十分届くし、巣を一撃で破壊する程の威力はない。
 それでも、大蜂達を怒らせる事は可能だ。
「わわわ!? ハチさん達本気で怒ってます!!」
 リヴィールエネミーを付与しているカラットには、巣から飛び出してきた大蜂が青白く光って見える。テラーと一緒に、なるべく振り返らずに逃げ、光達の待つ広場までダッシュする。
「出口に辿り着くまで振り返ってはいけないという神話がジャパンにもあるそうでござるが、主人公はきっとこんな気持ちでござろうな」
 テラーは真後ろから聞こえてくる羽音に、そんな事を思い出す。しかし、振り返ればその分スピードが落ち、大蜂に追い付かれる可能性が高くなる。ただですら、暁は最高スピードで飛んでいるにも関わらず、大蜂の羽音は確実に大きくなっていたからだ。
「この距離だと、トルネードは無理ね」
 エリーヌはやゆよのサンレーザーに合わせて、ライトニングサンダーボルトで囮の二人を援護する。
 すると、一匹の大蜂に電撃が迸る。エリーヌの仕掛けたライトニングトラップだ。
「維新組剣士が[雷]の志士、紫電・光! 参る!!」
 やゆよ達を護っていた光が攻撃に転じる。稲妻を迸らせる剣からソードボンバーを放ち、大蜂を二匹まとめて薙ぎ払った。
「あたし、がんばったよね‥‥?」
「ああ、頑張ったぜ」
 後ろから羽音が近づいたらオフシフト、前方に回り込まれてもオフシフト、大蜂の攻撃をかわしまくったカラットは息も絶え絶えにフリーデの待つゴールへ。フリーデは戦いの最中にも関わらず、その可愛さに思わず彼女の頭を撫で撫でしてしまう。
 光が二匹受け持ち、やゆよとエリーヌで一匹、そしてテラーの受け持つ一匹にカラットが呼吸を整えてアグラベイションを掛けた。
「今だ! 暁! 全力突貫でござる!!」
「!? まだ早いわ!!」
 動きが鈍った事を勝機と見て取ったテラーは、暁にチャージングを指示する。エリーヌが制止するが一足遅く。
 暁の突貫はかわされ、大蜂の針が迫る。
「暁!! ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ‥‥ざ、斬鉄‥‥後は頼むで‥‥ござる‥‥よ‥‥」
「テラー様!?」
 グリフォンがいくら俊敏とはいえ、その身体は3m、大蜂からすればテラー以上に格好の的だ。彼は身を挺して大蜂の針から暁を庇う。刺された瞬間、激痛が体内を駆け巡り、彼はのたうち回った後、途切れる意識の中で斬鉄に撤退を指示する。
 カラットがアイスブリザードを唱え、暁と斬鉄がテラーの身体を引きずる。
「これで‥‥止めだよ!」
 光が何度目かのソードボンバーを放って大蜂を仕留めると、エリーヌとやゆよ、カラットもそれぞれ受け持ちの大蜂を倒していた。
「もう大蜂はいないようだね」
「巣の中にもいないようだよ」
 光がブレスセンサーで周辺の大蜂を、やゆよがエックスレイビジョンで巣の中の大蜂の存在を確認し、退治した事を確認した。


●筍の炊き込みご飯と山菜料理の相性は抜群です
「ハチさんに恨みはないですが‥‥」
「ウィッチハットいっぱいに摘むぞぉ、おー!」
「おー!」
 悲しそうな顔してジーザス教の祈りを二秒くらい捧げた後、カラットはカラッとした笑顔になって山菜採りを始める。やゆよも愛用のウィッチハットを片手に、彼女に続いた。
「これが蕗(ふき)で、これがこごみ、こっちが蕨(わらび)で、これはアブラナね」
「筍は斬鉄さんにお願いするしかないかな?」
 自身の持つ植物の知識とフリーデから教わった山菜の見分け方を駆使して、光と組んで山菜を採るエリーヌ。刺身として食べられる筍は、まだ地面から出ていないものだ。そこは斬鉄の出番となった。

「‥‥うぅ‥‥拙者は‥‥」
「気が付いたか?」
 テラーが意識を取り戻すと、フリーデが顔を覗き込んでいた。草の上にテントの幌を敷いて寝かされているようだが、彼の頭は心地よい柔らかさの中にあった。
(「こ、こ、これわ、フリーデ殿の膝枕でござるか!? しかし、何と芳しい香りでござる‥‥」)
「ハーブや毒草を調合しているのでな。臭いが染みついていて、臭かったら悪い」
「い、いや、そんな事はないでござる‥‥それより、拙者も山菜採りを手伝わないと‥‥」
「重傷を負った者が何を言う。解毒剤を使ったら快復はしているが、しばらくは安静にしていろ」
 調理するカラットの姿を見て慌てて起き上がろうとするテラーを、フリーデが押し留めた。
「暁の初陣で、些か気が逸っていたのかも知れないでござる。まだまだ修行が足りないでござる」
「そうだな‥‥だが、身を挺して友(ペット)を護ったその様は、義侠塾の修行の成果じゃないのか?」
 自身の未熟さを省みるテラーに、フリーデはエリーヌ達の方を見ながら呟いた。

 やゆよ達が摘んだウィッチハット一杯の山菜は、カラットの手によって、蕗は伽羅蕗(きゃらぶき)に、こごみはおひたしに、蕨は味噌汁に、菜の花は味噌和えに、そしてたらの芽は天麩羅に、それぞれ調理された。
 「味噌汁があるならご飯も」という光の要望もあって、斬鉄が見付けた筍は刺身の他、炊き込みご飯になった。
「筍のお刺身って、シャキシャキしていて何とも言えない歯ごたえと食感です。芹(せり)の味噌和えは、筍の炊き込みご飯に合いますね」
「こしあぶらって強い苦味があるそうだけど、天ぷらにして塩を付けて食べると、さっぱりしてるわ」
「筍は蒸し焼きにしても美味しいね。大蜂の子も大味だけど煎るとなかなか香ばしいし」
「これが大人の味‥‥まるで、甘味とほろ苦さのゆーごーだね。そうだ! みんなもお試しあれ」
 山菜を味わう為だけに依頼を請けたと言っても過言ではないカラットは、ホクホクと至福の笑みを浮かべながら自身が手掛けた山菜の料理の舌鼓を打つ。どれも美味しく、ほっぺが落ちそうで思わず頬を押さえてしまう。
 それはエリーヌも光も同じようだ。やゆよは大人の味に目覚めたのか、かすていら風味の保存食をお裾分け。こちらは食後のデザートとなった。
 尚、大蜂の巣は中の大蜂の子をエリーヌ達が食べてもまだ余ったので、残りは大蜂の被害を受けていた津島町の露天商へ、大蜂を退治した証も兼ねて渡したのだった。