【ベスばぁ】パワフルばあちゃん

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2004年07月29日

●オープニング

「ほら、さっさとお退き! ぼやぼやしてると轢いちまうよ!!」
 平穏な昼下がりをぶち壊すような雄叫びが、キャメロットの郊外にある小さな町の大通りに響いた。
 その後に続く蹄の音。
 人々で賑わう大通りのど真ん中を、一頭の馬が漫然と疾駆していた。
 人々は悲鳴を上げながら逃げ惑い、馬はそんな人波を嘲笑うかのように掻き分けてゆく。
 その馬の背には一人の老女が乗っていた。
 かつては美女だったのだろう。老いても尚、その美しさの名残を醸し出していた。
 そして馬に振り回されている訳ではなく、しっかりとした姿勢で手綱を握り、馬を操っていた。
 故に市場の露天一つ、人一人、全く馬にかすらせていない。
 被害はせいぜい、馬に驚いた人々が逃げようとして転け、擦りむく程度だ。
 冷静に見ればかなり高度な馬術の持ち主だ。
 老女は歳相応に小柄だが、ラメラアーマーを身に纏い、鞍にスピアを下げているその姿は老騎士に見えた。
「何人足りとも、あたしの前は走らせないよ!」
「ベスばぁちゃん‥‥」
 愉しそうに、でもどこか物足りなそうに、何かを求めるように馬を走らせる老女騎士を、物陰から見守る一人の青年の姿があった。

「祖母の暴走を止めて欲しいのです」
 その日、一人の騎士がキャメロットの冒険者ギルドを訪れた。
 彼の名はバッシュ・サンプドリア。イギリス名門貴族の一家、サンプドリア家の子息だ。
 鎧こそ纏っていないが騎士の正装をさらっと着こなし、容姿端麗で女性が羨むほどサラサラの髪の美青年だが、甘いマスクはちょっと頼りなさそうにも見えた。
 そして彼は、最近何かと市民街を騒がせている老女騎士の曾孫の一人に当たる。

 老女騎士の名前はエリザベス・サンプドリア。
 御歳89歳。
 元サンプドリア家当主の妻で、夫は亡くしているが、本人は健康と子宝に恵まれて現在、子供と孫、曾孫とやしゃごと共に暮らしている。
 また、正式な騎士の称号こそ授与されていないが、馬術や狩猟の腕前は下手な騎士よりも上で、狩りに於いて、サンプドリア家ではこの歳になっても彼女の右に出る者はいない程だ。

「もしかしたら噂を耳にしているかも知れませんが、最近、ベスばぁちゃ‥‥いえ、祖母の民の迷惑を顧みない行動が目立っているのです」
 サンプドリア家の領地内での出来事なので、まだあまり公にはなっていないが、風の噂くらいはキャメロットでも聞こえてきていた。
「家では健康そのもので、ボケた訳ではないようなのですが、俺達にもその行動の理由が分からないのです」
 当然、バッシュ達は家で町中の事を切り出すが、逆に一喝されてしまい、「あたしに勝ったら教えてやるよ」と言われる始末だった。
 そこでバッシュは力付くでもエリザベスを捕まえてその理由を聞き出し、止めてもらおうと腕の立つ冒険者を雇う事にしたのだ。
「できるだけ民に迷惑の掛からない方法が望ましいですが、相手が相手ですからそうも言ってられません」
 エリザベスはアルスター流の使い手で、射撃や防具破壊を得意としているという。
 バッシュももちろん協力するが、一筋縄ではいかない相手には変わりなかった。
 しかし、それほどの腕前の持ち主が何故、愚行に走るのだろうか?
 その辺りを予想してみるのも、エリザベスを止める鍵となるかも知れなかった。

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0830 レディアルト・トゥールス(28歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea2456 西菜 悠羅(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3109 希龍 出雲(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4250 リオルス・パージルド(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●The mascle woman
 狂闇沙耶(ea0734)はバッシュ・サンプドリアに案内され、エリザベス・サンプドリアの暴走コースの下見に来ていた。
 ここはサンプドリア家の領内の小さな町で、道行く人々はバッシュの姿を認めると頭を下げた。バッシュはその都度、手を振って応えた。
「ふむ‥‥民に慕われておるのう。良い統治を布いている証拠じゃ」
 治めているのは父だが、沙耶の率直な感想をバッシュは自分の事のように喜んだ。
 バッシュは沙耶をエスコートし、露天商の立つ広場の場所や広場に行くまでの道筋を確認した。
「これではまるででーとではないか‥‥って、わしは何を言っておるのじゃ!?」
「ははは、沙耶さんのような素敵な方をエスコートできるのは騎士冥利ですよ」
 沙耶は淑女のようにエスコートされる事に慣れていない所為か照れ、バッシュはそれを褒め言葉として受け取った。

「89歳で馬で暴走とは、元気なババ様だ。しかし、地位も名誉も愛情さえも満たされているババ様がね‥‥」
「サンプドリア家といえば、円卓の騎士にこそ召し抱えられていないものの、名門貴族の一家である」
 時を同じく、希龍出雲(ea3109)とレイヴァント・シロウ(ea2207)は、町で若い頃のエリザベスについて聞き込んでいた。
 サンプドリア家はシロウが知っていた。領地こそ広くない中堅貴族だが、代々優秀なアルスター流の騎士を多く輩出していた。
 エリザベスもその一人で、若い頃は男勝りで同性にすこぶる人気があったらしい。また夫婦仲は円満で、エリザベスは今は亡き夫にぞっこんだったという。
「ババ様はバッシュ達家族に、自分を本気で止めて欲しいんだろうな。身体を張ってしっかりと間違いを正せる‥‥そんな騎士になって欲しいんじゃないか?」
「その為にも、先ずは暴走を止めて話し合いの場を設けるのが最優先である」
 バッシュや人々の話を聞いた出雲は、エリザベスの愚行の理由を確信めいていた。だが、シロウの言う通り、その前に話し合いの場に引きずり出す必要があった。

●Frontline
「ほら、さっさとお退き! ぼやぼやしてると轢いちまうよ!!」
 その日もエリザベスの声と共に、馬の蹄の音が町中に轟いた。
「来たか‥‥! ルーティ殿とユイス殿は位置に着いたのじゃな? ‥‥よし‥‥『ヒヒーン!』」
 エリザベスが通る道に先回りしていた沙耶は、バッシュにルーティ・フィルファニア(ea0340)とユイス・アーヴァイン(ea3179)が所定の位置に付いた事を確認すると、声色で雌馬の鳴き声を上げた。
 普通の馬ならその声音に引き寄せられたかもしれない。しかし、エリザベスの跨る愛馬アノーは戦闘馬、そうそう騙されなかった。
「‥‥バッシュ殿より聞き及んでいたが、やはり効かぬか。わしもまだまだ未熟という事じゃな。この依頼、難しくなりそうじゃのぅ」
 沙耶はバッシュの俊馬に乗り、シロウ達の元へ向かった。
「『退け』だと? 貴様が退け! 『轢いちまうよ!!』だと? やってみろよ!!」
 逃げ惑う人々の波に逆らい、一人の青年がエリザベスに向かって敢然と歩いていった。
「ハイヨー、アノー! どういうつもりだい!?」
「‥‥貴様の望んだ状況だろ? ここらを馬で暴走するお転婆『小娘』の嬢ちゃん」
 青年――レディアルト・トゥールス(ea0830)の見込み通り、エリザベスはレディアルトの鼻先三寸の所でアノーを止めた。エリザベスは人にも物にも被害を与えていない事から、本気で轢く気が無いのは分かっていた。
「こんな事をすれば、誰かが実力行使で止めに来るのは分かるだろ。こういう風にな」
「婆さん、俺と馬でレースをしないか? ゴールは町の広場。馬の扱いが上手いって聞いたから、どうしても勝負したかったんや」
 レディアルトはエリザベスに、愛馬に跨って近付いてくるリオルス・パージルド(ea4250)を親指で指差した。
「パージルド卿かい‥‥面白い」
 エリザベスはリオルスの持つ盾に描かれた紋章から、即座に家柄を読み取った。紋章知識は生き字引だ。
 リオルスとエリザベスは同時に愛馬を走らせたが、先に広場に着いたのはエリザベスだった。
 本来なら露天商が軒を連ねる広場はがらんどうとしていて、出雲と短弓を構える西菜悠羅(ea2456)の姿しかなかった。シロウが昨日の内にバッシュに頼み、広場の一つを交戦場所として確保してもらったのだ。
「直ちに馬を止めて武装解除をして投降せよ! 要求に従えば危害は加えない!!」
「ヒヨッ娘の要求は呑めないねぇ。やけに手が込んでいるようだけど、バッシュ坊や辺りの差し金かい?」
 エリザベスは鞍からスピアを外し、悠羅に投降する意志が無いと示した。
「バッシュはババ様の言いたい事をちゃんと分かっているから、俺達を雇ったんだ」
「あんた、腕に自信があるんやろ? どうやろ、こっちは複数で掛かっていっていいやろか?」
「ヤバイと思ったらその時点で降伏を宣言しろ。もし俺達が勝ったら、二度と馬で暴走するなんて真似はするな。そして、何故こんな真似をしたか話してもらおうか。負けたら‥‥好きにしろ」
 エリザベスの問いに出雲が答えると、リオルスが一対多数の戦いを申し込み、武装を整えて後からやってきたレディアルトが条件を付け加えた。

●Breakthrough!
「私は射撃を苦手とするが、四の五の言ってはいられんか‥‥直撃させる!」
 悠羅はアノーの鞍にミドルボウが括り付けてあるのを目にしたが、エリザベスはスピアを構え、リオルスとレディアルトに挟まれている戦況から遠距離攻撃はないと判断し、短弓を放った。
 エリザベスはスピアを旋回させ、矢を悉く弾いた。
「さて‥‥シンドそうだな」
 レディアルトとリオルスは愛馬をジグザグに走らせ、エリザベスの後ろや横へ回り込んだ。倒すのが目的ではなく疲労を待つ策だが、オーラエリベイションを付与したレディアルトのロングソードをエリザベスは易々と受け流していた。
「将を射んとすれば馬から。悠羅君、諦めずに馬に攻撃を集中させるのである」
 今まで隠れていたレイヴァントが現れ、代わりにレディアルトが退いた。波状攻撃もシロウの策の一つだ。
「一騎の騎士の能力が戦力の決定差ではないという事だよ」
「そうそう当たるもんじゃないよ!」
 レイヴァントは悠羅に合わせてミドルボウから矢を連射するが、やはりスピアで弾かれてしまった。
「惜しい。70年前なら。強い女性は嫌いじゃないんでね。だが諸候の一員たる者、民に迷惑行為はいかん」
「残念だけど、あたしはあの人とその子達を今でも愛しているんでね」
「シロウ殿、支援する!!」
「ニンジャか!? 毒は十八番だったねぇ‥‥」
 しかし、レイヴァントに気を取られた隙に、沙耶が物陰から飛び出し、ダーツをアノーに投げた。エリザベスの回避の手綱は間に合わず、麻痺毒の塗られたダーツがアノーをかすめた。
「今です!」
 その時、ルーティがタイミングよくウォールホールを唱え、動きが鈍ったアノーの前足の地面にぽっかりと穴を開けた。
 アノーは見事に落ちたが、エリザベスはアノーから降りていた。
「愛馬にはこういう使い方もあるんだよ!」
「足止め、って言う奴ですね〜。後方支援って、言葉で言うほど簡単じゃないんですね〜」
 エリザベスは降りる時、アノーの尻を叩いた。ウォールホールから自力で脱出したアノーは、目の前のルーティに前足を振り上げた。ルーティはグラビティーキャノンを唱えるが間に合わなかった。
 そこへユイスがウィンドスラッシュを放ってアノーの勢いを削ぎ、ルーティは辛うじて突進を避けた。
「視界が死ぬで!?」
「嬢ちゃんは化け物か‥‥」
 リオルスはエリザベスの顔面目掛けてライトシールドを投げ付け、視界を封じた上でチャージングを仕掛けたが、エリザベスは降りる際にミドルボウに持ち替えており、ベスばぁの本領発揮とばかりにライトシールドを粉砕した。
 予想だにしない反撃に、逆にリオルスの視界が塞がれてしまった。充分体力を削ったと思っていたレディアルトは悪態を付いた。
「止めは差させません!」
 既にリオルスに向けて射られた止めの矢を、ルーティがグラビティーキャノンでまとめて落とした。
 リオルスと交代した出雲と沙耶がエリザベスを挟撃して攪乱した。出雲が日本刀からフェイントアタックを繰り出して峰でミドルボウを弾き、沙耶が懐へ飛び込んで首筋に小柄を当てがった。
「あたしの負けだよ‥‥」
 エリザベスは潔く負けを認めた。

●Teatime
「事件も一段落した事じゃし、皆でお茶でも飲まぬか?」
「積もる話はお茶を飲みながらにしましょう〜。私はジャパンティーが飲みたいです〜」
 小柄を仕舞いながら沙耶が提案すると、ユイスが要望のおまけ付きで真っ先に賛同した。
 ルーティがリオルスとシロウ、レディアルトの手当てをしている間に、悠羅が野外でのお茶の準備を整えた。
「‥‥生い先短い年寄りの、ささやかな手土産だよ」
 バッシュを交えて緑茶を肴にエリザベスの話を聞いた。
 愚行の理由は出雲とレディアルトの予想通り、若く未熟なバッシュ達騎士を育て、後顧の憂いを無くす事だった。
「ベスばぁちゃん‥‥」
「(己の死期を悟っての事か‥‥)上には上がいる。今回の件でこの言葉だけは決して忘れてはならないと悟ったよ」
 その言い種にバッシュと悠羅はしんみりしてしまった。
「まだまだ若い者にゃ負けはせんよ。次は同じ条件でも勝ってみせるよ」
「大丈夫、お婆ちゃんは後十年は生きますよ、きっと」
 しかし、続く言葉を聞いたルーティは無邪気にそう告げたのだった。

 後日、報酬と共にリオルスには新しい盾が、沙耶と悠羅、レイヴァントの元にはそれぞれ消耗したダーツや矢の代わりの品が届けられた。
 本来のエリザベスは、礼儀をわきまえる性格のようだ。