【尾張統一】清洲城攻め
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月15日〜08月22日
リプレイ公開日:2007年08月29日
|
●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
藩主・平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)と、虎長の息子・平織信忠を擁する虎長の弟・平織信行とに真っ二つに分かれ、尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座を巡って対立姿勢を強めていた。
そして遂に、尾張の統一を賭けて、お市の方と信行・信忠との間で合戦が行われたのだった。
――那古野城。お市の方の本拠地だ。
那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に建造中の、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。
那古野城では軍議が開かれていた。
先の戦で、那古野城へ攻めてきた信忠の清洲軍五百五十に対し、お市の方は那古野勢三百五十でこれを撃退。お市の方のおじ、平織虎光が居城、守山城を攻める信行の末森軍三百を、虎光は三百の兵を以て防衛に成功。その間、お市の方の片腕、滝川一益が率いる那古野勢百五十が、信行・信忠に与する那古野城の南東に位置し、知多半島防衛の要衝、鳴海城を攻めて陥落させ、勝利で初戦を飾った。
「『昔の善く戦う者は先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ』と言うじゃない。信行兄様や信忠が反撃の体制を整える前にこちらから討って出るべきよ」
「だが、先の合戦で疲弊しているのは儂らも一緒じゃ。それに清洲城、末森城共に、虎長と信行が贅を尽くして築いた堅牢な城ぞ。儂らも万全の体制を以て臨むべきじゃ」
華国の兵法書孫子を引用して、勝ち戦の勢いをそのままに早く討って出るべきと主張するお市の方。一方、虎長の死後、一貫して尾張平織家の藩主にお市の方を支持している虎光は、『勝って兜の緒を締めよ』と、勝ち戦だからこそ足下を掬われないよう盤石の体制を整えるべきと主張し、軍議は平行線を辿っていた。
お市の方の小姓・森蘭丸とその父、森可成(よしなり)、虎光配下の武将・丹羽長秀も軍議に参加しているが、蘭丸は小姓故に中立を保ち、可成はお市の方を支持、長秀は虎光を支持しているのでなかなか決まらない。
那古野・守山勢の総大将はお市の方なので、彼女が進軍を強行する事も可能だが、踏み切れないのは虎光の主張も一理あるからだ。
清洲城は生前の虎長の居城であり、尾張平織家の本拠地だ。『尾張一の名城』と謳われるのは伊達ではなく、内堀・中堀と二重の堀を巡らした上にその外周を土塁で囲み、大天守・小天守の二つの天守閣を持つ大城郭だ。
また、末森城は、東西約百八十m、南北約百五十mの規模を誇る平山城だ。周囲を深さ七m、幅十二mの空の外堀で囲み、本丸、二之丸を囲むように中堀もある。
清洲城・末森城共に、陥落させるのは一筋縄ではいかないので、万全の体制で臨むべきだろう。しかし、先の合戦で那古野・守山勢共にそれ程被害は出ていない。死傷者は百に満たない。逆に清洲・末森勢は二百人近い死傷者を出しており、戦力差は確実に埋まっている。
それにお市の方も、那古野城の防衛戦が終わって以降、遊んでいた訳ではない。彼女は津島神社の門前町であり、木曽三川(木曽川、揖斐川、長良川)を用いた貿易の河港町、津島町で水運業を営む蜂須賀正勝(=小六)を口説き落としていた。正勝は“川並衆”と呼ばれる配下を率いて木曽三川の無法地帯一帯を取り締まり、時には船から通行税を取る、尾張藩公認の私掠船を束ねていた。虎長亡き後、信行は泥棒紛いの私掠船を良しと思わず、その認可を取り消してしまった。津島湊は那古野城に近い事からお市の方が私掠船の身分を保障する代わりに、那古野勢へ付くよう交渉したのだ。
尾張藩内の主要な街道は、街道が集まる交通の要所・清洲城を手中に収めた信行が押さえいる。しかし、流石に川までは監視の目も行き届かないので、お市の方は正勝に頼んで、依頼を受けた冒険者達を舟を使って那古野城まで連れて来ていた。
「お市様、足軽への装備が一通り終わったでござる」
「一益、それは?」
「虎長お兄様が考案された長柄槍を、天国の協力でより長く、そして重さを抑えた三間半の槍よ。よかった、量産は間に合ったようね」
そこへ重要な軍議に不在だった一益が槍を持って現れた。虎光はその長さに目を見張る。
尾張の足軽は『長柄槍』という、集団戦で先制する為に虎長が考案した長さ五mくらいの槍を装備しているが、お市の方は瀬戸村に住む伝説の刀工、天国(あまくに)に協力を仰ぎ、長さ六.三mに及ぶ『三間半の槍』を開発、量産に成功したのだ。
普通の足軽が持つ長槍(ロングスピア)の長さが二.五mだから、その長さは実に約二.五倍。しかも機動力がそれ程失われていない。
「川並衆を口説き落とし、三間半の槍を開発しただけではなく、量産化まで着手しておったとは‥‥この虎光、恐れ入ったのじゃ」
「では!?」
「ここまで万全の体制を整えたのであれば、儂に反対する理由はない」
「儂の目に狂いはなかった」とお市の方を頼もしく見ながら、虎光が豪快に笑う。いよいよ清洲城・末森城攻めが決定した。
「物見によると、清洲軍はおよそ六百、末森軍はおよそ三百との報告があります」
「対する儂らは、那古野勢が五百、守山勢が三百じゃな」
「数の上では劣勢だけど、武装はこちらが上だから、十分、劣勢を跳ね返せると思うの。問題は那古野城の後詰めの兵だけど‥‥」
一益が物見から報告を伝えると、虎光がこちらの戦力の概算を出す。那古野勢は川並衆と鳴海軍の騎馬隊を組み込んでもこの数だが、勢いはこちらにあるとお市の方は踏んでいる。
問題は那古野城の守備兵にどれだけの人数を割くかだ。数で劣る以上、全兵力を投入したいところだ。那古野城より南の、信行・信忠に与する尾張平織系一族は鳴海城を陥落させた事で無くなっているが、先の合戦のように、清洲軍、あるいは末森軍が手勢を割いて攻めてくる可能性も考えられる。
『那古野城の護りは、儂ら月兎族三姉妹と雪女郎が引き受けるのじゃ』
「月華(つきか)!?」
意外な人物が助け船を出した。化け兎の上位妖怪、妖兎のうち、知多半島のみに生息する『月兎族』の三姉妹が長女、月華だった。
『儂と卯泉(うみ)、美兎(みと)と晶姫(あき)の四人なら二百人くらいなら然したる問題はない』
「に、二百人だと!?」
四人で二百人の軍勢を相手にすると、あっけらかんと言う月華。流石に虎光も驚きを隠せないが、美兎は餅搗き用の杵を愛用する格闘戦の専門家、卯泉は満月輪と呼ばれる刃物の付いた投擲具を愛用する射撃戦の専門家、そして月華はかの大妖怪『九尾の狐』に勝るとも劣らない実力を持っている。更に雪女が加われば、確かに四人で二百人くらいの軍勢を相手に出来てしまうかも知れない。
「で、でも、あなた達は『人間同士の戦い』には、協力してくれないんじゃなかったの?」
『人間同士の戦いならば、な。だが、此度の戦はその限りではない、という事じゃ』
「‥‥」
お市の方が月華に理由を聞くと、彼女は曰わくありげな視線を蘭丸に向け、それ以上は語ろうとはしなかった。
とはいえ、これで後顧の憂いがなくなったのは確かだ。
軍議の結果、お市の方・可成・一益率いる那古野勢五百が清洲城を、虎光率いる守山勢三百が末森城を攻める事になった。蘭丸は月華達と那古野城の防衛に当たる。
●リプレイ本文
●誰が為に戦う?
敗走してゆく清洲軍の総大将柴田勝家の後ろ姿を一瞥とすると、お市の方こと平織市(ez0210)は全軍に号令を掛けて進軍を止め、那古野城と清洲城を隔てる天然自然の障害、庄内川の渡河作戦の被害状況を報告させる。
「被害状況はどうだ?」
「流れ矢を受けた重傷者が数名出たくらいで、死亡者はいないみたい。負傷者の大半は軽傷ね。騎馬隊は無傷で四十五名残っているから、そのまま天矢の指揮下に入れるわ」
浪人の壬生天矢(ea0841)が、愛馬黒華に跨ってお市の方の元へやってきた。その間も滝川一益隊、森可成隊など、各隊から報告が上がってくる。矢避けの盾や竹束で、矢による攻撃を完全に防げる訳ではないが、それでも負傷者は那古野勢の一割にも満たないようだ。
「市殿の親衛隊が九騎しか残らないのは些か心許ないが‥‥」
「確保した捕虜を抑えておく兵は必要ですし、その任は負傷した兵で丁度良いでしょう」
戦闘馬を愛馬とする天矢は、騎馬隊を指揮する。お市の方も愛馬に騎乗しているので、残った騎馬隊は彼女の護衛に回るが、総大将が負傷するだけでも軍全体の士気に関わるし、討ち取られるような事があれば総崩れは免れない。
お市の方が傷付く事で士気が下がる事を危惧した天矢を、愛馬火髪(ひかみ)を駆る志士の六条素華(eb4756)がフォローした。
清洲軍は百名近い死傷者を出し、負傷した騎馬隊を始めとした那古野兵が確保し、手当てして回っている。負傷しているので今はそのまま那古野勢として組み込む事は出来ない。だが、清洲軍は総勢六百名近くいたので、百名減った事により兵力差はほとんど無くなった。
「市様、新しい矢避け兼渡し板を持ってきました」
「助かる」
ジャイアントのナイト、ミラ・ダイモス(eb2064)が、愛馬デルヴィッシュで那古野城からやってきた。先の渡河作戦で使った矢避けの板も使い回せない訳ではないが、耐久度は確実に減っている。特に浪人の備前響耶(eb3824)が指揮する侍隊二十四名は先陣を切るので、新しいものに越した事はない。
彼とミラは比較的損耗の少ない板を選別し、残りは新しい板と入れ替え、足軽達に配備していった。
「さぁ、うまくいけばこれで戦が終わりますし〜‥‥お市さん、がんばりましょう〜」
「口で頑張りましょうと言う程、そう甘くはないさね。兵数の上では互角になったとはいえ、篭城されると勝つのは至難さね」
浪人の槙原愛(ea6158)の指揮下に入った侍隊二十八名は、先の鳴海城攻めで彼女が指揮していた隊が解体されず、増員されている。なので気心が知れており、愛は挨拶を交わしてお市の方の元へやってきた。
被害状況の確認が終わり、愛達への隊の再編成も済み、矢避け兼渡し板の装備も完了したので、後は清洲城攻め前の腹ごしらえをして進軍するだけだ。しかし、ジャイアントの神聖騎士ネフィリム・フィルス(eb3503)は『攻者三倍の法則』を引き合いに出しながら、苦言を呈した。
「清洲城を陥落させて、これでひと段落だといいんだけど‥‥難しいなぁ‥‥」
「難攻不落の名城に、名将。それを埋める為に兵法ありき、ですか。バーニングマップで突入経路を割り出すにせよ、クロウの情報待ちですね」
レンジャーのミリート・アーティア(ea6226)と素華が割って入る。レンジャーのクロウ・ブラックフェザー(ea2562)はこの場にはいない。彼は配下の川並衆十八名と共に、汚した戦装束に着替え、顔に血糊と包帯を巻きつけて負傷した清洲兵に成り済まし、撤退する勝家軍に紛れて清洲城へ潜り込んでいた。
清洲城は亡き平織虎長の居城。お市の方も大好きなお兄ちゃんに会いに登城しており、建物のおおよその配置は分かる。後は平織信忠の布陣が分かれば、バーニングマップで突入経路を割り出せる。
「まぁ、こ〜ゆ〜時は大将首を狙うのが1番かねぇ。兎子達の話から推察するに、デビルが清洲の城に住み込んでいそうな感じがするさね」
「はい〜‥‥私も月華(つきか)さんの言葉が気になりました。清洲軍は人間でなく悪魔辺りが関係しているのでしょうか? まぁ、考えてもしょうがない事ですけど‥‥藪をつついて鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
「ふ、二人ともやめてよね!? これから城攻めって時に‥‥確かに月華が那古野城の守護を買って出てくれた時は、私も何かあるとは思ったけど‥‥私が言うのも何だけど、信行兄様も信忠も、デビルに誑(ふだら)かされるような考えの持ち主ではないわ」
ネフィリムは先の桶狭間の戦いでお市の方が行ったように、短期決戦で総大将信忠を討つのが中策と考えていた。戦理的に見て防御は攻撃よりも優位だからだ。
しかし、彼女も愛も清洲城攻めに際し、一つ気掛かりな点があった。人間同士の争いへ不介入を貫いている妖怪『月兎族』三姉妹の長女、月華が那古野城にて後詰めを自ら買って出た事だ。その月華が以前言っていた、お市の方が気付いていない『腹の虫』とは尾張で暗躍しているデビルの事であり、信行や信忠を誑かしているのではないかと考えたのだ。
だが、その考えはお市の方が否定した。信行も信忠も『京都守護職は尾張平織家当主が就くべき』という、かつての尾張平織家の栄華、旧権力と言ってもいい、そういったものを未だに信じている古い考えの持ち主だ。
登用には家柄や年功を重んじる為、信行や信忠からの依頼はない。
デビルとはいえ、石頭の二人に取り入るのは容易ではないし、宣戦布告をされて実際に合戦をし、二人の考え方が何一つ代わっていない事をお市の方は肌で感じ取っていた。
「‥‥まぁ、旧権力に固執するのも、こういう時の判断材料になるのは善し悪しだな。上も市殿の勝利を望んでいるらしい。自分としても上司候補は優秀な方が良いに越した事はないし、早期決着すれば京の防衛体制の整備も速くなる。微少ながら尽力しよう」
肩を竦める響耶。それは黒虎部隊隊士の天矢も同意見だ。
しかし、ミリートだけは違った。彼女は友達としてお市の方を抱き締めた。
「私は戦いたいって、自分で決めてるだけだから。困ってる友達を助けるのに理由なんて要らないでしょ? だから、市は悲しそうな顔しないの。合戦が終わったら、私の故郷の楽しい歌、いっぱい唄ってあげるから、笑ってくれると嬉しいな」
「ミリート‥‥ありがとう。その時は私もジャパンの楽しい歌をお返ししないとね」
お市の方もミリートを抱き締め返した。
(「尾張の戦いも大詰めだな。お市様にジャパンの未来を託す為にも負けられない」)
クロウは敗走した勝家軍と共に、清洲城下へ紛れ込んだ。そのまま入城できると思いきや、クロウ達足軽は城内へは入れてもらえず、土塁の内側で傷の手当てを受けた。
とはいえ、那古野勢が庄内川を渡り、清洲城へ進軍している為、清洲軍も隊の再編成が早急に行われた。
(「勝家サンの悪い噂が流れているようだけど、それでも士気が落ちていないところを見ると、勝家サンや信忠サンがしっかり人心掌握している証拠だよなぁ」)
クロウの耳にも那古野勢が流した勝家に関する流言飛語の噂は入ってきた。士気は思っていたより落ちていないが、意外なところで効果が現れた。勝家が最前線から外され、清洲城の後詰めとなったのだ。
最前線の指揮を執るのは、信忠本人だという。
(「信忠サンが天守閣に立て篭もらないのはありがたいが、これは野戦の布陣になるな」)
クロウはお市の方から清洲城の構造を聞いており、それを元に一益と防衛戦の予想を立てていたが、彼が再編成されて組み込まれた隊の配置を見る限り、五条川を挟んでの野戦になりそうだ。
クロウは川並衆の一人にこの情報をお市の方へ届けさせ、自身は清洲軍へ留まった。
●清洲城攻略戦
お市の方率いる四百七十名弱の那古野勢が、五条川を挟んで信忠率いる清洲軍五百名強と対峙する。
「足軽同士の衝突ではこちらが有利。侍隊が矢避けで防御を担当する事で、相手弓兵の対策も出来ます。川並衆の潜入が成った今、うまく撹乱出来れば‥‥消耗を抑えての突入は十分可能でしょう」
クロウ配下の川並衆がもたらした布陣の情報を元に、バーニングマップで突入経路を割り出した素華が策を確認する。ミラ達はそれを頭に叩き込んだ。
その間、お市の方は信忠に説得を試みるものの、彼に心変わりはなかった。ちなみに、お市の方は信忠の叔母(=父の妹)だが、甥っ子よりも若い。
(「平織が神皇家の剣なら、俺はお市様の剣になるよ。ジャパンの事とかそういうの抜きに、ただお市様の為に力になりたい。今はそう思ってる」)
お市の方と信忠の遣り取りを聞きながら、クロウは誰が為に戦うのか、この合戦の意味を見出し、確信していた。
「よーく狙って‥‥撃てーーーーー!!」
お市の方と信忠がそれぞれ軍勢の所定に位置まで引っ込むと、戦端が開かれる。
ミリートは一六名の弓兵を率いて一斉射の号令を掛け、自身は長弓で清洲軍の弓兵の小隊長と思しき武将に目星を付けて頭部を狙撃してゆく。達人の域を超えつつある彼女の狙撃は、三本同時に矢を射掛け、確実に頭部を貫いてゆく。
「総大将の場所は分かっていますから、信忠さんを捕らえるのが手っ取り早いですね」
「柴田殿が後詰めとはいえ、五条川を越えない事には同じ土俵に立つ以前の問題だ」
「森様、お市様、援護をお願いします」
ネフィリムの中策に愛も賛成しており、信忠が城外へ出ている以上、強行軍を提案する。勝家と相見える事はないが、対岸から雨霰と降り注ぐ清洲軍の矢を見る限り、信忠の指揮も侮れないと響耶は踏んだ。
火髪にドラゴンバナーを掲げ、隊の旗印とした素華が援護を申し出ると、ミラは可成とお市の方にも援護を頼んだ。足軽隊は可成が、侍隊はお市の方が、弓隊は一益が、それぞれ主に指揮を執っている。
ミリート隊に加え、四三名の弓兵を有する素華隊も援護射撃を開始する。ミリート隊が弓兵を重点的に潰しているのに対し、素華隊は正確さより数を重視し、射掛ける場所は適時、素華が指示した。
ミリートの背負った矢筒と地面に刺した矢、素華の火髪に積んだ矢は瞬く間に減ってゆく。
可成の足軽隊が矢避け兼渡し板を持って矢面に立ち、その後に響耶隊、ミラ隊、愛隊、お市の方の侍隊と続く。
清洲軍も射撃を強め、水際に足軽を配置して長柄槍の射程を以て渡河させまいと阻む。だが、間合いは三間半の槍を持つミラ隊の方が上だ。彼女は足軽隊を三人一組で行動させ、一人の兵に対し、左右前方から槍の間合いを活かした波状攻撃を行う。ミラもオーラパワーとオーラエリベイションで自身を強化し、矢はクイーンズシールドとデッドorライブで防ぎ、お市の方よりもらった三間半の槍でスマッシュを繰り出し、戦端を開いてゆく。
「流石は名刀村雨丸。まさに乱戦向けの刀だ。この血糊でも落ちぬ切れ味をその身で確かめたくば、掛かってくるがいい」
刀は血糊によって切れ味が著しく低下するので、多人数を相手にするとなると血糊を拭ったり、突き主体の戦い方となるが、刀身が常に仄かに濡れており、血糊の付かない村雨丸にはその必要はない。侍隊を率いる響耶は先陣を切って、ミラ隊の開けた綻びを広げてゆく。
愛もその点を留意してスフマンの斧を振るい、彼と共に清洲軍を突き崩してゆく。
その時、清洲軍に動揺が走る。清洲城のあちこちから煙が上がり始め、城壁にお市の方の紋所の入った旗指物が掲げられているではないか! 一瞬、外の清洲兵は落城したのかと誤解する。
そこは勝家と信忠。勝家はすぐさま小火を消して幟を取り外させ、信忠は小隊長を通じて檄を飛ばし、動揺を即座に抑える。
しかし、天矢隊とネフィリム隊、一益隊が城内へ突入するには十分な隙が生じた。
天矢隊とネフィリム隊は混乱に乗じて裏門へ回り、天矢が名剣ブラヴェインを振るって裏門の扉を破壊すると、ネフィリム隊から城内へ雪崩れ込んだ。待ち受ける勝家軍をネフィリム隊の足軽十一名が、矢避け兼渡し板で防ぎ、その後ろに十名一組で列陣を形成して、槍衾(ぶすま)を作る。
その間、一益率いる弓隊が後方から援護射撃を行い、最後に天矢が黒華からブラヴェインを振り下ろし、ソードボンバーで侍達を薙ぎ払った後、騎馬隊がチャージングで突入してゆく。
「柴田勝家殿とお見受けする。貴殿の正義はどこにある。権力に先を見通す目を曇らせた信行殿と同じか? 尾張の民は神皇様の民でもあるのではないか? その力の矛先‥‥今は身内に向けるべきものではないはず。共に、神皇様の剣となり盾となる時ではないだろうか‥‥(虎長様の私設、黒虎の一隊士とはいえ‥‥鈴鹿隊長が聞いたら何と思うだろうか‥‥)」
ネフィリム隊の槍衾と天矢隊の波状チャージングが、勝家軍を肉薄してゆく。
勝家も二度に渡り、お市の方と刃を交え、その考えに当てられていたのかも知れない。天矢の説得に応じ、清洲城を明け渡した。
ネフィリム隊はお市の方の幡を立てて勝ち鬨の声を上げる。今度は誤解ではない。本当に清洲城は陥落した。
「早期に処置すればまたくっ付く。さあ、降伏を」
「投降はしてもらえませんか? してもらえないなら、このまま討ち取るしかないです」
信忠はネフィリムの勝ち鬨の声を、響耶の黒影葬を受け、利き腕を斬られて聞いていた。
彼は響耶だけではなく、愛とミラ、合流したクロウに取り囲まれていた。信忠をここまで肉薄できたのも、戦況を見極め、囲碁におけるノゾキの一手ともいえる弓兵の移動と射撃地点の指示を出し続けた素華やミリートの援護射撃も忘れてはいけない。
ただ、信忠は虎長や勝家に相当鍛えられており、なまじ腕が立つだけに、響耶も易々とは捕縛できず、必殺技を使った次第だ。
「‥‥分かりました‥‥」
周りでは未だに那古野勢が清洲軍と戦っている。
信忠も降伏を受け入れ、お市の方は悲願の尾張統一を成し遂げたのだった。
尚、ネフィリムが最後まで留意していた石の中の蝶は、結局、反応しなかった。
●凱旋
平織虎光より末森城が陥落した報と共に、平織信行が清洲城へ連れて来られた。
お市の方は二度に渡る説得を聞き入れなかった二人を、此度の合戦の責任を取らせて処刑した。
勝家と信行の片腕・林秀貞は、それぞれ清洲城と末森城を与える事を条件に、お市の方へ忠誠を誓わせた。
艱難辛苦の末、尾張平織家当主となったお市の方は、ミラ達と那古野城へ凱旋した。
「市、よくぞ儂の亡き後、尾張を統一した」
しかし、意外な人物がお市の方の帰りを待っていた。
「‥‥平織虎長‥‥」
「‥‥と、虎長お兄様!? ‥‥どうして‥‥」
「どうしてって、市、殿が蘇って嬉しくないのか?」
その姿を認めた響耶とお市の方の声が震える。平織虎長その人に間違いないからだ。
妻の濃姫が寄り添い、「蘇った」と嬉しそうに言う。そう、虎長は蘇ったのだ!