【尾張統一】渡河作戦
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月13日〜08月20日
リプレイ公開日:2007年08月20日
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●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
藩主・平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)と、虎長の息子・平織信忠を擁する虎長の弟・平織信行とに真っ二つに分かれ、尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座を巡って対立姿勢を強めていた。
そして遂に、尾張の統一を賭けて、お市の方と信行・信忠との間で合戦が行われたのだった。
――那古野城。お市の方の本拠地だ。
那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に建造中の、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。
那古野城では軍議が開かれていた。
先の戦で、那古野城へ攻めてきた信忠の清洲軍五百五十に対し、お市の方は那古野勢三百五十でこれを撃退。お市の方のおじ、平織虎光が居城、守山城を攻める信行の末森軍三百を、虎光は三百の兵を以て防衛に成功。その間、お市の方の片腕、滝川一益が率いる那古野勢百五十が、信行・信忠に与する那古野城の南東に位置し、知多半島防衛の要衝、鳴海城を攻めて陥落させ、勝利で初戦を飾った。
「『昔の善く戦う者は先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ』と言うじゃない。信行兄様や信忠が反撃の体制を整える前にこちらから討って出るべきよ」
「だが、先の合戦で疲弊しているのは儂らも一緒じゃ。それに清洲城、末森城共に、虎長と信行が贅を尽くして築いた堅牢な城ぞ。儂らも万全の体制を以て臨むべきじゃ」
華国の兵法書孫子を引用して、勝ち戦の勢いをそのままに早く討って出るべきと主張するお市の方。一方、虎長の死後、一貫して尾張平織家の藩主にお市の方を支持している虎光は、『勝って兜の緒を締めよ』と、勝ち戦だからこそ足下を掬われないよう盤石の体制を整えるべきと主張し、軍議は平行線を辿っていた。
お市の方の小姓・森蘭丸とその父、森可成(よしなり)、虎光配下の武将・丹羽長秀も軍議に参加しているが、蘭丸は小姓故に中立を保ち、可成はお市の方を支持、長秀は虎光を支持しているのでなかなか決まらない。
那古野・守山勢の総大将はお市の方なので、彼女が進軍を強行する事も可能だが、踏み切れないのは虎光の主張も一理あるからだ。
清洲城は生前の虎長の居城であり、尾張平織家の本拠地だ。『尾張一の名城』と謳われるのは伊達ではなく、内堀・中堀と二重の堀を巡らした上にその外周を土塁で囲み、大天守・小天守の二つの天守閣を持つ大城郭だ。
また、末森城は、東西約百八十m、南北約百五十mの規模を誇る平山城だ。周囲を深さ七m、幅十二mの空の外堀で囲み、本丸、二之丸を囲むように中堀もある。
清洲城・末森城共に、陥落させるのは一筋縄ではいかないので、万全の体制で臨むべきだろう。しかし、先の合戦で那古野・守山勢共にそれ程被害は出ていない。死傷者は百に満たない。逆に清洲・末森勢は二百人近い死傷者を出しており、戦力差は確実に埋まっている。
それにお市の方も、那古野城の防衛戦が終わって以降、遊んでいた訳ではない。彼女は津島神社の門前町であり、木曽三川(木曽川、揖斐川、長良川)を用いた貿易の河港町、津島町で水運業を営む蜂須賀正勝(=小六)と“川並衆”を口説き落としていた。
「お市様、足軽への装備が一通り終わったでござる」
「一益、それは?」
「虎長お兄様が考案された長柄槍を、天国の協力でより長く、そして重さを抑えた三間半の槍よ。よかった、量産は間に合ったようね」
そこへ重要な軍議に不在だった一益が槍を持って現れた。虎光はその長さに目を見張る。
尾張の足軽は『長柄槍』という、集団戦で先制する為に虎長が考案した長さ五mくらいの槍を装備しているが、お市の方は瀬戸村に住む伝説の刀工、天国(あまくに)に協力を仰ぎ、長さ六.三mに及ぶ『三間半の槍』を開発、量産に成功したのだ。
普通の足軽が持つ長槍(ロングスピア)の長さが二.五mだから、その長さは実に約二.五倍。しかも機動力がそれ程失われていない。
「川並衆を口説き落とし、三間半の槍を開発しただけではなく、量産化まで着手しておったとは‥‥この虎光、恐れ入ったのじゃ」
「では!?」
「ここまで万全の体制を整えたのであれば、儂に反対する理由はない」
「儂の目に狂いはなかった」とお市の方を頼もしく見ながら、虎光が豪快に笑う。いよいよ清洲城・末森城攻めが決定した。
「物見によると、清洲軍はおよそ六百、末森軍はおよそ三百との報告があります」
「対する儂らは、那古野勢が五百、守山勢が三百じゃな」
「数の上では劣勢だけど、武装はこちらが上だから、十分、劣勢を跳ね返せると思うの。問題は那古野城の後詰めの兵だけど‥‥」
一益が物見から報告を伝えると、虎光がこちらの戦力の概算を出す。那古野勢は川並衆と鳴海軍の騎馬隊を組み込んでもこの数だが、勢いはこちらにあるとお市の方は踏んでいる。
問題は那古野城の守備兵にどれだけの人数を割くかだ。数で劣る以上、全兵力を投入したいところだ。那古野城より南の、信行・信忠に与する尾張平織系一族は鳴海城を陥落させた事で無くなっているが、先の合戦のように、清洲軍、あるいは末森軍が手勢を割いて攻めてくる可能性も考えられる。
『那古野城の護りは、儂ら月兎族三姉妹と雪女郎が引き受けるのじゃ』
「月華(つきか)!?」
意外な人物が助け船を出した。化け兎の上位妖怪、妖兎のうち、知多半島のみに生息する『月兎族』の三姉妹が長女、月華だった。
『儂と卯泉(うみ)、美兎(みと)と晶姫(あき)の四人なら二百人くらいなら然したる問題はない』
「に、二百人だと!?」
四人で二百人の軍勢を相手にすると、あっけらかんと言う月華。流石に虎光も驚きを隠せないが、美兎は餅搗き用の杵を愛用する格闘戦の専門家、卯泉は満月輪と呼ばれる刃物の付いた投擲具を愛用する射撃戦の専門家、そして月華はかの大妖怪『九尾の狐』に勝るとも劣らない実力を持っている。更に雪女が加われば、確かに四人で二百人くらいの軍勢を相手に出来てしまうかも知れない。
「で、でも、あなた達は『人間同士の戦い』には、協力してくれないんじゃなかったの?」
『人間同士の戦いならば、な。だが、此度の戦はその限りではない、という事じゃ』
「‥‥」
お市の方が月華に理由を聞くと、彼女は曰わくありげな視線を蘭丸に向け、それ以上は語ろうとはしなかった。
とはいえ、これで後顧の憂いがなくなったのは確かだ。
軍議の結果、お市の方・可成・一益率いる那古野勢五百が清洲城を、虎光率いる守山勢三百が末森城を攻める事になった。蘭丸は月華達と那古野城の防衛に当たる。
だが、一つ問題があった。那古野城から清洲城へ向かうには、庄内川を渡らなければならないのだが、先の合戦で庄内川に架かる二本の橋を二本とも落としていたのだ。
五百人もの兵を船で運ぶのは不可能だし、守山城の方の橋は残っているが、大幅に迂回しなければならない上に向こうの戦局に悪影響を及ぼしかねない。
しかし、清洲軍も那古野勢の渡河をみすみす逃すつもりはないだろう。川岸に陣地を設置して、迎え撃ってくるだろう。
橋桁といった残骸は残っているので、それらを利用して川を渡る事自体は可能だが、待ち構える清洲勢をどう対処するかが問題だ。
●リプレイ本文
●前哨戦
「蜂須賀さん、舟を縄でいくつか繋げ、その上に戸板を載せて、簡単な浮き橋は作れないでしょうか?」
「あっしは水運業者ですぜ? 舟はすぐに用意出来まさぁ」
ハーフエルフのウィザード、ジークリンデ・ケリン(eb3225)は那古野城へ登城すると、お市の方こと平織市(ez0210)へ挨拶もそこそこ、“川並衆”の長、蜂須賀正勝(=小六)へ浮き橋を造る話を持ち掛けた。
浪人の龍深城我斬(ea0031)達が話し合った結果、お市の方が率いる本隊は那古野城を北上し、新川中橋付近から庄内川を渡り、柴田勝家率いる清洲軍を引き付けてる間に別働隊が北西の新名西橋から渡河して、敵陣の背面を衝く策が採られる事となった。
新川中橋付近は庄内川と矢田川が合流する為、川幅が下流に比べて狭く、中洲があり、騎馬隊や大人数が渡るのに向いている。しかし、冒険者達が冒険の技能として水泳を習うように訓練によって身に付くものなので、正勝達川並衆のように水運業を営む者や、漁師でもなければ泳げない者の方が多いのだ。
「自然の様子は水ものです、やっぱり新鮮な情報が一番です」
「梅雨時は過ぎてるし、水嵩も幾分か変わっている事でしょう」
ハーフエルフのレンジャー、ルンルン・フレール(eb5885)が新川中橋方面の渡河予定地点付近を偵察しに行くと申し出ると、志士の神木秋緒(ea9150)も新名西橋方面の庄内川の瀬の浅い場所を調べに行くと告げる。
「お二方、対岸では勝家殿が陣地を構築しているでござる。物見も多めに放っているでござろう。見付からないようくれぐれも注意して下され」
「いざとなったら私、姿だって消せるんですよ、忍法の基本です!」
忍者の滝川一益が注意を促すと、ルンルンはインビジブルの巻物を手に持って胸の前で何やら怪しい印を組んだ。
「だったら、滝川も同行したらどうだ? 敵陣に流言飛語を流してもらうが、隠密行動の心得のあるルンルンの手もあった方がより広まりやすいだろう」
「そのまま一益に弟子入りするといいわ。一益は尾張一の甲賀忍者だから、忍びの技や忍法を伝授してもらえるかもよ?」
「えへへ、師匠、よろしくお願いしますね」
「お、お市様!? 参ったでござるな‥‥」
一益に敵陣へ流言飛語を流すよう頼んだナイトのアリアス・サーレク(ea2699)は、ルンルンの偵察と合わせて行えば一石二鳥と思ったようだが、そこへお市の方のトンデモ発言が飛び出す。ルンルンはお市の方に、この渡河作戦が成功したら報酬の代わりに、忍者の師匠を紹介してもらえないかと願い出ていた。
言ってみるものだとばかりに、ルンルンは満面の笑みを浮かべて一益に頭を下げる。尾張に忍者は多くなく、お市の方も勝家も普段は兵から物見を出しているが、甲賀流の中忍たる一益なら適任だ。
優男の忍者は微苦笑しながら頬を掻くも断る事はなかった。
秋緒と彼女が率いる騎馬隊の数名が見てきた限りでは、新名西橋方面の水嵩は普段通りだった。騎馬隊は地元の者なので間違いない。
ルンルンが偵察に向かった新川中橋方面には、陣地は構築されていなかった。勝家は清洲城に近い新名西橋に主力部隊を布陣し、新川中橋方面から渡河しても急行して迎撃する構えのようだ。
「その分、新川中橋方面に多めに物見を放っていると思うけど、その方が本陣の周りの物見が少なくなって工作しやすいのよねぇ」
とは忍者の百目鬼女華姫(ea8616)の言だ。女華姫は正勝と川並衆と顔合わせをすると、早速、十五名ばかり泳ぎが得意な者を抜擢し、竹や葦を利用した簡易筏を作成していた。
「後は、大まかな陣地の配置が分かれば遣り安いんだけど‥‥」
「闇夜に紛れれば、フライングブルームでも見付かりにくいと思います。夜目が利かない分はブレスセンサーで補います」
女華姫に先んじて、ウィザードのリアナ・レジーネス(eb1421)はフライングブルームで夜闇に紛れて、兵の配置を把握する為に敵陣への偵察に出た。
勝家側の物見を警戒して新名西橋の方から一度大きく迂回し、距離を多めに取りつつ敵陣を望む。篝火の数と高速詠唱したブレスセンサーで陣地の半分近くの配置と兵数を収集する。
「上出来よぉ。篝火の場所が分かれば、後はあたし達にオ・マ・カ・セ・よ」
女華姫は情報をもたらしたリアナにウインクすると、配下の川並衆十五名と共に新名西橋の更に下流から簡易筏を使って庄内川を渡ると、篝火が焚かれる方へ向かう。
「篝火が焚いてあるところは、大抵は物資があるのよねぇ。寝ずの番で可哀想だから、あたしの愛の鞭で眠らせてア・ゲ・ル」
見張りの兵に後ろから忍び寄り、抱き付いてから気絶させる。女華姫に気付いた他の見張りの兵が仲間を呼ぼうとするが、突然襲ってきた眠気に勝てず、そのまま意識を失う。川並衆を纏める小隊長が春花の術を使ったのだ。
「ここにあるのは兵糧と矢のようね。丁度いいわ、片っ端から派手に焼いちゃいましょ」
女華姫が物資の中身をざっと確認すると、川並衆が油壺を次々と投げ、火遁の術で火を付けてゆく。
女華姫達は騒動になる前に退散を始めるが、そこは勝家、侵入者によって火を放たれた報告を受けると、即座に迎撃体制を整えた。
小隊長が微塵隠れで一足先に渡河して那古野城へ戻り、夜襲の成功を報告する。女華姫達も矢が降り注ぐ中、庄内川を泳いで渡り、生還したのだった。
●庄内川渡河作戦
明けて翌日、我斬とジャイアントの志士、風雲寺雷音丸(eb0921)が那古野城へ到着した。
「特殊工作戦闘兵団“我斬団”の諸君、今回も我々の役割は重要だぞ。だが団員も一人増え、更に最新型の槍で戦力も上がった我らに恐れるものは無い! 他隊と歩調を合わせつつ、且つ遅れを取らぬよう根性全開でぶっちぎりだ!」
我斬には、先の『鳴海城攻城戦』を共にくぐり抜けた三十人の足軽隊、我斬団が解体されずにそのまま指揮下に入った。鳴海城攻城戦では一益の指揮下におり、我斬団の働きを直に見ていた足軽が一人増員され、しかも三間半の槍が支給された事もあり、我斬団の士気は最初から最高潮だ。
「お前は槍は持たんでいい。これを持て。お前達二人にはこれをやる。俺達とは別行動をとって大魔女殿を守れ。大魔女殿の魔法が今回の策のキモになる。大魔女殿を守る事を誇りに思え」
雷音丸は配下の足軽隊二十五名のうち、一人に天下無双の旗印を貸し与えて旗持ちにし、二人にライトシールドを渡してジークリンデの護衛に就かせた。
「桶狭間の戦い以来のお市様の武名、お借りします」
「勝つ為には武士にとって卑怯な事以外なら、武名でも衣装でも三間半の槍でも、使えるものは使わないとね」
(「これでも見廻組の一人としては、尾張平織家の内部争いは無関係という訳にはいかないわね。平織家の安定は京の安定、引いてはジャパン全土の安定にも繋がるわ。水無月会議の談話を見るに、お市様は中々に開明的な考えを持つばかりではなく、柔軟な考えの持ち主でもあるのようだし、これからの京を託してみましょうか」)
秋緒は出陣直前にお市の方と装束合わせをしていた。お市の方はジャパン人の人間の女性としては長身だが、秋緒も背は高い方なので、衣装を合わせて騎乗していれば、傍目には秋緒もお市の方に見えなくはない。それにお市の方は武者鎧「白絹包」を愛用しているので、お市の方も秋緒の衣装に合わせやすかった。
「えっと、確か合い言葉は‥‥渡河」
「ちつくちて。勝家は動かないみたいね」
「はい、新名西橋の陣地から動いていません」
ルンルンと彼女が率いる川並衆十一人が偵察から帰ってくると、結果を報告する。
「‥‥この川を突破し、清洲を落とす事が出来たら、噂の『月兎族の温泉』にでも皆を招待してくれ。戦場の凛々しい市様も良いが、平穏に緩んだ市様も見てみたい」
「アリアスからそんな言葉を聞くなんて思わなかったわ。蟹江町にある卯泉(うみ)の温泉かぁ‥‥合戦の疲れをみんなで湯治で癒すのもいいわね。その時は私がアリアス達の背中を流さないと罰が当たっちゃうわ」
お市の方の頭をぽんぽん、と叩くアリアス。言外にこの合戦が終わったら一息ついた方が良い、と告げていた。それは妹を守り、助ける兄の姿だ。お市の方も彼の言いたい事を察し、ちろっと舌を出して応えた。
お市の方を総大将とした那古野軍四百名余りが那古野城を発ち、新川中橋跡へ姿を現す。
勝家の放った物見も軍勢を捉えて即座に勝家へ報告すると、彼は五十名余りを本陣へ残し、百五十名の兵を率いて対岸へ布陣する。
「150人か‥‥数の上では俺達の方が優位だが、清洲攻めの為にも、俺達はここで一兵たりとも無駄に損耗出来ないからな」
「弓兵が少ないようです。女華姫さん達の夜襲が効いているのですよ」
アリアスは先頭に立つと、自身にオーラシールドとオーラボディ、オーラパワーを順に纏わせてゆく。ルンルンが見た限り、女華姫達に弓矢を焼かれた勝家は足軽隊を主軸としたようだ。
勝家軍の上空を巨大な影が旋回してゆく。ロック鳥のマリーナフカだ。まだ若いとはいえ十mの巨体で空を飛び、足に掴んだ岩や大木を勝家軍目掛けて投下する。
尾張兵の弓兵の標準装備である中弓(ミドルボウ)の射程は六十m。マリーナフカの背に乗るリアナは間合いを十分に取り、矢の届かない高度を保っていた。高々度からものを落として当てるのは難しいが、当てる必要はない。ロック鳥という存在と上から降ってくるものに気を取らせればいいのだから。
「突撃ー!」
その隙を衝いて、お市の方が突撃の号を放つ。ジークリンデが用意した浮き橋を、アリアスを先頭に彼の足軽隊が一気に対岸目掛けて駆けてゆく。
ルンルンは百八十mという超射程を誇る魔弓「レッドコメット」に矢を番え、弓兵の足下や弓を狙い、敵の攻撃を殺ぐ離れ業を見せる。狙撃地点を転々と変えるのも忘れない。
リアナもマリーナフカに積んでいた岩や大木を落とし終えると、高速詠唱でライトニングサンダーボルトを唱え、敵兵を撃ち続ける。
アリアス隊が渡河し終わると、三間半の槍の長さを活かして足軽隊が攻撃し、勝家軍の足軽を突き崩していった。
「新名西橋の陣地に50人ばかり残っていますね」
「ここは一気に突入するわよ。柴田殿が残した後詰めに私達の存在を気取られても、それが伝わる前に仕掛けてしまえば問題無いもの」
ジークリンデがテレスコープの巻物を開いて敵陣の動向を探ると、秋緒は今が好機だと告げる。
雷音丸の配下2名と我斬団5名に守られたジークリンデは、マジカルエブタイドの巻物を使って庄内川の水位を下げ、秋緒達別働隊も川を渡る。その間、ジークリンデは敵陣目掛けて超越ランクのファイヤーボムを撃ち込んだ。
「‥‥ジークリンデが味方で本当に良かった。数名ここに残って生きている清洲兵を確保し、手当てしてやれ」
超越ランクのファイヤーボムを撃ち込まれた勝家軍の陣地は半壊していた。その威力にジークリンデが味方で良かったと胸を撫で下ろしつつ、我斬は我斬団より数名をこの場に残して生存者の手当に当たらせ、勝家軍の本隊を目指す。
やがてアリアス隊と交戦状態に入っている勝家本隊の背後が見えてくる。
『勝家は布陣の中央にいます。その位置からでは狙いにくいでしょう』
事前にお市の方から聞いていた、勝家らしき背格好の武将の姿をマリーナフカの背から見付けたリアナが、ヴェントリラキュイでジークリンデ達へ伝える。彼女は勝家本隊の後方へ超越ランクのマグナブローをぶち当てる。アヴァロンの滴は先のファイヤーボムで使い切っており、これで魔力が枯渇したジークリンデは後方へ下がった。
「平織市、参る!」
面頬で顔を隠した秋緒が、長槍(ロングスピア)を高らかと掲げながら名乗り上げ、十騎の騎馬隊と共に突撃した。
交戦中の部隊は後ろや横からの攻撃に弱い。そこを衝かれると崩れてしまう事も少なくない。前方でお市の方が指揮している部隊を本隊だと思って戦っていた勝家軍の兵は、後方からマグナブローを喰らい、且つ、平織市を名乗る女性が突撃してきた事で混乱し始めた。
(「弓兵はルンルンが無力化してくれたようね。私は侍を狙う!」)
流石に勝家が指揮しているだけの事はあり、総崩れにはなかったが、侍隊に綻びを見出した秋緒は愛馬雲竜に跨り、自ら先頭を駆け、長槍で突き崩してゆく。槍を持った足軽が作る槍ぶすまは、騎馬隊にとっては脅威だからだ。
「我斬団、市さんの後に続けー!!」
雷音丸が法螺貝を吹き鳴らし、部下達に鬨の声を上げさせると、我斬団と共に秋緒隊の開けた穴へ怒涛の突撃を敢行する。雷音丸はスマッシュEXを叩き込み、立ち塞がる雑兵を薙ぎ払ってゆく。女華姫達川並衆は彼らの側背から攻撃する。
前方ではアリアスとお市の方、一益と可成が総攻撃に転じ、ルンルンがアイスチャクラで援護した。
「ガァアアア、柴田勝家! 今一度俺と戦え! 今度こそ俺が勝つ!!」
雷音丸の一騎打ちの申し込みに、勝家も再度応じた。しかし、彼はシールドソードと妖精の盾を構える雷音丸の姿に、あからさまに落胆した表情を浮かべる。
雷音丸は勝家の攻撃を二枚の盾で防ぎ、ポイントアタックで確実に攻撃を当ててゆく、勝つ為の装備だ。しかし、勝家は戦闘馬に騎乗し、十文字槍を装備している。間合いでは勝家の方が上で、雷音丸は勝家の攻撃を盾で防ぐものの、攻撃するには近付かなければならず、十文字槍の穂先で往なされてしまう。
案の定、お互い有効打を決められないまま、千日手の様相を呈し始めた。すると勝家は馬を走らせて雷音丸へ突撃して来るではないか。妖精の盾を構えると、彼はそのまま吹き飛ばされてしまう。
「亀のように二枚の盾で守りを固め、好機を待つのも悪くはないが、決め手に欠ければやはり勝てんぞ」
「負け惜しみを!」
一騎打ちの間に勝家軍は残存兵力を結集させていた。勝家はそのまま踵を返して退却してゆく。リアナが上空からライトニングサンダーボルトで行く手を阻むが、一、二撃で退路を完全に断つのは難しかった。
挟撃作戦は成功を収め、お市の方はあまり被害を出す事なく、五百名の那古野兵が庄内川を渡った。
逆に勝家軍は五割以上の兵を失って撤退していった。
『柴田勝家は平織市と通じている。でなければ敵中深く攻め入りながら冒険者1人の身代金で軍を引くはずがない』
『今回も無駄に兵を損ね、清洲を落とし易くする為の出陣だ』
しかも、撤退した勝家軍が流言飛語を清洲城へ持ち帰り、彼は最前線から外される事となる。
「長く、軽いだけでなく、重量配分が絶妙だ。これだけの物を一品物なら兎も角、量産するってのは凄いよなぁ。流石伝説の名工、天国(あまくに)だ」
「後の世に平織槍や市槍と呼ばれそうな、画期的な武器だな」
ルンルンは正式に一益に弟子入りし、我斬とアリアスは三間半の槍を譲り受けた。