【尾張統一】末森城攻め

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月13日〜08月20日

リプレイ公開日:2007年08月24日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 藩主・平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)と、虎長の息子・平織信忠を擁する虎長の弟・平織信行とに真っ二つに分かれ、尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座を巡って対立姿勢を強めていた。
 そして遂に、尾張の統一を賭けて、お市の方と信行・信忠との間で合戦が行われたのだった。


 ――那古野城。お市の方の本拠地だ。
 那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に建造中の、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。


 那古野城では軍議が開かれていた。
 先の戦で、那古野城へ攻めてきた信忠の清洲軍五百五十に対し、お市の方は那古野勢三百五十でこれを撃退。お市の方のおじ、平織虎光が居城、守山城を攻める信行の末森軍三百を、虎光は三百の兵を以て防衛に成功。その間、お市の方の片腕、滝川一益が率いる那古野勢百五十が、信行・信忠に与する那古野城の南東に位置し、知多半島防衛の要衝、鳴海城を攻めて陥落させ、勝利で初戦を飾った。
「『昔の善く戦う者は先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ』と言うじゃない。信行兄様や信忠が反撃の体制を整える前にこちらから討って出るべきよ」
「だが、先の合戦で疲弊しているのは儂らも一緒じゃ。それに清洲城、末森城共に、虎長と信行が贅を尽くして築いた堅牢な城ぞ。儂らも万全の体制を以て臨むべきじゃ」
 華国の兵法書孫子を引用して、勝ち戦の勢いをそのままに早く討って出るべきと主張するお市の方。一方、虎長の死後、一貫して尾張平織家の藩主にお市の方を支持している虎光は、『勝って兜の緒を締めよ』と、勝ち戦だからこそ足下を掬われないよう盤石の体制を整えるべきと主張し、軍議は平行線を辿っていた。
 お市の方の小姓・森蘭丸とその父、森可成(よしなり)、虎光配下の武将・丹羽長秀も軍議に参加しているが、蘭丸は小姓故に中立を保ち、可成はお市の方を支持、長秀は虎光を支持しているのでなかなか決まらない。
 那古野・守山勢の総大将はお市の方なので、彼女が進軍を強行する事も可能だが、踏み切れないのは虎光の主張も一理あるからだ。
 清洲城は生前の虎長の居城であり、尾張平織家の本拠地だ。『尾張一の名城』と謳われるのは伊達ではなく、内堀・中堀と二重の堀を巡らした上にその外周を土塁で囲み、大天守・小天守の二つの天守閣を持つ大城郭だ。
 また、末森城は、東西約百八十m、南北約百五十mの規模を誇る平山城だ。周囲を深さ七m、幅十二mの空の外堀で囲み、本丸、二之丸を囲むように中堀もある。
 清洲城・末森城共に、陥落させるのは一筋縄ではいかないので、万全の体制で臨むべきだろう。しかし、先の合戦で那古野・守山勢共にそれ程被害は出ていない。死傷者は百に満たない。逆に清洲・末森勢は二百人近い死傷者を出しており、戦力差は確実に埋まっている。
 それにお市の方も、那古野城の防衛戦が終わって以降、遊んでいた訳ではない。彼女は津島神社の門前町であり、木曽三川(木曽川、揖斐川、長良川)を用いた貿易の河港町、津島町で水運業を営む蜂須賀正勝(=小六)を口説き落としていた。正勝は“川並衆”と呼ばれる配下を率いて木曽三川の無法地帯一帯を取り締まり、時には船から通行税を取る、尾張藩公認の私掠船を束ねていた。虎長亡き後、信行は泥棒紛いの私掠船を良しと思わず、その認可を取り消してしまった。津島湊は那古野城に近い事からお市の方が私掠船の身分を保障する代わりに、那古野勢へ付くよう交渉したのだ。
 尾張藩内の主要な街道は、街道が集まる交通の要所・清洲城を手中に収めた信行が押さえいる。しかし、流石に川までは監視の目も行き届かないので、お市の方は正勝に頼んで、依頼を受けた冒険者達を舟を使って那古野城まで連れて来ていた。
「お市様、足軽への装備が一通り終わったでござる」
「一益、それは?」
「虎長お兄様が考案された長柄槍を、天国の協力でより長く、そして重さを抑えた三間半の槍よ。よかった、量産は間に合ったようね」
 そこへ重要な軍議に不在だった一益が槍を持って現れた。虎光はその長さに目を見張る。
 尾張の足軽は『長柄槍』という、集団戦で先制する為に虎長が考案した長さ五mくらいの槍を装備しているが、お市の方は瀬戸村に住む伝説の刀工、天国(あまくに)に協力を仰ぎ、長さ六.三mに及ぶ『三間半の槍』を開発、量産に成功したのだ。
 普通の足軽が持つ長槍(ロングスピア)の長さが二.五mだから、その長さは実に約二.五倍。しかも機動力がそれ程失われていない。
「川並衆を口説き落とし、三間半の槍を開発しただけではなく、量産化まで着手しておったとは‥‥この虎光、恐れ入ったのじゃ」
「では!?」
「ここまで万全の体制を整えたのであれば、儂に反対する理由はない」
 「儂の目に狂いはなかった」とお市の方を頼もしく見ながら、虎光が豪快に笑う。いよいよ清洲城・末森城攻めが決定した。


「物見によると、清洲軍はおよそ六百、末森軍はおよそ三百との報告があります」
「対する儂らは、那古野勢が五百、守山勢が三百じゃな」
「数の上では劣勢だけど、武装はこちらが上だから、十分、劣勢を跳ね返せると思うの。問題は那古野城の後詰めの兵だけど‥‥」
 一益が物見から報告を伝えると、虎光がこちらの戦力の概算を出す。那古野勢は川並衆と鳴海軍の騎馬隊を組み込んでもこの数だが、勢いはこちらにあるとお市の方は踏んでいる。
 問題は那古野城の守備兵にどれだけの人数を割くかだ。数で劣る以上、全兵力を投入したいところだ。那古野城より南の、信行・信忠に与する尾張平織系一族は鳴海城を陥落させた事で無くなっているが、先の合戦のように、清洲軍、あるいは末森軍が手勢を割いて攻めてくる可能性も考えられる。
『那古野城の護りは、儂ら月兎族三姉妹と雪女郎が引き受けるのじゃ』
「月華(つきか)!?」
 意外な人物が助け船を出した。化け兎の上位妖怪、妖兎のうち、知多半島のみに生息する『月兎族』の三姉妹が長女、月華だった。
『儂と卯泉(うみ)、美兎(みと)と晶姫(あき)の四人なら二百人くらいなら然したる問題はない』
「に、二百人だと!?」
 四人で二百人の軍勢を相手にすると、あっけらかんと言う月華。流石に虎光も驚きを隠せないが、美兎は餅搗き用の杵を愛用する格闘戦の専門家、卯泉は満月輪と呼ばれる刃物の付いた投擲具を愛用する射撃戦の専門家、そして月華はかの大妖怪『九尾の狐』に勝るとも劣らない実力を持っている。更に雪女が加われば、確かに四人で二百人くらいの軍勢を相手に出来てしまうかも知れない。
「で、でも、あなた達は『人間同士の戦い』には、協力してくれないんじゃなかったの?」
『人間同士の戦いならば、な。だが、此度の戦はその限りではない、という事じゃ』
「‥‥」
 お市の方が月華に理由を聞くと、彼女は曰わくありげな視線を蘭丸に向け、それ以上は語ろうとはしなかった。
 とはいえ、これで後顧の憂いがなくなったのは確かだ。


 軍議の結果、お市の方・可成・一益率いる那古野勢五百が清洲城を、虎光率いる守山勢三百が末森城を攻める事になった。蘭丸は月華達と那古野城の防衛に当たる。

●今回の参加者

 ea0517 壬生 桜耶(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0927 梅林寺 愛(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9032 菊川 旭(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1525 アルブレイ・ハイアームズ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3111 幽桜 虚雪(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7679 水上 銀(40歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9091 ボルカノ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

菊川 響(ea0639)/ アウル・ファングオル(ea4465)/ 黒崎 流(eb0833

●リプレイ本文


●酌み交わす杯
 守山城の内外には篝火が焚かれ、夜でも明々と灯っている。その下で、足軽達が末森城攻めに必要な矢避けの板や竹束、背に総大将・平織虎光の家紋の入った旗を付けた案山子(かかし)、人力によるせり出し式の堀越橋の作成に勤しんでいる。
「案山子は人数稼ぎに必要ですから、いくらあっても足りない事はないですよ」
「矢避けの板は持ち運びしやすいよう取っ手を付け、竹束は運搬しやすいよう荷車を用意してくれ」
 志士の壬生桜耶(ea0517)と菊川旭(ea9032)は、先にシフール便で準備するものを指定しておき、自らも愛馬の春日と杜松を駆って一足先に守山城へ登城し、作業を手伝っていた。
「虎光殿から聞いた話じゃ、末森城の周囲を囲む深さ七m、幅十二mの空堀が一番厄介だからね。これをどう攻略するかが肝だけど」
 愛馬の舞で守山城へ入った浪人の水上銀(eb7679)は、同じく愛馬で駆け付けたハーフエルフのナイト、アルブレイ・ハイアームズ(eb1525)が指揮する足軽隊の様子を見に来た。
 銀は外堀を越える為に、梯子とそれに填まる形の木板を用意し、現地に着いたら組み立てられる簡易橋を考えていたが、アルブレイは更にその先を行っていた。
 彼は指揮下に入った足軽二十六人を三組に分け、実用に耐えるものを作った班に三十Gの褒賞を提示した。褒賞はアルブレイの自腹だが、人間は現金なもので、褒美がもらえるとなるとつい頑張ってしまう。アルブレイは競争原理を取り入れた結果、彼が考案した設計より幾分強度が高く、且つ軽量化された堀越橋が完成した。
「頑張った者、優れた技には対価が支払われるのですよ。後は実用テストですが、早めに向かって敵の目の届かないところで動かし、調整するのが理想ですが‥‥」
「既に私達が戦の準備をしている事は、末森城側も物見を放って分かっているはずです。守りを強化していれば、目の届かないところはありませんよ」
 ジャイアントのナイト、ボルカノ・アドミラル(eb9091)の意見はもっともだ。
「敵兵も同じ尾張平織家に使える武士達、十分な治療を与えれば味方になる可能性は高まるでしょうし、あって損はないと思ったのですが‥‥」
 “歩く武器庫”の異名を持つジャイアントのファイター、デルスウ・コユコン(eb1758)は、支援の一環として六百個ものリカバーポーションを虎光へ提供しようとした。しかし、いざ神聖騎士のアウル・ファングオルが彼のお使いで買い付けに行くと、そんなに大量のリカバーポーションは即座に用意できないと断られてしまった。
 また虎光も、本隊が掲げて守山勢の勇気と忠誠心を高揚させるようドラゴンバナーを借りながら、デルスウの気持ちだけ有り難く受け取った。
「人同士‥‥ましてや血を分けた同族で戦わねばならないとは‥‥虚しいのですよ」
「同族を殺めるという愚行は、この老い耄(ぼ)れで終わりにせんとな」
 忍者の梅林寺愛(ea0927)の髪を、孫を可愛がるお爺ちゃんのようにくしゃくしゃと撫でる虎光。彼女はくすぐったそうにうっとりとした。
 尾張は抜け忍となった愛が生まれ変わる事の出来た場所、いわば第二の故郷だ。この地に再び安寧を齎す為に、韋駄天の草履を履いて馳せ参じていた。
 ――誰の為に? 愛の脳裏を赤毛のツインテールの少女の悲しそうな姿が過ぎるが、それは沈痛を伴って一瞬で消えた。
「どうした?」
「‥‥いえ、では私は末森城の様子を観察してくるのですよ」
 こめかみを押さえたものの、沈痛は一瞬で収まったので、愛は虎光に心配を掛けまいと自分の二の腕を叩いて物見へ出掛けた。


 出陣の準備を整えた小隊から、戦勝祈願の出陣酒が振る舞われた。
 自分が指揮する足軽十名と顔を合わせたデルスウは、リカバーポーションを配布すると、親睦を深める為に一緒に酒を酌み交わしている。
「尾張が虎光様とお市様によって統一されれば、長州藩との和平に対し、大きく事が進みます。この戦、必ず勝利して、平和への道をお市様へ捧げましょう」
 ボルカノは先の『守山城防衛戦』を共にくぐり抜けた足軽達と親睦を深めている。一度、指揮している事もあり、気心は知れている。
「無理を通せば道理が引っ込む。その程度には期待されているのでしょう。でも、無理は身体によくないですからね?」
 アルブレイも同じく、先の『守山城防衛戦』で指揮した足軽隊が解体されずにそのまま指揮下に入り、新たな隊員も増えたので、自身の考えを説いていた。
「末森城は三河藩に備える為に築城されたものと聞いたが、家康殿の状況を鑑みるに、現在の三河藩を敵とするべきではないだろう」
「市は、尾張統一を果たした暁には、三河の源徳と同盟を結びたいと思っておるようじゃ」
 末森城は、守山城と合わせて三河藩や駿河藩の侵攻に備えた防御線として築城されたものだと、旭は聞いていた。
 源徳家康が江戸を失い、三河藩へ落ち延びた現状を見る限りでは、先の桶狭間の戦いのように武田信玄が三河藩を通るような非常事態でもない限り、家康が尾張を攻めるとは考えにくい。
 虎光も末森城そのものは半壊くらいなら問題ないと応えた。また、旭よりお守り代わりに渡された身代わり人形のお返しに、完成したばかりの三間半の槍を彼へ贈った。
「それより兵の消耗の方が尾張にとっては問題だな。一枚岩となる為に‥‥信行殿の処遇は虎光殿にお任せしたいところだ」
「‥‥市は信忠共々粛正するじゃろうな‥‥」
 一枚岩となる為には、誰かが責任を取らなければならない。目を伏せて杯を煽る老兵に、旭も沈黙を以て杯を空ける。
「‥‥虎光殿と再び共に刀を振るえる事嬉しく思いますよ。隠居などと仰らず、これからもお市様を支えてあげて下さい。この戦が終わっても尾張は落ちつくには時間が掛かるでしょうし。そのお智慧、腐らせるにはまだまだ早いですよ」
「そうそう。この前、『ジャパンの未来を切り開くのは銀殿達、若い世代じゃ』なんて言ってもらったからね。『若い』なんて言われちゃ、張り切るしかないよ」
「市も虎長の遺志を継がねば今頃は‥‥儂は市の白無垢姿を見るまでは生き終われんよ」
 桜耶が虎光の杯に新しい酒を注ぎ、銀が笑いながら杯を合わせる。虎光は齢六十四、初老を超えており隠居しもおかしくない歳だが、彼にも尾張平織家統一以外に目標があった。


 愛は薬売りに変装し、服の下に忍装束を着込み、更にその下、豊満な胸の谷間など至るところに盗賊道具一式を隠し持ち、末森城下へ向かった。
 合戦中でも城下町へ入る事は出来るので、薬の行商へ来た振りをしながら、愛は末森兵の隙を観察する。先の守山城攻めに失敗し、士気が低迷していると思っていたが、意外にも士気はそれ程低くない。
 信行が人心掌握に長けているのか、それとも末森兵にとって良き主君なのかも知れない。
「聞いた話ですと、何でも守山軍の武装は、魔法の武器だそうです」
 行商の雑談として、彼女は真偽を入り混じらせた噂を流布してゆく。噂の域を出ない情報では、内通者を錯覚させるような相互不信を招く結果は難しいが、敵軍の情報は少しでも欲しいもの。上手くいけば指揮官にまでこの偽情報が伝わるだろう。
「それでは‥‥参るのですよ」
 そして日が暮れると、愛は隠密の血を解き放つ。忍装束姿に黒子頭巾を被り、油の容器を腰に提げて、愛犬・玩丸に城下町の外で待機するよう命じ、単身、末森城へ潜入した。
 疾走の術と湖心の術を併用し、篝火が赤々と焚かれる中でも死角となる暗い場所を選んで外堀を這い、城壁をよじ登って本丸へ辿り着く。この辺りは虎光から聞いた通りの構造だ。
『投降すれば家族の為にも生きられる』
 天守閣の内部構造を把握しながら男声で密かに扇動を試みるも、逆に侵入者の発覚を許してしまった。内部の守りを任されるのだから、信行への忠誠心に篤い者達という事を失念していたようだ。
 潮時だと悟った愛は油で武器庫に火を付け、混乱に乗じて脱出し、玩丸と合流して守山城へ戻った。
「願わくば一人でも多く‥‥生き延びるのですよ」
 愛は到着した忍者の幽桜虚雪(eb3111)に情報を引き継ぎ、出陣する彼女達を見送りながら、全員の武運を祈るのだった。


●末森城の戦い
 虚雪はデルスウから大凧を借りると、守山勢の進軍に先んじて末森城を上空から偵察した。尾張兵の弓兵の標準装備は射程六十mの中弓(ミドルボウ)なので、高度は八十mくらいを保つ。
 末森城の建物の配置は愛や虎光から聞いた内容と同じだ。外堀はいくつか架ける橋があるが今は架かっていないし、幅が極端に狭そうなところもない。
 兵の配置は表門が主で、裏門はあまり多くない。虚雪を見付けて矢で迎撃しているのが弓兵だ。完全に籠城戦の様相を呈している。
「完全に引き籠もってるねぇ。まぁ、忍者が潜入して、武器庫焼いたんだから無理もないけど」
「ですが、表門に戦力が集中しているのは助かります。銀隊が外堀を越えて、桜耶隊、虚雪隊が表門を攻める、二重の囮に気を取られている間に、私の隊とデルスウ隊、旭隊が裏門からの突入を試みる、当初の予定通り搦め手で行きましょう」
 虚雪が進軍中の守山勢に戻って偵察の結果を報告すると、ボルカノが作戦の手順を確認した。
 デルスウや銀の理想は夜明け前の奇襲だが、馬や韋駄天の草履といった移動手段のない虚雪が尾張に着いた時には合戦当日だし、何より三百人の兵を移動させていれば末森軍の物見に見付かってしまうので無理だった。


 三百名近い守山勢が末森城の城門前へ姿を現す。表門が開かれる気配はない。虚雪が偵察してきた通り、中で待ち構えているのだろう。
 虎光が大声で名乗りを上げて宣戦布告をすると同時に、右翼に展開していた銀隊の足軽十三名が、矢避けの竹束を前面に構えながら外堀の角へ木橋を運び、角を利用してT字型に組み合わせ、強固な架け橋を組み上げた。
 そのまま竹束を構えて外堀を渡るも、城内より矢が雨霰と降り注ぐ。
「丹羽殿!」
 銀の合図で虎光の片腕、丹羽長秀が率いる弓隊が城内へ射掛け、援護射撃を行う。時を同じく、総大将の虎光率いる侍隊が左翼より、銀隊と同じく架け橋を組み上げ、城壁へ取り付く。
 その時、アルブレイが宙を舞った! ――正確には堀越橋で外堀ばかりか、城壁すら越えてしまったのだ。
 彼が作成した堀越橋は、長さ十二mの梯子を上下に重ね、互の字の上下棒を無くし、寝かせた形をしている。上下の梯子を前後にずらす事で、最大二十二mまで伸びる接ぎ橋となる。しかも、先端に大人四人が乗れるだけの強度を保っていた。
 足軽三人を含めた四人だけで城内へ乗り込めば、瞬く間に囲まれてしまう。
「生き終わりたい人からどうぞ、三途の川の渡し賃ぐらいは奢りますよ?」
 しかし、アルブレイは物怖じせず、逆に満面の笑みを浮かべてジャイアントソードを構えた。
「アルブレイ隊がいち早く城内へ乗り込んだ! 我が隊も後に続くが、敵大将を討ち取るのは我が隊だ!」
 アルブレイ隊の堀越橋は後続の足軽を運んだ後、そのまま表門前へ架けられる。桜耶は霊剣を掲げて二十三名の侍隊を鼓舞し、士気を高めた。「大きく出過ぎたかな」と心の中で苦笑しながらも、桜耶自身も自分を奮い立たせる。
「さぁ、あたし達も行くよ! 道を開きにね!」
 虚雪も足軽隊七名と共に、竹束を構えて桜耶隊の後に続く。
 左右に分かれさせられた末森軍の弓兵が表門前に集結する前に、破砕槌(ラージハンマー)を持った虎光の分隊が表門を破壊、桜耶隊と虚雪隊が城内へ雪崩れ込む。アルブレイ隊が閂を緩めておいたお陰だ。
 そのアルブレイ隊は壊滅寸前だった。アルブレイが格闘に長けていても、個人が相手に出来るのはせいぜい二人まで、後続を呼んで三間半の槍の間合いを活かしても、数で押し切られてはどうしようもない。
「本隊へ戻って応急処置を受けて! 戦えるようなら再出撃だよ!」
 足軽の長柄槍をかいくぐりスープレックスで投げながら、アルブレイ隊に一時退却を促す虚雪。銀隊、虎光本隊・分隊、長秀隊も次々と城内へ躍り込んでいる。アルブレイ隊が退却しても問題ないだろう。
 アルブレイは小隊長に退却を命じつつ、自身はヒーリングポーションとリカバーポーションを併用して快復すると、敵に紛れるように二の丸を目指した。


 旭の鷹、山桜桃が虎光本隊からの狼煙を見付けると、いち早く主人へ報せる。
「表門の方は成功したようだ」
 それが合図となり、いよいよ搦め手が動く。
 山桜桃は侍の菊川響のオーラテレパスで油壺を裏門に投下するよう言われており、旭隊弓兵十六名が裏門へ射掛けるのに合わせて、上空より油壺を落とし始める。
 五十名近い部隊の移動に気が付かない可能性は低いが、表門に陣取った本隊の人数を案山子で水増ししている上に、表門に総攻撃を受けているので、裏門の兵も表門へ割きたいところ。
 ボルカノ達はそこを衝いたのだ。
 旭隊が末森軍の弓隊を牽制している間に、ボルカノ隊は三人一組で矢避けの板を傘のように使用し、降り注ぐ矢を防ぎながら外堀へ橋を架け、デルスウ隊を裏門へ送り届ける。
 デルスウは裏門へ取り付くと、大槌(ラージハンマー)で城門を破壊しに掛かり、旭はその間、火矢へ切り替えて射る。山桜桃が油壺を落とし続けたお陰で、裏門の周りに火の手が上がった。燃え移っても城壁を焼く事はないが、心理的に消化しなければならない、と働く。その分、敵の反撃を遅らせる事が出来た。
 叩き続けてようやく城門を粉砕すると、ボルカノ隊がいち早く裏門から城内へ雪崩れ込んだ。ボルカノ隊は三間半の槍の長さを最大限利用し、三人一組で左右、正面より交互に槍を突き出す波状戦法で、末森軍の侍隊や足軽隊が接近する間に倒してゆく。
 デルスウ隊はボルカノ隊の側面に陣取り、彼らがいち早く本隊と合流できるよう支援に徹した。デルスウが前へ出て囮となり、スマッシュ+ソードボンバーで敵の小隊を切り崩し、足軽隊が穂先を並べて制圧、圧迫を繰り返す。
 もちろん、旭隊の的確な援護射撃も忘れてはいけない。


 銀と虚雪の隊により中堀にも板の橋が架けられ、旭達は本丸で合流した。裏門からの奇襲が成功し、表門の本隊と挟撃する形となり、末森軍は圧され気味だ。しかし、矢面に立つボルカノ達も無傷とはいかず、支給されたポーションのみならず、各自やデルスウが用意したポーションも飲んで快復を図り、末森兵に一息すら付かせぬまま本丸への総攻撃を開始した。
「林秀貞とお見受けする」
 いち早く本丸へ辿り着いたアルブレイは、弓隊を率いる平織信行の家臣、林秀貞と相見え、これを撃退。
「平織信行殿、いざ尋常に勝負!」
 桜耶は総大将の平織信行と対峙した。彼はバーニングソードを付与し焔を吹き上げる霊剣と小太刀の二刀流で、重傷を負いつつも信行を敗った。


 これにより末森城は陥落したのだった。