栗ご飯は三杯はいける!

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 97 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月10日〜10月17日

リプレイ公開日:2007年11月03日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 暗殺された藩主・平織虎長の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
 尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を宣言した。
 『天下布武』はあくまでお市の方の宣言であり、そこに蘇ったと噂される虎長の姿は一切無かった‥‥。


 ――熱田神宮。那古野城下の南に位置する、神社とその門前町だ。
 熱田神宮の祭神『熱田大神(あつたのおおかみ)』とは、神器の一つ『草薙剣』の神霊であり、それ故、熱田神宮は伊勢神宮に次ぐ権威のある大宮として栄えている。
 また、尾張平織家の守り神として、尾張平織家の家宝『小烏丸(こがらすまる)』が奉納されている。その性質から熱田大神は刀匠達に信仰されているが、太刀「造天国」や太刀「天国」を手掛けた伝説の名工『天国(あまくに)』が、生前の虎長の誘致を受けて尾張に移り住んだ事はあまり知られていない。


 熱田神宮の門前町は、今日も多くの参拝者で賑わっている。参拝者の多くは農民で、今年採れた米といった作物を奉納しに来ていた。
 なので、参道沿いの参拝客を相手とした茶店はどこも大賑わいだ。
「んー、美味い!」
 その一角に彼女は居た。店頭に置かれた長椅子に座り、美味しそうに栗ご飯を口へ掻き込んでいる。
 その光景が珍しいのか、立ち止まってじろじろ見る程ではないが、大半の通行人が人目見遣ってゆく。
「お代わりを頼む」
「大丈夫かい?」
「金ならちゃんとある」
 エルフの女性が空になった茶碗を店内へ向けると、給仕の女性がやってくるが、不安そうな表情を浮かべていた。エルフの女性は懐にしまってあるゴールドの入った小袋を見せた。
 人間とジャイアント以外の種族が熱田神宮を訪れる事はあまりないので、そういう意味でも珍しいといえた。
「いや、お金の事じゃなくて、あんたのお腹の方だよ。もう三杯目だよ」
「ああ、この1杯で終わりにするさ」
「食欲が旺盛な事は良い事だけどね」
 エルフの女性は、同性から見ても溜息が出るくらい煌びやかなブロンドヘアを湛え、胸元やへそを大胆に露出したパフスリーブの上着を着、丈の短いスカートを穿いている。気の強そうな顔立ちから“男装の麗人”といった容貌だ。
 給仕の女性は、線が細く、抱き締めれば折れてしまいそうな彼女の身体を案じていたようだ。しかし、エルフの女性の言葉を聞き、微笑んで三杯目の栗ご飯を持ってきた。
 エルフの女性の名はフリーデ、火のウィザードにして薬の材料を求めて各地を流浪している漂泊者の薬師(くすし)だ。
 熱田神宮に今年採れた農作物が集まると聞き、その中から薬の材料になりそうなものがないか調べにやってきて、この茶屋に立ち寄っていた。
「イギリスでは焼き栗が屋台で売られているが、米と一緒に炊き込むとこんなにも合うとはな」
「これはおまけだよ、よかったらどうぞ」
「これは‥‥?」
 給仕の女性が、フリーデが食べ終わる頃を見計らって橙色の食べ物を持ってきた。
「知らないのかい? 柿だよ。まだちょっと渋いけど、食べられるよ」
「‥‥う!? た、確かに最初は渋いが、後からほんのりと甘みが来るな。ジャパンは果物も豊富だな」
 柿はヨーロッパにはないので、フリーデは知らなかった。
 一口放り込み、渋さに顔を顰めた後、甘さがやってくる。
「ごちそうさま、美味かったよ。そうだ、栗やこの柿が採れる場所を教えてもらえないだろうか? 出来れば地元の者があまり立ち寄らない場所がいいのだが」
 すっかり栗ご飯と柿の虜になったフリーデは、自身も採りに行きたいと思ったようだ。給仕の女性は知多半島近くまで行けば、地元の者もあまり立ち寄らず、栗や柿が採れるだろうと教えてくれた。
 ただ、知多半島には妖怪の国があり、また、全長三mを越える蟷螂や人喰樹といった巨大なモンスターが住み着いている事から、地元の者は立ち寄らないのだと注意も付け加えた。今年の春先に雪女が知多半島近くの集落から少女達を攫った事件が起こっており、特に妖怪の国は危険視されていた。
「危険だろうが、薬の材料になりそうなものがあれば採りに行く。それが薬師ってものだ。それに腕に自身のある者を誘うつもりだから心配ない」


 斯くして京都の冒険者ギルドに、栗拾いと柿狩りの依頼が張り出された。
 大蟷螂や人喰樹と遭遇する可能性はあるが、栗の炊き込みご飯にデザートに柿というのも乙なものだろう。また、しめじや松茸といった茸の季節でもある。腕に自信があるなら受けてみてはどうだろうか?

●今回の参加者

 ea5443 杜乃 縁(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3747 蔵馬 沙紀(35歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5655 魁 豪瞬(30歳・♂・ナイト・河童・華仙教大国)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

雷瀬 龍(eb5858

●リプレイ本文


●お色気対決?
 栗の炊き込みご飯と秋の味覚三昧の六泊七日の旅を企画したエルフの薬師(くすし)フリーデ・ヴェスタは、待ち合わせ場所に京都の冒険者ギルド前を指定した。
「栗ご飯‥‥美味しそうですねぇ‥‥」
「柿もちょっと早いけど、もう少しで食べ頃を迎えるのよねぇ」
 志士の杜乃縁(ea5443)と僧侶の頴娃文乃(eb6553)は、ホクホク顔でフリーデと挨拶を交わした。
 この二人、ある意味対極的な容姿をしている。
 縁は長身だが顔の線が細く、一歩引いた態度はどこか奥ゆかしい。引っ込み思案と言ってしまえばそれまでだが、その立ち姿はどこか儚く、“護ってあげたくなるタイプ”だろう。
 一方、文之は墨染めの僧衣の胸元を大胆に開け、黒部渓谷も真っ青の深い深い双房の谷間を惜しげもなく晒している。蠱惑的な厚めの唇に微笑を浮かべ、しっとりとした色香を纏っている。
「これは‥‥凄い破壊力だな。“フェロモンプリースト”の説法を受けたら、並大抵の男性では一溜まりもあるまい」
 とは、志士の蔵馬沙紀(eb3747)の、文乃を見た第一印象だ。胸元やへそを大胆に露出したパフスリーブの上着を着て、丈の短いスカートを穿いているフリーデと並ぶと、露出こそフリーデの方が上だが、肉体的な色香は文乃の方に軍配が上がる。
 同性にそこまで言わしめさせるフェロモンプリースト、恐るべし。生業は獣医さんだけど。
 そういう沙紀も、長身で筋肉質だが、文乃に負けず劣らず大きな胸を湛える、凛とした顔立ちのクールビューティーだ。縁よりも頭半分高い長身だからこそ、メリハリの利いたスタイルもより栄える。綺麗な碧の瞳はハーフの証であり、最近まで海外に武者修行に行っていた。
「蔵馬沙紀だ。沙紀で良い。あたしはまだ経験は浅いが、護衛として精一杯尽力する。フリーデさん、どうかよろしく」
「ああ、よろしく頼むよ。俺もフリーデと呼び捨てで構わない」
「イロケタレナガシ、メスばかリ! オルわァ!」
「‥‥は? 色気垂れ流しの雌ばかり?」
 握手を交わす沙紀とフリーデ。二人に失礼な事を言うのは、繋がり眉毛が素敵で印象的な(=一度見たら忘れられないくらいに!)、赤いバンダナを巻いた修行中のナイト見習いの河童、魁豪瞬(eb5655)だ。
「『美しい女性達と旅ができて、ミーも護り甲斐があるのぢゃ!』‥‥と言っている、ようです‥‥」
 その言葉をそのまま受け取ったフリーデがばつが悪そうに蜂蜜色の髪を掻くと、通訳を生業とする縁がジャパン語訳する。
 豪瞬は華国出身の元武道家で、ジャパン語が話せず、言葉が変になって誤解を受ける事があるようだ。
「なら、ゲルマン語で喋ってくれて構わない。俺は大半の言語は操れるからな」
『そう言ってもらえると助かるのぢゃ』
 縁の他、ゲルマン語が操れる沙紀とフリーデも通訳を買って出た。通訳は多いに越した事はないが、戦闘や咄嗟の時、通訳できない場合もある。不測の事態に不便がないよう、合図や掛け声をしっかりと取り決めるのも忘れない。
「わざわざ怪物や妖怪が跋扈する森へ、秋の味覚狩りとは酔狂な御仁だ。その依頼を受ける俺はもっと酔狂か」
「『虎穴に入らずば虎児を得ず』って諺があるだろ? 毒を知らなけりゃ解毒剤は作れない。危険を冒すのは慣れっこさ。それに余所者が地元の狩り場に分け入るのは、あまりいい目では見られないからな」
 フリーデと豪瞬の遣り取りが終わると、侍の結城弾正(ec2502)が軽く自嘲を浮かべて頭を下げた。
 『コカトリスの瞳』を始め、フリーデは様々なポーションを手掛けている。それらポーションが存在する背景には、危険を冒して原材料を集め、調合を試み、時には効果を自身に試すフリーデ達のような薬師の存在がある。
『言語といい、原材料といい、薬も一日にして成らず、のようぢゃな』
「なるほど、地元の者への配慮もあっても、か。面白い。フリーデ殿、ジャパンの秋の味覚が存分に堪能できるよう、俺も尽力いたそう」
「‥‥今回は、薬とは関係ない気がしますけどね‥‥」
 フリーデが薬師としての持論を述べると、豪瞬と弾正は納得し、愉しそうに深々と頷いた。縁は一人、鋭く突っ込む。
「食いしん坊のフリーデには、機会があったら知り合いの料理人でも紹介したいところねぇ」
「それは助かるな。俺の料理はみんな『錬金術の実験のようだ』って言うからな」
「れ、錬金術の実験、か‥‥最終的に食べられれば問題ないが‥‥」
 文乃の言葉にフリーデが嬉しそうに応えると、沙紀は彼女の言葉に一抹の不安を覚えた。今回集まった冒険者の中に、沙紀や縁、弾正のように茶を点てられる者はいても、料理が出来る者はいない。
 つまり、栗ご飯はフリーデの錬金術の実験料理によってのみ作られる、という事だ!


●紅葉は心のこやしです
「済まない。尾張の知多半島は人の往来がほとんどにないようで、情報が手に入らなかった」
 河童の忍者、雷瀬龍は知多半島の事を調べた。しかし、人があまり分け入らないのだから冒険者ギルドに地図は存在せず、話を聞き込んでも有力な情報は得られなかった。
「だが、紅葉は始まっていて綺麗だそうだ」
「その気持ちだけで嬉しいよ、じゃぁ、行ってくる」
 龍に見送られ、沙紀達は京都を後にした。

 京都より尾張までは街道を通るので、比較的安全な旅が続く。
「そろそろ紅葉の季節だが、龍殿の言うように綺麗に色付き始めているな」
『四季の移ろいは、ジャパンの自然が生み出す、わびさびの極みなのぢゃ』
 愛馬テーゼに文乃を乗せ、手綱を引きながら、のんびりと歩を進める弾正と豪瞬。
 街道の両脇に植えられた木々の葉が赤く色付き、吹く風はどこか冷たい。季節は秋から冬へと少しずつ移ろい始めている。
「柿は果実が美味いだけではなく、その葉には止血作用があるんだ」
「‥‥京都の近くですと、美濃藩の柿が美味しくて、名産だそうです‥‥」
「美濃の柿ねぇ。行くのは尾張だけど、隣の藩だから、そっちの柿も食べてみたいものだねぇ」
 方やフリーデと縁、文乃は、沙紀が「美味しい柿の見分け方」をフリーデに聞いた事に端を発し、京都近辺の美味しい柿の名産地など、グルメな話題になっていた。

 尾張藩に入ると、清洲城、那古野城、熱田神宮と整備された街道を通り、知多半島近くまで来た。
 その間、知多半島に出没するであろう、大蟷螂(ジャイアントマンティス)や人喰樹(ガヴィッドウッド)について、文乃が全員に伝えた。
「アタシは一応、フリーデさんの傍で周囲の警戒をしてるわね」
『妖怪の国は知多半島の奥にあるそうぢゃ。ミー達から縄張りに踏み込まなければ、妖怪と遭う事もそうないぢゃろう』
 フリーデの傍に張り付き、妖怪の襲撃に目を光らせる弾正に、文乃と豪瞬が味覚狩りを楽しむよう勧める。
「‥‥多少知識はありますから、茸等を採りましょうかね‥‥」
「茸は素人が手を出す物ではないからな。杜乃さん、助言を頼む」
 縁と沙紀は茸狩りや栗拾いを楽しむ気満々だ。とはいえ、素人目には食用茸と見分けの付かない毒茸も多々ある。沙紀のように、識別は知識のある者に任せるのが確実且つ安全と言える。
「ホーリーで柿とか落とせないか?」
「流石に仏陀様に悪いわよ」
「オーラショットで木の幹を撃って揺らせば、栗が落ちてくるな」
『闘気魔法を習得する機会があったら、考慮するのぢゃ』
「‥‥これと、これとこれは、毒茸ですね‥‥食べられるのはこちらだけです‥‥」
「茸道も奥が深いな」
 早速、二人一組になって秋の味覚狩りが行われた。文乃とフリーデは柿を、男性の弾正と豪瞬は毬(いが)のある栗を、沙紀と縁は茸を、手分けして狩ってゆく。
「‥‥小動物の鳴き声が聞こえなくなったわねぇ。これはちょっと危ないかも知れないわ」
 異変を感じた文乃は、全員に自分の側に寄るよう告げ、グットラックを付与してゆく。
 弾正は構えるサンクト・スラッグにオーラパワーを纏わせ、沙紀は自身が愛用するストームレインと豪瞬の龍叱爪にバーニングソードを付与した。
 縁がクリスタルソードを右手に創り出し、自身にストーンアーマーを纏わせたその時、木々の枝を豪快にへし折りながら、三mを越える巨大な蟷螂が現れた。
 ライトシールドを構えた沙紀と弾正、ミドルシールドを持った豪瞬が、大蟷螂の目前へ飛び出す。
「オルわァ! クサマヲゥ‥‥ヌッコロス!(『怪物め! ミーの攻撃‥‥受けてみよ!』)」
 戦闘中なので、豪瞬の台詞を翻訳している暇はない。それでもここ数日の付き合いで、弾正にも何となく何を言っているか分かるようになっていた。
 大蟷螂は二本の鎌をそれぞれ沙紀と弾正へ振るう。沙紀は上手く受け流すも、弾正はその鋭い切っ先を受け流しきれず、体勢を崩してしまう。
「‥‥射線を空けて下さい‥‥」
 後衛の縁がグラビティーキャノンを放ち、転倒こそしなかったものの、大蟷螂の追撃の出鼻を挫く。
 一瞬の隙を衝いて豪瞬はストライクを繰り出す。大鎌は間合いは広いが、懐は意外と手薄のように感じられる。
「弾正さん、後ろ!」
 文乃の声と共にホーリーが飛んだ。声が聞こえると同時に、その場から転がり逃げる弾正。直前までいた場所に鋭い枝だが突き刺さる。
「‥‥後ろの木が人喰樹だったか」
 『門前の虎、後門の狼』とはまさにこの事。大蟷螂も弾正達の後ろの木が人喰樹だとは知らないだろう。しかし、結果的に挟み撃ちの形となってしまった。
 フリーデと文乃を護るように、豪瞬と沙紀が大蟷螂を、弾正と縁が人喰樹を相手にする形で円陣を組んだ。フリーデも念の為、ヒートハンドを唱える。
 大蟷螂は攻撃を分散させず、沙紀なら沙紀、豪瞬なら豪瞬に攻撃を集中させてきた。初撃は盾で防げても、二撃目は喰らってしまう。それでも隙あらば豪瞬はカウンターを繰り出し、自分が狙われなければ沙紀はマッシュをお見舞いする。
「‥‥僕は前衛を張るには役不足ですが、四の五の言っていられませんね‥‥」
 縁は人喰樹の枝をクリスタルソードで受け流し、時には受けながらもストーンアーマーで傷を最小限に留める。
「木だけあってなんて固いやつだ。刃がなかなか通らないぜ」
 こういう時は伝説の名匠が鍛えたと言われる聖なる剣より、樵(きこり)の斧の方が効果があるかも知れないと、サンクト・スラッグで人喰樹の幹に斬り付けながら弾正は本気で思う。
「吹っ飛べっ!!!! ぉおりゃあ!!!!!」
「なんて奴だ。枝を払ってもきりがない。この場から撤退だ」
「‥‥知多半島には、地元の人もあまり入らないそうですから、人喰樹は倒さなくても大丈夫でしょう‥‥」
 沙紀のストームレインの一撃によって大蟷螂が動かなくなると、得物で枝を払い退けていた弾正がそう提案する。
 先程狩った秋の味覚はフリーデが持っているし、今回の依頼はモンスター退治ではない。縁達もこれ以上危険を冒す必要はないと判断すると、大蟷螂の亡骸を乗り越えて人喰樹の攻撃範囲から離脱していった。


●炊き込み飯は三杯はいけます
 大蟷螂は思いの外強く、豪瞬も沙紀も無傷とはいかなかった。文乃がリカバーで縁と弾正の傷も癒す間に、フリーデが下拵えをしてゆく。
 治療が終わると、文乃達も毬や皮むきといった下拵えを手伝った。
 やがて芳ばしい香りが郷瞬達の鼻腔をくすぐるようになると、山の幸の料理が完成した。
「美味い料理には酒が欲しくなるからな。おっと、文乃は駄目だぞ」
 フリーデが持ってきたどぶろくの他に、沙紀がワインとベルモットを提供しながら、未成年の文乃に呑まないよう釘を刺す。
「仕方ないわねぇ。晩酌に与れないアタシは、栗ご飯を戴くわ」
「では俺は茸の炊き込みご飯をもらおう」
 ご飯は栗の炊き込みご飯と茸の炊き込みご飯の二種類が炊かれた。
「‥‥焼いた椎茸に、醤(ひしお)をたらすと美味しいですね‥‥」
「ウマー! オルァ、オマエマルカジリ!(『旨い! ミーは、こんな美味しいものは初めて食べたのぢゃ!』)」
 茸は焼き物にも使われ、ホクホクと食べる縁と豪瞬。食べるのに夢中で、やはり翻訳している余裕はない。
 戦いの後という事もあって、全員、何杯かお代わりし、デザートの柿で〆て、ようやく人心地着いた。

「なるほど、尾張藩を統一した平織市様は、『天下布武』を掲げた、と。三河藩の源徳家康と同盟を結ぼうとしたり、平織家の近臣だった美濃藩を併合しようと動いているのか‥‥天下布武で安祥神皇様のお力を取り戻せるのだろうか‥‥?」
 帰国したばかりの沙紀はベルモットで喉を潤しながら、縁や文乃、弾正から最近の世間の情勢を聞いた。
『ミーは特に植物を育てたりせんからの。薬の研究にお役立て下さればと』
「こんなに良いのか? 助かるよ。でももらいっぱなしは悪いからね。お返しは薬になるけど、こんなものでも冒険の役には立つはずだ」
 手持ちの植物の種をフリーデに譲る豪瞬。フリーデはお返しにコカトリスの瞳を、彼と貴重な酒を振る舞った沙紀へ贈ったのだった。