黄金の穂波を護れ!

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:11月12日〜11月20日

リプレイ公開日:2007年11月20日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 暗殺された藩主・平織虎長の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
 尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
 『天下布武』はあくまでお市の方の宣言であり、そこに蘇ったと噂される虎長の姿は一切無かった‥‥。

 ――那古野城。お市の方の本拠地だ。
 那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に聳え建つ、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。
 虎長が存命の頃は、彼の居城清洲城が尾張の中心地であったが、お市の方は尾張を統一後も本拠地を清洲へは移さず、那古野のままとしているので、那古野城下も今まで以上に人が集まり始めていた。

 ――那古野城の郊外。他の田圃(たんぼ)は稲刈りが終わり、どこかもの哀しい、寒々とした景色が広がっているが、その田圃だけは半ば時季外れの黄金の穂波が、冬の寒さを含み始めた北風に揺れていた。
『ふう‥‥』
 穂波の中から一息付く声と共に、外套を羽織り、フードを目深に被った人影が現れる。片手をフードの中に入れて汗を拭う。もう一方の手に鎌を持っているところを見ると、この田圃の稲刈りをしているようだ。
 季節は秋から冬に移りゆき、那古野城の郊外に植わっている木々の葉も紅く色付いている。寒い事は寒いが、フードで顔を隠す程の厳しさではない。
『一時はどうなるかと思いましたけど、豊作とまではいかないまでも、普通に美味しくできたようですね』 
「ここはあなたの田んぼ? 精が出るわね」
 フードを被った人物は揺れる穂波の一つを手に取り、慈しむように話し掛ける。その声音は、珠を転がしたような女性のそれだ。
 フードを被った女性へ、女性の声が掛かる。身体を起こして声のした方を見ると、赤毛のツインテールの少女が微笑みを浮かべ、手を振っていた。歳は一七、八歳くらいだろうか。気の強そうな碧色の瞳は、ジャパン人ではなく、海外から来た事を表している。白銀の胸当てと肩当てを付け、白いマントを羽織り、背中に自分の背丈程の大斧を背負っていた。
 見たところ冒険者のようだが、面識はない。
『は、はい、お市の方さんから戴いた田圃です』
「植えているのはお米かな?」
『お米はお米ですけど、餅米です』
「モチゴメ? 普通のお米と違うの?」
『はい。餅米は炊いてそのまま食べるのではなく、杵と臼で搗いてお餅にするのです』
 赤毛のツインテールの少女は興味本位からか、あれこれ質問してくる。一反もの広さの田圃が手付かずなのだから、気になるのも無理からぬ事。
 初対面だが、赤毛のツインテールの少女は気の置けない雰囲気を纏っており、フードを被った女性は人間は嫌いではないし、むしろ好きなので、応えてゆく。
 赤毛のツインテールの少女は餅搗きを知らないようで、フードを被った女性は田圃の土手に置いてある愛用の杵を手に取ると、餅搗きの真似事をして見せた。
「へぇ、楽しそうね。でも、この広い田圃の稲をあんた1人で刈り取るのは大変じゃない?」
『お姉様達はご自分のお役目がありますから手伝ってくれませんし、お市の方さんに手伝ってもらう訳にもいきませんし‥‥それに、私、人間の友達はほとんどいないので‥‥』
「(お市の方さんって‥‥まかさね)随分と薄情なお姉さん達ね。まぁ、あたしんとこも似たり寄ったりだけど」
『そうなのですか?』
「薄情な姉妹を持つ者同士、あたしでよければ手伝うよ?」
『でも‥‥』
「あ、ごめん、自己紹介まだだったね。あたしはエレナ、エレナ・タルウィスティグ。津島湊に住んでるダンジョンエクスプローラー‥‥平たく言えば、遺跡探検をメインにした冒険者よ」
『美兎(みと)と申します』
 フードを被った女性が言い淀むと、赤毛のツインテールの少女は自己紹介がまだだったからだと勘違いした。
 エレナ・タルウィスティグ(ez1067)も、自分の住む藩の情勢と藩主くらいは知っているが、まさか、美兎のスポンサーが藩主だとは思いもよらないようだ。
 しかし、美兎が言い淀んだのはその点ではない。彼女は人間ではないからだ。妖怪『化け兎』の上位に当たる『妖兎』の中でも、尾張の知多半島にのみ生息する『月兎族』と呼ばれる妖怪だからだ。
 フードを被っているのも、月兎族達は人間の姿を取っているが、唯一、兎の耳だけは隠す事が出来ず、頭から生えているからだ。農作業をする時など、エレナのように気軽に話し掛けてくる地元の農民も少なくない。警戒心を持たれない為だった。
 この田圃は、初夏に繰り広げられた尾張統一の戦いの、那古野城の防衛戦の戦禍を諸に受けていた。稲を結んで輪にして敵の足を引っ掛けたり、張り巡らせた罠を見付けられないようにする為に墨汁を流したりと、稲の半分以上が打撃を受けてしまった。
 フードを被った女性は田圃の水を一旦全て抜いて張り直し、駄目になってしまった稲を植え直して、ようやく実らせたのだ。その為、他の田圃に比べて穂が実ったのが遅くなり、刈り入れがずれ込んでいた。
「稲刈りは初めてだけど、麦はイギリスで刈っていたから、要領は同じでしょ?」
『それだけではないんです』
 エレナが土手に置いてあった予備の鎌を手に取ると、美兎は持っていた杵を構え、鋭い視線で空を見上げた。
 耳障りな声が聞こえ、大きな影がエレナ達の頭上から降下してくる。
「ジャイアントクロウ!?」
 それは一メートルはあろうか、大きな鴉だった。一羽ではない。三、四羽が纏まって飛来してきた。エレナは咄嗟に腰に提げていた手斧を手に取り、投げ付ける。翼を掠めてゆくが、急降下の出鼻は挫いた。
『時季外れに稲穂がまだ実っていますから、大鴉達の格好の餌になっているのです』
「鴉は狡賢いっていうし、ここに来れば餌にありつけると知恵を付けてしまったようね。しかも急降下してくるあたり、地上で待ち受けているのは得策とは言えないし、あたしの手斧じゃ手数が足りないし‥‥」
『私は杵しか使えません』
「これは‥‥助っ人を頼んだ方がいいわね。美兎もいいでしょ?」
『え、ええ。冒険者さんでしたら問題ないと思いますが‥‥』
「報酬は、美兎の搗いたお餅で十分だと思うけど?」
 再び言い淀む美兎。エレナは報酬の事を気にしているのかと思ったが、本当は自分が妖怪だという事を切り出せずにいた。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0437 風間 悠姫(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5910 ミリオン・ベル(28歳・♀・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5301 護堂 万時(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ルクス・シュラウヴェル(ea5001)/ 久方 歳三(ea6381)/ 逢莉笛 舞(ea6780)/ 高円寺 祐之助(ea8282

●リプレイ本文


●因果応報
「エレナ、久しぶりだな」
「悠姫も‥‥相変わらず(大きな胸)ね」
 那古野城の城下町の入口でナイトのエレナ・タルウィスティグ(ez1067)が待っており、親友の浪人、風間悠姫(ea0437)とお辞儀を交わす。顔を上げたエレナの目に、黒部峡谷と見紛うばかりの悠姫の深い深い胸の谷間が飛び込んでくる。
 エレナはソコは平均以下なので、思わず本音が出てしまい、言い繕った。
「ジャパンにいたとは‥‥久しぶりだなフロイラインエレナ」
「あんたもジャパンで生きてたのね」
「ふっ、言ってくれるな。俺は2年前のあの日の夜の酒の味を忘れてはいないからな」
「‥‥そうね。忘れられないわね」
 ファイターのアラン・ハリファックス(ea4295)は、イギリスにいた頃からエレナと冒険を共にしており、二年振りの再会だった。
 相変わらずの物言いに、アランはどこか安心したように肩を竦めた。
「お久しぶりです、エレナさん、お変わりありませんか? 稲の刈り入れが大変とお聞きして、お手伝いに来ました。微力かもしれませんが、僕も頑張りますね」
「光も来てくれたんだね。男手があると助かるよ」
 志士の沖田光(ea0029)はにっこりと朗らかな笑顔でエレナに挨拶する。彼もエレナと面識があった。
「エレナさんと久々に会えて嬉しいです」
「あたしもよ。ミラに色々とジャパンの事を教えてもらったから、ちゃんと生活しているわ」
 ナイトのミラ・ダイモス(eb2064)は、エレナがジャパンに来て間もない頃、ジャパンの暮らしぶりについて色々と助言をしていた。そのお陰もあって、エレナも大分ジャパンに順応しているようだ。
「ジャイアントクロウ退治なら任してちょーだいよ! あたしの矢でちょちょいと撃ち抜いちゃうから!」
「頼もしいわね」
 レンジャーのミリオン・ベル(ea5910)は胸元をドンと叩く。チョーカーに付いているベルが合わせて鳴った。
 レンジャーは狩りに長けている者が多い。ミリオンもまた然り。服は弦が引きやすいように右肩の肩紐を無くしており、背負っている中弓と腰に提げた矢筒は伊達ではない。
「後、お餅も食べられるってほんと?」
「ええ、ジャイアントクロウを退治して、稲を刈って脱穀した後にね」
「あたし、お餅を搗くのも食べるのも初めてだから、お餅がどうやって出来るか見てみたいしね。もっちもちーもっちもちー♪」

「みーとさん!」
『レベッカさんではないですか!?』
「レベッカと美兎って知り合いだったの?」
「親友(マブダチ)だよ、ねー?」
『ねー』
 エレナに案内されて田圃(たんぼ)へ来ると、フード突きの外套を頭からスッポリと纏った美兎が、稲刈りの準備をしていた。
 ジプシーのレベッカ・オルガノン(eb0451)が美兎の姿を認めると、彼女もレベッカに気付き、顔を綻ばせて駆け寄ってくる。
 世間は広いようで狭い。エレナが驚くと、二人はハモって応えた。
「遂に美兎さんの田が収穫時期なんだね。もちろん、お手伝いするよ。ん、あれ、晶姫(あき)はどうしたのかな?」
『晶姫さんは蟹江町にいます。卯泉(うみ)お姉様と温泉に入る特訓をしています』
 レベッカはもう一人の親友、雪女郎の晶姫の姿が見当たらないので尋ねると、温泉に入る特訓中だという。
「この水田は‥‥」
 武道家の明王院浄炎(eb2373)は田圃を見て声を詰まらせる。
 忘れもしない。今は亡き平織信忠が、夏に那古野城を攻めた際、主戦場の一つとなった水田だ。浄炎は那古野兵を率いてここで戦ったが、植えてあった稲の半分以上は踏み潰されてしまっていた。
 それを美兎一人で手入れし直し、稲刈りが出来るまでに持っていったのだ。
「‥‥刈り入れが遅れた責の一端を担う者として、成すべき事を成さねば、お市殿にも、必死に田を手入れされ、稲穂を実らせるまでに至らせた美兎殿にも申し訳が立たぬ」
『気にしないで下さい。那古野城を守る為でしたし、合戦の後、お市さんから新しい稲をもらいましたから』
「美兎さん、エレナさん、初めまして。久方さんに頼まれてお手伝いに来ました」
『歳三さんですか?』
「はい。私と久方さんは友人なのです」
 陰陽師の護堂万時(eb5301)は、都合で来られなかった久方歳三が認めた書状を渡した。
『太さんと共に参加出来なくて申し訳ないでござる。護堂さんは神妙不可侵にて胡散臭い男だが、妖怪変化も平気なので安心して欲しいでござる。 歳』
 美兎は妖怪なので字が読めない。代わりにレベッカが読んで聞かせた。


●大同団結
「田んぼの上で戦ったら、どんなに上手く戦っても少なからず稲に被害が出ちゃうしねー。ジャイアントクロウはなるべく引き離した方が良いと思うよ」
 田圃近くの土手に円陣を組んで座り、美兎が淹れたお茶を飲みながら、ミリオンが中心になって大鴉退治の相談が始まった。
「被害を軽減する為に霞網を張ろうと思うが、1反分の水田全てを覆うのは難しいな」
「私も霞網を持ってきましたから、半分くらいはカバーできると思います」
「案山子‥‥は、ジャイアントクロウ相手じゃ、あんま効果なさそうだね」
 浄炎とミラが霞網を効率よくどう張ろうか田圃を見ている傍らで、レベッカは田圃に既に案山子が立っているのに気付いた。それでも大鴉が来るのだから、慣れてしまったようだ。
「いや、案山子の数を増やせば、慣れた大鴉とて多少は驚くかもしれん。他の水田は稲刈りを終えているから、案山子や支柱が借りられるかもしれんな」
「光り物で誘き寄せるのだろう? なら、霞網は光り物のある方を優先して張ればいいのではないか?」
「田んぼから離れた場所に光り物を設置しないとね。昼間だと作業中にジャイアントクロウが襲ってくるかもしれないから夜間やるけど」
 レベッカの案は効果があると浄炎が踏むと、悠姫が大鴉を誘き寄せる方へ霞網を張ってはどうかと告げる。それにはミリオンは賛成した。
「では僕が近くの農家へ行って借りてきますね」
「私もお供しましょう。数が要りますから、一人より二人の方が良いはずです」
「2人より3人の方が良いんじゃないか?」
 光が湯飲みを置きながら立ち上がると、万時とアランも立ち上がった。アランは支柱の代わりに用意した長槍を六本程置いてゆく。
「確認しておきたいのですが、大鴉の処置はどうしますか? やはり巣を見つけて殲滅しますか?」
「殲滅しないまでも、巣は壊しておいた方が良いんじゃないかな? 巣を壊せば『この辺の人間は恐い』ってジャイアントクロウに思わせる事が出来るし、そうすればこの辺には手を出さなくなると思うよ」
「それにジャイアントクロウは、巣に光り物を溜め込む習性があるんでしょ? もしかしたらこの辺りの人の物があるかも知れないし。所有者が分かる物は返してあげたいよ」
「倒すのではなく、懲らしめる為に巣を壊すのであればいいと思います」
 無益な殺生は避けたいと思っていた万時は、ミリオンとレベッカの応えを聞いて安心した。

 ミリオンと浄炎、ミラと悠姫、レベッカと美兎、エレナが手分けして田圃に支柱を立て、霞網が張られてゆく。
 光とアラン、万時が近隣の農家から案山子の骨組みを借りてくると、悠姫やレベッカ、エレナが自分達の姿へ着替えさせていった。こうする事で警備が薄くなった事を誤魔化せるとミラは踏んでいた。
 霞網が張り終わる頃には、夜の帳が降り始めていた。
 美兎が用意した光達の今宵の宿は、那古野城の三ノ丸にある美兎達月兎族三姉妹の館だった。
 夜が更けてから、ミリオンと浄炎、悠姫が光り物として銅鏡や水晶のティアラを設置し、自分達が隠れる場所を藁でカムフラージュした。
「明日のジャイアントクロウ退治は、成功するよ」
 縁側で月を見ながら神秘のタロットで大鴉退治の占いをするレベッカ。
「美兎さん、何か気になる事はないかな? 良ければ占うよ。お城の動きが不穏ぽいから、実は私も気になってるんだよね‥‥大丈夫かな‥‥」
『月華お姉様がいらっしゃれば、大抵の者は敵いませんよ』
 美兎の姉、月華は外見こそ十三、四歳の年端も行かない少女だが、江戸を震撼させた大妖『九尾の狐』に匹敵する力を持っているという。確かに並大抵の者では太刀打ちできないだろう。しかし、月華が那古野城から動かないという事は、彼女にとって気掛かりな事があるのではないだろうか?
「美兎、すまないが、これをお市の方へ渡しておいてもらえないか? この間、渡しそびれたようでな」
 アランが美兎に吉光の毛衣をお市の方へ渡すよう頼んだ。

「エレナ、夢魔についてだが‥‥」
 帰ってきた悠姫は、エレナと二人きりでお風呂に入り、その中で切り出した。
「奴らは記憶、または心に干渉し、その者を操る術等を使ったりはしてなかったか?」
「イングリッドお姉ちゃんが虜にされたり、冒険者に封印されたサッキュバスの次女の代わりに仕立て上げられた事はあるけど‥‥何で?」
「‥‥お前の義妹の事だ。どうしてもあの時の態度は違和感があってな。それに、尾張ジーザス会を束ねる宣教師ソフィア・クライムも胡散臭い」
「ちょ!? いくらジーザス教を信仰していないからって、悠姫でも言って良い事と悪い事があるわよ!?」
「落ち着け。よく考えてみろ、幾ら秘術とはいえ、石になってる者を戻す程の奇跡だ。下手に隠さず、民衆の前でその奇跡の力を見せつけた方が、信者を増やすには都合が良い筈だ。そうだろ?」
「まぁ、言われてみればそうかも知れないけど‥‥」
「‥‥封印されていた夢魔達は滅んでいない。また、宣教師ソフィア・クライムと濃姫は結託し、更に生き残っていた夢魔の一人とも繋がっている」
「ひ、飛躍させすぎじゃない?」
「確かに突飛な話だからな、否定はせんよ。だが、お前の義妹は家族が出来た事を喜んでいた。それを自分から手放すとは考えられん、それが理由だ」
「‥‥」


●打打発止
 翌日、浄炎は日の出と共に霞網の様子を見に行き、羽根が絡みやすくなるように適度に弛ませて張った。
 更に設置した光り物の周りに保存食を適度に撒き、大鴉の目を惹き付けやすくする。
 これで準備は整った。ミラ達は田圃の棲みに積んだ藁束の影で息を潜め、大鴉達がやってくるのを待った。

「来ました。数は‥‥四羽です」
 定期的にテレスコープを使用し、警戒に当たっていた万時が大鴉の姿を捉えた。
 大鴉達は銅鏡や水晶のティアラの方へ惹かれてゆき、保存食から啄み始めた。
「今だ!」
 浄炎が投網を放つが、投擲が得意ではないのが仇となり、大鴉にかわされてしまう。
「遅い! ‥‥美兎さんが大切に育てた稲を、お前達の好きにはさせません!」
 光がファイヤーバードを高速詠唱で発動させ、大鴉達の上空から迎え撃つ。飛び立つのを防ぐ為だ。
「悪いがスタンアタックは覚えてないんでな」
 黄金色に輝くアヴァロンの盾を掲げて大鴉達を誘き寄せ、爪を受けた後、カウンターでライトソードをを叩き込むアラン。
 その横では悠姫が太刀「岩透」で切り伏せている。
「飛び立てないよう、なるべく翼を狙いましょう」
「OK! 目標が大きいほど狙いやすいんだよ!」
 ミリオンはシューティングPAで大鴉の翼を確実に狙ってゆく。言ったミラ当人はポイントアタックを習得していないので、三間半の槍の長さを利用して攻撃するが、思うように翼を狙えない。
 レベッカはミリオンが撃ち落とした大鴉を、大脇差「一文字」で斬り付けていった。
『田圃の稲に手を出さないで下さい‥‥云う事を聴いて戴けなけないと、このままあなた達を殲滅します』
 万時達が優勢なのは火を見るより明らかだ。彼がテレパシーで脅しを掛けると、大鴉達は蜘蛛の子を散らすように退散していった。

 その後、大鴉が飛んでいった方角と、レベッカがサンワードを使って巣を探し、溜め込んでいた光り物を回収すると、手分けして那古野城下や近隣の家々を回り、所有者を探した。
「これだけ、所有者が見付からなかったんだよね」
「ミリオンが使ったらどうかな?」
 残ったのは愛らしい椿の簪(かんざし)――但し、暗器だ。流石にこの落とし主は現れまいと、エレナは今回頑張ったミリオンに渡した。


●春花秋月
 大鴉を追い払った後は、霞網を外し、銅鏡といった光り物を回収した跡、総出で稲刈りとなった。
「おーっし! がんばるぞぉー!!」
「‥‥ミリオンさんは元気が有り余っていますね。慣れてないと、かなりしんどいです。でも、負けません!」
 光は慣れない鎌使いで稲を刈り、時々身体を起こしては腰の辺りをとんとんと叩く。
 その横では彼の三倍の速さで稲を刈るミリオンの姿が。エレナからコツを教わり、対抗心を燃やす光。
「シュライク‥‥は、止めた方がいいか」
『鎌ですから、シュライクを使えない事はないですが‥‥』
 へえ、と悪戯っぽく美兎に笑い掛け、レベッカも稲を刈ってゆく。

 刈り入れが終わると、お餅を搗く分を除いて天日干しにし、残った分の脱穀・籾摺り・精米を行う。
 美兎がひっくり返す中、力のある浄炎やアラン、ミラがお餅を搗き、レベッカの要望で大根の絡み餅の他に、醤と海苔を付けたお餅も用意された。
「収穫おめでとう、美兎さん! 乾杯!」
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
 浄炎が提供したベルモットとワイン、エレナが用意したどぶろくで、レベッカが乾杯の音頭を採った。
「美味しい! 疲れも一気に吹っ飛びます」
「大根の絡み餅は辛いけど、醤と海苔の組み合わせは何枚でも食べられるよ。草餅っていうのも食べてみたいなー」
『お持ち帰り用に作っておきますね』
「ほんと!?」
「申し訳ありませんが、来られなかった友人二人の分のお土産も戴きたいのですが‥‥」
 光とミリオンはホクホク顔でお餅を平らげてゆく。
 言ってみるものだ。ミリオンの要望で、報酬のお餅は草餅(=抹茶味の保存食)となった。また、外国のお酒を提供した浄炎には、美兎が御薬酒を付けた。
 万時は横から来られなかった友人の分も頼んだ。
「引っ越ししてからのジャパンでの暮らしで、困った事はなかったですか?」
「やっぱり箸かな。大分使えるようになったけど、最初は大変だったよ」
「私もです。ジャパンでの生活は習うより慣れろ、が多いですよね」
 光とエレナ、ミラは世間話に話を咲かせた。

「俺は、シュタリアを名乗る女と出会った。もっとも、姿は神聖騎士だったがな」
「シュタリア!?」
 みんなが出来上がった頃、アランとエレナは輪を離れ、話し合っていた。
「そしてお前は再び姉と、義妹を失った。ただ2つだけの事実だが、共通項がある。尾張ジーザス会だ」
「また尾張ジーザス会?」
「また?」
「ううん、こっちの話。尾張ジーザス会か‥‥少し調べた方が良いかも知れないわね」
「さて、2年前のあの依頼はまだ有効かな?」
「シュタリアが生きている以上、有効に決まってるじゃない」
「何か分かったら連絡をくれ。但し、深入りしすぎるなよ」