熊が出た!? それはくま(困)った!
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月11日〜11月16日
リプレイ公開日:2007年11月20日
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●オープニング
「慰安旅行で温泉、ねぇ‥‥」
元長州藩邸跡を改修した新撰組の出張所。
九番隊隊長、鈴木三樹三郎(ez1119)は、腕を組みながら何やら思案していた。
先日、三樹三郎の元を五番隊の隊士の一人が訪れ、温泉旅行に行ってきた事を喜々とした表情で話しまくり、「新撰組も息抜きしないと」と旅行へ行くよう働きかけてきた。
一見、温泉へ行ってきた事を自慢しているだけのようにも捉えられるが、酒呑童子討伐の勅令が下されて以降、新撰組は鉄の御所関連に掛かりっ切りで休みといった休みを取っていない隊士が少なくないのも事実。
「確かに息抜きは一理あるね。温泉旅行か‥‥企画してみるかな」
九番隊の主な活動は後方支援だ。故に三樹三郎は、新撰組の厳しい台所事情を知っている。十中八九、新撰組からの援助は期待できない。
武闘派揃いの新撰組の中にあって、後方支援は地味であり、目立たない。“鬼の副長”こと土方歳三の目覚ましい活躍を見聞すれば、前線こそ花形であり、とかく後方支援は軽視されがちだ。その為、他の隊に比べれば隊員は多いとはいえないが、補給や治療といった後方支援が万全であるからこそ前線は戦える。三樹三郎自身、剣術があまり冴えず、学者肌という事もあって後方支援を自ら買って出ており、新撰組内の役割分担は上手くいっているといえる。
「我が新撰組の台所を預かる鈴木君に、こんな事を言う必要はないと思うが、慰安旅行の旅費の援助は出せんぞ」
案の定、というべきか。局長の近藤勇に慰安旅行について打診したところ、新撰組からの援助は一切出せない、という返答が即答で返ってきた。
この返答は想定の範囲内であり、三樹三郎は反論する事無く言葉を続けた。
「新撰組からの援助無しでも、隊士を温泉旅行へ連れていける方法を考えてあります」
彼は一枚の紙を勇に手渡した。それは冒険者ギルドに貼られている依頼書だった。
「‥‥熊退治? 温泉宿近辺に出没する熊を退治する依頼か!」
「ええ。その温泉宿、山間にありまして、山に餌が少ないのか、冬眠間近の羆(ひぐま)や大月輪熊が降りてきて、客を襲っているそうなんです。被害が出ているようで、退治の依頼がギルドに来ていました」
勇は依頼書にざっと目を通す。退治を引き受けた者は、温泉宿で寝床と食事を提供するという。
「読めたぞ。鈴木君はこの依頼を新撰組が請ける事で、隊士を温泉旅行へ行くのだな?」
「鉄の御所の鬼達を相手にしなければなりませんから、中堅の隊士にはいい武者修行になるかと。熊退治で汗を掻いたら、温泉で汗を流せますし、武者修行と慰安旅行を兼ねられて一石二鳥です」
「確かに隊士には腕を上げてもらわないといけないからな。よし、新撰組として許可しよう。九番隊だけではなく、他の隊の隊士にも声を掛けてやってくれ」
なんだかんだ言って、懐が痛まないで旅行に行けるのが、勇にとっては一番嬉しかったり?
●リプレイ本文
●挨拶は人間付き合いの基本です
新撰組九番隊隊士の、侍の榊原康貴(eb3917)と結城弾正(ec2502)は、元長州藩邸跡を接収し、改修した新撰組の出張所の中庭で出発の準備をしていた。
「熊退治と温泉旅行か‥‥」
「鈴木隊長の方針もあって、九番隊は武張った雰囲気は無いが、それでも新撰組の端くれだ。熊など敵ではない」
「弾正殿の言う通りだ。熊の一匹や二匹倒せずして、この先、鉄の御所の鬼共と渡り合う事など到底叶うまい」
「まったくだ。それにしてもお主‥‥なかなかの逸品をお持ちのようだが?」
「そういう弾正殿こそ、腰に差した刀は業物とお見受けするが?」
康貴は率先して前に出るつもりで、霞刀を抜き、刀身の輝きを確認している。先に準備を終えた弾正が彼の元へやってくると、康貴は弾正が直刀を差しているのに気付いた。弾正の愛剣、霊剣「タケル」だ。
隊長室から鈴木三樹三郎(ez1119)が出てくるまでの間、二人は刀の目利きに始まり、いつの間にか流派の型の話になっていた。
早くも九番隊隊士同士の親交は深められたようだ。
京都より街道伝いに、紅葉を楽しみなから歩いて二日。熊退治の依頼を出した温泉宿が山間に姿を現した。
「ほう、なかなか風情のある造りだな‥‥ん?」
「オンドルァー、ヴラギッタンディスカー!」
温泉宿はこぢんまりとしながらも、自然との和を意識した造りになっていた。
その趣ある風情を楽しんでいた康貴は、入口で先客を見付けた。先客も彼らに気付いたようで、振り向いた素敵な繋がり眉毛に赤いバンダナを巻いた河童が話し掛けてきた。
「‥‥す、す、す、すみません。魁さん、ジャパン語が苦手でして、ジャパン語で喋ろうとすると言葉が変になってしまうんです。先程は『誰かと思えば、新撰組の面々ではないか!』‥‥と、言ったようです‥‥」
弾正が眉を顰めると、志士の杜乃縁(ea5443)が慌てて頭を下げながら、河童のナイト、魁豪瞬(eb5655)と彼の間に割って入る。
「僕もゲルマン語は分かるから、ゲルマン語で喋ってもらっても問題ないよ」
『それは忝ないのぢゃ』
三樹三郎は学者肌だけあって、ジャパンと交流のある国々の言語に精通していた。また、縁の他に志士の蔵馬沙紀(eb3747)と浪人の大蔵南洋(ec0244)、レンジャーのレオナール・ミドゥ(ec2726)もゲルマン語が操れる。
今回はゲルマン語が分かる者が多く、よかったね、豪瞬(実はジャパン語迷台詞が少なくてちょっぴり残念だったり?)。
「新撰組九番隊隊長鈴木三樹三郎と、隊士の榊原君と結城君だ」
「京都で名高い新撰組と同行とは奇遇だね。初めまして三樹三郎さん、今回はよろしくな」
三樹三郎が代表して自己紹介すると、沙紀が握手を求めてきた。翠玉と見紛うばかりの瞳を持った長身のグラマラスな女性だ。三樹三郎より頭一つ分背が高い。
「では君達も熊退治の依頼を?」
「‥‥はい。温泉‥‥いいですよねぇ。最近は冒険ばかりでしたので、疲れを癒したいところです‥‥」
「しかし、働かざる者浸かるべからずといったところ‥‥熊をどう退治しようか、相談を始めようとしていたところだ」
「あんた、上手い事言うよな。熊を退治しないと温泉の宿泊費は自腹って事になるからな。こっちとらレンジャーだから、まぁ、なんとかしてみるさ」
縁達も三樹三郎が冒険者ギルドの依頼書を持っていく前に依頼を受けたと告げる。
南洋達も今し方温泉宿に着いたところで、部屋へ荷物を置き、装備品と携帯品だけ持って集まり、これから熊退治の相談をしようしていた。
レオナールの自信は、彼が熊の強さを知っているからだが、熊は羆(ひぐま)と大月輪熊の二種類出没している。少なくとも二匹とは戦わなければならないから、南洋が言うように相談は不可欠だ。
弾正達も台帳に名前を書いて宿に入ると、早速相談に加わった。
●熊鍋か!? それとも熊に食われるか!?
「‥‥宿から少し歩いた場所に露天風呂があるそうですが、そこに熊が現れるそうです‥‥」
「宿から五分から十分くらい歩くそうだが、木々に囲まれた開けた岩場に源泉が湧き出しているとの事だ。見通しの悪さから、熊の接近に気付かず、奇襲となる事が多いようだな」
「寒い地方の動物達も温泉に入ると聞く。温泉の近くにいれば餌にありつけると、知恵を付けた熊かも知れないな」
縁と南洋が、先程、温泉宿で熊がどの辺りに出没するか聞き込んだ結果を告げる。南洋がそれを踏まえて、被害が出る原因について自身の推測を付け加えると、康貴は雑学を交えて納得した。
『宿にも源泉から引いた、天然十割掛け流し、外傷骨折火傷、病後回復、筋肉痛、創傷に効能のある内風呂があるが、露天風呂に入れなければ温泉に来た醍醐味に欠けるのぢゃ!』
「来たからには露天風呂にも入りたいけどね。視界が開けていないなら、熊が腹を空かしている事を利用して誘き寄せた方が良いって事か」
拳を握りしめ、熱く力説する豪瞬。彼の言葉に頷きつつ、沙紀は強烈な匂いする保存食を取り出した。これなら熊も引き寄せられるかも知れない。
「卒爾ながら、折り入って頼みたい。実は熊の急所について知りたいのだ」
「‥‥鼻を攻撃したり、舌を引っ張るといいですが‥‥問題は身長差ですね‥‥」
「至近距離ならいざ知らず、急所を攻撃するのは却って大変だからな。熊の皮膚と肉は分厚い。切ったり殴ったりするよりも突き刺した方が有効だぜ?」
熊について漠然としか知らない弾正は、縁に熊の急所に関するの講義を頼んだ。縁は急所を教えつつ言い淀む。羆は2.5m、大月輪熊に至っては3.5mの背丈がある。この中で一番身長の高い沙紀(!?)でも190cmだ。熊の顔目掛けて攻撃を当てるには、弓矢によるシューティングポイントアタック、もしくは熊が姿勢を低くして攻撃態勢を取った時のカウンターくらいしかないだろう。
レオナールが補足したように、無理に弱点を狙うより、有効打を繰り出した方が得策といえる。
「大月輪熊か‥‥そこまで大型の熊がジャパンにいるとは。仁王立ちされると頭上から爪が降ってくる様な感じになるかもしれん‥‥厄介だな」
『しかし、武道を志す者として、熊退治は避けては通れぬ道‥‥修行の成果を今こそ示すのじゃ!』
「熊の肉は独特の臭みがあるが美味しいよ。倒せれば夕食に熊鍋も付くかもね」
顔に影のある南洋の独白は、それだけで凄みがあった。縁とレオナールの熊講義を聞いても尚、豪瞬の闘志は衰えるどころか、ますます燃え上がる。
三樹三郎の一言で、更に燃え上がった。
露天風呂を確認したところ、木々で周りを囲まれており、熊が接近してきても足音に気付かなければ分かりにくいだろう。
また、南洋が見た限りでは、熊を迎え撃つには露天風呂の縁近くしかない。岩場とはいえ、不整地という程ごつごつしてはおらず、足場としては問題なかった。
レオナールは沙紀から強烈な匂いの保存食を受け取ると、狩猟罠を利用して罠を仕掛けた。また、保存食一つだけでは他の動物が来てしまったり、不発に終わる可能性もあるので、沙紀はもう幾つか保存食を提供した。
後は、保存食の臭いに釣られて熊が誘き寄せられるのを待つばかりだ。
弾正達は熊に自分達の臭いを嗅ぎ付けられないよう、風向きに注意して風下の草むらに身を隠し、息を潜めて待った。
数時間が経過した。それでも絶えず風向きを確かめ、周囲に熊がいないか警戒する。
――バキ! ガサ!
枯れ枝を踏み、生い茂る草を掻き分けて、何かが近付いてくる音がする。
(『いきなり本命なのぢゃ』)
豪瞬達は大月輪熊を目の当たりにする。
大月輪熊は辺りを窺いながら、ゆっくりとした、でも重い足取りで木の根元に置いてある保存食に近付き、魚の干物を口にくわえた。
すると罠が発動し、木の上に吊るした布に包まれた砂が落ちてきて、大月輪熊の目を潰した。
「今だぜ!」
「ウェーイ! マエウシロミナイタダキマッスル!!(『いくぞ! 此処は一歩も進ませぬのぢゃ!!』)」
「包囲して戦うべきだ」
レオナールが短弓から矢を射掛けたのを皮切りに、豪瞬が龍叱爪を振りかぶって躍り掛かる。戦闘中なので、誰も翻訳している余裕はない。
彼の攻撃が決まったのを見届けると南洋も飛び出し、後方に回り込んでスマッシュを叩き込む。熊が悲鳴にも似た雄叫びを上げる。彼の持つ猿正宗はアニマルスレイヤー、大月輪熊とてただでは済まない。
沙紀の愛犬、八雲に護られた三樹三郎がオーラショットを叩き込み、その間に縁はストーンアーマーを纏い、沙紀は刀にバーニングソードを付与し、康貴と弾正は愛刀にオーラソードを纏わせた。
何時熊が現れるか分からないから前以て魔法は使えないし、隠れている時に使えば発光によって見付かってしまう危険性もあった。
大月輪熊は手で目を掻いて砂を払うと、充血した瞳で眼前の豪瞬を睨み付ける。
「!? 皆さん、射線を空けて下さい!」
クリスタルソードを創り出そうと思っていた縁は、グラビティーキャノンを大月輪熊とは違う方向へ撃った。
「羆か!?」
弾正が振り向くと、大月輪熊と同じく臭いに釣られて羆がやってきていた。円形の露天風呂を背負っているので挟み打ちとまではいかないが、二手に分かれる必要が出てきた。
南洋と豪瞬、康貴は大月輪熊と、沙紀と弾正は羆と対峙し、縁とレオナール、三樹三郎は適宜援護射撃を行う。
大月輪熊の爪の一撃は恐ろしい破壊力を有しており、豪瞬が右手の爪をミドルシールドで受け流しても、間髪入れず左手の爪が降り注ぐ。しかも一発で中傷だ。
それは羆にもいえた。沙紀もガディスシールドで一撃目は受け流せるが、続く二撃目はかわせない。
「三樹三郎、ジャイアントベアに集中攻撃だ」
レオナールと三樹三郎は大月輪熊へ援護射撃を集中させた。
縁のグラビティーキャノンもそうだが、豪瞬のトリッピングでも大月輪熊はなかなか転がらない。だが、康貴も敢えて正面からの攻撃を集中させる事で、南洋から気を逸らさせる事に成功する。
「ちぇぇぇすとぉぉぉ!」
南洋の示現流のスマッシュが決まり、大月輪熊は地に伏したまま動かなくなった。
沙紀に攻撃が集中すると、弾正はタケルの鯉口を静かに切り、ゆっくりと気取られないように剣を抜き正眼に構える。沙紀が熊の一撃を受けたのを合図に、裂帛の気合と共に側面から急襲し、一気に間合いを詰めて、潜めていた剣気を迸らせる。鼻目掛けてポイントアタックを仕掛けるも、熊は体勢を立て直し届かない。
「そこだ! ちぇやぁ!!」
だが、沙紀が攻撃するには十分な時間を稼いだ。彼女は焔を吹き上げる刀を振るい、羆を屠った。
男性陣が総掛かりで大月輪熊と羆の亡骸を温泉宿へ運び、退治した事を告げたのだった。
●ゲイシャガールは無しで
「戦いの後の露天風呂は格別だな。この湯は火傷にも効くのだったな‥‥ありがたい話だ」
リカバーポーションやヒーリングポーションで傷を癒した後、南洋達は夕食前にひとっ風呂浴びていた。
大月輪熊と羆の両爪の攻撃は、豪瞬や康貴達が考えていたよりも素速く、鋭く、前衛に立っていた者は皆、無傷とはいかなかった。傷口は塞がったとはいえ、身体に染みる。思わず独白が漏れた。
「‥‥ふぅ〜、生き返りますねぇ〜。今回はほとんど男性なので気が楽ですよ〜」
念入りに身体を洗ってから湯船に入る縁。女性も羨む艶やかなみどりの黒髪は、お湯に入る時には邪魔になるので、アップに纏め、手ぬぐいを巻いて押さえている。
「各々方の太刀の冴え、見事でした。さ、さ、過ごされよ」
「とと、悪いね。最初は慣れなかったが、ジャパンの温泉ってのは本当に落ち着くぜ。うーん、これで若い女の子でもお酌してくれれば‥‥って、如何だい鈴木隊長さんよ?」
沙紀と豪瞬からワインやベルモット、リコリスのクッキーが振る舞われ、三樹三郎が注文した熱燗と共に湯船に浮かぶお盆に載っている。
弾正からワインの酌を受けると、レオナールは杯を弄びながら三樹三郎に聞いた。
「悪かったな、“若い女の子”でなくて」
湯着を着て、三樹三郎の背中を流していた沙紀が怒気を含んだ声音で応える。彼女は康貴や南洋の背中も流し、お酌もしている。
「今回の温泉旅行は、組から予算が出ていないんでね」
「新撰組のお偉方は、芸者遊びなんか盛んだと聞いてるんだが?」
「それは組にも依るだろう。僕はそういうのは今は断っていてね」
レオナールの物言いに三樹三郎は肩を竦める。既に彼一人で熱燗をかなり空けている。かなりの酒豪のようだ。
康貴は一人、縁にもたれ掛かりながら夜空を見上げ、ベルモットをちびちび飲みながら静かに過ごしていた。
「見事に熊退治を済ませましたな。一つ、まいりましょう」
「鈴木隊長、隊長は新撰組の現状や今後の展望などを、どうお考えか?」
弾正が三樹三郎にお酌をすると、康貴も良い機会だからと尋ねた。
三樹三郎は、しばらくは鉄の御所との戦いが続くと踏んでいた。また、尾張藩と三河藩が同盟を結ぼうとしているなど、京都の周りで起こっている事が、少なからず新撰組に影響を及ぼすのではないかと推測していた。
『きゅう‥‥やや、ユーは何時から分身の術を覚えたのじゃ!?』
「豪瞬、のぼせてるね」
やけに静かな豪瞬の様子を見に来た沙紀は、彼が皿に湯を当て過ぎてのぼせているのを見付け、湯から引っ張り上げた。
男性陣が出た後、沙紀が一人でゆっくりと入る。露天風呂は混浴だからだ。
後ろで纏めていた長い黒髪を解き、肌共々丁寧に洗ってから、広々した湯船に浸かり、手足を思いっきり伸ばす。
「ごくらく〜ごくらく〜♪」
まさにこの世の桃源郷とでも言うべきか。熊退治で疲れた身体に温かい湯が心地良い。
ふと、視線を下げると、お湯に浸かっただけでぷかぷか浮く、たわわに実った双房を目の当たりにする。
「まだ育ってる‥‥ますます刀が振り難くなるし‥‥かといって、胸に巻くサラシもきつくなってくるし‥‥」
きょぬーにはきょぬーの悩みがあるようだ。
「僭越ながら、俺が乾杯の音頭を採らせて戴く。無事、熊退治を終えた事を祝して、乾杯!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
部屋に戻ると夕食の準備が整っており、弾正が乾杯の音頭を採った。南洋達は秋の味覚満載の鍋に加え、熊鍋も美味しく戴いた。
「筆の力って事なら、文より絵の方が分かり易い場合もあるかとね。剣を振るばかりのあたしより、あんたに持っててもらう方が有意義そうだしさ」
『イギリスの方との友好の際に、ご参考になれば幸いなのじゃ』
その席で沙紀より百鬼夜行絵図が、豪瞬よりイギリス紋章目録が三樹三郎へ渡された。
彼は帰り、京都に着いてから、二人に新撰組の出張所へ立ち寄ってもらい、これからの季節、京都も寒くなるからと、綿入りの半纏をお返しに贈ったのだった。