貯蔵庫掃除
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月19日〜07月24日
リプレイ公開日:2004年07月27日
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●オープニング
イギリスは緯度的にはかなり北にあり、夏は程々に涼しく、冬は暖流のメキシコ海流の影響でノルマンより温暖だ。
とはいえ日に日に真夏に近付くこの時期は、照り付ける日差しも鋭さを増し、キャメロットの街中を歩く者達の服装は自然と薄着になった。
「涼しげな依頼がありますけど、受けます?」
その日、あなたが手で顔を扇ぎながら冒険者ギルドに入ると、依頼書が貼ってある壁に向かっていたギルドの女性担当者が振り返りながら声を掛けてきた。
その手に依頼書を持っているところを見ると、入って間もない依頼のようだ。
「キャメロットから二日ほど歩いた所にある村からの依頼ですが、その村の貯蔵庫の掃除をして欲しいとの事です」
冒険者ギルドに依頼が来るくらいだから、タダの掃除ではないようだ。
「何でも貯蔵庫にモンスターが棲み付いたそうです」
村人が貯蔵してあった食糧を取りに行った時、モンスターが棲み付いている事に気付いたのだという。
この貯蔵庫は村の近くの小高い丘の日陰の斜面にできた洞穴を利用し、改造したもので、中は3つの部屋に分かれていた。
その内、手前の2つの部屋に、巨大な蜘蛛とゴブリンの姿をそれぞれ見付け、食料が取れなかったらしいのだ。
「この貯蔵庫は人の目の付く所ではないそうですが、ゴブリン達は偶然、見付けてしまったのでしょう。このままでは食料を取りに行く事ができないですし、食料を食い尽くした後、村を襲う可能性もあります。そこで冒険者の出番という訳です」
問題は穴の中の戦いだろう。
女性担当者の話では、貯蔵庫の中は狭く、通路は大人が2人横に並んでやっと歩ける程だという。
ゴブリンと巨大な蜘蛛が棲み付いた部屋は、それぞれ10メートル四方程の広さだが、大人数は入れないだろう。
依頼を受けるなら同行する仲間の編成や武器の種類、戦い方など、考える事は多いようだ。
●リプレイ本文
●夏は暑いもの
7月に入ると夏もそろそろ本番だ。
イギリスの夏は肌にまつわりつくような不快な暑さではなく、照り付ける陽射しはカラッとしていて、日陰に入れば暑さをしのぐ事ができる。
とはいえ、暑いものは暑い。
「流石に夏は薄着にしないと暑いね〜。早く涼しい貯蔵庫に行きたいよ‥‥あ、でも大きなクモには遭いたくないけど」
「それは同感だ。涼しげな依頼とはいえ、モンスターと戦う事になるんだから、結局汗をかく事になるが‥‥それが仕事ってもんだからな。‥‥それと、人前でそういう事をするのは止めた方がいい」
「?」
「ガキ相手に言ってもしょーがねーと思うけど、こいつは、レディは人前で胸元開けんなって言ってんだよ」
チカ・ニシムラ(ea1128)はオレンジ色のローブの胸元を少し開け、手で煽いでいた。
イグニス・ヴァリアント(ea4202)はチカの方を見ないものの、ちゃんと話は聞いていた。ルクス・ウィンディード(ea0393)がからかい半分にその理由を教えてくれた。
チカのはだけたローブから、まだ熟れていない青い果実のような幼い胸元が、本人の気付かない内にちょっと大胆に覗いていたのだ。
ルクスの代弁にイグニスが不承不承に頷くと、チカは素直に身なりを整えた。
「2つ目の部屋はどこでござるか‥‥かたじけないでござる。貯蔵庫の構図が分かったでござるよ」
その時、天城月夜(ea0321)が村長の家から出てきた。イグニス達は月夜を待っていたのだ。ジャパンの不快な暑さに慣れている月夜は、白を基調とした旅装束をきっちりと着込んでいた。
月夜が村長に貯蔵庫の構造を聞いたところ、洞穴は奥の部屋まで一本の通路になっており、途中に横穴が2つある、シンプルなものだった。
「その2つの横穴にそれぞれ、ゴブリンとグランドスパイダが棲み付いた訳か‥‥」
「部屋が狭いというところを注意すれば、それほど難しい依頼ではないな」
「ふむ、貯蔵庫になっている洞穴はかなり狭いのか‥‥ならば分かれて行動した方がいいな」
月夜の書いた毛筆の地図を囲み、アッシュ・クライン(ea3102)とエヴィン・アグリッド(ea3647)が状況を確認すると、リフィール・ラグナイト(ea1036)が分かれて戦う策を提案した。
「班分けは俺に任せてもらえませんか?」
レイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)がリフィールの提案を受けると、各自の得手不得手等の希望を踏まえた上で職業を鑑みて、前衛と中衛、後衛にテキパキと分けた。
●ゴブリンの巣窟
貯蔵庫にしている洞穴は、村の奥から少し歩いた所にある小高い丘が作る日陰の斜面にあった。「洞穴がある」と言われなければ、人の目では分からない程巧妙に隠されていた。
入り口が隠されている分、洞穴の中は入り口から既に薄暗かったが、リフィールは村人から貯蔵庫用のランタンを借り、灯りを確保していた。
「流石に涼しいね〜、洞穴の中は。外の暑さが嘘みたいだね♪ ‥‥この匂いさえなければだけど‥‥」
洞穴の中はひんやりとしていて、チカの額の汗も引っ込んだが、今度は腐臭に似た淀んだ匂いが篭もっていた。チカがステインエアーワードを使うと、この腐臭は数時間前に4匹のゴブリンが食料を食べたからのようだ。またブレスセンサーによって、手前の横穴に4匹、奥の横穴に4匹の息遣いを感知した。
「手前の横穴にはゴブリン、奥の横穴にはグランドスパイダだな。生憎、俺のデティクトライフフォースは奥までは届かなかったがな」
奥の横穴は入り口からでは、エヴィンのデティクトライフフォースは届かなかった。
通路は狭い為、ゴブリンを担当するレイヴァートと月夜が前衛、アッシュが中衛、チカが後衛と隊列を整え、洞穴の中を進んでいくと、すぐに最初の横穴が見えた。
月夜が短刀の刀身を鏡代わりに壊された入り口から中を覗くと、2匹のゴブリンと大柄で体格のいいゴブリンが2匹、部屋の隅に積み上げられた木箱を壊し、中を物色している最中だった。
「ここに至ったのがお主達の運の尽きでござる!」
食料に気を取られている隙に、月夜は居合切り――ブラインドアタック――を繰り出し、ゴブリンの首を撥ねた。
その横ではレイヴァートが、右手に構えたショートソードと左手に構えたノーマルソードのダブルアタックをホブゴブリンにお見舞いした。オーラエリベイションを付与しているとはいえ、その斬撃は致命傷には至らなかった。
「僅かだが、攻撃が浅かったようだな」
「レイヴァートお兄ちゃん、援護するよ! 風よ、我が前の敵を切り裂け!!」
間髪入れず、アッシュがロングソードからオーラパワーで威力を高めたソニックブームを放ち、チカがウィンドスラッシュを唱えてホブゴブリンを倒した。
ゴブリンはクラブを闇雲に振り回すが、月夜に見切れぬ攻撃ではなかった。しかし、そこにホブゴブリンのミドルクラブが加わると状況は一変した。
狭い空間に4人居り、2匹は1m近い棍棒を振り回している。しかも回避できる空間が限られている上、食料を傷つけないように配慮している為、チカのウィンドスラッシュで怯んだもう1匹のゴブリンを仕留めた月夜は、ホブゴブリンのスマッシュをかわし損ねてしまった。
「っ!! ‥‥婦女子を護るのは騎士の誉れですから」
レイヴァートが月夜を庇い、スマッシュを受けたのだ。衝撃を完全には殺せず、左手を弾かれ、ノーマルソードを取り落としてしまった。
スマッシュの第2弾はアッシュがソニックブームで牽制し、レイヴァートと月夜が同時に突きを放ち、ホブゴブリンを仕留めたのだった。
●グランドスパイダの脅威
アッシュ達がゴブリンとの戦闘を始めた頃、ルクスとリフィールを前衛に、中衛には灯りを持ったイグニスが立ち、エヴィンが最後尾から付いて、2つ目の横穴の前まで来ていた。
「ただ飯喰らいは出てけやコラァ!!」
イグニスがランタンで室内を照らした瞬間、上から飛来する影があった。足を伸ばせば1mを越える、黄色と黒の縞模様の毒々しい巨大なクモだ。
しかし、事前にエヴィンがデティクトライフフォースでグランドスパイダが天井に張りついている事を確認した為、ルクスはスピアを突き上げ、リフィールはロングソードで斬り上げて不意打ちを逆に利用すし、1匹を倒した。
「――双撃の刃、その身に刻め!」
続いてイグニスが両手に構えたダガーからソニックブームを連続して繰り出し、着地したグランドスパイダを吹き飛ばした。
「グランドスパイダは初めて戦う相手だな。気を引き締めていくか」
「‥‥涼しげどころか、寒気がしてきた‥‥」
間合いが取れたところで、リフィールはロングソードを構え直し、荷物とグランドスパイダの位置を確認した。
部屋の隅にずた袋が積み重ねられており、上の方が破れて麦がこぼれていた。
その後ろでは、蜘蛛が嫌いなイグニスがこっそり全身に鳥肌を立てていた。あの8本の足による独特で不気味な動きが嫌いなようだが、だからこそ全く情け容赦なく攻撃していた。
「イグニスのツインソニックブームに耐えるか‥‥ならこれはどうだ!」
エヴィンが援護射撃とばかりにブラックホーリーを唱え、グランドスパイダの1匹を弾くと、それにタイミングを合わせたリフィールの上段からのスマッシュがグランドスパイダを叩き斬った。
そこへもう1匹のグランドスパイダが牙を剥いて飛び掛かり、リフィールはマントを使ってかわすが、一部を切り裂かれて腕をかすめていった。
「ちぃ‥‥壁を使うか‥‥」
「ルクス、いけない!」
そのまま壁へと逃げるグランドスパイダ目掛けてルクスがスピアを繰り出すが、イグニスの忠告空しく、相手の方が早かったようだ。
そしてイグニスの危惧通り、ルクスの矛先は糸まみれになっていた。これでは威力が大幅に下がってしまう。
「く‥‥さっきの牙か‥‥」
その横ではリフィールが肩膝を突いた。牙がかすった腕から全身が痺れ始めたのだ。
獲物が弱った事を察したグランドスパイダは、動けないリフィール目掛けて再び飛来してきた。
イグニスはリフィールを飛び越えると、無言且つ鬼気迫る勢いで2本のダガーを振るい、グランドスパイダの足を切り刻んだ。空かさずエヴィンがブラックホーリーを打ち当て、怯んだところへルクスが鈍器に等しいスピアでチャージングを仕掛け、壁に串刺しにした。
「あー‥‥逆に暑くなっちまったな‥‥どこが“夏にうってつけの依頼”だ、あのギルドの受付の女‥‥」
肩を上下させつつ、ルクスは呼吸を整えながらスピアを抜いた。
●貯蔵庫整理が依頼の当初の目的
「そういえば、掃除をする事が目的だったんだよな」
リフィールを手当てしながら、イグニスは思い出したかのように言った。
幸い、こちらの貯蔵庫はそれほど荒らされておらず、麻痺から回復したリフィールとイグニス、ルクスの3人で後片づけをした。
「念の為、デティクトライフフォースを使ったが、反応は無しだ」
「チカのブレスセンサーでも引っ掛からなかったし、扉も無事だから、中にはいないな」
エヴィンとチカが洞穴の奥にある扉の中を調べたが、モンスターの反応はなかった。
扉は無傷で鍵が掛かっている事もあり、アッシュは無事だと判断した。
「相まみえた者を弔うのは、最低限の礼儀でござる」
「ブシドーですか‥‥倒したモンスターを掃除するのも仕事ですからね」
月夜はレイヴァートと共に最初の貯蔵庫を粗方片付けた後、ゴブリンとグランドスパイダの遺体を洞穴の外の森へと運び、簡単ではあったが埋葬した。
「依頼完了♪ ‥‥でもまた暑い街に戻るのは少し憂鬱だね」
村へ結果を報告しに戻る道中、そう零したチカの念が届いたのか、村では地酒を報酬の他に村で作っている地酒を全員の振るまったのだった。
仕事の後の一杯で、夏の暑さも多少は和らぐ‥‥かもしれない。