【天下布武】美濃併合・稲葉山城電撃戦

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 76 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月18日〜02月26日

リプレイ公開日:2008年03月17日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
 尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
 『天下布武』はあくまでお市の方の宣言であり、そこに蘇ったと噂される虎長の姿は一切無かった‥‥。

 ――那古野城。お市の方の本拠地だ。
 那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に聳え建つ、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。虎長の死後、濃姫はジーザス会へ帰依していたからだ。
 虎長が存命の頃は、彼の居城清洲城が尾張の中心地であったが、お市の方は尾張を統一後も居を清洲へ移さず、那古野のままとしているので、那古野城下は今まで以上に人が集まり始めていた。

 那古野城の天守の間には、お市の方を始め、滝川一益達尾張藩の武将と美濃藩を追われた元藩主・斎藤道三が集い、道三よりもたらされた美濃藩の概略図を囲んで軍議を開いていた。
 その席には珍しく、虎長の姿もあった。虎長が蘇った事は対外的には伏せられており、尾張藩主、そして尾張平織家の当主の座はお市の方が自分の手で掴み取ったものだからと、彼自身はそれら政(まつりごと)から身を引き、妻の濃姫同様、居をカテドラルへ移している。
 しかし、今回の美濃攻め、こと稲葉山城攻めに関しては軍議に積極的に顔を出していた。
 そしてもう一人、軍議には珍客がいた。妖怪『化け兎』の上位に当たる『妖兎』の中でも、尾張の知多半島にのみ生息する『月兎族』と呼ばれる妖怪の三姉妹が長女・月華(つきか)だ。
 月華は外見こそ十二、三歳くらいの少女だが、その実力は江戸を震撼させた大妖『九尾の狐』に勝るとも劣らないという。事実、彼女一人で尾張兵百人を相手にする事が出来る。
 お市の方に月華達月兎族三姉妹を紹介された道三は、(妖怪を武将として登庸している事も含めて)大層驚いた。
 だが、月華は軍議の場に居るだけで、特に発言する事はない。彼女は『人間同士の戦い』には関与しない姿勢を貫いている。軍議に参加しているのも、お市の方の行く末を見届ける為だろうと思われている。

「墨俣(すのまた)に一夜砦を築き、睨み合いを続けて二ヶ月‥‥そろそろ義龍殿を『釣り上げる』良い頃合いでしょう」
「ふむ‥‥」
「ほぉ」
 お市の方がそう切り出すと、道三は軽く唸り、虎長は感心するように頷く。
 道三の息子・斎藤義龍は、稲葉良通、安藤守就、氏家直元ら“西美濃三人衆”と共に尾張藩による美濃併合反対し、家臣の七割以上を味方に付けて道三を追放し、美濃の大半を手中に収めた。しかし、墨俣一帯は道三の影響力が強く、しかもお市の方が墨俣に一夜にして砦を築き、九百もの兵を駐在させているので、おいそれと手が出せないのが現状だ。
 墨俣は、揖斐川と長良川に挟まれた長良川西岸にあり、主要街道が走り、墨俣宿という宿場町として栄えている。道三がこの地を押さえているのも、美濃の交通・戦略上の要地だからだ。義龍も喉から手が出る程欲しいはず。
 しかも、稲葉山城は稲葉山の山頂に建てられた古典的な山城だ。山頂故平坦な土地は少なく、飲用水も雨水を蓄える井戸を使う為、短期決戦に対する守りは堅いが、長期戦には不向きといえる。
 もちろん、義龍も美濃兵千七百全てを稲葉山城に集結させている訳ではない。稲葉山の西に広がる城下町・井之口にその大半を割き、墨俣の一夜砦の尾張兵を牽制し、隙あらば攻め落とすつもりのようだ。
「稲葉山城を落とすには、山頂部にある天守閣を攻める必要があります。その為には、天守閣の東西にある櫓や兵の詰め所から出来るだけ多くの兵を引き離す必要があります」
 山頂部の平坦面が少ない為、稲葉山城は天守閣と城本来の設備が分かれた構造をしている。
「こちらが先に痺れを切らしたと見せ掛けて一夜砦より出陣し、井之口へ攻め入ります。もちろん、本当に落とすつもりで攻め、稲葉山城まで肉薄する事を目標とします。当然、義龍殿も討って出てくるでしょうから、こちらは撤退し、この十四条辺りで迎え打ちます」
 お市の方は井之口の西にある平野へ、稲葉山から指を動かす。そして十四条の南にある墨俣をもう一方の指で指し、十四条へ移動させる。
「その間、手薄になった稲葉山城を少数精鋭で落とす‥‥これが私の考えた策です」
「『釣り野伏せ(つりのぶせ)』の応用か」
「はい。この策で重要なのは『釣り』、囮部隊が如何に稲葉山城より多くの美濃兵を誘引出来るかに掛かっています。その餌としての墨俣の一夜砦であり、道三おじさま、と思っています」
 お市の方の策を聞き、道三が言い当てる。
 釣り野伏せは本来、寡兵を以て兵数に勝る相手を殲滅する戦法である為、囮部隊は敵部隊とかなりの兵力差がある場合が多く、難易度が高い。
 お市の方はその点を踏まえて、囮部隊がより釣り易いよう、墨俣の一夜砦と道三を餌としていた。伊達に二ヶ月を無意味に過ごした訳ではない。
「ただ、道三おじさまの姿を見る事で、美濃兵が余計な勘繰りを入れなければいいのですが‥‥」
「お義父上は諸刃の剣と言ったところか。お義父上を何時投入するかは、現場の指揮官に任せればいいだろう」
「婿殿、言ってくれるのぉ。しかし、もっともな意見じゃ」
「市よ、稲葉山城は天下布武を進める上で不可欠な要衝だ。何としても手に入れねばならぬ」
「はい、虎長お兄様。一夜砦の兵と稲葉山城を攻める伏兵の割り振りは、一益達に任せます」
 お市の方の意見に、虎長は高らかに笑う。当を得ているだけに道三は苦笑しつつも頷いた。
 虎長が稲葉山城攻めの重要性を説くと、お市の方は表情を引き締めて応え、一益達と詰めに入った。
「ところで道三おじさま。稲葉山城を落としたとして、義龍殿の処遇はどうなさるおつもりでしょうか?」
「儂を追放したくらいじゃ。稲葉山城を落とし、捕らわれたとて、天下布武に今更同意はせんじゃろう‥‥斬るしかあるまい」
「‥‥その役目、私が引き受けます」
「市殿!?」
「大丈夫、私は尾張を統一する為に、兄と甥をこの手に掛けています。今更、近親の一人や二人、斬ったところでどうという事はありません」
 お市の方は血塗られた両手を見つめた。それは同族の血だ。驚く道三に、彼女は精一杯の微笑みを浮かべたのだった。

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6158 槙原 愛(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

玄間 北斗(eb2905)/ 鳳 令明(eb3759)/ 坂田 奈美(ec2534

●リプレイ本文

 
●子心親不知
「久しぶりだな市殿‥‥嫁入りはまだのようだが、息災で何より」
「いい人がいる事が前提だけど‥‥少なくとも上洛し、尾張平織家当主として安祥神皇様の御拝顔を賜れるまではそんな余裕はないけどね」
 ナイトの壬生天矢(ea0841)は愛馬の黒華を駆って那古野城へ登城し、お市の方こと平織市(ez0210)に挨拶代わりにそう切り出すと、彼女も婚期についてそれなりに気にしているのか、頬を膨らませる。
 お市の方は、愛馬のテンペスターに跨って天矢と共にやってきたレンジャーのクロウ・ブラックフェザー(ea2562)へ一瞬だけ視線を泳がせるが、すぐに真顔になり、天矢に『天下布武』を成し遂げるまで結婚する精神的な余裕はないと応えた。
「ところで、以前話していた三食昼寝付の件‥‥覚えていればまだ有効かい?」
「ええ、もちろん。天矢程の使い手ならこちらから登庸をお願いしたいくらいよ」
 天矢の冗談を交えた遣り取りで、お市の方は合戦前の緊張が大分解れたようだ。
(「でも、何となく嫌な流れさね。市サンが気負いすぎないように支えようさね」)
 お市の方自身は肩の力が抜けたようだが、先の話題にも上ったように、天下布武を掲げて上洛を目指している以上、気負っている事に変わりはない。
 ジャイアントのネフィリム・フィルス(eb3503)はその気負いが悪い方向へ傾かないよう、影ながら支えるつもりだった。

「師匠! ルンルン、ただ今戻りました‥‥わぁーん、お会いしたかったです」
「る、ルンルン殿、お市様の御前でござるよ!」
 “花忍ルンルン”ことハーフエルフの忍者ルンルン・フレール(eb5885)は、師匠の滝川一益の姿を認めると、満面の笑みを浮かべてその首に抱き付いた。
 抱擁は祖国イスパニアではスキンシップだが、一益の初々しい反応がルンルンの乙女心を鷲掴みにするのか、ついしてしまう。
「じゃーん、修行の旅の成果のお土産です。大事な戦の前だし、これで元気付けて下さい!」
「西洋の珍味を拙者にでござるか‥‥拙者もルンルン殿にお返しをせねばなるまい」
 ルンルンがキーラの美味しい保存食を贈ると、一益はお返しに忍鎧「紅」を贈った。

 武道家の明王院浄炎(eb2373)もまた、セブンリーグブーツを履いて一足先に尾張入りすると、武将の一人、森可成を訪ねた。可成は尾張藩内の治安維持を預かる為、出陣しない。
「此度の戦、共に凱旋の杯を交したく思い、お届けに上がった次第だ」
 浄炎は去年の『那古野城防衛戦』で、お市の方との伝達の行き違いから、配下の兵に無用の負傷をさせてしまった。しかし、お市の方は『意外とおっちょこちょい』と笑い飛ばした。
 その懐の広さに心を打たれ、詫びを兼ねて秘蔵の天護酒を贈ろうとしたのだが。
「‥‥親心子不知というが、親もまた子心不知だな。そなたも父親なら、市様の深謀遠慮を考えてみるのだ。それにこの酒は私ではなく、他に渡す者がおろう?」
 可成は残念そうに頭を振った。
 幸い、浄炎隊の足軽に戦死者はなかった。しかし、死傷者が出て、その者に家族がいたとしたら‥‥子供は父親を失う事になる。
 浄炎は我が身に置き換え、ようやくはっとなった。
「俺の采配不備で怪我を負わせておいて、今更都合の良い話かも知れないが、お市の方の夢を叶える為に、共に盾となってはくれぬか?」
 その事に気付いた浄炎は、その足で先の戦で率いた足軽達を訪ね、無用の傷を負わせた責を詫びた。
 真心を持って真摯に想いを伝えてこそ、お互いに響く事もあると信じて、バックパックからリカバーポーションを人数分置いて去っていった。

「流石に稲葉山城に程近く、100人の兵を伏せられる茂みは無いか‥‥」
 クロウはお市の方への挨拶もそこそこ、ルンルンと共に、お市の方と斎藤道三の勢力下にある墨俣(すのまた)へ向かい、宿場町・墨俣宿(すのまたじゅく)付近の猟師に、この辺の地形に付いて尋ねていた。
 稲葉山城周辺は斎藤義龍が物見を多く放っている事もあり、隠密行動に長けたクロウといえども調べるのは容易ではなかった。
 それでも何カ所か目星を付け、ルンルンと手分けして川並衆を連れて現地を調査し、美濃勢の物見の動向も合わせて調べた。
 不定期且つ頻繁で厄介だが、見回る地域は主に稲葉山城と城下町・井之口近辺で、時々、墨俣の方まで足を伸ばしているようだ。
「墨俣の方まで探りに来ているという事は、義龍さんも一夜砦の攻略を考えてるって事だよな。釣り野伏せが上手く行けばいいんだが‥‥」
 兵を伏せるのに最適な場所を選出すると、クロウは一夜砦へ戻り、偽装の準備を始めた。
 また一夜砦では、ファイターのアラン・ハリファックス(ea4295)がネフィリムと共に旗差物を作っていた。ネフィリムの策では、旗差物は普段の五倍から十倍必要だという。
 アランは速攻の為、お市の方が木板に書いた、稲葉山城の概略図を頭に叩き込みながら旗差物を作るという、ある意味、器用な事をしていた。

「刀也くんとは久しぶりの依頼ですね〜。ふふ〜♪ 今回は一緒にお市さんの為に頑張りましょうね〜」
「みっともないところは見せられない、な」
 明けて翌日、浪人の槙原愛(ea6158)と雪切刀也(ea6228)が尾張入りした。
 刀也は一年近く豪州へ冒険に出掛けており、恋人達はその間の会えない切なさを埋めるかのように、出来る限り同じ時間を共有していた。
 特に愛はもらったかんざし「白櫻花」を大事に栗色の髪に挿し、すこぶる上機嫌だ。
「あなたが市姫ですか。手の掛かる知り合いから、力になってくれと頼まれてますよ」
「知り合い‥‥誰かしら? 何にせよ助かるわ」
 刀也はお市との方と挨拶を交わすと、アランが見ていた稲葉山城の概略図を見て、攻める点、抑える点を推し量り、アラン達と策について図った。


●稲葉山城電撃戦
 柴田勝家を総大将とする尾張勢四百が、城下町・井之口へ攻め込む。
 迎え撃つは“美濃三人衆”が一人、安藤守就率いる美濃勢千四百。
 だが、『釣り野伏せ』の囮とはいえ、数が違いすぎた。圧されるが、ここで軍師・斎藤道三率いる増援六百が投入され、戦況を押し戻す。
 戦況が五分になった事を受け、“美濃三人衆”が一人、稲葉良通は斎藤義龍へ増援を要請する。
 冒険者達の活躍もあって、稲葉山城より増援百を合わせた、総勢千五百の美濃勢を、釣り野伏せで十四条まで誘き出す事が出来た。

「稲葉山城に残る兵は200か‥‥」
「上出来じゃねぇか?」
 井之口の戦況が辛うじて分かる場所で、クロウとアランは釣り野伏せの推移を伺っている。
 アラン達は百名の兵と共に夜明け前に一夜砦を出陣し、クロウが目星を付けた場所に、穴を掘ったり、木の枝を配置して偽装し、美濃勢の物見に見付からないよう分散して身を潜めていた。
「この距離なら〜、美濃兵に見付かっても〜、十四条へ誘き出された隊は〜、戻ってこられませんね〜」
「よし、一気に稲葉山城まで進軍だな」
 兵法に明るい愛がそう判断を下すと、クロウはお市の方へ進軍を進言、彼女は深々と頷いた。
「本隊は旗差物を掲げるさね!」
 ネフィリムが号を掛けると、五十名の兵が一斉に尾張勢の旗差物を掲げた。こうする事で、遠目には大軍が攻め寄せたと思わせて稲葉山城の兵達の戦意を挫き、出陣している美濃兵には、稲葉山城が何百もの尾張兵に占拠されたと錯覚させ、早期の決着を狙っていた。
「報酬は金より、あなたの褌姿でも結構ですがね」
「もちろん、冗談よね?」
「‥‥はい、冗談です。それでは入ってまいります」
 お市の方に出撃の挨拶に来たアランは、彼女の笑顔の威圧の前に屈した。
 そのまま彼は浄炎と共に登城道を攻め上がる。稲葉山城の兵達も旗差物には気付いており、矢や投石が雨霰と降り注ぐが、アンチクロスシールドを前面に押し立てた浄炎を筆頭に、矢避けの盾を装備した浄炎隊が辛うじて防ぐ。
「地味で目立たぬ役目であれど‥‥預るは主君の命と勝利。ここが我等の踏ん張りどころよ」
 浄炎はお市の方を引き合いに出して配下の足軽達を鼓舞し、一歩も退かない。
「平織家の近臣でありながら、天下布武に従わぬ逆賊義龍! 速やかに降伏し、稲葉山城を明け渡せば、命までは取らないわ!!」
「‥‥黙れ! 天下布武、上洛、と綺麗事を並べておきながら、貴殿のやっている事は所詮は諸藩への侵略ぞ! 逆賊のお言葉、そのまま貴殿へお返ししよう。平織家の近臣だからこそ、尾張平織家の愚行を義を以て正すまで!!」
 お市の方の言葉に、稲葉山城からの攻撃が止み、代わりに義龍の声が聞こえてきた。同時に一条の矢がお市の方目掛けて飛来する!
 彼女の近くに侍っていたネフィリムがボーティングで防いだ。
「これが逆賊義龍の応えか! ならば安祥神皇様の名の下に、攻め滅ぼすのみ!!」
「槍構え。速さが命だ、1人たりとて遅れるなよ! ‥‥突撃! 今はただ、前へ! 前へ!! 前へ!!!」
「いやはや、こうやって戦場に立つと、帰ってきたんだと実感できるのが何とも‥‥さて、刀也隊、仕掛けるぞ! アラン隊を援護する!!」
 稲葉山城からの攻撃が止んだのを好機とばかりに、お市の方が掲げた手を振り下ろすと、アラン隊十三名の足軽が三間半の槍を構えて突撃する。その後に愛と天矢隊五名の侍が続き、刀也隊十人の弓兵が彼らを援護した。

「ふふふ‥‥得意の忍法7つの力なのです!」
 その頃、ルンルンと川並衆六人は疾走の術を使い、稲葉山の東側、崖の方向から裏口へ回っていた。
 ルンルンがブレスセンサーの巻物で城内の様子を探ると、ネフィリムの狙い通り、稲葉山城の兵の大半は本隊に集中しており、見張りはいるものの、今いる人数で倒せない数ではない。
 ルンルンは裏口から風のように潜入し、瞬く間に見張り達を倒した。
「攻撃に一生懸命で門の前の見張りは多くはないですね。ルンルン忍法、穏身の術です!」
 予め頭に叩き込んでおいた概略図を頼りに、大急ぎで正門へ向かう。
 門の上に配置されている弓兵に気付かれないよう、ルンルンは今度はインビジブルの巻物で姿を消し、閂を外しに掛かった。姿を消しているとはいえ、城門の異変に気付かないはずはなく、門の前に待機していた足軽達は、「化け物め!」と闇雲に虚空に長槍を突き立てる。
「化け物なんて、ひどーい、ぷんぷんです」
 その時、川並衆が合図した。

 川並衆の合図を見た天矢と愛、ネフィリムが、三人掛かりで城門へスマッシュEX+バスーストアタックEXを繰り出し、破砕する。閂が半ばはずれていたので、城門はあっさり開いた。
 クロウと川並衆が横手へ回り込み、土塁を乗り越え、城門を守る弓兵に射掛けて出鼻を挫く。
「敵兵は一人も城内から逃がすな」
「釣り野伏せのお陰で、城内はそれほど兵は多くないはずです。一気に包囲してしまいましょう」
 その隙を衝いて天矢隊と愛が、一番槍として城内へ雪崩れ込む。
「迅速に‥‥全力で参る!」
 天矢隊は足軽隊へ斬り込みながら、櫓や兵の詰め所に火を放ってゆく。
「行くよ、黒曜石のお姫様」
「(む〜‥‥)逃しはしませんよ‥‥? 逃げられて援軍呼ばれても困りますから」
 斬り込む前、黒の眷属輪にぎゅっと触れる刀也。
 彼の行動に愛は軽く嫉妬を感じ、その鬱憤を晴らすかのように、右手に持った忍者刀「伊賀」と左手の短刀「骨食」を振るい、鬼女の如き戦い振りを見せる。
 刀也も負けじと、フレイムエリベイションで自身の士気を高め、足軽の長槍をライトシールドで受け流し、間髪入れず、ブランミスティックを振り下ろしてゆく。
「後は俺らに任せて、お前達は後方に下がって休んでくれ」
「はい、私の分のポーションも使って下さい。それじゃぁ師匠行きましょう! パックンちゃんGO!」
 ルンルンと川並衆が突入した本隊に合流すると、アランは浄炎隊へ下がるよう告げた。今までずっと矢面に立っていたのだ、疲弊していない訳がない。
 ルンルンも自分の分のポーションを浄炎へ渡すと、大ガマの術で一益と共にアラン隊の援護に回った。
「この城は落ちた。速やかに降伏せよ‥‥さもなくば‥‥」
 天矢隊とネフィリム隊は周囲の制圧を終わらせ、天守閣にいるであろう義龍へ声を掛けた。
 後の利用価値を考え、火攻めは最小限に留めているとはいえ、火の手が回っている事に変わりはない。
 義龍は天守閣より降りてきて、降伏したのだった。


●義龍の助命
 お市の方は冒険者と一益、斎藤道三と共に、稲葉山城の天守閣へ入った。
 お市の方も美濃三人衆と美濃兵の命までも取ろうとは考えていない。むしろ、彼らは天下布武を進めていく上で、必要な人材と言える。
 それに、今回の美濃攻めで尾張兵も犠牲者が少なからず出ており、続く伊賀藩の併合に備えて早急に兵を補充する必要があった。
 問題は義龍を斬るか否かだ。

『例え、どんなにこの手が血に塗れようとも、俺はこの手を離したりしない。信じた道を迷わず進みなよ。俺は何処までも付いて行くよ』
 合戦の前、クロウはお市の方と二人きりになれる時間を作り、彼女の手を自分の両手で包み込みながらそう話していた。
 ‥‥天下布武の為なら修羅になる事すら厭わない悲しい覚悟を決めた、お市の方の心が冷え込まないように。

「天下布武は安祥神皇様の力となる為に、諸侯が喰い合っている力を再統合する事にある。ならば、意にそぐわぬ諸侯を誅するのが目的ではないはずであり、この場に安祥神皇様がおられれば、義龍殿をお赦しにになり、命を奪いはしますまい」
 ネフィリムは安祥神皇の御心をお市の方に説き、義龍を処刑するのではなく、追放の処遇を求めた。慈悲を美濃の民に見せる事で、お市の方の制圧者としての印象を和らげるだけではなく、修羅の道を突き進むお市の方がこれ以上自分だけで物事を抱え過ぎように少しでも軽減したいという想いもあった。
「義龍は有能且つ、極めてまともだと思わないかい? ここで斬るなんて勿体ないんだよ。今後の尾張に役立たないか?」
 刀也も助命嘆願に加わった。いや、彼だけではない。降伏を呼び掛けた天矢も、義龍の命まで取ろうとは思っていないはずだ。
「‥‥分かったわ。義龍殿は比叡山へ蟄居(ちっきょ)とします」
 お市の方は自身の血塗られるであろう手を見、刹那、クロウの温もりを思い出すと、義龍へ比叡山への蟄居を命じたのだった。

 尚、ネフィリムは、稲葉山城は平織虎長(ez0011)に直ぐに引き渡すのではなく、美濃藩の情勢が落ち着くまで入城を待ってもらいたかった。しかし、お市の方は稲葉山城に戦略的価値を見出しておらず、むしろ墨俣の一夜砦の方を続く伊賀攻めの前線基地として考えていたので、近日中にも虎長が入城する事となった。
「虎長公が入るのか‥‥次は何時、またここを攻略する事になるかな‥‥?」
 アランは高級葉巻をふかしつつ、稲葉山城を見て、ニヤリとほくそ笑んだのだった。