ドキ☆漢だらけの褌相撲大会(ポロリも?)
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:菊池五郎
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月19日〜02月26日
リプレイ公開日:2008年03月05日
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●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
『天下布武』はあくまでお市の方の宣言であり、そこに蘇ったと噂される虎長の姿は一切無かった‥‥。
――那古野城。お市の方の本拠地だ。
那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に聳え建つ、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。虎長の死後、濃姫はジーザス会へ帰依していた。
虎長が存命の頃は、彼の居城清洲城が尾張の中心地であったが、お市の方は尾張を統一後も居を清洲へ移さず、那古野のままとしているので、那古野城下は今まで以上に人が集まり始めていた。
新年会も終わり、美濃藩を併合すべく、稲葉山城攻めを数日後に控えたある日。
お市の方は愛用の武者鎧「白絹包」を纏い、那古野城内を見回っていた。合戦が近い事もあり、出陣の様子を見て回っている。本来なら総大将はどっしりと構え、そういう事は小姓の森蘭丸や滝川一益達武将に任せておけばいいのだが、お市の方の性分だ。
「ん‥‥何かしら?」
二之丸、西之丸で出陣の準備を整える兵達に声を掛けて回り、三之丸へ来ると、お市の方は出陣の慌ただしさとは別の喧騒を耳にした。
「と、虎長お兄様!? そ、そのようなお姿で何をなさっているのですか!?」
「おお、市か。見て分からぬか?」
お市の方が向かうと、彼女の目に飛び込んできたのは、虎長の“尻”だった。慌てて手で顔を覆って隠す。
「わ、分からないから聞いているのです!」
「ははは、確かに見なければ分からぬな。相撲だ」
「相撲‥‥ですか」
言われて、お市の方は恐る恐る手を退ける。
よく見れば、虎長は赤い越中褌一丁姿であり、厳密には全裸ではなかった。また、虎長の奥には同じく越中褌姿の尾張兵数十人の姿があり、何組か組み合っている。
「尾張の兵は、美濃の兵や三河の兵に比べてひ弱だからな。こうして非番の兵の足腰を鍛えておるのだ」
虎長がジーザス教の奇跡で蘇った事は対外的には伏せられているが、尾張兵には姿を見せ、時々、訓練を行っている。
稽古を付けている兵は今度の美濃攻めには加わらない、那古野城の警備兵だった。
「それでしたら相撲より、虎長お兄様が考案された長柄槍を用いた訓練の方がよろしいのではないでしょうか?」
「何を言う。相撲はジャパンの神話の時代から執り行われている、政(まつりごと)を兼ねた由緒立たしき武術ぞ。足腰が鍛えられ、寒中で行う事で心身も引き締まる、理想的な訓練だ」
「相撲については私も知っていますが‥‥虎長お兄様がそこまで熱く語られるとは‥‥」
「そうだ、市も参加せぬか? 出陣前に心身を引き締めると良い」
「い、市、いえ、私も、ですか!?」
相撲は宮中で行われる「相撲節会」、庶民による「土地相撲」、侍達の組み打ちの鍛錬「武家相撲」、農耕儀礼の「神事相撲」など、尾張のみならずジャパン各地で盛んに行われている事はお市の方も知っている。
しかし、虎長がジャパンの神話を引き合いに出して相撲の訓練の優秀さを熱く語った事に、お市の方はちょっとした戸惑いを感じていた。
彼女の胸中を知ってか知らぬか、虎長はお市の方にも相撲の訓練へ参加するよう勧める。
お市の方は普段は自分の事を「市」と呼ぶが、“尾張藩の藩主”である時は「私」と使い分けるようにしている。流石に驚いたのか、思わず地が出てしまったようだ。
「え!? お市様も相撲に参加して下さるのですか!?」
「い、いえ、まだ参加すると決めた訳では‥‥」
「もしかして、お市様の褌姿が見られるって事か!?」
「もしかしなくても見られるぞ!」
「本当か!?」
「いーちさま! いーちさま! いーちさま!」
尾張兵の間に、お市の方も相撲の稽古に参加するとたちまち伝播し、気が付けばお市の方コールが巻き起こっていた。
「ここで断れば、尾張兵の志気は下がるやも知れぬぞ?」
「うう〜、虎長お兄様の意地悪! ‥‥分かりました! 分かりましたから‥‥少し待って下さい‥‥」
引くに引けない状況に、お市の方は自棄になって承諾すると、本丸御殿へと足早に駆けてゆく。
十数分後、先程と同じく白絹包姿のお市の方が戻ってきた。
「こ、これで‥‥よろしいでしょうか‥‥」
顔を真っ赤にしながら、白絹包の上着をゆっくり脱ぐと‥‥胸にさらしを巻き、純白の六尺褌を締めた、肌も露わな姿が現れる。
「うおおおおお―――――!」
その脱ぎ方から色っぽく、前屈みに手で胸と下腹部を隠すお市の方の姿に、尾張兵が吼えた。
「俺、尾張兵に徴兵されて、今日程よかったと思った事はないよ‥‥」
「俺も志願して良かったー!」
「俺、今日の事は一生忘れない」
「俺は今日の事を日記に付けるよ!」
「俺は瞼に深く刻んだよ。目を閉じればお市様の六尺褌姿が‥‥」
「それだ! 誰か、絵心のある奴はいないか!?」
「絵師呼んでこい、絵師!」
「絵師は良いですから、さっさと相撲の続きをして下さい!」
自分の六尺褌姿を見て異常なまでに盛り上がる尾張兵を一喝すると、お市の方は訓練を再開させた。
「うむ‥‥やはり相撲はよい」
その光景を腕を組んで見ながら、虎長は満足げに頷いた。
「市よ、お前が相撲を取るだけで、これだけ尾張兵の士気が高まるのだ」
「別の意味で興奮しているだけかと思いますが‥‥」
「そうか? まぁ、よい」
「よくないです!」
「それよりも、市、お前が冒険者といった強者を集めておるのなら、相撲大会を開いてみてはどうだ?」
「相撲大会ですか? それは構いませんが‥‥ただ、私は美濃攻めが近いので参加できませんが」
「代わりに儂が取り仕切ろう。市には主催を頼みたい。儂も強者達の相撲を見てみたいしな」
「そういう事でしたら‥‥」
斯くして、お市の方名義の依頼として、尾張藩の那古野城内で寒中相撲大会が開かれる事となった。
●リプレイ本文
●京都一円の褌事情?
「これが那古野城下か‥‥京に劣らず活気に溢れているな」
「お市の方の政(まつりごと)が上手くいっている表れでござろう」
浪人の高町恭也(eb0356)は愛馬を歩かせ、その上から那古野城下を見ていた。多くの人々が行き交い、とても美濃藩と合戦をしているとは思えない、楽しそうで賑やかな雰囲気に包まれている。
浪人の久方歳三(ea6381)は度々那古野城下を訪れているし、お市の方こと平織市(ez0210)とも面識がある。愛馬・そーじに跨り、恭也と併走しながら、彼に尾張藩の情勢を掻い摘んで話した。
「褌に釣られてホイホイ来ちまった。まさか‥‥ここで褌姿を見せるとはねぇ」
愛馬・孟起に跨る僧侶の白翼寺涼哉(ea9502)は、那古野城を感慨深く見つめた。思わずノスタルジーに浸ると思いきや。
「おお! これぞ褌好きの、褌好きによる、褌好きの為の相撲大会だ!」
那古野城の城門をくぐると、三ノ丸では早くも越中褌一丁姿の那古野兵達が相撲を取っているではないか!
涼哉は感嘆の声を上げる。褌好きにはたまらない光景だ。
「やってるっすね。寒い時は身体を動かすのが一番っす。すぐにぽかぽかになるっすよ」
「人は裸で生まれて来る故、裸の業より錬るのが道理でござるからな‥‥」
ジャイアントの武道家、太丹(eb0334)は愛馬・シャオパイロンの足を止め、歳三としばし相撲大会の様子を見た。
「豪州帰りだし、力試しも兼ねていいかもしれないな‥‥ジャパンの勝負だしな‥‥ん‥‥? 女性‥‥か?」
相撲大会に参加している那古野兵の様子を観察していた恭也は、その中にばったばったと男共を投げ飛ばす女性の姿を認めた。
何故か服の上からもっこ褌を締め、フードを被っているという珍妙な出で立ちが目を引いた。
「尾張の兵にはお市の方を始め、何人か女性の兵がいるという話を耳にしているが‥‥」
「あれは美兎(みと)殿っす。兎の妖怪っすから、うさみみが生えているので、ああやってフードで隠してるんっすよ」
「ああ、月兎族三姉妹の‥‥噂に聞く尾張の武将だが‥‥なるほど。もっと近くで見てみたいものだな‥‥」
(「むぅっす‥‥」)
三女の美兎を始め、月兎族三姉妹と仲の良い太丹は、女性が一目で美兎だと分かった。無用な混乱を避ける為、美兎が妖兎である事は一般の尾張兵には伏せられている。
感情を表に出さない恭也だが、美兎の事を話すと、その声音がわくわくしているように聞こえるのは太丹の気のせいだろうか? それに恭也が美兎の事を話すと、やけに胸がモヤモヤする。
「確かに、もっと近くで見てみたいでござるなぁ。特にあの胸の揺れ具合! 雷さんと甲乙付けがたいでござろうな!」
「む、胸の大きさはともかく‥‥あの身体にぴったり合った服は戦いやすいかもな」
歳三に引き合いに出された侍の雷真水(eb9215)は、胸の大きさの話はひとまず置いておき、美兎の着ている服に着目していた。真水は胸がこぼれ落ちてしまうのではないかと思うくらい、胸元が大胆にはだけた着物を着ているが、これは素速く刀を振るう為の、彼女なりのスタイルだ‥‥と思いたい。
一方、美兎の着ている服は袖が無く、胸元から下腹部まで身体の線に合わせて覆うように作られているらしく、傍目から見ても動きやすそうだ。
(「ったく、男ってのは‥‥胸は‥‥あたしとどっこいどっこいだと思うんだけど‥‥」)
真水は無意識のうちに胸元に手を当てていた。大胆な服装や整った派手な顔立ちとは裏腹に、彼女自身はとても清純なのだ。先程歳三に言われた言葉を思い出し、つい、美兎と自分の“それ”の大きさを比べてしまう。
とはいえ、二人ともジャパン人離れした大きさには変わりない。それ以前に美兎は人間ではないけど。
「よく来たな。馬を預け、西之丸の客殿で褌に着替えるといい」
小姓から連絡を受けたのか、平織虎長(ez0011)が歳三達の前へやってくる。赤い越中褌一丁姿で、手に軍配を持っているところを見ると、行司を務めているようだ。
「此度はお招き下さり、忝ないでござる。己の業を見せる事で返礼とするでござる」
(「しかし、虎長公の復活は本当だったのか‥‥ふむ‥‥」)
歳三から馬を下り、恭しく礼を取って名乗ってゆく。復活した虎長を一目見ておきたいと思っていた恭也は、早くも叶ってしまった。
「素晴らしい行事を開催し、俺達を招いてくれてありがとう。この記念すべき日に、この褌相撲大会を無形文化財とし、『ジャパン三大奇祭』としたいのだが、どうだろう?」
「うむ、開催を奨励するのは儂も賛成だ。しかし、ジャパン三大奇祭と定めるのは、まだ時期尚早といえよう。ジャパン各地を冒険する涼哉達が、依頼のあった地域で褌相撲大会を広めていき、民に知ってもらう事から始める必要がある」
涼哉のぶしつけな頼みを、虎長は腹を立てる事もなく、むしろ賛同すら表した。だが、お市の方に尾張平織家の全権を譲渡した今の虎長に、いきなり祭りを制定できる程の権力はない。言い出しっぺの涼哉の、地道な布教活動が必要だと返すと、彼も納得した。
「ところで、褌を持参しておらぬ者はおるか? 儂の方で蒐集した褌を貸すが」
「そうそう、それが最近の悩みの一つなんだよ。京都にゃ褌売ってねぇんだ。いや、その、ほら‥‥女の服って元々暴れるように出来てねえから‥‥さ。褌ないとマジでヤバい乙女の事情って奴? 喧嘩大会ならいつもの事だし、目指すは黒絹の褌!」
「はっはっは、真水は気っ風がいいな。そういう女子(おなご)は嫌いではない」
「虎長公に借りようかと思ってたんだけど、粋な冒険者が貸してくれるって。男のは‥‥あ、向こうだって虎長公のと同じ男のモンだよな。悪ぃけど、見栄えのいいこっちを穿かせてもらうよ」
真水は涼哉からレースの褌を借りていた。
●レオタード=体毛説!?
虎長と別れた恭也達は愛馬を預け、三ノ丸の奥にある西之丸の客殿で褌へ着替えた。
「よし! 相撲大会、優勝目指すっすよ!」
歳三と涼哉は漢の褌を、恭也は鬼の褌を、太丹はエターナルフンドーシを締め、トレードマークの赤い鉢巻を締め直して気合いを入れる。
「太さん、渡すのが遅れてしまい申し訳ないでござるが、美兎さんが搗いた草餅でござる」
「歳ちゃん殿、ありがとうっす。美兎さんが搗いた手作りの草餅を食べれば元気百倍っす!!」
歳三が太丹に、美兎が先の尾張藩の新年会の時に搗き、預かっていた草餅を渡した。
「ったく、これだから男ってのは助平なんだから‥‥借りた礼を言っただけなのに」
『まぁまぁ。それだけ真水さんが魅力的という事ですよ』
「真水(まみ)でいいよ! さん付けなんてくすぐったいし、あたしも美兎って呼び捨てにするからさ」
『はい、では‥‥真水、締め方は越中褌でいいですね?』
別室では、真水が涼哉から借りたレースの褌を穿いており、美兎が着替えを手伝っていた。
真水が怒っているのは、涼哉がレースの褌を貸すと同時に穿き方指南を実践しようと、女子部屋まで入り込んできたからだ。
真水の江戸っ子気質と、美兎の人懐っこい性格が合わさり、二人は早くも意気投合していた。
(「それにしても‥‥でかいよなぁ。あたしの方が大きいとは思うけど、形は美兎の方が上かも‥‥」)
つい、美兎の胸元に目が行ってしまう。先程は同じくらいと思っていたが、大きさは真水の方が上、形の美しさは美兎の方が上、といったところか。
『あ、あの‥‥』
気が付けば、真水の手は自然と美兎の双房へ伸び、揉んでいた。思わず揉んでみたくなるような、魔性の胸かも知れない。
美兎は悲鳴こそ上げなかったが、頬を赤らめてもじもじしている。
「あ、いや、その服の構造はどうなっているのかな〜って思ってね」
『この服は月兎族の証ですのでお渡しできないのです』
「まさか、脱げないとか、体毛とかじゃないよな!?」
慌てて言い繕う真水。しかし、美兎達の服が気になっていたのは嘘ではない。動きやすい服なら一度着て、動き具合を確かめたいと思ったが、意外にも美兎は貸せないと応えた。
月兎族は妖兎と呼ばれる、化け兎の上位妖怪だ。当たり前だが、兎の身体は体毛で覆われている。その兎の妖怪である月兎族の服が服でないとしたら‥‥真水は思わず想像してしまったが、美兎は微笑むだけで応えなかった。
弁明が無く無言というのは、真相が分からない分、却って恐いかも知れない。
●ドキ☆ 漢だらけの褌相撲大会(ポロリもあるかも?)
涼哉達が相撲を取る場所は、三ノ丸ではなく、西之丸に作られた特設の土俵だった。一般の尾張兵は参加せず、観客も尾張藩の武将とその関係者のみだ。
「最初の対戦相手は太さんでござるな‥‥(相手にとって不足なしでござる)」
冒険者の対戦は総当たりで行われるが、最初の対戦相手という事もあり、握手を交わす歳三と太丹。
「美兎もいるのに、みんなこっち見てるよーな‥‥褌の選択間違えたか? なんか恥ずかしいぜ‥‥」
「お近づきの印しに一献どうだ? 試合前の気付けだがな」
「今は遠慮しとくよ。打ち上げの時にもらうとして、褌貸してくれたからって加減はしねえぜ!」
レースの褌に力たすきをさらし代わりに巻いているが、紅一点という訳でもないのに、観衆の視線が突き刺さるような気がする。
涼哉はそんな真水へ気付け代わりに酒を勧めるが、断られてしまった。腹下しを混ぜた事が勘付かれた訳ではなく、純粋に勝利の美酒に酔いたいだけのようだ。
「尾張の武将と一度手合わせ願いたいと思っていたから丁度いい‥‥太の話では、美兎が接近戦が得意との事だから手合わせを願いたいのだが‥‥」
「ここは長女の月華(つきか)殿がお相手をするのがいいっすよ!!」
『儂が接近戦を好かんのは、太も知っておろう? 恭也の希望通り、美兎を相手にするといい』
『手合わせてよろしくお願いします』
恭也が美兎を相手に指名すると、何故か太丹がムキになって長女の月華との対戦を薦めた。
月華は土と月の精霊魔法を操る、かの大妖『九尾の狐』に勝るとも劣らない実力の持ち主だが、接近戦は好かないそうだ。好かないからといって得意では無い訳ではなく、攻撃を当てるのは容易ではなかったりする。
長女に言われ、美兎は恭也に一礼した。
最初の組み合わせは太丹と歳三だ。
『フトシたん、頑張って下さい』
「頑張るっすよ!」
(「拙いでござる。美兎さんが直接声援を贈られ、更に美兎さんのお餅を食べた今の太さんは、通常の三倍の戦闘力を発揮するでござろうからな‥‥」)
美兎の声援を受け、“愛・ウォリアー(ラヴ・――)”と化した太丹を見て、歳三はその戦闘力を推し量る。
(「素早さは互角、体力ではあちらに分がある故、立合いが勝負の鍵になるでござる」)
歳三はそう当たりを付け、最初の立合いから勝負を仕掛ける事にした。
予想通り、太丹は立合い直後から仕掛けてきた。歳三は彼の手をオフシフトでかわすと、死角へ回り込み、褌の紐を取ろうとする。
しかし、太丹は歳三の動きに合わせて張り手をカウンターで合わせ、褌の紐を掴ませない。
(「‥‥この手を使って尚、太さんの潜在能力は恐いでござるよ」)
「自分の為に飛んでけっす!!」
「しまっ!?」
一瞬の隙を衝いて歳三の褌の紐を掴む太丹。踏ん張る暇を与えず、彼は歳三を豪快に投げたのだった。
決まり手は『掬い投げ』だった。
続く対戦は恭也と美兎だ。
「(対峙すると、やはり雰囲気が違うな‥‥)さて‥‥尾張の武将の力、見せてもらおうか‥‥!」
肌でピリピリ感じる美兎の気配。真剣な表情もさる事ながら、彼女が本気になっているのが実感できた。
立合いと同時に、恭也と美兎は二人とも正面からぶつかっていった。小細工はなしだ。
組み付き、お互いがお互いの肩を預けながら、褌の紐を取ろうと腕だけの攻防を続ける。
最初は拮抗していたが、力勝負では恭也の方に分があるようだ。褌の紐を掴み、投げようとする。
「何‥‥」
不意に美兎の抵抗力が無くなる。恭也が狙っていた、いきなり力を抜き、身体を引いた押し倒しが来る、と身構えると、美兎は持ち前の跳躍力を活かし、彼の両肩に両手を添えて飛び越えたではないか!
恭也はそのまま土俵に手を付いてしまった。
決まり手は『叩き込み』だった。
「いい勝負だったな‥‥ありがとう‥‥」
恭也と美兎は厚い握手を交わしたのだった。
最後の対戦は、ある意味、因縁の対決とも言える涼哉対真水だ。
「雪隠(せっちん)は済ませたか?」
「そういうお前はどうなんだよ? こんな恥ずかしいカッコしてんだ、只じゃ転ばねぇよ!」
「言ってくれるねぇ。トコトン火照らせてやるよ」
涼哉は漢の褌を六尺前袋式に締め、しかも洗い晒しのそれに魅惑の香袋を焚きしめていた。真水の動揺を誘うも、彼女には効果は薄く、逆に開き直った真水に返されてしまった。
それならば、とマッスルポーズを取り、自分に注目させようとするが、やはり開き直った真水にはいまいち効果が薄い。
というより、清純派の彼女にとって今の格好の方が数倍恥ずかしく、涼哉の思惑どころではないのだ。
真水は張り手を繰り出しては黒髪を靡かせて間合いを取る、ヒット・アンド・ウェイを繰り返した。
「‥‥これ、相撲だよな?」
「ホラホラ‥‥褌の結び目が解け掛かってんぞ!?」
「な、何!? あ、お前!?」
しかし、心理戦では涼哉の方が一枚上手だ。褌の結び目に気を取られた一瞬の隙を衝いて、真水の胸のサラシを解いて回し始めたではないか!
「よいではないか〜よいではないか〜‥‥はう!?」
「い、い‥‥いい加減にしろ!」
狼狽える真水を後目に、涼哉のハレハレは最後の一巻きまで迫る!
しかし、真水が胸の谷間に仕込んでいた手裏剣が遠心力で迸り、見事、涼哉の眉間に突き刺さった!
そこへ真水の蹴りが飛び、土俵に口づけする涼哉。
もちろん、決まり手は無し、両者失格なのは言うまでもない。
尚、美兎相手に善戦した恭也と、お約束のポロリをやられそうになった真水に、敢闘賞の黒絹の褌が贈られた。
●打ち上げ
「美兎殿のお餅や料理は美味しいっすけど、身体を動かした後だともっと美味しいっす。美兎殿はいいお嫁さんになるっすよ!」
西之丸の客殿で美兎が腕によりをかけた料理が振る舞われ、太丹は片っ端から平らげてゆく。
「流石、噂に聞く武将だけの事はあるな‥‥今度は相撲ではなく、お互い得意な得物で一戦交えたいものだ‥‥」
「あたしも愛用の得物で美兎と手合わせしたいねぇ」
二天一流を修める者同士、美兎を肴に剣術談議で盛り上がる恭也と真水。
「虎長様の漢ぶりも観られたでござるし‥‥心残りなのは、お市の方の褌姿が見れなかった事でござるな」
「そんなに褌が好きなのね。そもそも裸祭りとは‥‥」
虎長が用意した酒を呑みながら、褌について語り合う歳三と涼哉だった。