覇王道

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月25日〜04月01日

リプレイ公開日:2008年04月09日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
 尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。


 ――墨俣(すのまた)一夜砦。美濃藩におけるお市の方の前線基地だ。
 墨俣は揖斐川と長良川に挟まれた長良川西岸にあり、美濃藩の主要街道が走り、墨俣宿(すのまたじゅく)という宿場町として栄えている。美濃の交通・戦略上の要地であり、美濃併合の合戦の折り、お市の方はここを押さえる為に一夜にして砦を築いていた。
 美濃藩主・斎藤道三が居城、稲葉山城は、稲葉山の山頂に建てられた古典的な山城だ。短期決戦に対する守りは堅いが、長期戦には不向きであった。
 何より、五千もの兵を駐在させる事は出来ないし、長良川を使って尾張藩と素早く遣り取りが出来る墨俣一夜砦の方が利便性が高く、お市の方はこちらに入っている。
 尚、稲葉山城は虎長が気に入り、近々居城とする。

 父親である道三より美濃藩を奪った斎藤義龍を倒し、助命する換わりに比叡山へ追放したお市の方は、美濃藩を尾張藩と併合させた。
 これにより、美濃兵を戦力として加え、混迷中の伊勢藩に援軍として二千五百、三河藩との藩境の関所に千、尾張藩の治安維持に千、兵を割いているとはいえ、実に五千もの兵を率いる事となった。
「このまま上洛できれば、全て安祥神皇様の剣として盾として献上し、長州藩との対話を穏やかに進ませる事も不可能ではないわ」
 畿内で五千もの兵を持っている藩はそうそう無い。
 今の勢力を安祥神皇へ献上できれば、西国との対話も穏便に進められるとお市の方は考えていた。そのためには畿内の平織派の結束が必要だ。上洛途中にある大国近江は平織家の近臣であり問題を起こした事もない。とはいえ美濃のように直接支配を望めば簡単にいかぬだろうから、今の関係が一番良いだろう。問題は伊賀である。忍者が力を持つこの国は小国ながら侮り難く、また近年伊賀上忍の一つ、服部氏が家康家臣になってからは平織にとっては一段と扱い辛くなっている。
 今回の平織上洛に対しても警戒を強めている様子で、平織からの再三の使者にも応じようとせず、このまま上洛しても背後に不安を残す危険があった。源徳側の畿内諜報の拠点である事も疑いなく、上洛には伊賀藩併合が不可欠と思われた。


「市様、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
 墨俣一夜砦で伊賀藩併合の準備を進めるお市の方の下を、尾張藩の武将の一人、ミネア・ウェルロッド(ea4591)が訪ねた。
「市様が新年会の時に口にした、『伊達との同盟』って‥‥本気なの?」
「もちろんよ。藩主たるもの、冗談でそのような事は口にしないわ」
「(本気だったんだ‥‥)だったら、ミネア達武将にも分かりやすく理由やそれによって尾張藩にもたらされる利益なんかを教えて欲しいんだけど」
「そうね‥‥尾張と伊達が同盟を結ぶ事で、伊達が源徳を討つ大義名分が出来るわね」
(「うわ‥‥市様の“源徳嫌い”、爆発寸前だよ」)
 ミネアに伊達政宗との同盟による『源徳包囲網』の概要を語るお市の方。
 お市の方の“源徳嫌い”は、京一円では割りと有名だ。
 『天下布武』を押し進めてきたお市の方は、安祥神皇の為に嫌いな源徳家康と『尾張・三河同盟』を結ぶまでに至ったが、家康側の不信行為で流れた。尾張と三河にはこれまでの遺恨があり、一度の機会を失った事は致命的だ。源徳と切れた以上、伊達との同盟はある意味必然。それは新田や武田や上杉でも良いかもしれないが、東国を抑え源徳を封じる手が要る。
 風聞では、同盟の人質として尾張藩へ送られるはずだった源徳信康を、家臣の柳生十兵衛と彼に協力した冒険者が連れ去ったという‥‥。
 そして同じ冒険者のミネアが平織家臣となり、平織と源徳の同盟を願っている。源徳のもとで一枚岩と見えた冒険者も今や主君を選び、己の方法で動乱に身を投じていた。尾張統一のために一族で血を流したお市にとって、それは至極当然の理。
 ずば抜けた個人戦闘力を持ち、権勢にとらわれない行動力で戦や外交をも左右する冒険者をお市は高く評価している。
「1日だけ、1日だけミネア達に時間をもらえないかな? 市様と今後の尾張藩の方針をじっくり論議したいんだ」
「‥‥砦の拡張工事もあるし、負傷した尾張兵を休める必要もあるから‥‥一日くらいならいいわよ」


 斯くして、墨俣宿の宿屋の一室で、冒険者達とお市の方の話し合いの場が持たれる事となった。

●今回の参加者

 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb0921 風雲寺 雷音丸(37歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2658 アルディナル・カーレス(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

綾小路 瑠璃(eb2062)/ 飛火野 裕馬(eb4891)/ 水上 銀(eb7679

●リプレイ本文

 
 美濃藩の交通・戦略上の要地、墨俣(すのまた)にある宿場町、墨俣宿(すのまたじゅく)。
 お市の方こと平織市(ez0210)は、ファイターにして尾張藩の武将の一人、ミネア・ウェルロッド(ea4591)達との話し合いの場として、墨俣宿で一番高級な旅籠を貸し切りにした。
 お市の方は武者鎧「白絹包」を纏って、ミネア達が集まる部屋へ現れた。今まで伊賀攻めの軍議を行っていたのかもしれない。
 普通なら上座と下座が設けられ、尾張藩藩主であるお市の方は当然、上座へ座るが、今回は神聖騎士のアルディナル・カーレス(eb2658)やファイターのアラン・ハリファックス(ea4295)のようなフリーランスの冒険者もいるので、座布団が円卓ならぬ円陣に敷かれており、彼女は空いている座布団へ腰を下ろした。


●伊達政宗との同盟
「今日は集まってくれてありがとう♪ 早速だけど始めるね。まずは伊達家との同盟についてだけど‥‥」
 “万屋将門屋店主”の将門雅(eb1645)がお市の方へ和菓子を勧め、志士の神楽龍影(ea4236)がお茶を淹れると、ミネアが話し合いの口火を切った。
「‥‥ミネアは先送りした方が良いと思うんだ。今、伊達家と同盟を結んだら、源徳家を討とうとする意図があからさま過ぎるし、源徳家に仕えている服部氏は伊賀藩の上忍だよ。上洛に避けて通れない伊賀藩の併合が不可能になるんじゃないかな?」
「明確に安祥神皇サマを支持してるのは、市サンと源徳公さね。源徳公が倒れる事になれば、甥にあたる安祥神皇は有力な後ろ盾を失い、現体制や市サンの天下布武に不満を持つ者は、五条の宮サンに傾く可能性も大さね。それに、同盟は窮地に神皇サマの味方に成り得るか否かが大切さね。他者の窮地に同盟を破った伊達公は、果たして神皇の真の味方と成り得るかい?」
 先ず、ミネアとジャイアントの神聖騎士ネフィリム・フィルス(eb3503)が、伊達政宗との同盟は先送りし、源徳家康と調停すべきと切り出した。
「私は、天下布武への道程は、多少強引な手法でも構わぬと‥‥さすれば、諸藩の神皇様に対する忠誠の試金石にもなろうかと存じます。ただ、その為には、平織家が仁義を見せねばなりませぬ。如何な勢力でも、先ずは一度、穏やかに対するが宜しいかと考えまする」
「私は伊達との同盟も当然と考えております。三河を挟み撃ちにできるこの策、尾張藩当主としてならば捨ててはならない手。しかし、あなたの下には5000の精兵が、焦る時ではございません」
「穏やかにって言われてもねぇ‥‥源徳の平織に対する不義理は、一度や二度では無いから。伊賀攻めは短期決戦のつもりで軍備を進めているわ」
 龍影はお市の方が押し進める『天下布武』に、アランは政宗との同盟には賛同したものの、慎重を期すべきという意見だ。
 お市の方は微苦笑しながら、伊賀攻めが近い事を示唆した。
「お市さんの願いが、ジャパンに一刻も早く平穏をもたらす事だってのは分かってる。でも、それは俺達がお市さんの側で見てきたから分かる事だ。お市さんの『家康嫌い』は、京一円でも有名だそうだ。周りから見れば、この源徳包囲網案も、まず第一に家康さんに対するお市さんの私情から来たものだとしか映らないと思う。そうなると今後、周囲の諸藩と付き合う上でも支障が出てくる」
 レンジャーのクロウ・ブラックフェザー(ea2562)はお市の方の両肩に手を置き、瞳を真っ正面から見つめて真摯な表情で告げる。
「‥‥何より俺は、お市さんが周りからそんな目で見られるってのが嫌だ」
「クロウ‥‥」
 一呼吸置いて、力強く言の葉を吐く。お市の方は肩に乗る彼の手に自身の手を重ね合わせた。
「【誠刻の武】団長代理として、忌憚無く意見を述べさせて戴きます」
 アルディナルが騎士の礼を取りながらそう前置きすると、クロウとお市の方は慌ててお互いの手を退けた。
「一日も早くジャパンに平穏をもたらす思いが根底にあるのは重々理解しておりますが、僭越ながらお市様におかれましては感情が表に出過ぎているように思われます。お市様は大藩尾張を背負う身なれば、国の行く末を感情で決めるのは如何なものでしょう。大望を前に、源氏との戦は避けたいところ。せめて源徳公とは現状の停戦状態を維持できないでしょうか? 
 安祥神皇様は家康公の甥御でも在らせられます。これまで一度も神皇様に弓を引いた事はなく、お味方の立場で在らせられました。天下国家のため、お汲み取り戴きたく存じます」
「‥‥」
「何より、お市様が理想とされる大儀とは、平織家から見た都合のみの大儀であってはならない筈です」
「本当に歯に衣着せないわね。私以外なら黙ってはおかないわよ。源徳が神皇家に必要であると平織家がどれだけ我慢をしてきたか知っているかしら?」
「‥‥」
「平織は、随分前から、源徳は江戸を都にして王になろうとしているのではないかと疑っているわ‥‥」
 京都が黄泉人に襲われた際、摂政でありながら源徳の動きは鈍かった。畿内勢力の弱体化を歓迎するように。江戸城で剣が発見された時、家康は知らなかったと言ったが本当に無関係という事があり得るだろうか。虎長は源徳の動きに気を配り始めた矢先に、新撰組の沖田に暗殺された。五条の乱では、尾張領を侵した三河兵が為に平織は救援に遅れた。比叡山の勧めで上洛した武田を黙認したのは、平織の勢力を削ぐ意図あっての事に違いない。
 尾張から見れば、源徳が君側の奸に映るのも仕方無い事だ。摂政であり安祥神皇は甥なのだからという事実以外に、家康を信用する理由がない。

「私はそれでも握手を求めたわ‥‥でも、突っぱねられた」
 お市の方は自嘲を浮かべる。
「私の家康殿嫌いは京一円では有名でしょうけど、もうそれだけではないの。私だけではなく、平織家の家臣が、『尾張・三河同盟』の反故で家康殿を見限っているのよ。今すぐ、アルディナルでも龍影でもミネアでもアランでもネフィリムでもクロウでも、誰でもいいから、信康殿でも、十兵衛殿でも、十兵衛殿に協力した冒険者でもいいから、この場に連れてきて尾張・三河同盟が反故になった理由を説明して。それが出来なければ三河藩との調停案は到底受け入れられないわ」
 『言うは易し、行うは難し』というが、最早言葉だけで、お市の方を説得できる段階は終わっていた。何より、尾張の武士達が三河を信用していないのだ。
「同盟勢力が必要なのは明白、その相手に伊達を選ぶ事に賛成だ。但し、同盟の名目人は源氏の嫡流、源義経だな」
 ジャイアントの志士、風雲寺雷音丸(eb0921)は一人、賛成の意を表した。
「江戸一円の大名が伊達に従ったのは、源氏の嫡流を奉じる大義を持っていたからだ。表向きは伊達との話し合いとなるが、自分達が担ぐ義経への同盟となれば、伊達も無碍にはできまい。伊達は今一つ何を考えているか判らないし、源氏の嫡流との同盟という事なら納得するのではないだろうか」
 雷音丸の意見に感情は無い。他の者の意見が多くの思いを持っていたのとは対照的だ。


●上杉謙信との同盟
「政宗サンと同盟を結ぶとしても、政宗サンに家康サンを討つ力があるのかが分からねぇ。政宗サンはもう強力な手札は晒してて、この上隠し札があるかは疑問だ。手の内が察せられる状態なら、老練な家康サンが対策打てない訳がねぇ」
「私が伊達殿を直接見た限り、矜持を解する傑物でありますが、であるが故に乱を楽しみ、その目的を読みきれませぬ」
 クロウと龍影は、それでも政宗との同盟は懐疑的だった。
「後、江戸の冒険者は心情的には付き合いの長い家康サンの方に傾く奴が多いと思う。今は、東国の情報収集しながらより良い同盟相手を模索する段階だと思う」
「先ずは上杉謙信殿に友誼を求めるが宜しいかと存じます。上杉殿は義に篤いお方であり、余計な駆引きをせず、堂々と盟を望む事こそが、平織の義を見る尺度となる筈」
「伊達家との同盟ほど対源徳があからさまでは無いけど、十分な牽制にはなるよ。民の反応も良好で信用に足る武将だしね。加えて、一度尾張の領土を侵犯した信玄への牽制にもなるし。それに‥‥」
 彼らに加え、ミネアも上杉謙信との同盟を提案してきた。しかも彼女はにんまりと会心の笑みを浮かべる。
「これは当て付けなんだ♪ 信康兄ちゃんの切腹回避の為に十兵衛ちゃんとその冒険者が、上杉の懐柔をしようとして話にならなかったんだよね♪ ミネア達がそれを出来れば、遠回しに家康ちゃんの面目を潰せるし、相当悔しがると思うんだ♪ あははっ♪ どうかな? 面白くない?」
「新田の配下には妖の類がいたという噂を耳にしました。尾張も月兎族を抱えております。私が申し上げたい事は妖を抱える云々ではなく、更に東の情報を収集すべきという事です。覇業を進めていく上でも何より重要なのが情報を集め、現実を知る事でもあるからです」
「確かに良い案だけど、上杉家と同盟を結べば、少なくとも武田家とは手切れになるわ。信玄殿とは一度桶狭間で戦っているけど、私としては武田家とも友好関係を保っておきたいの。その仲介役が政宗殿であり、義貞殿なのよ。それに、政宗殿は切れる手札は全て切ってしまっているわ。だからこそ、こちらの同盟には応じてくるはずよ」
 ミネアが謙信との同盟を推すと、アランは新田義貞にも不穏な動きがあると付け加えた。
 お市の方は謙信とも信玄とも有効な関係を保ちたいと考えており、政宗の同盟はその為でもあると説明した。武田と組めば上杉と切れ、上杉と組めば武田と切れる。云わば政宗の手に乗る事になるが、手札を使いきっている政宗は怖くない。


●新撰組と尾張ジーザス会
「新撰組に対する計画へは、断固として反対致します」
 珍しく声を荒げる龍影。
「彼等は武功抜群であり、己達の義に拠って立つ集団。隊には冒険者も多く、決断は新撰組に任せるが最良かと存じます」
「そうだな、新撰組も、いきなり命令されても反発するだろうし、現状、京都の治安維持の為に新撰組は不可欠だ」
「新撰組よりも先に、黒虎や見廻組を近衛兵と致すべきです」
「まず、神皇陛下直属の近衛隊として新部隊設立を公表する。それに際して、平織は黒虎隊を献上。同時に見回り組、新撰組に声を掛け、近衛隊への参画の有志を募る。これを無視すれば、黒虎がそのまま親衛隊の肩書きを手に入れる事になるから、新撰組もそれなりの規模の人材を送り出すのではなかろうか?」
「新撰組については、私はあくまで提案するだけよ。局長と図った上で決めてもらうわ」
 龍影の熱意に圧されたのか、それとも雷音丸の案がよかったのか、お市の方はすんなり受け入れた。
「そういえば、京は虎長公の奇蹟の復活の話でもちきりだったさね」
「虎長お兄様、神皇様へご自分の署名で、稲葉山城一帯を『岐阜』と改名する申請を送ったものね」
 ネフィリムが話題を変える。
 虎長は稲葉山城へ入城すると、岐阜城と改名し、稲葉山城一帯を岐阜と定め、その申請を安祥神皇へ送っていた。
 今まで虎長の復活は伏せられていただけに、彼の直筆の署名は宮中を大いに震撼させた。
「ほとんどは純粋な信者だけど、ジーザス会には少なからず悪魔が出入りしている。末社である京のジーザス会にすら入り込んでいるなら、カテドラルのある尾張はいわんやさね」
「比叡山から抗議文が届いていて困っているのよ。あの大聖堂は、濃お義姉様が個人で誘致されたもので、尾張平織家あげてジーザス教を歓迎している訳ではないの。今は虎長お兄様と濃お義姉様も大聖堂から引き上げた事を比叡山に説明しているんだけど」
 神皇家と関係の深い平織としては異教の布教に熱心と思われるのは困る。と言っても虎長蘇生に大功のあったジーザス会を無碍にも出来ない。
「そのようなお家の裏事情は他藩には解らないこと。このままでは、ジャパンのジーザス教の総本山とも捉えられかねません。此処は尾張自ら、尾張ジーザス教を調べていくべきです。丁度私めも、カテドラルに『観光』しに行こうと思っていまして」
 カテドラル(大聖堂)については、お市の方は関与していないのに、ジーザス教徒と仏教との摩擦が高まっている事を知り、扱いに困っているようだ。
 アランがニヤリと笑いながら調査を提案した。


「人外のものの脅威も払拭されない今、人同士の争いを避ける事こそが神皇様の為とは御考え戴けないでしょうか。大儀を、お市様の理想を天下にお示しになる為にも、今は何が最良か翌々お考え戴きたく、伏してお願い申し上げます。ご無礼の数々、失礼致しました」
「耐えなされ、お市の方。今こそ‥‥尾張の我慢の時ですぞ」
「今までお市さんが色々耐え忍んできたのは知ってる。そのお市さんにこう言うのは俺も辛い。でも、敢えて言わせて貰うよ‥‥ジャパンの為にも、同盟の件は家康サンも選択肢に入れた上で再考して欲しい」
 お開きが近付き、アルディナルとアラン、クロウはお市の方に深々と頭を下げたのだった。


「そろそろ、ミネア達には教えてくれてもいいんじゃないかな? 市さまは聞いてるんだよね? 虎長様を暗殺した、犯人を、さ」
 アルディナルやアラン、雅が退室した後、ミネアは話し合いの中でも上った、虎長を暗殺した犯人は誰かをお市の方に尋ねた。
「それが‥‥私も聞いてないのよ。上洛した暁に安祥神皇様へ進言すると仰っていたわ。もし、犯人が噂通りなら、家康殿や新撰組はただではすまないでしょうけど」


●こっそり座談会
「疲れた頭には甘い物やで」
「雅もお疲れさま。ずっと聞き手に回っていたから疲れたでしょう」
 話し合いの後、雅は宿の別室でお市の方とくつろいでいた。
「うちの感覚でゆうと、今は敵を作らずに味方を作るかや。伊達と組んだら組んだらで敵は増えるで。伊達は大事な所で裏切るかも知れんしね。不可侵協定みたいに密でない同盟くらいがええんちゃう?」
「先程ももっと政宗殿達を調べるようにいわれたから、近いうちに使者を派遣してみようかしら?」
「源徳に関しては牽制程度にしとかんと、お市はんが源徳憎しの感情に任せた行動としか見えかねんで。源徳なんか気にせんくらいな器を見せんとな。そしたら邪魔する源徳が馬鹿みるようになるって」
「そこまでスパッと突き抜けられたら楽なんだけど、ね」
「新撰組の事やけど、近衛兵にするんはアイデアとして提案して結論を預けるんはどうやろか? 議題を投げて考えて貰えば結果はどうあれ波風立たんやろ?」
「そうね、新撰組とも繋がりのある雅にも少し動いてもらいたいわ」
「人は感情のある動物やし、お市はんの感情的なところは嫌いやないけどね。ただ、憎しみとか恨みとかの負の感情って醜いで。神皇様の為になら喜びとか愛しさとかの正の感情を表に出したらええよ。折角のべっぴんさんなんやから」
「ありがとう。安祥神皇様が家康殿の後ろ盾を失っても、私達尾張平織家が支えればいいだけの事だもの。でも、でもね、これだけは熱田大神(あつたのおおかみ)に誓って言えるわ。私は家康殿のように、安祥神皇様を決して政争の具にはしない、ってね」
 熱田大神とは尾張にある熱田神宮の祭神であり、尾張平織家の守り神でもある。
 お市の方が守り神に誓うと宣言した事から、本心からそう思っている事が雅には分かった。