【和睦交渉】源徳家康か武田信玄か
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月13日〜08月23日
リプレイ公開日:2008年09月06日
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●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
上洛を果たすべく、山城へ驀進する尾張平織家は、美濃藩に次いで伊賀藩も併合し、平織家の近臣である近江藩を含め、畿内の約半分を手中に収めた。
そして悲願の上洛を果たしたお市の方は、安祥神皇と謁見し、『平織家は安祥神皇の剣となり盾となる』事を改めて宣誓した。
――京都、御所。
お市の方は安祥神皇の関白・藤豊秀吉(ez0010)に呼ばれ、御所へ上がった。
「安祥神皇様が関白で在らせられる藤豊秀吉公におかれましては、そのご健在の御身を拝顔賜り、祝着至極に存じます」
「平織殿、堅苦しい挨拶は抜きとしよう。しかし、その出で立ちは、些かこの場には相応しくないのではないか?」
深々と頭を下げるお市の方に秀吉が苦言を呈した。お市の方は宮中の正装である袿袴ではなく、愛用している武者鎧「白絹包」を着ていたからだ。もちろん、帯刀はしていないが。
「宮中の礼儀に反すると存じますが、御所とはいえ安全とは限りません。既に逆賊たる長州勢の手の者が入り込んでいるやもしれぬ今日、私の身体は私一人のものでない以上、この程度の非礼は平にご容赦下さい」
「はっはっは、何を申すかと思えば。この秀吉を含め、御所にいる者は須(すべから)く安祥神皇様に二心無く仕えている者ばかり。それは平織殿が兵を退き、心細さからくる気苦労というものですぞ」
お市の方は若い。西国の藩をまとめている秀吉が、長州勢と繋がっていると信じて疑わない構えだ。一方、秀吉は世渡り上手だけあり、笑い飛ばしてのらりくらりとかわしつつ、お市の方に釘を刺すのも忘れない。
お市の方は尾張平織家が上洛したにも関わらず、漁夫の利を得て御所に居座る秀吉を快く思わず、安祥神皇へ献上した尾張兵三千のうち、二千五百を尾張へ引き上げていた。今、御所や都を警備しているのは大阪兵と、明智光秀率いる尾張兵五百程だ。
「さて、本題に入ろう。今日、来てもらったのは他でもない、三河藩の源徳家康と和睦をして欲しいのだ。尾張と三河の内情はよく分かっているつもりだが、今の京の状況を見れば、畿内で人間同士が争っている場合ではないと安祥神皇様も大変心を痛めておる」
「和睦の必要など‥‥僭越ながら三河の事は今年中にも決着いたします。ご心配には及びません」
虚勢ではない。三河と尾張の国力差は圧倒的だ。伊達と組めば、一押しで終わる。
「ならばこそじゃ。源平の間に深い禍根を残す事はあるまい。和睦が良策ですぞ。その上で、平織殿には乱れたジャパンを正すために共に戦って貰いたい。平織殿に“征夷大将軍”の位を、虎長殿に“右大臣”の位をと考えておる」
「せ、征夷大将軍ですか!?」
秀吉の言葉に思わずお市の方の声が上擦り、腰が浮いた。秀吉は心の中でほくそ笑む。
官位は右大臣が遥かに上であり、武官としても近衛大将より劣るが、征夷大将軍は朝敵と戦う際の神皇軍の最高位。朝敵候補がひしめく今のジャパンでは特別な意味を持つ。天下布武を唱えるお市は咽喉から手が出る程欲しかった。生前の虎長が得えられなかった大将軍の座に自分が就ける、魅力的な提案である。
「源徳殿との和睦は私の一存では決められません。家臣と図りましょう。但し、三つの条件があります」
一つ、源徳家康自らが謝罪し、平織家と敵対しない誓紙を認める。
一つ、源徳家康が摂政位を安祥神皇へ返上する。
一つ、和睦の証しに源徳家康の近親(正室の瀬名姫、母親の伝通院、世子の秀忠)を人質として差し出す。
「安祥神皇様は、もうご自分で政を行えるお歳ですし、藤豊殿が補佐に就かれているのですから、源徳殿の摂政位は必要ありますまい。これらの条件を全て源徳殿が呑んで下されば、平織も喜んで和睦しましょう」
「うむ。おことが申すなら、成ったも同然じゃな。合わせて虎長殿と天台宗が関係を回復してくれるとわしは嬉しいが」
「それは私が兄を説得しましょう。ただ、天台宗の方が兄を一方的に“魔王”と決めつけています。藤豊殿も天台宗を説得する必要があると存じますが?」
「確かに平織殿の言う通り、一方的は良くない。天台宗にはわしの方から働き掛けよう」
お市の方が御所を出ると、侍っていた尾張藩の武将の一人、ジャイアントの侍ボルカノ・アドミラル(eb9091)が馬を牽いてやってくる。お市の片腕と言われる滝川一益は尾張水軍を編成する為に蜂須賀正勝(=小六)と三河湾へ出張っており、代わりにボルカノがお市の護衛に付いていた。
「藤豊殿の話は如何でしたか。かの人は多くの藩主へ積極的に和睦交渉を持ち掛けているようです。江戸で伊達殿に仕える私の兄より、伊達殿にも藤豊殿より源徳殿と和睦を行う会談の知らせが届いた、と聞きました。この和睦は平織、伊達殿、両家の利にならないので、対策を練る為に会議を行うべきと存じます」
「そうね。だからでしょうね、関白は結構な条件を出してきたわ。上手くいけば、天下布武の早道かもしれないし、思案のしどころよ」
「‥‥市様は伊達殿との同盟を考えられていた。伊達殿が源徳殿と和睦すれば、三河を攻めづらくなるのではないですか」
2人は愛馬に跨り、併走しながら、ボルカノが江戸にいる兄よりシフール便で届いた報せを話した。
「確かにね。和睦したからって、あの伊達と源徳がすぐ仲良くなるとは思えないけれど、その時は武田が平織の敵に回りそうなのよね。信玄坊主はあの慈円と繋がっていたから」
伊達との同盟には、反源徳同盟と繋がる事で上杉、武田を抑える考えもある。信心深い謙信や信玄は虎長と平織家を快くは思って居ない筈だ。裏を返せば、源徳を倒した後、武田や上杉は容易に敵に回る可能性がある。
「だから、源徳殿との和睦、有り得ない道ではないのよ」
お市の方の思い掛けない言葉に、ボルカノは言葉を失う。
「延暦寺の僧達は武田殿にしきりと尾張攻めを話しているそうよ。三河を平織、遠江を武田に渡す同盟を考えてもいるのだけど、源徳に代わる尾張の抑えとして武田を源氏長者にって話になりそうだし。政治は面倒だわね‥‥」
お市の方は諸侯の現状を頭の中で反芻し、苦笑を浮かべた。天下布武の道のりは遠く、敵味方は曖昧だ。征夷大将軍は面倒な問題をシンプルにしてくれる。
「尾張に戻りましょう。これは私一人で考えていい問題ではないから。源徳と和睦を進めるか、進めないなら貴方の云う通り、すぐに手を打たなければならないわ。ジャパンを平和にするために、私達には立ち止まる暇は無いもの」
お市の方が秀吉に提示した家康との和睦条件は、源徳家にとっては屈辱的なものだが、現状を鑑みればそれほど悪い条件でも無い。彼女は本気で家康との和睦を考えているのか。
畿内の半分を手中にしたお市は、平織家の明日として家康の先を見ているのか。
家康と事を構えるか、それとも和睦か。政治選択が尾張家の道を決める。那古野城にて図られる事となった。
●リプレイ本文
●お市の方の思い
――尾張藩、那古野城下町。
尾張藩の武将の一人、ジャイアントの侍ボルカノ・アドミラル(eb9091)が話し合いの場として用意したのは、那古野城に程近い旅籠だった。
当初は那古野城内で行われる予定だったが、伊達政宗(ez0129)の武将の一人、ジャイアントの侍ブレイズ・アドミラル(eb9090)や協力者のジャイアントの陰陽師、宿奈芳純(eb5475)、新田義貞の家臣のジャイアントの侍グレン・アドミラル(eb9112)が参加する事もあって、お市の方こと平織市(ez0210)が「忌憚無い意見を話せる場が欲しい」と希望し、急遽、変更になった。
ここは尾張藩の貴賓が宿泊する藩御用達の最高級の大旅籠だ。確かに那古野城内では尾張平織家に不利益になるであろう内容は話しにくいし、那古野一の大旅籠に泊まらせる事で、お市の方も芳純達を尾張藩の貴賓として最大限もてなしている表れでもある。
ちなみに、尾張藩の武将、レンジャーのクロウ・ブラックフェザー(ea2562)やファイターのミネア・ウェルロッド(ea4591)、ジャイアントの神聖騎士ネフィリム・フィルス(eb3503)に侍の水上銀(eb7679)は、尾張に滞在する時は那古野城の客間に泊まっている。
旅籠の一室には酒宴の席が設けられ、ブレイズ達の前に尾張藩の伊勢湾で採れた海の幸を中心とした料理と、お市の方が京の土産で買ってきた大和藩産の酒の乗った膳が置かれている。
しかし、上座の席は空いていた。お市の方は別室で着替えていた。
「前に市さまは、ミネアに『鉄の御所』とも繋がってた、って指摘したよね? それでもミネアを尾張の兵として置いておくの?」
ミネアはそのお市の方の元を訪れていた。
「ミネアが出奔したければ、私は止めないわ。だけど、ミネアが私を裏切らないのなら、私はあなたを手放す気はないわよ?」
「鉄の御所があの戦で何をしたのか、分からない訳じゃないよね? 一時とはいえ繋がってたんだよ? それでも、このまま置いておいていいのかな?」
「ジャパンには新しい風が必要だわ。それがミネア達異国人だと私は思っているの。もう一度言うわ。ミネアが私を裏切らないのなら、私もあなたを手放さないわ」
(「寛容なんだか、お人好しなだけかは分からないけど、これはミネアには無い器だ♪ ミネアはこれからも市さまにずっと付いていきたいな♪」)
お市の方が何故、ジャパン人・異国人問わず、尾張藩の武将として積極的に登庸しているのか、その理由を知ったミネアは改めて彼女に付いていく決心をしたのだった。
●源徳家康か武田信玄か
「お待たせしてしまったわね」
浴衣「花鳥風月」を纏い、天国の名刀を腰に差したお市の方が現れ、上座に座る。その指には織姫の指輪が嵌められていた。クロウの贈り物だが、些かラフな服装ではあるが、気軽に意見して欲しいという表れだろう。
「この度は参加の機会を与えて下さり感謝致します」
その服装に内心度肝を抜かれつつも、芳純は深々と頭を下げる。
「しかし、源徳との和睦に、“征夷大将軍”か。仕掛けてきやがったなぁ、関白さん。美味しい話にゃ裏があるって言うしな。注意してかからねぇとな」
「長州や黄泉人の主力になれってところかな? ただ、天下布武の為にはそれも避けて通れないと思うんだ。朝敵を討つ為征夷大将軍を受ける、なら関白が君側の奸ならそれも討つ。それで良いんじゃない?」
「万民が戦火に脅える事なく暮らせる平和な国を作るには、武将同士の争いを脱却して、強い神皇による秩序を再構築する必要があるさね。広く天下に大義と国の在り様を示す、その為の将軍位、とあたしは思うさね」
クロウが腕を組み、難しい顔をしながら話を切り出した。銀が関白、藤豊秀吉(ez0010)の思惑を推し量りつつ、とんでもない事をさらりと言ってのける。これもお市の方が浴衣を着てきた効果かも知れない。お猪口の酒を煽りつつ、ネフィリムも征夷大将軍は受けるべきだと告げた。
「征夷大将軍の就任は、京の守護として、当面の朝敵たるイザナミや丹後藩の大国主様、出雲藩、丹後藩、大和藩の死人達の平定や、関東の平定の為の出兵もありえます。イザナミは五千の大兵を擁して進軍しており、大国主様も千を超える兵を持ち、各地の黄泉人も侮れません。征夷大将軍の就任は、慎重になられるべきだと思います」
「しかし、畿内で京都に迫るイザナミ軍ら朝敵に対抗しうる兵力を持っているのは、尾張・美濃・伊賀・近江の4藩を有する尾張平織家のみというのも現実です。神皇様の提案を受けるとして、将軍位を就任するべきです」
銀が持参したウナギは、蒲焼きとして全員の膳に乗っており、それを食べながら話すグレンとボルカノ、アドミラル兄弟の間でも意見が分かれた。
「俺は将軍位に就かせる事で、平織っていうか平氏を、源氏長者の争奪戦に巻き込んで、平織の目を西、長州から逸らさせる狙いがあると思うんだ。今後、関東の情勢に合わせてどこかと同盟を組む際、将軍位が枷になる可能性もあるよな。一番怖いのは、神皇の‥‥関白さんの命で、関東とかで火中の栗を拾うような事になった際、断る事が出来ないって事かな」
「関東の火中の栗を拾うという事はありますまい。江戸では千利休殿が、源徳家と伊達家との関係修復の為、立会を行っております。武田家は、冒険者を集めて話し合いの場を設けている事をギルドを通し耳にしましたし、反伊達勢力は、里見、八王子が抵抗していますが、冒険者の話し合いの結果、両家が源徳家との和睦もありえます」
「上州に関しては、冒険者を交えた話し合いの動きは特にありませんが、関白殿の源徳家との和睦の話は、関東全域に届いているものと考えれば、新田様も悪戯に兵は動かさないでしょう」
クロウが指折り、懸念事項を語ると、ブレイズとグレンが関東の安全性を主張し、芳純が頷いて後押しした。ただ、ブレイズも秀吉が尾張平織家に各地の黄泉人などを討伐させ、兵力の消耗を図る懸念には同感だった。
「征夷大将軍は承ける事にします。確かにクロウやブレイズ殿の言う懸念は考えられなくはないけど、少なくとも安祥神皇様に弓引く者でなければ、同盟で不利益になる事はないでしょう。それに私の目標は、あくまで長州藩に奪われた神器を取り戻す事です。それを忘れなければ、豊臣殿が平織の目を西から逸らさせようとしていても恐るるに足りません」
お市の方は全員の意見を聞いた上で、征夷大将軍に就任する事を決めた。ネフィリムが考えていた、ジャパンの乱世の平定後は、征夷大将軍を返上する旨も織り込み済みだ。
「そういう事なら、源徳との和睦は賛成だな。長州を、またグレンサンが言ってるイザナミを相手にするにせよ、背後を安定させとく必要はある」
「以前、流れた軍事同盟の再構築辺りで手を打つのはどうさね? 長年の功労に報い、源徳公に宮中での地位と新撰組がそのままでいられるような上申も交渉条件にはなると思うけど」
「それに、今の源徳は怖くないし、今討つのは却って『狼を逐って虎を呼び込む』のに似てると思うよ。武田と事を構えるなら、源徳がいる方がまだしもさ。ならもう一歩進めて、対武田で共闘するのもありだと思うのさ」
「源徳と和睦するにしろ、そうでないにしろ、尾張平織家より相手に要求を出す以上、相手からの要望も伺った上で判断されては如何でしょう?」
話題は源徳家康(ez0009)との和睦へ移る。クロウが口火を切ると、ネフィリムと銀は和睦の条件を提示した。新撰組は虎長暗殺の実行犯。その扱いが難しい。妙案が出なかったので、今回は和睦優先で新撰組の問題は保留とした。
そこへ当事者で無い事を意識して、一歩引き、お市の方や尾張藩の武将の意見を尊重していた芳純が、珍しく意見を述べた。
「三河藩は信濃藩と隣接しているから、武田殿の盾にする事は可能だけれど、武田殿と事を構えれば、おそらく美濃が戦端になるでしょう。ただ、軍事同盟の線は平織家臣が黙っていないですから、もう無いです」
お市の方の言うように、今回の和睦は「尾張からの歩み寄り」だ。家康は条件を提示できるほど、優位な立場にはない。
「ただ、伊達兄ちゃんが和睦を飲むのなら、尾張が飲まなかった場合、反源徳同盟が反尾張同盟とかになっちゃう可能性もあるし‥‥あれだけの地位を約束するんなら、受けても良いと思うな。どっちにしろ、“甲斐の虎”と“越後の竜”は手を組むようになると思う。なら、伊達兄ちゃんと新田のおじちゃんと先に同盟を結べれば、有利にはなるかな」
「落ち目にあるとはいえ、源徳家は未だ源氏長者であり、家康殿は未だ安祥神皇様の摂政であらせられます故、和睦を利用して反源徳同盟を反平織同盟に変える可能性は大いに考えられます。それを防ぐ為、他藩と友好を深めるべきです。伊達家を第一して面子を立て、伊達家が武田と手を組むのを防ぎ、可能なら武田家にも和睦するべきかと」
「私自身は平織家の動きに伊達家の方が歩調を合わせ、現段階では不戦協定を結ぶか友好的になればいいと思いますので、伊達家の事は今回お気になさらず、話し合いを進めて戴けましたら幸いです」
ミネアからとの同盟話が出ると、ボルカノの意見に芳純が口を挟んだ。
既にミネアは武田信玄(ez0136)のみならず、上杉謙信(ez0137)とも事を構える方向で考えているのに対し、ボルカノはあくまで信玄とも和睦すべきという点が対照的だ。
「私も不戦から始めるのに異論はないね。盟となると、東の争いに巻き込まれそうだし、和睦がどうなるかも分からないもんね。東の争いから一歩引いて、仲裁する立場に立つ。将軍ならそれも相応しいだろ?」
「伊達家の武将としての思いは、平織家とは手を携え、軍事のみならず、津島湊から江戸間の廻船を増やし、木曽の木材を江戸にもたらす事で商業面の結び付きを強めたい所存です」
「伊達殿と同盟を結びたい気持ちに変わりはないですが、いきなり同盟というのも早急かも知れませんね。宿奈殿やブレイズ殿がいるのですから、お二人に橋渡しになってもらい、民同士の交流から始めるのもいいでしょう」
お市の方は銀の意見を聞き入れた上で、ブレイズの言う商業面の結び付きの強化に興味を持ち、政宗との同盟は現時点では急がず、まずは民間レベルの交流から始める事となった。
「お市様の耳に入れておきたき内密のお話がございます」
話し合いが一段落し、そのまま酒宴となると、ブレイズがお市の方の元へ徳利を持ってやってきた。
「伊達家と武田家の武将の中に、平織家と武田家、伊達家の3家の同盟を望む声も少なからずあります。江戸の動きを見て、事を慎重に進め、両家と戦う以外の道を願います」
「そういう事は、私ではなく武田殿に言って下さい。武田殿は比叡山の戯言を盲信しているのですから」
お酌をしつつ耳打ちするも、お市の方の返答は芳しくなかった。
信玄が尾張平織家、というより、蘇った平織虎長(ez0011)を一方的に敵対視しているのが原因と言えよう。お陰で虎長も“第六天魔王”を自ら名乗ってしまう始末。
お市の方の言うように、ブレイズ達が信玄を説き伏せる必要があった。
「真田の真田忍軍に真田十勇士、新田のおじちゃんも伊達兄ちゃんも新しい忍集団を作って、武田おじちゃんも上杉兄ちゃんも持ってる。せっかく伊賀と甲賀の忍者がいるんだし、尾張も、ジャパン最強の忍軍を作るのはどうかな? 滝川兄ちゃんと蜂須賀おじちゃんが再編してるみたいだけど‥‥川並衆に伊賀と甲賀の忍者や、民や冒険者の有能な人材を発掘、教育して大規模な再編! ってどうかな♪ ミネアも忍者に転職して旗上げに尽力したいな」
「あたしも滝川さんに弟子入りを希望したいねぇ。家中に忍びが少ないから、頑張ろうかと思ってね」
「伊賀、甲賀だけではなく、飛騨忍者も手に入れたいと考えているけど、忍軍を任せるには、一益のように私に絶対の忠誠を誓ってもらわないとね。二人に血判を捺す覚悟があるなら考えておくわ」
尾張平織家は伊賀藩と甲賀のある近江藩を領地としている事になる。ミネアと銀はこれらを利用して忍軍を作りたいと申し出るが、お市の方は更にその先も考えていた。
ただ、お市の方の片腕、滝川一益のように二心無い武将でなければ、忍軍を安心して任せる事は出来ない。二人の忍者への転職に関しては、『二心無し』という条件を付けた。ミネアも銀も胸に手を当ててみれば、思い当たる節があるだろう。
「ミネア様は尾張平織家にとって代替なきお方でございますれば、用心に重ねた用心を」
「ええ、分かっています」
今度は芳純がお酌に来て、お市の方に耳打ちする。先の比叡山攻めでミネアの動向があまりにも不信だった為、気になっているようだ。
幸い、というべきか、神秘の水晶球や暦道暦1003を併用した得意の占いでは、ミネアに「凶」の相は出ず、無難な結果だったし、「トイレまで付いてくる気?」など何度か捲かれてしまったものの、ミネアの傍に護衛と称して張り付き、動向を探っていたが、特に気になる動きはなかった。
●家康との和睦
クロウとネフィリム、銀とボルカノはその日の内に三河藩は岡崎城へ発った。
尾張平織家の使者である事を告げると、あっさり家康との対面が叶った。
上座に座る家康は、覇気こそ以前と変わらないが、心なしかやつれているように思えた。
クロウ達は礼服を着用し、お市の方直属の武将として恥ずかしくないよう、堂々とした態度で臨んだ。
「平織の願いは、神皇の威光をジャパンに遍く行き渡らせ、安定を取り戻す事です。源徳家を、源氏を倒す事ではありません」
「このまま座しても武田や伊達に源氏長者の地位を奪われ、家名さえ失うのは必定。尾張平織家が求めるのは、御身が道を正す事のみ。我らは御身から土地を奪わず。どうか信義に信義で応え、ジャパンの民の願いと神皇の厚意に応えて欲しい」
「死ぬか生きるか、二つに一つさ‥‥あの落城の折、あたしもいたんだけどね‥‥あれから一年、雌伏が長すぎやしないかい?」
「この和睦の条件として、尾張平織家は、沖田総司の虎長様の暗殺、先の三河・尾張同盟の不義理について言及しません。今は、人が互いに争うべきでは無く、互いに和睦し、黄泉の者の討伐と、領地の安定を行う為、諸藩の戦の引き時になって欲しいのです」
クロウの、ネフィリムの、銀の、ボルカノの言葉を、一言一句噛み締めるように無言のまま聞く家康。
「1日も早くジャパンに平穏を齎す為、此度の件、どうか御一考下さい」
「‥‥相分かった」
クロウの後押しに、家康はただ一言だけ応えたのだった。
家康は自ら謝罪文を認(したた)め、尾張平織家に敵対しない誓紙に血判を捺した。
摂政位は安祥神皇へ返上する事を約束し、和睦の証しに正室の瀬名姫を人質として差す事となった。