実りの秋、運動の秋、食欲の秋
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:9人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月05日〜10月13日
リプレイ公開日:2008年10月31日
|
●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
上洛を果たすべく、山城へ驀進する尾張平織家は、美濃藩に次いで伊賀藩も併合し、平織家の近臣である近江藩を含め、畿内の約半分を手中に収めた。
悲願の上洛を果たしたお市の方は、虎長すら成し遂げられなかった武官の最高位、『征夷大将軍』の座に登り詰めたのだった。
――那古野城。お市の方の本拠地だ。
那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女は義妹であるお市の方に城を譲ると、本人は那古野城の城下町の一角に聳え建つ、尾張ジーザス会の大聖堂(=カテドラル)へその居を移していた。
虎長が存命の頃は、彼の居城清洲城が尾張の中心地だったが、お市の方は尾張統一後も本拠地を清洲へ移さず、那古野のままとしている。また、楽市楽座を試験的に布いた事により、那古野城下は今まで以上に人が集まっていた。
――那古野城の北東の郊外。
お市の方の私有地であるそこには金色の稲穂が実り、秋風に穂波が揺れていた。
「ふぅ、結構苅ったわね」
『お疲れさまです。一休みしましょうか?』
「そうね」
穂波の間から、二つの人影が顔を出す。
一つは、赤毛のツインテールの少女。歳は一七、八歳くらいだろうか。気の強そうな碧色の瞳はジャパン人ではなく、異国人である事を表している。手に鎌を持ち、手慣れた手付きで稲穂を苅っていた。
もう一つは、外套に付いたフードを目深に被った小柄な人影。その声音は、小鳥の囀りのような女性のそれだ。赤毛のツインテールの少女が苅った稲穂をまとめて束にし、干している。
赤毛のツインテールの少女はエレナ・タルウィスティグ(ez1067)と言い、普段は主に遺跡探検をしている冒険者だ。元はイギリスの爵位無しの貴族で、イギリスから渡ってきて尾張でも外国人が多く住む津島湊に居を構えている。
フードを被った少女は美兎、人間ではなく妖怪『化け兎』の上位に当たる『妖兎』の中でも、尾張の知多半島にのみ生息する『月兎族』と呼ばれる妖怪だ。フードを被っているのは、月兎族は人間の姿を取っているが、唯一、兎の耳だけは隠す事が出来ず頭から生えている。農作業をする時など、気軽に話し掛けてくる地元の農民も少なくないので、警戒心を持たれない為だ。
二人は去年の今頃ひょんな事から出会い、今ではエレナが暇を見付けては美兎の農作業を手伝う仲になっている。
「今年は見事な豊作ね」
『エレナさんが手伝って下さったお陰です』
「いいっていいって。あたしも美味しいお米を食べさせてもらってるんだし、このくらいお安いご用よ。それに、結構トレーニングにもなるしね」
エレナが田圃(たんぼ)の縁に腰掛けると、美兎がお茶を差し出した。
美兎はお餅好きで、こうして自分で田圃を開墾し、稲穂を育て、収穫してお餅を搗いている。
彼女は妖怪でありながらお市の方に登庸されている尾張藩の武将であり、この田圃は登庸する条件としてお市の方が譲渡したものだ。
一騎当千、とまではいかないまでも、愛用の杵を振るう美兎は足軽五十人程度なら一人でも相手に出来る。
那古野城は北西が川に面しており、攻められるとすると北東から南東になる。その北東に美兎の田圃がある事自体、那古野城の防衛の一環‥‥なのかもしれない。
「しかし、相変わらず、あんたのお姉さん達手伝いに来ないのね」
『仕方ないです。卯泉(うみ)姉様は温泉の方が好きですし、月華(つきか)姉様は美濃に行かれたきりですから』
美兎には姉が二人いるが、二人とも農作業には全く興味を示さず、美兎の畑仕事を手伝う事はなかった。
『でも、卯泉姉様は行かれた温泉のお土産を持ってきてくれますし、月華姉様は美濃の美味しい食べ物を定期的に送って下さいますから』
「そっか‥‥あんたンところはちゃんと繋がってるんだ‥‥」
美兎の言葉に、エレナは太腿の上で両手に持った素焼きの湯呑みに視線を落とし、縁を親指でなぞる。エレナにも姉がいるが、彼女は尾張ジーザス会の宣教師となってしまい、那古野城下の南の外れにある大聖堂(=カテドラル)へ行った後、便りはない。
「会おうと思えば会えるけど、なんか、カテドラルに行きたくないのよね‥‥」
『エレナさん‥‥?』
「なんかしんみりしちゃったわね。残り半分くらいだけど、一気にやっちゃう?」
美兎が心配そうに声を掛けてくると、エレナは苦笑いを浮かべ、すっくと立ち上がり田圃を見渡した。
ここ数日の稲刈りで、二人で手分けして半分近くは終わっている。このペースなら後数日もあれば終わるだろう。
『それなのですが、お暇なら冒険者の皆さんにもお手伝いに来てもらおうと思っています』
「いいんじゃないかしら? ‥‥そうだ、せっかくだから山菜採りもみんなでやりたいわね。津島の人に美味しい山菜の採れる場所を教えてもらったんだけど、ジャイアントマンティスが棲み着いたそうで、採りに行けないようなの。退治も出来れば一石二鳥だしね」
数日後。京都の冒険者ギルドに、稲刈りと山菜採りに加え、大蟷螂退治という奇妙な取り合わせの依頼が張り出されたのだった。
●リプレイ本文
●再会いろいろ
「新撰組の血腥い生活を離れてノンビリとできそうですし、前々から美味しいものが多いって聞いていた尾張のご飯も食べられそうですし、久々に悠姫と一緒の依頼ですし‥‥色々と凄く楽しみなのです♪」
「尾張には私の親友が住んでいるからな。エレナ達も紹介したいし‥‥その、なんだ、美味しい料理だが、私の手料理は期待しないでくれ」
浪人の月詠葵(ea0020)と風間悠姫(ea0437)は、愛馬に跨り併走している。
「エレ姉と会うのは久しぶりなのですよ。今回は‥‥頑張らせて戴くのですよ!」
「んふふ〜、愛ちゃん幸せそうですね〜。ちょっと妬けちゃいます〜」
韋駄天の草履を履き、二匹の愛犬、玩丸と遊丸を連れた忍者の梅林寺愛(ea0927)の頭を、愛馬の上から浪人の槙原愛(ea6158)がわしゃわしゃと撫でる。
「尾張は久方ぶりでござるな‥‥お市さんの政(まつりごと)は上手くいっているようでござるな」
「美濃藩はともかく、尾張藩なら大丈夫だよ! ささっ! おいもわかきもはじめてのひともおなじみさんもわいわいたのしも〜!」
愛馬そーじの上から常に周囲の警戒を怠らない浪人の久方歳三(ea6381)に、パラのレンジャー、パラーリア・ゲラー(eb2257)があっけらかんと応える。
お市の方こと平織市(ez0210)は楽市楽座を活性化させる政策として、尾張・美濃・近江の三藩の街道整備を藩の公共事業として進めており、街道の見晴らしは良く、人の往来も多い。こういう人目の多いところでは賊は出にくい。
「個体差はあるんやけど、成体なら大体‥‥3m程度。攻撃は重斧並みに鋭いから当たったら痛いで。不用意に射程圏内に入らんようにな。卵とかあったら処分しとくのがええかもね。複数? おっても2、3匹やろ。まーその場合も、雌が雄を食うてまうらしいで」
侍の九烏飛鳥(ec3984)が道すがら、大蟷螂(ジャイアントマンティス)について知っている限りの事を全員に説明する。
「この時期で尾張ってなると思い出しちゃうな‥‥去年、フリーデさんの依頼をすっぽかしちゃった事。私は山菜取りに行くから、何か取れたらお裾分けしたいな」
「いや〜、山の幸も魅力的っすけど、美兎殿の方がもっと魅力的っす。搗くお餅も美味しいけど、それだけの事じゃないっす。食べる人の事を考えて、稲から作ってる美兎(みと)殿自身をひっくるめてっすよ」
ジプシーのシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)と、ジャイアントの武道家、フトシたんこと太丹(eb0334)は飛鳥の説明を聞きながら、それぞれ尾張にいる会いたい人の事を思い浮かべていた。
「愛(まな)、悠姫、槙原、みんな、よく来てくれたわ」
那古野城の城下町で、ナイトのエレナ・タルウィスティグ(ez1067)が全員を出迎え、一人一人握手と自己紹介を交わしてゆく。彼女の横にはフードを被った少女がちょこんと立っている。
「久しぶりだな、元気そうで安心した。私は相変わらずぶらぶらとやってるさ」
「ラブラブの間違いじゃないの〜?」
「尾張には初めて来ましたが、あれが噂の大聖堂ですか〜。街の外れにあると聞きましたが、ここからでもはっきり見える程高いんですね〜」
悠姫の言葉にエレナは小悪魔的な笑みを浮かべて応える。彼女の側には葵が寄り添い、手と手を絡め合っている。その葵は珍しい風景を探し、尾張ジーザス会の大聖堂(=カテドラル)を見付けていた。
「尾張ジーザス会? う〜ん、そいえば、尾張ジーザス会を仕切ってた宣教師のソフィア・クライムさんて、その昔、悪魔と組んでイギリスのケンブリッジ支配を狙った、ゴルロイス三姉妹の末妹モーガン・ル・フェイなんだってば! 相方のゴモリーさんが尾張に現れたって報告は偶然とは言いがたい気がするよぉ。ここだけの話、また悪巧みしてるんじゃないのかにゃ〜。でもでも、調べるなら気をつけた方がいいよ〜」
「まさか。だってモーガン・ル・フェイは、ケンブリッジで冒険者に討たれたはずでしょ?」
「でもエレ姉、尾張ジーザス会は深入りしない方がいいのですよ〜」
パラーリアのここだけの話は、エレナにはにわかに信じがたい内容だった。物証がパラーリアの目撃情報しかない。しかし、義妹の梅林寺が一年近く尾張ジーザス会の宣教師に仕立て上げられ、正気に戻った時にはその間の記憶を無くしていた事もあり、エレナはジーザス教徒だが、その件以降、尾張ジーザス会には近寄らないようにしている。
槙原が梅林寺の身体を後ろからぎゅっと抱き締めた。
「美兎殿、お久しぶりっす。今日は歳ちゃん殿と稲刈りを手伝いに来たっす」
『フトシたんさん、歳三さん、お元気そうで何よりです』
「ははは、拙者は元気だけが取り柄でござるからな」
「妖怪って聞いてたけど、えらい別嬪さんやな〜‥‥うちも稲刈りを手伝いに来た九烏飛鳥や、あんじょうよろしゅうな」
『はい、よろしくお願いします』
太丹と歳三がフードを被った少女に挨拶すると、彼女は周囲を見回して他に人がいないのを確認すると、フードを外した。途端にうさみみがぴょこんと飛び出す。妖怪『化け兎』の上位『妖兎』の中でも、尾張の知多半島にのみ生息する『月兎族』の証だ。
美兎は、妖斬りを生業としている飛鳥ですら、思わず見とれてしまう程の美貌の持ち主だ。
「え!? ジャイアントマンティスの話って、フリーデさんから聞いたの!?」
「ええ。フリーデは津島湊のあたしの家の隣に住んでるの。シャフルナーズはフリーデの知り合いだったんだ」
「フリーデさんの家は津島湊にあると聞いてたけど‥‥越後屋からコカトリスの瞳の大量発注が来て、大好きな薬草採りにも行けないなら、ジャイアントマンティスを退治して、取り立ての山菜をお裾分けしないとね」
シャフルナーズはエレナに事情を話して、エルフの薬師(くすし)フリーデ・ヴェスタに謝りに行こうとしたが、大蟷螂退治の話はフリーデから聞いたものだという。しかもエレナの家の隣に住んでいるというから、世間は広いようで狭い。
●山菜採り
梅林寺と二匹の忍犬は、身を潜めるように山菜取りの場所へ向かう。
(「いたのですよ〜‥‥むむ、卵があるのですよ〜」)
程なく、玩丸が何かの気配に気付き、威嚇する仕草を取った。梅林寺は気配を押し殺し、風下に位置するように様子を窺うと、二匹の大蟷螂がいた。
どうやら卵を産み付けているようだ。
「やれやれ、放っておきたいが、人里に来て被害を出されても面倒だな。手早く片付けるとするか」
「ですね〜。邪魔な蟷螂さんはさっさと退治して、山菜採りを楽しみましょう〜♪」
梅林寺の報告を聞いた悠姫がうんざりしたように言うと、槙原達が同意とばかりに頷いた。
「ほらほら、あなたのダンスの相手は私よ?」
右手に陰陽小太刀「照陽」を、左手に陰陽小太刀「影陰」を構えたシャフルナーズが、大蟷螂のおそらく牡の方へ躍り出る。その挑発の言葉通り、羽毛のような軽やかな身のこなしで大蟷螂の鎌を小太刀で受け流してゆく。
一方、エレナは手斧(ハンドアックス)にミドルシールドといった出で立ちで、残る雌の大蟷螂を引き付けている。
「ばば〜ん! 尾張の竹林で巨大蟷螂を見た!」
「巫山戯てないでさっさと倒してよ! 鎌も体当たりも、なかなかの威力なんだから!」
エレナは盾と手斧で鎌や体当たりを受け流しているが、その風切り音や衝撃から一撃でも食らえばただでは済まない事を肌で感じ取っていた。
こんな時でも踊り手であり続けるシャフルナーズは凄いと思う。
パラーリアのアイスチャクラがちくちくと突き刺さり、悠姫の太刀「岩透」と名刀「ソメイヨシノ」が振るわれて大蟷螂の羽根を切り落とし、梅林寺の二匹の忍犬が隙を衝いて噛み付き、懐に潜り込んだ槙原の山羊剣(ゴートソード)と短刀「骨食」が振り下ろされる。
一気呵成な攻撃により、二匹の大蟷螂は程なく倒され、槙原の指示で産み付けられたばかりの卵も処分された。
「さぁ、それじゃぁ山菜取りと行きましょう〜♪ たくさんありますけど、全部採らないように気をつけないといけませんね〜」
槙原が仕切り直し、山菜採りが行われた。
「これは前食べた時、痺れたのですよ♪」
「‥‥こんな奇怪な見た目でも、食べられるものも有ると言うのだから面妖な物だな」
「っていうか、食べちゃダメじゃない」
忍者の梅林寺は毒茸にも精通している。毒茸の効能を楽しく話す彼女に悠姫が真面目に受け応えると、エレナが思わず突っ込みを入れた。
「でも、食べれるキノコは分かるし、シイタケとかシメジとかマツタケとかなら大丈夫だよね」
「マツタケは難しいんじゃないかな?」
パラーリアとシャフルナーズは朽ちた椚(くぬぎ)や栗の木を見付けると、生えている茸を採ってゆく。栗の木の下では栗拾いも忘れない。
取り敢えず目に付いたもののを採っていくが、自分達の後から山に入る人の事も考え、根刮ぎ採るような事はしない。
「幼少の頃に良く採って食べていたものだ‥‥葵にも食べさせたいな」
悠姫は通草(あけび)といった、食べ慣れている山菜を摘んでいった。
●稲刈り
「稲刈りってかなりの体力勝負と聞きますですが‥‥腰にきますね」
「稲刈りの何がきついって、屈みながら刈らんといかんってとこやね」
葵と飛鳥は、鎌を片手に屈めていた身体を起こして伸びをし、腰をとんとんと叩いた。
美兎から稲刈りのやり方を教わり、早速、挑戦するも、早くも腰が痛くなり始めていた。
♪♪♪
唄えや 踊れや 稲を祀れ
仰げや 拝めや 稲に祈れ
飯になる 餅になる 全ての稲よ
我らに 恵みを 与え給え
※稲よ〜 (祈りの唄(ことば):同時)稲いね稲いね稲
稲よ〜 (祈りの唄:同時)稲いね稲いね稲
稲よ〜 (祈以下略)稲いね稲いね稲
稲・いね・稲
(※以下繰り返し)
大地よ 水よ 稲を育てよ
太陽よ 風よ 稲を増やせよ
我らに恵みを与える稲に
奏でよ 捧げよ 祈りの唄(うた)
(※以下繰り返し×2)
♪♪♪
自ら鎌(ハンドサイズ)を持参しただけの事はあり、歳三は友人の護堂万時から贈られた、護堂家に伝わる『稲を祀る為の唄』を歌いながら軽快に刈っている。
「蝗(いなご)も炒めたりすると美味しいっすよね‥‥じゅる」
太丹は稲を刈りながら蝗も捕まえるという余裕っぷりだ。
『あの二人は特別ですから、慣れないうちは無理のないペースで、休み休みやって下さい』
葵と飛鳥を励ます美兎は、歳三や太丹の更に三倍の速度で稲を刈っている。やはり慣れの問題だろう。
「立ったままの姿勢で刈れるような鎌とか鍛冶屋なら作れそうな気はするけど‥‥目から遠くなる分、精度が落ちるのが問題やね。後、勢いよく刈り過ぎて自分の足を切らんようにせんとな」
「お米って八十八って書きますけど、こうしてその行程の一部に携わると、大事だし無駄にしないようにねって実感できます。それに足腰を鍛える訓練にはもってこいですよ」
飛鳥は鍛冶屋が、何故稲刈り専用の鎌を作らないか分かった気がした。その横で葵は爽やかに微笑みながら、悲鳴を上げる身体を押して今まで以上に一束一束丁寧に刈っていった。
シャフルナーズ達が帰ってくる頃には、田圃の稲はすっかり刈り終え、束にして干す、最後の作業が終わるところだった。
「こうして干して、乾燥させて、脱穀して、もち米になるっすね。まだまだ先は長いっすが楽しみっす」
●秋の味覚
梅林寺とパラーリアが中心になって茸の選別が行われた。一見、食用茸のようだが実は毒茸というものも少なくないからだ。
「毒茸は私にもらえないかな? 捨てるより薬師さんなら使い道あるかもだし」
「栗やお餅も一緒にお裾分けするといいわ」
シャフルナーズが選別された食べられない茸を別の袋に入れると、エレナが栗を渡した。
「でもって、れっつキノコなべだぁ〜♪ 後、茹で栗に焼き栗も〜♪ よぉ〜したべるよぉ〜☆」
「美兎殿の料理は何でも美味しく戴けるっす! 流石月華(つきか)殿も認める腕前っすね! 毎日自分のご飯を作って欲しいくらいっすよ!」
『や、やだ‥‥フトシたんさんったら‥‥』
選別された茸が鍋に入れられ、ぐつぐつと煮込まれる。隣では栗が茹でられ、同じ火で焼いている。
パラーリアは茸鍋を突っつき、太丹は先程捕った蝗を火で炙り、醤(ひしお)を垂らして食べている。天然の彼は自分の発した言葉の意味に気付いていないようだが、美兎は日焼けしていない白い顔を真っ赤にしていた。
「遺跡探検って冒険者っぽい仕事の一つやんね。ギルドに出る依頼でも人気あるわ。埴輪が厄介やねー、この国のは」
「そうなのよ。ゴーレムやガーゴイルに比べれば軟らかいから、まだ楽なんだけどね」
飛鳥とエレナはお餅を焼いて海苔を巻いた磯辺を食べながら、遺跡探検の話で盛り上がり、意気投合していた。
「私も火事‥‥じゃなくて、家事は多少上手くなったのですよ〜♪ エレナさん、これどうでしょうか〜? って、あら〜?」
「それだけは、それだけは駄目なのですよ〜!! みゃ! 死なば諸共、私が味見するのですよ〜! ‥‥おぉぅっ」
「奪わないでも言ってくれれば味見お願いしたのに〜。って、愛ちゃん、お味を教えて下さい〜?」
槙原が料理したものは、おおよそ料理と呼べる代物ではなかった。それをエレナに味見させようとしたので、寸でのところで梅林寺が割って入り、かっ食らう。
かつてはどんなものを食べても腹を壊さない鋼鉄の胃を誇っていた梅林寺も、エレナの義妹になってからはまともな生活を送っており、全盛期のキレがない。
喉を通った直後、全身が硬直して痙攣を起こし、口から泡を吹いて倒れてしまった。
「とと‥‥悠姫もお料理するんだ?」
「何だ、出来ないと思っていたのか? 心外だな。これはエレナの分としよう」
「ちょちょ、ちょっと待って! そのお料理はボクが一番に食べるよ! だ、だって、恋人の料理は真っ先に食べたいですもん」
「‥‥し、仕方がないな。そこまで言うなら葵に味見してもらおうか。べ、別に誰でもよかったんだからな!」
こうして葵は悠姫のアユ飯を食べ、また、悠姫に美兎が作った料理を勧めて作り方を覚えてもらい、家で作ってもらう事にした。
「京の都の情勢は芳しくないでござるよ。イザナミに率いられた黄泉人が迫りつつあるでござる。月華さん達は元気でござるか?」
『卯泉(うみ)お姉様は南信濃へお使いに行かれていますし、月華お姉様は相変わらず、美濃藩の岐阜城近くを動きません。先日、この柿が届きましたが』
(「月華殿は未だ動かぬでござるか‥‥という事は、虎長様の無期限蟄居も解かれていないという事でござるな」)
シャフルナーズの、ジャパンでは珍しいエジプトの気怠い緩やかな舞踏を肴に、歳三は美兎の姉、月華から送られてきたという美濃の柿を食後のデザートに食べながら、京都や尾張藩の情勢を美兎と話し込んでいた。