【天下布武】南信濃攻略・松尾城電撃戦
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 66 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月25日〜01月01日
リプレイ公開日:2009年01月18日
|
●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
上洛を果たすべく、山城へ驀進する尾張平織家は、美濃藩に次いで伊賀藩も併合し、平織家の近臣である近江藩を含め、畿内の約半分を手中に収めた。
悲願の上洛を果たしたお市の方は、虎長すら成し遂げられなかった武官の最高位、『征夷大将軍』の座に登り詰めたのだった。
お市の方は十一月中に、高野山真言宗と友好関係を築き、関白藤豊秀吉と不戦同盟を結んだ。
これで高野山に、虎長を一方的に“魔王”呼ばわりしている比叡山延暦寺を高野山に牽制してもらう事が出来るようになり、以前のように、武田信玄が比叡山の要請を受けて上洛してくるような事態は回避できる。
また、京へ迫るイザナミの不死軍は、京より西、大阪に基盤を持つ秀吉が迎え撃つ確認を取った。
代わりに、尾張平織家は金剛峯寺座主を大僧正へ推挙する姿勢を取って、仏教勢力を敵視せず、ジーザス会派でもない事を内外に示すと共に、秀吉を介して丹波は宮津藩へ軍資金五百Gを贈った。
これで少なくとも、畿内でお市の方の足元を掬う勢力はなくなった。
後顧の憂いを断った彼女は、那古野城の守りを佐久間信盛と森可成(よしなり)に任せると、四千五百の兵で尾張藩を出立し、美濃藩は墨俣(すのまた)城へ入った。
ここはお市の方が美濃藩攻略の際に冒険者の協力を得て、一夜にして砦を築いた場所だ。
美濃藩藩主、おじの斉藤道三の居城は稲葉山城だった。しかし、虎長に先の比叡山攻めの責任を取らせて無期限の蟄居(ちっきょ)処分を言い渡した際、虎長は蟄居先に『岐阜城』と改名した稲葉山城を指名した。
道三も木曽三川(きそさんせん)のうちの二本、揖斐川と長良川に挟まれた長良川西岸一帯で、美濃藩の主要街道が走り、宿場町として美濃でもっとも栄えている墨俣宿(すのまたじゅく)が城下町となる事もあり、義理の息子に快く岐阜城を明け渡し、自分は一夜砦を城へ改修し、居城とした。
お市の方はここで兵を五百程置いていき、閉鎖が近い仮設村へ治安維持部隊として向かわせた。彼らには仮設村に残る無就労者への就労対策として、尾張藩の那古野・清洲・津島湊、美濃藩の墨俣宿への就職の斡旋に関する書状を持たせてある。
残り四千。これで南信濃を攻める。
小田原城近辺へ放っている忍びの情報では、信玄は小田原城におり、迫る源徳家康軍との戦いで、直接指揮を執るとの事だ。また、甲斐藩の名だたる武将も半分は小田原城にいるという。
今こそ攻め入る好機といえよう。もちろん、信玄もお市の方が南信濃を狙っている事は薄々気付いているので、最低限の守りの兵は置いているだろう。お市の方は家康と和睦したが、共に反源徳勢と戦う軍事同盟を結んだわけではない。朝廷の意に背く家康と歩調を合わせる事は平織家の利にならない。『結果として』、家康の進軍を手伝うことになるだろう。
「松尾城は古典的な平山城です」
松尾城攻めの軍師を務める丹羽長秀が、木板に書かれた松尾城の縄張りの概略図を指差した。彼は尾張藩の武将の中でも知将として名高く、特に土木普請においては右に出る者はいない程だ。
松尾城は丘陵の地形を巧みに利用して構築されており、「┌」の形をした南北に長い城だ。角の部分に本丸を置き、東と南にそれぞれ二之丸、三ノ丸を設置している。城壁こそ人一人分よりやや高い程度の土塁だが、四方を川に囲まれ、本丸や二之丸、三ノ丸の堀に水を引いている。
「少なくとも、北から攻める事は出来ません。また、一見、本丸を直接狙えそうな構造に見えますが、川と堀に阻まれ、足軽や侍を直接向かわせる事はできません」
「本丸は堅牢に造るが当たり前ですから、弓矢による攻撃も効果が薄いのですね」
「そうです。後は新設した『尾張水軍』に突入させる方法もありますが、落下物などを十二分に備えているでしょう」
「つまり、正攻法以外は難しい、という訳ですね」
「そうなります。我が方は千五百、対する小笠原信貴殿、信嶺殿父子が率いる松尾城の兵は約五百、正攻法でも十分落とせる人数です」
長秀はお市の方の問いや提案に、逐一丁寧に応えてゆく。自分から策を提案するのは簡単だが、それでは主君は考えず、成長も望めない。征夷大将軍の位に相応しい知略を、自ら学んでもらわなければ意味がないのだ。
尚、尾張水軍とは、表向きは水軍としているが、表向きは水軍となっているが、甲賀忍者や伊賀忍者、お市の方に個人的に協力する蜂須賀正勝(=小六)が率いる川並衆など、三百人を越える忍者で構成された、実情は尾張平織家の忍者軍団だった。二つの忍者の里、伊賀と甲賀を領内に持ったことで尾張平織家の忍者戦力が強化された事を窺わせる。
とはいえ、城を預かる信貴・信嶺親子も構造上、本丸が狙われやすい事は重々承知しているはず。巨木や巨岩といった、丘陵を登ってくる忍者を撃退する罠を仕掛けている事は大いに考えられる。
「平山城は守りは固く、攻めは難く。でしたら下手な搦め手より、正攻法以外はないでしょう。それに、こちらも四千で攻められませんからね。問題は、軍を二分して南と東から挟撃するか、南か東、どちらかに集中させるかですか‥‥」
方向性は定まったが、攻め方に問題が残されていた。
千五百の兵を七百五十ずつに二分して南と東から挟撃するか、千五百の兵そのまま南か東、どちらかに集中させるかだ。信貴・信嶺親子が五百の兵を二分するとは限らない。挟撃策の場合、下手をすると七百五十の兵で五百近い兵と戦う可能性も出てくる。
この後、南信濃最大の拠点、高遠城を攻める事を考えると、できるだけ兵の消耗は避けたい。
お市の方は同行している冒険者と図る事にした。
●リプレイ本文
●南信濃攻めの意義を問う
お市の方こと平織市(ez0210)を総大将とした尾張兵千五百は、夕方過ぎに松尾城の建つ丘陵の麓に到達した。
浪人の雪切刀也(ea6228)や高町恭也(eb0356)、僧兵の雀尾嵐淡(ec0843)にジャイアントの侍ボルカノ・アドミラル(eb9091)が本陣の設営を手伝い、過剰に篝火を焚き、これでもかという程旗差物を立ててゆく。
篝火は千五百の兵にしては約1.5倍以上の数があり、本陣を赤々と照らしている。旗差物も同じくらい用意して篝火で目立つように並べ立てている。威風堂々とした陣容を、丘陵より見下ろす松尾城の武田兵達に見せつける事で、松尾城側にこちらの正確な数を把握させず、且つ、本来の数より多くの大軍で包囲したように錯覚させる策だ。
「尾張平織家の家紋の入った旗差物が、もう少し用意できればよかったんだけどな」
嵐淡は旗差物を見ながら言った。ボルカノやジャイアントの神聖騎士ネフィリム・フィルス(eb3503)は、千五百の倍、つまり平織軍の主力三千の兵が松尾城の攻略に動いたと思わせたかった。五百の兵しかいない松尾城側からすれば、自軍の六倍もの大軍に包囲された事になるからだ。しかし、流石にそこまで多くの旗差物や篝火は用意できなかった。特に藁人形の藁は篝火にも使用する為、彼女が頼んだ半分しか用意されていない。
それでも、嵐淡に指揮権が預けられた尾張水軍二十名が偵察へ出たところ、少なくとも松尾城側は「二千の兵に囲まれている」と捉えていたという。
加えて、嵐淡が尾張水軍を多めに本陣の周囲に配置し、松尾城側の物見を片っ端から捕らえており、松尾城側は正確な数を把握できずにいる。
「南信濃攻めか‥‥正直、この戦いが東を安定させる事に繋がるかは疑問もある」
長秀が放った尾張水軍と共に松尾城周辺の地形の下見に行っていた、レンジャーのクロウ・ブラックフェザー(ea2562)が帰ってくると、尾張軍の布陣を受けて同じく篝火を焚き、夜陰の中に茫洋と浮かび上がる松尾城を臨みながら、ふとそんな事を漏らす。
「武将が主君の決めた事に戦場で異を唱えるのは、クロウっちだけじゃなく、クロウっちが預かる兵士の命を奪いかねない事に繋がるさね」
「分かっている‥‥手を抜く気は無いさ。お市さんの理想を叶える為にも、ここで躓く訳にはいかないからな」
その疑問は分からなくはないが、今は考えるべき時ではない、と、ネフィリムが軽く窘めた。
クロウは弓兵百名、ネフィリムは足軽百五十名を預かる尾張藩の武将であり、客将とは立場が異なる。彼らの采配一つで、多くの尾張兵の命はいとも簡単に散ってしまうのだ。迷いや疑念を持つ事自体は悪い訳ではない。主君が道を誤れば、それを正すのも臣下の務めだろう。しかし、少なくとも今、この戦場という場所で考えるべき事ではない。
「東の安定、というよりは武田の力を削ぐのが目的だからな。高野山が味方に付いたとはいえ、比叡山をどこまで牽制できるかは正直未知数だ。それよりは、比叡山が頼りにしている武田そのものの力を削ぐ事で、結果的に比叡山の力も削ぐ。理に適っているじゃないか」
ジャイアントの志士、風雲寺雷音丸(eb0921)は高らかに笑いながらクロウに応えた。彼の傍らには、ジャパンでは珍しいスモールアイアンゴーレムの巌鉄丸が控えている。
お市の方も南信濃を侵略する気はない。雷音丸が言うように、今回の遠征の狙いは、あくまで比叡山延暦寺の牽制にある。更に、小田原に進軍中の源徳家康の間接的な援護になればいい、程度だ。
ボルカノもお市の方に確認したが、降伏する者の命は保障し、無益な殺生はしない。今回の遠征で、尾張軍の兵達はその事を徹底されている。
尚、ボルカノはネフィリム達の話に加わる事は出来ない。彼は今は尾張藩の武将ではなく、一介の客将なので、臣下の会議には参加できない。
(「私の良かれと思った独断が、お市様を始め、平織家の皆様に大きな迷惑をかけてしまった。1からやり直すつもりで、お市様、皆様方の為に一本の槍となってただひたすらに平織家に尽くす」)
ボルカノは愛用の大身槍「御手杵」を見ながら、心の中で決意していた。
事前の軍議で進軍するのは夜間に、擬兵の計を以て敵の守りを二分させ、こちらも兵を二分して南と東から同時に攻める方針が決まったので、その時間までにお市の方自らが発破を掛けながら、各隊に矢避けの盾や土木工事に使う足場板のような長い板、戸板と梯子、組み立て式の小さな物見櫓の部品などを配ってゆく。
「市姫と戦場でお会いするのは二度目ですね。ミリートから頼まれました。力になってくれ、と」
「ミリートとはなかなか会えないけど、この戦が終わったら一度会いたいわね」
「是非、そうして下さい。ミリートも喜びます。俺としても、気に入った相手の為に戦うのは、理由としては申し分ないんですよ」
刀也率いる侍隊四十名に矢避けの盾を配るお市の方へ、鬼相の惣面を取って刀也が挨拶をした。しばらく会っていない親友の名前を聞き、お市の方も綻ぶ。二人はほんの数分ではあったが、同じ人の話題で盛り上がった。
「相手が体勢を整える前に攻める、か‥‥初手でどこまでいけるかだな‥‥少なくとも、本丸に架かる橋を落とされる前にこちらで確保しなければ‥‥」
恭也は東から攻めるが、如何にして二之丸を突破し、本丸との間の堀に架かる橋を落とされる前に駆け抜けるかを考えていた。
クロウやネフィリムは橋が落とされた時の事を考えて、お市の方に用意してもらったが、長い板や物見櫓の部品を持っていれば、それ分、機動力が落ちる。橋を落とさせないで済むならそれに越した事はないからだ。
その為に彼は、機動力に優れた足軽隊四十二名の指揮権を借りている。
「期待しているわよ」
「‥‥お市様の為に頑張ってくるかな」
お市の方が背中をばしばし叩いて発破を掛けると、感情こそ表面に出さないものの、照れ臭さからか頬を掻いた。
●死亡フラグか!?
嵐淡はミミクリーで大ふくろうに化けると、松尾城の上空へ飛来し、デティクトライフフォースを唱えてその生命反応から、大まかな兵の配置や数、動きを探査する。
篝火が焚かれている事もあり、松尾城の周囲は明るく、またデティクトライフフォースの射程もあって嵐淡はかなり接近しなければならなかった。
松尾城の見張りに見つかってしまったが、気取られないよう明かりを嫌うかのように大きく迂回してから、本陣の方へ戻った。
人間の姿に戻った彼は、木板に書かれた松尾城の概略図へ、デティクトライフフォースで感知できた内容を書き込んでゆく。
「‥‥小笠原信貴殿は、兵を二分しなかったようだな」
「ある意味正しいな。南側、つまり、正面の敵を主力と見て構える布陣だ。武田の田舎侍も腹を括ったようだが、こういう博打は嫌いじゃない」
木板を見ながらクロウが唸り、雷音丸が高らかに笑う。松尾城を預かる小笠原信貴、信嶺父子は、正面の南側に約四百、東側に約百の兵を配置し、正面からの攻撃に備えていた。
「元々、正面に集中させる手筈だったんだから、手間が省けたってもんさね。市サンには最初から旗印を掲げてもらう事になるさね」
「分かりました」
ネフィリムが松尾城攻めの段取りを確認すると、お市の方は頷いた。
「この百名の兵は、おそらく弓兵でしょう。そして橋は既に落としてある可能性が高いです」
「‥‥東の守りをほぼ捨てたか‥‥」
「二之丸まで制圧できれば、兵の志気はぐっと高まる。それに橋はネフィリム隊が架けてくれるから、俺達は極力阻害を抑えるように戦うだけさ」
ボルカノが自分ならこう布陣すると予想を述べると、長秀も頷く。恭也も同じ考えだったが、刀也はそれを逆手に取るつもりでいた。
「今後の為にも少しでも被害を減らして勝てるように頑張るぜ。お市さんがまた、お姫さんに戻る事が出来る日が来るように!」
偶然だが、出陣前にクロウはお市の方と二人きりになれた。彼が自分の胸を叩くと、お市の方はその手を取り、甲に唇を落とした。
「あ、えと、イギリスでは接吻が挨拶代わりだと聞いたので‥‥と、とにかく、無理はしないでね」
「お市さん‥‥ここで無理しないと、いつ無理するのさ? それに、挨拶のキスはここにするモンだぜ」
クロウはウインクを一つ、お市の方の頬に口付けをしていた。
(「今のは死亡フラグ‥‥じゃないよな? いや、俺にとっての勝利の女神のキスだ!」)
●松尾城電撃戦
「ガァアアアアア! さあ、野郎共、漢の見せ所だ! こんな小さな城、軽く蹴散らすぞ!!」
雷音丸が吼えると、彼が率いる侍隊二百二十名が盛大に太鼓を打ち鳴らし、法螺貝を吹く。
雷音丸隊とボルカノ率いる三十五名の足軽を中心に、お市の方が総大将を務める本隊と軍師丹羽長秀が率いる侍隊の主力部隊が、南側から丘陵を駆け上がり、松尾城へと攻め入る。
松尾城の城壁(といっても土塁だが)より、矢が雨霰と降り注ぐ。雷音丸は侍隊に戸板を、ボルカノは足軽隊に矢避けの盾を前面に立てて並べさせ、矢を防ぐ。
進軍が止まったところへ、城門が開いて松尾城側の足軽隊が突撃を仕掛けてきた。
「当方は倍以上の兵力で攻めている! もはや城の陥落は時間の問題! 命は保障する! 尾張平織家に降伏せよ!!」
ボルカノ隊は三人一組で三列陣形を取り、敵一人に一組で当たった。相手の長槍の間合い(約2.5m)を遥かに上回る三間半の槍の間合い(約6.3m)を活かして左右中央から槍を繰り出す事で、敵の逃げ場を奪って討ち取り、槍の返しの隙を次の列の組が交代する事で補い、進軍の足を止めない。
「武田の田舎侍、教えてやろう! 俺達の居るところこそが、常に決戦の場所だという事をな!!」
雷音丸は巌鉄丸を従え、自ら侍隊の先陣を切っている。ウイングドラゴンヘルムを被り、オーガマスクで顔を覆い、ドラゴンスケイルの上から白鳥羽織を纏った完全防備の出で立ちの雷音丸は、中弓程度では傷つかないし、巌鉄丸に至ってはアイアンゴーレム、矢は効かない。
彼の横を陣取るボルカノは敵兵に降伏を呼び掛けて士気を落としながら、氷晶の小盾を構えて雷音丸と共に城門への道を切り開いてゆく。
「中傷を負った兵は、どんどん交代させるんだ!」
嵐淡は激戦区になるであろう南側の後方に救護所を設置し、嵐淡隊に負傷者を運んでくるよう指示していた。
彼は運ばれてきた負傷者をテスラの宝玉で治療し、速やかに戦線へ復帰させられるよう治療に専念していた。
雷音丸隊の太鼓や法螺貝の音は、東側から攻める刀也隊、恭也隊、ネフィリム隊、クロウ隊にとっても、進軍開始の合図だった。
「存分に気焔をぶちまけろ。勝利と敗北の比率を、此処に知らしめる為にだ!!」
「機動戦なら俺の得意とするところだな‥‥まずは橋を奪取する‥‥!」
刀也と恭也が自分の隊に発破を掛けると、二之丸を一気に駆け付ける。
「こっちの守りを捨てた以上、橋は要らないってかい」
ネフィリムは下唇を噛む。二之丸に兵は配置されていなかったが、代わりに二之丸から本丸へ行く為の橋が既に松尾城側の手によって落とされており、堀に沿って弓兵が配置されていた。
矢避け用の盾を持つ刀也隊と恭也隊の侍と足軽が前へ出て、本丸からの攻撃を防いだ。
「もっとも、俺でもそうするけどな。ネフィリムは物見櫓の組み立てを頼む」
クロウは自分の隊百人の内、三十人を工作部隊としていた。工作部隊に矢盾を配置させ、クロウ自身もストーンウォールのスクロールで石の壁を作り、松尾城側の弓兵と撃ち合いに応じた。
しかも彼の持つ星天弓は、中弓より若干だが射程が長い。クロウはそのアドバンテージを活かし、石の壁の陰からこの弓兵の隊長と思しき侍に当たりを付けると、シューティングポイントアタックで仕留めた。
隊長が倒された事により、松尾城側の弓兵に動揺が入る。ネフィリムはその隙を見逃さず、組み立てていた物見櫓を引き倒し、堀に橋を架けた。
「目指すは大将だが‥‥流石に楽には行かせてはもらえないか。相手の弱いところ、守りの薄いところから崩していくぞ!」
「我が名は雪切刀也。鬼も竜も穿ち喰らった兇刃よ!! 骸を望む者はいざ参れ!!」
数が少なく、その分機動性のある恭也隊と刀也隊が、物見櫓の橋を一気に渡り、左右に分かれて弓兵を討ち取ってゆく。
特に刀也はウイングドラゴンヘルムに鬼相の惣面を付け、軟皮鎧の上にブラック・ローブを羽織っているので、その威嚇の演出も効果は抜群だ。
その間、クロウ隊の工作部隊が、弓兵の援護の下、橋桁を堀に掛け、その上に細い板を重ねて並べ、広く厚い橋を造った。ネフィリム隊は百五十人なので、物見櫓の橋では全員を渡すのは難しいからだ。
ネフィリム隊が本丸の東の城門を打ち破り、本丸へと雪崩れ込む。
雷音丸隊とボルカノ隊、お市の方本隊はまだ正門を突破できておらず、彼女達が一番乗りとなった。
「雌雄は決したさ、大人しく降伏するんだね。命までは取らないよ」
本丸にいる兵のうち、唯一騎馬に乗っている二人の侍を、信貴・信嶺親子だと踏んだネフィリムは降伏を迫る。
しかし、南側で兵が戦っている以上、降伏はないと、信貴・信嶺親子はわずかな手勢でネフィリム隊へ攻撃を仕掛けてきた。
「お市殿がどう対処するかはさておき、大将はなるべく捕縛といきたいが‥‥さて」
「行こうか、黒曜石。あ〜、気が向いたらで十分なんで、少し祈ってくれるとありがたい、かな? ふふ」
右手に宝剣「マッネ・モショミ」を、左手に鬼神ノ小柄を構えた恭也と、黒の眷属輪に軽く口付けを落とした刀也がブランミスティックを振るい、信貴・信嶺親子と刃を交える。
信貴・信嶺親子は馬上から長槍を突き下ろしてくる。恭也はそれをかわすと、フェイントアタックを交えたポイントアタックを馬に当て、落馬させた。
一方、刀也はスマッシュを繰り出し、ねじ伏せた。
「「「「えい! えい! おー!!」」」」
本丸から、クロウの、刀也の、恭也の、ネフィリムの勝ち鬨を声が挙がる。
「総大将、小笠原信貴・信嶺は、我が平織が倒しました。これ以上、無益に戦いは、こちらとしては望みません」
お市の方が松尾城兵へ呼び掛けると、総大将が倒された為、降伏したのだった。
松尾城は陥落し、信貴・信嶺親子は平織軍の捕虜となった。
平織軍の負傷者は六十余名と、ほぼ損害なく松尾城を手に入れたのだった。