【天下布武】南信濃攻略・大島城電撃戦
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月25日〜01月01日
リプレイ公開日:2009年01月20日
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●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
上洛を果たすべく、山城へ驀進する尾張平織家は、美濃藩に次いで伊賀藩も併合し、平織家の近臣である近江藩を含め、畿内の約半分を手中に収めた。
悲願の上洛を果たしたお市の方は、虎長すら成し遂げられなかった武官の最高位、『征夷大将軍』の座に登り詰めたのだった。
お市の方は十一月中に、高野山真言宗と友好関係を築き、関白藤豊秀吉と不戦同盟を結んだ。
これで高野山に、虎長を一方的に“魔王”呼ばわりしている比叡山延暦寺を高野山に牽制してもらう事が出来るようになり、以前のように、武田信玄が比叡山の要請を受けて上洛してくるような事態は回避できる。
また、京へ迫るイザナミの不死軍は、京より西、大阪に基盤を持つ秀吉が迎え撃つ確認を取った。
代わりに、尾張平織家は金剛峯寺座主を大僧正へ推挙する姿勢を取って、仏教勢力を敵視せず、ジーザス会派でもない事を内外に示すと共に、秀吉を介して丹波は宮津藩へ軍資金五百Gを贈った。
これで少なくとも、畿内でお市の方の足元を掬う勢力はなくなった。
後顧の憂いを断った彼女は、那古野城の守りを佐久間信盛と森可成(よしなり)に任せると、四千五百の兵で尾張藩を出立し、美濃藩は墨俣(すのまた)城へ入った。
ここはお市の方が美濃藩攻略の際に冒険者の協力を得て、一夜にして砦を築いた場所だ。
美濃藩藩主、おじの斉藤道三の居城は稲葉山城だった。しかし、虎長に先の比叡山攻めの責任を取らせて無期限の蟄居(ちっきょ)処分を言い渡した際、虎長は蟄居先に『岐阜城』と改名した稲葉山城を指名した。
道三も木曽三川(きそさんせん)のうちの二本、揖斐川と長良川に挟まれた長良川西岸一帯で、美濃藩の主要街道が走り、宿場町として美濃でもっとも栄えている墨俣宿(すのまたじゅく)が城下町となる事もあり、義理の息子に快く岐阜城を明け渡し、自分は一夜砦を城へ改修し、居城とした。
お市の方はここで兵を五百程置いていき、閉鎖が近い仮設村へ治安維持部隊として向かわせた。彼らには仮設村に残る無就労者への就労対策として、尾張藩の那古野・清洲・津島湊、美濃藩の墨俣宿への就職の斡旋に関する書状を持たせてある。
残り四千。これで南信濃を攻める。
小田原城近辺へ放っている忍びの情報では、信玄は小田原城におり、迫る源徳家康軍との戦いで、直接指揮を執るとの事だ。また、甲斐藩の名だたる武将も半分は小田原城にいるという。
今こそ攻め入る好機といえよう。もちろん、信玄もお市の方が南信濃を狙っている事は薄々気付いているので、最低限の守りの兵は置いているだろう。お市の方は家康と和睦したが、共に反源徳勢と戦う軍事同盟を結んだわけではない。朝廷の意に背く家康と歩調を合わせる事は平織家の利にならない。『結果として』、家康の進軍を手伝うことになるだろう。
「大島城を預かるのは、あの秋山虎繁殿か。相手にとって不足はないのぉ」
総大将を務める、お市の方のおじ平織虎光は、大島城を見上げながら呟いた。
大島城は平山城で、天竜川を背に城の側面と背面は台地の断崖となっており、城の前面の三日月堀の空堀がこの断崖へ続いている。また、この三日月堀は二重になっており、城自体は本丸と二之丸しかなく、規模は大きくないものの、その堅牢さが見て取れる。
加えて、この大島城を預かるのは、『武田二十四将』の一人、秋山虎繁だ。
「滝川一益、戻りました」
「して、どうじゃ?」
「やはり側面と背面は、『尾張水軍』以外では登るのは無理です。しかしながら、背面や側面には忍びを撃退する罠が仕掛けられていました」
虎光の軍師を務める滝川一益が偵察から帰ってくると、大島城の様子を報告した。彼はお市の方が全幅の信頼を寄せる片腕であり、元々は甲賀忍者でも指折りの忍びの者であった。
尚、尾張水軍とは、表向きは水軍となっているが、甲賀忍者や伊賀忍者、お市の方に個人的に協力する蜂須賀正勝(=小六)が率いる川並衆など、三百人を越える忍者で構成された、実情は尾張平織家の忍者軍団だった。二つの忍者の里、伊賀と甲賀を領内に持ったことで尾張平織家の忍者戦力が強化された事を窺わせる。
とはいえ、城を預かる虎繁も抜かりはない。防備をより堅牢なものにしており、巨木や巨岩といった、断崖を登ってくる忍者を撃退する罠を仕掛けている。それを看破する一益も凄いが。
「ここでいたずらに尾張水軍を損耗させるつもりはないが、大島城の守りの兵は五百とはいえ、正面突破しかない以上、ある程度の犠牲は避けられんか‥‥」
虎光は腕を組みながら唸る。この後、南信濃最大の拠点、高遠城を攻める事を考えると、できるだけ兵の消耗は避けたい。
「堀が深い以上、梯子を掛け、迅速に渡る必要がある。弓兵の援護射撃を多めにし、身軽な足軽で攻め入るとしよう。よし、配置換えを行うぞ。一益、侍を控えさせるのじゃ。代わりに控えの千の兵から、弓兵と足軽を侍と同数持ってきてくれ」
「はっ、直ちに」
虎光は一益に配置換えの指示を出すと、彼は各部隊長へ通達し、速やかに配置換えを行ってゆく。
「やれやれ、冬の信濃の寒さは堪えるのぉ。この老い耄れも後何年、市の為に刃を振るえるか‥‥」
運良く積雪こそないが、昼間だというのに身を切る寒さに、虎光は身体を震わせながら寂しそうに呟いた。彼は虎長より十八歳も年上で、既に初老の域に入っている。もちろん、尾張平織家の武将の中では最年長だ。
「そんな寂しい事、仰らないで下さい」
しかし、運悪く、配置換えの通達を終えて帰ってきた一益に聞かれてしまった。この老兵は、暗殺された虎長の跡目争いの際も終始一貫してお市の方を支持し、尾張統一を表で裏で支えてきただけに、お市の方は実の祖父のように慕っている。彼女だけではない。一益を始め、父として慕う尾張藩の武将も少なくない。
「人間五十年というが、儂はとうに越えておるからな。だがな一益よ、市の花嫁衣装を見るまでは、いや、子の顔を見るまでは、この老い耄れ、死んでも死にきれんわ」
「まったくですね」
虎光が一益の不安を吹き飛ばすように豪快に笑うと、彼も肩を竦めた。
お市の方は天下布武を成し遂げるまで、結婚しないと誓いを立てている。だが、彼女も女性だ。思慕を寄せる男性がいる事くらい、家臣団、いや部隊長クラスの兵ですら周知の事であった。自分の幸せは二の次で、何はともあれ先ずは平織家を、というお市の方の真摯な姿こそ、尾張平織軍の結束力の根元と言っても過言ではない。
それだけに、虎光を筆頭に『お市の方の花嫁姿を見たい』と『尾張平織家の世継ぎ(=お市の方の子供)の顔が見たい』は、本人の与り知らないところで、家臣団が一丸となるスローガンとして叫ばれている。
斯くして、尾張平織軍による、松尾城と大島城の同時攻略作戦が展開される事となった。
●リプレイ本文
●親心、子心
お市の方こと平織市(ez0210)より指揮権を委任された平織虎光を総大将とした尾張兵千五百は、大島城へ向けて進軍していた。
ナイトの壬生天矢(ea0841)や侍の水上銀(eb7679)が、虎光や軍師の滝川一益と打ち合わせた策は、日の出と同時に開戦なので、それに合わせて夜半過ぎには大島城へ着く進軍ペースだ。
しかも、浪人の八城兵衛(eb2196)や河童の武道家、張真(eb5246)が率いる、二十四名と六十五名の足軽は、両手に松明を持っている。いや、彼らだけではない。天矢が預かる本陣の弓兵二百三十五名もそうだ。
傍目から松明の数だけ見れば、かなりの規模である事が伺える。
「こんなんでも、しないよりはマシだろ。こっちには優秀な忍者がいるからな」
「大島城側の物見を封じられれば、こちらの正確な数は分からない。松明の明かりで目算するしかなくなるさ」
美濃藩から南信濃の大島城への道中は山道が続く。夜間の進軍なので、明かりはどうしても必要だ。そこで兵衛と天矢が言うように、その明かりを逆手に取って、こちらの正確な数を把握させず、且つ、本来の数並みの軍が押し寄せているように錯覚させる策だ。
「しかし、ミネア殿が気になる事を言っていたアル」
「“真田十勇士”か‥‥信玄殿と事を構えるとなると、真田昌幸殿や幸村殿を引っ張り出す事になりかねないからな。無論、ミネア殿の予想だから、居ないに越した事はないが」
真はこの場にいないファイターのミネア・ウェルロッド(ea4591)が、「絶対、居るだろうからね‥‥一人は必ず」と真田十勇士の存在を危惧していたのを告げると、真田十勇士だけではなく、彼らが仕える主君真田昌幸・幸村親子の名声と腕前を聞き及んでいる天矢が軽く唸った。
「武田は潰せる時に潰した方が、後腐れがなくて良いと思うがねぇ」
「そう簡単にはいかないアルよ。尾張平織家は“征夷大将軍”である以上、自分から闇雲に戦火を拡大させる訳にはいかないアル」
「そういうモンかねぇ」
「そういうものさ、政(まつりごと)というのはな。そして市殿は女の身でありながら、単身、そこへ飛び込んだんだ。親父殿には弟が何度か世話になった。その恩返しではないが、市殿の花嫁姿の為、尽力するつもりだ」
兵衛が面倒くさそうに口髭を撫でる。彼はよく周りの後始末を負わされる苦労性なので、初めから苦労すると分かっている事は極力排除しておきたいと考えたのだろう。
しかし、真は真剣な表情で頭を横に振る。政は仕える武将や兵、藩に住む人々の生活や命を預かっているのだから、決して一個人の感情で行ってはならないからだ。
今回の南信濃への進軍も、お市の方に侵略する意志はない。あくまで目的は比叡山延暦寺の牽制だ。
天矢は複雑な政の事情を掻い摘んで話しつつ、お市の方が背負っている重責を想像していた。
「市はいい友達や武将に恵まれたものじゃな」
『まだ老け込むのはちょいと早くない? まだまだ長生きしておくれよ。あたしだって、あんたの“娘”なんだからさ』
「おっと、そうじゃったな‥‥年を取ると涙腺が弱くなっていかんのぉ」
真達の話を聞きながら、虎光にはこみ上げてくるものがあった。彼はお市の方が一から這い上がって尾張藩の藩主、尾張平織家当主、そして征夷大将軍へと登り詰めてきたのを、ずっと見守り続けている。
だからこそ、天矢達臣下や友達を、お市の方の一番の財産だと思っている。
不意に、少し前まで轡を並べていた銀の言葉が脳裏を過ぎり、虎光は微苦笑した。普段はへそ曲がりで素直ではない銀も、虎光の前では娘のように振る舞う事も少なくない。彼女は両親をとうに亡くしているので、一益達若い尾張軍の武将と同じく、虎光を実の父のように慕っていた。
その銀は足軽三十人と共に、ミネアの二十二人の弓兵と、ハーフエルフの忍者ルンルン・フレール(eb5885)が率いる尾張水軍(=忍者)十人と、虎光達本隊から先行して大島城を目指していた。
銀隊は奇襲を仕掛ける為、夜明け前までに本隊と別の場所に隠れる必要があった。
「師匠、ルンルン、イギリスより只今戻りました! 積もる話も一杯あるけど、まずは城攻めです」
ルンルンは一益の弟子で、彼より甲賀忍法を学んでいる。それだけ一益の信頼も厚く、彼が事前に調べた大島城の忍び除けの罠や位置の詳細を聞いた。側面には断崖を登ってくる忍者を撃退する為に、城が若干出っ張っており、そこから巨木や巨岩を落とす罠が設けられているという。また、その出っ張りがオーバーハングになっており、登りにくくもしていた。
ルンルン隊が先行部隊に参加しているのは、大島城側の物見や忍者を捕まえて、こちらの情報を与えないようにする任も受けているからだ。既に別働隊が動いており、別働隊の動向と、本隊の人数が少なくなっている事を知らせない必要がある。また、万一、大島城側の物見や忍者を見つけられなかったとしても、本隊には一益が居るので、二重三重の構えだ。
「いよいよ武田と戦争か‥‥いや、ついに‥‥なのかな♪ あは、客将から将軍になれるように頑張らないとな♪」
ルンルン達は明かりも付けず、夜目を頼りに息を殺して進軍する中、ミネアは一人、ほくほく顔だった。彼女の笑顔を見た者は、この進軍中に異様な光景に映るだろう。
真が言っていたように、ミネアは弓兵で大島城の側面から攻めるルンルン隊を援護すると同時に、一人はいるであろう真田十勇士を警戒し、足止めするつもりで先行部隊に参加していた。
兵衛達本隊が大島城の正面に到着したのは夜半過ぎだった。
真や天矢も手分けして天幕を張って陣を作り、天を燃やすかの如く篝火を赤々と焚き、旗差物を多く立てて、道中の松明同様、人数が少ない事を偽兵でカムフラージュしていた。
この篝火は偽兵だけではなく、火矢の準備にも使われる。天矢は指揮する弓兵に指示を出して前後二人一組の列を横に作り、日の出を待った。
夜陰に紛れてルンルン隊の尾張水軍の一人が一益の元へやってきて、ミネア達別働隊も配置に付いたと報告した。城の近くは警備兵や物見の数も多く、三日月堀の空堀の中へ入り込む隙はなかった。流石は『武田二十四将』の一人、秋山虎繁が預かる城だ。
それでもかなり近い位置に何とか潜伏できたとの事だ。
後は夜明けを待つばかりだ。
●大島城電撃戦
「指揮は柄じゃねぇが、無駄に死なせる趣味もねぇ。何としても城を落として、その上で俺が預かった足軽は全員生き残らせたいものだ」
夜明けが近づくと、虎光は最前列へ向かう。それを見た兵衛は足軽達一人一人に声を掛け、発破を掛けた。
「弓兵、構え!」
武者鎧「黒鬼縅」を纏った虎光が弓兵に指示を出すと、矢先が燃える火矢を長弓に番えた。
「撃てー!!」
日の出と共に開戦の矢が放たれる。火矢は二重の三日月堀の空堀を飛び越し、城壁に突き刺さる。土壁なので壁自体に引火する事はないが、近くの枯れ木や草に燃え移ってゆく。
天矢が前後で順番に撃つよう指示し、攻撃に隙間を作らせない。
「矢避けの盾を持った者を前へ! 反撃が来るアル!」
真が矢避けの盾として竹籠を持たせている足軽へ、前へ出るよう指示すると同時に、大島城側からも矢の応酬が雨霰と降り注ぐ。
同じく、兵衛隊の足軽も、お市の方に注文して竹を幾重にも重ねて編んだ矢避けの盾を作ってもらっており、それを前面に打ち立てて、真隊と共に凌いだ。
「ここが踏ん張り所だ! 厳しいが俺達に集中させるよう踏ん張ってくれ!」
矢避けの盾も完璧ではない。時々、盾の隙間を縫ったり、盾を越えて敵の矢が飛来する事も少なくない。威力は弱められるので、仮に刺さっても軽傷で済むが、痛いものは痛い。
兵衛も真も、将自らが矢避けの盾を支える事で、兵を鼓舞していた。ここで最前列が崩れる訳にはいかないからだ。
「ルンルン忍法、地聴の術! 息吹の術!」
ルンルンは一益から聞いた罠の情報に加え、バイブレーションセンサーの巻物を使い、岩や木を吊った縄や板の軋みが岸壁に伝わる、ほんのちょっとの振動を感知して看破し、避けながらオーバーハング気味の断崖を登っていた。
また、ブレスセンサーの巻物で見張りの位置を看破してから、ルンルン隊へ忍びの符丁を用いて無言の罠の位置を知らせると、自分は疾走の術とインビジブル専門の巻物を使って岸壁を一気に登った。
見張りが数名いたが、真達本隊が過剰なまでに正面に攻撃を集中させている事もあり、そちらへ気を取られていた。その隙にルンルンが近づくと、ダガーofリターンで首元を狙い、仕留めていった。
見張りを無力化した彼女はミネア隊が登れるよう、断崖へロープを垂らした。
「尾張水軍とルンルンちゃんが忍ぶココに、ちょっかいを出す可能性があると思ったんだけど‥‥!? 弓兵、登らなくていいから、あるだけ矢を射っちゃって!!」
ロープを登り始めたミネアは、背筋がゾクゾクするのを感じた。
これは――殺気だ。彼女はロープに登ろうとしていたミネア隊に矢を番えるよう口早に指示を出す。
「へぇ。いい命令だ」
ロープの上の方から、感心したような、どこか人を小馬鹿にしたような声が聞こえる。そこへミネア隊が矢を放つと、ミネアは一気に登り切った。
命令が後数秒遅ければ、ロープを切られ、ミネアは断崖を落ち、地面に叩き付けられて死んでいただろう。ルンルンからその存在に気付かない奴は、ミネアに見覚えがあった。真田十勇士の一人、望月六郎だ。
(「倒せればいいけど‥‥何しろ、十勇士だからね‥‥みんなに城を落としてもらうまでの足止めでも十分。っていうか、それが悔しいけどミネアの限界だ‥‥」)
対峙する六郎は全くといっていい程隙だらけだ。しかし、その体運びや動作に一切の無駄がなく、認めたくはないが、今のミネアの実力では足止めがせいぜい。
弓兵に矢を雨霰と射させて忍法を使う暇を与えず、行動を制限しながら、太刀「薄緑」でシュライクを狙っていく。だが、命中が鈍るのが災いして、ミネアの切っ先はかすりもしない。逆に六郎は忍法こそ使えないものの、忍者刀と手裏剣を使い分け、ミネアの太刀を忍者刀で受け流し、手裏剣を的確に当ててくる事で、鍔ぜり合いすらさせてもらえなかった。
「策も太刀筋も悪くはないが‥‥お嬢ちゃん、そんな重いもの振り回してちゃ、当たるものも当たらないぜ?」
「アドバイス、あ・り・が・と・う!!」
太刀を捨ててリズムを崩し、エスキスエルウィンの牙へ持ち替えたミネアは、高機動戦闘に切り替える。首目掛けシュライクを乱撃するが、ポイントアタックを修得していない為、上手く狙う事はできなかった。
ここで、伏兵の銀隊が動いた。
攻撃が本隊に集中している事を確認すると、一つ目の三日月堀に一気に近づき、せり出し式の堀越橋を架け、30人を渡らせると、それを回収して二つ目の三日月堀にも架け、渡りきってしまう。
このせり出し式の堀越橋は以前の合戦で使用したもので、那古野城の蔵に眠っていたのだ。銀はそれに目を付け、お市の方に持ってきてもらっていた。
思い掛けない伏兵だが、大島城側も冷静に対処する。本隊に集中させていた矢を、銀隊へ集中させたのだ。相手はたかだか三十人程度、数百の矢は防げない。
「真隊、行くアル!」
「兵衛隊、突撃だ!」
これを待っていたとばかりに、真隊と兵衛隊も三日月堀に堀越橋を架け、渡ってゆく。ここで一歩先にゆくのは兵衛隊。矢避けの盾がそのまま架設用の橋になるので、真隊より進軍ペースが速い。
「パックンちゃん、GO!」
城門付近は火の手が上がっており、大島城側の足軽が消火に当たっていた。そこへ姿を消して忍び寄ったルンルン、いきなり大ガマを呼び出して混乱させ、その隙に尾張水軍が城門を開け放つ。
「手向かいせず、逃げる者は追わない! その代わりに向かってくる者は容赦はしない!!」
「降伏する者は武器を捨てろ! 槍は久しぶりだが‥‥切れ味は衰えてはいないぞ」
「我等の目的は、死人の跳梁を見過ごす延暦寺に楔を打ち込む事。無益な殺生をする事は本意とせず、しからば手向かいせず、逃げる者は追わず、降る者は寛容なる行いにて応じる。命を粗末にする事なく我等の求めに応じるべし」
本丸へと雪崩れ込んだ銀隊、天矢隊、真隊が、口々に降伏を勧告しながら大島城側の侍や足軽達と切り結ぶ。銀が事前に虎光に、「足軽は追わなくても良くないかな?」と聞いたところ、「降伏した者に一切手出しするつもりはない」と返事が返ってきて、それは尾張兵全員へ通達されている。
銀隊は足軽を三人一組に組分け、常に敵兵一人に一組で戦うよう指示していた。しかも、報奨金を出す事で、全員の士気を高めている。
それは真隊も同じで、左右前方からの対処し難い攻撃で敵兵を倒してゆき、攻撃の隙間は組ごとに連携する事で補い、常に攻撃し続けられる体制を作っている。
また、真自身も手数を活かし、オフシフトで攻撃を避け、トリッピングやストライクを状況に応じて組み合わせ、敵将と思われる出で立ちの者の懐に飛び込み、拳と蹴りで倒していき、指揮系統を混乱させてゆく。
「命あっての物種だ。怪我した者は早急に下がれ!」
ポーション類が支給されるのは、尾張軍も武将クラスのみだ。兵衛は自分に支給されたポーションを配下に使い、それでも足りなければ交代を急がせた。
兵衛は常に最前線で刃を振るい、修羅の槍からソニックブームとバーストアタック、スマッシュEXを組み合わせて物見櫓といった障害物を破壊し、敵兵の動きを制限させている。
「秋山虎繁殿とお見受けする。俺は平織市が親衛隊“母衣衆”の壬生天矢。無益な血は流したくない。潔く降伏してくれれば悪いようにはしない。抵抗をするならば、こちらも容赦はせん‥‥全力でお相手いたそう」
天矢は総大将の虎繁と相対した。虎繁は降伏せず、一騎打ちとなった。
オーラエリベイションを自身に付与すると、天矢は愛用の名槍「蜻蛉切」のリーチを活かし、突き、薙ぎ、下からの払い上げ等を巧みに繰り出す。虎繁は馬上という地の利を活かして、朱槍を振るい、一進一退の攻防が続く。
天矢は虎繁の動きを見切ったとばかりに、鋭く見据え、ニヤリと笑うと、カウンターにバーストアタックEXとスマッシュを組み合わせた必殺の一撃を放ち、虎繁を落馬させ、その首筋に穂先を突き付けた。
秋山虎繁は平織軍の捕虜となり、大島城は陥落した。
平織軍の負傷者は百名弱と、少ない被害で大島城を手に入れたのだった。
「望月六郎‥‥次に会ったら殺す‥‥」
平織軍が歓喜に沸く大島城の中で、六郎にいいように玩ばれ、全身切り傷・刺し傷だらけになりながら最後には逃げられてしまったミネアは、一人不機嫌そうに物に当たり散らしていた。