【天下布武】南信濃攻略・高遠城決戦
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月28日〜02月06日
リプレイ公開日:2009年02月20日
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●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
暗殺された藩主・平織虎長(ez0011)の後を継ぎ、尾張を統一したのは、虎長の妹・お市の方こと平織市(ez0210)であった。
尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座についたお市の方は、『平織家は神皇の剣となり盾となる』をスローガンに、彼女の名を以て畿内を平織家で統一する『天下布武』を広く宣言した。
上洛を果たすべく、山城へ驀進する尾張平織家は、美濃藩に次いで伊賀藩も併合し、平織家の近臣である近江藩を含め、畿内の約半分を手中に収めた。
悲願の上洛を果たしたお市の方は、虎長すら成し遂げられなかった武官の最高位、『征夷大将軍』の座に登り詰めたのだった。
――南信濃大島城。
お市の方は松尾城、大島城と、南信濃の支城を次々と落とし、今は大島城へ入っている。
尾張藩の武将や冒険者の客将の指揮の元、兵の負傷は最低限で済んでおり、これら支城へ押さえの兵を置いた、三千五百余りの兵で、武田信玄の南信濃最大の拠点、高遠城を攻める事になった。
本来なら降伏した松尾城・大島城の、生存している武田兵を組み込んで兵の補充を行いたいところだが、武田勢の国人衆は一枚岩で、「無益な血は流したくない」という尾張軍の言葉に従い降伏こそしたものの、頑として尾張軍への協力は拒んでいる。
加えて、高遠城を守っているのは信玄の弟、武田信廉(のぶかど)だ。いつ離反してもおかしくない。
その為、武装を解除した上で、それぞれの支城に百五十人の兵を押さえとして置く必要があった。
「客将の一人が、大島城で“真田十勇士”の望月六郎と交戦しています。また、信濃に潜ませている者の報告では、高遠城に真田幸村殿が入られた、との事です」
「真田幸村殿が‥‥名軍師昌幸殿仕込みの戦上手なのでしょうね」
「幸村殿の高名は儂も聞いておる。こと防衛戦においては、昌幸殿に勝るとも劣らない采配の持ち主だそうじゃ」
大島城の本丸にある御殿の一室で、お市の方と軍師にして彼女の右腕の甲賀忍者滝川一益、叔父で副大将の平織虎光、虎光の軍師の丹羽長秀が、高遠城の概略図を見ながら軍議を開いていた。
一益からの報告は悪いニュースだった。高遠城の城主は信廉、その上、戦上手の真田幸村が加わったというのだ。信玄本人と甲斐藩の名だたる武将の半分は小田原城にいるが、お市の方の南信濃攻めを受けて幸村を派遣したのだろう。
高遠城は、天竜川に沿って南北に伸びる盆地、伊那谷を守る要衝の地だ。ここを制圧すれば甲斐藩は目と鼻の先になる。山の丘陵を利用して築かれており、本丸を中心にいくつかの小規模な曲輪(くるわ)が配置された縄張りになっており、正面の城門には石垣を築いているが、大部分は土塁だった。その代わりに城門へと通じる空堀は結構深く、橋が架けられている。
「曲輪へ至る勾配は急で、尾張水軍でもなければ攻めるのは難しいです。また、空掘も深い為、本丸へ続くこの橋の攻防が最大の激戦になると予想されます」
「高遠城側が橋を落とす可能性は?」
「高遠城はその立地から、橋を落とせば陸の孤島です。守りが堅くなる反面、自分達の補給路も断つ事になります。それなりに蓄えはあるでしょうけど、新しい橋を架ける時間を考えると、可能性は極めて低いです」
長秀は高遠城側が城門へと通じる橋を落とさないと予想した上で、ここが最大の激戦区になると踏んでいた。橋は幅が広くない為、三千五百の兵で攻めたとしても、ここでは攻め手の数が否応にも制限されてしまう。そこを衝かれれば壊滅する可能性もある。
「橋を攻めつつ、空堀に橋を架ける作戦が良いわね」
お市の方は防御力のある侍隊で橋を攻めつつ、機動力のある足軽隊で空堀を攻める二方面作戦を考えていた。
「それでも我が方は三千五百、高遠城側は千から千五百‥‥幸村殿がどのような策を講じてくるか皆目見当も付かないから、厳しい戦いになるわね」
お市の方は『攻撃三倍の法則』に則って考えている。攻撃三倍の法則とは、合戦で攻め手が有効な攻撃を行う為には、相手の三倍の兵力を必要とする考え方だ。
しかし、無い袖は振れないので、このまま攻めるしかない。
その時、外が騒がしい事に気付いた。何やら兵達が争っているような音が聞こえる。
「何事じゃ!」
「市!」
虎光が外で控えている兵に声を掛けるのと同時に、十六、七歳くらいの、巫女装束を纏った、赤毛のポニーテールの少女が部屋へ飛び込んできた。
「叶子(かのこ)!? あなたがどうして熱田神宮を離れてここに!?」
ここにいてはいけない人物だった。普段はこのように熱田神宮の巫女に扮しているが、叶子は熱田の杜を護る熱田神宮の祭神、神器の一つ、天叢雲剣の神霊だ。西洋ではヴァルキューレとも呼ばれている彼女が熱田神宮を離れるという事は、余程の事があったに違いない。
虎光も一益も長秀も一様に驚くばかりだ。
「市が今一番大事な時期だって百も承知だけど‥‥姫巫女を、神音を助けに行って欲しいの!」
「ちょっと待って!? 神音は熱田神宮にいるでしょ? 南信濃へ遠征に行く前だって、熱田神宮で必勝祈願をしてきたもの」
「あれは‥‥偽物なの。神音は‥‥入れ替わっているの‥‥よ‥‥」
「な、何ですって!? 一体誰が!?」
「それは‥‥た‥‥きや‥‥うぐ‥‥がぁぁぁぁぁ!?」
「叶子!? こ、これは呪詛!? 神音の事を話せないよう、叶子は呪詛を掛けられているというの!?」
熱田神宮を統べる姫巫女、藤原神音(ez1121)はお市の方の幼馴染みであり親友だ。今、熱田神宮にいる神音が偽物だという事を告げられたお市の方は半ば混乱していた。
しかも、叶子がその事に触れると、彼女は喉を押さえ苦しみ悶え始めた。志士のお市の方は魔法もかじっている。それ故、この苦しみ方が呪詛(=カース)だと分かった。
天叢雲剣の神霊に呪詛を掛けられる程の相手なのだ。神音と入れ替わる事など造作もないかも知れない。
神音の事に触れずにいると呪詛が治まり、叶子も肩で息をしながら喋れるまでに回復した。
「分かったでしょ。今まで誰も話せなかったのは、熱田神宮の巫女は全員、そいつに呪詛を掛けられているからなの。あたしは自力でようやくここまで呪詛を解いたから、市に知らせに来られたの」
「そうだったの‥‥それで場所は?」
「篠島よ」
「知多半島の先の? ‥‥待って、前に濃姉様が冒険者と小六を雇っていった事があったわよね? それと関係があるの?」
「‥‥篠島へ行って‥‥助けてくれれば‥‥全ては‥‥分か‥‥」
「分かったわ、それ以上喋らないで」
親友の偽物に義姉の濃姫が関わっているとなると、お市の方は居ても立ってもいられなかった。
「しかし、市よ、総大将のお前が不在で、高遠城攻めはどうする?」
「市を行かせる責任を取って、あたしが市に扮するわ」
事情は分かったが、目の前に高遠城攻めがある。虎光の心配ももっともだ。
そこで叶子が、自分がお市の方に扮すると言い出した。高位の精霊程多彩な能力を持つと言われているが、叶子は完璧に人間に扮する能力を持っており、お市の方の影武者にはもってこいだろう。
もちろん、ボロが出るといけないから周りの者がサポートする必要はある。また、一益がお市の方の護衛として付いていく事になった。
斯くして、総大将のお市の方が不在のまま、高遠城攻めが行われようとしていた。
●リプレイ本文
●想いを打ち明けて死地へ
高遠城を臨む伊那谷の一角に、尾張軍は本陣を構えた。周囲には松明や篝火が明々と灯り、夜陰の中に本陣を浮かび上がらせている。
「絶対に火を絶やすな」
ナイトの壬生天矢(ea0841)は配下の侍隊二百人に火の番をさせ、自身も見回りを怠らない。更に本陣の周辺には、鈴をつけた縄を数カ所張っている。相手は“真田十勇士”と真田忍軍を指揮する真田幸村だ。こちらが攻め手とはいえ、何時、襲われてもおかしくない。
それは侍の水上銀(eb7679)も同感で、指揮する尾張水軍百人を、天矢隊の更に周囲に薄く展開させ、索敵を行わせている。目には目を、歯には歯を、忍者には忍者をだ。
「動物を使うって噂だからね」
「この辺りとか狙われそうですー」
幸村は真田忍軍の他に、鳥獣部隊も指揮すると聞き及んでいる。森に強いエルフのレンジャー、アミ・ウォルタルティア(eb0503)の指示の下、本陣の後方と周囲の森に鳥獣の鼻潰しの匂い袋や動きを封じる鳥もちといった罠を数多く仕掛けさせた。また、自分も夕食の毒味をしたり、人遁の術による潜入を警戒して合い言葉を決めておき、伝令も本陣に入れる前にチェックをするなど、二重三重の防護策を張っている。
案の定、真田忍軍はかなり近くまで物見に来ており、尾張水軍も交戦こそ避けたが、一触即発の状況が続いた。
「本当に叶子、だよな?」
「クロウはくどいわね。さっき、行ってらっしゃいのキスをしたばかりじゃない」
「私だって分からないし、クロウにも見分けが付かなければ、敵にも分からないはずだよ」
本陣では、レンジャーのクロウ・ブラックフェザー(ea2562)が何度目かの同じ質問をお市の方こと平織市(ez0210)に変身した天叢雲剣の神霊叶子(かなこ)にして、彼女とレンジャーのミリート・アーティア(ea6226)に半ば呆れられていた。
「叶子殿。初めてお目に掛かる。高町恭也という。よろしく頼む‥‥」
「お手伝いする以上は頑張りますですー」
お市の方と付き合いが長いクロウや親友のミリートですら見分けが付かないのだ。共に戦場を駆け抜けてきたジャイアントの神聖騎士ネフィリム・フィルス(eb3503)やジャイアントの志士、風雲寺雷音丸(eb0921)、ジャイアントの侍ボルカノ・アドミラル(eb9091)にも分からないし、まして浪人の高町恭也(eb0356)やジャパン研究の一環で合戦の手伝いにきたアミにはどう見ても平織市本人にしか見えない。
「余程、市サンの癖とか知ってる者でもなければ、先ず、見破られないさね」
「市と久しぶりに色々と話したかったんだけど、やるべき事があるなら仕方ないね」
(「神霊の叶子さんでも敵わない程の相手だ‥‥お市さん、無茶しないでくれよ」)
ネフィリムがうんうんと頷く傍らで、ミリートの言葉に、クロウはお市の方を見送った時の事を思い出した。
『いざという時には俺達を頼ってくれればいい。だから無事俺達の‥‥いや、俺の元に戻る事を第一に考えてくれ』
『ええ。必ずクロウの元へ戻ってくるわ』
あの時は人目など気にせず、クロウはお市の方の唇に唇を重ねていた。お市の方もそれを受け入れ、二人は長い長い口付けを交わし、彼女は後ろ髪に引かれる思いで片腕の滝川一益と共に篠島へ向かった。
冷やかす者は誰一人いない。むしろ、ようやく落ち着くところに落ち着くか、と温かく見守っている。
「‥‥これが終わったら、市殿の花嫁衣装について少々お話が‥‥」
「うむ、市の花嫁衣装は儂が買おう」
天矢と、感涙をうっすらと浮かべていたおじの平織虎光はそんな遣り取りを交わしていた。
『師匠お気を付けて‥‥それから、それから‥‥大好きです。帰ってきたら、私の王子様になって下さい』
『ルンルン殿‥‥』
『ごめんなさい。とても危険な場所に師匠が行くんだって思ったら、この気持ち抑えられなくて‥‥でも、本気ですから‥‥!? あ‥‥』
『拙者も師弟を越えてはいけないと思っていたでござるが、ルンルン殿の想いに応えたいでござる』
ハーフエルフの忍者ルンルン・フレール(eb5885)もまた一益に想いを打ち明けていた。一益は彼女のか細い身体を抱き締めて想いに応え、花の髪飾りをお守りとして借りていった。これを返す為にも生き延びる、と。
「みんなの邪魔はさせない! 今日の私は絶対無敵なんだから‥‥ルンルン忍法、分身の術!」
夜明けの少し前、ルンルンは尾張水軍二十人を率いて動き出し、敵の策を探りながら真田忍軍の迎撃に当たっていた。バイブレーションセンサーやブレスセンサーの巻物に愛犬Hi−ビスカスの鼻も駆使し、真田忍軍や伏兵を探すと、真田十勇士の一人、望月六郎もまた、真田忍軍を率いていた。
曲輪を巡る攻防が続き、一人、また一人と、尾張水軍、真田忍軍が倒れてゆく。ルンルンはアッシュエージェンシーの巻物で分身を造り出し、大ガマの術でパックンちゃんを呼び出して、必殺の三位一体攻撃を仕掛け、何とか六郎の攻撃を凌ぐが、お互い、消耗戦を避ける為、撤退していった。
●高遠城決戦
(「真田の人達と、か。昔、昌幸おじちゃんに会って以来かな‥‥でも、手加減無用だね。じゃないとすぐにやられちゃうや」)
ミリートはブレスセンサーの巻物を広げながら、真田昌幸と会った時の事を思い出していた。
「名将真田幸村が相手ならば不足はない。持てる力を存分に叩きつけてやろう。この南信濃に我らの武名を刻み込むぞ!」
ミリートが大まかな敵の配置を把握し、虎光へ報告すると、夜明けと同時に進軍の号が下る。雷音丸の咆吼が彼の侍隊二百二十五人を始め、尾張軍全体に轟いた。
「(流石は天叢雲剣の神霊。眼に一点も曇りも隙もない)我々にお任せを‥‥市殿。くれぐれも真田にはご注意を。さぁ、最後の大仕事だ。気合いを入れていくぞ」
「そろそろ開戦か‥‥それでは俺たちも行くとするか‥‥」
天矢が叶子と虎光に挨拶と助言をすると、戸板を矢避けの盾代わりに、法螺貝を派手に鳴らしながら先陣を切る雷音丸隊の後に、恭也隊五十三人の侍と、ボルカノ隊三十五人の足軽が続く。
「城攻めには守り手の三倍の兵力が必要というが、何、足りない分は、我が隊が三倍の働きをすれば済む事だ」
ミリート隊十九人の弓兵と、クロウ隊七十人の弓兵が援護射撃を行う中、雷音丸はスモールアイアンゴーレムの巌鉄丸と埴輪の玉砕丸をお供に、自ら動く壁となって先頭を走り、城門へ通じる空堀に架けられた橋を突破してゆく。
ミリートは隊を二部隊に分け、射撃・番えを間断無く行わせ、支援を続けている。
その間、クロウ隊三十人が、矢に縄を繋いで空堀の向こう側へ打ち込み、堀の間に一定間隔で縄を張り巡らせると、縄に巻物でアイスコフィンを掛けて固定し、恭也隊と協力してその上に板を載せていく。
また、ネフィリム隊二百人の弓兵は二隊に分け、前面に矢避けの盾を並べて矢除けを展開しつつ、交互に斉射を行い、土塁を守る敵兵を倒してゆく。合わせて四十人の工兵が、使用済みの米俵に土を詰めた土嚢を次々と空堀へ転がし、埋めてゆく。
更に、ボルカノ隊が長い橋を三個に分けて持ち運びやすい組み立て式にし、足軽を分散させて七、八カ所に橋を架けて同時に進攻してゆく。
しかし、高遠城の土塁や城壁の後ろ、多くの曲輪にいる弓兵の攻撃も半端ではない。長時間の矢の射撃に持ち堪えられる網籠状の矢避けの盾を構えたボルカノ隊の足軽が、一人、また一人と矢を受け倒れてゆく。それは雷音丸隊も恭也隊もクロウ隊もネフィリム隊も同じ状況だった。
しかも、高遠城側は城門を固く閉ざし、籠城の構えを見せている。いち早く、あっさり橋を渡りきった雷音丸が野太刀「物干し竿」でバーストアタックを、ボルカノが大身槍「御手杵」でスマッシュEXを繰り出すが、なかなか破壊できない。
「待ち伏せですか!? 全員、槍ぶすまに備」
やっとの事で城門を破壊すると、そこには弓兵と長槍を構えた足軽が控えており、弓兵の援護射撃の中、槍ぶすまを仕掛けてきて、ボルカノの言葉はかき消されてしまう。
雷音丸と巌鉄丸は凌いだが、玉砕丸と氷晶の小盾で受け流すボルカノは城門の外へ押し返されてしまい、雷音丸達だけが敵陣に取り残されてしまう。
「このままでは雷音丸隊が総崩れしてしまう。この橋は皆が渡り切るまでは死守させてもらう‥‥橋を壊したくば俺を倒してから行くのだな‥‥」
宝剣「マッネ・モショミ」と鬼神ノ小柄を構える恭也を始め、恭也隊が橋を死守し、クロウ隊とミリート隊、ネフィリム隊が援護し、総崩れを防ぐ。ミリートもシューティングPAで優先的に小隊長クラスを狙撃し、敵の統制を乱していった。
「雷音丸も数で圧されては長くは保たんだろう‥‥少し早いが、天矢隊突撃! 敵兵は一人も逃すな!!」
愛馬黒華に騎乗した天矢が動く。第一陣の後ろに待機していた彼は、名剣「ブラヴェイン」を掲げると、恭也が確保している橋を一気に渡り、槍ぶすま目掛けて突撃を仕掛けた。
敵の圧力が和らいだ隙に、ボルカノと合流した雷音丸は、二人の隊を生き残りを合わせて再編成し、天矢隊の後に続く。
「雑魚には構わず大物を探すんだ‥‥頭を潰せば戦いは終わる‥‥高町流小太刀二刀‥‥参る!」
「狙いは馬に絞って。土台を崩して上の人を落としちゃえ!!」
恭也隊、ミリート隊、クロウ隊、ネフィリム隊も彼らの後に続き、二の丸で待機していた騎馬隊と突撃合戦を行っている天矢隊を援護した。
「撃つですー!」
その頃、本陣前では、アミ隊十二人の弓兵と銀隊が、直接本陣を狙ってきた真田忍軍と幸村と交戦していた。
銀隊は本陣周囲に三重に布陣し、一重は広く薄く、二重はやや厚く‥‥五人一組で守りに徹し、時間を稼ぎ、疲弊させるのが狙いだ。
また、アミ隊は弓兵の装備を長弓へ変え、次に撃つ矢を準備する隙を作らないよう、十二人を三人一組、い・ろ・は・寿の四組に分け、銀隊の真後ろ、本陣の直前に配置していた。また、寿組には敵の奇襲に備えて、一人ずつ左右と背後の三ケ所を警戒していた。
「少数で大将を狙ってきそうだよね。忍びに撹乱させた上で、幸村本人がさ。危ないのは、こっちが勢いに乗りかけた時かな」
「私の策が見破られるとは、まだまだ父上には及ばないですね」
幸村が率いる真田忍軍は約百人、数の上ではほぼ対等だが、六郎もこちらに出張っているので、やや圧され気味だ。
銀は幸村の初太刀を戦扇子で受け流し、二太刀目を小太刀「陸奥宝寿」で受け、鍔迫り合いへ持ち込む。彼女の太刀筋は達人級だが、如何せん見切りが弱い。幸村の攻撃に防戦一方になっていた。
アミが援護しようとするが、六郎の火遁の術に阻まれ、自分を守るのが精一杯だ。
虎光を後方に下がらせると、叶子が太刀で斬りつける。その軌道は幸村を下がらせる程だ。幸村の斬戟は叶子を傷付ける事はなかった。
「我らには熱田大神(あつたのおおかみ)の加護が有る!」
叶子はクロウの助言通り、凛とした声で健在ぶりを見せ付けると、アミ隊と銀隊の士気も高まった。
「一気に畳み掛けるですー」
アミも銀もこの機を逃すつもりはなかった。
ルンルンのライトニングサンダーボルトによる援護もあって持ち直した雷音丸は、ポイントアタックEXで物干し竿の一刀の下に敵兵の首を刈り、佐々木流の真髄を見せ付ける。その横ではボルカノが御手杵を振るい、恭也がダブルアタックで手数を増やし、道を切り開いてゆく。
そこへクロウ隊とネフィリム隊、ミリート隊が援護射撃を行い、綻びが出来たところへ天矢隊が斬り込み、天矢自らスマッシュとソードボンバーで足軽や侍達を吹き飛ばし、既に戦端は本丸にまで達していた。
「視界に入ったのがアナタの不運。これでサヨナラ! Bye−byeだよ!!」
ミリートが大将の武田信廉(のぶかど)を狙撃し、足止めする。そのまま追撃したいが、そこは大将、たちまち守りの兵に囲まれ、手数が足りず、切り崩す事が出来ない。
「平織市が親衛隊、母衣衆のネフィリム・フィルス、参るさね」
ウィングシールドに秘められたフライで、守りの兵を飛び越えたネフィリムが、ジャイアントクルセイダーソードを振るう。その切っ先は信廉の太刀を叩き割る程だ。彼は直ぐさま小太刀を抜き、ネフィリムに反撃した。
「邪魔はさせん」
守りの兵は天矢達が受け持ち、ネフィリムと信廉の一騎打ちは一進一退を続けたが、最後には傷だらけになりながらもネフィリムが勝利した。
信廉が倒された事により、高遠城は陥落した。幸村と六郎、そして真田忍軍は撤退していった。
尾張軍は総兵力の五分の一の死傷者を出したが、南信濃を手に入れた。
(「お市さん‥‥どうか、無事でいてくれ‥‥」)
叶子と虎光が高遠城へ入り、天矢が、ミリートが、恭也が、アミが、雷音丸が、ネフィリムが、ルンルンが、銀が、ボルカノが勝ち鬨の声を挙げる中、クロウは自分の指に填めた彦星の指輪を見ながらお市の方の無事を祈っていた。
●第六天魔王虎長
お市の方と一益は、知多半島の先端にある篠島へ上陸した。手付かずの森が広がる中、果たしてそこに草木に埋もれるように熱田神宮を統べる姫巫女、藤原神音(ez1121)の石像があった。長い間ここに佇んでいたようで、苔生した全身が、呪詛に苦しむ表情と仕草と相まって痛々しい。
しかし、そこにはもう一人の神音がいた。一年以上、神音に成りすましていた女性だ。
彼女は平滝夜叉と名乗り、この地に長い間封じられていたが濃姫に封印を解かれて協力していた事を告げる。彼女の呪詛がお市の方を苦しめたが、一益の援護で、お市の方は滝夜叉を倒した。
滝夜叉が倒れた事で、神音に掛けられていた呪詛が解け、お市の方は彼女の苔生した身体を洗い清めてからコカトリスの瞳で生身に戻した。
「熱田大神は本当は叶子ではありません。かつて、ジャパンを支配しようとした第六天魔王の魂なのです。それを熱田大神と名を変え、叶子と代々の藤原家が守っていました」
一年ぶりに再会した親友から、衝撃の事実が告げられた。
濃姫は熱田大神の力で虎長が蘇ると信じて、その封印を解いたという。
「じゃぁ、虎長お兄様は‥‥」
「確かな事は私にも‥‥ですが、魔王の力で蘇ったものが果たして虎長様ご本人とは限りません」
混乱したお市の方は急いで高遠城へと戻る。そこで冒険者から大聖堂の真実を聞かされた彼女は、虎長と戦うことを決意する。
「お市、狂したか‥‥」
延暦寺の乱の後、虎長は第六天魔王を自称していたが、今度は平織市が「兄虎長は悪魔である」と告発した。平織家は大混乱に陥り、事実上、岐阜城の虎長と那古野城の市に二分される事となる。
魔王を倒さない限り、ジャパンに平穏は訪れない。“征夷大将軍”の本当の戦いはこれから始まるのだ。