人を襲うトレント!?

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜07月30日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

 キャメロットの中央を流れるテムズ川を挟んだ南東に広がる冒険者街の一角に、その冒険者の酒場はあった。
 夕暮れ時には冒険者達の他に、商人や庶民など、仕事帰りの者達でごった返していた。

「痛ちち‥‥」
「何だ、お前も守り神様にやられたのかよ?」
 あなたが夕食を採ろうとテーブルに座っていると、向かいのテーブルに狩人の出で立ちをした二人の男性が座っていた。
 見ると二人とも、そこかしこに切り傷や擦り傷を負っていた。
 まるで藪を駆け抜けてきたような傷痕だった。
「ああ、森の奥に入ろうとしたら枝でザックリとな」
「やれやれ、森の守り神様はどうしちまったのかねー。ここんとこご機嫌斜めのようだ」
 どうやら守り神というのはトレントの事のようだ。
 思わず聞き耳を立てたあなたは首を捻った。
 あなたもトレントの事は多少は知っていた。あの狩人達が“森の守り神”と崇めているように知性を持った樹木で、森を荒らそうという不届き者には容赦なく攻撃してくるが、本来は温厚な性格の筈だ。
 もちろん、彼らのような森の恵みで生活している地元の狩人が、トレントの怒りを買うような事をするとは考えにくかった。
 興味を覚えたあなたは狩人達に話し掛けた。
 狩人達は最初は驚いたが、あなたが冒険者だと知ると席に迎え入れた。
「見ての通りさ。最近、守り神様が俺達狩人を襲うようになってな、森の奥に狩りに行けなくて困ってるんだ」
「俺達は森は荒らさないようにしているし、守り神様の機嫌を損ねる事をした覚えはないんだけどな」
 狩人達もトレントに襲われる原因は全く分からないようだ。
 トレントが森の奥へ行かせないようにしていると思えたあなたは、森の奥に何があるのかを聞いた。
「良い狩り場があるんだが、他には‥‥奥にある洞窟に、でっかいトカゲが棲み付いたくらいか?」
「ああ、あの6本足で岩みたいな鱗のトカゲか。外見は怖ぇけど、驚かさなけりゃ害はない奴だよな」
 狩人達は大きなトカゲの事を口にした。彼らは知らないようだが、その容姿からドラゴンらしかった。
「そういえば、少し前に卵を産んでたって話を他の奴から聞いたな」
「あんな大きなトカゲの卵なら、結構高く売れそうだけどな」
「止めとけよ。子供を狩ったら数が減るだろ」
「冗談だよ‥‥でも、最近はそのしきたりを守らねぇ奴がいるんだよな」
 地元の狩人達は昔からのしきたりで、できるだけ子供は狩らないようにしているという。
 しかし、新しく入ってきた狩人達はそんなしきたりは気にせず、乱獲しているらしかった。
「あんた、冒険者だろ。調べてくれないか?」
「報酬はあまり払えないが、食事でよければ用意するぞ」
 狩人達はあなたに原因究明を依頼してきた。

 地元の人も含めて森に立ち入れさせないトレント。
 森の奥の洞窟に棲み付いたというドラゴンと卵。
 そしてしきたりを守らない新しい狩人達。

 この辺りにトレントが人を襲う理由が隠されているようだ。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0435 ティル・レギン(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4554 ゼシュト・ユラファス(39歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●騎士と狩人の考えの相違
 トレントが守り神になっている森を狩り場にしている地元の狩人達に、ゼシュト・ユラファス(ea4554)とルーラス・エルミナス(ea0282)が会合を開くから集まるよう声を掛けた。
 狩人達は狩りの準備等をする、公共の交流の場である森の近くの広場に集まった。
「此方は余所者とはいえ騎士‥‥奴等も無下に聞き捨てる事はなかろう」
「‥‥森と狩人達の調和を護る為に、狩人を説得するのは分かりますが‥‥少し強引ではないですか?」
「要は奴等に自己責任を認識されられればいいんだよ(元を正せば奴等のエゴだろう? それも解らぬ愚民共は、命令されるくらいが丁度いいのだ)」
 ゼシュトとルーラスは騎士として狩人達に招集を掛けたのだ。ルーラスもゼシュトの考えには賛成だったが、集まった狩人達を見下すような青い瞳に一抹の不安を感じていた。
 その不安はある程度は当たっていたかも知れない。ゼシュトは実際に心の中で冷笑を浮かべながら、狩人達を見下していたのだから‥‥。
 ゼシュトの考えはあながち間違ってはいなかった。騎士は貴族の最下級の地位にいるとはいえ、基本的に庶民は敬っているからだ。但し、これは権力への無条件の隷属ではなく、強い者(=貴族)に保護してもらう代わりに労働力を提供する、ギブ・アンド・テイクの関係だ。
 このような考えは農民に多いが、狩人達は彼らとはまた違う事をゼシュトもルーラスも失念していた。
「‥‥いきなりだが、お前達には我々の要求を聞いてもらいたい‥‥自分達で自警団を作る気はないか? 今回の件はお前達にも責任があるようにしか思えん。現にお前達は森を荒らすならず者達を野放しにしている。トレントはお前達を信用してはいまい。先ずは誠意を見せろ‥‥我々は仲立ちでしかないのだからな」
「新しく入ってきた狩人の為に、今まで守られていた森とあなた達狩人との調和のバランスが崩れたのなら、自警団による自衛でバランスを回復する必要があると思います。このまま新しい狩人を放置しておけば森との対立は深まるでしょうし、新しい狩人達のやり方を真似る者が増え、最後には森を食い潰す恐れがあります。暗黙のルールだったものを明確にした正式なルールとする事と、自警団を作る事で、森との調和を守るべきだと思います」
 先ずゼシュトが説得の口火を切り、その言葉を受けてルーラスが続けて意見を述べた。
 狩人達は自警団を組織していたが、あくまでモンスターから狩り場を守る為のものだった。また、ルールはあくまでしきたりであり、その土地で狩りをする師匠が弟子に、仲間が仲間に教えるだけだった。
 狩人達はルーラス達の言葉で自分達で立ち上がり、しきたりを明確に打ち立て、自警団はその為に人間も相手にする事を決めたようだ。

●トレントの真意
 木々が鬱蒼と生い茂り、木漏れ日が差し込む明るい森の中の獣道を、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)達は歩いていた。
 ティアイエルは愛用の横笛を取り出すと、静かに吹き始めた。トレントは棲む森の全てを知っているといわれ、森に一歩足を踏み入れた時から見られていると思い、自分流の挨拶をしたのだ。
 夜桜翠漣(ea1749)とティル・レギン(ea0435)は、ティアイエルの優しい旋律に耳を傾けながら森を観察していた。翠漣はよく狩猟をするし、ティルも貴族の娯楽として狩りをしていた。だからこそこの森の良さが分かった。
「話し振りからすると、大きなトカゲ程度の大きさの、産卵直後のドラゴンらしいが‥‥正直なところ、そんな相手に近付きたくないぞ」
 一方、ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は狩人達から聞いた大トカゲの正体を、ドラゴンだと予想した。
 モンスターの事を知っている者ならドラゴンの名を聞かない者は居ない程、メジャーな、そしてジ・アース最強のモンスターだ。とはいえ、ドラゴンにも様々な種類がいる事から、ツウィクセルの知識ではどのドラゴンかまでは特定できなかった。
『エルフの娘よ、心地好い音色をありがとう』
 その時、ティル達の耳に老人の声が聞こえてきた。目の前にある樹齢百年は越える巨木、これがこの森の守り神トレントだった。
「わたしも仕事の関係で狩りをします。森の神聖さ、恐ろしさは知っているつもりです。そして森の恩恵を受ける者として、わたし達も力になりたいのです。事情が分かるように話を聞かせて下さいませんか?」
「何故、地元の狩人達にも攻撃を仕掛けるのか‥‥ここに住む者にも問題があるのか?」
「森の奥に行かせないのは、地元の狩人達を守る意味もあるんじゃないかと思ったの。母ドラゴンは卵を守ろうと神経が過敏になっているだろうから、誰でも容赦なく敵と見なして、攻撃してくるから大変‥‥だからじゃないかなと思ったの」
 翠漣とティルが質問した後、ティアイエルが自分の推測を述べた。
『‥‥だが、それだけではない』
 トレントはティアイエルの推測が翠漣とティルの質問の答えだと告げた後、最近やってきた新しい狩人達について触れた。
「奴らは盗賊だというのか!? なるほど‥‥狩るにしてもそれなりのルールがあるからな」
「狩りのしきたりは多少の違いはあるが、根本的な事はほとんど変わらないからな。それを守らない時点で、なりたてか冒険者崩れと思ったが‥‥大方、ドラゴンの噂をどこかで聞き付けて、さっさと卵を盗って売ってしまおうと考えたに違いない」
 ティルとツウィクセルはトレントの説明で合点がいった。新参者とはいえ、ただの狩人ならトレントもそうそう攻撃しないからだ。
「わたし達の仲間が、その母ドラゴンを守りに向かっています。わたし達もこれから向かいます」
 翠漣は、一足先に母ドラゴンの元へ向かっている時雨桜華(ea2366)とルクス・ウィンディード(ea0393)の外見を告げると、ツウィクセルとティルと共に森の奥へと急いだ。ティアイエルはゼシュト達を待つ為にここでお留守番だ。
「‥‥今回の件、お互い言葉が足りなかったようだな」
 ティルはトレントにきつい一言を残していった。その後、トレントの葉が揺れたのは、苦笑したからかも知れなかった。

●フィールドドラゴン!
「‥‥覗き、か。綺麗なねぇちゃんだと、もう少しやる気も出るだろうによぉ」
「分かんねぇよ。あのドラゴン、もしかしたらドラゴンの中では美女かも知れないぜ?」
 桜華とルクスは、そんな事を話しながら母ドラゴンの様子が伺える近くの茂みに身を潜めていた。母ドラゴンは身体を丸め、5、60cmはある大きな卵を温めていた。
 翠漣達のトレントへの交渉が成功したようで、桜華達がこの場所に来るまでの間、障害らしい障害はなく、ルクスが森に明るい事もあって、強硬突破を考えていた桜華からすれば少々拍子抜けだった。
 洞窟に棲んでいる母ドラゴンは、フィールドドラゴンと呼ばれる比較的大人しいドラゴンで、人が騎上する事もできた。
「確か、800Gの値が付いていたよな‥‥」
「まぁ、ドラゴンライダーに憧れる冒険者も多いからな。しかし、人類ってのは本当‥‥何も考えちゃイネェなぁ‥‥」
 桜華がエチゴヤでの売値を思い出し、ルクスが母ドラゴンの必死な姿と人の欲望を秤にかけて呆れた時、二人とも人の気配を感じた。
 ルクス達とは別の方向からレンジャーらしき人影が見え隠れした。新しく来た狩人達だろう。その数は桜華達の4倍はいた。傷だらけの所を見ると、トレントの攻撃を強硬突破して来たようだ。
 レンジャー達は洞窟の入り口を取り囲んだ。何人かが囮になり、その隙に卵を奪うようだ。ツウィクセル達はまだ来ていないが、四の五の言っている余裕はなかった。
「森の雇われ妖精です‥‥なんてねぇ!」
 桜華は茂みから飛び出すと一気に間合いを詰め、レンジャーの背後から金属拳で殴りつけ、そのまま日本刀で斬り伏せた。ルクスはスピアで突き掛かり、レンジャーが放った矢はスピアを旋回させて叩き落とした。
「間に合ったようですね! ‥‥原因のわたし達が何を言っても信じてもらえないかも知れませんが、だからこそ守る事で責任をと思います!!」
 そこへ翠漣とティル、ツウィクセルが駆け付けた。
 翠漣は猿惑拳を繰り出してレンジャーを叩きのめし、疎かになる防御はティルがきっちりと背中を守り、クレイモアを振るった。
 我が子を守る為に立ち上がろうとしていたフィールドドラゴンは、翠漣の言動が通じたのか、伏せて再び卵を温め始めた。
(「これで母ドラゴンから盗賊達を逃がす必要はなかったが、卵を守る為はといえ、産卵直後の母親ドラゴンにはあまり近付きたくないものだな」)
 ツウィクセルは自然とフィールドドラゴンから一番遠い位置取りをし、援護射撃に徹していた。
「貴方達の行動はこの土地のルールを侵し、この地に住む人の暮らしを脅かしています。即刻立ち去って下さい」
 更にルーラスとゼシュトが自警団を連れて来ると、立場は完全に逆転した。
 ルーラスはパワーチャージで盗賊を転倒させて捕らえ、ゼシュトは容赦なくソードボンバーを放って盗賊を吹き飛ばし、その隙に狩人達が捕まえていった。
 8人いたレンジャー崩れの盗賊達は、全員、捕らえられたのだった。

●孵化
 そこへ留守番をしていたティアイエルが、トレントに行くように言われてやってきた。 
 すると、母ドラゴンが温めていた卵がピクピクと小刻みに動き始め、その表面に亀裂が入っていき――。
『キャ‥‥キャアキャア! キャアキャア!!』
 思わず耳を塞ぎたくなるような甲高い元気な鳴き声と共に、フィールドドラゴンの仔が孵化したのだ。
 体長はまだ50cm程だが、既に母ドラゴンと同じく緑褐色の肌をし、後頭部に2本の可愛い角が生えていた。
「フィールドドラゴンの仔が‥‥生まれたよ♪」
「ええ‥‥ちょっと元気過ぎますけど」
 ティアイエルと翠漣は手に手を取って喜んだ。
「あれの真価が解らぬ者に‥‥生きる価値など無かろう」
「‥‥ま、このシーンが感動できないのは悲しい事だな」
 役人に引き渡す事が決まった盗賊達に、ゼシュトとルクスは哀れみの表情を向けた。
 狩人達はティルやツウィクセルの手を取ってお礼の言葉を述べ、この森で採れた獲物で作った保存食を報酬として渡した。
「あの仔竜はアースガルドと名付けましょう。森の一員ですからね」
「アースガルドか‥‥森は静かな方がいいしな。しっかり守れよ、狩人の諸君!」
 ルーラスはフィールドドラゴンの仔に名前を付け、桜華はそれを目標に森を守るよう狩人達に告げた。

 この森は冒険者に依頼をしなくてもいいよう、これから狩人達が守っていく事だろう。
 そしてその様子をトレントとアースガルドが静かに見守るのだった。