【高耶・七】うなぎの蒲焼きを食べよう!
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜07月31日
リプレイ公開日:2004年08月04日
|
●オープニング
「豆腐〜、召せ〜、ジャパンから登りて候〜! 豆腐〜、召せ〜、ジャパンから登りて候〜!」
今日も暮れなずみ始めたキャメロットの市民街に、元志士・仁藤高耶の威勢の良い豆腐を売る声が響き渡り、両天秤の前後に丸い桶を吊るし、それを肩に担いだ彼女が颯爽と駆けていった。
「くっ!? ‥‥早くも夏ばてか!?」
その日、高耶は長屋に帰った途端、気が抜けたのか土間に崩れてしまった。
幸い、両天秤にも丸い桶にも損傷はない。せいぜい、膝を擦り剥いた程度だった。
自分の身より、豆腐の方を気に掛けてしまうのは高耶らしかったが。
「情けない‥‥これではワサビを採りに行けんではないか‥‥」
イギリスの夏は緯度や海流の関係でジャパンに比べれば涼しく、過ごしやすい。
とはいえ夏には変わりなく、また、慣れない異国での生活が知らず知らずのうちに疲労となって蓄積されていたのかもしれない。
立ち上がる高耶の脳裏に閃く物があった。
「この時期の精の付く食べ物といったら‥‥うなぎじゃなv」
次の日の早朝、市場に高耶の姿があった。
イギリスは島国という事もあって、ジャパンと似ている食べ物が多かった。
魚を好んで食べるのも、その一つだろう。
「エゲレスでもうなぎが捕れると聞いていたが‥‥」
「アンギラ・アンギラかい? それともエレクトリックイールかい?」
ウナギが水揚げされていない事から高耶が市の者に訊ねると、思わぬ答えが返ってきた。
「この辺りでは雷電うなぎが採れるのか!?」
「キャメロットからちょっと外れるけど、エレクトリックイールが棲んでる沼地があるよ」
エレクトリックイール(雷電うなぎ)は名前の通り、身体に帯電し、縄張りに侵入したり、獲物を捕らえる時に電気を放出するうなぎの事だ。
下手をすれば感電して気絶してしまう程危険な相手ではあるが、その大きさは普通のウナギの比ではない。
一緒に採りに行った冒険者にも充分振る舞えると高耶は思った。
高耶は市場を出たその足で冒険者ギルドを訪ね、一枚の依頼書を貼った。
『うなぎの蒲焼きを食べたい同士求む!』
●リプレイ本文
●蒲鉾→蒲焼き?
昼間でも暗い森の中、ユイス・アーヴァイン(ea3179)はほくほく顔で仁藤高耶から借りた鉈で草木を切り開き、微かに残っている獣道を確保していた。
「イールさん‥‥食べるの久しぶりです。それに蒲焼きっていうの食べた事ないですから、とっても楽しみです」
「鰻ね‥‥国でも食べるといえば食べるけど、カバヤキって何かしら‥‥?」
「イールのカバヤキは話には聞いた事がありますが、どんな味でしょうね。僕は肉より魚が好きですし、ジャパン食に興味があるので楽しみです」
ユイスの横では青龍華(ea3665)は修行の一環とばかりに、金属拳を着けた手刀で木々を薙ぎ払っていた。龍華の後ろではルイ・ガーディエンス(ea1820)が知識を活かして切りやすい草を見極め、ダガーを振るっていた。
「蒲焼きは‥‥ジャパン独自の鰻の食し方らしいな」
「鰻を捌き、醤(タレ)を付けて串焼きにする時の形が、蒲鉾に似ているから蒲焼きと呼ばれているのじゃ」
ジャパンの事を一切憶えていない閃我絶狼(ea3991)だが、うなぎの蒲焼きを思い出そうとすると、自然と唾を飲み込むのは何故だろう‥‥。
高耶が龍華やルイに、身振り手振りを交えて蒲焼きを説明した。
「精が付くから、私も鰻を食べたいところだったの。兄さんが昔教えてくれた雷電鰻の採り方が、イギリスの地で役に立つとは思わなかったけどね」
「僕も国にいた時はよく食べたなぁ、ととっても懐かしくなりました。好きだったんですよ‥‥特に醤付きご飯が」
御山閃夏(ea3098)はジャパンの実家に居る(はず)の兄から教わった雷電うなぎの採り方を思い出し、沖田光(ea0029)は息が上がっている高耶に肩を貸した。
「かたじけない」
「高耶さんは夏ばてで疲れているのですから、遠慮しないで下さいね。昔、よく父上に言われたんですよ、他人は、特に女性は労ってあげなさいって」
高耶は夏ばての身体を押してサーチウォーターを使い、雷電うなぎ(エレクトリックイール)が棲むという沼地を探していたのだ。
高耶が気を遣わないよう光は微笑んだ。
「あの醤を掛けたご飯は美味しいですのね♪ 鰻自体はあまり得意じゃないですけど、あのご飯は大好きだから楽しみですのね♪」
「カバヤキはライスに乗せて食べるのだな‥‥ところで理雄、覚えたてのイギリス語を無理に喋る必要はないぞ」
「文字も読めるようになりましたし、丁寧語も使えるようになりましたのね。でも、ウチが喋ると、シーヴァスのようにみんなジャパン語でいいと言いますね」
神薙理雄(ea0263)はうなぎの蒲焼き自体より、その醤の染み込んだご飯が好きな方だった。このご飯が好きという方も多いはず。
シーヴァス・ラーン(ea0453)はうなぎの蒲焼きの通の食べ方を聞き、益々興味を覚えた。同時に気になった理雄の言葉遣いにさり気なく釘を差したが、ジャパン語からイギリス語へ翻訳する際、ズレている事に気付いていないのは理雄本人だけのようだ。
●感電する人が居なくて残念だったり‥‥
絶狼達が雷電うなぎの棲む沼地を探し当てた時には、辺りは薄暗くなり始めていた。
ユイスと絶狼、閃夏と理雄がキャンプの準備をし、龍華と高耶が夕食を作っている間に、ルイと光、シーヴァスが沼地を調査した。
「イールは夜行性ですから、漁の時間としては丁度いいですね」
「帯電している様子から、居場所を特定できないかと思ったのですが‥‥」
「獲物がいなければ放電しませんから、普段は普通のイールと変わらないのですよ」
ルイが水棲昆虫を採る横で光が沼の中を覗いたが、雷電うなぎが居る事自体分からなかった。ルイがスタッフで沼の水深を測ると、少なくとも光の身長の半分以上はあった。更に濁っているのだから早々は分からないだろう。
「漁用の網を高耶に用意してもらったが、沼全体に満遍なく配置するのは難しいな」
ルイが雷電うなぎの居そうなポイントを何カ所か指し示すと、シーヴァスはその足場の安全を確認し、如何にして網を仕掛けるか思案した。
龍華の手料理で鋭気を養ったユイス達は、それぞれ雷電うなぎを採る準備を整え、松明やランタン、ホーリーライトの光源を携えて沼のあちこちに配置に付いた。
「もう一度、手順を確認するよ」
閃夏は夕食の時に話した雷電うなぎの採り方を、繰り返し全員に話した。
閃夏とユイス、光と理雄は、ロープの一方の端を地面に突き立てた金棒やスコップに結び付け、もう一方の端に拾った石や砥石を錘としてしっかり結び付けたものを持っていた。
絶狼と高耶はいつでも魔法が詠唱できるよう身構え、シーヴァスと龍華は漁用の網を広げて待機した。
「ではイールを誘ってみましょうか。皆さん、明かりを少し下げてくださいね。警戒されてしまいますから」
先ずルイが昼間捕まえた水棲昆虫を雷電うなぎが居るであろうポイント毎に放り、撒き餌とした。
すると数カ所で雷電うなぎが水棲昆虫を食べ、水面が激しく揺れた。
「目標は絶狼さんの近くに絞りましょう。一射目は直撃させて感電しないようによく見てから投げて下さいね」
「ちょっと悪い気しますけど、オイシイモノの為です。頑張りますよ〜」
光は注意を促すと、ユイスと一緒に沼に思いっきり叩き付けるように錘を放り込んだ。次の瞬間、暗い上に濁っている水面でも雷電うなぎの全貌がはっきりと分かる程の稲光が迸り、放電はロープを伝って地面へと流れた。
今度は閃夏と理雄が錘を投げ入れ、同じ事を繰り返した。
こうして無駄に放電させる事で、疲れさせるのが狙いだった。
「雷電鰻もそろそろ疲れてきたようだし、俺の出番だな‥‥行けェ! ローリンググラビティー!!」
放電の間隔が長くなり、捕まえる頃合いとなった。
ルイと高耶がウォーターコントロールで沼の水深を下げ、絶狼がローリンググラビティーをその部分に掛けて重力を逆転させた。
「9m上空からの落下であれば衝撃も大きい。落下の瞬間に張っている網を緩めて、衝撃を吸収させるのだ」
「任せて! 大切な食材だもの、傷つけないよう息を合わせる腕の見せ所ね」
落下してきた雷電うなぎを、シーヴァスと龍華がタイミングよく網で受け止めた。相手の呼吸を読み、阿吽の呼吸を合わせるのは格闘家たる龍華の十八番だった。
「放電できなくなったとはいえ、まだまだ活きがいいですのね。少しは大人しくするのですのね!」
網の中でもがき、女々しく弱々しく放電する雷電うなぎを、ぬめり対策で手に塩を塗った理雄が掴むと、鰓の下辺りを強く握って大人しくさせた。
シーヴァス達はこの調子で、沼に入る事なく安全に雷電うなぎを5匹捕まえたのだった。
●鰻料理づくし
光は香ばしい味噌の薫りに釣られて毛布から抜け出した。夜通しで雷電うなぎを採ったので、床に付いたのは夜明け近かった。
「龍華殿のお陰で、八人分の鰻重があっという間にできたのじゃ」
「気にしないで。料理の種類を増やしたいから、蒲焼きの作り方を覚えたかったのよ。本当だったら、鰻を使った華国料理も作ってあげたいんだけどね‥‥如何せん、調味料とか持ってきてないし、キャメロットだと滅多に手に入らないから作れないのよね」
光がテントの外へ出ると、高耶は愛用の包丁で、龍華は調理に使っている小柄で、焚き火を囲んで和気藹々と鰻を捌いていた。
同じく味噌汁の匂いに釣られて一足先に起きたシーヴァスは、蒲焼きを焼いているところを興味持ちに見つめ、時折、風に煽られた煙に涙した。
全員が起きて焚き火の周りに集まると、光が鰻の蒲焼きをご飯に乗せた、いわゆる鰻重と味噌汁を配った。
「うむ‥‥これはまた脂が乗ってていけるな‥‥何かこう、ご飯とよく合う! この味はパンじゃなく、ご飯なんだよな!」
「うん! 鰻って生臭さが強いけど、この調理法なら全然それを感じさせないわね。それにこの甘辛い醤の味もいいし‥‥今まで食べた鰻料理の中で一番美味しいわ」
「凄く美味しいです! 高耶さんって、いいお嫁さんになれますね」
「皆で苦労して採った鰻じゃからな。そう言ってもらえると、龍華殿と調理した甲斐があるというも‥‥よ、嫁じゃと!? 光殿、冗談も程があるのじゃ‥‥」
絶狼と龍華は鰻重を美味しそうに食べた。光は率直な感想を述べたのだが、思い掛けない言葉に高耶は顔を真っ赤にした。恐るべし天然。
「味噌汁もいいけど、食べた後のお茶ですっきりするのよね」
「これはうっかりしておったのじゃ。閃夏殿、お茶の用意はできておるのじゃ」
高耶は火に掛けていたお茶を閃夏に注いだ。
「ふっくらしていて、このミソスープともよく合う‥‥い、痛い!?」
「あ〜〜〜〜〜ウチの蒲焼きが〜〜〜〜〜!?」
「小骨が少し気になりますが、身が柔らかくてこのソースともよく合いますね‥‥あ」
「だ‥‥大丈夫、まだもう一切れありま‥‥あうぅ!?」
「ウナギの為ならエンヤコ‥‥ラ?」
「‥‥結局、鰻は食べられませんでしたのね。でも、醤の染みたご飯があれば、ウチは満足ですのね♪」
下手くそながらも箸を使い、鰻の蒲焼きを堪能していたシーヴァスは小骨が喉を引っ掻いた痛みで思わず仰け反り、理雄の手とぶつかってしまい、理雄は鰻を落としてしまったのだ。
シーヴァスはお詫びに自分の分を一切れあげ、理雄は気を取り直して鰻を掴むと、今度はルイと同じようにぶつかってしまった。
二度ある事は三度ある、と最後の一切れはユイスとぶつかって落としてしまい、結局理雄は鰻は食べられなかったものの、醤の染みたご飯と味噌汁を味わったのだった。
これで高耶の夏ばても吹き飛び、皆、精が付いた事だろう。
高耶は報酬の代わりに、雷電うなぎを採る時に使おうと用意していた釣り道具一式を全員にあげた。
なお、余った雷電うなぎはキャメロットまでの帰り道で毎食出され、鰻料理づくしだったという‥‥。