【ベスばぁ】ハッスルばあちゃん
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 18 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月09日〜08月15日
リプレイ公開日:2004年08月18日
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●オープニング
「忙しいとこ、ちょいと邪魔するよ」
「エリザベス様!? ど、どうぞ‥‥」
扉を開けながら声を掛けて冒険者ギルドに入ってきた人物を見て、受付嬢は素っ頓狂な声を上げた。
その人は愛称“ベスばぁ”事、イギリス名門貴族サンプドリア家の元当主の妻、エリザベス・サンプドリアだったからだ。
身長は歳相応で受付嬢より低いものの、背筋をピンと伸ばし、ラメラアーマーを身に纏い、腰にレイピアを帯びたその姿は威風堂々としていて、御歳89歳にして未だに現役の老女騎士というのも頷けた。
「この間はバッシュ坊が世話になったようだね」
「お戯れが過ぎますよ」
「老婆心って言うのかねぇ、この歳になると先がないから若いモンの事が心配になるんだよ。一人前の騎士になるには日頃の訓練だけじゃなく、実戦も必要だからね」
バッシュ坊とは、エリザベスの孫の一人、バッシュ・サンプドリアの事だ。
エリザベスは自分が乱心する事で、バッシュ達若い騎士に実戦を積ませたかったようだ。
受付嬢は苦笑しながら、やんわりとエリザベスに釘を刺したが、続く言葉に刹那、悲しそうな表情を浮かべた。
「ところで今日はどういった御用でしょうか?」
「ああ、ちょいと集団戦闘をやっちまったんだがね、ジャパンの武術かなんかを使っていた奴がいて、まだまだ戦った経験がない流派が多いと知ったねぇ、それでつい昔の血が疼いちまってさ」
「若い頃は、女性に人気があったとお聞きしておりますが」
「あたしの若い頃は男性に混じって平気で斬っていたからねぇ(こんな感じで↑)、あの人以外の男性の反感をよくまとめ買いしたモンだよ」
受付嬢が話を元に戻して訪問の理由を聞くと、エリザベスは快活に、高らかに笑った。
「おっと、また話が逸れちまったねぇ。あたしはアルスター流の使い手だし、ウーゼル流やコナン流といった西洋の流派は見慣れているけど、ジャパンの流派や我流は、今までなかなか見る機会がなかったからねぇ。それで今度、型や技をじっくりと見せてもらおうと思ってね」
「それで冒険者を雇うのですね?」
エリザベスは一頻り笑った後、やっと本題に入った。受付嬢はこっそりと胸を撫で下ろした。
「そういう事だね。流派の型や技なんかを見せてもらえると嬉しいねぇ。年寄りの道楽に付き合ってくれるなら、往復分の交通費とお茶代くらいは出すよ」
模擬戦や演武を行っている横で歓談用にお茶会を開くそうだ。エリザベスは慣れているようだが、落ち着いて飲めるかどうかは二の次のようだ。
もちろん、エリザベスのお茶に付き合うのもいいそうだ。
エリザベスは「楽しみだねぇ」と受付嬢が差し出した依頼書に、達筆な文字で依頼内容を書き込んでいった。
「言い忘れていたけど、はったりとか世間で通用しない流派は勘弁して欲しいねぇ」
冒険者ギルドの扉を開けながら、エリザベスは思い出したかのように言ったのだった。
●リプレイ本文
●演舞
「騎士殿、貴婦人殿! 未知の流派をじっくり見たいか〜!?」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
司会・進行役を買って出たレティシア・プラム(ea5529)の掛け声がサンプドリア家の所有する闘技場の中に木霊すると、エリザベス・サンプドリアを始め、参加者達は皆、乗りに乗って大声で応えた。
「俺はベスばぁにウーゼルの型を見てもらって、指南してもらいたいんや。合わせて強さの秘訣や勝負に関する心構えも教えてもらうつもりや。シルビィアは参加しないのか?」
「ああ。多くの異国の者がキャメロットに渡ってきている以上、騎士たる者‥‥異国の剣術に遅れを取る訳にいかないからな。今回はそれらが見られるよい機会だ」
リオルス・パージルド(ea4250)は闘技場内に置かれたお茶会用のテーブルに着き、レティシアが淹れた紅茶を飲みながら、向かい側に座るシルビィア・マクガーレン(ea1759)に話し掛けていた。
「俺の戦法は我流といえば聞こえはいいが、決まった型も技もない、良くいえば臨機応変、悪くいえば適当な気分次第の代物だからな‥‥熟練の騎士にどう映るのか、かなり興味はあるな」
「流派の型っていっても、初めはそんなモンだからね。枠にはまらない戦法か‥‥雲を掴むようなものかもしれないねぇ、期待してるよ」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)は他の流派の演舞を見物しようと、参加を辞退した。その台詞にエリザベスは愉しそうに笑った。
「エリザベス様にはお初にお目に掛かる、龍深冬十郎と申す。流派は“佐々木流”、戦う上においての力強さと敏捷さが信条と心得、修行しております」
先ず龍深冬十郎(ea2261)が、佐々木流の奥義『燕返し』を披露した。
下段から振り上げる一の太刀と、上段から振り下ろす返す刃の二の太刀を一体化させた奥義・燕返し――理屈は分かるが、技量を積み重ねていない技は実践で使えるレベルではないとエリザベスの目に映った。
「初めましてエリザベス様、三好石洲です。我輩が修めた“新当流”、とくと御覧下され」
続いて三好石洲(ea2436)が、六尺棒を右に左に軽々と振り回し、軽い準備運動代わりの演舞を披露した。ジャイアントの体躯と六尺棒の組み合わせによるリーチの長さは、新当流の極意である上段からの一撃に適しているといえた。
「修行中の身ですので、十全に“二天一流”の何たるかをお目にかける事はできませんが、とくとご覧じて下さい」
御山閃夏(ea3098)は謙虚に、修行中につきまだ真髄へ至っていない事を断った後、演舞を披露した。その際、ムサシという浪人が考案した等、二天一流の由来を織り混ぜた。
「はっきりいって演舞だけだと、素朴で単純な動きだから地味だし、見ても面白くはないかもしれないけど、威力なら凄いわよ」
青龍華(ea3665)は両手を龍の口の様に構え、“十二形意拳・辰の型”の演舞を見せた。毎日、地味な型の反復練習をずっと続けてきた自信があった。
エリザベスは華国に明るいので、龍とドラゴンが別物である事を説明する必要はなかった。
「自分が修得している“新陰流”は、ジャパン三大源流の一つなんだ」
五百蔵蛍夜(ea3799)は手書きの図等を交えて、新陰流の始祖とジャパンの流派を説明した後、演舞に入った。
捨て身を基本とした新陰流の立ち技の型を何種類か披露した後、用意した濡らした藁を使って試斬を見せた。
「キャメロットで子供相手に青空剣術道場を開いております、リ・ルと申します。我流故流派名は特にありませんが、子供達には“蒼天二刀流”と冗談めかしていっております」
リ・ル(ea3888)は明るく挨拶した後、右手にロングソードを、左手にダガーを構え、先ずダガーで攻撃を捌きながらロングソードで斬り、今度はロングソードで攻撃を受けながら一気に懐に飛び込んでダガーで突く等、我流故の変幻自在な攻撃を見せた。
全員の演舞が終わった後、エリザベスがスピアを手に取ってアルスター流の形を見せた。
アルスター流は騎乗流派で射撃戦を得意としているが、接近戦においては一撃離脱戦法をメインとしていた。
演舞が終わった後、イグニスも混ざって勝ち抜きのトーナメント形式の模擬戦の抽選が行われた。
「うむ、今日の良き日を神に感謝を」
抽選が終わった後、レティシアは好カードになった事を神に感謝したのだった。
●新陰流vs我流・蒼天二刀流
「我が刀に斬れぬ物無し! 新陰流の燻銀・五百蔵蛍夜」
「二刀流は俺が完成させる! 我流・蒼天二刀流リル」
レティシアが高らかに名前を呼ぶと、蛍夜とリルが試合場の真ん中へ歩み寄った。
リルの許可を得た蛍夜はフレイムエリベイションを掛けて集中力を強化し、試合に臨んだ。
試合開始早々、リルは蛍夜の懐に飛び込んで、右手のナイフと左手のダガーによる三連突きを放つ。蛍夜は研ぎ澄ました精神で軌道を読み、木刀でそれらを受け流すと、リルは最後の一突きの後、バックステップで間合いを取った。
攻撃に関しては、蛍夜よりリルの方が技量は上だった。
再びリルが踏み込んでダブルアタックを繰り出す。蛍夜はそれに合わせてカウンターアタックを放つが、リルはダガーで直撃を逸らし、蛍夜の喉元にナイフを突き付けていた。
●新当流vs十二形意拳
「ジャパン古流の実力はいかに!? 新当流・三好石洲」
「拳一つで突き通す! 十二形意拳からは青龍華」
試合開始と同時に石洲は間合いを取ると、六尺棒の端を持った状態から突きを連続して繰り出す。リーチの長さを活かしたアウトレンジからの攻撃はしかし、龍華は見切っており、六尺棒が彼女の身体を捉える事はなかった。
龍華が懐に飛び込んでくると、石洲は即座に六尺棒の中点近くを握って振り回し、迎撃に出る。だが龍華はそれをもかわす。
「奥義を受けなさい! 龍飛翔ーーー!!」
間合いを詰められた石洲は上段からスタンアタックを繰り出すが、その隙を龍華は見逃さなかった。龍飛翔を石洲の顎元に決め、その巨体は地に伏したのだった。
●二天一流vs佐々木流
「全開でいくよ!! 双刀の代名詞! 二天一流・御山閃夏」
「鷹揚な台詞を余所に豪剣が唸る佐々木流・龍深冬十郎」
「お手柔らかに」
木短刀と木刀の二刀を構える閃夏と、野太刀に近い長さの木刀を構える冬十郎。この試合はある意味、流派の因縁の対決ともいえた。
先に仕掛けたのは冬十郎。二刀は厄介とばかりに、閃夏の木刀にバーストアタックを仕掛ける。踏み込んでいた閃夏はそれを見切りつつ、木短刀で突き掛かるが、次の瞬間、かわした冬十郎の木刀が振り下ろされていた。
――燕返しだ。
だが、閃夏の切っ先の方が疾かった。冬十郎の木刀は空を切り、閃夏の木短刀が喉元に突き付けられていた。
これで予選が終わり、準決勝はリル対龍華、閃夏対シードのイグニスとなった。
●お茶会
シルビィアとエリザベスは紅茶を飲みながら模擬戦をまったりと見聞しつつ、その一手一手に対して意見を交換していた。
「常に切っ先が揺れており、攻め手を躊躇させたかと思うと、一転して嵐のような攻勢。絶えず変化し続ける剣戟に翻弄されてしまいました。その男の言を借りますと、剛の剣戟に対して柔の剣戟なのだそうです」
その際、シルビィアが“北辰流”の使い手と立ち合った時の事を話すと、エリザベスは夢中で聞き入った。
「あぁ、再び紅茶が飲めるのね。華国の調味料と交換して一杯だけ飲めたけど、あの味が忘れられなかったのよ〜♪ でも、あの時より断然美味しいわ〜♪」
「ふむ、日本の茶とは色も器も違うが、これはこれでいいものだな」
休憩時間、龍華は鼻歌混じりにご機嫌に紅茶を飲んだ。その横では冬十郎がティーカップを眺めていた。
「手に入った最高級の茶葉を用意したんだよ。喜んでもらえると嬉しいよ」
その後、エリザベスは龍華の戦い振りを「天を翔る龍の如くじゃな」と称し、冬十郎には「あの燕返し、頂点で刃を返す僅かな時間がもったいない。邪道かも知れんが、両刃のソードなら、その時間が短縮できて良いかもな」と助言した。
リオルスはレティシアと一緒に救護役として待機していたが、皆、寸止めで終わらせるのでほとんど出番はなく、石洲の手当てをした後は、エリザベスにウーゼル流の型を見てもらった。
「俺のウーゼルの型、どうや?」
「‥‥攻撃は文句はないけどねぇ‥‥」
エリザベスが言い掛けた時、閃夏とイグニスの試合が始まった。
●二天一流vs我流二刀流
「衝撃の剣風! エルフ我流イグニス・ヴァリアント」
龍華がリルに敗れ、続く準決勝第二試合は、閃夏とイグニスの二刀流同士の戦いとなった。
間合いは太刀を構える閃夏の方が広いが、機敏さはイグニスに分があった。
イグニスは一気に間合いを詰めると、右手のダガーで袈裟斬りを放ち、閃夏が受け流そうとしたところへ左手のダガーで喉元へ突き掛かる。彼女が両方とも受け流すと、攻撃体勢を整えるついでに回し蹴りをお見舞いして、牽制するのも忘れない。
だが、閃夏もきっちり防御していた。
「(ダブルブロックか‥‥手堅い分厄介だな)――双撃の刃、その身に刻め!」
イグニスは奥の手のツインソニックブームを放った。閃夏は一方の直撃を受けたものの、豊満な胸を潰して固定していたさらしを破ったに過ぎず、逆に硬直時間を突かれて喉元に太刀を突き付けられてしまった。
●基本が大事
決勝で閃夏が敗れ、リルがエリザベスと戦う事になった。
木製のスピアを構えるエリザベス。演舞で彼女の動きを見ているリルは後手に回ってはいけないと思い、先に仕掛けた。
エリザベスはスピアを旋回させると、リルの二連続突きを軽々と捌く。
リルは攻防一体のそれをバックステップしながら二刀で捌くが、スピアの勢いは止まらない。
ナイフを投げた後全力で後退し、更にダガーを投げて再び全力で後退するが、間合いは一向に縮まらない。
(「俺の攻撃は当たらないし、エリザベスの手数に追い付けない」)
自分の攻撃ははぐらかされるように空を切り、エリザベスの攻撃は着実に自分を追い詰め、気が付けばスピアの切っ先が喉元に突き付けられていた。
「こんなモンかねぇ。リオルス、さっきの続き、分かったかい? あんたに足りないのは回避だよ。いくら攻撃が得意だからって、回避が素人じゃ付け込まれるのがオチだよ」
エリザベスはリルと試合後の握手を交わすと、リオルスを含めたその場にいる全員に告げた。
「“攻撃は最大の防御”っていうけど、相手を一撃で倒せる自信があるのかい? モンスターの中には、一撃喰らえば相手を行動不能にする特殊能力を持つ奴がゴロゴロいるんだよ。若いモンはやれ攻撃だ、やれ技(コンバットオプション)だと特化したがるけど、あたしに言わせれば当たらない攻撃は意味がないよ。先ずは基本をしっかり鍛えて攻撃を当て、相手の攻撃はちゃんとかわす事。自分が立ってなきゃ、技だって宝の持ち腐れだよ」
エリザベスはどのように鍛えていけばいいか、一つの方向性を示したのだった。
「今度は愛馬のアノーと勝負したいで。レースでも何でもOKや」
「いいねぇ。今度は競馬でも用意しようか」
別れ際にリオルスが挑戦すると、エリザベスは受けて立ったのだった。
なお、エリザベスは付き合ってもらったお礼に、リカバーポーションをお土産として持たせていた。